アーカイブシリーズ

2023年8月24日 木曜日

猫の恥骨前尿道造瘻術(尿路変更術)


こんにちは 院長の伊藤です。


先日、猫の下部尿路疾患(終章 排尿復旧)を載せました。

この手術法について、詳しく知りたいとの読者の方からお声があり、以前の掲載記事を再度載せます。




尿石症を背景に排尿障害で苦しんでいる猫は多いです。

これまでにも猫の尿石症とその治療についてはコメントさせて頂きました。

そして、この尿石症で排尿不可能となり、尿毒症に至る症例については外科的手術で尿路変更術を施します。

以前、その尿路変更術の一つである会陰尿道瘻形成術について報告をさせて頂きました。

その詳細はこちらをクリックして下さい。




会陰尿道瘻形成術が功を奏しないとき、骨盤腔内の尿道損傷、あるいは猫泌尿器症候群に有用とされる恥骨前尿道造瘻術を本日ご紹介させて頂きます。

この術式の特徴は、尿道を骨盤腔内を通過させることなく腹壁に開口させるものです。

イメージとしては、乳房に尿道を移動させて、乳房から排尿させる手術です。



猫のぴーちゃん(手術当時2歳、雄)はストルバイト尿石症により、以前から排尿障害を繰り返しており、当院にて会陰尿道瘻形成術を受けました。

その後の経過は9か月ほど良好であったのですが、再度排尿障害を起こし始めました。



入院して頂き、尿道カテーテルを挿入して排尿障害の改善を試みましたが効果が認められません。

救命処置として恥骨前尿道造瘻術を行うこととしました。

開腹して、骨盤腔内にある尿道を牽引して一番下の第4乳房を切除して、牽引してきた尿道を乳房のあった位置から皮膚に縫合します(下イラスト参照)。



手術の前半は、ビデオで撮影していたため、荒い静止画像で申し訳ありません。

下写真は開腹して体外に出した膀胱です。

排尿障害により、膀胱炎も併発し膀胱壁は肥厚してゴツゴツしています。



下写真の黄色矢印で示したのが、膀胱を牽引して骨盤腔に近い位置にある尿道です。



下写真黄色矢印が、さらに骨盤腔から牽引してきた尿道です。

尿道で一番太い箇所です。



この尿道を鋏でカットします。

カットした尿道の断面です(下写真黄色丸)。



次に乳房をカットします。

下写真の円形になっているところが乳房のあった部位です。



乳房の直下の腹筋に穴を開けて尿道が通るようにします。



尿道を体外に誘導しました(下写真黄色矢印)。



次に、体外に牽引した尿道(下イラストの茶色い円柱状のもの)を皮下組織と皮膚に5-0の非吸収性モノフィラメント縫合糸で縫合していきます。

下イラストの要領で実施します。





実際の写真は以下の通りです。

以下の写真はデジカメのもので画像は多少見やすくなっていると思います。





体外に誘導した尿道を6か所で、皮膚・皮下組織・尿道と縫合糸を通します。





最後に、尿道カテーテルをこの新たな尿道口へ留置し、排尿を確保させます。



尿道カテーテルを抜去した後、確実に自力で排尿できるまで入院して頂き、1週間後の退院となりました。

術後30日後のぴーちゃんです。



下写真の黄色丸が体外に出した尿道を皮膚に縫合した部位です。

術後30日でもまだピンク色を呈し、術部の血行が良好なのが伺えます。

排尿も自力で可能であり、患部周辺の若干の尿カブレは認められるものの、患部を衛生的に清拭することでクリアできています。




術後3か月のぴーちゃんです。



トイレで排尿時の音が、離れていても聞こえる位に快適に排尿が出来るようになりました。



術部の拡大写真(黄色丸)です。




さらに2年後のぴーちゃんです。



開腹時の縫合跡が、皮膚の牽引により明瞭です。

術部(下写真黄色丸)は小さな穴という感じで認められます。

排尿も気持ちよく出来ていますが、長毛種のため尿のしぶきが被毛に付くため、まめな術部の剃毛が必要です。



この術式は本来の尿路とは異なる部位に尿道を再建・開口させます。

排尿させなければ、命に関わりますから止むを得ない処置ですが、自力で蓄尿・排尿は可能です。

乳房からの排尿となりますので、術部を清潔に保つ配慮は不可欠です。

また床面との接触、干渉もありますので尿道口の炎症から膀胱炎に至るケースもあります。

ぴーちゃん、気持ちよく排尿できるようになって良かったね!



最後に仲良しのお兄ちゃんとのツーショットです。





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2023年7月31日 月曜日

アーカイブシリーズ 犬の会陰ヘルニア(その1 前立腺脱出)

こんにちは 院長の伊藤です。

本日は久しぶりの犬の疾病紹介です。

犬の世界も高齢化が進んでおり、若い時期に去勢していなかった高齢犬が発症しやすい疾病です。

2012年4月に当院HPに掲載した記事です。

会陰ヘルニアについての術式は現時点でも決定打はなく、術者の好みで各種の術式が提唱されています。

今回、ご紹介するシリコンプレートは現在、私は使用していません。

それでも11年前の術式としては、その後の再発もなく完治しました。

宜しかったら、ご覧下さい。







当院のホームページの去勢・避妊の項目で軽く会陰ヘルニアについてコメントしましたが、今回この会陰ヘルニアについて詳細を載せたいと思います。

去勢をせずにシニア世代を迎える雄犬は、会陰ヘルニアをよく発症します。

骨盤隔膜という骨盤腔内の臓器が突出するのを防ぐ筋肉群があります。

この筋肉が加齢や性ホルモン分泌などによって、薄くなったり欠損して筋肉の隙間を骨盤内の臓器が飛び出して、皮下にヘルニアを形成します。

ヘルニアとは体内の臓器などが、本来あるべき部位から脱出した状態を指します。

この状態を会陰ヘルニアと呼びます。

脱出する臓器が、前立腺や膀胱であったり、直腸であったりします。

直腸の場合は、屈曲する直腸により排便時のしぶりや便秘が起こります。

自力で排便できず、飼い主様が肛門に指を入れて、摘便する場合もあります。

膀胱の場合は尿道が圧迫され、排尿障害に至り、緊急の手術が必要となります。

今回、ご紹介するのは10歳の未去勢雑種のチビ君です。

下の写真はお尻のアップです。







上の写真のように左側の会陰部が腫れ上がって、排便排尿時に非常に息むようになったとのことで来院されました。

血尿も混じるとのことで、緊急性もあり手術を実施することとなりました。

腫れている部分は皮下におそらくヘルニアが突出していますので、慎重に切開します。






この飛び出しているものはなんだと思いますか?

実は前立腺なんです。前立腺周囲嚢胞と言って、内部に浸出液を貯留しています。



実は前立腺嚢胞の内溶液を吸引しても、ヘルニア孔を介して脱出した前立腺を元の位置に収めることができませんでした。

前立腺が膀胱に比べてもかなり貯留液で膨満して大きくなっていました。




結局、下腹部を開腹して会陰部へ脱出している前立腺を腹腔内へ牽引しました。




上の写真で右端にあるのが膀胱です。左端に広がっているのが、内溶液を吸引後の前立腺です。



ここで前立腺全摘出も考えましたが、術後の出血・尿失禁等の合併症で術後の生活の質を悪化させる可能性があるため、今回は去勢を実施するのみで終了することとしました。

次に会陰部に戻り、ヘルニア孔を閉鎖する手術に移ります。

従来、この会陰エルニアの整復手術は決定版というものがなく、先に述べた骨盤隔膜を構成する筋肉(外肛門括約筋、肛門挙筋、内閉鎖筋、浅殿筋等)をうまく縫合して、ヘルニア孔を閉鎖する方法が報告されています。

今回、私が使用したのは人工材料としてのシリコンをヘルニア孔の閉鎖に用いました。

このシリコンプレートの利点は、手術時間が短時間で済むこと。多大な張力をかけて筋肉を引き寄せる必要がないので、骨盤隔膜が委縮してたり、薄くなっていても適応できるといったメリットがあります。

下の写真がシリコンプレートです。







周辺の筋肉にしっかりと縫合して、シリコンプレートのがたつき、浮きがないのを確認して皮膚縫合します。





会陰部の腫れも術前のようになく、すっきりしているのがお分かりいただけると思います。

その後の経過は、良好です。

この会陰ヘルニア整復手術は再発率が高く、骨盤隔膜の筋肉を利用する術式でも10~46%と米国で報告されています。

やはり、この疾患はなってから直すよりも早い時期に去勢手術を受けて、発症予防に努めていただきたいと思います。




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2023年7月29日 土曜日

アーカイブシリーズ ヨツユビハリネズミの子宮内膜間質結節

こんにちは 院長の伊藤です。

本日、ご紹介しますのはヨツユビハリネズミの子宮内膜間質結節の症例です。

ハリネズミは子宮内膜炎、子宮内膜ポリープ、子宮内膜間質肉腫など子宮疾患が非常に多い動物種です。

そんな中で子宮頚部に非常に大きな結節が生じたケースで、病理学的には子宮内膜間質結節と言われる疾病です。




ヨツユビハリネズミのハルちゃん(雌、2歳6か月齢、体重310g)は血尿が出るとのことで来院されました。

下写真のように下半身は出血で汚れているのがお分かり頂けると思います。



ヨツユビハリネズミの雌で、2歳齢以降の血尿は子宮疾患を疑います。

出血による貧血などの全身状態は、まだ全身麻酔に耐えられると判断しました。

飼主様に可能であれば、早急に試験的開腹を行い、状況に応じて卵巣子宮を全摘出すべきであることをお伝えしました。

飼い主様の了解を得て、早速手術です。

ハルちゃんに麻酔導入ケースに入ってもらい、イソフルランによる麻酔導入を行います。



麻酔導入が完了しました。



マスクを装着してイソフルランによる維持麻酔に切り替えます。

生体情報モニターの電極を装着します。

メスを入れる皮膚をバリカンで剃毛します。



仕上げにカミソリで剃毛します。



患部を消毒します。



この姿勢でモニター監視のもと手術を行います。



硬性メスで皮膚を切皮します。



腹筋を切開します。



腹筋を切開した直後に直下に位置する子宮が飛び出してきました。



下写真で私がつまんでいるのが子宮頚部です。

今回の子宮頚部はかなり腫大しています。





下写真の黄色矢印は左右の子宮角と呼ばれる部位です。

白矢印は左右の卵巣動静脈です。



下写真の黄色矢印は膀胱です。

膀胱には腫瘍は浸潤していないように見えます。



卵巣を子宮頚部から分離するため、両側の卵巣動静脈をバイクランプでシーリングします。



メスでシーリング部を離断します。



次に子宮頚部の子宮動静脈をシーリングするため、血管を頚部から剥離します。



両側の子宮動静脈をシーリングします。



子宮動静脈のシーリングが完了したところです。

反対側の子宮動静脈も同じくシーリングします。



ご覧の通りに子宮頚部の腫大が著しいです。

本来ならば、この子宮頚部を縫合糸で結紮して外科鋏で離断して終了となります。

今回の腫大レベルでは縫合糸による結紮は不可能です。

膀胱は機能していますので温存できると判断しました。

あとは子宮頚部の内部の腫瘍ごとスッポと外せないか悩みました。

結果、膀胱の直上に二本の縫合糸をかけて、中間部を切開して腫瘍ごと引っこ抜くという術式を試みました。



二本の縫合糸を子宮頚部にかけます。



子宮動静脈をシーリングした部位に狙いをつけてメスで切り込みを入れます。



メスを入れると同時に子宮頚部筋層からの出血が始まりました。

この子宮頚部の内部からの出血が止まらないようなら、この縫合糸で結紮して止血する予定です。



切開した子宮頚部の内部からは変性した子宮内膜組織がはみ出る位の勢いで飛び出しました。



下写真黄色矢印は、子宮頚部の飛び出した内膜組織です。

大型のポリープ状腫瘤です。



下写真の黄色矢印方向に引き上げるとそのまま子宮頚部から剥離して外れ始めました。



予想した通りにポリープ状腫瘤は綺麗に外れました。



子宮頚部内部からの出血はそれほどはなく、準備していた縫合糸による結紮は必要ありませんでした。



そのまま子宮頚部を横断して切開します。





下写真の黄色矢印は綺麗に子宮頚部内膜組織が外れた後の頚部切断面です。



出血もほとんどない状態で、このまま頚部切断面を縫合します。







これで子宮頚部の縫合終了です。



最後に腹腔内の出血や腫瘍と思しき組織の有無を確認します。



腹筋を縫合します。



皮膚を縫合します。



手術は終了しました。

下写真は今回摘出した卵巣と子宮です。

特に子宮頚部の内膜組織(ポリープ状腫瘤)がいかに大きいかお分かり頂けると思います。



全身麻酔から覚醒したばかりのハルちゃんです。



術後10分で既に歩行しているのをみるとハリネズミはタフな動物であると感動します。



下写真は今回摘出した卵巣・子宮です。



黄色矢印は子宮角で、白矢印は子宮頚部、そして青矢印は子宮頚部離断面から突出したポリープ状の腫瘤です。





下写真は、病理写真(低倍像)です。

ポリープの表層部は自壊して壊死と炎症細胞が浸潤しています。



下は中拡大像です。

ポリープの中心部では多結節状に間質細胞が増殖しています。



間質細胞の中には細胞異型性(腫瘍細胞)が軽度から中等度で、核分裂像が認められます。

この腫瘍細胞は子宮内膜側に限局され、子宮筋層への浸潤はありません。



両卵巣に異常な所見は認められませんでした。

結論として、子宮内膜に由来する腫瘍性病変が認められましたが、これは良性の腫瘍でした。

病理組織学的な診断名は子宮内膜間質結節です。

また、病理医からの評価として病巣部は完全切除されており、良好な予後が期待できるとのことです。

今回、子宮頚部のポリープ状腫瘤(腫瘍)が子宮筋層まで浸潤しておらず、そのまま全部摘出できたのが良かったと思います。

過去に子宮頚部の内膜から筋層及び膀胱まで腫瘍が浸潤して、摘出を断念した症例もあります。

全てのハリネズミの子宮頚部の腫瘤が、今回のような子宮内膜間質結節ではありません。

子宮内膜と子宮筋層がヨツユビハリネズミの場合は綺麗に剥離できるのが興味深い点です。

犬や猫では今回の様には展開しません。

その点では、このような子宮頚部において内膜が結節上に腫大した事例は今後、今回の術式で対応できると思われます。




翌日のハルちゃんですが、しっかり食欲もあります。







ハリネズミのようにスキンシップがしっかり出来ない動物では、血尿でも気づかれない事例も多いです。

ヨツユビハリネズミは、2歳以降で血尿が継続する雌の場合は、子宮疾患を疑い、早めの受診をお願い致します。

ハルちゃん、お疲れ様でした!




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2023年7月22日 土曜日

アーカイブシリーズ ヨツユビハリネズミの平滑筋肉腫(その2)

こんにちは 院長の伊藤です。

本日もヨツユビハリネズミの産科疾患、平滑筋肉腫について当院HPよりアーカイブシリーズとしてご紹介します。

当院HP 2019年6月19日の掲載記事です。

宜しかったらご覧下さい。






こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのは、ハリネズミの平滑筋肉腫です。

平滑筋とは消化器や呼吸器,泌尿器,生殖器,血管などの壁にあって,緊張の保持と収縮を司る筋肉です。

意志とは無関係に働くので,不随意筋の一種です。

そんな平滑筋ですが、悪性の腫瘍(肉腫)として発症する場合があります。

過去にハリネズミの平滑筋肉腫として記事を載せてますので、宜しかったらこちらもクリックして下さい。



ヨツユビハリネズミのもぐちゃん(雌、1歳8か月齢)は陰部周囲が腫れているとのことで来院されました。

下写真黄色丸は出血を伴った外陰部周囲の腫瘤です。



ハリネズミは下腹部の皮膚の状態を診るにあたり、緊張・興奮により体を常時丸くしますので鎮静をかけなくてはならないことが多いです。

もぐちゃんの腫瘤をパッと見た感じでは膣脱の可能性があると思われました。

以前、当院のHPにてハリネズミの膣脱について記事を載せています。

興味のある方はこちらをクリックして下さい。

もぐちゃんが膣脱の場合、抗生剤や消炎剤の投薬で膣が戻る場合がありますので、ひとまず内科的治療で経過を確認させて頂きました。

2週間以上経過したところで、患部の縮小もなく,さらに腫大傾向があるとのことで外科的に切除することとなりました。

イソフルランで麻酔導入を実施します。



維持麻酔に切り替えます。

もぐちゃんの陰部周辺は出血で汚染されています。



外陰部全体が腫脹しているように見えます。



腫瘤を裏側から見た画像です。



腫瘤を自傷したり、床材との干渉や体表の針が刺さったりなどで患部は出血、痂皮形成を繰り返してきたことが伺えます。



患部を綺麗に洗浄消毒します。





洗浄後の患部です。

この角度から見ると膣脱と言うよりは、外陰部を裏打ちするように内部から腫瘤が形性されている感があります。





この段階では、膣脱の可能性もあるとみており、卵巣子宮全摘出術を先に実施しました。





卵巣子宮全摘の模様は、今回の本筋ではありませんので簡単に流します。



腹筋を切開します。



子宮頚部を結紮してます。



子宮頚部をメスで離断します。

この段階で特に子宮頚部が腫脹していたり、頚部に腫瘍と思しき病変は認められません



下腹部の縫合は終了です。

下写真黄色丸は摘出した卵巣子宮です。



さて本題の腫瘤摘出です。

膣脱であれば、下写真の黄色矢印から膣部が突出するはずなのですが、外陰部自体(下写真黄色丸)が腫瘍で腫れ上がっています。

従って、膣脱は否定されました。

意識下では暴れて患部の詳細を確認することがハリネズミは非常に難しいため、全身麻酔下で詳細が確認されるケースは多いです。



外陰部の腹側面を牽引して露出し、皮膚を切開してから内部の腫瘤にアプローチすることとしました。



バイポーラ(電気メス)で切開・止血を慎重に行います。



ご覧の通りの細かな作業となります。



外陰部の皮膚を切開して行くと皮下に明らかな腫瘤(腫瘍)が認められました。





太い栄養血管に包まれた腫瘍組織です。





出来る限りマージンを取るようにして、外陰部の皮膚を外科鋏で切断します。





外陰部の皮膚を切除した跡の写真です。



摘出した腫瘍組織(赤色丸)と卵巣子宮(黄色丸)です。



切除後の外陰部の皮膚を縫合します。



縫合終了です。



全身麻酔を切って覚醒を待ちます。



覚醒したもぐちゃんです。



覚醒直後から歩行を始めました。



摘出した腫瘍です。





摘出した腫瘍を病理検査に出しました。

診断は平滑筋肉腫でした。

肉腫に相当する悪性腫瘍性病変です。

下写真は中拡大像です。

病巣部は不規則に錯綜しながら増生する平滑筋様の束状の腫瘍増生巣で構成されています。



下写真は高倍率像です。

卵円形核と好酸性細胞質を有する長紡錘形細胞が増殖しています。

細胞異型性は中等度で核分裂像が散見されます。



病理検査では切断面への腫瘍細胞の露出は見られないとのことですが、今後ももぐちゃんの局所再発のモニターは必要です。



術後2日目にもぐちゃんは退院して頂きました。

もぐちゃん、お疲れ様でした!







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2023年7月19日 水曜日

アーカイブシリーズ ヨツユビハリネズミの卵巣腫瘍(起源不明の腫瘍)

こんにちは 院長の伊藤です。

本日も引き続き、ヨツユビハリネズミの産科疾患で卵巣腫瘍の症例をご紹介します。

腫瘍はその発生起源が上皮性なのか間葉系なのか、いろいろなケースがありますが病理医の判断で不明となる事例もあります。

今回の事例は発生起源が不明の卵巣腫瘍です。

2018年11月2日に当院HPに掲載した記事です。

宜しかったら、ご覧下さい。











こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのはハリネズミの卵巣腫瘍の症例です。

ハリネズミの雌においては、2歳以降に血尿で来院される場合、多くが子宮卵巣の腫瘍が関与していることが多いです。

実際、早期に血尿を見つけて外科的に卵巣子宮を摘出できれば、予後は良好です。

今回は、摘出した卵巣が腫瘍になっていたケースです。


ヨツユビハリネズミのしげぞうちゃん(雌、2歳6か月、体重600g)は血尿が出たとのことで来院されました。

血尿に関しては、まだ大量出血というステージではありません。



産科系疾患の予防医学的な面も含めて、卵巣子宮全摘出を飼主様が希望されたこともあり、手術を実施することとなりました。

いつも通りのイソフルランによる麻酔導入を実施します。

しげぞうちゃんには麻酔導入箱に入ってもらいます。



イソフルランが効いてきて足がふらつき始めます。



麻酔導入が完了したところで、下腹部を剃毛・消毒してモニターのセンサーを装着します。



皮膚にメスを入れます。



皮膚切開時に多少、下腹部を圧迫したためか陰部から出血が認められました(下写真黄色丸)。

下写真の外に出ている臓器は膀胱であり、膀胱内の出血は無いのがお分かり頂けると思います。

この点からも、膀胱炎などが原因の血尿と言うわけではなく、卵巣子宮からの出血が絡んだものであることが推察されます。



下写真の青矢印が子宮体であり、子宮角は若干腫大しており、一部内出血があるようです。

加えて、黄色丸は左の卵巣ですが大きく結節大に腫脹しています。



黄色矢印は嚢胞状を呈した卵巣を示します。





膀胱内には大量に蓄尿があり、子宮頚部を縫合糸で結紮する上で障害となりますので、注射針で膀胱穿刺して尿を吸引します。



卵巣動静脈をバイクランプでシーリングします。



シーリングした血管をメスで離断します。



反対側の卵巣もシーリングします。



子宮頚部を縫合糸で結紮をします。





子宮頚部を結紮すると血行が遮断されますので、卵巣や子宮角部の高度に血管が怒張・浸潤している部位が明瞭に分かります。



メスで子宮頚部を離断します。



子宮頚部を離断すると一挙に子宮内から血液が出て来ました。



メスで離断した子宮頚部を縫合します。



腹腔内に腫瘍が転移していないか、確認します。

肉眼的には他の臓器への腫瘍は認められませんでした。



腹筋を縫合します。



皮膚を縫合して手術は終了です。



陰部からの出血が認められます。



麻酔から覚醒したばかりのしげぞうちゃんです。





麻酔覚醒は順調で問題ありませんでした。



手術後1時間経過したところです。

しげぞうちゃんは普通に歩行できています。



摘出した卵巣子宮です。

黄色矢印は腫大していた左卵巣です。



裏側から見た卵巣です。



下写真は子宮内膜を示す病理写真です。

子宮内膜はびまん性に肥厚しており、子宮内膜ポリープを形成しています。



高倍像です。

ポリープを構成する子宮腺上皮細胞と紡錘形細胞が認められます。

子宮は、子宮内膜過形成及と子宮内膜ポリープとの病理診断でした。



問題となる左の卵巣の病理写真です(中等度倍率)。

多形性を示す類円形・多角形細胞(卵巣間質腺細胞)が認められ、核は大小不同・偏在を示し、明瞭な核小体を有しています。



病理医によるとこの卵巣由来と思われる腫瘍は、特徴が乏しく起源の特定は難しいとのことでした。



しげぞうちゃんの術後の経過は良好で、患部の抜糸も無事終了しました。

その後は陰部からの出血もなく、元気に過ごされています。



しげぞうちゃん、お疲れ様でした!




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