ヘビの疾病
2022年3月24日 木曜日
ヒバカリのダニ感染
こんにちは院長の伊藤です。
本日はヒバカリのダニ感染症例をご紹介します。
以前、10年ほど前にボールパイソンのダニ感染について報告させて頂いています。
興味のある方は、こちらをクリックお願いします。
野生のヘビを捕獲したところ、そのヘビがヒバカリであり、かつ皮膚には何匹ものダニが喰いついていたという話題です。
実際、野生のヘビはマダニ等の外部寄生虫の感染を受けている個体が多いのも事実です。
ヒバカリのヒバカリ君(性別不明、体重13g)は、飼主様が捕獲した野生の個体(幼体)です。
ヒバカリとは聞きなれない名称ですが、爬虫綱有鱗目ナミヘビ科ヒバカリ属に分類されるヘビです。
無毒種ですが、かつては毒蛇とみなされていました。
ヒバカリの名の由来は、「噛まれたら命がその日ばかり」に由来するそうです。
日本(本州、四国、九州、壱岐、屋久島など)に広く分布する在来種です。
全長は40~65cm、平地から低山地にある森林に生息し、水辺を好みます。
性格はおとなしく、大きくならない、餌はマウスでなくても飼育できるなどの理由で人気があります。
しかし、飼育は難しく、およそ1シーズンで死亡してしまうケースも多いです。
体が小さいがゆえに温度や湿度の変化の影響を受けやすい、餌切れ、水切れに弱い、病気になったら手の施しようがないと評価されています。
飼い主様が、ヒバカリ君の頚部に2匹、上腹部に1匹、下腹部に1匹のマダニを見つけての来院です。

下写真の黄色矢印がマダニを示します。


上腹部に寄生吸血しているマダニ(下写真黄色矢印)です。

ピンセットで摘出します。
この時、ダニの口器が鱗と鱗の間の皮膚に食い込んでいるため、口器をちぎって残すと皮膚炎を引き起こすので慎重に行う必要があります。

続いて、下腹部に寄生しているマダニです。

この下腹部は脱皮の最中にマダニが吸血しています。
皮膚炎を引き起こしています。

マダニを拡大した画像です。

マダニに関しては、当院のHPに記載されていますので興味のある方は、こちらをクリック参照して下さい。
マダニは、マダニ科の14の属と702種から構成されます。
今回、ヒバカリ君に感染しているマダニの分類の詳細は良く分かりませんが、フタトゲチマダニの仲間であろうと思われます。
ヘビダニは、多数寄生でヘビに貧血を起こさせるだけでなく、敗血症の原因となるAeromonas hydrophila という細菌を媒介することが知られています。
下写真は、今回ヒバカリ君から摘出したマダニです。


ヒバカリ君はダニ感染で皮膚炎を起こしていましたので、抗生剤を処方しました。
幼体で抵抗力が弱いため、大事に至らぬよう祈念します。

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実際、野生のヘビはマダニ等の外部寄生虫の感染を受けている個体が多いのも事実です。
ヒバカリのヒバカリ君(性別不明、体重13g)は、飼主様が捕獲した野生の個体(幼体)です。
ヒバカリとは聞きなれない名称ですが、爬虫綱有鱗目ナミヘビ科ヒバカリ属に分類されるヘビです。
無毒種ですが、かつては毒蛇とみなされていました。
ヒバカリの名の由来は、「噛まれたら命がその日ばかり」に由来するそうです。
日本(本州、四国、九州、壱岐、屋久島など)に広く分布する在来種です。
全長は40~65cm、平地から低山地にある森林に生息し、水辺を好みます。
性格はおとなしく、大きくならない、餌はマウスでなくても飼育できるなどの理由で人気があります。
しかし、飼育は難しく、およそ1シーズンで死亡してしまうケースも多いです。
体が小さいがゆえに温度や湿度の変化の影響を受けやすい、餌切れ、水切れに弱い、病気になったら手の施しようがないと評価されています。
飼い主様が、ヒバカリ君の頚部に2匹、上腹部に1匹、下腹部に1匹のマダニを見つけての来院です。

下写真の黄色矢印がマダニを示します。


上腹部に寄生吸血しているマダニ(下写真黄色矢印)です。

ピンセットで摘出します。
この時、ダニの口器が鱗と鱗の間の皮膚に食い込んでいるため、口器をちぎって残すと皮膚炎を引き起こすので慎重に行う必要があります。

続いて、下腹部に寄生しているマダニです。

この下腹部は脱皮の最中にマダニが吸血しています。
皮膚炎を引き起こしています。

マダニを拡大した画像です。

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マダニは、マダニ科の14の属と702種から構成されます。
今回、ヒバカリ君に感染しているマダニの分類の詳細は良く分かりませんが、フタトゲチマダニの仲間であろうと思われます。
ヘビダニは、多数寄生でヘビに貧血を起こさせるだけでなく、敗血症の原因となるAeromonas hydrophila という細菌を媒介することが知られています。
下写真は、今回ヒバカリ君から摘出したマダニです。


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投稿者 院長 | 記事URL
2020年9月 7日 月曜日
ボールパイソンの感染性口内炎
こんにちは 院長の伊藤です。
残暑厳しい毎日ですが、皆様お変わりありませんか?
雑務に追われてブログの更新が滞り、申し訳ありません。
本日、ご紹介しますのはヘビの口内炎です。
ヘビは、生餌を捕食した時に口腔内を傷つけたり、硬い食餌を捕食した際に歯が歯茎に食い込んだりして細菌性の口内炎を引き起こします。
この症状を称して、感染性口内炎(マウスロット)と呼んだりします。
以前にも、マウスロットの記事を載せてますので、興味のある方は こちら をクリックして下さい。
ボールパイソンの和代ちゃん(雌、体重1.85kg 4歳4か月齢)は頭部が腫れてきたとの事で来院されました。
左側の上顎部が腫大しているようです。


下写真の黄色丸・黄色矢印はその腫大している患部を示します。


左側口唇部をめくると赤く腫れた患部(黄色丸)が認められます。
和代ちゃんは食欲も落ちているとのことです。


この腫大している部位がどうなっているかを確認するために細胞診を実施しました。
細菌感染によるものか、腫瘍が発生しているものなのか、明らかに出来ればと思います。

下写真にように針を患部に穿刺して吸引した細胞を染色して確認します。
針穿刺した部位を圧迫しても出血・排膿は認められませんでした。

結果として、下写真の黄色矢印が示すように高度の細菌感染(青く点状に染色されているのが細菌)が認められました。
腫瘍を示唆する異型性細胞は認められませんでした。


患部をレントゲン撮影してみました。


下写真の黄色丸が腫大した患部を示します。
上顎骨の融解像が確認できます。
細菌感染による口内炎で歯根部から歯槽骨に至る箇所が壊死融解したものと思われます。


以前に掲載したグリーンパイソンのマウスロットと比較して、歯肉・歯根からのチーズ様の膿の存在は認められませんでしたが、これから進行する病態と考えられます。
細菌が産生する毒素により、歯槽骨が融解する現象は哺乳類同様、爬虫類でも起こります。
ただ歯槽骨として機能できなくなりますので、餌を咀嚼することは厳しいと思われます。
蛇の場合は、餌を丸呑みこみしますので、和代ちゃんも何とか採食行動は可能でしょう。
今後、患部の外用薬の塗布と抗生剤の内服で経過を診て行きます。
和代ちゃん、頑張って治していきましょう。
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ヘビは、生餌を捕食した時に口腔内を傷つけたり、硬い食餌を捕食した際に歯が歯茎に食い込んだりして細菌性の口内炎を引き起こします。
この症状を称して、感染性口内炎(マウスロット)と呼んだりします。
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左側の上顎部が腫大しているようです。


下写真の黄色丸・黄色矢印はその腫大している患部を示します。


左側口唇部をめくると赤く腫れた患部(黄色丸)が認められます。
和代ちゃんは食欲も落ちているとのことです。


この腫大している部位がどうなっているかを確認するために細胞診を実施しました。
細菌感染によるものか、腫瘍が発生しているものなのか、明らかに出来ればと思います。

下写真にように針を患部に穿刺して吸引した細胞を染色して確認します。
針穿刺した部位を圧迫しても出血・排膿は認められませんでした。

結果として、下写真の黄色矢印が示すように高度の細菌感染(青く点状に染色されているのが細菌)が認められました。
腫瘍を示唆する異型性細胞は認められませんでした。


患部をレントゲン撮影してみました。


下写真の黄色丸が腫大した患部を示します。
上顎骨の融解像が確認できます。
細菌感染による口内炎で歯根部から歯槽骨に至る箇所が壊死融解したものと思われます。


以前に掲載したグリーンパイソンのマウスロットと比較して、歯肉・歯根からのチーズ様の膿の存在は認められませんでしたが、これから進行する病態と考えられます。
細菌が産生する毒素により、歯槽骨が融解する現象は哺乳類同様、爬虫類でも起こります。
ただ歯槽骨として機能できなくなりますので、餌を咀嚼することは厳しいと思われます。
蛇の場合は、餌を丸呑みこみしますので、和代ちゃんも何とか採食行動は可能でしょう。
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投稿者 院長 | 記事URL
2019年4月 3日 水曜日
ベーレンパイソンのアイキャップ
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのはヘビの脱皮不全、特に眼の脱皮不全です。
ヘビは瞬きをしません。
常時、眼は開いた状態です。
その代わりに角膜の外側に透明な膜を形成しています。
この膜をアイキャップ(Eye cap)、もしくはスペクタクル(Spectacle)と呼びます。
爬虫類は定期的に脱皮を行います。
脱皮がスムーズに行われれば良いのですが、脱皮不全が生じることも多いです。
このアイキャップが頭部の脱皮部と共に連結して脱皮出来れば問題はないのですが、アイキャップだけ残ってしまう場合もあります。
本日はこのアイキャップが脱皮不全で残ってしまった症例です。
ベーレンパイソンのりんてん君(年齢不明、性別不明、体重7.0kg)は左眼が白く腫れているとのことで来院されました。
ベーレンパイソンはパイソンの中でも別格に扱われており、「ベーレン様」や「神」と呼ばれる存在です。
パプアニューギニア産で最大全長3m近くまで成長し、性格は温和とされます。
黒く大きな身体が特徴で別名black pythonとも呼ばれます。


下写真黄色丸が突出して白濁した左眼です。


アイキャップを切除処置します。
体重が7㎏ある大きなヘビのため、力もあり、飼主様含め保定の補助が必要です。

注射針を用いてアイキャップを引っ掛け、ピンセットで牽引して切除する方法を採ります。

25Gの注射針でアイキャップを穿刺します。
アイキャップと角膜の間には、涙液が産生され貯留しています。

アイキャップを軽く穿刺して、その傷を眼科用のピンセットで把持・牽引します。

古いアイキャップが固着して、なかなかスムーズに一皮むけるように外せません。


慎重にアイキャップを切除します。


下写真黄色丸は外したアイキャップの一部です。

心なしか眼元もすっきりしたりんてん君です。

外したアイキャップの一部の拡大写真です。
立派なヘビなのでアイキャップも乾燥すると厚めでコンタクトレンズのようです。

処置が終了したところですが、飼主様が持参されたネットに戻すのも大変です。

脱皮不全を防止するためには、飼育槽内の湿度管理(約40~60%)に留意して下さい。

りんてん君、お疲れ様でした!
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爬虫類は定期的に脱皮を行います。
脱皮がスムーズに行われれば良いのですが、脱皮不全が生じることも多いです。
このアイキャップが頭部の脱皮部と共に連結して脱皮出来れば問題はないのですが、アイキャップだけ残ってしまう場合もあります。
本日はこのアイキャップが脱皮不全で残ってしまった症例です。
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ベーレンパイソンはパイソンの中でも別格に扱われており、「ベーレン様」や「神」と呼ばれる存在です。
パプアニューギニア産で最大全長3m近くまで成長し、性格は温和とされます。
黒く大きな身体が特徴で別名black pythonとも呼ばれます。


下写真黄色丸が突出して白濁した左眼です。


アイキャップを切除処置します。
体重が7㎏ある大きなヘビのため、力もあり、飼主様含め保定の補助が必要です。

注射針を用いてアイキャップを引っ掛け、ピンセットで牽引して切除する方法を採ります。

25Gの注射針でアイキャップを穿刺します。
アイキャップと角膜の間には、涙液が産生され貯留しています。

アイキャップを軽く穿刺して、その傷を眼科用のピンセットで把持・牽引します。

古いアイキャップが固着して、なかなかスムーズに一皮むけるように外せません。


慎重にアイキャップを切除します。


下写真黄色丸は外したアイキャップの一部です。

心なしか眼元もすっきりしたりんてん君です。

外したアイキャップの一部の拡大写真です。
立派なヘビなのでアイキャップも乾燥すると厚めでコンタクトレンズのようです。

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投稿者 院長 | 記事URL
2018年11月27日 火曜日
パプアンパイソンの感染症
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、久々のヘビです。
ヘビは非常にデリケートな爬虫類で、特にウィルスや細菌感染により一挙に重篤な症状に陥ります。
実際、症状が確認出来て数日で死の転帰をたどる症例も多いです。
パプアンパイソンのメド君(雄、年齢不明、体重1.4㎏)は口内炎の疑いで来院されました。


パプアンパイソンはニシキヘビ科のパプアニシキヘビ属に分類されるヘビです。
ニューギニアやオーストラリアに棲息しています。
成体になると体重は22.5kg、全長は5mを超え、飼育許可の要らないヘビの中では最長とされてます。
そんなメド君ですが、食欲不振とのことでまずは口腔内の検査をさせて頂きました。
下写真の開口器を用いて口を開けます。


口の中に唾液が貯留しているのが分かります。



下写真で口腔内に貯留した白濁色の唾液(黄色矢印)が確認できます。
咽頭部の炎症も起こしているようです。


貯留唾液を綿棒でかき取ります。


かなりの粘稠性のある唾液です。

この唾液の中には、剥離した口腔粘膜上皮細胞と雑菌が一部認められました。


当初、口腔内の外傷などから発症するマウスロットを疑いました。
傷口と思われる部位がメド君の場合は見当たらず、マウスロットに特徴的なクリームからチーズ様の滲出物も認められませんでした。
マウスロットについて、興味のある方はこちら(ミドリニシキヘビのマウスロット)をクリックして下さい。
その一方で、下写真のように歯肉は腫脹して点状出血が認められます。
ヘビの全身性感染症の場合は、皮膚に点状出血が広範囲に出ることが多いです。
ヘビの全身性感染症(敗血症)については過去に記事を載せていますので、興味のある方はこちらをクリックして下さい。


下写真は歯肉部の拡大です。
広範囲に点状出血が確認できると思います。

今回のメド君のケースは、歯肉の点状出血にとどまっています。
皮膚に全身性に点状出血はありません。
マウスロットは、潰瘍性または壊死性の口内炎へと進行していきます。
口腔内に出来た滲出物が気道内に吸引されたり、嚥下されることで細菌性の肺炎・胃腸炎を引き起こすこともあります。
メド君は、マウスロットの初期症状と判断すべきか、あるいは細菌もしくはウィルス性の全身性感染症なのか、診断に悩まされました。
あるいは、パプアンパイソンという品種に特徴的な症状であるかもしれません。
爬虫類において明らかにされているウィルス感染症はまだごくわずかです。
その治療に対する報告例もほとんどありません。
ヘビの場合は、ヘルペスウィルス、パラミクソウィルス、レトロウィルスなどの感染症が知られています。
これらのウィルス感染症は個体によって、症状も様々で全く症状が出ないケースもあれば、短期間で死に至るケースもあります。
いずれにせよ、メド君はニューキノロン系の抗生剤を投薬して、支持療法により経過観察していきます。
メド君、頑張って治していきましょう。

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パプアンパイソンのメド君(雄、年齢不明、体重1.4㎏)は口内炎の疑いで来院されました。


パプアンパイソンはニシキヘビ科のパプアニシキヘビ属に分類されるヘビです。
ニューギニアやオーストラリアに棲息しています。
成体になると体重は22.5kg、全長は5mを超え、飼育許可の要らないヘビの中では最長とされてます。
そんなメド君ですが、食欲不振とのことでまずは口腔内の検査をさせて頂きました。
下写真の開口器を用いて口を開けます。


口の中に唾液が貯留しているのが分かります。



下写真で口腔内に貯留した白濁色の唾液(黄色矢印)が確認できます。
咽頭部の炎症も起こしているようです。


貯留唾液を綿棒でかき取ります。


かなりの粘稠性のある唾液です。

この唾液の中には、剥離した口腔粘膜上皮細胞と雑菌が一部認められました。


当初、口腔内の外傷などから発症するマウスロットを疑いました。
傷口と思われる部位がメド君の場合は見当たらず、マウスロットに特徴的なクリームからチーズ様の滲出物も認められませんでした。
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その一方で、下写真のように歯肉は腫脹して点状出血が認められます。
ヘビの全身性感染症の場合は、皮膚に点状出血が広範囲に出ることが多いです。
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下写真は歯肉部の拡大です。
広範囲に点状出血が確認できると思います。

今回のメド君のケースは、歯肉の点状出血にとどまっています。
皮膚に全身性に点状出血はありません。
マウスロットは、潰瘍性または壊死性の口内炎へと進行していきます。
口腔内に出来た滲出物が気道内に吸引されたり、嚥下されることで細菌性の肺炎・胃腸炎を引き起こすこともあります。
メド君は、マウスロットの初期症状と判断すべきか、あるいは細菌もしくはウィルス性の全身性感染症なのか、診断に悩まされました。
あるいは、パプアンパイソンという品種に特徴的な症状であるかもしれません。
爬虫類において明らかにされているウィルス感染症はまだごくわずかです。
その治療に対する報告例もほとんどありません。
ヘビの場合は、ヘルペスウィルス、パラミクソウィルス、レトロウィルスなどの感染症が知られています。
これらのウィルス感染症は個体によって、症状も様々で全く症状が出ないケースもあれば、短期間で死に至るケースもあります。
いずれにせよ、メド君はニューキノロン系の抗生剤を投薬して、支持療法により経過観察していきます。
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投稿者 院長 | 記事URL
2017年12月 4日 月曜日
ボールパイソンの原虫症
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのはヘビの下痢の原因と思われる原虫感染です。
一般に爬虫類はヘビに限らずトカゲであれ、カメであれ、何らかの寄生虫を腸管内に持っています。
哺乳類、特に犬猫では問題となる内部寄生虫でも、これら爬虫類では病気の原因となるのかというと不明な点が多いです。
爬虫類の腸内環境で他の腸内細菌とのバランスを取っており、やみくもに寄生虫を駆虫すべきではないという意見の研究者もいます。
何しろ、哺乳類の様に血液検査を初めとした精密検査自体が難しい動物ですから、診察する獣医師側からしても情報量の少ない中での診療展開となります。
ボールパイソン君(名称なし、性別不明、1歳)は数週間にわたり軟便・下痢便を繰り返すとのことで来院されました。


診察中にタイミング良く排便しました。
ご覧の通りの下痢便です。


早速、検便をしました。
多数の原虫が遊泳しているのを確認しました。
下写真黄色丸がその原虫です。


原虫はこれまでにも他の動物種で度々、ホームページの疾病紹介で掲載しています。
原虫は基本的に活動的で、顕微鏡写真でピントを合わせて撮影が難しいです。
今回も撮影には苦労したのですが、動きが早すぎて低倍率で多数の原虫をとらえることが出来ませんでした。
ボールパイソン君は高度に感染してましたので、明らかにこの原虫が原因であろうと思われました。
ただこの原虫が犬猫では一般的に認められるジアルジアやトリコモナスとは異なる種類です。
一方で、原虫の仲間でクリプトスポリジウムによる感染症が話題になったりしています。
ヘビの場合は慢性肥厚性胃炎の原因になったりします。
今回のこの原虫はこのクリプトスポリジウムではありません。
犯人が特定できない状態での治療となります。
一般的に原虫症にはメトロニダゾールという薬剤が選択されます。
ヘビの体重1㎏に対して50㎎のメトロニダゾールを1~2週間経口投薬します。
75~125㎎を一回投与して、2週間後にもう一回投与する臨床医もいます。
いづれにせよ、ヘビの投薬は慎重に行う必要があり、個体によっては拒食に至ります。
一般的には野生の個体でなく、飼育孵化・繁殖させた健康な個体においても、一定レベルの原虫は保有しています。
ところが、何らかのストレスに暴露されたりすると胃腸系に障害をもたらします。
原虫症は、今回のような下痢に始まり、嘔吐・胃腸内ガスによる鼓張、呼吸器感染といった多くの問題を引き起こします。


ボールパイソン君、早く下痢が治って欲しいです。
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一般に爬虫類はヘビに限らずトカゲであれ、カメであれ、何らかの寄生虫を腸管内に持っています。
哺乳類、特に犬猫では問題となる内部寄生虫でも、これら爬虫類では病気の原因となるのかというと不明な点が多いです。
爬虫類の腸内環境で他の腸内細菌とのバランスを取っており、やみくもに寄生虫を駆虫すべきではないという意見の研究者もいます。
何しろ、哺乳類の様に血液検査を初めとした精密検査自体が難しい動物ですから、診察する獣医師側からしても情報量の少ない中での診療展開となります。
ボールパイソン君(名称なし、性別不明、1歳)は数週間にわたり軟便・下痢便を繰り返すとのことで来院されました。


診察中にタイミング良く排便しました。
ご覧の通りの下痢便です。


早速、検便をしました。
多数の原虫が遊泳しているのを確認しました。
下写真黄色丸がその原虫です。


原虫はこれまでにも他の動物種で度々、ホームページの疾病紹介で掲載しています。
原虫は基本的に活動的で、顕微鏡写真でピントを合わせて撮影が難しいです。
今回も撮影には苦労したのですが、動きが早すぎて低倍率で多数の原虫をとらえることが出来ませんでした。
ボールパイソン君は高度に感染してましたので、明らかにこの原虫が原因であろうと思われました。
ただこの原虫が犬猫では一般的に認められるジアルジアやトリコモナスとは異なる種類です。
一方で、原虫の仲間でクリプトスポリジウムによる感染症が話題になったりしています。
ヘビの場合は慢性肥厚性胃炎の原因になったりします。
今回のこの原虫はこのクリプトスポリジウムではありません。
犯人が特定できない状態での治療となります。
一般的に原虫症にはメトロニダゾールという薬剤が選択されます。
ヘビの体重1㎏に対して50㎎のメトロニダゾールを1~2週間経口投薬します。
75~125㎎を一回投与して、2週間後にもう一回投与する臨床医もいます。
いづれにせよ、ヘビの投薬は慎重に行う必要があり、個体によっては拒食に至ります。
一般的には野生の個体でなく、飼育孵化・繁殖させた健康な個体においても、一定レベルの原虫は保有しています。
ところが、何らかのストレスに暴露されたりすると胃腸系に障害をもたらします。
原虫症は、今回のような下痢に始まり、嘔吐・胃腸内ガスによる鼓張、呼吸器感染といった多くの問題を引き起こします。


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