犬の疾病
犬のマムシ咬傷
蛇は最近、都心部ではあまり見かけなくなりました。
それでも郊外ではまだまだ出没しますし、蛇の咬傷事例は毎年この時期に経験します。
特に当院の周辺では田畑が多く、あぜ道を夜間の散歩をして蛇に咬まれるケースが定番です。
蛇の中で毒蛇と称されるマムシ・ヤマカガシ等は咬んだ対象に多大なダメージを与えます。
今回、ご紹介するのは、このマムシ咬傷で大変な目に遭ったダックスのライチ君です。
ライチ君の症例は、実は2年前の事例です。
典型的なマムシ咬傷なので、もし蛇に咬まれたペット達のためにも参考になればという思いでブログに載せます。
ライチ君は、田んぼのあぜ道を散歩中にマムシに下顎周辺を咬まれました。
犬の場合、どうしても動くものを見つけると追いかけたり、匂いを嗅ごうとして近づいたりする習性があります。
この行動が蛇を追い込んで怒らせることになります。
下の写真はマムシに咬まれて2日目のライチ君です。
口の周辺と頸の周囲が腫れています。
黄色の円で囲んだ部分が腫脹しているのがお分かり頂けると思います。
毒蛇に咬まれますと咬み傷に2つの特徴的な出血跡が認められます。
続いて咬まれた患部が腫れ始めます。
この段階で気づかれたら、速やかに病院にお連れ下さい。
マムシ毒は溶血毒とも言います。
この毒素はタンパク質を分解する作用、出血作用、浮腫作用を持っています。
傷口に注入された毒液の酵素タンパク質を無毒化させるために、過マンガン酸カリウムで傷口を洗浄します。
加えて点滴による輸液療法の開始です。
次いで、ショック症状の緩和のためステロイドと抗生剤、抽出アルカロイドを投薬しました。
下の写真は咬まれて3日目のライチ君です。
ご覧のとおり口周辺の腫脹が著しく、この時点で赤血球数は正常値の4分の1に減少しています。
この時のライチ君の血漿が下の写真です。
マムシ毒は溶血作用が強いため、血漿の部分(上清)が赤ワイン色になっています。
このままでは危険な状態になりますので、早速輸血の準備に移りました。
当院の看板娘(供血犬)、ベティに登場してもらって必要とする血液を彼女から採血しているところです。
ベティの血液は、DEA1・1(ー)というどの犬にも供血できる血液型です。
ヒトのように血液バンクは動物にはありませんので、このように供血犬から必要に応じて採血して輸血するというスタイルを取ります。
多くの動物病院で大型犬を飼っているのは、このような緊急事態に備えているわけなんです。
ライチ君が咬まれて4日目が下の写真です。
随分、顔周りもすっきりしてきました。
輸血の効果もあり、ショック状態からも回復してきました。
咬まれた箇所や注入された毒液量によっては、死亡するケースもあります。
早期発見・早期治療があなたのペットを救います。
ヒトでも大事に至る蛇毒です。
ましてや体の小さな犬に至っては、ヒトと同じ蛇毒が体に入ればどの位の障害が及ぶかはご理解いただけると思います。
最後に咬まれて5日目のライチ君です。
今度は咬まれた箇所が壊死を起こし始めました。
患部を消毒、トリミングして外科的処置を施しました。
ライチ君は退院後、約2年間経過も良好で元気に生活していました。
ごく最近のことですが、白血球数が7万近くに上昇して白血病に罹患されたのが判明しました。
マムシ咬傷にもめげずに回復したライチ君ですから、白血病に対しても負けずに闘病されることと思っています。
私達、スタッフも全力で応援します。
頑張れ!!ライチ!!
それでも郊外ではまだまだ出没しますし、蛇の咬傷事例は毎年この時期に経験します。
特に当院の周辺では田畑が多く、あぜ道を夜間の散歩をして蛇に咬まれるケースが定番です。
蛇の中で毒蛇と称されるマムシ・ヤマカガシ等は咬んだ対象に多大なダメージを与えます。
今回、ご紹介するのは、このマムシ咬傷で大変な目に遭ったダックスのライチ君です。
ライチ君の症例は、実は2年前の事例です。
典型的なマムシ咬傷なので、もし蛇に咬まれたペット達のためにも参考になればという思いでブログに載せます。
ライチ君は、田んぼのあぜ道を散歩中にマムシに下顎周辺を咬まれました。
犬の場合、どうしても動くものを見つけると追いかけたり、匂いを嗅ごうとして近づいたりする習性があります。
この行動が蛇を追い込んで怒らせることになります。
下の写真はマムシに咬まれて2日目のライチ君です。
口の周辺と頸の周囲が腫れています。
黄色の円で囲んだ部分が腫脹しているのがお分かり頂けると思います。
毒蛇に咬まれますと咬み傷に2つの特徴的な出血跡が認められます。
続いて咬まれた患部が腫れ始めます。
この段階で気づかれたら、速やかに病院にお連れ下さい。
マムシ毒は溶血毒とも言います。
この毒素はタンパク質を分解する作用、出血作用、浮腫作用を持っています。
傷口に注入された毒液の酵素タンパク質を無毒化させるために、過マンガン酸カリウムで傷口を洗浄します。
加えて点滴による輸液療法の開始です。
次いで、ショック症状の緩和のためステロイドと抗生剤、抽出アルカロイドを投薬しました。
下の写真は咬まれて3日目のライチ君です。
ご覧のとおり口周辺の腫脹が著しく、この時点で赤血球数は正常値の4分の1に減少しています。
この時のライチ君の血漿が下の写真です。
マムシ毒は溶血作用が強いため、血漿の部分(上清)が赤ワイン色になっています。
このままでは危険な状態になりますので、早速輸血の準備に移りました。
当院の看板娘(供血犬)、ベティに登場してもらって必要とする血液を彼女から採血しているところです。
ベティの血液は、DEA1・1(ー)というどの犬にも供血できる血液型です。
ヒトのように血液バンクは動物にはありませんので、このように供血犬から必要に応じて採血して輸血するというスタイルを取ります。
多くの動物病院で大型犬を飼っているのは、このような緊急事態に備えているわけなんです。
ライチ君が咬まれて4日目が下の写真です。
随分、顔周りもすっきりしてきました。
輸血の効果もあり、ショック状態からも回復してきました。
咬まれた箇所や注入された毒液量によっては、死亡するケースもあります。
早期発見・早期治療があなたのペットを救います。
ヒトでも大事に至る蛇毒です。
ましてや体の小さな犬に至っては、ヒトと同じ蛇毒が体に入ればどの位の障害が及ぶかはご理解いただけると思います。
最後に咬まれて5日目のライチ君です。
今度は咬まれた箇所が壊死を起こし始めました。
患部を消毒、トリミングして外科的処置を施しました。
ライチ君は退院後、約2年間経過も良好で元気に生活していました。
ごく最近のことですが、白血球数が7万近くに上昇して白血病に罹患されたのが判明しました。
マムシ咬傷にもめげずに回復したライチ君ですから、白血病に対しても負けずに闘病されることと思っています。
私達、スタッフも全力で応援します。
頑張れ!!ライチ!!
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投稿者 院長 | 記事URL
犬の精巣腫瘍(性腺芽腫)
精巣腫瘍は高齢犬で発生が高く、特に停留精巣では陰嚢内精巣の10倍以上発生率が高いそうです。
今回、ご紹介するのは11歳のシェルティのローリー君です。
数か月くらいの間で急に左側の精巣が大きくなり始め来院されました。
1歳未満の頃、特に発情を迎える前に去勢や避妊をお勧めしてはいますが、雌の場合は赤ちゃんを産ませないという必然性もあり積極的に手術を希望される飼い主様は多いのですが、雄の去勢については可哀そうだから止めます、という飼い主様(特に男性)も多いのが実情でしょうか。
去勢しないことで、中高年以降で多発する疾病の一つとして当院HPで会陰ヘルニアをご紹介しましたが、この精巣腫瘍もまさに未去勢犬で認められます。
ローリー君はこの大きくなった精巣のため、床の上で伏せの姿勢が上手にできなくなり、排尿排便にも不便を来すようになりました。問題解決のため、外科的に精巣を摘出することにしました。
下の写真にありますように黄色の円で囲んだ左側精巣の腫大が認められます。
メスで陰嚢基部を切開して総鞘膜ごと陰嚢から出します。
精管、精巣動静脈を縫合糸で結紮してメスで離断します。
次いで総鞘膜も腫瘍細胞が存在している場合も想定して、精巣と共に離断します。
傷口はこんな感じで手術は終了です。
摘出した精巣は左側は腫瘍化した精巣で右側は健常な精巣です。
この腫瘍化した精巣を病理検査に出しました。
下の写真はその病理標本(低倍率)です。
大小、不規則な形状の精細管様管状構造が多数認められ、その管状構造はセルトリ細胞様の細長い腫瘍細胞が密に内張りしています。
さらに高倍率の病理標本です。
セルトリ細胞様腫瘍細胞の間に細胞質の明るい胚細胞様細胞も存在しており、この腫瘍がセルトリ細胞と胚細胞の両者の腫瘍増殖によって形成されています。
病理専門医からこの特徴的な所見より、極めて稀な性腺芽腫という精巣腫瘍であると診断が下されました。
犬の精巣腫瘍はセルトリ細胞腫、セミノーマ、ライデイッヒ細胞腫の3種類に大別され、多くが良性腫瘍であることが多いといわれます。
今回の精巣腫瘍は、これら3つのカテゴリーに分類されないタイプの腫瘍のようです。
ローリー君の腫瘍は現時点で腫瘍臓器、各リンパ節への転移は認められず、経過は良好です。
やはり、腫瘍になってから慌てるよりも早い時期に去勢することで、防げる病気です。
特に男性の飼い主様、ちびっこの頃の去勢手術は可哀そうだからという前に、ご一考下さいね。
老齢犬になってからの手術がいかに大変でリスクが高いか、ワンちゃん本人の気持ちになって下さい。
今回、ご紹介するのは11歳のシェルティのローリー君です。
数か月くらいの間で急に左側の精巣が大きくなり始め来院されました。
1歳未満の頃、特に発情を迎える前に去勢や避妊をお勧めしてはいますが、雌の場合は赤ちゃんを産ませないという必然性もあり積極的に手術を希望される飼い主様は多いのですが、雄の去勢については可哀そうだから止めます、という飼い主様(特に男性)も多いのが実情でしょうか。
去勢しないことで、中高年以降で多発する疾病の一つとして当院HPで会陰ヘルニアをご紹介しましたが、この精巣腫瘍もまさに未去勢犬で認められます。
ローリー君はこの大きくなった精巣のため、床の上で伏せの姿勢が上手にできなくなり、排尿排便にも不便を来すようになりました。問題解決のため、外科的に精巣を摘出することにしました。
下の写真にありますように黄色の円で囲んだ左側精巣の腫大が認められます。
メスで陰嚢基部を切開して総鞘膜ごと陰嚢から出します。
精管、精巣動静脈を縫合糸で結紮してメスで離断します。
次いで総鞘膜も腫瘍細胞が存在している場合も想定して、精巣と共に離断します。
傷口はこんな感じで手術は終了です。
摘出した精巣は左側は腫瘍化した精巣で右側は健常な精巣です。
この腫瘍化した精巣を病理検査に出しました。
下の写真はその病理標本(低倍率)です。
大小、不規則な形状の精細管様管状構造が多数認められ、その管状構造はセルトリ細胞様の細長い腫瘍細胞が密に内張りしています。
さらに高倍率の病理標本です。
セルトリ細胞様腫瘍細胞の間に細胞質の明るい胚細胞様細胞も存在しており、この腫瘍がセルトリ細胞と胚細胞の両者の腫瘍増殖によって形成されています。
病理専門医からこの特徴的な所見より、極めて稀な性腺芽腫という精巣腫瘍であると診断が下されました。
犬の精巣腫瘍はセルトリ細胞腫、セミノーマ、ライデイッヒ細胞腫の3種類に大別され、多くが良性腫瘍であることが多いといわれます。
今回の精巣腫瘍は、これら3つのカテゴリーに分類されないタイプの腫瘍のようです。
ローリー君の腫瘍は現時点で腫瘍臓器、各リンパ節への転移は認められず、経過は良好です。
やはり、腫瘍になってから慌てるよりも早い時期に去勢することで、防げる病気です。
特に男性の飼い主様、ちびっこの頃の去勢手術は可哀そうだからという前に、ご一考下さいね。
老齢犬になってからの手術がいかに大変でリスクが高いか、ワンちゃん本人の気持ちになって下さい。
精巣腫瘍に興味を持たれた方は
投稿者 院長 | 記事URL
犬の耳血腫
耳血腫とは耳介部に血液が貯留して腫脹する疾患を指します。
耳介内部で出血が生じる何らかの原因があり、この疾患は起こります。
例えば、外耳炎やミミヒゼンダニの感染があって頭を振ったり、足で耳を搔きむしったりしての物理的外力が耳介部に加わって、生じるとされています。
一旦、耳血腫になって放置しておくと耳介軟骨が委縮し、耳はカリフラワー状に変形します。
こうなると元の耳介に戻すことは残念ながら無理です。
したがって、耳介の外観維持のために外科的手術で治療が行われます。
当院で実施している耳血腫の手術ですが、簡単にイラストで説明しますと以下の通りです。
今回、ご紹介するのは数週間前から耳血腫があり、経過を見ていても改善が認められないとのことで来院されたダルメシアン君です。
パンチで孔をあけて貯留している血液を外に流します。
上の写真はパンチ孔を作り、縫合糸を耳介内側から外側に向け貫通して、マットレス縫合をするところです。
耳を立てるため、耳介の内側面にガーゼを芯にして粘着テープで固定します。
耳血腫は血腫の大きさや耳介軟骨の損傷の程度により、その処置も異なる場合があります。
軽度の耳血腫であれば、血腫部位を針で穿刺して血液を吸引することを繰り返して患部にグルココルチコイドを注入する方法をとることもあります。
最近では血腫部にインターフェロンを注入すると良好な結果が得られたとの報告もあります。
今回のように耳介軟骨の障害が大きなケースは、早めの処置を施さなければ、残念ながら元の耳介の外観に回復することは不可能です。
ケースバイケースですが、外科手術が必要な場合ならば術後の手術部位の保護(バンテージ)が重要で、まめに交換の必要もあり、通院も含めれば1~1.5か月は必要です。
耳介内部で出血が生じる何らかの原因があり、この疾患は起こります。
例えば、外耳炎やミミヒゼンダニの感染があって頭を振ったり、足で耳を搔きむしったりしての物理的外力が耳介部に加わって、生じるとされています。
一旦、耳血腫になって放置しておくと耳介軟骨が委縮し、耳はカリフラワー状に変形します。
こうなると元の耳介に戻すことは残念ながら無理です。
したがって、耳介の外観維持のために外科的手術で治療が行われます。
当院で実施している耳血腫の手術ですが、簡単にイラストで説明しますと以下の通りです。
上のイラストにありますように耳介軟骨層間に出血があり、血腫が作られます。
血腫にバイオプシー用のパンチを用いて穴をあけます。
パンチした孔から血腫を廃液し、洗浄します。
耳介軟骨同士を縫合して、血腫腔を密着させます。
最終的に下のイラストのようにパンチ孔を作成します。
今回、ご紹介するのは数週間前から耳血腫があり、経過を見ていても改善が認められないとのことで来院されたダルメシアン君です。
パンチで孔をあけて貯留している血液を外に流します。
上の写真はパンチ孔を作り、縫合糸を耳介内側から外側に向け貫通して、マットレス縫合をするところです。
耳を立てるため、耳介の内側面にガーゼを芯にして粘着テープで固定します。
耳血腫は血腫の大きさや耳介軟骨の損傷の程度により、その処置も異なる場合があります。
軽度の耳血腫であれば、血腫部位を針で穿刺して血液を吸引することを繰り返して患部にグルココルチコイドを注入する方法をとることもあります。
最近では血腫部にインターフェロンを注入すると良好な結果が得られたとの報告もあります。
今回のように耳介軟骨の障害が大きなケースは、早めの処置を施さなければ、残念ながら元の耳介の外観に回復することは不可能です。
ケースバイケースですが、外科手術が必要な場合ならば術後の手術部位の保護(バンテージ)が重要で、まめに交換の必要もあり、通院も含めれば1~1.5か月は必要です。
耳血腫って大変!と思われた方は
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投稿者 院長 | 記事URL