犬の疾病
犬の偽妊娠と乳腺炎
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、犬の乳腺炎です。
この乳腺炎が、実は偽妊娠と言ってヒトでは想像妊娠と言う表現をされることが多い症状を背景としたものであります。
ヨークシャ・テリアのユナちゃん(5歳、未避妊雌)は内股に大きな腫れが認められるとのことで来院されました。
下写真の黄色丸の部分が腫れている箇所です。
拡大しますと
左側第5乳房が腫脹しているのが分かります。
乳腺自体が大きく腫れており、乳腺内での出血も認められます。
乳腺腫瘍の合併症もあるかもしれません。
患部を試験的に穿刺して、細胞診をしました。
注射針で穿刺と同時に注射筒内に膿が吸引されました(下写真)。
内容を染色して、顕微鏡で確認します。
低倍の顕微鏡像です。
さらに拡大しますと、下写真の様にほとんどが増産された白血球です。
白血球も壊死を起こしているものもあり、膿瘍であることは明らかです。
ユナちゃんは細菌感染による乳腺炎(急性乳腺炎)を起こしていることが判明しました。
よくよく他の乳房を診ますと、圧迫すると乳汁が出ます。
ユナちゃんは特に交配、妊娠もしておらず、それでも泌乳が起こっていました。
この状態を偽妊娠と称します。
犬ではこの偽妊娠は一般的に認められます。
その原因は卵巣から産生される黄体ホルモンです。
発情期に入って排卵すると、妊娠維持のためこの黄体ホルモンが分泌されます。
妊娠が不成立の場合、排卵からしばらくすると黄体ホルモンの分泌は終了するはずですが、個体差で黄体ホルモンの分泌が過剰だと妊娠してなくとも分泌は続行します。
偽妊娠の犬は腹部膨満、乳腺の腫大、泌乳など妊娠した時の身体の状態や行動が現れ、巣をつくり仔犬の代わりになる玩具に執着したり、攻撃的になったりします。
急性乳腺炎を起こしたユナちゃんには抗生剤を処方しましたが、翌日患部を舐めて穴が開いたと来院されました。
患部の排膿がしっかりされていましたが、きれいに患部を洗浄消毒してステープラーで縫合します。
この偽妊娠については特に治療方法はなく、約12週以内に自然におさまります。
発情期の度に偽妊娠を繰り返す個体は、子宮・卵巣・乳腺に関与した疾病を発症するリスクが高いとされます。
根本的な治療法は避妊手術です。
避妊手術で術後は偽妊娠も治まります。
ユナちゃん、しばらく乳腺炎の治療が必要ですが頑張りましょうね!
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この乳腺炎が、実は偽妊娠と言ってヒトでは想像妊娠と言う表現をされることが多い症状を背景としたものであります。
ヨークシャ・テリアのユナちゃん(5歳、未避妊雌)は内股に大きな腫れが認められるとのことで来院されました。
下写真の黄色丸の部分が腫れている箇所です。
拡大しますと
左側第5乳房が腫脹しているのが分かります。
乳腺自体が大きく腫れており、乳腺内での出血も認められます。
乳腺腫瘍の合併症もあるかもしれません。
患部を試験的に穿刺して、細胞診をしました。
注射針で穿刺と同時に注射筒内に膿が吸引されました(下写真)。
内容を染色して、顕微鏡で確認します。
低倍の顕微鏡像です。
さらに拡大しますと、下写真の様にほとんどが増産された白血球です。
白血球も壊死を起こしているものもあり、膿瘍であることは明らかです。
ユナちゃんは細菌感染による乳腺炎(急性乳腺炎)を起こしていることが判明しました。
よくよく他の乳房を診ますと、圧迫すると乳汁が出ます。
ユナちゃんは特に交配、妊娠もしておらず、それでも泌乳が起こっていました。
この状態を偽妊娠と称します。
犬ではこの偽妊娠は一般的に認められます。
その原因は卵巣から産生される黄体ホルモンです。
発情期に入って排卵すると、妊娠維持のためこの黄体ホルモンが分泌されます。
妊娠が不成立の場合、排卵からしばらくすると黄体ホルモンの分泌は終了するはずですが、個体差で黄体ホルモンの分泌が過剰だと妊娠してなくとも分泌は続行します。
偽妊娠の犬は腹部膨満、乳腺の腫大、泌乳など妊娠した時の身体の状態や行動が現れ、巣をつくり仔犬の代わりになる玩具に執着したり、攻撃的になったりします。
急性乳腺炎を起こしたユナちゃんには抗生剤を処方しましたが、翌日患部を舐めて穴が開いたと来院されました。
患部の排膿がしっかりされていましたが、きれいに患部を洗浄消毒してステープラーで縫合します。
この偽妊娠については特に治療方法はなく、約12週以内に自然におさまります。
発情期の度に偽妊娠を繰り返す個体は、子宮・卵巣・乳腺に関与した疾病を発症するリスクが高いとされます。
根本的な治療法は避妊手術です。
避妊手術で術後は偽妊娠も治まります。
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投稿者 院長 | 記事URL
犬の乾性角結膜炎(KCS)
こんにちは。
院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、犬の乾性角結膜炎(KCS、ドライ・アイ)です。
乾性角結膜炎とは、涙液の量的・質的の異常で角結膜の上皮が障害された状態を指していいます。
量的異常は、涙腺における涙液の産生量が低下した状態で免疫介在性の涙腺炎が原因とされます。
質的異常は、涙液量は正常ですが、涙液内の油分やムチン成分が異常で涙液が、眼表面で安定せず蒸発してしまうものです。
症状としては、結膜充血・角膜充血、潰瘍・膿性の眼脂・瞼の痙攣などが認められます。
ペキニーズのルピー君(13歳、去勢済)は1年ほど前より、眼が赤く痒がるとのことで来院されました。
ルピー君の眼球を診ますと角膜の光沢がなく、角膜の表在性炎症及び結膜炎も認められます。
眼脂がひどく、絶えず眼は眼脂で黄色く汚れています。
下にルピー君の眼球の拡大を載せます。
ちょっとピンボケで申し訳ありません。
ルピー君の眼球は乾燥しており、涙の流量が少ないようです。
そこで、涙の流量をチェックするためにシルマー試験を実施しました。
シルマー試薬を含む短冊状のろ紙を下瞼に挟んで、一分間あたりの涙のろ紙に染み込んでいく距離で涙量を判定する試験です。
下写真は左眼のシルマー試験です。
左眼は毎分5mmの目印に届くかなと言う成績でした。
右眼は下写真のように5mmは何とか超えるかなと言う感じです。
ルピー君のシルマー試験は左眼が5㎜、右眼が8㎜という結果です。
シルマー試験の判定は以下の通りです。
重度の乾性角結膜炎陽性は5㎜/分以下
軽度から中等度の乾性角結膜炎は6~10㎜/分
初期の乾性角結膜炎は11~14㎜/分
正常は15㎜以上
ルピー君は左が重度角結膜炎、右が中等度の角結膜炎と評価されます。
加えてルピー君は角膜損傷も認められました。
治療法ですが、ルピー君は明らかに涙液産生量が少ないため、免疫抑制作用のあるシクロスポリン製剤(眼軟膏)を点眼します。
シクロスポリンにより涙液分泌機能を刺激させるのが狙いです。
さらに抗生剤点眼薬や人工涙液を点眼して頂き、経過を診ていきます。
眼を痒がって自分でこするようなら、エリザベスカラーを装着が必要な場合もあります。
乾性角結膜炎は一度発症しますと長期間にわたる管理が必要となります。
ルピー君、点眼治療で快適に過ごせるよう頑張りましょう!
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投稿者 院長 | 記事URL
犬の糞線虫感染症
院長の伊藤です。
犬は各種の寄生虫感染を幼犬期から受けます。
今回ご紹介しますのは、幼犬の糞線虫感染例です。
トイプードル君(2か月齢、雄、名称未定)は下痢が続くとのことで来院されました。
粘稠性のある軟便が数日間続いているとのことです。
早速、検便を実施しました。
下写真(黄色丸)に3匹のヘビのような寄生虫が認められます。
さらに拡大します。
この寄生虫は糞線虫(Strongyloides sterorali)の幼虫です。
糞線虫は数ある寄生虫の生活環の中でも変わったスタイルをとります。
糞線虫は大きく分けて2つの世代に分かれます。
1つは寄生生活世代:動物の腸管内に寄生する世代(♀のみ)
1つは自由生活世代:外界で発育・交尾する世代(♂と♀の両方が存在)
です。
感染様式ですが、既に感染している動物の排便された糞便内に存在する幼虫が外界で、成長・脱皮します。
外界では既に雄雌に分化しており、交尾をします。
脱皮を繰り返して第3期に成長した幼虫が、動物に摂取されると感染が成立します(経口感染)。
糞線虫の特徴として皮膚を穿孔して体内に侵入するケースもあります(経皮感染)。
以上、体内で寄生するのは雌のみです。
雌幼虫は皮膚から感染した場合は、肺に向かい(この時、せき込みが認められます)、そこから口、消化管へと寄生して腸で産卵、孵化します。
以上のように糞線虫の生活環は自由生活世代があるため、長い時間外界で生存可能です。
そのため、排便した糞は速やかに処分して、生活環境を清潔に保つようにして下さい。
治療法としては、1回だけの駆虫処置で落ちることはありません。
検便も並行して実施し、複数回に分けて継続的に駆虫薬を投薬していきます。
当院では、駆虫薬としてイベルメクチンやミルベマイシンオキシムを使用することが多いです。
成犬が糞線虫に感染すると水溶性下痢を起こしますが、症状に現れないケースもあります。
仔犬が感染すると激しい下痢、発育不良・体重低下が認められます。
さらに、状態によっては出血性の腸炎を起こして衰弱死する場合もあります。
気を付けて頂きたいのは、この糞線虫は人畜共通伝染病であることです。
糞の処置に気を付けないとヒトにも皮膚を穿孔して感染することもあります。
トイプードル君、早くこの糞線虫を駆虫して、下痢を治しましょう!
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犬は各種の寄生虫感染を幼犬期から受けます。
今回ご紹介しますのは、幼犬の糞線虫感染例です。
トイプードル君(2か月齢、雄、名称未定)は下痢が続くとのことで来院されました。
粘稠性のある軟便が数日間続いているとのことです。
早速、検便を実施しました。
下写真(黄色丸)に3匹のヘビのような寄生虫が認められます。
さらに拡大します。
この寄生虫は糞線虫(Strongyloides sterorali)の幼虫です。
糞線虫は数ある寄生虫の生活環の中でも変わったスタイルをとります。
糞線虫は大きく分けて2つの世代に分かれます。
1つは寄生生活世代:動物の腸管内に寄生する世代(♀のみ)
1つは自由生活世代:外界で発育・交尾する世代(♂と♀の両方が存在)
です。
感染様式ですが、既に感染している動物の排便された糞便内に存在する幼虫が外界で、成長・脱皮します。
外界では既に雄雌に分化しており、交尾をします。
脱皮を繰り返して第3期に成長した幼虫が、動物に摂取されると感染が成立します(経口感染)。
糞線虫の特徴として皮膚を穿孔して体内に侵入するケースもあります(経皮感染)。
以上、体内で寄生するのは雌のみです。
雌幼虫は皮膚から感染した場合は、肺に向かい(この時、せき込みが認められます)、そこから口、消化管へと寄生して腸で産卵、孵化します。
以上のように糞線虫の生活環は自由生活世代があるため、長い時間外界で生存可能です。
そのため、排便した糞は速やかに処分して、生活環境を清潔に保つようにして下さい。
治療法としては、1回だけの駆虫処置で落ちることはありません。
検便も並行して実施し、複数回に分けて継続的に駆虫薬を投薬していきます。
当院では、駆虫薬としてイベルメクチンやミルベマイシンオキシムを使用することが多いです。
成犬が糞線虫に感染すると水溶性下痢を起こしますが、症状に現れないケースもあります。
仔犬が感染すると激しい下痢、発育不良・体重低下が認められます。
さらに、状態によっては出血性の腸炎を起こして衰弱死する場合もあります。
気を付けて頂きたいのは、この糞線虫は人畜共通伝染病であることです。
糞の処置に気を付けないとヒトにも皮膚を穿孔して感染することもあります。
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投稿者 院長 | 記事URL
犬の肥満細胞腫(その3)
院長の伊藤です。
体調を崩して1週間ほど入院し、先日退院することが出来ました。
入院中は患者様に大変ご迷惑をおかけいたしました。
FacebookのHPにも励ましのメールを読者の皆様からたくさんいただき、ありがとうございました。
開業以来、十数年にわたり定休日以外は休むことなく頑張ってまいりましたが、だんだん無理の効かない年齢になってきたようです。
今後、自己の健康管理をしっかり行い、診療業務に邁進致しますのでよろしくお願い致します。
さて、本日ご紹介させて頂きますのは以前にもコメントしたことのある肥満細胞腫です。
肥満細胞腫は犬猫ともに発生率の高い皮膚の悪性腫瘍です。
発生は皮膚・皮下組織が発生率が一番高く、約90%が単発です。
肥満細胞腫は、その外観が発生部位によって多様な形状を示すことから "偉大なる詐欺師" と称されています。
過去の私の経験からもこの肥満細胞腫は直径5㎜位のものがわずか1か月で4~5cmまで大きくなったりしますので注意が必要です。
一般の飼主様にあっても、触って何かしこりがあるなと思われたら病院でしっかり確認して頂けると良いと思います。
ミックス犬のマロちゃん(雌、10歳8か月、体重20㎏)は左大腿部に大きなしこりが出来たとのことで来院されました。
下写真の黄色丸で囲んだ部分が腫瘤を示します。
約7㎝四方のものです。
早速、細胞診を実施しました。
良く見ますと、細胞質に細かな顆粒を持つ核が大小不同の細胞(肥満細胞)がたくさん認められます。
下写真は拡大した写真です。
検査に出したところ、肥満細胞腫のGradeⅡに相当するとのことでした。
現時点で腫瘍部が大きいため、外科的切除をするためには、マージン確保が非常に困難です。
腫瘍7㎝となりますと大きく組織を切除しなくてはなりませんので、ひとまずステロイドを術前投薬することとしました。
ステロイドの効果で腫瘍が小さくなってくれたら、そこでマージンも大きく取ることが可能です。
マージンが確保できれば、切除後の腫瘍再発も抑えることが出来るでしょう。
しばし、ステロイド内服を続けて頂いたマロちゃんです。
腫瘍の大きさが約1㎝に縮小しました。
ここで腫瘍摘出手術を実施することとしました。
マージンを2㎝は十分に取ることが出来そうです。
慎重に電気メスで皮下組織を切開剥離していきます。
摘出した腫瘍です。
皮下組織から筋膜にかけ、腫瘍細胞が存在していると思われる部位はメスで削ぎ落としていきます。
今回のマロちゃんの場合、筋肉内の腫瘍の浸潤は認められず筋膜を切除する程度で終了することが出来ました。
皮下組織を死腔の生じないように縫合します。
最後に皮膚を縫合して終了です。
マロちゃんは術後の経過もよく2日後に退院されました。
今後は肥満細胞腫の再発がないように定期的にチェックが必要です。
マロちゃん、お疲れ様でした!
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入院中は患者様に大変ご迷惑をおかけいたしました。
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今後、自己の健康管理をしっかり行い、診療業務に邁進致しますのでよろしくお願い致します。
さて、本日ご紹介させて頂きますのは以前にもコメントしたことのある肥満細胞腫です。
肥満細胞腫は犬猫ともに発生率の高い皮膚の悪性腫瘍です。
発生は皮膚・皮下組織が発生率が一番高く、約90%が単発です。
肥満細胞腫は、その外観が発生部位によって多様な形状を示すことから "偉大なる詐欺師" と称されています。
過去の私の経験からもこの肥満細胞腫は直径5㎜位のものがわずか1か月で4~5cmまで大きくなったりしますので注意が必要です。
一般の飼主様にあっても、触って何かしこりがあるなと思われたら病院でしっかり確認して頂けると良いと思います。
ミックス犬のマロちゃん(雌、10歳8か月、体重20㎏)は左大腿部に大きなしこりが出来たとのことで来院されました。
下写真の黄色丸で囲んだ部分が腫瘤を示します。
約7㎝四方のものです。
早速、細胞診を実施しました。
良く見ますと、細胞質に細かな顆粒を持つ核が大小不同の細胞(肥満細胞)がたくさん認められます。
下写真は拡大した写真です。
検査に出したところ、肥満細胞腫のGradeⅡに相当するとのことでした。
現時点で腫瘍部が大きいため、外科的切除をするためには、マージン確保が非常に困難です。
腫瘍7㎝となりますと大きく組織を切除しなくてはなりませんので、ひとまずステロイドを術前投薬することとしました。
ステロイドの効果で腫瘍が小さくなってくれたら、そこでマージンも大きく取ることが可能です。
マージンが確保できれば、切除後の腫瘍再発も抑えることが出来るでしょう。
しばし、ステロイド内服を続けて頂いたマロちゃんです。
腫瘍の大きさが約1㎝に縮小しました。
ここで腫瘍摘出手術を実施することとしました。
マージンを2㎝は十分に取ることが出来そうです。
慎重に電気メスで皮下組織を切開剥離していきます。
摘出した腫瘍です。
皮下組織から筋膜にかけ、腫瘍細胞が存在していると思われる部位はメスで削ぎ落としていきます。
今回のマロちゃんの場合、筋肉内の腫瘍の浸潤は認められず筋膜を切除する程度で終了することが出来ました。
皮下組織を死腔の生じないように縫合します。
最後に皮膚を縫合して終了です。
マロちゃんは術後の経過もよく2日後に退院されました。
今後は肥満細胞腫の再発がないように定期的にチェックが必要です。
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投稿者 院長 | 記事URL
トイプードルの膝蓋骨内方脱臼整復手術
犬の膝に存在する膝蓋骨が脱臼することを膝蓋骨脱臼と言います。
膝蓋骨は本来、大腿骨の膝側にある滑車溝という溝にはまって上下に滑空して正常な膝関節の運動をしています。
この膝蓋骨が膝の内側に脱臼することを内方脱臼、外側に脱臼することを外方脱臼と呼びます。
膝蓋骨脱臼には先天性と後天性があります。
先天性は生まれつき膝関節の周りの筋肉・骨・靭帯に形成異常があることが多いとされ、小型犬(トイ・プードル、ポメラニアン、チワワ、マルチーズ等)に多く発症し、多くが内方脱臼です。
初期のステージでは無症状であることが多く、進行と共に跛行(びっこをひくこと)を呈するようになります。
膝蓋骨脱臼には症状に応じて4つのステージに分類分けがされています。
グレード1は膝蓋骨は正常な位置にあり、肢を伸展させ指で膝蓋骨を圧迫すると脱臼し、指を離すと膝蓋骨は元に戻ります。
無症状であることが多いです。
グレード2は膝蓋骨は不安定な状態で、膝関節を屈曲した状態にすると膝蓋骨は脱臼します。
この時ヒトが手を貸せば簡単に整復できます。
しかし、この状態で治療せずにいると骨が変形・靭帯が伸びてグレード3に移行します。
グレード3は膝蓋骨は常時脱臼しており、指で押せば整復できてもすぐに脱臼してしまいます。
跛行するようになり、大腿骨・脛骨の変形が認められるようになります。
グレード4は膝蓋骨が常時脱臼しており、整復することは不可能です。
膝を曲げたままの姿勢で歩行するようになります。
大腿骨・脛骨の変形はさらに重度となります。
さて前説が長くなってしまいましたが、本日はこの膝蓋骨脱臼の整復手術をご紹介させて頂きます。
トイプードルのちょころ君(2歳4か月、去勢済)は膝蓋骨内方脱臼・グレード3の状態で来院されました。
もともとは4か月齢から右膝蓋骨脱臼がグレード2で跛行症状が度々出ていたのですが、飼主様の意向もありサプリメントで対応していました。
それでも、いよいよ跛行が酷くなられて手術の決心をされました。
まずはちょころ君のレントゲン撮影です。
黄色丸の部位で、右膝蓋骨が内方脱臼しているのがお分かり頂けると思います。
この膝蓋骨脱臼の整復手術は昔から各種手術法が考案されています。
ただこの手術法がベストと言うものはなく、いくつかの手術法を組み合わせて実施しているのが現状です。
手術法としては、滑車溝をつくる滑車造溝術、脛骨粗面に切り込みを入れて膝蓋靭帯のアライメントを矯正する脛骨粗面転移術、外側の関節包に切開を加えて縫縮する方法、膝蓋骨が内方に脱臼しないようにステンレス製のインプラント(パラガード)を打ち込む方法等など多彩の術式があります。
私自身、開業当初からこの膝蓋骨脱臼には関心があり、現在に至るまで数百件の脱臼整復手術を行っております。
これまで私自身が採用した術式にも変遷があり、以前は滑車造溝術と脛骨粗面転移術の組み合わせ、あるいは滑車造溝術とパラガードの組み合わせ、最近は滑車造溝術と切開した関節包と膝蓋骨を縫合する方法を採っています。
さて、ちょころ君の手術ですが、膝周辺の皮膚を切開して膝関節の膝蓋靭帯の内側と外側をザックリと切開します。
一旦、膝蓋骨を内方に脱臼させて、滑車溝を確認します。
下写真の黄色矢印が滑車溝ですが、浅く未成熟で変形しています。
この滑車溝を高速バーで削って深い溝を作成していきます。
金ヤスリも使用して溝を完成させます。
次に膝蓋骨を滑車溝に戻して、切開した関節包と膝蓋骨を滑車溝に押し付けるような感じで縫合糸(PDSⅡ)で縫合していきます。
reverse surgeon knotという縫合法で結紮していきます。
これで手術は終了です。
下レントゲン写真は術後のものです。
黄色丸の部分で膝蓋骨が滑車溝の真ん中に納まっています。
術後のちょころ君の経過は良好です(下写真は術後2日目)。
術後2日目には患肢に荷重して歩行可能となりました。
さらに2か月後のちょころ君です。
普通に歩行しています。
この膝蓋骨脱臼はグレードが1から4に向けて徐々に進行していきます。
特に先天性膝蓋骨脱臼については仔犬の頃から症状は出ると思いますので、床は滑らないようにフローリングの上には絨毯やマットを敷くようにして下さい。
さらに脱臼に伴って変形性関節症も起こっている場合には、疼痛管理の内科的治療が必要になったりします。
関節に対して栄養を補助するサプリメントも各社から出ていますので利用されると良いでしょう。
グレード2で整復手術を早い時期に受けられるのがベストと思います。
ちょころ君は跛行も出なくなりました。
もう少しで、思いっきり駆け回ることが出来ますね!
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投稿者 院長 | 記事URL