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腫瘍疾患/犬

2019年6月 5日 水曜日

犬の良性黒色腫(外陰部周囲)

こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのは、犬の良性黒色腫です。

黒色腫はメラニン産生細胞由来の腫瘍です。

以前、犬の口腔内悪性黒色腫(メラノーマ)についてコメントしてありますので、興味のある方はこちらをクリックして下さい。


柴犬のシロップちゃん(8歳10か月齢、避妊済み)は外陰部に黒いイボが出てきたとの事で来院されました。



シロップちゃんは4年ほど前に緑内障を患って、その後両眼共に視力を失っています。

黒い腫瘤は少しづつ大きさが増大してきており、まずは細胞診を実施しました。

その結果として、メラノサイト腫瘍(黒色腫)が疑われるとの病理医からの診断でした。

メラノサイトはメラニン産生細胞を指します。

確認された細胞の細胞質内にはメラニン色素様の黒緑色顆粒が豊富に観察されました。

皮膚に発生する黒色腫はその多くは良性腫瘍であることが多いとされます。

今回、シロップちゃんに出来た黒色腫は外陰部周辺とのことで、本人も気にしている点と短期間に大きくなっている点から外科的切除を希望されました。



早速、全身麻酔を施します。



下写真黄色矢印は黒色腫を示します。



患部の剃毛します。



下写真黄色丸が外陰部に発生した黒色腫です。



拡大写真です。



これから黒色腫の摘出手術を実施します。



腫瘍の大きさは3×7×8㎜でした。





腫瘍の周辺に眼科用のメスで切開を加えます。





外陰部周囲は血管が密に走行していますので、それなりの出血があります。





電気メス(バイポーラ)で出血部位を止血しています。



腫瘍を摘出したところです。







摘出後の患部です。

バイポーラによる止血痕が認められます。



5‐0のナイロン糸で皮膚縫合を実施します。



縫合終了です。







麻酔から覚醒したシロップちゃんです。



摘出した腫瘍です。





拡大像です。



この腫瘍の病理所見です。

低倍像です。

茶褐色はメラニン色素です。



100倍率の病理像です。

この腫瘍は、細胞質にメラニン色素を多数有する細胞によって構成されていました。



メラニン色素を脱色する処置を行った後の病理像です。

100倍の倍率像です。



下写真は400倍の倍率像です。

良性・悪性の判定は腫瘍細胞の異型性や高倍率10視野当たりの分裂頻度(4個以上なら悪性)を参考にします。

今回の黒色腫は、腫瘍細胞がよく分化しており、異型性に乏しく分裂頻度が低いため、良性腫瘍との診断を病理医から受けました。



良性腫瘍であり、摘出後の予後は良好との病理医からの診断でした。

発生部位が問題でこのまま黒色腫の増大が進行すると、いざ摘出する時には外陰部をも切除する必要が出てきたかもしれません。




シロップちゃん、お疲れ様でした!


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投稿者 もねペットクリニック | 記事URL

2019年5月23日 木曜日

犬の肛門嚢アポクリン腺癌

こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介するのは犬の肛門嚢アポクリン腺癌です。



犬には肛門の両脇に悪臭を放つ一対の肛門嚢と言う分泌腺があります。

肛門嚢の壁にはアポクリン腺と皮脂腺が多数存在し、においの強い分泌液が産生されます。

一般に犬は、肛門嚢に分泌液が貯留すると尻尾を追い掛け回したり、お尻を床にこすり付けたりします。

そんな時は、俗に肛門絞りとも言ってますが、肛門嚢あたりを圧迫して分泌液を強制的に排出させます。

犬の飼主様なら一般に周知の肛門嚢ですが、肛門嚢に貯留する分泌液を作るアポクリン腺が癌化したものを肛門嚢アポクリン腺癌と呼びます。


ミニュチュア・ダックスのランちゃん(15歳、避妊済み、体重8.2kg)はお尻周囲が張っているとのことで来院されました。



下写真の黄色丸は右側の肛門嚢周辺の腫脹を表しています。



まずはこの腫瘤の細胞診を行いました。

結果、病理医からは上皮性腫瘍、特に肛門嚢アポクリン腺癌が第一に疑われるとの診断でした。

肛門嚢アポクリン腺癌は悪性の腫瘍で犬の皮膚腫瘍の2%、犬の肛門周囲腫瘍の17%を占めています。

発生初期は皮下の存在しているため外見上は分かりずらいく、増大するほどに肛門の4時または8時方向に硬く固着性のある腫瘍として確認されます。

局所浸潤性が強く、転移しやすい性質を持ち、一般的な転移部位は局所リンパ節(腰下リンパ節群)であり、約50%の症例で初診時に既に転移がみられます。

当初、小さな肛門嚢の腫瘍が、非常に巨大な転移巣を形成することもあります。

肛門嚢アポクリン腺癌が産生する副甲状腺腫(上皮小体)関連ペプチド(PTHrP)に起因する、高カルシウム血症が25~50%に認められます。

臨床症状は、排便困難、しぶり、多飲多尿(高カルシウム血症による)、後躯麻痺、跛行などです。



今回、ランちゃんの血液検査でも高カルシウム血症(12.7㎎/dl)が確認されました。

肛門嚢自体が腫瘍化していますので、巨大化してからの摘出は困難を極めます。

肛門嚢は外肛門括約筋に隣接していますし、内陰部動静脈も傍を走行しています。

肺転移や内腸骨リンパ節の腫大はレントゲン撮影上で認められませんでした。

疑わしき組織を最大限摘出しなければなりません。

 

早速、外科的切除を実施することとなりました。

下写真黄色丸、黄色矢印は腫大している肛門嚢です。





直腸に綿花を詰めます。



右側肛門嚢の導管開口部に22G翼状針の外套を挿入します。

これは、術中に導管の位置を確認しやすくするため、導管を損傷しないための処置です。





腫大した肛門嚢の周囲の正常な皮膚にメスで切開を加えます。



慎重に肛門嚢を露出するように皮膚・皮下組織から分離していきます。



肛門嚢自体が腫瘍化しているため、傷をつけて出血を招かないよう電気メス(バイポーラ)で剥離します。





ジャックナイフというお尻を上に拳上させた姿勢で手術に臨みます。



肛門嚢周辺の血管をバイクランプでシーリングを施していきます。



肛門嚢を周囲の結合組織から慎重に鈍性剥離します。



細い静脈はバイポーラで焼いて止血します。



次第に肛門嚢の全貌が現れて来ました(下写真黄色矢印)。



拡大像です。



周辺の筋肉組織への浸潤は無い様で、腫瘍本体を傷つけることなく摘出出来そうです。





下写真の黄色丸が摘出した肛門嚢(腫瘍本体)です。



肛門嚢摘出後の患部です。

比較的大きな腫瘍でしたが、取り残しなく切除は完了しました。





なるべく死腔を作らないように合成吸収糸で深部側から組織を寄せて縫合します。



腫瘍が大きく、皮膚欠損も大きく伴うケースの場合は、術後に会陰ヘルニアを惹起する場合があります。



皮下組織の縫合はこれで完了です。



最後にナイロン糸で皮膚縫合します。



若干、肛門が右側に牽引されていますが、時間と共に縫合部の皮膚は牽引されて元の状態に戻ると思われます。





覚醒直後のランちゃんです。

15歳と言う高齢犬ですから、長時間の麻酔が心配でしたが無事、生還出来ました。





今回摘出した肛門嚢です。

全長5㎝位に腫大していました。





肛門嚢の病理写真です。

病理組織学的診断名は、やはり肛門嚢アポクリン腺癌でした。

低倍率像です。

多小葉状の癌増殖巣が形性されています。



高倍率像です。

増殖する細胞は、顆粒状のクロマチンを示す類円形核と好酸性細胞質を有する円柱状の細胞が腺腔状の配列で増殖、浸潤性に拡大しています。



今回の肛門嚢アポクリン腺癌は、肛門嚢周囲のアポクリン腺に由来する悪性腫瘍性病変でした。

癌組織は切除縁には露出されておらず、完全切除であると病理医から判定されました。



肛門嚢腺癌の予後ですが、生存期間中央値(MST)の比較報告がされています。

抗がん剤のみの化学療法ではMSTは212日、外科手術をせずに放射線療法と化学療法では402日、外科手術と放射線療法、化学療法を併用した場合は548日とのことです。

今回、外科手術だけでなく、ランちゃんには化学療法(トセラニブを使用)も併用させて頂いてます。

しかし、この肛門嚢アポクリン腺癌は強い転移能を有しますので、今後も患部と腰骨リンパ節群への転移を慎重にモニターする必要があります。



ランちゃん、お疲れ様でした!





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2018年8月10日 金曜日

犬の肛門周囲腺腫

こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのは、犬の肛門の腫瘍である肛門周囲腺腫です。


犬の皮膚・皮下組織に発生する腫瘍は、全腫瘍の3分の1を占めるとされます。

その中でも肛門周囲腺腫は肥満細胞腫について2番目に発生率が高い腫瘍とされます。

肛門周囲腺腫は肛門腫瘍の中でも80%以上を占めており、また良性の腫瘍であるため心配はないと考える向きもあります。

とは言え、肛門腫瘍の20%は悪性腫瘍(肛門周囲腺癌、肛門嚢アポクリン腺癌)です。

もし、悪性腫瘍であれば周囲臓器・局所リンパ節への浸潤、遠隔臓器への転移、術後の再発など慎重な対応が必要となります。


ミニュチュア・ピンシャーのゲン君(15歳、雄)は肛門が腫れているとのことで来院されました。



下写真のように時計方向で4~6時方向の肛門(黄色丸)が腫れているのがお分かり頂けると思います。



肛門腫瘍の可能性が高いと思われ、早速細胞診を実施しました。

結果として、肛門周囲腺腫が疑われます。



ゲン君自身も患部が気になるようで肛門を舐めたり、床に擦ったりしているようです。

患部の腫大も増大傾向を示しているとのことから、早速外科的に摘出することとなりました。

肛門周囲腺腫は雄、特に高齢で未去勢犬に多く認められることから男性ホルモン(アンドロゲン)依存性が考えられています。

今回はゲン君は肛門周囲腺腫摘出に加えて、去勢手術を実施することとしました。


気管挿管してイソフルランで麻酔導入してるゲン君です。



まずは去勢手術をするため、陰嚢周囲を消毒します。



陰嚢を切皮して、精巣を包む総鞘膜に切開を加えているところです。

去勢手術の模様は省略します。





次に伏せの姿勢にして、お尻を高く上げて肛門周囲腺腫の手術に移ります。





下写真黄色丸の腫瘍をこれから切除します。






事前に肛門嚢を圧迫して、分泌液をしっかり排出させます。

加えて、糞便の流出を防ぐために綿花を直腸内に挿入します。



腫瘍の近傍からメスを入れて行きます。

肛門の同心円状に平行に切皮します。



切皮すると腫瘍が顔を出します。



肛門周囲腺は発生学的には皮脂腺に分類されます。

一般に肛門周囲腺腫は浅在性で、悪性の肛門周囲腺癌などのように底部周囲組織への固着例は少ないとされます。

加えて、肛門周囲腺腫は数か月以上時間を掛けながら成長していき、無症候性で痛みを伴うことは少ないです。



いずれにせよ、肛門周囲は血管が多く集まっていますので摘出となるとそれなりの出血は避けられません。

極力、出血量を最小限にするためにバイポーラ(電気メス)で止血・切除を繰り返していきます。





下写真は腫瘍の基底部にアプローチしたところです。



下写真は腫瘍を切除したところです。




切除後の患部です。

特に出血もなく摘出は完了しました。



皮下組織を吸収糸で縫合した後に皮膚を縫合します。



縫合が終了しました。






全身麻酔からゲン君は少し覚醒し始めています。





摘出した肛門周囲腺腫の組織です。



下写真は顕微鏡写真の中拡大像です。



さらに強拡大像です。

下写真の肛門周囲腺は形態的に肝臓の細胞に似ています。

この肝様細胞に類似する多角形腫瘍細胞の島状増殖より患部は構成されています。






肛門周囲腺腫は良性腫瘍であり、リンパ節への浸潤・他の組織への遠隔転移もなく、完全摘出で90%以上が完治するとされています。

ゲン君は15歳という高齢での手術でしたので、麻酔等いろいろ不安な点もありましたが問題なくクリアできて良かったと思っています。


最後にゲン君の抜糸後の肛門周囲です。





ゲン君、お疲れ様でした!







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2017年12月11日 月曜日

犬の血管肉腫

こんにちは 院長の伊藤です。

脾臓に関わる疾病について、これまでに数件報告させて頂きました。

脾臓の結節性過形成血腫組織球性肉腫については下線をクリックして頂けると過去の記事が見れます。

興味のある方はご覧下さい。


さて、本日ご紹介しますのは犬の血管肉腫です。

この血管肉腫は悪性腫瘍の一つです。

血管肉腫は血管を構成する血管内皮細胞に由来する腫瘍です。

つまり血管が存在する場所であれば、どこで発生しますし高い転移性を持ちます。

特に脾臓は血管肉腫の好発部位で脾臓に発生する病変の第1位となっています。

犬の脾臓腫瘍の発生率において2/3ルールがあります。

脾臓腫瘤の約2/3は悪性腫瘍で、そのうちの2/3は血管肉腫と言うものです。



ミニュチュア・シュナウザーのポッケちゃん(10歳5か月、避妊済み)は腹囲の膨満、食欲・元気の低下で来院されました。



血液検査上では炎症性蛋白(CRP)が7.0㎎/dlオーバーと体の内部で高度の炎症がおこっていること、RBC(赤血球数)500万/μl、さらにHb(ヘモグロビン)9.5g/dl

Ht(ヘマトクリット) 28.6% 血小板数が147,000/μlと貧血傾向を示しています。

早速、レントゲン撮影を実施しました。

下写真の黄色丸は脾臓が腫大していることを示します。



下写真の赤丸は膀胱内に存在する尿石です。

これはストラバイト尿石であることが判明しました。



次いでエコー検査です。

脾臓が腫大しており、脾臓の腫瘤内部は低エコー源性を示す領域が認められます。



ここで脾臓が悪性の腫瘍なのか良性なのかを判断するのは難しいです。

組織生検をするのも一法ですが、生検した部位からの過剰な出血があれば、命に関わります。

脾臓腫瘤に由来する腹腔内出血(血腹)を呈した症例の1/3が良性の腫瘍であったとの報告があります。

良性であっても、脾臓が破裂して血腹になってしまうと考えた時に良性か悪性かの精密検査の意義は低いと思われます。

3㎝以上に達した脾臓腫瘤は術前の良性・悪性の判断する必要性はないとする獣医師もいます。

むしろ、迅速に脾臓を全摘出して血腹を防止した方が賢明です。

私も飼主様に脾臓の全摘出手術を薦めさせて頂きました。


ポッケちゃんの脾臓全摘出手術を始めます。



ポッケちゃんのお腹は見た目から若干張っている感じがあります。





腹膜下には腫大した脾臓が控えているはずですので、慎重に脾臓を傷つけないように腹膜を切開して行きます。



いきなり脾尾部が飛び出してきました。



続いて脾頭部です。

結節部が大きく膨隆しているのがお分かり頂けると思います。



脾臓表面は脾内出血のためかうっ血色を呈しています。





ポッケちゃんの体に対して脾臓が腫大してるのが分かります。



脾臓と胃をつなぐ動静脈を丁寧にシーリングしていきます。



バイクランプを用いて動静脈をシーリングします。





シーリング出来た箇所をメスで離断していきます。







最後に脾尾部のシーリング部位をメスで離断して脾臓全摘出は完了です。



ポッケちゃんのお腹を閉腹したところです。

術前と比較してお腹周りがスッキリした感じですね。

今回は写真を添付しませんでしたが、膀胱切開も一緒に行い膀胱内の結石も摘出しました。

また血管肉腫は他の臓器への転移率が高い腫瘍であるため、確認できる範囲を肉眼的レベルで診たところ、他の臓器への転移は認められませんでした。



手術はこれで終了です。

まだ麻酔から完全に覚めきれていないポッケちゃんです。



摘出した脾臓です。

脾頭部は腫瘤が結節を形成して、高度に膨隆してます。









この脾臓を病理検査に出しました。



病理検査の結果は血管肉腫でした。

下写真は低倍率の病理標本です。

異型性のある内皮細胞によって内張りされたスリット状・海綿状の血管腔が認められます。



高倍率の病理標本です。

病巣には出血、繊維素析出、壊死が頻繁に生じています。

腫瘍細胞は少量の弱酸性細胞質、軽度から中等度の大小不同を示す類円形正染核、明瞭な核小体を有しています。



さて、ポッケちゃんが血管肉腫であることが判明した以上、今後の治療計画を立てていく必要があります。

犬の血管肉腫における予後は極めて悪く、外科的脾臓摘出単独では2か月の生存率は31%、1年生存率は7%とされています。

外科的摘出後に化学療法を併用した場合は、生存期間は5~7か月間と生存期間の延長は期待できるとされます。


飼い主様と話し合った結果、化学療法を併用する治療方針を決めました。

治療効果・費用を比較して、塩酸ドキソルビシンとサイクロフォスフォマイドを使用する化学療法を選択しました。

この抗がん剤を3週間に1回投与(1クール)して5クール繰り返します。

下写真は塩酸ドキソルビシンです。

点滴に入れて投薬していきます。



ポッケちゃんに第1回目の化学療法を実施しているところです。





12月現在、ポッケちゃんの化学療法は5クール(全行程)を終了しました。

脾臓摘出後すでに5か月経過しました。

若干の貧血傾向はありますが、経過は良好です。

ポッケちゃんのご家族の熱心な応援もあって、本当に血管肉腫なのかと言うくらい活動性があります。

是非この調子でポッケちゃん、頑張って頂きたいと思います。

スタッフ共々、ポッケちゃんをバックアップしていきます!



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2017年11月 2日 木曜日

犬の脾血腫

こんにちは 院長の伊藤です。

犬において脾臓が腫大することは少なくありません。

脾臓が腫大すると血管肉腫に代表される悪性の腫瘍をイメージしがちです。

しかし、脾臓腫大でも良性腫瘍であったり、非腫瘍性のものである場合もあります。

以前、脾結節性過形成の記事を載せましたので、興味のある方はこちらを参照下さい。


さて本日ご紹介しますのは、脾臓の腫大であっても非腫瘍性である脾血腫についてコメントさせて頂きます。

パピヨンのコロ君(11歳8か月、雄、体重6.5kg)は元気消失・食欲廃絶とのことで来院されました。



腹部が腫大している感がありますので、レントゲン撮影を行いました。

下写真の黄色丸が腹腔内の大きなマス(塊)を示します。



さらに下写真の黄色矢印は、大きく腫大している脾臓を描出しているのが判明しました。



この時点でのコロ君の血液検査で赤血球数は536万、ヘマトクリット値は34.9%で正常値を共に下回っています。

コロ君はこれまで内分泌系疾患や免疫系疾患の既往歴はありません。

引き続き、超音波検査を実施しました。

下写真の脾臓内は大小さまざまな嚢胞が形成され、何らかの液体状のもの(血液や膿)が入っていると推察されました。



エコーの所見から血管肉腫のような脾臓実質の腫瘍ではなく、脾臓の内部で血管が破たんして出血した結果としての脾臓血腫が伺えます。

いずれにせよ、脾臓内での出血は進行している可能性があり、脾臓腫大に伴って、腹腔内での脾臓破裂が予想されますので脾臓全摘出をすることとしました。


コロ君に麻酔前投薬をします。



下写真の黄色丸は腹部の腫大を示しています。



腫大した脾臓が横隔膜を通して心臓を圧迫するのを防ぐために手術台を傾斜させます。



腹筋にメスを入れます。



開腹した腹腔内は大きく腫大した脾臓が顔を出しています。





脾臓を全摘出するにあたり、腹腔内から脾臓を持ち上げてある程度体外に出す必要があります。

この時、不用意に力を入れて脾臓を牽引しますと血管を損傷して、大出血する場合がありますので細心の注意が必要です。



脾臓を体外に出しました。



次いで脾動静脈や左胃大網動静脈などをバイクランプでシーリングしていきます。

以前は血管一本ずつを縫合糸で結紮して、大変時間を要しましたが、バイクランプを使用してから効率的に血管のシーリングが出来るようになりました。











血管のシーリングが完了して脾臓を拳上、摘出しているところです。



ほとんど出血はなく、無事脾臓の全摘出は終了しました。



今回のコロ君の脾臓の重量は894gありました。

特にこの時点で血腫を疑っておりましたので、脾摘出後の貧血が一番懸念されます。



脾臓を摘出した腹腔内ですが、特に周囲組織からの出血もなく、また腫大した脾臓が無くなった分、すっきりした感があります。



皮膚縫合が終了したところです。



麻酔から覚醒したコロ君です。

頑張りましたね。



摘出した脾臓は病理検査に出しました。

コロ君が入院中に脾血腫の診断が下りました。

腫瘍細胞は見つからないとのことでホッとしました。



1週間後の退院当日のコロ君です。

術後の貧血や播種性血管内凝固不全症候群(DIC)もなく、コロ君は無事退院して頂きました。




術後2週間が経過して抜糸のため、来院されたコロ君です。

退院後も体調は良好です。

縫合部も良好なので抜糸しました。

抜糸前と抜糸後の写真です。







摘出した脾臓です。

内部に血液を貯留しているため、暗赤色で膨満しているのがお分かり頂けると思います。





病理検査に提出するにあたり、メスで割を入れました。



メスを入れた瞬間に脾臓内の貯留した血液の血漿が勢いよく噴出しました。



脾臓の割面はこのように多量の血液を貯留しており、嚢胞の内面は浮腫を呈して血液の循環不全があったことを示しています。







下写真は病理検査の低倍率像です。

充血・うっ血や線維素析出により著明に拡張した複数の脾洞が認められます。



中等度の倍率像です。

脾洞の内皮細胞にも異型性細胞(腫瘍細胞)は認められません。




脾血腫は腹部への鈍性外傷や何らかの血管障害に続発して生ずる病変とされます。

今回、コロ君の血腫が何により生じたかは不明ですが、早急な処置を取れたのが良かったと思います。

脾臓の腫瘤性病変には腫瘍性(血管肉腫、リンパ腫、肥満細胞腫、組織球性肉腫、形質細胞腫)や非腫瘍性(脾血腫、結節性過形成、出血性梗塞など)の様々な物が含まれます。

結局、ある程度の脾臓の分類分けの見当がついたところで病理検査に出すことが肝要です。

そのためには外科的摘出が前提となることが多いでしょうから、ポイントは脾臓の腫大を早期に発見することに尽きます。


コロ君、お疲れ様でした!







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