犬の疾病
犬の異物誤飲(その12 手袋)
久々の犬の異物誤飲シリーズです。
今回は手袋です。
保湿クリームを手に塗布後、手にはめる薄手の綿の手袋を誤飲してしまった症例です。
ミニチュア・ピンシャーのシンバ君(1歳7か月、去勢済)は、手袋を飼い主様の目の前で誤飲し、そのまま来院されました。
呼吸が荒く苦しそうな感じです。
レントゲン撮影を実施しました。
胃の中が内容物で膨満しているのがお分かり頂けると思います。
飼い主様が誤飲の現場を目撃している場合は、その後の展開もスムーズです。
一側の女性用手袋なので、シンバ君の体格から考えて嘔吐剤で吐いて出すということは困難と思われます。
飼い主様のご了解のもと、胃切開手術で手袋摘出をすることとしました。
まずシンバ君を全身麻酔します。
いきなりですが、胃切開をしているシーンです。
胃の中を確認しますと手袋の一端が認められました。
速やかに手袋をアリス鉗子で把持して摘出します。
手袋の指の部分が出て来ました(下写真黄色丸)。
手袋と胃壁の多少の干渉はありましたが、無事胃に傷をつけることなく手袋を摘出しました。
間違いなく手袋です。
胃の漿膜・筋層・粘膜下織・粘膜と全層を合成吸収糸で単純結節縫合をします。
縫合部からの胃内容の漏出がないかを確認するために、生理食塩水を患部に注入しているところです。
生理食塩水の漏れはありませんでした。
最後に皮膚縫合して終了です。
術後、しばらくは流動食で対応します。
シンバ君は手術直後から食餌が欲しくてたまらないといった感じですが、我慢して頂きます。
1週間後の退院時のシンバ君です。
元気に退院できて良かったです。
誤飲する犬は確信犯が多いようです。
異物を口にできないように飼主様、注意を怠りなくお願いします!
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投稿者 院長 | 記事URL
トイプードルのレッグ・ペルテス病
春を迎えるにあたり、春の健康診断や狂犬病ワクチン予防接種、フィラリア予防など準備に忙殺されてブログ更新が滞り、読者の皆様ご迷惑おかけいたしました。
頑張って記事を載せていきますので宜しくお願い致します。
さて、本日ご紹介しますのはレッグ・ペルテスという疾患です。
この病気の特徴は、大腿骨の骨頭への血行が阻害されて、骨頭が壊死を起こしてしまうところにあります。
原因は今のところ不明ですが、遺伝が関係しているとの報告があります。
トイプードルのアロハちゃん(11か月、雌、体重1.6㎏)は何か月も前から左の後足を引きずる、びっこを引くとのことで来院されま
した。
歩行を見ますと、左後足の動きがぎこちなく、足を浮かせて歩くような感じです(下写真黄色丸)。
そこでレントゲンを撮ってみました。
下のレントゲン写真をよくご覧いただきますと、大腿骨頭の形状が右と左で異なってるのがお分かり頂けると思います。
さらに拡大します。
本来、きれいな球面体をしている骨頭が扁平形を呈しています。
加えて、虫食いの様に骨頭の一部が黒い影を呈しています。
下は側面のレントゲン像です。
骨頭の表面が凸凹しているのが分かります。
この時点でアロハちゃんはレッグ・ペルテスに罹患しているのが強く疑われます。
レッグ・ペルテス病は別名、大腿骨頭壊死症とも言います。
特にトイ種の4か月から1歳位までに発症するケースが多いとされます。
大腿骨頭への血液供給が障害されて、大腿骨頭の成長障害が生じ、骨の変形崩壊が起こります。
大腿骨頭はいずれ骨折し、股関節の疼痛・硬直が永続的に続くこととなります。
レッグ・ペルテスの治療ですが、症状が軽度なステージでは抗炎症剤による内科的治療と運動制限で対応します。
しかしながら、ほとんどの症例で症状はさらに進行しますので、最終的には外科手術が必要となります。
以前に大腿骨頭切除手術についてコメントさせて頂きましたが、まさにその手術の適応となります。
大腿骨頭を切除しても、残った大腿骨と臀部筋肉で結合組織からなる偽関節を形成して、正常な運動が可能となります。
飼い主様のご了解のもと、大腿骨頭切除手術を行うこととなりました。
体重がわずか1.6kgのアロハちゃんですが、臀部の筋肉群をなるべく温存させる形で筋肉の離断は最小限にとどめて切開を進めていきます。
関節包を切開して大腿骨頭を露出し、股関節から脱臼させます。
脱臼させた大腿骨頭は表面が凸凹でひび割れたような構造(下黄色矢印)をしています。
次に骨頭を振動鋸で切除します。
下写真は離断した骨頭です。
骨頭は既に変形しており、表面はひび割れています。
術後に早く歩行できるためにも、臀部の筋肉のダメージを最小限に抑えて、切開した筋肉は確実に縫合して復元します。
大腿骨頭切除した後のレントゲン像です。
下は切除した骨頭です。
骨頭は表面はひび割れており、骨頭が変形しています(黄色矢印)。
術後のアロハちゃんですが、経過は良好です。
下写真は術後4日目のアロハちゃんです。
まだぎこちなさはありますが、普通に歩行できています。
レッグ・ペルテス病はその進行ステージによって、タイミングの良い時期に外科手術を受けることで患肢は大幅に改善します。
しかし、ステージが進行して高度に筋肉萎縮したケースでは、術後の機能回復が認められない場合があります。
成長期の仔犬で歩行異常が認められたら、継続的に繰り返しレントゲン撮影を受けると良いでしょう。
しばらくはリハビリの日々が続きますが、アロハちゃん頑張っていきましょう!
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投稿者 院長 | 記事URL
柴犬の精巣腫瘍(セルトリ細胞腫)摘出手術
出生後に本来、陰嚢に降りてくるはずの精巣が、そのまま腹腔や皮下組織に残ってしまう状態を停留睾丸(陰睾)と称します。
実際、この停留睾丸をそのままにしておくとシニア世代になってから、腫瘍化すると定説になっています。
通常の精巣が腫瘍化する場合よりも、停留睾丸が腫瘍化するのは10倍近い発生率だそうです。
本日、ご紹介しますのは柴犬の精巣腫瘍の摘出例です。
柴犬の三四郎君(11歳10か月齢、雄)は陰茎の右側が腫れあがってきて、本人も気にしているとのことで来院されました。
下腹部を診てみますと、陰茎の右側が大きく膨隆しているのが分かります。
12歳を前にしてまだ去勢をしていなかった三四郎君ですが、右側停留睾丸が腫瘍化してしまったようです。
精巣腫瘍にはセルトリ細胞腫、精上皮腫、間質細胞腫と3種類に分類されます。
これらの腫瘍は、リンパ節や他の臓器に転移することもあり、外科的摘出を飼主様にお勧めさせて頂きました。
ご了解をいただき、早速手術することとなりました。
慎重に皮膚切開を行い、電気メスで止血して行きます。
指先に脂肪に包まれた充実した組織が触知できます。
脂肪を切開すると精巣が垣間見えました。
陰嚢に収まっている左側の精巣に比較して随分大きくなった腫瘍です。
精巣動静脈、精巣靭帯を縫合糸で結束して摘出します。
皮下組織内の停留睾丸であれば、この程度の切開で十分ですが、腹腔内ですとおへそに近い位置から陰茎のすぐ横に沿ってメスを入れなければならなくなることもありますので、大変です。
左側が正常な陰嚢内に収まっていた精巣です。
右側が皮下組織の停留睾丸が腫瘍化した精巣腫瘍です。
病理検査結果でセルトリ細胞腫と判明しました。
このセルトリ細胞腫の場合、エストロジェンホルモンを分泌するために脱毛・皮膚炎になったり、雌性化によって乳房が腫れたりすることもあれば、貧血が生じることもあります。
三四郎君の場合、幸いにも上記の症状は認められませんでした。
当院では、停留睾丸の場合は1歳未満の段階で摘出手術を受けて頂き、将来の精巣腫瘍化を未然に防ぐ方針で対処させて頂いてます。
ご家族の内、男性陣が去勢は可愛そうだとの見解で手術を拒否されるケースもあります。
一般論で申し上げるなら、去勢をしてない雄犬は高齢になり前立腺肥大や会陰ヘルニア、そして今回の精巣腫瘍になる確率は高いとされていますし、私自身そのように実感しています。
今回の三四郎君の場合は、皮下組織内の精巣腫瘍でしたが、腹腔内の精巣腫瘍になりますとさらに外科手技的にも難しくなります。
過去にミニチュア・ダックスで、排便困難になり、レントゲン・エコーで大きな塊を見つけ腹腔内腫瘍として、試験的開腹をしたところ10cmに及ぶ精巣腫瘍であった経験をしました。
停留睾丸が認められたら、正常側と一緒に両方摘出することをお奨めします。
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投稿者 院長 | 記事URL
ポメラニアンの低温火傷(ヒーターには注意!)
寒い日が続きますが、ペットに暖を取るために専用暖房機器を利用される方も多いのではないのでしょうか?
本日ご紹介しますポメラニアンのタント君(45日齢、雄)はペニスの付根がクリーム色に腫れているとのことで来院されました。
下写真黄色丸の箇所が病変部です。
患部を拡大した写真です。
触診しますと流動感のある腫瘤で、明らかに液体が患部に貯留しています。
クリーム色なのはおそらく膿が溜まっていると思われました。
まずは、患部を注射針で穿刺しました。
針で穿刺して圧迫すると膿を含んだ浸出液が出て来ました。
内溶液を押し出した後は、患部は当然ですが委縮しました。
飼い主様から伺ったところ、寒いのでペットヒーターを使用していること。
一日の内、長い時間そのヒーターの上でタント君は過ごしているそうです。
どうやらヒーターと接触している部位がペニスの付根であるため、低温火傷を起こしたようです。
低温火傷とは、比較的低温の熱源による皮膚の損傷を指します。
一般的に熱源が44度の場合、約6~10時間で火傷が生じるとされます。
エアコン、ホットカーペット、電気毛布などは低温火傷を引き起こす心配があることを認識して下さい。
いかに最弱の温度設定にしても、姿勢を変えなかったりする犬の場合は低温火傷になったりします。
極力、地肌に暖房機器が接触しないようタオルや毛布で包むなりして下さい。
タント君の場合は既に患部に水泡が生じている第二度熱傷にあたります。
水泡底の真皮の色調は鮮紅色で、浅達性Ⅱ度と言われる真皮損傷レベルでした。
完治には10日から2週間かかると思われます。
そのまま気づかずにいたら、深達性Ⅱ度で治療に1か月、ケロイドが残ることになっていたと思います。
患部の感染症対策が必要で抗生剤の外用消毒が必要です。
やっと自分で食餌が摂れるようになったタント君ですが、まだ仔犬で痛みの表現も上手くできません。
特に仔犬を飼育されている飼主様、暖房には十分な配慮をして下さい。
火傷に気づかれたら、まずは患部を冷水を含ませたガーゼや脱脂綿で冷やして、最寄りの動物病院で診察を受けて下さい。
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投稿者 院長 | 記事URL
トイプードルの股関節脱臼(非観血的整復)
股関節脱臼はいろんな原因で発生します。
交通事故や高所からの落下などの大きな外力により生じるケースが多いと思われます。
物理的なダメージ以外にも副腎機能低下症や甲状腺機能低下症に伴う筋力低下などでも股関節脱臼が起こる場合があります。
あるいは先天的な股関節形成不全で激しい運動をしていなくても脱臼してしまうこともあります。
本日ご紹介しますのは、そんな股関節脱臼の症例でメスを入れての外科的整復術ではなく、用手法での非観血的整復術です。
トイプードルのクッキー君(6歳、去勢済)は突然、左後足を拳上して痛がっているとのことで来院されました。
左後肢に荷重をかけるのが辛そうです(下写真黄色矢印)。
早速、レントゲン撮影を実施しました。
下のレントゲン写真黄色丸の箇所で、左股関節が脱臼しているのがお分かり頂けると思います。
クッキー君は股関節が浅く、どちらかといいうと不安定なので状況によって脱臼になりやすいと思われました。
実際、過去に何度か後肢を拳上することもあったようです。
股関節脱臼で発生率が一番高いとされる前背側方向の脱臼です。
レントゲン上で寛骨臼辺縁周囲の骨片、骨折も認められませんので脱臼した大腿骨頭を手で整復すること(非観血的整復法)としました。
と言っても、全身麻酔を施した上での整復処置となります。
早速、全身麻酔をかけます。
患肢の内股に紐をかけて助手に保持させます。
大転子の位置を確認します。
患肢を外旋させ、手前に向かってゆっくりと牽引していきます。
大腿骨頭が寛骨臼窩にうまく当たっている感触がありましたので、グッと押し込んだ所、カクッと嵌りました。
この状態で整復できているか、レントゲン撮影します。
しっかり整復できたようです。
整復がうまく成功したとしてもそのままでは、また脱臼を再発してしまう可能性があります。
したがって、整復後のテーピング処置が必要となります。
このような感じでテーピングを完了します。
クッキー君からすれば、早く患肢を地につけたいでしょうがしばらく我慢して頂きます。
麻酔から覚めたクッキー君です。
今後、再脱臼があるようなら外科手術による股関節脱臼整復手術が必要になると思われます。
そうならないように願うばかりです。
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投稿者 院長 | 記事URL