ハリネズミの疾病
2021年1月11日 月曜日
ハリネズミの膣部肉腫
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、ヨツユビハリネズミの肉腫です。
ヨツユビハリネズミは腫瘍の多い動物種のひとつです。
肉腫とは、体表部に出来る間葉系腫瘍で、悪性の腫瘍です。
外科的に完全摘出できるのが理想ですが、発生した場所によっては困難を極める場合もあります。
今回は、膣に生じた肉腫です。
ヨツユビハリネズミのこむぎちゃん(雌 4歳 体重370g)は1か月前から膣に腫瘤が生じて大きくなってきたため、他院を受診されました。
生じている場所が尿道の開口部に近い膣部にあたりますので、担当の獣医師は開腹して卵巣子宮を摘出することでこの膣部の腫瘤は小さくなり、落ち着くかもしれない(?)とのことで避妊手術を受けられたそうです。
術後も膣部の腫瘤は引っ込むことなく、増大を続けるため当院を受診されました。

こむぎちゃんは、腫瘤からの出血が甚だしく、上写真黄色丸がその腫瘤を示します。
膨隆した腫瘤は床材との干渉で簡単に出血しています(下写真黄色矢印)。

おそらくこの腫瘤は腫瘍であると思われました。
早速、細胞診を実施させて頂きました。
結果は、前述の通り多数の間葉系細胞(紡錘形~楕円形)で著しい細胞大小不同、核大小不同を伴った肉腫であることが判明しました。
低倍率像です。

高倍率像です。

こむぎちゃんの出血が多く、長期にわたっている点から、なるべく早く患部を摘出し、出血をおさえたいと考えました。
しかしながら、膣部の腫瘍はかなり深い部分まで広く浸潤しているようです。
腫瘍を全切除することは不可能と思われました。
外部環境との接触、干渉で簡単に患部は裂けてしまうため、出血を抑えるためにも可能な範囲で切除する方が最良でしょう。
結局、尿道口を含めた排尿機能は温存し、他の膣部に浸潤している腫瘍を極力切除する方法(減量法)を選択させて頂きました。
こむぎちゃんにイソフルランによる麻酔導入を実施します。

麻酔導入が完了しました。
こうしてる間にも患部からの出血は続いてます。

ガスマスクによる維持麻酔を行います。

膣部から突出する感じで腫瘍が認められます。

腫瘍自体は非常に脆弱であり、鉗子で牽引して腫瘍の基底部を切除するのも難しそうです。



生体情報モニターの電極を装着します。


陰部表皮をピンセットでつまみ、電気メス(バイポーラ)でゆっくり、止血切除していきます。

滅菌綿棒で患部を抑え込みながら、少しづつ深部(基底部)まで切除を続けます。


腫瘍には栄養血管が豊富に走っており、少し傷つけるだけで多量に出血が起こります。

太い血管についてはバイクランプでシーリングします。

一部太い血管があり、縫合糸で結紮止血します。


バイクランプの80℃の熱で熱変性させて、腫瘍を剥離・切除します。


切除後の患部です。

出血は治まったようです。

吸収性局所止血剤を患部に塗布します。

合成吸収糸で結合組織に死腔が出来ないよう縫合します。

皮膚を4‐0ナイロン糸で縫合します。

陰部からの排尿がスムーズに出来る様に膣部に余裕を持たせて縫合を終了しました。

黄色丸が膣部を示します。

全身麻酔から覚醒し始めたこむぎちゃんです。

出血が多かったので、麻酔からの覚醒に若干時間が要しました。

今回、摘出した肉腫です。
尿道を傷つけると排尿障害に陥りますし、切除できる領域は制限されました。
肉眼で確認できる範囲での切除手術でした。

ピンセットで把持するだけで簡単に崩れてしまう腫瘍です。

術後、抜糸のために来院されたこむぎちゃんです。

出血も治まり、排尿も問題なく出来る様になりました。

問題は、完全に腫瘍が切除出来ていないため、近い将来に腫瘍再発する可能性が高いという事です。
小さな動物の場合、特に排尿排便に関わる部位の腫瘍発生においては、早期発見・早期摘出が第一です。
こむぎちゃんのケースも避妊手術を実施する時に、一緒にこの肉腫を切除出来てたらと今更に思います。

こむぎちゃん、お疲れ様でした!
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本日ご紹介しますのは、ヨツユビハリネズミの肉腫です。
ヨツユビハリネズミは腫瘍の多い動物種のひとつです。
肉腫とは、体表部に出来る間葉系腫瘍で、悪性の腫瘍です。
外科的に完全摘出できるのが理想ですが、発生した場所によっては困難を極める場合もあります。
今回は、膣に生じた肉腫です。
ヨツユビハリネズミのこむぎちゃん(雌 4歳 体重370g)は1か月前から膣に腫瘤が生じて大きくなってきたため、他院を受診されました。
生じている場所が尿道の開口部に近い膣部にあたりますので、担当の獣医師は開腹して卵巣子宮を摘出することでこの膣部の腫瘤は小さくなり、落ち着くかもしれない(?)とのことで避妊手術を受けられたそうです。
術後も膣部の腫瘤は引っ込むことなく、増大を続けるため当院を受診されました。

こむぎちゃんは、腫瘤からの出血が甚だしく、上写真黄色丸がその腫瘤を示します。
膨隆した腫瘤は床材との干渉で簡単に出血しています(下写真黄色矢印)。

おそらくこの腫瘤は腫瘍であると思われました。
早速、細胞診を実施させて頂きました。
結果は、前述の通り多数の間葉系細胞(紡錘形~楕円形)で著しい細胞大小不同、核大小不同を伴った肉腫であることが判明しました。
低倍率像です。

高倍率像です。

こむぎちゃんの出血が多く、長期にわたっている点から、なるべく早く患部を摘出し、出血をおさえたいと考えました。
しかしながら、膣部の腫瘍はかなり深い部分まで広く浸潤しているようです。
腫瘍を全切除することは不可能と思われました。
外部環境との接触、干渉で簡単に患部は裂けてしまうため、出血を抑えるためにも可能な範囲で切除する方が最良でしょう。
結局、尿道口を含めた排尿機能は温存し、他の膣部に浸潤している腫瘍を極力切除する方法(減量法)を選択させて頂きました。
こむぎちゃんにイソフルランによる麻酔導入を実施します。

麻酔導入が完了しました。
こうしてる間にも患部からの出血は続いてます。

ガスマスクによる維持麻酔を行います。

膣部から突出する感じで腫瘍が認められます。

腫瘍自体は非常に脆弱であり、鉗子で牽引して腫瘍の基底部を切除するのも難しそうです。



生体情報モニターの電極を装着します。


陰部表皮をピンセットでつまみ、電気メス(バイポーラ)でゆっくり、止血切除していきます。

滅菌綿棒で患部を抑え込みながら、少しづつ深部(基底部)まで切除を続けます。


腫瘍には栄養血管が豊富に走っており、少し傷つけるだけで多量に出血が起こります。

太い血管についてはバイクランプでシーリングします。

一部太い血管があり、縫合糸で結紮止血します。


バイクランプの80℃の熱で熱変性させて、腫瘍を剥離・切除します。


切除後の患部です。

出血は治まったようです。

吸収性局所止血剤を患部に塗布します。

合成吸収糸で結合組織に死腔が出来ないよう縫合します。

皮膚を4‐0ナイロン糸で縫合します。

陰部からの排尿がスムーズに出来る様に膣部に余裕を持たせて縫合を終了しました。

黄色丸が膣部を示します。

全身麻酔から覚醒し始めたこむぎちゃんです。

出血が多かったので、麻酔からの覚醒に若干時間が要しました。

今回、摘出した肉腫です。
尿道を傷つけると排尿障害に陥りますし、切除できる領域は制限されました。
肉眼で確認できる範囲での切除手術でした。

ピンセットで把持するだけで簡単に崩れてしまう腫瘍です。

術後、抜糸のために来院されたこむぎちゃんです。

出血も治まり、排尿も問題なく出来る様になりました。

問題は、完全に腫瘍が切除出来ていないため、近い将来に腫瘍再発する可能性が高いという事です。
小さな動物の場合、特に排尿排便に関わる部位の腫瘍発生においては、早期発見・早期摘出が第一です。
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2020年11月24日 火曜日
ハリネズミの顆粒膜細胞腫(その2)
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、ハリネズミの卵巣腫瘍(顆粒膜細胞腫)です。
ヨツユビハリネズミの顆粒膜細胞腫については、まだその生物学的挙動や術後の予後については分かってません。
以前にこの顆粒膜細胞腫についてコメントを載せていますので、興味のある方はこちらをクリックして下さい。
ヨツユビハリネズミの佐之助ちゃん(雌、2歳9か月齢、体重508g)は血尿(陰部からの新鮮血)が続くとのことで来院されました。
下写真は血尿が出ている所です。


佐之助ちゃんは血尿が出てから元気・食欲が半減してます。

血尿が出た場合は、レントゲン・エコーで子宮疾患や腹腔内腫瘍の確認をとることも多いです。
しかし、ハリネズミは身体を丸める動物のため、これら精密検査のため鎮静・麻酔をかける必要が出て来ます。
また体重も数百グラムという小さな個体もいるため精密検査を実施しても、体内の詳細な情報を十分に得ることが出来ない場合もあります。
結局、本人の全身状態に合わせて手術に耐えられるなら早めに試験的開腹を実施し、肉眼で卵巣子宮疾患を疑ったら外科的に摘出します。
今回の佐之助ちゃんはその流れで、試験的開腹をすることとなりました。
イソフルランで麻酔導入を施します。

麻酔導入が完了したら、麻酔導入箱から出て頂き、マスクを装着し維持麻酔に切り替えます。

患部の皮膚を剃毛します。

度々の血尿で外陰部周辺も血液が付着しています。

早速、正中部にメスで切開を入れます。


腹腔内には腹水が貯留していました(下写真青矢印)。

右側子宮角を露出します。

子宮角を牽引したところで黄色矢印が示す黒色を呈する卵巣が確認されました。

卵巣を丁寧に全体を露出させると腫大した淡黄色の卵巣が現れました。


左卵巣動静脈をバイククランプでシーリングしようとしたところ、卵巣の血管が破綻し、急いで止血とシーリングを処置しているところです。
卵巣子宮疾患の場合、炎症や腫瘍で組織自体が脆弱になっていますので、取り扱いに注意が必要です。

シーリングが完了して出血も止まりました。

次に右卵巣動静脈をシーリングします。

シーリングした部位にメスで切開を入れます。

子宮頚部を合成吸収糸で結紮します。



子宮頚部を2か所結紮した後にメスで離断します。


子宮頚部の断端を縫合・閉鎖します。

これで卵巣子宮摘出は終了です。

腹水は貯留してましたが、肉眼で見る限りは腹腔内への腫瘍転移と思しき所見はありません。

腹筋・皮膚を縫合して閉腹終了です。

麻酔を切り、佐之助ちゃんの覚醒を待ちます。

半覚醒の状態で皮下輸液を施しています。

麻酔から覚醒した佐之助ちゃんです。


摘出した卵巣・子宮です。
青矢印は左卵巣で正常です。
黄色矢印は右卵巣を示し、卵巣は腫大しうっ血色・淡黄色などを呈しています。




右子宮角(下写真黄色丸)は軽度の腫大が認められます。

下写真は右卵巣の中拡大像です。
軽度に異型性を示す多角形・短紡錘形腫瘍細胞の充実性胞巣状・多嚢胞状の増殖巣が形成され、既存の卵巣組織の大半が置換されています。
右卵巣は顆粒膜細胞腫との診断でした。

右卵巣の高拡大像です。
腫瘍細胞は好酸性微細顆粒状か空胞状の細胞質、軽度の類円形から楕円形の正染性核、小型の核小体を有しています。
病理医からは腫瘍細胞の脈管浸潤像や漿膜外への播種は認められないとのことでした。

下写真は子宮の低倍率像です。
子宮角部においてポリープ状の腫瘤が認められ、子宮内膜間質結節との診断です。
現在のところ、この子宮内膜間質結節は非腫瘍性疾患として考えられています。

顆粒膜細胞腫は卵巣の性索間質細胞由来の腫瘍疾患です。
この腫瘍は性ホルモンを産生するため、結果として子宮内膜過形成や血小板減少症を併発します。
術後の定期的な経過観察が必要です。
ヨツユビハリネズミの臨床は、その大半が腫瘍との戦いであると思っています。
佐之助ちゃん、お疲れ様でした。

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本日ご紹介しますのは、ハリネズミの卵巣腫瘍(顆粒膜細胞腫)です。
ヨツユビハリネズミの顆粒膜細胞腫については、まだその生物学的挙動や術後の予後については分かってません。
以前にこの顆粒膜細胞腫についてコメントを載せていますので、興味のある方はこちらをクリックして下さい。
ヨツユビハリネズミの佐之助ちゃん(雌、2歳9か月齢、体重508g)は血尿(陰部からの新鮮血)が続くとのことで来院されました。
下写真は血尿が出ている所です。


佐之助ちゃんは血尿が出てから元気・食欲が半減してます。

血尿が出た場合は、レントゲン・エコーで子宮疾患や腹腔内腫瘍の確認をとることも多いです。
しかし、ハリネズミは身体を丸める動物のため、これら精密検査のため鎮静・麻酔をかける必要が出て来ます。
また体重も数百グラムという小さな個体もいるため精密検査を実施しても、体内の詳細な情報を十分に得ることが出来ない場合もあります。
結局、本人の全身状態に合わせて手術に耐えられるなら早めに試験的開腹を実施し、肉眼で卵巣子宮疾患を疑ったら外科的に摘出します。
今回の佐之助ちゃんはその流れで、試験的開腹をすることとなりました。
イソフルランで麻酔導入を施します。

麻酔導入が完了したら、麻酔導入箱から出て頂き、マスクを装着し維持麻酔に切り替えます。

患部の皮膚を剃毛します。

度々の血尿で外陰部周辺も血液が付着しています。

早速、正中部にメスで切開を入れます。


腹腔内には腹水が貯留していました(下写真青矢印)。

右側子宮角を露出します。

子宮角を牽引したところで黄色矢印が示す黒色を呈する卵巣が確認されました。

卵巣を丁寧に全体を露出させると腫大した淡黄色の卵巣が現れました。


左卵巣動静脈をバイククランプでシーリングしようとしたところ、卵巣の血管が破綻し、急いで止血とシーリングを処置しているところです。
卵巣子宮疾患の場合、炎症や腫瘍で組織自体が脆弱になっていますので、取り扱いに注意が必要です。

シーリングが完了して出血も止まりました。

次に右卵巣動静脈をシーリングします。

シーリングした部位にメスで切開を入れます。

子宮頚部を合成吸収糸で結紮します。



子宮頚部を2か所結紮した後にメスで離断します。


子宮頚部の断端を縫合・閉鎖します。

これで卵巣子宮摘出は終了です。

腹水は貯留してましたが、肉眼で見る限りは腹腔内への腫瘍転移と思しき所見はありません。

腹筋・皮膚を縫合して閉腹終了です。

麻酔を切り、佐之助ちゃんの覚醒を待ちます。

半覚醒の状態で皮下輸液を施しています。

麻酔から覚醒した佐之助ちゃんです。


摘出した卵巣・子宮です。
青矢印は左卵巣で正常です。
黄色矢印は右卵巣を示し、卵巣は腫大しうっ血色・淡黄色などを呈しています。




右子宮角(下写真黄色丸)は軽度の腫大が認められます。

下写真は右卵巣の中拡大像です。
軽度に異型性を示す多角形・短紡錘形腫瘍細胞の充実性胞巣状・多嚢胞状の増殖巣が形成され、既存の卵巣組織の大半が置換されています。
右卵巣は顆粒膜細胞腫との診断でした。

右卵巣の高拡大像です。
腫瘍細胞は好酸性微細顆粒状か空胞状の細胞質、軽度の類円形から楕円形の正染性核、小型の核小体を有しています。
病理医からは腫瘍細胞の脈管浸潤像や漿膜外への播種は認められないとのことでした。

下写真は子宮の低倍率像です。
子宮角部においてポリープ状の腫瘤が認められ、子宮内膜間質結節との診断です。
現在のところ、この子宮内膜間質結節は非腫瘍性疾患として考えられています。

顆粒膜細胞腫は卵巣の性索間質細胞由来の腫瘍疾患です。
この腫瘍は性ホルモンを産生するため、結果として子宮内膜過形成や血小板減少症を併発します。
術後の定期的な経過観察が必要です。
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佐之助ちゃん、お疲れ様でした。

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2020年10月20日 火曜日
ヨツユビハリネズミの線維肉腫
こんにちは 院長の伊藤です。
今回ご紹介しますのは、ヨツユビハリネズミの腫線維肉という腫瘍摘出症例です。
ヨツユビハリネズミのエンジン君(雄、2歳、体重412g)は包皮周辺が腫大し、他院にて治療を受けていました。
残念ながら改善することなく、当院を受診されました。
下写真黄色矢印にありますように、包皮の内部が腫大しています。

体を丸めると患部が口元に近づき、エンジン君も患部を自傷して出血(血尿?)もあるとのことです。
排尿もしずらそうです。

この腫瘤が腫瘍か否か、判定するために細胞診を実施しました。
下写真は針生検しているところです。

細胞診の結果は、上皮系の腫瘍(高分化型)であることが判明しました。
このまま、さらに患部が腫大してくると排尿障害も出てくるでしょうし、生活の質は落ちることが予想されます。
飼い主様の了解を頂き、腫瘍摘出することとなりました。
エンジン君にイソフルランで麻酔導入を行います。

維持麻酔に切り替えたエンジン君です。
全身麻酔が効いて来たところです。

下腹部の中央部の包皮が大きく腫大しているのがお分かり頂けると思います。

黄色矢印はペニスを示します。
本来ならば、ペニスは包皮の中に入っています。

包皮内の腫瘍がペニスを圧迫しているため、黄色矢印部のペニスは包皮内に完納することが出来ません。
赤矢印が腫瘍で内部が充実している包皮です。

状況によっては、包皮だけでなくペニスにも腫瘍が浸潤している可能性もあります。
排尿に関わる器官が腫瘍となると包皮・ペニス全摘出は不可能です。
そのため、術後に腫瘍細胞が一部残っていれば再発する可能性があり、生活の質を改善する目的の手術となることを飼主様にご了解いただきました。
術式としては、包皮に切開を入れて内部の腫瘍を摘出します。



尿道を保護するために、留置針の外套針を尿道カテーテルの代わりに挿入します。



モノポーラで包皮に切開を入れます。

慎重に包皮を剥離し、内部の腫瘍を傷つけないようにします。

綿棒で包皮と腫瘍の接着を鈍性に剥離します。

内部の腫瘍は血管に富んでおり、少し綿棒が接触しただけで出血します。


下写真の赤矢印が腫瘍本体、黄色矢印がペニスです。

電気メス(バイポーラ)で腫瘍の表面の出血を止血します。

太い血管については、バイクランプでシーリング処置を施します。


ペニスに腫瘍が一部癒着してるのが認められました。

腫瘍を摘出しました。

包皮の内部からの出血がじわじわとあるため、しっかりと止血します。

腫瘍摘出後の患部です。

包皮を縫合します。



ほぼ元の状態に縫合出来ました。

下写真の黄色丸が摘出した腫瘍で、縫合した包皮の傍らに置いてサイズを比較しました。

摘出した腫瘍(下写真)は病理検査に出しました。

全身麻酔から覚醒したエンジン君です。


病理検査の結果は線維肉腫という線維芽細胞由来の悪性腫瘍でした。
下写真は低倍率像です。
腫瘤内は出血や壊死が認められます。

中等度の病理像です。
線維性被膜形成は認められず、腫瘍は周囲の結合組織に軽度に浸潤しています。

高倍率像です。
腫瘍細胞は高倍率10視野あたり24個の核分裂像が確認され、腫瘍細胞の脈管浸潤像は認められませんでした。

ヨツユビハリネズミの軟部組織に発生する肉腫における予後や生物学的挙動については、まだ分かっていないことが多いです。
一般的には、軟部組織に発生する肉腫は局所再発性が高く、リンパ節や遠隔臓器への転移は低いと考えられています。
退院時のエンジン君です。
まだペニスは腫脹しており、包皮内に戻っていません。

術後、3週間後に抜糸を行っている写真です。

下写真の通り、ペニスは包皮内に完納しており、排尿もスムーズに出来ているそうです。



今回、ペニスを保護するために包皮を温存しましたので、再発を考慮しての十分な経過観察が必要です。
エンジン君、お疲れ様でした!

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今回ご紹介しますのは、ヨツユビハリネズミの腫線維肉という腫瘍摘出症例です。
ヨツユビハリネズミのエンジン君(雄、2歳、体重412g)は包皮周辺が腫大し、他院にて治療を受けていました。
残念ながら改善することなく、当院を受診されました。
下写真黄色矢印にありますように、包皮の内部が腫大しています。

体を丸めると患部が口元に近づき、エンジン君も患部を自傷して出血(血尿?)もあるとのことです。
排尿もしずらそうです。

この腫瘤が腫瘍か否か、判定するために細胞診を実施しました。
下写真は針生検しているところです。

細胞診の結果は、上皮系の腫瘍(高分化型)であることが判明しました。
このまま、さらに患部が腫大してくると排尿障害も出てくるでしょうし、生活の質は落ちることが予想されます。
飼い主様の了解を頂き、腫瘍摘出することとなりました。
エンジン君にイソフルランで麻酔導入を行います。

維持麻酔に切り替えたエンジン君です。
全身麻酔が効いて来たところです。

下腹部の中央部の包皮が大きく腫大しているのがお分かり頂けると思います。

黄色矢印はペニスを示します。
本来ならば、ペニスは包皮の中に入っています。

包皮内の腫瘍がペニスを圧迫しているため、黄色矢印部のペニスは包皮内に完納することが出来ません。
赤矢印が腫瘍で内部が充実している包皮です。

状況によっては、包皮だけでなくペニスにも腫瘍が浸潤している可能性もあります。
排尿に関わる器官が腫瘍となると包皮・ペニス全摘出は不可能です。
そのため、術後に腫瘍細胞が一部残っていれば再発する可能性があり、生活の質を改善する目的の手術となることを飼主様にご了解いただきました。
術式としては、包皮に切開を入れて内部の腫瘍を摘出します。



尿道を保護するために、留置針の外套針を尿道カテーテルの代わりに挿入します。



モノポーラで包皮に切開を入れます。

慎重に包皮を剥離し、内部の腫瘍を傷つけないようにします。

綿棒で包皮と腫瘍の接着を鈍性に剥離します。

内部の腫瘍は血管に富んでおり、少し綿棒が接触しただけで出血します。


下写真の赤矢印が腫瘍本体、黄色矢印がペニスです。

電気メス(バイポーラ)で腫瘍の表面の出血を止血します。

太い血管については、バイクランプでシーリング処置を施します。


ペニスに腫瘍が一部癒着してるのが認められました。

腫瘍を摘出しました。

包皮の内部からの出血がじわじわとあるため、しっかりと止血します。

腫瘍摘出後の患部です。

包皮を縫合します。



ほぼ元の状態に縫合出来ました。

下写真の黄色丸が摘出した腫瘍で、縫合した包皮の傍らに置いてサイズを比較しました。

摘出した腫瘍(下写真)は病理検査に出しました。

全身麻酔から覚醒したエンジン君です。


病理検査の結果は線維肉腫という線維芽細胞由来の悪性腫瘍でした。
下写真は低倍率像です。
腫瘤内は出血や壊死が認められます。

中等度の病理像です。
線維性被膜形成は認められず、腫瘍は周囲の結合組織に軽度に浸潤しています。

高倍率像です。
腫瘍細胞は高倍率10視野あたり24個の核分裂像が確認され、腫瘍細胞の脈管浸潤像は認められませんでした。

ヨツユビハリネズミの軟部組織に発生する肉腫における予後や生物学的挙動については、まだ分かっていないことが多いです。
一般的には、軟部組織に発生する肉腫は局所再発性が高く、リンパ節や遠隔臓器への転移は低いと考えられています。
退院時のエンジン君です。
まだペニスは腫脹しており、包皮内に戻っていません。

術後、3週間後に抜糸を行っている写真です。

下写真の通り、ペニスは包皮内に完納しており、排尿もスムーズに出来ているそうです。



今回、ペニスを保護するために包皮を温存しましたので、再発を考慮しての十分な経過観察が必要です。
エンジン君、お疲れ様でした!

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2020年3月17日 火曜日
ハリネズミの卵巣腫瘍(顆粒膜細胞腫)
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、ハリネズミの卵巣腫瘍です。
これまでにもハリネズミの産科系疾患を多く報告させて頂きました。
私自身の経験では、圧倒的に子宮角や子宮頚部の腫瘍が多いのですが、卵巣にも腫瘍が発生するケースもあります。
今回は卵巣腫瘍の中でも顆粒膜細胞腫というタイプの腫瘍です。
ヨツユビハリネズミのみいこちゃん(4歳10か月齢、雌、体重640g)は血尿が認められたのが1年半ほど前でした。
血尿は集中的に認められることなく、不定期に出ていたようです。
そのため、飼主様も卵巣子宮疾患としても積極的な摘出手術は考えていませんでした。
しかしながら、令和2年を迎えて血尿が集中して出始めたため、いよいよ手術となりました。
みいこちゃんはデリケートな性格で、すぐ丸くなり、なかなか顔を見せてくれません。

手術前にレントゲン撮影を実施しました。
ハリネズミの場合は、体を丸くするため臓器が重なり合い正確な評価が難しいです。
みいこちゃんの場合は、下写真黄色丸の部位にガスと液体が貯留していると推察されました。
腸管を圧迫しているようにみえるため、この時点ではおそらく子宮が腫大しているかもと考えました。


みいこちゃんを麻酔導入箱に入れてイソフルランを流します。

5分経過で仰向けになり、麻酔導入が遂行しました。

早速、みいこちゃんを導入箱から出して、維持麻酔に変えます。
黄色矢印は腹部が腫れているのを表します。
触診しますと下腹部に波動感が認められ、腹水が貯留しているようです。


生体情報モニターを装着して、これから開腹に移ります。

臍の位置より少し下方に切開を加えます。

腹膜を切開した時点で腹水が溢れ出してきました。


腹水の内容を調べるため注射筒で吸引します。

血尿による出血で腸管は貧血色を呈しています。

注意深く腹腔内を探ると液体を貯留した卵巣が認められました。

ブドウの房状の卵巣が飛び出してきました。
かなり大きく卵巣が腫大してます。

下写真の黄色矢印が子宮です。
赤矢印は膀胱を示します。
白矢印は卵巣です。
卵巣は各種色調を呈していますが、卵巣嚢胞という病態です。


中央部の卵巣嚢胞の外側面は、腫瘍の播種を疑う小結節が付着してます。

子宮頚部を結紮します。


子宮頚部を2か所にわたって結紮します。


見ずらいですが、子宮頚部を硬性メスで離断します。

離断した子宮頚部の断端です。

断端部を縫合します。

出血も最低限に抑えることが出来、卵巣子宮の摘出は終了です。

腹膜・腹筋を縫合します。


最後に皮膚縫合です。
4‐0ナイロン縫合糸で縫合します。

これで卵巣子宮の全摘出は完了です。

最後に頚部から胸部にかけての腫瘤が気になりました。
下写真の黄色丸がその腫瘤です。

皮膚の腫瘍の可能性もあり、念のため摘出します。
常日頃、ハリネズミは全身を触診することが出来ないため、手術本番になって触診して初めて、病変に気付くことがあります。

滅菌綿棒を使用して腫瘤と周囲組織を剥がしていきます。

患部の皮膚を縫合しました。
テンションがかかる胸部のため、3‐0のナイロン縫合糸を使用しました。

手術が終了し、皮下輸液を行います。

麻酔の覚醒は比較的早く、イソフルランを止めて約5分ほどで動き出しました。

みいこちゃんの意識はまだ朦朧としていますが、問題なく覚醒出来そうです。

術後30分のみいこちゃんです。
痛々しい感はありますが、インキュベーター内を徘徊してます。

さて、今回摘出した卵巣・子宮です。
黄色矢印は子宮です。
緑丸で囲んだのが右卵巣です。

右卵巣の卵巣嚢胞を呈している中央部の嚢胞は、表面に顆粒状の小結節を形成してます。
各卵巣内腔には漿液や血液が貯留して、独特の色彩を放っています。


下写真黄色矢印の子宮の内、青丸で囲んだのは左卵巣です。
左卵巣は正常な卵巣ですが、反対側の右卵巣は、その10倍以上の大きさに膨らんでいます。


下写真は腫大した頚から胸部にかけての腫瘤です。
腫大した浅胸リンパ節であることが判明しました。
リンパ腫ではありませんでした。

下写真は、子宮の病理像です。
中拡大像ですが、多発性の子宮内膜ポリープであることが判明しました。

下写真は子宮内膜です。
子宮内膜は過形成に肥厚しています。
子宮には、腫瘍性増殖を示す細胞や炎症反応は認められませんでした。

下写真は、卵巣嚢胞です。
卵巣実質において、内腔に淡好酸性漿液を容れる多嚢胞状病変が形成されています。

卵巣の中拡大像です。
軽度の異型性を示す多角形・紡錘形腫瘍細胞の小柱状・多嚢胞状の増殖巣が認められます。

下写真は高倍率像です。
腫瘍細胞は基底膜に対して柵状に配列し、空胞上の細胞質、大小不同を示する類円形の正染性核、小型の核小体を有してます。

結論として、みいこちゃんは片側性の顆粒膜細胞腫との病理医から診断を受けました。
ヒトでは比較的珍しい悪性の卵巣腫瘍です。
この腫瘍はハリネズミに限らず性ホルモンを産生し、子宮内膜過形成や白血球・血小板減少症を併発するとされています。
ハリネズミのおける卵巣顆粒膜細胞腫の詳細なる生物学的挙動や予後に関する知見は、現段階では不明です。
次いで、下写真はみいこちゃんの腹水の塗沫標本です。
腫瘍細胞が細胞集塊が認められます。

以上の病理所見からも、卵巣顆粒膜細胞腫が腹膜に転移し、今後悪性の挙動を示すことが予想されます。
みいこちゃんは定期的な健診が必要です。
術後2週間のみいこちゃんです。
抜糸のための来院です。

傷口は綺麗に治ってるため、抜糸してます。

みいこちゃんの経過は良好ですが、人見知りで顔の写真を撮るのが難しいです。

みいこちゃん、大変な手術でしたが、お疲れ様でした。

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本日ご紹介しますのは、ハリネズミの卵巣腫瘍です。
これまでにもハリネズミの産科系疾患を多く報告させて頂きました。
私自身の経験では、圧倒的に子宮角や子宮頚部の腫瘍が多いのですが、卵巣にも腫瘍が発生するケースもあります。
今回は卵巣腫瘍の中でも顆粒膜細胞腫というタイプの腫瘍です。
ヨツユビハリネズミのみいこちゃん(4歳10か月齢、雌、体重640g)は血尿が認められたのが1年半ほど前でした。
血尿は集中的に認められることなく、不定期に出ていたようです。
そのため、飼主様も卵巣子宮疾患としても積極的な摘出手術は考えていませんでした。
しかしながら、令和2年を迎えて血尿が集中して出始めたため、いよいよ手術となりました。
みいこちゃんはデリケートな性格で、すぐ丸くなり、なかなか顔を見せてくれません。

手術前にレントゲン撮影を実施しました。
ハリネズミの場合は、体を丸くするため臓器が重なり合い正確な評価が難しいです。
みいこちゃんの場合は、下写真黄色丸の部位にガスと液体が貯留していると推察されました。
腸管を圧迫しているようにみえるため、この時点ではおそらく子宮が腫大しているかもと考えました。


みいこちゃんを麻酔導入箱に入れてイソフルランを流します。

5分経過で仰向けになり、麻酔導入が遂行しました。

早速、みいこちゃんを導入箱から出して、維持麻酔に変えます。
黄色矢印は腹部が腫れているのを表します。
触診しますと下腹部に波動感が認められ、腹水が貯留しているようです。


生体情報モニターを装着して、これから開腹に移ります。

臍の位置より少し下方に切開を加えます。

腹膜を切開した時点で腹水が溢れ出してきました。


腹水の内容を調べるため注射筒で吸引します。

血尿による出血で腸管は貧血色を呈しています。

注意深く腹腔内を探ると液体を貯留した卵巣が認められました。

ブドウの房状の卵巣が飛び出してきました。
かなり大きく卵巣が腫大してます。

下写真の黄色矢印が子宮です。
赤矢印は膀胱を示します。
白矢印は卵巣です。
卵巣は各種色調を呈していますが、卵巣嚢胞という病態です。


中央部の卵巣嚢胞の外側面は、腫瘍の播種を疑う小結節が付着してます。

子宮頚部を結紮します。


子宮頚部を2か所にわたって結紮します。


見ずらいですが、子宮頚部を硬性メスで離断します。

離断した子宮頚部の断端です。

断端部を縫合します。

出血も最低限に抑えることが出来、卵巣子宮の摘出は終了です。

腹膜・腹筋を縫合します。


最後に皮膚縫合です。
4‐0ナイロン縫合糸で縫合します。

これで卵巣子宮の全摘出は完了です。

最後に頚部から胸部にかけての腫瘤が気になりました。
下写真の黄色丸がその腫瘤です。

皮膚の腫瘍の可能性もあり、念のため摘出します。
常日頃、ハリネズミは全身を触診することが出来ないため、手術本番になって触診して初めて、病変に気付くことがあります。

滅菌綿棒を使用して腫瘤と周囲組織を剥がしていきます。

患部の皮膚を縫合しました。
テンションがかかる胸部のため、3‐0のナイロン縫合糸を使用しました。

手術が終了し、皮下輸液を行います。

麻酔の覚醒は比較的早く、イソフルランを止めて約5分ほどで動き出しました。

みいこちゃんの意識はまだ朦朧としていますが、問題なく覚醒出来そうです。

術後30分のみいこちゃんです。
痛々しい感はありますが、インキュベーター内を徘徊してます。

さて、今回摘出した卵巣・子宮です。
黄色矢印は子宮です。
緑丸で囲んだのが右卵巣です。

右卵巣の卵巣嚢胞を呈している中央部の嚢胞は、表面に顆粒状の小結節を形成してます。
各卵巣内腔には漿液や血液が貯留して、独特の色彩を放っています。


下写真黄色矢印の子宮の内、青丸で囲んだのは左卵巣です。
左卵巣は正常な卵巣ですが、反対側の右卵巣は、その10倍以上の大きさに膨らんでいます。


下写真は腫大した頚から胸部にかけての腫瘤です。
腫大した浅胸リンパ節であることが判明しました。
リンパ腫ではありませんでした。

下写真は、子宮の病理像です。
中拡大像ですが、多発性の子宮内膜ポリープであることが判明しました。

下写真は子宮内膜です。
子宮内膜は過形成に肥厚しています。
子宮には、腫瘍性増殖を示す細胞や炎症反応は認められませんでした。

下写真は、卵巣嚢胞です。
卵巣実質において、内腔に淡好酸性漿液を容れる多嚢胞状病変が形成されています。

卵巣の中拡大像です。
軽度の異型性を示す多角形・紡錘形腫瘍細胞の小柱状・多嚢胞状の増殖巣が認められます。

下写真は高倍率像です。
腫瘍細胞は基底膜に対して柵状に配列し、空胞上の細胞質、大小不同を示する類円形の正染性核、小型の核小体を有してます。

結論として、みいこちゃんは片側性の顆粒膜細胞腫との病理医から診断を受けました。
ヒトでは比較的珍しい悪性の卵巣腫瘍です。
この腫瘍はハリネズミに限らず性ホルモンを産生し、子宮内膜過形成や白血球・血小板減少症を併発するとされています。
ハリネズミのおける卵巣顆粒膜細胞腫の詳細なる生物学的挙動や予後に関する知見は、現段階では不明です。
次いで、下写真はみいこちゃんの腹水の塗沫標本です。
腫瘍細胞が細胞集塊が認められます。

以上の病理所見からも、卵巣顆粒膜細胞腫が腹膜に転移し、今後悪性の挙動を示すことが予想されます。
みいこちゃんは定期的な健診が必要です。
術後2週間のみいこちゃんです。
抜糸のための来院です。

傷口は綺麗に治ってるため、抜糸してます。

みいこちゃんの経過は良好ですが、人見知りで顔の写真を撮るのが難しいです。

みいこちゃん、大変な手術でしたが、お疲れ様でした。

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投稿者 院長 | 記事URL
2020年1月16日 木曜日
ハリネズミの乳腺腫瘍(悪性筋上皮腫)
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、ヨツユビハリネズミの乳腺腫瘍例です。
以前にもハリネズミの乳腺腫瘍について記事を載せていますので、興味のある方はこちらをクリックして下さい。
ヨツユビハリネズミのみるくちゃん(雌、3歳2か月齢)は左の胸部が腫れているとのことで来院されました。
ハリネズミの場合、体表部(胸部から下腹にかけて)の腫脹があれば、身体を丸くした時に若干、丸くなりきれずに隙間が空きます。
身体を丸くしても、空いている隙間を下写真の黄色丸は、示しています。

触診して確認すると、左第一乳房周辺に硬い腫瘤が確認されました。
細胞診で乳腺腫瘍の疑いがあり、外科的に摘出することとなりました。
みるくちゃんにイソフルランによる麻酔導入を実施します。

麻酔が効いてくると次第に体を開けるようになります。

麻酔導入が完了して、身体は完全に伸展しています。

麻酔導入箱から出て頂き、維持麻酔に切り替えます。

側面から見た画像です。
患部が腫脹しているのがお分かり頂けると思います。

下写真黄色丸が乳腺腫瘍を示します。
広いエリアに腫瘍が発生してるのが分かります。
患部を剃毛、消毒します。


患部の血行障害もあり、若干内出血が確認されます。

麻酔状態も安定しましたので、早速摘出手術を実施します。

皮膚も乳腺と同時にザックリ切除するのが理想です。
しかし、皮膚切除が広範囲に及ぶとテンションをかけての縫合となります。
ハリネズミは、本能的に丸くなり、患部を絶えず伸展・伸縮を繰り返す動物です。
その結果、縫合部は簡単に吻開してしまいます。
そのため、皮膚は出来る限り残す方向で切開をします。

皮膚切開を行い、バイポーラ(電気メス)で皮下組織を止血・切開しているところです。

次いで、乳腺を含めた腫瘍にアプローチします。
バイポーラで腫瘍本体を隣接組織から剥離していきます。

ハリネズミでも乳腺には太い血管が走行していますので、バイクランプでシーリングを行います。

下写真は2つの乳腺組織(白・黄色矢印)が認められます。
それぞれの乳腺は腫大して辺縁が鈍化しています。

黄色矢印の乳腺から摘出をします。

摘出完了です。

次いで、白矢印の乳腺を摘出します。


摘出完了です。

これらの乳腺に接して腫大しているリンパ節を最後に摘出します。

摘出後の患部です。

皮下組織を合成吸収糸を用いて縫合します。
今回の縫合部はテンションがかかる部位なので、皮膚縫合の減張の意味も含めて、しっかりと縫合します。

皮下組織の縫合は終了です。

皮膚縫合を4‐0のナイロン糸で実施します。

皮膚縫合終了の患部です。

患部は細かく縫合しましたが、みるくちゃんが丸くなると口が患部に届く位置にあるのが心配です。

麻酔を切り、覚醒し始めたみるくちゃんです。

ちなみに、みるくちゃんは左眼が白内障になっています。

摘出した腫瘍です。

摘出患部の病理写真です。
中拡大の画像です。
軽度に異型性のある紡錘形の腫瘍細胞がシート状、花むしろ状に増殖しています。

高倍率像です。
腫瘍細胞は中等量の弱好酸性細胞質、中等度の大小不同を示す類円形から細長い正染核、並びに明瞭な核小体を有しています。
病理医の診断では、分裂頻度が低いため、悪性度の比較的低い腫瘍とのことです。
腫瘍性増殖を示さない乳腺分泌上皮細胞を背景にして紡錘形細胞が増殖しているため、乳腺終末腺房を構成する分泌上皮と筋上皮の内、筋上皮が腫瘍化したものと判断されるそうです。
最終的な診断名は悪性筋上皮腫です。
ちなみにヒトにおける乳腺腫瘍でこの筋上皮腫にあたるタイプは非常に稀だそうです。
ヨツユビハリネズミでは案外、多いのかもしれません。

今回の腫瘍細胞の脈管内浸潤は認められず、摘出は完全・予後は良好と病理医から診断されました。
しかし、今後の他の乳房からの新規病変の発生には引き続き、経過観察が必要です。
また現状では、避妊手術と乳腺腫瘍との相関関係は、犬や猫のようにヨツユビハリネズミでは明らかにされていません。
みるくちゃん、お疲れ様でした!


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本日ご紹介しますのは、ヨツユビハリネズミの乳腺腫瘍例です。
以前にもハリネズミの乳腺腫瘍について記事を載せていますので、興味のある方はこちらをクリックして下さい。
ヨツユビハリネズミのみるくちゃん(雌、3歳2か月齢)は左の胸部が腫れているとのことで来院されました。
ハリネズミの場合、体表部(胸部から下腹にかけて)の腫脹があれば、身体を丸くした時に若干、丸くなりきれずに隙間が空きます。
身体を丸くしても、空いている隙間を下写真の黄色丸は、示しています。

触診して確認すると、左第一乳房周辺に硬い腫瘤が確認されました。
細胞診で乳腺腫瘍の疑いがあり、外科的に摘出することとなりました。
みるくちゃんにイソフルランによる麻酔導入を実施します。

麻酔が効いてくると次第に体を開けるようになります。

麻酔導入が完了して、身体は完全に伸展しています。

麻酔導入箱から出て頂き、維持麻酔に切り替えます。

側面から見た画像です。
患部が腫脹しているのがお分かり頂けると思います。

下写真黄色丸が乳腺腫瘍を示します。
広いエリアに腫瘍が発生してるのが分かります。
患部を剃毛、消毒します。


患部の血行障害もあり、若干内出血が確認されます。

麻酔状態も安定しましたので、早速摘出手術を実施します。

皮膚も乳腺と同時にザックリ切除するのが理想です。
しかし、皮膚切除が広範囲に及ぶとテンションをかけての縫合となります。
ハリネズミは、本能的に丸くなり、患部を絶えず伸展・伸縮を繰り返す動物です。
その結果、縫合部は簡単に吻開してしまいます。
そのため、皮膚は出来る限り残す方向で切開をします。

皮膚切開を行い、バイポーラ(電気メス)で皮下組織を止血・切開しているところです。

次いで、乳腺を含めた腫瘍にアプローチします。
バイポーラで腫瘍本体を隣接組織から剥離していきます。

ハリネズミでも乳腺には太い血管が走行していますので、バイクランプでシーリングを行います。

下写真は2つの乳腺組織(白・黄色矢印)が認められます。
それぞれの乳腺は腫大して辺縁が鈍化しています。

黄色矢印の乳腺から摘出をします。

摘出完了です。

次いで、白矢印の乳腺を摘出します。


摘出完了です。

これらの乳腺に接して腫大しているリンパ節を最後に摘出します。

摘出後の患部です。

皮下組織を合成吸収糸を用いて縫合します。
今回の縫合部はテンションがかかる部位なので、皮膚縫合の減張の意味も含めて、しっかりと縫合します。

皮下組織の縫合は終了です。

皮膚縫合を4‐0のナイロン糸で実施します。

皮膚縫合終了の患部です。

患部は細かく縫合しましたが、みるくちゃんが丸くなると口が患部に届く位置にあるのが心配です。

麻酔を切り、覚醒し始めたみるくちゃんです。

ちなみに、みるくちゃんは左眼が白内障になっています。

摘出した腫瘍です。

摘出患部の病理写真です。
中拡大の画像です。
軽度に異型性のある紡錘形の腫瘍細胞がシート状、花むしろ状に増殖しています。

高倍率像です。
腫瘍細胞は中等量の弱好酸性細胞質、中等度の大小不同を示す類円形から細長い正染核、並びに明瞭な核小体を有しています。
病理医の診断では、分裂頻度が低いため、悪性度の比較的低い腫瘍とのことです。
腫瘍性増殖を示さない乳腺分泌上皮細胞を背景にして紡錘形細胞が増殖しているため、乳腺終末腺房を構成する分泌上皮と筋上皮の内、筋上皮が腫瘍化したものと判断されるそうです。
最終的な診断名は悪性筋上皮腫です。
ちなみにヒトにおける乳腺腫瘍でこの筋上皮腫にあたるタイプは非常に稀だそうです。
ヨツユビハリネズミでは案外、多いのかもしれません。

今回の腫瘍細胞の脈管内浸潤は認められず、摘出は完全・予後は良好と病理医から診断されました。
しかし、今後の他の乳房からの新規病変の発生には引き続き、経過観察が必要です。
また現状では、避妊手術と乳腺腫瘍との相関関係は、犬や猫のようにヨツユビハリネズミでは明らかにされていません。
みるくちゃん、お疲れ様でした!


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