ウサギの疾病
ウサギの尿道結石
こんにちは 院長の伊藤です。
ウサギは尿中にカルシウムの結晶を多量に排出します。
餌の内容によっては、このカルシウムの結晶化が進行して、尿石症や砂粒症に至る場合があります。
本日ご紹介しますのは、尿道にこのカルシウム結石が生じて、尿道閉塞になってしまった症例です。
ネザーランドドワーフのルルちゃん(4歳2ヶ月、雌)は、食欲不振で他院を受診して食滞(毛球症)と子宮腺癌であろうとのことで4日間治療を受けていたのですが、症状の改善がなく当院に転院されてきました。

食欲不振の原因はいくつも挙げられます。
ウサギに限らず体調不良ならば食欲不振になります。
まず口腔内を診たところ、下顎臼歯が伸びて舌にあたり、若干の潰瘍巣が認められました。
胃内のガスも触診で若干貯留してるようです。
一番気になったのは尿臭が腐敗臭に転じている点です。
飼い主様に確認したところ、排尿がこの数日無いようであるとのこと。
レントゲンを撮ってみました。
下写真の黄色矢印・黄色丸をご覧ください。
尿道下部に球状の結石が認められます。


拡大写真です。

膀胱が目いっぱい蓄尿で膨大していないことから、尿道結石が完全に尿道を閉塞しているわけではないようです。
でも排尿はわずかに陰部を湿らす程度です。
今回のような尿道の下部に形成された尿石は、体全体をレントゲン撮影しないとフィルム上からはみ出て気付かない場合があります。
おそらくかかりつけの先生は、食欲不振という上告で胃腸だけにフォーカスを合わせてレントゲン撮影されたのでしょう。
尿道結石は見逃されて、この4日間に排尿障害による腎不全や尿毒症症状が起きている可能性があります。
ポポちゃんの衰弱は進行しており、血圧低下で採血も点滴のための留置針を入れることもできません。
わずかに取れた尿を試験紙で確認したところ尿素窒素(BUN)が40~60mg/100mlあり、腎不全・尿毒症の可能性も考えねばなりません。
非常に悩ましいケースですが、このままの内科的治療ではさらに衰弱する一方です。
早急に排尿障害を取り除く必要を感じました。
飼い主様のご了解を頂いた上で、外科的摘出を実施することにしました。

なるべく短時間の麻酔で摘出するように心がけます。

子宮腺癌の可能性も合わせて確認するために試験的開腹を行いました。


腫大した膀胱が顔を出し始めました。

膀胱内部は炎症のため出血してどす黒い色をしているのが外からでも分かります。
膀胱内で形成されたカルシウム尿石が尿道に降りていき、雪だるま式に大きくなって尿道閉塞に至ったかもしれません。

加えて子宮は特に問題はなく、子宮腺癌も子宮水腫も認められず産科系疾患の可能性はありません。
さて本題の尿石摘出です。
尿道の陰部に近い側に尿石は存在していますので、鉗子で把持出来るか確認します。

少し、硬いものに触れた感触がありますので物理的位置関係を確認するためにレントゲン撮影をします。

尿石近くにある鉗子を持っているのですが、少し尿道の奥に鉗子を入れすぎたようです。
また鉗子の軌道補正をします。

ちょうど鉗子の先端部が尿石と接触しています。
ここで上手く鉗子で尿石を把持します。

ここで尿石把持は成功しましたが、押しても引いても尿石は下に降りて来ません。
そこで、超音波発振装置で尿石を破砕するチップで把持した尿石に振動を与えます。


すると尿石が鉗子の引きに合わせて下に降り始めました。
下写真にありますように尿道は腫れて内出血をしており、尿石が顔を出しています。


摘出した尿石です。
直径が11㎜ありました。

麻酔覚醒後のルルちゃんです。
足元はふらついて、辛そうです。


麻酔覚醒後にICUに入って頂き、青汁を与えたところルルちゃんは飲み始めました。
この調子で回復できればと期待します。


手術の翌日、残念ながらルルちゃんは急逝されました。
4日間の処置が、結果として後手後手に回ってしまったのが悔やまれます。
ウサギに限らず丸一日でも排尿がなければ、異常であることに気付いて下さい。
尿石が出来る原因としては、
1:不適切な給餌、これは主原料がアルファルファである市販のフードを多量に与えることによります。
2:カルシウム、ミネラル、ビタミンを含んだサプリメントを与えること。
3:飲水量が少ないこと。
4:トイレやケージの掃除がしっかりできてないと、ウサギは長時間排尿を我慢し、それが尿石形成の原因になります。
2,3歳の若い個体でも尿石症になるケースはありますので、要注意下さい。
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ウサギは尿中にカルシウムの結晶を多量に排出します。
餌の内容によっては、このカルシウムの結晶化が進行して、尿石症や砂粒症に至る場合があります。
本日ご紹介しますのは、尿道にこのカルシウム結石が生じて、尿道閉塞になってしまった症例です。
ネザーランドドワーフのルルちゃん(4歳2ヶ月、雌)は、食欲不振で他院を受診して食滞(毛球症)と子宮腺癌であろうとのことで4日間治療を受けていたのですが、症状の改善がなく当院に転院されてきました。

食欲不振の原因はいくつも挙げられます。
ウサギに限らず体調不良ならば食欲不振になります。
まず口腔内を診たところ、下顎臼歯が伸びて舌にあたり、若干の潰瘍巣が認められました。
胃内のガスも触診で若干貯留してるようです。
一番気になったのは尿臭が腐敗臭に転じている点です。
飼い主様に確認したところ、排尿がこの数日無いようであるとのこと。
レントゲンを撮ってみました。
下写真の黄色矢印・黄色丸をご覧ください。
尿道下部に球状の結石が認められます。


拡大写真です。

膀胱が目いっぱい蓄尿で膨大していないことから、尿道結石が完全に尿道を閉塞しているわけではないようです。
でも排尿はわずかに陰部を湿らす程度です。
今回のような尿道の下部に形成された尿石は、体全体をレントゲン撮影しないとフィルム上からはみ出て気付かない場合があります。
おそらくかかりつけの先生は、食欲不振という上告で胃腸だけにフォーカスを合わせてレントゲン撮影されたのでしょう。
尿道結石は見逃されて、この4日間に排尿障害による腎不全や尿毒症症状が起きている可能性があります。
ポポちゃんの衰弱は進行しており、血圧低下で採血も点滴のための留置針を入れることもできません。
わずかに取れた尿を試験紙で確認したところ尿素窒素(BUN)が40~60mg/100mlあり、腎不全・尿毒症の可能性も考えねばなりません。
非常に悩ましいケースですが、このままの内科的治療ではさらに衰弱する一方です。
早急に排尿障害を取り除く必要を感じました。
飼い主様のご了解を頂いた上で、外科的摘出を実施することにしました。

なるべく短時間の麻酔で摘出するように心がけます。

子宮腺癌の可能性も合わせて確認するために試験的開腹を行いました。


腫大した膀胱が顔を出し始めました。

膀胱内部は炎症のため出血してどす黒い色をしているのが外からでも分かります。
膀胱内で形成されたカルシウム尿石が尿道に降りていき、雪だるま式に大きくなって尿道閉塞に至ったかもしれません。

加えて子宮は特に問題はなく、子宮腺癌も子宮水腫も認められず産科系疾患の可能性はありません。
さて本題の尿石摘出です。
尿道の陰部に近い側に尿石は存在していますので、鉗子で把持出来るか確認します。

少し、硬いものに触れた感触がありますので物理的位置関係を確認するためにレントゲン撮影をします。

尿石近くにある鉗子を持っているのですが、少し尿道の奥に鉗子を入れすぎたようです。
また鉗子の軌道補正をします。

ちょうど鉗子の先端部が尿石と接触しています。
ここで上手く鉗子で尿石を把持します。

ここで尿石把持は成功しましたが、押しても引いても尿石は下に降りて来ません。
そこで、超音波発振装置で尿石を破砕するチップで把持した尿石に振動を与えます。


すると尿石が鉗子の引きに合わせて下に降り始めました。
下写真にありますように尿道は腫れて内出血をしており、尿石が顔を出しています。


摘出した尿石です。
直径が11㎜ありました。

麻酔覚醒後のルルちゃんです。
足元はふらついて、辛そうです。


麻酔覚醒後にICUに入って頂き、青汁を与えたところルルちゃんは飲み始めました。
この調子で回復できればと期待します。


手術の翌日、残念ながらルルちゃんは急逝されました。
4日間の処置が、結果として後手後手に回ってしまったのが悔やまれます。
ウサギに限らず丸一日でも排尿がなければ、異常であることに気付いて下さい。
尿石が出来る原因としては、
1:不適切な給餌、これは主原料がアルファルファである市販のフードを多量に与えることによります。
2:カルシウム、ミネラル、ビタミンを含んだサプリメントを与えること。
3:飲水量が少ないこと。
4:トイレやケージの掃除がしっかりできてないと、ウサギは長時間排尿を我慢し、それが尿石形成の原因になります。
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投稿者 院長 | 記事URL
ウサギ消化器症候群(RGIS)(その2 毛球症)
こんにちは 院長の伊藤です。
今回はウサギの食欲不振に関わる疾病、ウサギ消化器症候群(RGIS)についてコメントします。
ウサギの外来で一番多いのが、食欲不振という主徴です。
歯が過長症で食欲不振だったりする場合もありますが、消化器疾患が原因でなる消化管うっ滞を総称して、最近では国内外においてウサギ消化器症候群(RGIS)と呼んでいます。
このRGISは食餌性、栄養性、異物の誤飲、消化管感染症、精神的ストレスなど各種の原因により発生します。
RGISのうち、本日はもっともポピュラーな毛球症について症例報告させて頂きます。
過去の私のブログ内においてもこのRGISの位置づけが不明瞭でしたので今後、消化器うっ滞を主徴とするものをRGISと呼び、さらに原因別に今回のように毛球症なり、異物摂取なり食餌性なりと細分化して分類して行きます。
難しいことはこれくらいにして、過去の症例報告に興味のある方は以下をクリック、参照下さい。
ウサギの毛球症
ウサギの消化器症候群(RGIS)
食欲不振のウサギ(RGIS)
ウサギの食滞(食餌内容物による胃内膨満)
ホーランドロップの月愛(ゆえあ)ちゃん(3歳、体重2kg、避妊済み)は朝になり突然、食欲元気が無くなったとのことで来院されました。
月愛ちゃんは視線も定まらず、軽度のショック症状を呈しています。

触診しますと胃がガスで膨満しているのが分かりました。
レントゲン撮影を実施しました。
下写真黄色丸が胃です。
正常な胃の大きさはレントゲン上の腰椎3椎以内とされており、月愛ちゃんは腰椎8椎ぐらいに胃がガスで拡張・膨満していることが分かります。

側面の写真でも胃拡張と共に盲腸以下のガス貯留が著しいです。

胃拡張と共に盲腸が空虚で盲腸ガスが貯留している場合は、長時間の食欲廃絶を意味します。
胃内がガスだけであれば、胃カテーテルを挿管してガス抜きをする選択肢もあります。
しかし今回、胃内容物が確認されていること・月愛ちゃんの状態が良くないことから緊急の開腹手術を行うこととしました。
点滴のための留置針を入れます。


イソフルランでガス麻酔で維持麻酔を行います。

術野をカミソリで剃毛しています。

下写真から下腹部が大きく腫れているのがお分かり頂けると思います。



腹部正中線にメスを入れます。

腹筋切開と共に膨満した胃が認められました。
胃を体外に牽引するために支持糸をかけます。

胃にメスを入れます。
胃内に吸引器の先端を入れます。

胃内の胃液や内容物を取れる範囲で吸引します。


その後、胃内の内容物を全部摘出して行きます。

毛が絡んだ内容物が胃内に貯留しています。




胃内容物を摘出した後に、胃内を生理食塩水で洗浄します。

何度か生理食塩水を注入して胃内洗浄を繰り返します。

洗浄後、胃壁を縫合して行きます。



モノフィラメント縫合糸を用いて、胃壁を全層貫通して単純結節縫合を行います。

腹筋を縫合します。

最後に皮膚縫合を実施します。

無事、手術は終了しました。

摘出した胃内容物です。

細かな被毛が多量に内容物内に混在しています。

術後1時間の月愛ちゃんです。
水を飲めるようになりました。

その後の月愛ちゃんは食欲も出て来まして、活動的に動き回れるようになりました。

術後3日目のレントゲン写真です。
食欲も改善し、胃腸内の内容物も充実しています。
胃拡張をもたらしたガスは認められません。


全身を伸ばしてリラックスしています。

術後1週間で退院前の月愛ちゃんです。

RGISは初動の対応を誤ると死に直結する場合があります。
何度も過去のブログにコメントしてますが、24時間以上絶食が続くのはウサギとしては異常事態であることを忘れないで下さい。
その場合は、速やかに動物病院を受診して下さい。
腹部レントゲン撮影をし、結果によっては消化管造影をするなり、ガス貯留の程度によっては胃カテーテルでガスを抜去するか、あるいは重傷なRGISの場合は今回の様に胃切開して胃内容物を取り出す必要もあります。
いづれにせよ、緊急処置であることに変わりありませんので、ウサギの飼主様はよくよくウサギの状態を常日頃から観察する習慣をお持ちください。
月愛ちゃん、お疲れ様でした!

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今回はウサギの食欲不振に関わる疾病、ウサギ消化器症候群(RGIS)についてコメントします。
ウサギの外来で一番多いのが、食欲不振という主徴です。
歯が過長症で食欲不振だったりする場合もありますが、消化器疾患が原因でなる消化管うっ滞を総称して、最近では国内外においてウサギ消化器症候群(RGIS)と呼んでいます。
このRGISは食餌性、栄養性、異物の誤飲、消化管感染症、精神的ストレスなど各種の原因により発生します。
RGISのうち、本日はもっともポピュラーな毛球症について症例報告させて頂きます。
過去の私のブログ内においてもこのRGISの位置づけが不明瞭でしたので今後、消化器うっ滞を主徴とするものをRGISと呼び、さらに原因別に今回のように毛球症なり、異物摂取なり食餌性なりと細分化して分類して行きます。
難しいことはこれくらいにして、過去の症例報告に興味のある方は以下をクリック、参照下さい。
ウサギの毛球症
ウサギの消化器症候群(RGIS)
食欲不振のウサギ(RGIS)
ウサギの食滞(食餌内容物による胃内膨満)
ホーランドロップの月愛(ゆえあ)ちゃん(3歳、体重2kg、避妊済み)は朝になり突然、食欲元気が無くなったとのことで来院されました。
月愛ちゃんは視線も定まらず、軽度のショック症状を呈しています。

触診しますと胃がガスで膨満しているのが分かりました。
レントゲン撮影を実施しました。
下写真黄色丸が胃です。
正常な胃の大きさはレントゲン上の腰椎3椎以内とされており、月愛ちゃんは腰椎8椎ぐらいに胃がガスで拡張・膨満していることが分かります。

側面の写真でも胃拡張と共に盲腸以下のガス貯留が著しいです。

胃拡張と共に盲腸が空虚で盲腸ガスが貯留している場合は、長時間の食欲廃絶を意味します。
胃内がガスだけであれば、胃カテーテルを挿管してガス抜きをする選択肢もあります。
しかし今回、胃内容物が確認されていること・月愛ちゃんの状態が良くないことから緊急の開腹手術を行うこととしました。
点滴のための留置針を入れます。


イソフルランでガス麻酔で維持麻酔を行います。

術野をカミソリで剃毛しています。

下写真から下腹部が大きく腫れているのがお分かり頂けると思います。



腹部正中線にメスを入れます。

腹筋切開と共に膨満した胃が認められました。
胃を体外に牽引するために支持糸をかけます。

胃にメスを入れます。
胃内に吸引器の先端を入れます。

胃内の胃液や内容物を取れる範囲で吸引します。


その後、胃内の内容物を全部摘出して行きます。

毛が絡んだ内容物が胃内に貯留しています。




胃内容物を摘出した後に、胃内を生理食塩水で洗浄します。

何度か生理食塩水を注入して胃内洗浄を繰り返します。

洗浄後、胃壁を縫合して行きます。



モノフィラメント縫合糸を用いて、胃壁を全層貫通して単純結節縫合を行います。

腹筋を縫合します。

最後に皮膚縫合を実施します。

無事、手術は終了しました。

摘出した胃内容物です。

細かな被毛が多量に内容物内に混在しています。

術後1時間の月愛ちゃんです。
水を飲めるようになりました。

その後の月愛ちゃんは食欲も出て来まして、活動的に動き回れるようになりました。

術後3日目のレントゲン写真です。
食欲も改善し、胃腸内の内容物も充実しています。
胃拡張をもたらしたガスは認められません。


全身を伸ばしてリラックスしています。

術後1週間で退院前の月愛ちゃんです。

RGISは初動の対応を誤ると死に直結する場合があります。
何度も過去のブログにコメントしてますが、24時間以上絶食が続くのはウサギとしては異常事態であることを忘れないで下さい。
その場合は、速やかに動物病院を受診して下さい。
腹部レントゲン撮影をし、結果によっては消化管造影をするなり、ガス貯留の程度によっては胃カテーテルでガスを抜去するか、あるいは重傷なRGISの場合は今回の様に胃切開して胃内容物を取り出す必要もあります。
いづれにせよ、緊急処置であることに変わりありませんので、ウサギの飼主様はよくよくウサギの状態を常日頃から観察する習慣をお持ちください。
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投稿者 院長 | 記事URL
ウサギの子宮水腫(その2・著しき高度水腫)
こんにちは 院長の伊藤です。
この時期は動物病院は繁忙期になります。
狂犬病ワクチン接種やフィラリア予防等などで飼主の皆様には、長時間御待ち頂きご迷惑をおかけしてます。
私自身も連日の手術でブログを更新することが出来ずにいます。
読者の皆様にしばらく新作をお届けできなくてすみませんでした。
本日、やっと載せることが出来ます。
ご紹介させて頂きますのはウサギの子宮水腫です。
かなり進行して、よくこれだけのものが腹腔に納まっていたなという高度の子宮水腫です。
ミニウサギのハナちゃん(雌、7歳)は突然、倒れるとのことで来院されました。

診察中、陰部から出血が認められた(下写真)ので子宮疾患を疑いました。

まずはエコーで腹部をチェックします。
下のエコー写真で、黄色矢印は子宮の中に水が貯留しているのを示します。
加えて黄色丸は子宮内の腫瘤を示します。

いずれにせよ、ハナちゃんは子宮疾患、特に高度の子宮水腫に罹患してます。
かなり子宮が腫れているため、血流の循環障害で失神が起きたのかもしれません。
手術に耐えられるか、血液検査(下写真)を実施して問題なかったので外科的に卵巣子宮を摘出することとしました。

いつも通り、橈側皮静脈に点滴用の留置針を入れます。

腹部が腫大しているため、あまり全身状態は良好とは言えません。

麻酔前投薬としてメデトミジン・ケタラールを投薬し、その後イソフルランで維持麻酔します。

麻酔が安定してきましたので、早速手術に移ります。


腹筋を切開したところで大きな子宮が顔を表しました。


卵巣動静脈(下写真黄色丸)をいつものごとくバイクランプでシーリングします。



シーリングした卵巣動静脈は縫合糸で結紮することなく、メスで離断でき出血はありません。


両側の卵巣を離断して、子宮角から子宮体までを体外に出したところです。
子宮自体がすでにうっ血色を呈しています。

ついに子宮頚部を縫合糸で結紮してメスで離断します。

腹筋・皮膚を縫合して、手術は終了です。

摘出した子宮とハナちゃんを並べて比較しました。
ハナちゃんの体重が1.5kgで子宮の重さは250gでした。
いかに子宮水腫が大きいものであるか、お分かり頂けると思います。

イソフルランを切りますと、ハナちゃんはほどなく覚醒を始めました。

覚醒直後のハナちゃんです。
お腹がかなりスッキリしましたね。
ただあれだけの大きな子宮水腫ということは、循環血流量も一挙に減少することを意味しますので、これからが要注意です。
ショック死することもあり得ます。

術後3時間のハナちゃんです。
活動性も出て来ました。


さて摘出した子宮です。

子宮角の内容は血漿を主体とした血液成分から構成されてます(下写真青矢印)。
そして変性壊死した子宮内膜が膨隆(下写真黄色矢印)しています。

一部、子宮内膜に腺癌も認められました。

病変部をスタンプ染色しました。
子宮内膜の腫瘍細胞が認められます。

子宮内膜細胞がすでに壊死・融解を起こしてます。

ハナちゃんは術後5日目に退院して頂きました。
食欲も十分あり、排便排尿も問題ありません。
我々に対する威嚇・攻撃性も出て来ました。
退院当日のハナちゃんです。

退院10日後に抜糸のため、来院されたハナちゃんです。
傷口も綺麗に癒合してます。


元気に回復されて、ハナちゃん本当に良かったです。
多くの子宮水腫摘出手術を経験してきましたが、今回はトップクラスの子宮腫大でした。
最後に雌のウサギはシニア世代になると今回の様に産科疾患が多発します。
1歳までに避妊手術を受けられることをお奨めします。
ハナちゃん、お疲れ様でした!

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この時期は動物病院は繁忙期になります。
狂犬病ワクチン接種やフィラリア予防等などで飼主の皆様には、長時間御待ち頂きご迷惑をおかけしてます。
私自身も連日の手術でブログを更新することが出来ずにいます。
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本日、やっと載せることが出来ます。
ご紹介させて頂きますのはウサギの子宮水腫です。
かなり進行して、よくこれだけのものが腹腔に納まっていたなという高度の子宮水腫です。
ミニウサギのハナちゃん(雌、7歳)は突然、倒れるとのことで来院されました。

診察中、陰部から出血が認められた(下写真)ので子宮疾患を疑いました。

まずはエコーで腹部をチェックします。
下のエコー写真で、黄色矢印は子宮の中に水が貯留しているのを示します。
加えて黄色丸は子宮内の腫瘤を示します。

いずれにせよ、ハナちゃんは子宮疾患、特に高度の子宮水腫に罹患してます。
かなり子宮が腫れているため、血流の循環障害で失神が起きたのかもしれません。
手術に耐えられるか、血液検査(下写真)を実施して問題なかったので外科的に卵巣子宮を摘出することとしました。

いつも通り、橈側皮静脈に点滴用の留置針を入れます。

腹部が腫大しているため、あまり全身状態は良好とは言えません。

麻酔前投薬としてメデトミジン・ケタラールを投薬し、その後イソフルランで維持麻酔します。

麻酔が安定してきましたので、早速手術に移ります。


腹筋を切開したところで大きな子宮が顔を表しました。


卵巣動静脈(下写真黄色丸)をいつものごとくバイクランプでシーリングします。



シーリングした卵巣動静脈は縫合糸で結紮することなく、メスで離断でき出血はありません。


両側の卵巣を離断して、子宮角から子宮体までを体外に出したところです。
子宮自体がすでにうっ血色を呈しています。

ついに子宮頚部を縫合糸で結紮してメスで離断します。

腹筋・皮膚を縫合して、手術は終了です。

摘出した子宮とハナちゃんを並べて比較しました。
ハナちゃんの体重が1.5kgで子宮の重さは250gでした。
いかに子宮水腫が大きいものであるか、お分かり頂けると思います。

イソフルランを切りますと、ハナちゃんはほどなく覚醒を始めました。

覚醒直後のハナちゃんです。
お腹がかなりスッキリしましたね。
ただあれだけの大きな子宮水腫ということは、循環血流量も一挙に減少することを意味しますので、これからが要注意です。
ショック死することもあり得ます。

術後3時間のハナちゃんです。
活動性も出て来ました。


さて摘出した子宮です。

子宮角の内容は血漿を主体とした血液成分から構成されてます(下写真青矢印)。
そして変性壊死した子宮内膜が膨隆(下写真黄色矢印)しています。

一部、子宮内膜に腺癌も認められました。

病変部をスタンプ染色しました。
子宮内膜の腫瘍細胞が認められます。

子宮内膜細胞がすでに壊死・融解を起こしてます。

ハナちゃんは術後5日目に退院して頂きました。
食欲も十分あり、排便排尿も問題ありません。
我々に対する威嚇・攻撃性も出て来ました。
退院当日のハナちゃんです。

退院10日後に抜糸のため、来院されたハナちゃんです。
傷口も綺麗に癒合してます。


元気に回復されて、ハナちゃん本当に良かったです。
多くの子宮水腫摘出手術を経験してきましたが、今回はトップクラスの子宮腫大でした。
最後に雌のウサギはシニア世代になると今回の様に産科疾患が多発します。
1歳までに避妊手術を受けられることをお奨めします。
ハナちゃん、お疲れ様でした!

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投稿者 院長 | 記事URL
ウサギの膣過形成
こんにちは。 院長の伊藤です。
この3週間ほど休みなく診療に明け暮れていました。
休診日も関係なくほぼ毎日、メスを持って手術をしていました。
そのため、ホームページにかける時間が取れずに読者の皆様、ご迷惑をおかけいたしました。
特に外科に関わるブログネタは30件ほど溜まっておりますので、これから順次載せていきます。
さて、本日ご紹介しますのはウサギの膣過形成の一例です。
ミニレッキスのみかんちゃん(雌、1歳11カ月)は生まれてこの方、陰部から大きくなった腫瘤が排尿時に障害となり、尿かぶれが酷く、常時尿臭を伴っているとのこと。
他院で抗生剤などの内服を処方されているが、改善は認められないとのことで来院されました。
下写真の黄色丸をご覧ください。

拡大写真です。

外陰部からはみ出して、かなり大きな腫瘤が認められます。
おそらく尿道口から排出された尿が四方に飛散して、外陰部に残り尿臭のもとになっているようです。


この外陰部から突出している腫瘤はおそらく膣壁が過剰に形成され、いわゆる過形成という状態になっている可能性が高いと思われました。
まずはこの腫瘤を細胞診しました。
この膣の腫瘤が平滑筋肉腫や扁平上皮癌といった悪性腫瘍でないかの確認が必要です。
幸いなことに腫瘍細胞はなく、膣壁の過形成であることが判明しました。
犬の膣過形成については、年齢が2~3歳以下の若い雌犬に発生が多いといわれています。
犬は発情前期及び発情期に過剰なエストロジェンが分泌され、これによって膣粘膜が浮腫上に肥大し、膣壁が過形成することが原因とされます。
ウサギの膣過形成も同じ原因で起こります。
問題は一旦、性的に成熟したウサギは周年発情動物で、犬の様に発情期というものはそもそもなく、いつも発情しています。
従って、この膣過形成を治療するにあたり、過剰な膣壁を切除して、卵巣・子宮を摘出するのがベストの選択と言えます。
飼い主様のご了解を得て、外科的摘出を行いました。
みかんちゃんに全身麻酔をかけます。


患部を綺麗に消毒・洗浄します。


患部は床面との干渉で表層部が剥離して紅くただれています。


電気メスにより患部を一部切除して、組織内容を確認します。


腫瘤内部は過形成した膣上皮でした。

さらに深部まで切除するることとしました。


切除した膣壁の断面です。
特に太い血管の走行はなく、切断面を縫合します。




縫合終了と共に牽引していた鉗子を外すと、患部はそのまま外陰部内へと納まりました。

加えて、みかんちゃんの卵巣・子宮摘出を行います。
みかんちゃんの子宮角には、一部子宮内膜炎による子宮壁の過形成が認められました。

閉腹して手術は終了です。


外陰部も腫瘤はなくなり、見栄えもよくなりました。

術後の経過も良好で、排便・排尿も問題なくできるようになりました。
4日間の入院でみかんちゃんは退院して頂きました。
下は退院前の写真です。

術後1か月のみかんちゃんです。

患部は見て頂いて分かるように腫瘤の再生もなく、綺麗に落ち着いています。

みかんちゃんは生後1か月位からこの膣過形成が始まっていたようです。
当院での手術を受けられるまでの2年近くを、陰部周辺の不快感を持ったまま我慢されてきたことになります。

今後は気持ちよく排尿できると思います。
みかんちゃん、お疲れ様でした。

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さて、本日ご紹介しますのはウサギの膣過形成の一例です。
ミニレッキスのみかんちゃん(雌、1歳11カ月)は生まれてこの方、陰部から大きくなった腫瘤が排尿時に障害となり、尿かぶれが酷く、常時尿臭を伴っているとのこと。
他院で抗生剤などの内服を処方されているが、改善は認められないとのことで来院されました。
下写真の黄色丸をご覧ください。

拡大写真です。

外陰部からはみ出して、かなり大きな腫瘤が認められます。
おそらく尿道口から排出された尿が四方に飛散して、外陰部に残り尿臭のもとになっているようです。


この外陰部から突出している腫瘤はおそらく膣壁が過剰に形成され、いわゆる過形成という状態になっている可能性が高いと思われました。
まずはこの腫瘤を細胞診しました。
この膣の腫瘤が平滑筋肉腫や扁平上皮癌といった悪性腫瘍でないかの確認が必要です。
幸いなことに腫瘍細胞はなく、膣壁の過形成であることが判明しました。
犬の膣過形成については、年齢が2~3歳以下の若い雌犬に発生が多いといわれています。
犬は発情前期及び発情期に過剰なエストロジェンが分泌され、これによって膣粘膜が浮腫上に肥大し、膣壁が過形成することが原因とされます。
ウサギの膣過形成も同じ原因で起こります。
問題は一旦、性的に成熟したウサギは周年発情動物で、犬の様に発情期というものはそもそもなく、いつも発情しています。
従って、この膣過形成を治療するにあたり、過剰な膣壁を切除して、卵巣・子宮を摘出するのがベストの選択と言えます。
飼い主様のご了解を得て、外科的摘出を行いました。
みかんちゃんに全身麻酔をかけます。


患部を綺麗に消毒・洗浄します。


患部は床面との干渉で表層部が剥離して紅くただれています。


電気メスにより患部を一部切除して、組織内容を確認します。


腫瘤内部は過形成した膣上皮でした。

さらに深部まで切除するることとしました。


切除した膣壁の断面です。
特に太い血管の走行はなく、切断面を縫合します。




縫合終了と共に牽引していた鉗子を外すと、患部はそのまま外陰部内へと納まりました。

加えて、みかんちゃんの卵巣・子宮摘出を行います。
みかんちゃんの子宮角には、一部子宮内膜炎による子宮壁の過形成が認められました。

閉腹して手術は終了です。


外陰部も腫瘤はなくなり、見栄えもよくなりました。

術後の経過も良好で、排便・排尿も問題なくできるようになりました。
4日間の入院でみかんちゃんは退院して頂きました。
下は退院前の写真です。

術後1か月のみかんちゃんです。

患部は見て頂いて分かるように腫瘤の再生もなく、綺麗に落ち着いています。

みかんちゃんは生後1か月位からこの膣過形成が始まっていたようです。
当院での手術を受けられるまでの2年近くを、陰部周辺の不快感を持ったまま我慢されてきたことになります。

今後は気持ちよく排尿できると思います。
みかんちゃん、お疲れ様でした。

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ウサギの子宮腺癌(その6)
こんにちは 院長の伊藤です。
ウサギの子宮疾患で死亡率が高いのは、子宮腺癌です。
子宮に腫瘍が出来ますと腺癌に侵された子宮内膜から出血が始まります。
多くのウサギは血尿から、飼主様が異常に気づくことが多いです。
ここで動物病院を受診して、幸いにも子宮腺癌と診断されて外科的に卵巣子宮摘出手術を成功されれば理想です。
現実には、他院で犬猫と同様に膀胱炎の診断をされ、抗生剤と止血剤の内服を長期にわたり継続して、腹腔が子宮腺癌で膨満した状態で、セカンドオピニオンとして当院を来院されるケースが多いです。
こうなると、待ったなしの外科手術になります。
少しでも、飼主様にウサギの子宮腺癌についての見識をお持ちいただけるよう子宮腺癌の症例をご紹介させて頂いてます。
今回、ご紹介しますのはモシャちゃん(8歳6か月)です。


モシャちゃんは福島で震災に遭い、飼い主様のご実家である名古屋に戻られたという経験を持つウサギです。
去年の12月から血尿が続くとのことで他院を受診したそうですが、子宮疾患の疑いはないと否定されたそうです。
セカンドオピニオンで当院を受診された時には、出血の量も多くなっていました。
下写真はモシャちゃんをお預かりしてすぐに出た血尿です。

お腹の膨満感はありませんが、歯茎等の可視粘膜は貧血色を呈しています。
直ぐにエコーをしました。
下のエコー像の黄色丸で囲んだ部位が腫脹している子宮です。
かなり、膨大しており周囲の腸を圧迫しています。


この段階で子宮腺癌の確定診断は出来ましたので、そのまま手術で摘出することにしました。
貧血が酷い場合は、ある程度内科的治療を施して、体力が手術に耐えられるまで回復を待つこともあります。
モシャちゃんの場合は、これ以上内科的治療を継続することでの回復は望めないと判断しての手術です。
いつものことながら、静脈確保のための留置針処置です。

イソフルランで麻酔導入します。

モシャちゃんは長毛種で下腹部を剃毛するのが大変です。


正中切開でメスを入れます。

腹膜を切開したところで、すでに腫大した子宮が外からでも認識できます。

腺癌で腫大した子宮です。

健常な子宮の6~7倍くらい腫大しています。

卵巣動静脈も子宮間膜の血管も怒張しており、これもいつもの通りバイクランプのシーリングでほとんど無出血で両側卵巣を離断します。


最後に子宮頚部を縫合糸で結紮して子宮を摘出します。

あとは腹膜・腹筋・皮膚と縫合して終了です。




モシャちゃんは手術にしっかり耐えてくれました。
麻酔の覚醒も速やかです。

無事、手術は終了しました。

今回摘出した卵巣と子宮です。

右側子宮角です。

左側子宮角です。

子宮壁を切開してました。
腺癌が子宮内膜へ浸潤しており、子宮壁の一部は炎症から変性壊死してます。


この病変部をスタンプ染色しました。
腺癌の腫瘍細胞が認められます。

術後のモシャちゃんの経過は良好で3日後には退院して頂きました。
下写真は2週間後のモシャちゃんです。
抜糸のため来院されました。
首に付けたエリザベスカラーが邪魔みたいですが、傷口の保護のためには止むを得ません。

剃毛部した部位は既に下毛が生えてきています。

皮膚も綺麗に癒合してます。
抜糸後の皮膚です。

モシャちゃんは術後食欲が見違えるほどに旺盛になり、活動的になったそうです。
また血尿も術後はありません。

毎回、このウサギの子宮腺癌の紹介の文末に記載してますが、5歳以降の血尿は子宮疾患を疑って下さい。
そして速やかに、ウサギを診て頂ける動物病院を受診して下さい。
モシャちゃんの飼主様は5歳以降の避妊手術は危険でできないと思い込んでみえました。
モシャちゃんは8歳を過ぎた高齢でしたが、手術は可能でした。
救える命は、頑張って救ってあげたいと思います。
そして、できるなら1歳位には雌ウサギには避妊手術を受けさせてあげて下さい。
モシャちゃん、お疲れ様でした!

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ウサギの子宮疾患で死亡率が高いのは、子宮腺癌です。
子宮に腫瘍が出来ますと腺癌に侵された子宮内膜から出血が始まります。
多くのウサギは血尿から、飼主様が異常に気づくことが多いです。
ここで動物病院を受診して、幸いにも子宮腺癌と診断されて外科的に卵巣子宮摘出手術を成功されれば理想です。
現実には、他院で犬猫と同様に膀胱炎の診断をされ、抗生剤と止血剤の内服を長期にわたり継続して、腹腔が子宮腺癌で膨満した状態で、セカンドオピニオンとして当院を来院されるケースが多いです。
こうなると、待ったなしの外科手術になります。
少しでも、飼主様にウサギの子宮腺癌についての見識をお持ちいただけるよう子宮腺癌の症例をご紹介させて頂いてます。
今回、ご紹介しますのはモシャちゃん(8歳6か月)です。


モシャちゃんは福島で震災に遭い、飼い主様のご実家である名古屋に戻られたという経験を持つウサギです。
去年の12月から血尿が続くとのことで他院を受診したそうですが、子宮疾患の疑いはないと否定されたそうです。
セカンドオピニオンで当院を受診された時には、出血の量も多くなっていました。
下写真はモシャちゃんをお預かりしてすぐに出た血尿です。

お腹の膨満感はありませんが、歯茎等の可視粘膜は貧血色を呈しています。
直ぐにエコーをしました。
下のエコー像の黄色丸で囲んだ部位が腫脹している子宮です。
かなり、膨大しており周囲の腸を圧迫しています。


この段階で子宮腺癌の確定診断は出来ましたので、そのまま手術で摘出することにしました。
貧血が酷い場合は、ある程度内科的治療を施して、体力が手術に耐えられるまで回復を待つこともあります。
モシャちゃんの場合は、これ以上内科的治療を継続することでの回復は望めないと判断しての手術です。
いつものことながら、静脈確保のための留置針処置です。

イソフルランで麻酔導入します。

モシャちゃんは長毛種で下腹部を剃毛するのが大変です。


正中切開でメスを入れます。

腹膜を切開したところで、すでに腫大した子宮が外からでも認識できます。

腺癌で腫大した子宮です。

健常な子宮の6~7倍くらい腫大しています。

卵巣動静脈も子宮間膜の血管も怒張しており、これもいつもの通りバイクランプのシーリングでほとんど無出血で両側卵巣を離断します。


最後に子宮頚部を縫合糸で結紮して子宮を摘出します。

あとは腹膜・腹筋・皮膚と縫合して終了です。




モシャちゃんは手術にしっかり耐えてくれました。
麻酔の覚醒も速やかです。

無事、手術は終了しました。

今回摘出した卵巣と子宮です。

右側子宮角です。

左側子宮角です。

子宮壁を切開してました。
腺癌が子宮内膜へ浸潤しており、子宮壁の一部は炎症から変性壊死してます。


この病変部をスタンプ染色しました。
腺癌の腫瘍細胞が認められます。

術後のモシャちゃんの経過は良好で3日後には退院して頂きました。
下写真は2週間後のモシャちゃんです。
抜糸のため来院されました。
首に付けたエリザベスカラーが邪魔みたいですが、傷口の保護のためには止むを得ません。

剃毛部した部位は既に下毛が生えてきています。

皮膚も綺麗に癒合してます。
抜糸後の皮膚です。

モシャちゃんは術後食欲が見違えるほどに旺盛になり、活動的になったそうです。
また血尿も術後はありません。

毎回、このウサギの子宮腺癌の紹介の文末に記載してますが、5歳以降の血尿は子宮疾患を疑って下さい。
そして速やかに、ウサギを診て頂ける動物病院を受診して下さい。
モシャちゃんの飼主様は5歳以降の避妊手術は危険でできないと思い込んでみえました。
モシャちゃんは8歳を過ぎた高齢でしたが、手術は可能でした。
救える命は、頑張って救ってあげたいと思います。
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モシャちゃん、お疲れ様でした!

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