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ハリネズミの疾病

2020年3月17日 火曜日

ハリネズミの卵巣腫瘍(顆粒膜細胞腫)

こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのは、ハリネズミの卵巣腫瘍です。

これまでにもハリネズミの産科系疾患を多く報告させて頂きました。

私自身の経験では、圧倒的に子宮角や子宮頚部の腫瘍が多いのですが、卵巣にも腫瘍が発生するケースもあります。

今回は卵巣腫瘍の中でも顆粒膜細胞腫というタイプの腫瘍です。


ヨツユビハリネズミのみいこちゃん(4歳10か月齢、雌、体重640g)は血尿が認められたのが1年半ほど前でした。

血尿は集中的に認められることなく、不定期に出ていたようです。

そのため、飼主様も卵巣子宮疾患としても積極的な摘出手術は考えていませんでした。

しかしながら、令和2年を迎えて血尿が集中して出始めたため、いよいよ手術となりました。

みいこちゃんはデリケートな性格で、すぐ丸くなり、なかなか顔を見せてくれません。



手術前にレントゲン撮影を実施しました。

ハリネズミの場合は、体を丸くするため臓器が重なり合い正確な評価が難しいです。

みいこちゃんの場合は、下写真黄色丸の部位にガスと液体が貯留していると推察されました。

腸管を圧迫しているようにみえるため、この時点ではおそらく子宮が腫大しているかもと考えました。





みいこちゃんを麻酔導入箱に入れてイソフルランを流します。



5分経過で仰向けになり、麻酔導入が遂行しました。



早速、みいこちゃんを導入箱から出して、維持麻酔に変えます。

黄色矢印は腹部が腫れているのを表します。

触診しますと下腹部に波動感が認められ、腹水が貯留しているようです。





生体情報モニターを装着して、これから開腹に移ります。



臍の位置より少し下方に切開を加えます。



腹膜を切開した時点で腹水が溢れ出してきました。





腹水の内容を調べるため注射筒で吸引します。



血尿による出血で腸管は貧血色を呈しています。



注意深く腹腔内を探ると液体を貯留した卵巣が認められました。



ブドウの房状の卵巣が飛び出してきました。

かなり大きく卵巣が腫大してます。



下写真の黄色矢印が子宮です。

赤矢印は膀胱を示します。

白矢印は卵巣です。

卵巣は各種色調を呈していますが、卵巣嚢胞という病態です。





中央部の卵巣嚢胞の外側面は、腫瘍の播種を疑う小結節が付着してます。



子宮頚部を結紮します。





子宮頚部を2か所にわたって結紮します。





見ずらいですが、子宮頚部を硬性メスで離断します。



離断した子宮頚部の断端です。



断端部を縫合します。



出血も最低限に抑えることが出来、卵巣子宮の摘出は終了です。



腹膜・腹筋を縫合します。





最後に皮膚縫合です。

4‐0ナイロン縫合糸で縫合します。



これで卵巣子宮の全摘出は完了です。



最後に頚部から胸部にかけての腫瘤が気になりました。

下写真の黄色丸がその腫瘤です。



皮膚の腫瘍の可能性もあり、念のため摘出します。

常日頃、ハリネズミは全身を触診することが出来ないため、手術本番になって触診して初めて、病変に気付くことがあります。



滅菌綿棒を使用して腫瘤と周囲組織を剥がしていきます。



患部の皮膚を縫合しました。

テンションがかかる胸部のため、3‐0のナイロン縫合糸を使用しました。



手術が終了し、皮下輸液を行います。



麻酔の覚醒は比較的早く、イソフルランを止めて約5分ほどで動き出しました。



みいこちゃんの意識はまだ朦朧としていますが、問題なく覚醒出来そうです。



術後30分のみいこちゃんです。

痛々しい感はありますが、インキュベーター内を徘徊してます。



さて、今回摘出した卵巣・子宮です。

黄色矢印は子宮です。

緑丸で囲んだのが右卵巣です。



右卵巣の卵巣嚢胞を呈している中央部の嚢胞は、表面に顆粒状の小結節を形成してます。

各卵巣内腔には漿液や血液が貯留して、独特の色彩を放っています。





下写真黄色矢印の子宮の内、青丸で囲んだのは左卵巣です。

左卵巣は正常な卵巣ですが、反対側の右卵巣は、その10倍以上の大きさに膨らんでいます。





下写真は腫大した頚から胸部にかけての腫瘤です。

腫大した浅胸リンパ節であることが判明しました。

リンパ腫ではありませんでした。



下写真は、子宮の病理像です。

中拡大像ですが、多発性の子宮内膜ポリープであることが判明しました。



下写真は子宮内膜です。

子宮内膜は過形成に肥厚しています。

子宮には、腫瘍性増殖を示す細胞や炎症反応は認められませんでした。



下写真は、卵巣嚢胞です。

卵巣実質において、内腔に淡好酸性漿液を容れる多嚢胞状病変が形成されています。



卵巣の中拡大像です。

軽度の異型性を示す多角形・紡錘形腫瘍細胞の小柱状・多嚢胞状の増殖巣が認められます。



下写真は高倍率像です。

腫瘍細胞は基底膜に対して柵状に配列し、空胞上の細胞質、大小不同を示する類円形の正染性核、小型の核小体を有してます。



結論として、みいこちゃんは片側性の顆粒膜細胞腫との病理医から診断を受けました。

ヒトでは比較的珍しい悪性の卵巣腫瘍です。

この腫瘍はハリネズミに限らず性ホルモンを産生し、子宮内膜過形成や白血球・血小板減少症を併発するとされています。

ハリネズミのおける卵巣顆粒膜細胞腫の詳細なる生物学的挙動や予後に関する知見は、現段階では不明です。

次いで、下写真はみいこちゃんの腹水の塗沫標本です。

腫瘍細胞が細胞集塊が認められます。



以上の病理所見からも、卵巣顆粒膜細胞腫が腹膜に転移し、今後悪性の挙動を示すことが予想されます。

みいこちゃんは定期的な健診が必要です。


術後2週間のみいこちゃんです。

抜糸のための来院です。



傷口は綺麗に治ってるため、抜糸してます。



みいこちゃんの経過は良好ですが、人見知りで顔の写真を撮るのが難しいです。



みいこちゃん、大変な手術でしたが、お疲れ様でした。





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2020年1月16日 木曜日

ハリネズミの乳腺腫瘍(悪性筋上皮腫)

こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのは、ヨツユビハリネズミの乳腺腫瘍例です。

以前にもハリネズミの乳腺腫瘍について記事を載せていますので、興味のある方はこちらをクリックして下さい。


ヨツユビハリネズミのみるくちゃん(雌、3歳2か月齢)は左の胸部が腫れているとのことで来院されました。

ハリネズミの場合、体表部(胸部から下腹にかけて)の腫脹があれば、身体を丸くした時に若干、丸くなりきれずに隙間が空きます

身体を丸くしても、空いている隙間を下写真の黄色丸は、示しています。



触診して確認すると、左第一乳房周辺に硬い腫瘤が確認されました。

細胞診で乳腺腫瘍の疑いがあり、外科的に摘出することとなりました。

みるくちゃんにイソフルランによる麻酔導入を実施します。



麻酔が効いてくると次第に体を開けるようになります。



麻酔導入が完了して、身体は完全に伸展しています。



麻酔導入箱から出て頂き、維持麻酔に切り替えます。



側面から見た画像です。

患部が腫脹しているのがお分かり頂けると思います。



下写真黄色丸が乳腺腫瘍を示します。

広いエリアに腫瘍が発生してるのが分かります。

患部を剃毛、消毒します。





患部の血行障害もあり、若干内出血が確認されます。



麻酔状態も安定しましたので、早速摘出手術を実施します。



皮膚も乳腺と同時にザックリ切除するのが理想です。

しかし、皮膚切除が広範囲に及ぶとテンションをかけての縫合となります。

ハリネズミは、本能的に丸くなり、患部を絶えず伸展・伸縮を繰り返す動物です。

その結果、縫合部は簡単に吻開してしまいます。

そのため、皮膚は出来る限り残す方向で切開をします。



皮膚切開を行い、バイポーラ(電気メス)で皮下組織を止血・切開しているところです。



次いで、乳腺を含めた腫瘍にアプローチします。

バイポーラで腫瘍本体を隣接組織から剥離していきます。



ハリネズミでも乳腺には太い血管が走行していますので、バイクランプでシーリングを行います。



下写真は2つの乳腺組織(白・黄色矢印)が認められます。

それぞれの乳腺は腫大して辺縁が鈍化しています。



黄色矢印の乳腺から摘出をします。



摘出完了です。



次いで、白矢印の乳腺を摘出します。





摘出完了です。



これらの乳腺に接して腫大しているリンパ節を最後に摘出します。



摘出後の患部です。



皮下組織を合成吸収糸を用いて縫合します。

今回の縫合部はテンションがかかる部位なので、皮膚縫合の減張の意味も含めて、しっかりと縫合します。



皮下組織の縫合は終了です。



皮膚縫合を4‐0のナイロン糸で実施します。



皮膚縫合終了の患部です。



患部は細かく縫合しましたが、みるくちゃんが丸くなると口が患部に届く位置にあるのが心配です。



麻酔を切り、覚醒し始めたみるくちゃんです。



ちなみに、みるくちゃんは左眼が白内障になっています。



摘出した腫瘍です。



摘出患部の病理写真です。

中拡大の画像です。

軽度に異型性のある紡錘形の腫瘍細胞がシート状、花むしろ状に増殖しています。



高倍率像です。

腫瘍細胞は中等量の弱好酸性細胞質、中等度の大小不同を示す類円形から細長い正染核、並びに明瞭な核小体を有しています。

病理医の診断では、分裂頻度が低いため、悪性度の比較的低い腫瘍とのことです。

腫瘍性増殖を示さない乳腺分泌上皮細胞を背景にして紡錘形細胞が増殖しているため、乳腺終末腺房を構成する分泌上皮筋上皮の内、筋上皮が腫瘍化したものと判断されるそうです。

最終的な診断名は悪性筋上皮腫です。

ちなみにヒトにおける乳腺腫瘍でこの筋上皮腫にあたるタイプは非常に稀だそうです。

ヨツユビハリネズミでは案外、多いのかもしれません。



今回の腫瘍細胞の脈管内浸潤は認められず、摘出は完全・予後は良好と病理医から診断されました。

しかし、今後の他の乳房からの新規病変の発生には引き続き、経過観察が必要です。

また現状では、避妊手術と乳腺腫瘍との相関関係は、犬や猫のようにヨツユビハリネズミでは明らかにされていません。


みるくちゃん、お疲れ様でした!













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2019年7月 7日 日曜日

ハリネズミの子宮内膜間質結節

こんにちは 院長の伊藤です。

本日、ご紹介しますのはヨツユビハリネズミの子宮内膜間質結節の症例です。

ハリネズミは子宮内膜炎、子宮内膜ポリープ、子宮内膜間質肉腫など子宮疾患が非常に多い動物種です。

そんな中で子宮頚部に非常に大きな結節が生じたケースで、病理学的には子宮内膜間質結節と言われる疾病です。




ヨツユビハリネズミのハルちゃん(雌、2歳6か月齢、体重310g)は血尿が出るとのことで来院されました。

下写真のように下半身は出血で汚れているのがお分かり頂けると思います。



ヨツユビハリネズミの雌で、2歳齢以降の血尿は子宮疾患を疑います。

出血による貧血などの全身状態は、まだ全身麻酔に耐えられると判断しました。

飼主様に可能であれば、早急に試験的開腹を行い、状況に応じて卵巣子宮を全摘出すべきであることをお伝えしました。

飼い主様の了解を得て、早速手術です。

ハルちゃんに麻酔導入ケースに入ってもらい、イソフルランによる麻酔導入を行います。



麻酔導入が完了しました。



マスクを装着してイソフルランによる維持麻酔に切り替えます。

生体情報モニターの電極を装着します。

メスを入れる皮膚をバリカンで剃毛します。



仕上げにカミソリで剃毛します。



患部を消毒します。



この姿勢でモニター監視のもと手術を行います。



硬性メスで皮膚を切皮します。



腹筋を切開します。



腹筋を切開した直後に直下に位置する子宮が飛び出してきました。



下写真で私がつまんでいるのが子宮頚部です。

今回の子宮頚部はかなり腫大しています。





下写真の黄色矢印は左右の子宮角と呼ばれる部位です。

白矢印は左右の卵巣動静脈です。



下写真の黄色矢印は膀胱です。

膀胱には腫瘍は浸潤していないように見えます。



卵巣を子宮頚部から分離するため、両側の卵巣動静脈をバイクランプでシーリングします。



メスでシーリング部を離断します。



次に子宮頚部の子宮動静脈をシーリングするため、血管を頚部から剥離します。



両側の子宮動静脈をシーリングします。



子宮動静脈のシーリングが完了したところです。

反対側の子宮動静脈も同じくシーリングします。



ご覧の通りに子宮頚部の腫大が著しいです。

本来ならば、この子宮頚部を縫合糸で結紮して外科鋏で離断して終了となります。

今回の腫大レベルでは縫合糸による結紮は不可能です。

膀胱は機能していますので温存できると判断しました。

あとは子宮頚部の内部の腫瘍ごとスッポと外せないか悩みました。

結果、膀胱の直上に二本の縫合糸をかけて、中間部を切開して腫瘍ごと引っこ抜くという術式を試みました。



二本の縫合糸を子宮頚部にかけます。



子宮動静脈をシーリングした部位に狙いをつけてメスで切り込みを入れます。



メスを入れると同時に子宮頚部筋層からの出血が始まりました。

この子宮頚部の内部からの出血が止まらないようなら、この縫合糸で結紮して止血する予定です。



切開した子宮頚部の内部からは変性した子宮内膜組織がはみ出る位の勢いで飛び出しました。



下写真黄色矢印は、子宮頚部の飛び出した内膜組織です。

大型のポリープ状腫瘤です。



下写真の黄色矢印方向に引き上げるとそのまま子宮頚部から剥離して外れ始めました。



予想した通りにポリープ状腫瘤は綺麗に外れました。



子宮頚部内部からの出血はそれほどはなく、準備していた縫合糸による結紮は必要ありませんでした。



そのまま子宮頚部を横断して切開します。





下写真の黄色矢印は綺麗に子宮頚部内膜組織が外れた後の頚部切断面です。



出血もほとんどない状態で、このまま頚部切断面を縫合します。







これで子宮頚部の縫合終了です。



最後に腹腔内の出血や腫瘍と思しき組織の有無を確認します。



腹筋を縫合します。



皮膚を縫合します。



手術は終了しました。

下写真は今回摘出した卵巣と子宮です。

特に子宮頚部の内膜組織(ポリープ状腫瘤)がいかに大きいかお分かり頂けると思います。



全身麻酔から覚醒したばかりのハルちゃんです。



術後10分で既に歩行しているのをみるとハリネズミはタフな動物であると感動します。



下写真は今回摘出した卵巣・子宮です。



黄色矢印は子宮角で、白矢印は子宮頚部、そして青矢印は子宮頚部離断面から突出したポリープ状の腫瘤です。





下写真は、病理写真(低倍像)です。

ポリープの表層部は自壊して壊死と炎症細胞が浸潤しています。



下は中拡大像です。

ポリープの中心部では多結節状に間質細胞が増殖しています。



間質細胞の中には細胞異型性(腫瘍細胞)が軽度から中等度で、核分裂像が認められます。

この腫瘍細胞は子宮内膜側に限局され、子宮筋層への浸潤はありません。



両卵巣に異常な所見は認められませんでした。

結論として、子宮内膜に由来する腫瘍性病変が認められましたが、これは良性の腫瘍でした。

病理組織学的な診断名は子宮内膜間質結節です。

また、病理医からの評価として病巣部は完全切除されており、良好な予後が期待できるとのことです。

今回、子宮頚部のポリープ状腫瘤(腫瘍)が子宮筋層まで浸潤しておらず、そのまま全部摘出できたのが良かったと思います。

過去に子宮頚部の内膜から筋層及び膀胱まで腫瘍が浸潤して、摘出を断念した症例もあります。

全てのハリネズミの子宮頚部の腫瘤が、今回のような子宮内膜間質結節ではありません。

子宮内膜と子宮筋層がヨツユビハリネズミの場合は綺麗に剥離できるのが興味深い点です。

犬や猫では今回の様には展開しません。

その点では、このような子宮頚部において内膜が結節上に腫大した事例は今後、今回の術式で対応できると思われます。




翌日のハルちゃんですが、しっかり食欲もあります。







ハリネズミのようにスキンシップがしっかり出来ない動物では、血尿でも気づかれない事例も多いです。

ヨツユビハリネズミは、2歳以降で血尿が継続する雌の場合は、子宮疾患を疑い、早めの受診をお願い致します。

ハルちゃん、お疲れ様でした!




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投稿者 院長 | 記事URL

2019年6月19日 水曜日

ハリネズミの平滑筋肉腫(その2)

こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのは、ハリネズミの平滑筋肉腫です。

平滑筋とは消化器や呼吸器,泌尿器,生殖器,血管などの壁にあって,緊張の保持と収縮を司る筋肉です。

意志とは無関係に働くので,不随意筋の一種です。

そんな平滑筋ですが、悪性の腫瘍(肉腫)として発症する場合があります。

過去にハリネズミの平滑筋肉腫として記事を載せてますので、宜しかったらこちらもクリックして下さい。



ヨツユビハリネズミのもぐちゃん(雌、1歳8か月齢)は陰部周囲が腫れているとのことで来院されました。

下写真黄色丸は出血を伴った外陰部周囲の腫瘤です。



ハリネズミは下腹部の皮膚の状態を診るにあたり、緊張・興奮により体を常時丸くしますので鎮静をかけなくてはならないことが多いです。

もぐちゃんの腫瘤をパッと見た感じでは膣脱の可能性があると思われました。

以前、当院のHPにてハリネズミの膣脱について記事を載せています。

興味のある方はこちらをクリックして下さい。

もぐちゃんが膣脱の場合、抗生剤や消炎剤の投薬で膣が戻る場合がありますので、ひとまず内科的治療で経過を確認させて頂きました。

2週間以上経過したところで、患部の縮小もなく,さらに腫大傾向があるとのことで外科的に切除することとなりました。

イソフルランで麻酔導入を実施します。



維持麻酔に切り替えます。

もぐちゃんの陰部周辺は出血で汚染されています。



外陰部全体が腫脹しているように見えます。



腫瘤を裏側から見た画像です。



腫瘤を自傷したり、床材との干渉や体表の針が刺さったりなどで患部は出血、痂皮形成を繰り返してきたことが伺えます。



患部を綺麗に洗浄消毒します。





洗浄後の患部です。

この角度から見ると膣脱と言うよりは、外陰部を裏打ちするように内部から腫瘤が形性されている感があります。





この段階では、膣脱の可能性もあるとみており、卵巣子宮全摘出術を先に実施しました。





卵巣子宮全摘の模様は、今回の本筋ではありませんので簡単に流します。



腹筋を切開します。



子宮頚部を結紮してます。



子宮頚部をメスで離断します。

この段階で特に子宮頚部が腫脹していたり、頚部に腫瘍と思しき病変は認められません



下腹部の縫合は終了です。

下写真黄色丸は摘出した卵巣子宮です。



さて本題の腫瘤摘出です。

膣脱であれば、下写真の黄色矢印から膣部が突出するはずなのですが、外陰部自体(下写真黄色丸)が腫瘍で腫れ上がっています。

従って、膣脱は否定されました。

意識下では暴れて患部の詳細を確認することがハリネズミは非常に難しいため、全身麻酔下で詳細が確認されるケースは多いです。



外陰部の腹側面を牽引して露出し、皮膚を切開してから内部の腫瘤にアプローチすることとしました。



バイポーラ(電気メス)で切開・止血を慎重に行います。



ご覧の通りの細かな作業となります。



外陰部の皮膚を切開して行くと皮下に明らかな腫瘤(腫瘍)が認められました。





太い栄養血管に包まれた腫瘍組織です。





出来る限りマージンを取るようにして、外陰部の皮膚を外科鋏で切断します。





外陰部の皮膚を切除した跡の写真です。



摘出した腫瘍組織(赤色丸)と卵巣子宮(黄色丸)です。



切除後の外陰部の皮膚を縫合します。



縫合終了です。



全身麻酔を切って覚醒を待ちます。



覚醒したもぐちゃんです。



覚醒直後から歩行を始めました。



摘出した腫瘍です。





摘出した腫瘍を病理検査に出しました。

診断は平滑筋肉腫でした。

肉腫に相当する悪性腫瘍性病変です。

下写真は中拡大像です。

病巣部は不規則に錯綜しながら増生する平滑筋様の束状の腫瘍増生巣で構成されています。



下写真は高倍率像です。

卵円形核と好酸性細胞質を有する長紡錘形細胞が増殖しています。

細胞異型性は中等度で核分裂像が散見されます。



病理検査では切断面への腫瘍細胞の露出は見られないとのことですが、今後ももぐちゃんの局所再発のモニターは必要です。



術後2日目にもぐちゃんは退院して頂きました。

もぐちゃん、お疲れ様でした!





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投稿者 院長 | 記事URL

2019年3月28日 木曜日

ハリネズミの組織球性肉腫

こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのは、ヨツユビハリネズミの組織球性肉腫です。

ヨツユビハリネズミには各種の腫瘍が発生しますが、この組織球性肉腫は骨髄起源の樹状細胞由来と考えられている悪性腫瘍です。

特にイヌでは多く報告されている腫瘍です。

当院HPでも犬の脾臓全摘手術(組織球性肉腫)として症例報告しています。

興味のある方は、こちらをクリックして下さい。



ヨツユビハリネズミのまるちゃん(2歳6か月、雌、体重450g)は背中に腫瘤が出来たとのことで来院されました。

当院のヨツユビハリネズミの患者様は600件ほどみえますが、その中でもこのまるちゃんは穏やかな性格で体を丸めることのほとんどない希少なタイプです。



腫瘍の可能性を考慮して細胞診を実施しました。

病理医からは、組織球増加を伴う慢性炎症との診断を受けました。

その後抗生剤の投薬を継続しましたが、結局患部はさらに増大し、3か月近く経過しました。

残念ながら、細胞診の結果と病変部の真実が異なることは、日常的に経験するところです。

このままでは、何の解決にも至りませんので飼い主様の同意を得て、外科的に切除することとなりました。

背部の腫瘤はかなり大きいため、針をカットして出来る限り術野を広く取る必要があります。

そのため、ニッパーを使用して長時間かかりますが針の切断を実施しました。







下写真の黄色丸が腫瘤を示します。

背部の四分の一くらいの面積を占める大きさです。





腫瘤は高さもあり、内部が柔軟な組織で充実しています。





まるちゃんを麻酔導入箱に入ってもらい、イソフルランを流します。



5分ほどで麻酔導入は完了しました。

麻酔導入箱からまるちゃんを出して、維持麻酔に切り替えます。



生体情報モニターのセンサー等を装着します。





この体勢で手術を実施します。





出来る限りの腫瘤周りのマージンを取りたいのですが、身体の小さな動物であるため限界があります。

縫い代を最低限、確保するために腫瘤の外周を皮膚切開して行きます。





電気メス(バイポーラ)を使用して皮膚を慎重に剥離します。



皮膚に付着して腫瘤が摘出されつつあります。





腫瘤への太い栄養血管が認められます(下写真黄色矢印)。



念のため、栄養血管を縫合糸で結紮離断します。



栄養血管の近位端・遠位端を縫合糸で結紮しているところです。





結紮部をメスでカットします。





無事、腫瘤を摘出出来ました。



ところが、またその下の皮下組織に新たな腫瘤が見つかりました。

皮膚の表層部の腫瘤に連結するような形で球状の腫瘤が真下に控えています。



私の指で把持しているところが新たな腫瘤です。



この腫瘤も同じ要領で摘出します。









腫瘤の基底部(背筋に近い部位)に太い血管が認識されたので、バイクランプでシーリングします。



最後はバイポーラでカットして摘出完了です。



摘出後の患部です。

広範囲の皮膚、深部の皮下組織まで摘出領域を取りました。

摘出時の出血は最小限に抑えることが出来ました。

これから皮下組織・皮膚の縫合を始めます。



極力、死腔を作らないように皮下組織に合成吸収糸をかけて縫合します。



皮下組織の縫合が完了したところです。



最後に5‐0ナイロン糸で皮膚縫合します。





これで手術は終了となります。



リンゲル液を用いて皮下輸液をします。



数分後には、まるちゃんは覚醒し始めました。



手術中、心拍数、血中酸素分圧共に安定していました。



麻酔から覚醒したばかりのまるちゃんです。



覚醒後に直ぐにフードを食べ始めています。



摘出した皮膚側の腫瘤です。



腫瘤の裏側です。



腫瘤に割を入れました。



さらにその下に存在していた腫瘤です。



割を入れたところです。



摘出した2個の腫瘤です。

2個並べるとまるちゃんの皮下組織は広い部分が占められていたのが分かります。



摘出した腫瘤を病理検査に出しました。

その結果、2個ともに組織球性肉腫であることが判明しました。

下写真は200倍の腫瘍病理像です。



さらに400倍の病理像です。

シート状に増殖する多形性・異型性を示す類円形・多角形・紡錘形の腫瘍細胞により構成されています。



組織球性肉腫の特徴は極めて悪性度が高く、急速に全身性に播種、転移します。

イヌでは、局所性組織球性肉腫と播種性組織球性肉腫に分かれ(樹状細胞由来)、その一方脾臓に発生することの多い血液細胞を貪食する血球貪食性組織球性肉腫(マクロファージ由来)も存在します。

イヌにおいては、局所性の場合は外科的切除プラス抗がん剤の治療で生存中央期間は128日、播種性は全身性のため抗がん剤の使用で生存中央期間は106日とも報告されています。

イヌにおいても病理学的分類が明瞭に分類されていない現状なのですが、ヨツユビハリネズミにおいてはさらに混迷しています。

今回のまるちゃんの組織球性肉腫がどのタイプなのかも不明なのですが、少なくても今後の転移が予想されます。

まるちゃんは術後の経過は良好で、術後3日で退院して頂きました。



術後2週目で抜糸で来院されたまるちゃんです。

皮膚の癒合は良好です。



患部の拡大写真です。



術部も良好で、元気そうなまるちゃんです。





ところが、術後1か月くらい経過した頃から、まるちゃんは緑便や緑尿が出るようになり、元気消失してきました。

当初懸念していた腫瘍の転移が症状として出て来たと思われます。

レントゲン撮影を実施したところ、肝臓の腫大・肺野の炎症像が確認されました。

内科的療法をその後、約1か月継続して頂きましたが、残念ながら力及ばずにまるちゃんは逝去されました。

とても愛くるしい子で、忘れることは出来ません。

腫瘍との戦いはどの動物でも厳しいものです。

しかし、皆が可能な限り長生きして天寿を全うできるように、努力していきたいと思います。





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投稿者 院長 | 記事URL

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