その他の疾患/猫
2021年4月 7日 水曜日
猫の異物誤飲(マタタビ)
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、久しぶりになりますが猫の異物誤飲です。
今回の異物はマタタビです。
猫はマタタビが大好きです。
マタタビは、マタタビ科マタタビ属の木で山に自生しています。
マタタビの木には、正常な実と「虫えい果」と呼ばれる実の2種類がなります。
猫が好むのは「虫えい果」の実で、ハエやアブラムシが実に卵を産み付けることで変形したものです。
表面が「虫えい果」は表面が凸凹としています。
マタタビによる反応は、猫の上あごにあるヤコブソン器官(フェロモンを感知する器官)を、マタタビの成分(マタタビラクトンやアクチニジン)が通ることに
より、中枢神経が麻痺し陶酔した症状が引き起こされます。
マタタビはおやつとして、粉末、液体、実、枝などの形状で市販されています。
上記の順番で強度が高く、興奮度が上がるとされます。
ラグドールのルネ君(7歳、去勢済、体重4.1kg)は元気食欲不振で来院されました。
嘔吐や下痢傾向もあるようです。
食生活で変わったものを与えたとしたら、3日前にマタタビをおやつ代わりに与えたとのこと。
マタタビの形状は実のタイプだそうです。

早速、血液検査を行ったところ、腎機能・肝機能・電解質異常が認められました。
レントゲン撮影を実施しました。
下写真の通り、胃内及び腸内にガスが貯留しています。

異物誤飲が気になったので、消化管造影のためバリウムをルネ君に飲んでもらいました。
一般に正常な消化管の機能であれば、バリウムは3時間以内に食道から大腸まで流れます。
下写真は6時間後の造影像です。
まだ胃内にバリウムが残っており(青矢印)、腸内にガス貯留(黄色矢印)、バリウムが一部残存した小腸内容物(赤矢印)らしきものも認められます。

もし、マタタビが消化管内異物として残っていたら、腸閉塞などの問題を引き起こします。
マタタビを与えたのが3日前だとすれば、消化されずに残って問題を起こしても不思議ではありません。
試験的開腹を実施することとなりました。

試験的開腹は、胃から大腸までを目視・触診で確認し、異常がないかを調べます。
今回の様に、マタタビであれ摂取した数量も不明の状態です。
従って、閉塞していると思しき部位は触診の上、メスで切開確認をします。

下写真は胃です。
胃内には中等度のガスが貯留しています。

ひとまず全体を把握するため、胃から十二指腸、空回腸と順にチェックしていきます。
空腸域に硬い2㎝弱の物体があるのを見つけました。
早速、メスを入れます。

メスを入れるとバリウムが乗っている木の実のような物体が確認されました。

どうやらマタタビの実のようです。

幸いにも空腸の炎症・壊死は認められませんので切開部を縫合します。



腸管の管腔径の狭窄を防ぐために、欠損部を横断するように縫合します。

見た目は多少いびつですが、これで腸内容物は通過できるようになります。

他に空回腸、大腸に異物が存在していないか、確認しています。

特に小腸以下の消化管には異物は無かったため、最後にバリウムがいつまでも残っていた胃内を切開して内容を確認します。

胃の血管があまり走行していない部位にメスを入れます。

まず、内容物を吸引するために吸引器でバキュームします。

次に切開した胃の内部を目視、および鉗子で異物を確認したところ、特に何も認められませんでした。

胃の内容物を最終的にすべて吸引した結果、バリウムの造影剤のみ確認されました。
おそらく、マタタビが空腸に詰まった結果、胃内のバリウムが流れなくなり停滞したようです。

胃内の異物が無いことを確認し、切開部を縫合します。

胃の縫合は終了です。

皮膚を縫合しました。

全身麻酔から覚醒したルイ君です。

摘出したマタタビの実です。
誤飲して3日以上経過しても、殆ど消化されていない状態です。

下写真は、飼主様からお持ちいただいた、商品として猫用に売られているマタタビの実のパックです。

下写真は左側が商品(未使用)のマタタビ、右側が今回摘出したマタタビです。

術後のルイ君です。
経過は良好で食欲も出て来ました。
排便排尿も正常に戻りました。

マタタビは猫にとって、刺激的な嗜好品です。
与え方に十分気を付けて頂きたいと思います。
特に今回のような実のタイプや枝のようなタイプは、腸閉鎖(イレウス)の可能性が十分ありますのでご用心を。
ルイ君、お疲れ様でした!

にほんブログ村ランキングにエントリーしてます。

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本日ご紹介しますのは、久しぶりになりますが猫の異物誤飲です。
今回の異物はマタタビです。
猫はマタタビが大好きです。
マタタビは、マタタビ科マタタビ属の木で山に自生しています。
マタタビの木には、正常な実と「虫えい果」と呼ばれる実の2種類がなります。
猫が好むのは「虫えい果」の実で、ハエやアブラムシが実に卵を産み付けることで変形したものです。
表面が「虫えい果」は表面が凸凹としています。
マタタビによる反応は、猫の上あごにあるヤコブソン器官(フェロモンを感知する器官)を、マタタビの成分(マタタビラクトンやアクチニジン)が通ることに
より、中枢神経が麻痺し陶酔した症状が引き起こされます。
マタタビはおやつとして、粉末、液体、実、枝などの形状で市販されています。
上記の順番で強度が高く、興奮度が上がるとされます。
ラグドールのルネ君(7歳、去勢済、体重4.1kg)は元気食欲不振で来院されました。
嘔吐や下痢傾向もあるようです。
食生活で変わったものを与えたとしたら、3日前にマタタビをおやつ代わりに与えたとのこと。
マタタビの形状は実のタイプだそうです。

早速、血液検査を行ったところ、腎機能・肝機能・電解質異常が認められました。
レントゲン撮影を実施しました。
下写真の通り、胃内及び腸内にガスが貯留しています。

異物誤飲が気になったので、消化管造影のためバリウムをルネ君に飲んでもらいました。
一般に正常な消化管の機能であれば、バリウムは3時間以内に食道から大腸まで流れます。
下写真は6時間後の造影像です。
まだ胃内にバリウムが残っており(青矢印)、腸内にガス貯留(黄色矢印)、バリウムが一部残存した小腸内容物(赤矢印)らしきものも認められます。

もし、マタタビが消化管内異物として残っていたら、腸閉塞などの問題を引き起こします。
マタタビを与えたのが3日前だとすれば、消化されずに残って問題を起こしても不思議ではありません。
試験的開腹を実施することとなりました。

試験的開腹は、胃から大腸までを目視・触診で確認し、異常がないかを調べます。
今回の様に、マタタビであれ摂取した数量も不明の状態です。
従って、閉塞していると思しき部位は触診の上、メスで切開確認をします。

下写真は胃です。
胃内には中等度のガスが貯留しています。

ひとまず全体を把握するため、胃から十二指腸、空回腸と順にチェックしていきます。
空腸域に硬い2㎝弱の物体があるのを見つけました。
早速、メスを入れます。

メスを入れるとバリウムが乗っている木の実のような物体が確認されました。

どうやらマタタビの実のようです。

幸いにも空腸の炎症・壊死は認められませんので切開部を縫合します。



腸管の管腔径の狭窄を防ぐために、欠損部を横断するように縫合します。

見た目は多少いびつですが、これで腸内容物は通過できるようになります。

他に空回腸、大腸に異物が存在していないか、確認しています。

特に小腸以下の消化管には異物は無かったため、最後にバリウムがいつまでも残っていた胃内を切開して内容を確認します。

胃の血管があまり走行していない部位にメスを入れます。

まず、内容物を吸引するために吸引器でバキュームします。

次に切開した胃の内部を目視、および鉗子で異物を確認したところ、特に何も認められませんでした。

胃の内容物を最終的にすべて吸引した結果、バリウムの造影剤のみ確認されました。
おそらく、マタタビが空腸に詰まった結果、胃内のバリウムが流れなくなり停滞したようです。

胃内の異物が無いことを確認し、切開部を縫合します。

胃の縫合は終了です。

皮膚を縫合しました。

全身麻酔から覚醒したルイ君です。

摘出したマタタビの実です。
誤飲して3日以上経過しても、殆ど消化されていない状態です。

下写真は、飼主様からお持ちいただいた、商品として猫用に売られているマタタビの実のパックです。

下写真は左側が商品(未使用)のマタタビ、右側が今回摘出したマタタビです。

術後のルイ君です。
経過は良好で食欲も出て来ました。
排便排尿も正常に戻りました。

マタタビは猫にとって、刺激的な嗜好品です。
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投稿者 もねペットクリニック | 記事URL
2017年3月 5日 日曜日
猫の異物誤飲(ウレタン)
こんにちは 院長の伊藤です。
犬と比べて猫の異物誤飲は少ないのですが、今回は椅子のクッション材としてのウレタンを誤飲した猫の話です。
ラグドールのしずくちゃん(7か月齢 雌 体重3.1kg)は朝から嘔吐を頻発、食欲廃絶、血便とのことで来院されました。

しずくちゃんはどことなく沈鬱な表情に見えます。
レントゲン撮影を実施しました。
下写真の黄色丸の箇所が気になります。
異物を誤飲した際に腸で閉塞が生じますと閉塞部位周辺にガスが貯留します。
そしてガスとのコントラストで異物の所在が明らかになる場合もあります。

患部を拡大した写真です。
白く映し出された球状の物体が気になります。

飼い主様は特にしずくちゃんが異物誤飲をする心当たりはないとのことでした。
猫は毛糸などの線状異物の誤飲が多いのですが、今回は数センチの固形異物のようです。
5日前から血便が出ているとのことですから、ひょっとしたら1週間前には異物誤飲している可能性があります。
状況に応じて、異物誤飲の場合は消化管造影したりしますが、時間の経過を考慮して試験的開腹をすぐに行いました。
麻酔前投薬を橈側皮静脈から注入します。

気管挿管してイソフルランガスを流し維持麻酔します。

メスを入れる箇所の周辺を剃毛・消毒します。

ドレープをかけてこれから試験的開腹手術を実施します。

腹筋を正中線に沿って切開して行きます。

空回腸を指先で丹念に異物がないか調べて行きます。

下写真黄色矢印の部位が空回腸に何か詰まっています。

腸内はこの異物(下写真黄色丸)により完全閉塞しています。
つまり腸内容の流動が異物によりストップしています。


腸蠕動運動に伴い、腸内容物が流動して腸内環境・腸内細菌は安定します。
異物により腸蠕動停止すると腸内細菌が過剰に増殖し、毒素やガスを産生します。
加えて腸の血行障害から腸壊死に至ることもあります。

しずくちゃんの腸管は異物閉塞部位の上流・下流共に変色もなく、壊死は認められません。


閉塞部位に直接メスを入れ、異物を摘出します。


弾力性のあるウレタンの異物が摘出されました。


定法通り、腸を単純結紮法によりモノフィラメント吸収糸で縫合して行きます。



若干漏出して縫合部に付着した腸内容を洗浄します。

縫合部に抗生剤を滴下します。

縫合部は1cmほどに納めました。
腸全体でみるとほんのわずかのエリアです。


腸管や周辺の組織との癒着を防ぐために大網と呼ばれる脂肪組織を縫合部にかぶせて閉腹します。


これで手術は終了です。

麻酔覚醒直後のしずくちゃんです。
心なし、すっきりした表情にも見えます。

手術翌日のしずくちゃんです。
腸を切開していますので、しばらく消化に良い流動食から食餌管理します。

下写真は腸内の異物です。
素材はウレタンのようです。
飼い主様に確認したところ、椅子の背もたれ内部のクッション材を、爪とぎの時にほじり出していたようです。
柔らかな素材ですから、衝動的に口にしてしまったのでしょうか。



術後6日目にしずくちゃんは退院されました。
今回の様に飼主様が気づかれていない内に異物誤飲すると色々な検査が必要になったり、腸が壊死を起こしたり大変なケースが多いです。
レントゲン写真でたまたま異物を思わせる所見がありましたから、即手術で大事に至らなくて良かったです。
しずくちゃん、お疲れ様でした!

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犬と比べて猫の異物誤飲は少ないのですが、今回は椅子のクッション材としてのウレタンを誤飲した猫の話です。
ラグドールのしずくちゃん(7か月齢 雌 体重3.1kg)は朝から嘔吐を頻発、食欲廃絶、血便とのことで来院されました。

しずくちゃんはどことなく沈鬱な表情に見えます。
レントゲン撮影を実施しました。
下写真の黄色丸の箇所が気になります。
異物を誤飲した際に腸で閉塞が生じますと閉塞部位周辺にガスが貯留します。
そしてガスとのコントラストで異物の所在が明らかになる場合もあります。

患部を拡大した写真です。
白く映し出された球状の物体が気になります。

飼い主様は特にしずくちゃんが異物誤飲をする心当たりはないとのことでした。
猫は毛糸などの線状異物の誤飲が多いのですが、今回は数センチの固形異物のようです。
5日前から血便が出ているとのことですから、ひょっとしたら1週間前には異物誤飲している可能性があります。
状況に応じて、異物誤飲の場合は消化管造影したりしますが、時間の経過を考慮して試験的開腹をすぐに行いました。
麻酔前投薬を橈側皮静脈から注入します。

気管挿管してイソフルランガスを流し維持麻酔します。

メスを入れる箇所の周辺を剃毛・消毒します。

ドレープをかけてこれから試験的開腹手術を実施します。

腹筋を正中線に沿って切開して行きます。

空回腸を指先で丹念に異物がないか調べて行きます。

下写真黄色矢印の部位が空回腸に何か詰まっています。

腸内はこの異物(下写真黄色丸)により完全閉塞しています。
つまり腸内容の流動が異物によりストップしています。


腸蠕動運動に伴い、腸内容物が流動して腸内環境・腸内細菌は安定します。
異物により腸蠕動停止すると腸内細菌が過剰に増殖し、毒素やガスを産生します。
加えて腸の血行障害から腸壊死に至ることもあります。

しずくちゃんの腸管は異物閉塞部位の上流・下流共に変色もなく、壊死は認められません。


閉塞部位に直接メスを入れ、異物を摘出します。


弾力性のあるウレタンの異物が摘出されました。


定法通り、腸を単純結紮法によりモノフィラメント吸収糸で縫合して行きます。



若干漏出して縫合部に付着した腸内容を洗浄します。

縫合部に抗生剤を滴下します。

縫合部は1cmほどに納めました。
腸全体でみるとほんのわずかのエリアです。


腸管や周辺の組織との癒着を防ぐために大網と呼ばれる脂肪組織を縫合部にかぶせて閉腹します。


これで手術は終了です。

麻酔覚醒直後のしずくちゃんです。
心なし、すっきりした表情にも見えます。

手術翌日のしずくちゃんです。
腸を切開していますので、しばらく消化に良い流動食から食餌管理します。

下写真は腸内の異物です。
素材はウレタンのようです。
飼い主様に確認したところ、椅子の背もたれ内部のクッション材を、爪とぎの時にほじり出していたようです。
柔らかな素材ですから、衝動的に口にしてしまったのでしょうか。



術後6日目にしずくちゃんは退院されました。
今回の様に飼主様が気づかれていない内に異物誤飲すると色々な検査が必要になったり、腸が壊死を起こしたり大変なケースが多いです。
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しずくちゃん、お疲れ様でした!

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