犬の疾病
犬の尿石症(ストルバイト尿石症)
こんにちは 院長の伊藤です。
猫やハムスター、フクロモモンガ等のストルバイト尿石症についてはコメントさせて頂いてるのですが、肝心の犬のストルバイト尿石症については掲載するのを忘れていました。
そんなわけで本日は犬のストルバイト尿石症のお話です。
ミニチュア・シュナウザーのアリスちゃん(2歳6か月、雌)は頻尿・血尿を主徴に来院されました。
早速、尿検査をすると、尿pHは8、潜血反応は陽性、そして下写真のストルバイト結晶が認められました。
ミニチュア・シュナウザーはストルバイト尿石症の好発品種です。
低倍です。
高倍です。
ストルバイト結晶の特徴は4~6面体の西洋棺蓋状あるいはプリズム状を呈する形状です。
次いで膀胱内の状況を把握するため、エコー検査をしました。
下写真の黄色丸が結石と思われます。
全長約10㎜以上ありそうです。
加えてレントゲン撮影を実施しました。
腹背像です。
上写真の黄色丸が結石を示します。
結石を拡大します。
加えて側臥像です。
患部を拡大します。
この結石をそのままして置くわけにはいきません。
さらにこの結石が核になって大きくなっていく可能性があります。
結局、外科的に摘出することとしました。
下写真はアリスちゃんの膀胱です。
メスを入れます。
膀胱切開し、膀胱を圧迫しますと内部から結石が顔を出しました。
下写真黄色丸が摘出した結石です。
切開した部位から生理食塩水で膀胱内部をしっかり洗浄します。
場合によっては、エコーやレントゲン像で見落としている細かな砂粒状の結石もあるかもしれません。
次に膀胱をしっかりと縫合します。
絶えず尿が溜まる臓器なので、縫合部から漏れがあってはなりません。
縫合終了後は生理食塩水を膀胱内に注入して、縫合部からの漏出がないかを確認します。
あとは膀胱を腹腔内に戻して閉腹して終了です。
下写真は、今回摘出したストルバイト結石です。
しばしの入院生活の後、退院当日のアリスちゃんです。
排尿もスムーズにできるようになりました。
排尿障害に陥った場合、最悪尿毒症になって命に関わる場合もあります。
アリスちゃんは、しばらくストルバイト溶解食(s/d)を食べてもらい、ストルバイトが認められなくなったら尿酸性維持食に変更していきます。
お水もしっかり飲んでたくさん排尿するようにしていただきたいところです。
ストルバイト結石の生成原因や症状は猫のストルバイト尿石症の記事を参考にして下さい。
最後に退院でお迎えいただいた飼主様とのツーショットです。
にほんブログ村ランキングにエントリーしています。
宜しかったら、こちらをクリックして頂けるとブログ更新の励みとなります。
投稿者 院長 | 記事URL
犬の偽妊娠と乳腺炎
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、犬の乳腺炎です。
この乳腺炎が、実は偽妊娠と言ってヒトでは想像妊娠と言う表現をされることが多い症状を背景としたものであります。
ヨークシャ・テリアのユナちゃん(5歳、未避妊雌)は内股に大きな腫れが認められるとのことで来院されました。
下写真の黄色丸の部分が腫れている箇所です。
拡大しますと
左側第5乳房が腫脹しているのが分かります。
乳腺自体が大きく腫れており、乳腺内での出血も認められます。
乳腺腫瘍の合併症もあるかもしれません。
患部を試験的に穿刺して、細胞診をしました。
注射針で穿刺と同時に注射筒内に膿が吸引されました(下写真)。
内容を染色して、顕微鏡で確認します。
低倍の顕微鏡像です。
さらに拡大しますと、下写真の様にほとんどが増産された白血球です。
白血球も壊死を起こしているものもあり、膿瘍であることは明らかです。
ユナちゃんは細菌感染による乳腺炎(急性乳腺炎)を起こしていることが判明しました。
よくよく他の乳房を診ますと、圧迫すると乳汁が出ます。
ユナちゃんは特に交配、妊娠もしておらず、それでも泌乳が起こっていました。
この状態を偽妊娠と称します。
犬ではこの偽妊娠は一般的に認められます。
その原因は卵巣から産生される黄体ホルモンです。
発情期に入って排卵すると、妊娠維持のためこの黄体ホルモンが分泌されます。
妊娠が不成立の場合、排卵からしばらくすると黄体ホルモンの分泌は終了するはずですが、個体差で黄体ホルモンの分泌が過剰だと妊娠してなくとも分泌は続行します。
偽妊娠の犬は腹部膨満、乳腺の腫大、泌乳など妊娠した時の身体の状態や行動が現れ、巣をつくり仔犬の代わりになる玩具に執着したり、攻撃的になったりします。
急性乳腺炎を起こしたユナちゃんには抗生剤を処方しましたが、翌日患部を舐めて穴が開いたと来院されました。
患部の排膿がしっかりされていましたが、きれいに患部を洗浄消毒してステープラーで縫合します。
この偽妊娠については特に治療方法はなく、約12週以内に自然におさまります。
発情期の度に偽妊娠を繰り返す個体は、子宮・卵巣・乳腺に関与した疾病を発症するリスクが高いとされます。
根本的な治療法は避妊手術です。
避妊手術で術後は偽妊娠も治まります。
ユナちゃん、しばらく乳腺炎の治療が必要ですが頑張りましょうね!
にほんブログ村ランキングにエントリーしています。
宜しかったら、こちらをクリックして頂けるとブログ更新の励みになります!
本日ご紹介しますのは、犬の乳腺炎です。
この乳腺炎が、実は偽妊娠と言ってヒトでは想像妊娠と言う表現をされることが多い症状を背景としたものであります。
ヨークシャ・テリアのユナちゃん(5歳、未避妊雌)は内股に大きな腫れが認められるとのことで来院されました。
下写真の黄色丸の部分が腫れている箇所です。
拡大しますと
左側第5乳房が腫脹しているのが分かります。
乳腺自体が大きく腫れており、乳腺内での出血も認められます。
乳腺腫瘍の合併症もあるかもしれません。
患部を試験的に穿刺して、細胞診をしました。
注射針で穿刺と同時に注射筒内に膿が吸引されました(下写真)。
内容を染色して、顕微鏡で確認します。
低倍の顕微鏡像です。
さらに拡大しますと、下写真の様にほとんどが増産された白血球です。
白血球も壊死を起こしているものもあり、膿瘍であることは明らかです。
ユナちゃんは細菌感染による乳腺炎(急性乳腺炎)を起こしていることが判明しました。
よくよく他の乳房を診ますと、圧迫すると乳汁が出ます。
ユナちゃんは特に交配、妊娠もしておらず、それでも泌乳が起こっていました。
この状態を偽妊娠と称します。
犬ではこの偽妊娠は一般的に認められます。
その原因は卵巣から産生される黄体ホルモンです。
発情期に入って排卵すると、妊娠維持のためこの黄体ホルモンが分泌されます。
妊娠が不成立の場合、排卵からしばらくすると黄体ホルモンの分泌は終了するはずですが、個体差で黄体ホルモンの分泌が過剰だと妊娠してなくとも分泌は続行します。
偽妊娠の犬は腹部膨満、乳腺の腫大、泌乳など妊娠した時の身体の状態や行動が現れ、巣をつくり仔犬の代わりになる玩具に執着したり、攻撃的になったりします。
急性乳腺炎を起こしたユナちゃんには抗生剤を処方しましたが、翌日患部を舐めて穴が開いたと来院されました。
患部の排膿がしっかりされていましたが、きれいに患部を洗浄消毒してステープラーで縫合します。
この偽妊娠については特に治療方法はなく、約12週以内に自然におさまります。
発情期の度に偽妊娠を繰り返す個体は、子宮・卵巣・乳腺に関与した疾病を発症するリスクが高いとされます。
根本的な治療法は避妊手術です。
避妊手術で術後は偽妊娠も治まります。
ユナちゃん、しばらく乳腺炎の治療が必要ですが頑張りましょうね!
にほんブログ村ランキングにエントリーしています。
宜しかったら、こちらをクリックして頂けるとブログ更新の励みになります!
投稿者 院長 | 記事URL
犬の乾性角結膜炎(KCS)
こんにちは。
院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、犬の乾性角結膜炎(KCS、ドライ・アイ)です。
乾性角結膜炎とは、涙液の量的・質的の異常で角結膜の上皮が障害された状態を指していいます。
量的異常は、涙腺における涙液の産生量が低下した状態で免疫介在性の涙腺炎が原因とされます。
質的異常は、涙液量は正常ですが、涙液内の油分やムチン成分が異常で涙液が、眼表面で安定せず蒸発してしまうものです。
症状としては、結膜充血・角膜充血、潰瘍・膿性の眼脂・瞼の痙攣などが認められます。
ペキニーズのルピー君(13歳、去勢済)は1年ほど前より、眼が赤く痒がるとのことで来院されました。
ルピー君の眼球を診ますと角膜の光沢がなく、角膜の表在性炎症及び結膜炎も認められます。
眼脂がひどく、絶えず眼は眼脂で黄色く汚れています。
下にルピー君の眼球の拡大を載せます。
ちょっとピンボケで申し訳ありません。
ルピー君の眼球は乾燥しており、涙の流量が少ないようです。
そこで、涙の流量をチェックするためにシルマー試験を実施しました。
シルマー試薬を含む短冊状のろ紙を下瞼に挟んで、一分間あたりの涙のろ紙に染み込んでいく距離で涙量を判定する試験です。
下写真は左眼のシルマー試験です。
左眼は毎分5mmの目印に届くかなと言う成績でした。
右眼は下写真のように5mmは何とか超えるかなと言う感じです。
ルピー君のシルマー試験は左眼が5㎜、右眼が8㎜という結果です。
シルマー試験の判定は以下の通りです。
重度の乾性角結膜炎陽性は5㎜/分以下
軽度から中等度の乾性角結膜炎は6~10㎜/分
初期の乾性角結膜炎は11~14㎜/分
正常は15㎜以上
ルピー君は左が重度角結膜炎、右が中等度の角結膜炎と評価されます。
加えてルピー君は角膜損傷も認められました。
治療法ですが、ルピー君は明らかに涙液産生量が少ないため、免疫抑制作用のあるシクロスポリン製剤(眼軟膏)を点眼します。
シクロスポリンにより涙液分泌機能を刺激させるのが狙いです。
さらに抗生剤点眼薬や人工涙液を点眼して頂き、経過を診ていきます。
眼を痒がって自分でこするようなら、エリザベスカラーを装着が必要な場合もあります。
乾性角結膜炎は一度発症しますと長期間にわたる管理が必要となります。
ルピー君、点眼治療で快適に過ごせるよう頑張りましょう!
にほんブログ村ランキングにエントリーしています。
宜しかったら、こちらをクリックして頂けるとブログ更新の励みとなります。
投稿者 院長 | 記事URL