アーカイブシリーズ
2022年6月 1日 水曜日
アーカイブシリーズ チンチラの腸重積(その2)
こんにちは 院長の伊藤です。
ここ最近、蒸し暑い日々が続き、体調不良の齧歯目の患者様が増えています。
特にチンチラの食欲不振例が多く、飼育環境の見直し宜しくお願い致します。
チンチラの至適温度は18~22℃、湿度は50%以下です。
エアコンで空調管理しないと厳しいと思われます。
本日は、そんなデリケートなチンチラの過去の記事をご紹介します。
新作を現在、作成中です。
今しばらくお待ち下さい。
こんにちは 院長の伊藤です。
本日、ご紹介しますのはチンチラの腸重積の症例です。
チンチラの場合、下痢や便秘によるしぶり(いきみ)が原因で腸重積や直腸脱が発症します。
腸重積とは、腸管の一部が連続する腸管の肛門側に引き込まれてしまうことによって生じる病気です。
例えとして、釣竿を折りたたむような感じで腸が腸に入り込むような感じと言えば、イメージして頂けるでしょうか?
進行すると腸管の血行不全で壊死を来します。
腸重積は緊急手術が必要になることも多いです。
腸が壊死していれば切除後、腸管吻合が必要となり、予後不良となることもある怖い疾患です。
チンチラのぐりちゃん(雌、10か月齢、体重490g)はお尻から腸が出ているとのことで受診されました。

下写真黄色丸は直腸が脱出しているのを示します。

拡大像です。
直腸が脱出して、充うっ血しており痛々しい感じです。

レントゲン撮影を実施しました。
盲腸にガスの貯留が認められます。
おそらく腸蠕動の障害があるように思われます。


単純な直腸脱ならば、整復処置を施し肛門に支持糸をかけて経過観察となります。
しかし、腸重積の場合は開腹手術となりますので、まずは綿棒を用いて腸重積の確認をします。
下写真のように綿棒を2本やさしく肛門と脱出してる直腸の間隙に挿入します。
約2㎝ほど綿棒は、この間隙に容易に入りました(下写真黄色矢印)。
直腸脱の場合は、この間隙は形成されませんので、腸重積の疑いが強いです。

腸重積の場合、緊急手術が必要となります。
飼い主様の了解を得て、早速開腹手術に移ることとなりました。
イソフルランによる麻酔導入を行います。

維持麻酔に切り替え、患部の剃毛処置を実施します。

ぐりちゃんの麻酔が安定してきたところで、手術のスタートです。

開腹手術に移ります。

腹筋を切開します。

膀胱は蓄尿が著しいため、膀胱穿刺して尿を吸引します。

ピンセットで確認しているのは、ぐりちゃんの子宮です。

直腸へ綿棒を挿入して、開腹した腹腔内の腸の動きを観察します。

触診すると硬くなって、動きが認められない小腸の部位がありました。
指先ではこの部位だけ太く、周囲からの血管も怒張しているのが分かります(下写真)。

下写真青丸は盲腸です。
黄色矢印は空回腸の盲腸へと移行する部位です。
この部位が腫脹し、触診で硬く感じられます。

この部位が腸重積を起こしている可能性があり、綿棒で持ち上げて周囲の余分な組織を分画していきます。

患部を脂肪組織が取り巻いているため、丁寧に切除します。

脂肪組織などを取り除いていくと赤く腫れた空回腸が現れました。


下写真の黄色丸は釣竿を折りたたむようにして、腸の中に腸が入り込んでいます。


患部を上方に牽引すると重責部が明らかになりました。

重責部を優しく、さらに牽引してみます。

重責部を伸展すると血行不良で充うっ血が確認できます(黄色矢印)。

患部(下写真黄色丸)は壊死が進行しているようです。

下写真の充うっ血色の部位を切除して、正常な腸管を吻合することとします。

切除する上流の腸に支持糸を掛けます。


外科鋏で壊死している腸管を切除します。


次いで、離断した腸管の断面同志を端・端並置縫合します。

縫合に使用する縫合糸は5-0のモノフィラメント合成吸収糸です。


チンチラの腸管内腔は、せいぜい3㎜程度なので縫合には細心の注意を払います。

腸管の全周を6か所縫合しました。




腸管縫合終了です。

支持糸を外して、患部を生理食塩水で洗浄します。


腹筋を縫合しています。

最後に皮膚縫合をして手術は終了です。

全身麻酔から覚醒したばかりのぐりちゃんです。

手術後、ICUの部屋に入ってもらいましたが、辛そうです。

今回、切除した小腸を調べてみました。

うっ血して腫脹しています。

断端を綿棒で抑えて、ピンセットで反対方向へ腸を牽引します。

腸管内に入り込んだ腸がズルズルと出て来ます。

腸が入り組んでいた箇所(下写真黄色矢印)が重責を起こしていた部位となります。
重責部は壊死を起こしていました。


術後翌日のぐりちゃんです。

食欲は少しづつ出てきて、青汁を自ら飲み始めました。

チモシーのような乾草を給餌すると縫合部に負荷を極端にかけますので、しばらくは青汁や強制給餌用のライフケア®などで給餌します。

運動性も出て来ましたので1週間入院の後、ぐりちゃんには退院して頂きました。

肛門から出ていた腸も無事納まりました。

腸重積は、直腸脱と誤認されるとその治療のため何日も経過してから、あわてて実は腸重責であったと気づいた時には、もう手遅れになっていることが多いです。
チンチラは小さな体の繊細な動物なので、長時間に及ぶ疼痛やストレスには耐えられません。
肛門から腸が飛び出していたら、早急に受診されることをお勧めします。
ぐりちゃん、お疲れ様でした!

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ここ最近、蒸し暑い日々が続き、体調不良の齧歯目の患者様が増えています。
特にチンチラの食欲不振例が多く、飼育環境の見直し宜しくお願い致します。
チンチラの至適温度は18~22℃、湿度は50%以下です。
エアコンで空調管理しないと厳しいと思われます。
本日は、そんなデリケートなチンチラの過去の記事をご紹介します。
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こんにちは 院長の伊藤です。
本日、ご紹介しますのはチンチラの腸重積の症例です。
チンチラの場合、下痢や便秘によるしぶり(いきみ)が原因で腸重積や直腸脱が発症します。
腸重積とは、腸管の一部が連続する腸管の肛門側に引き込まれてしまうことによって生じる病気です。
例えとして、釣竿を折りたたむような感じで腸が腸に入り込むような感じと言えば、イメージして頂けるでしょうか?
進行すると腸管の血行不全で壊死を来します。
腸重積は緊急手術が必要になることも多いです。
腸が壊死していれば切除後、腸管吻合が必要となり、予後不良となることもある怖い疾患です。
チンチラのぐりちゃん(雌、10か月齢、体重490g)はお尻から腸が出ているとのことで受診されました。

下写真黄色丸は直腸が脱出しているのを示します。

拡大像です。
直腸が脱出して、充うっ血しており痛々しい感じです。

レントゲン撮影を実施しました。
盲腸にガスの貯留が認められます。
おそらく腸蠕動の障害があるように思われます。


単純な直腸脱ならば、整復処置を施し肛門に支持糸をかけて経過観察となります。
しかし、腸重積の場合は開腹手術となりますので、まずは綿棒を用いて腸重積の確認をします。
下写真のように綿棒を2本やさしく肛門と脱出してる直腸の間隙に挿入します。
約2㎝ほど綿棒は、この間隙に容易に入りました(下写真黄色矢印)。
直腸脱の場合は、この間隙は形成されませんので、腸重積の疑いが強いです。

腸重積の場合、緊急手術が必要となります。
飼い主様の了解を得て、早速開腹手術に移ることとなりました。
イソフルランによる麻酔導入を行います。

維持麻酔に切り替え、患部の剃毛処置を実施します。

ぐりちゃんの麻酔が安定してきたところで、手術のスタートです。

開腹手術に移ります。

腹筋を切開します。

膀胱は蓄尿が著しいため、膀胱穿刺して尿を吸引します。

ピンセットで確認しているのは、ぐりちゃんの子宮です。

直腸へ綿棒を挿入して、開腹した腹腔内の腸の動きを観察します。

触診すると硬くなって、動きが認められない小腸の部位がありました。
指先ではこの部位だけ太く、周囲からの血管も怒張しているのが分かります(下写真)。

下写真青丸は盲腸です。
黄色矢印は空回腸の盲腸へと移行する部位です。
この部位が腫脹し、触診で硬く感じられます。

この部位が腸重積を起こしている可能性があり、綿棒で持ち上げて周囲の余分な組織を分画していきます。

患部を脂肪組織が取り巻いているため、丁寧に切除します。

脂肪組織などを取り除いていくと赤く腫れた空回腸が現れました。


下写真の黄色丸は釣竿を折りたたむようにして、腸の中に腸が入り込んでいます。


患部を上方に牽引すると重責部が明らかになりました。

重責部を優しく、さらに牽引してみます。

重責部を伸展すると血行不良で充うっ血が確認できます(黄色矢印)。

患部(下写真黄色丸)は壊死が進行しているようです。

下写真の充うっ血色の部位を切除して、正常な腸管を吻合することとします。

切除する上流の腸に支持糸を掛けます。


外科鋏で壊死している腸管を切除します。


次いで、離断した腸管の断面同志を端・端並置縫合します。

縫合に使用する縫合糸は5-0のモノフィラメント合成吸収糸です。


チンチラの腸管内腔は、せいぜい3㎜程度なので縫合には細心の注意を払います。

腸管の全周を6か所縫合しました。




腸管縫合終了です。

支持糸を外して、患部を生理食塩水で洗浄します。


腹筋を縫合しています。

最後に皮膚縫合をして手術は終了です。

全身麻酔から覚醒したばかりのぐりちゃんです。

手術後、ICUの部屋に入ってもらいましたが、辛そうです。

今回、切除した小腸を調べてみました。

うっ血して腫脹しています。

断端を綿棒で抑えて、ピンセットで反対方向へ腸を牽引します。

腸管内に入り込んだ腸がズルズルと出て来ます。

腸が入り組んでいた箇所(下写真黄色矢印)が重責を起こしていた部位となります。
重責部は壊死を起こしていました。


術後翌日のぐりちゃんです。

食欲は少しづつ出てきて、青汁を自ら飲み始めました。

チモシーのような乾草を給餌すると縫合部に負荷を極端にかけますので、しばらくは青汁や強制給餌用のライフケア®などで給餌します。

運動性も出て来ましたので1週間入院の後、ぐりちゃんには退院して頂きました。

肛門から出ていた腸も無事納まりました。

腸重積は、直腸脱と誤認されるとその治療のため何日も経過してから、あわてて実は腸重責であったと気づいた時には、もう手遅れになっていることが多いです。
チンチラは小さな体の繊細な動物なので、長時間に及ぶ疼痛やストレスには耐えられません。
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2022年5月25日 水曜日
アーカイブシリーズ モルモットの乳腺腫瘍・脂肪腫及び膣脱
こんにちは 院長の伊藤です。
現在、ブログ記事を数編、同時進行でまとめております。
まだ掲載まで、時間がかかりそうなので、過去の記事からモルモットの乳腺腫瘍 のみならず脂肪腫と膣脱まで、同時に発症した事例をご紹介します。
宜しかったら、アーカイブシリーズ、ご覧になって下さい。
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのはモルモットの乳腺腫瘍です。
さらに乳腺腫瘍に加えて何ヶ所も脂肪腫の合併症が認められたケースです。
アビシニアン・モルモットのくろちゃん(4歳、雌、体重900g))は乳腺が大きく腫大しているとのことで来院されました。
下写真の黄色丸が右側の高度の乳腺が腫大してます。
モルモットの乳腺は雄雌ともに両鼠蹊部に一対しか存在しません。
さらに加えて、くろちゃんは膣が脱出しています(赤矢印)。

患部を拡大した写真です。
細胞診の結果、乳腺腫瘍であることが判明しました。

実はくろちゃんの飼主様はこの腫瘍が大きい点から、手術による摘出は諦め、抗生剤や鎮痛剤で対症療法を受けてみえました。
その中で膣脱を発症したことから、手術による解決を希望される運びとなりました。
まずレントゲン撮影を実施しました。
黄色矢印が腫瘍を示します。
何ヶ所も腫瘍が認められます。


特に右乳腺は腫脹が著しく、熱感を伴っているため乳腺内の膿瘍も考えられます。
既に患部の腫脹は高度で床材との干渉による出血も甚だしい状態(下写真黄色丸)です。

腫瘍摘出手術と膣脱整復手術を行います。
イソフルランによる導入麻酔を実施します。

次いで麻酔マスクによる維持麻酔に変えます。

右乳房は皮膚が裂けており、患部にはチモシーなどが入り込んでいる状態なので念入りに消毒洗浄を行います。

皮膚の洗浄・剃毛・消毒が完了しました。
下写真黄色矢印が腫瘍を示しています。


右乳房は最後にして、まずは小さな腫瘍から摘出して行きます。
電気メスのモノポーラとバイポーラを使い分けて摘出します。

脂肪腫です。
良性の腫瘍ですが、モルモットの場合は突然大きく腫大することもあるため、今回は全て摘出することとしました。



さて次は、右乳房摘出です。
本来なら、乳房の付根から皮膚ごと切開するところです。
おそらく摘出後の縫い代が確保できないと考えて、すでに裂けている皮膚から切開を始めました。

腫瘍内部には膿瘍が形成されており、少し圧迫するだけで排膿があります(下写真黄色矢印)。


最後に皮膚を離断する予定で皮膚内を削ぐように乳腺腫瘍をバイポーラで剥離切除して行きます。




乳房ごと摘出完了です。

腫瘍の急激な増殖で伸びきってる皮膚を離断します。

乳腺腫瘍摘出後の患部です。
大きな出血もなく、摘出できました。

腫瘍切除した部位をこれから縫合して行きます。


小さな体に何針も縫合するのは可哀そうですが、創部が癒合するまで我慢して頂きます。

縫合終了です。

腫大していた右乳房周辺はこれでスッキリしました。

最後に膣脱を整復します。

膣を消毒し、鉗子でゆっくりと押し戻すことで、整復はスムーズに完了しました。

再脱出を防ぐために外陰部の両端を縫合して、絞り込みます。
これで、手術は全て終了となります。

麻酔の覚醒直後のくろちゃんです。

翌日は少しですが、食餌を食べる元気が出てきています。

今回摘出した腫瘍です。


上の写真の右乳腺腫瘍の病理写真です。
黄色丸は壊死した乳房組織で、赤丸は壊死組織を取り囲むリンパ球、マクロファージ、白血球などの炎症系細胞群です。

下写真の赤矢印は乳汁で、黄色丸は脂腺に分化した腫瘍細胞です。

下写真黄色矢印も同じく、脂腺分化した乳腺腫瘍細胞です。

今回のくろちゃんの場合は、多形性はあるものの異型性の乏しい乳腺単純腺腫とのことでした。
悪性腫瘍の所見は認められなかったのは幸いでした。
ただくろちゃんは、腫瘍の損傷部からの細菌感染が高度なので、抗生剤の投薬は暫く必要となります。
モルモットの腫瘍は短期間で高度に腫大しますので、早期発見早期摘出を心がけて頂ければと思います。
くろちゃん、お疲れ様でした!
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こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのはモルモットの乳腺腫瘍です。
さらに乳腺腫瘍に加えて何ヶ所も脂肪腫の合併症が認められたケースです。
アビシニアン・モルモットのくろちゃん(4歳、雌、体重900g))は乳腺が大きく腫大しているとのことで来院されました。
下写真の黄色丸が右側の高度の乳腺が腫大してます。
モルモットの乳腺は雄雌ともに両鼠蹊部に一対しか存在しません。
さらに加えて、くろちゃんは膣が脱出しています(赤矢印)。

患部を拡大した写真です。
細胞診の結果、乳腺腫瘍であることが判明しました。

実はくろちゃんの飼主様はこの腫瘍が大きい点から、手術による摘出は諦め、抗生剤や鎮痛剤で対症療法を受けてみえました。
その中で膣脱を発症したことから、手術による解決を希望される運びとなりました。
まずレントゲン撮影を実施しました。
黄色矢印が腫瘍を示します。
何ヶ所も腫瘍が認められます。


特に右乳腺は腫脹が著しく、熱感を伴っているため乳腺内の膿瘍も考えられます。
既に患部の腫脹は高度で床材との干渉による出血も甚だしい状態(下写真黄色丸)です。

腫瘍摘出手術と膣脱整復手術を行います。
イソフルランによる導入麻酔を実施します。

次いで麻酔マスクによる維持麻酔に変えます。

右乳房は皮膚が裂けており、患部にはチモシーなどが入り込んでいる状態なので念入りに消毒洗浄を行います。

皮膚の洗浄・剃毛・消毒が完了しました。
下写真黄色矢印が腫瘍を示しています。


右乳房は最後にして、まずは小さな腫瘍から摘出して行きます。
電気メスのモノポーラとバイポーラを使い分けて摘出します。

脂肪腫です。
良性の腫瘍ですが、モルモットの場合は突然大きく腫大することもあるため、今回は全て摘出することとしました。



さて次は、右乳房摘出です。
本来なら、乳房の付根から皮膚ごと切開するところです。
おそらく摘出後の縫い代が確保できないと考えて、すでに裂けている皮膚から切開を始めました。

腫瘍内部には膿瘍が形成されており、少し圧迫するだけで排膿があります(下写真黄色矢印)。


最後に皮膚を離断する予定で皮膚内を削ぐように乳腺腫瘍をバイポーラで剥離切除して行きます。




乳房ごと摘出完了です。

腫瘍の急激な増殖で伸びきってる皮膚を離断します。

乳腺腫瘍摘出後の患部です。
大きな出血もなく、摘出できました。

腫瘍切除した部位をこれから縫合して行きます。


小さな体に何針も縫合するのは可哀そうですが、創部が癒合するまで我慢して頂きます。

縫合終了です。

腫大していた右乳房周辺はこれでスッキリしました。

最後に膣脱を整復します。

膣を消毒し、鉗子でゆっくりと押し戻すことで、整復はスムーズに完了しました。

再脱出を防ぐために外陰部の両端を縫合して、絞り込みます。
これで、手術は全て終了となります。

麻酔の覚醒直後のくろちゃんです。

翌日は少しですが、食餌を食べる元気が出てきています。

今回摘出した腫瘍です。


上の写真の右乳腺腫瘍の病理写真です。
黄色丸は壊死した乳房組織で、赤丸は壊死組織を取り囲むリンパ球、マクロファージ、白血球などの炎症系細胞群です。

下写真の赤矢印は乳汁で、黄色丸は脂腺に分化した腫瘍細胞です。

下写真黄色矢印も同じく、脂腺分化した乳腺腫瘍細胞です。

今回のくろちゃんの場合は、多形性はあるものの異型性の乏しい乳腺単純腺腫とのことでした。
悪性腫瘍の所見は認められなかったのは幸いでした。
ただくろちゃんは、腫瘍の損傷部からの細菌感染が高度なので、抗生剤の投薬は暫く必要となります。
モルモットの腫瘍は短期間で高度に腫大しますので、早期発見早期摘出を心がけて頂ければと思います。
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2022年5月16日 月曜日
アーカイブシリーズ リスザルのターバンヘッド(骨格壊血症)
こんにちは 院長の伊藤です。
ゴールデンウィークも終わり、祝祭日も診察している当院としてはホッとしている所です。
ゴールデンウィーク中に受診された飼主様におかれましては、3,4時間待ちと大変ご迷惑をおかけしました。
さて、本日は趣向を変えまして、霊長目オマキザル科のリスザルについての記事を載せます。
動物種によっては、栄養学的欠乏で大変な疾病に至る場合があります。
今回のリスザルもその一例です。
それでは、アーカイブシリーズをどうぞご覧下さい。
こんにちは 院長の伊藤です。
当院は基本的に霊長類の診察は行っていません。
それは、当院がショッピングモール内にありますので、何かの折に病院から逃走してモール内で捕り物沙汰になりますと責任問題となるからです。
それでも、治療が必要で性格がおとなしく、飼主様が確実に保定できる場合に限ってのみ診察します。
そんな霊長類のサルの中でも、新世界サルに分類されるリスザルについてコメントさせて頂きます。
リスザルの福君(3歳、雄)は、頭が大きく変形してきたとのことで来院されました。

頭部を確認しますと皮下に液体が貯留しています。
下写真黄色丸の様に頭が変形しているかのように腫大しています。

側面です。

上から見ると、額から後頭部にかけて腫大しているのがお分かり頂けると思います。

なぜ福君はこのような容貌になってしまったのでしょう。
この症状はリスザルでは比較的遭遇することの多いターバンヘッドと呼ばれる症状です。
サル類は旧世界ザルと新世界ザルに分かれ、リスザルは新世界ザルに属します。
新世界ザルはビタミンとカルシウムの要求量が多く、バランスの悪い食生活を背景にしたビタミン欠乏症は多いです。
犬や猫などは自身でビタミンCを合成する能力があるのですが、モルモットやサル、ヒトは合成できない動物です。
したがって、食餌にビタミンCが必ず入っていなければなりません。
このターバンヘッドはビタミンC欠乏により引き起こされます。
ビタミンCは血管の構造・機能の保持や類骨形成に重要なコラーゲン合成に関与しています。
特にリスザルではビタミンC欠乏で骨膜出血が引き起こされ、血腫が形成されます。
血腫は時として巨大化し、あたかもターバンを頭部に巻きつけたよな外貌(ターバンヘッド)を呈します。

頭部の骨の状態を確認するため、レントゲン撮影を実施しました。
下写真の黄色矢印は血腫で腫脹した頭部です。

下写真では一部骨膜が破たんして骨新生しています(黄色矢印)。

骨の表面を覆う骨膜は、骨折時に障害を受けてその部位の骨新生を促すといった機能を持ちます。
しかし、ターバンヘッドの場合は骨膜の血管が破たんして出血が起こり、血腫が形成されて、その圧迫で新たにあらぬ方向・部位に骨が形成されてしまいます。
結果として、頭部や顔面が変形していく場合がありますので、状況に応じて過剰に新生した骨組織を削って行ったり、整形処置が必要となるケースもあります。
頭部血腫が福君の場合、進行してましたので血腫対策として皮下から血液を吸引して抜くこととしました。





福君は性格が穏やかで興奮することなく、素直に処置を受け入れてくれました。
頭部血腫の吸引血液は25mlに及びました。
ただ体重が950gという軽量なので、これ以上吸引すると貧血をおこしたり、ショック状態に陥っては大変なので終了と終了としました。
下写真の血液吸引後の福君は、頭部がすっきりしたのがお分かり頂けると思います。
残念ながら、この3日後に頭部の血腫は同じくらいに貯留してしまいました。

治療法としては、アスコルビン酸(25mg/kg/day)を投薬します。
福君の場合、ショップにいる頃からドッグフードに多少の栄養分を添加したフードを与えられていたとのこと。
リスザルの場合は、30~60日間ビタミンC欠乏が続くとターバンヘッドが発症するとされています。
現在、福君はモンキーフードを給餌してもらい栄養学的な問題点は改善されました。
しばらくは、アスコルビン酸の投薬は続きます。
福君、しっかり治していきましょう。
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ゴールデンウィークも終わり、祝祭日も診察している当院としてはホッとしている所です。
ゴールデンウィーク中に受診された飼主様におかれましては、3,4時間待ちと大変ご迷惑をおかけしました。
さて、本日は趣向を変えまして、霊長目オマキザル科のリスザルについての記事を載せます。
動物種によっては、栄養学的欠乏で大変な疾病に至る場合があります。
今回のリスザルもその一例です。
それでは、アーカイブシリーズをどうぞご覧下さい。
こんにちは 院長の伊藤です。
当院は基本的に霊長類の診察は行っていません。
それは、当院がショッピングモール内にありますので、何かの折に病院から逃走してモール内で捕り物沙汰になりますと責任問題となるからです。
それでも、治療が必要で性格がおとなしく、飼主様が確実に保定できる場合に限ってのみ診察します。
そんな霊長類のサルの中でも、新世界サルに分類されるリスザルについてコメントさせて頂きます。
リスザルの福君(3歳、雄)は、頭が大きく変形してきたとのことで来院されました。

頭部を確認しますと皮下に液体が貯留しています。
下写真黄色丸の様に頭が変形しているかのように腫大しています。

側面です。

上から見ると、額から後頭部にかけて腫大しているのがお分かり頂けると思います。

なぜ福君はこのような容貌になってしまったのでしょう。
この症状はリスザルでは比較的遭遇することの多いターバンヘッドと呼ばれる症状です。
サル類は旧世界ザルと新世界ザルに分かれ、リスザルは新世界ザルに属します。
新世界ザルはビタミンとカルシウムの要求量が多く、バランスの悪い食生活を背景にしたビタミン欠乏症は多いです。
犬や猫などは自身でビタミンCを合成する能力があるのですが、モルモットやサル、ヒトは合成できない動物です。
したがって、食餌にビタミンCが必ず入っていなければなりません。
このターバンヘッドはビタミンC欠乏により引き起こされます。
ビタミンCは血管の構造・機能の保持や類骨形成に重要なコラーゲン合成に関与しています。
特にリスザルではビタミンC欠乏で骨膜出血が引き起こされ、血腫が形成されます。
血腫は時として巨大化し、あたかもターバンを頭部に巻きつけたよな外貌(ターバンヘッド)を呈します。

頭部の骨の状態を確認するため、レントゲン撮影を実施しました。
下写真の黄色矢印は血腫で腫脹した頭部です。

下写真では一部骨膜が破たんして骨新生しています(黄色矢印)。

骨の表面を覆う骨膜は、骨折時に障害を受けてその部位の骨新生を促すといった機能を持ちます。
しかし、ターバンヘッドの場合は骨膜の血管が破たんして出血が起こり、血腫が形成されて、その圧迫で新たにあらぬ方向・部位に骨が形成されてしまいます。
結果として、頭部や顔面が変形していく場合がありますので、状況に応じて過剰に新生した骨組織を削って行ったり、整形処置が必要となるケースもあります。
頭部血腫が福君の場合、進行してましたので血腫対策として皮下から血液を吸引して抜くこととしました。





福君は性格が穏やかで興奮することなく、素直に処置を受け入れてくれました。
頭部血腫の吸引血液は25mlに及びました。
ただ体重が950gという軽量なので、これ以上吸引すると貧血をおこしたり、ショック状態に陥っては大変なので終了と終了としました。
下写真の血液吸引後の福君は、頭部がすっきりしたのがお分かり頂けると思います。
残念ながら、この3日後に頭部の血腫は同じくらいに貯留してしまいました。

治療法としては、アスコルビン酸(25mg/kg/day)を投薬します。
福君の場合、ショップにいる頃からドッグフードに多少の栄養分を添加したフードを与えられていたとのこと。
リスザルの場合は、30~60日間ビタミンC欠乏が続くとターバンヘッドが発症するとされています。
現在、福君はモンキーフードを給餌してもらい栄養学的な問題点は改善されました。
しばらくは、アスコルビン酸の投薬は続きます。
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2022年3月 1日 火曜日
アーカイブシリーズ ウサギの子宮腺癌(その7)
こんにちは 院長の伊藤です。
アーカイブシリーズ ウサギの子宮腺癌をご紹介します。
今回でシリーズ7回目となります。
子宮腺癌と言っても、7症例あれば7通りの発症の経過、子宮病変の相違があります。
ウサギのオーナー様の参考になれば幸いです。
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのはウサギの子宮腺癌です。
これまでにも多くの子宮腺癌の症例をご紹介させて頂きました。
これも、避妊手術を早期に実施することで回避することのできる疾病であることを、なるべく多くの飼主様に知って頂くために載せております。
ミニレッキスのミミちゃん(8歳、雌、体重3.0kg)は半年前から血尿が続くとのことで来院されました。


年齢からおそらくは子宮疾患が関与していると推察され、レントゲン撮影を行いました。
下写真の黄色丸の部位から子宮のマス(腫瘤)の存在が疑われます。
肺野には肺腺癌を疑う所見はありません。

半年間、血尿が不定期に出たり、治まったりを繰り返していたとのことです。
元気食欲はあるとのことで、手術に十分体力的にも耐えられると判断し、卵巣・子宮全摘出手術を勧めさせていただきました。
ミミちゃんをイソフルランによる維持麻酔で寝かせているところです。

患部の剃毛をします。

ウサギのような草食動物の場合は、手術台を平面のままでいますと胃腸の重さで横隔膜が圧迫されて、場合により心拍が停止することもあります。
それを防止する意味もあり、手術台を少し傾斜させて手術に臨みます。

腹筋を切開します。


開腹直後に腹腔内現れたのは、暗赤色を呈した子宮です。

下写真黄色丸が右子宮角に発生した腫瘤です。
おそらく子宮腺癌と思われます。
かなり大きな腫瘤であることがお分かり頂けると思います。

拡大像です。

卵巣の動静脈をバイクランプを用いてシーリングします。


80℃の熱で変性した動静脈や脂肪をメスで離断していきます。

卵巣動静脈や子宮間膜からの出血は全くありません。

摘出した卵巣・子宮を体外に出した写真です。


うっ血色は子宮角内に血液が貯留してることを意味します。

子宮頚部を鉗子で挟んで外科鋏で離断します。


子宮頚部の離断端を縫合して卵巣・子宮全摘出は終了です。
下写真で縫合部の下部は膀胱です。

次いで、腹筋を吸収糸で縫合します。

皮膚をナイロン糸で縫合します。

全ての処置が終了して、イソフルランの流入を停止します。
なお、下写真でスタッフが肉垂(頚部のマフラーのような脂肪の溜まってる部位)をつまんでいるのは、肉垂の自重で気道が圧迫され呼吸不全を起こすのを防ぐためです。

麻酔導入時に鎮静化のため投薬したメデトミジンを中和するためにアチパメゾールを静脈から投薬します。

数分内に覚醒します。

体を起こすところまで意識が戻って来ました。

完全に覚醒したミミちゃんです。

ミミちゃんは3日ほど入院の後、退院されました。
手術後には血尿は止まり、また退院後も元気・食欲も良好です。
下写真は抜糸のため、2週間後に来院されたミミちゃんです。

バリカンで剃毛した跡は、既に下毛が生え始めています。

抜糸が完了しました。

さて、前出の手術中の写真で黄色の丸で囲んだ右子宮角の腫瘤状病変について病理検査を実施しました。
結果として、多発性子宮腺癌(子宮内膜癌)であることが判明しました。
下写真はその病変部を切開したところです。

断面は子宮壁が肥厚・膨隆して血管が密に走行しています。

子宮角の他の部位にも腫瘍性の腫瘤が形成されていました。

顕微鏡の所見です(低倍)。
子宮内膜はびまん性に過形成されています。

中拡大像です。

強拡大像です。
異型性の明らかな上皮細胞(癌細胞)の腺管状・乳頭状増殖が特徴です。

子宮腺癌は良く見られる自然発生性腫瘍です。
この腫瘍の発生率は加齢とともに上昇していきます。
2~3歳の雌ウサギの子宮腺癌発生率は4%前後ですが、5~6歳では発生率は80%前後に上昇したという報告があります。
いずれにせよ、なるべく早い時期(1歳位までに)に避妊手術を受けて頂き、子宮腺癌にならないよう気を付けて頂きたいと思います。
子宮腺癌から腫瘍が肺に転移する事例もあります。
今回、半年と言う長い期間の血尿とのことですから、腫瘍の腹腔内播種はなかったようで幸いでした。
ミミちゃん、お疲れ様でした!

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アーカイブシリーズ ウサギの子宮腺癌をご紹介します。
今回でシリーズ7回目となります。
子宮腺癌と言っても、7症例あれば7通りの発症の経過、子宮病変の相違があります。
ウサギのオーナー様の参考になれば幸いです。
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのはウサギの子宮腺癌です。
これまでにも多くの子宮腺癌の症例をご紹介させて頂きました。
これも、避妊手術を早期に実施することで回避することのできる疾病であることを、なるべく多くの飼主様に知って頂くために載せております。
ミニレッキスのミミちゃん(8歳、雌、体重3.0kg)は半年前から血尿が続くとのことで来院されました。


年齢からおそらくは子宮疾患が関与していると推察され、レントゲン撮影を行いました。
下写真の黄色丸の部位から子宮のマス(腫瘤)の存在が疑われます。
肺野には肺腺癌を疑う所見はありません。

半年間、血尿が不定期に出たり、治まったりを繰り返していたとのことです。
元気食欲はあるとのことで、手術に十分体力的にも耐えられると判断し、卵巣・子宮全摘出手術を勧めさせていただきました。
ミミちゃんをイソフルランによる維持麻酔で寝かせているところです。

患部の剃毛をします。

ウサギのような草食動物の場合は、手術台を平面のままでいますと胃腸の重さで横隔膜が圧迫されて、場合により心拍が停止することもあります。
それを防止する意味もあり、手術台を少し傾斜させて手術に臨みます。

腹筋を切開します。


開腹直後に腹腔内現れたのは、暗赤色を呈した子宮です。

下写真黄色丸が右子宮角に発生した腫瘤です。
おそらく子宮腺癌と思われます。
かなり大きな腫瘤であることがお分かり頂けると思います。

拡大像です。

卵巣の動静脈をバイクランプを用いてシーリングします。


80℃の熱で変性した動静脈や脂肪をメスで離断していきます。

卵巣動静脈や子宮間膜からの出血は全くありません。

摘出した卵巣・子宮を体外に出した写真です。


うっ血色は子宮角内に血液が貯留してることを意味します。

子宮頚部を鉗子で挟んで外科鋏で離断します。


子宮頚部の離断端を縫合して卵巣・子宮全摘出は終了です。
下写真で縫合部の下部は膀胱です。

次いで、腹筋を吸収糸で縫合します。

皮膚をナイロン糸で縫合します。

全ての処置が終了して、イソフルランの流入を停止します。
なお、下写真でスタッフが肉垂(頚部のマフラーのような脂肪の溜まってる部位)をつまんでいるのは、肉垂の自重で気道が圧迫され呼吸不全を起こすのを防ぐためです。

麻酔導入時に鎮静化のため投薬したメデトミジンを中和するためにアチパメゾールを静脈から投薬します。

数分内に覚醒します。

体を起こすところまで意識が戻って来ました。

完全に覚醒したミミちゃんです。

ミミちゃんは3日ほど入院の後、退院されました。
手術後には血尿は止まり、また退院後も元気・食欲も良好です。
下写真は抜糸のため、2週間後に来院されたミミちゃんです。

バリカンで剃毛した跡は、既に下毛が生え始めています。

抜糸が完了しました。

さて、前出の手術中の写真で黄色の丸で囲んだ右子宮角の腫瘤状病変について病理検査を実施しました。
結果として、多発性子宮腺癌(子宮内膜癌)であることが判明しました。
下写真はその病変部を切開したところです。

断面は子宮壁が肥厚・膨隆して血管が密に走行しています。

子宮角の他の部位にも腫瘍性の腫瘤が形成されていました。

顕微鏡の所見です(低倍)。
子宮内膜はびまん性に過形成されています。

中拡大像です。

強拡大像です。
異型性の明らかな上皮細胞(癌細胞)の腺管状・乳頭状増殖が特徴です。

子宮腺癌は良く見られる自然発生性腫瘍です。
この腫瘍の発生率は加齢とともに上昇していきます。
2~3歳の雌ウサギの子宮腺癌発生率は4%前後ですが、5~6歳では発生率は80%前後に上昇したという報告があります。
いずれにせよ、なるべく早い時期(1歳位までに)に避妊手術を受けて頂き、子宮腺癌にならないよう気を付けて頂きたいと思います。
子宮腺癌から腫瘍が肺に転移する事例もあります。
今回、半年と言う長い期間の血尿とのことですから、腫瘍の腹腔内播種はなかったようで幸いでした。
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投稿者 もねペットクリニック | 記事URL
2022年2月14日 月曜日
アーカイブシリーズ ウサギの子宮腺癌(その6)
こんにちは 院長の伊藤です。
本日もウサギの子宮腺癌について、過去の記事から掲載させて頂きます。
ウサギの子宮腺癌というと血尿が真っ先に挙げられますが、小手先で止血剤や抗生剤で治まるということはありません。
他院でこれらの投薬を長期間された患者を診たことがありますが、残念ながら、その間に子宮腺癌が肺に転移し、肺腺癌を併発していました。
非常に残念な結末ですが、肺腺癌となると打つ手はありません。
犬猫なら放射線療法の選択肢もあるのでしょうが、私はウサギでの経験は残念ながらありません。
その点を鑑みながら、アーカイブシリーズをご覧いただければ幸いです。
こんにちは 院長の伊藤です。
ウサギの子宮疾患で死亡率が高いのは、子宮腺癌です。
子宮に腫瘍が出来ますと腺癌に侵された子宮内膜から出血が始まります。
多くのウサギは血尿から、飼主様が異常に気づくことが多いです。
ここで動物病院を受診して、幸いにも子宮腺癌と診断されて外科的に卵巣子宮摘出手術を成功されれば理想です。
現実には、他院で犬猫と同様に膀胱炎の診断をされ、抗生剤と止血剤の内服を長期にわたり継続して、腹腔が子宮腺癌で膨満した状態で、セカンドオピニオンとして当院を来院されるケースが多いです。
こうなると、待ったなしの外科手術になります。
少しでも、飼主様にウサギの子宮腺癌についての見識をお持ちいただけるよう子宮腺癌の症例をご紹介させて頂いてます。
今回、ご紹介しますのはモシャちゃん(8歳6か月)です。


モシャちゃんは福島で震災に遭い、飼い主様のご実家である名古屋に戻られたという経験を持つウサギです。
去年の12月から血尿が続くとのことで他院を受診したそうですが、子宮疾患の疑いはないと否定されたそうです。
セカンドオピニオンで当院を受診された時には、出血の量も多くなっていました。
下写真はモシャちゃんをお預かりしてすぐに出た血尿です。

お腹の膨満感はありませんが、歯茎等の可視粘膜は貧血色を呈しています。
直ぐにエコーをしました。
下のエコー像の黄色丸で囲んだ部位が腫脹している子宮です。
かなり、膨大しており周囲の腸を圧迫しています。


この段階で子宮腺癌の確定診断は出来ましたので、そのまま手術で摘出することにしました。
貧血が酷い場合は、ある程度内科的治療を施して、体力が手術に耐えられるまで回復を待つこともあります。
モシャちゃんの場合は、これ以上内科的治療を継続することでの回復は望めないと判断しての手術です。
いつものことながら、静脈確保のための留置針処置です。

イソフルランで麻酔導入します。

モシャちゃんは長毛種で下腹部を剃毛するのが大変です。


正中切開でメスを入れます。

腹膜を切開したところで、すでに腫大した子宮が外からでも認識できます。

腺癌で腫大した子宮です。

健常な子宮の6~7倍くらい腫大しています。

卵巣動静脈も子宮間膜の血管も怒張しており、これもいつもの通りバイクランプのシーリングでほとんど無出血で両側卵巣を離断します。


最後に子宮頚部を縫合糸で結紮して子宮を摘出します。

あとは腹膜・腹筋・皮膚と縫合して終了です。




モシャちゃんは手術にしっかり耐えてくれました。
麻酔の覚醒も速やかです。

無事、手術は終了しました。

今回摘出した卵巣と子宮です。

右側子宮角です。

左側子宮角です。

子宮壁を切開してました。
腺癌が子宮内膜へ浸潤しており、子宮壁の一部は炎症から変性壊死してます。


この病変部をスタンプ染色しました。
腺癌の腫瘍細胞が認められます。

術後のモシャちゃんの経過は良好で3日後には退院して頂きました。
下写真は2週間後のモシャちゃんです。
抜糸のため来院されました。
首に付けたエリザベスカラーが邪魔みたいですが、傷口の保護のためには止むを得ません。

剃毛部した部位は既に下毛が生えてきています。

皮膚も綺麗に癒合してます。
抜糸後の皮膚です。

モシャちゃんは術後食欲が見違えるほどに旺盛になり、活動的になったそうです。
また血尿も術後はありません。

毎回、このウサギの子宮腺癌の紹介の文末に記載してますが、5歳以降の血尿は子宮疾患を疑って下さい。
そして速やかに、ウサギを診て頂ける動物病院を受診して下さい。
モシャちゃんの飼主様は5歳以降の避妊手術は危険でできないと思い込んでみえました。
モシャちゃんは8歳を過ぎた高齢でしたが、手術は可能でした。
救える命は、頑張って救ってあげたいと思います。
そして、できるなら1歳位には雌ウサギには避妊手術を受けさせてあげて下さい。
モシャちゃん、お疲れ様でした!

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本日もウサギの子宮腺癌について、過去の記事から掲載させて頂きます。
ウサギの子宮腺癌というと血尿が真っ先に挙げられますが、小手先で止血剤や抗生剤で治まるということはありません。
他院でこれらの投薬を長期間された患者を診たことがありますが、残念ながら、その間に子宮腺癌が肺に転移し、肺腺癌を併発していました。
非常に残念な結末ですが、肺腺癌となると打つ手はありません。
犬猫なら放射線療法の選択肢もあるのでしょうが、私はウサギでの経験は残念ながらありません。
その点を鑑みながら、アーカイブシリーズをご覧いただければ幸いです。
こんにちは 院長の伊藤です。
ウサギの子宮疾患で死亡率が高いのは、子宮腺癌です。
子宮に腫瘍が出来ますと腺癌に侵された子宮内膜から出血が始まります。
多くのウサギは血尿から、飼主様が異常に気づくことが多いです。
ここで動物病院を受診して、幸いにも子宮腺癌と診断されて外科的に卵巣子宮摘出手術を成功されれば理想です。
現実には、他院で犬猫と同様に膀胱炎の診断をされ、抗生剤と止血剤の内服を長期にわたり継続して、腹腔が子宮腺癌で膨満した状態で、セカンドオピニオンとして当院を来院されるケースが多いです。
こうなると、待ったなしの外科手術になります。
少しでも、飼主様にウサギの子宮腺癌についての見識をお持ちいただけるよう子宮腺癌の症例をご紹介させて頂いてます。
今回、ご紹介しますのはモシャちゃん(8歳6か月)です。


モシャちゃんは福島で震災に遭い、飼い主様のご実家である名古屋に戻られたという経験を持つウサギです。
去年の12月から血尿が続くとのことで他院を受診したそうですが、子宮疾患の疑いはないと否定されたそうです。
セカンドオピニオンで当院を受診された時には、出血の量も多くなっていました。
下写真はモシャちゃんをお預かりしてすぐに出た血尿です。

お腹の膨満感はありませんが、歯茎等の可視粘膜は貧血色を呈しています。
直ぐにエコーをしました。
下のエコー像の黄色丸で囲んだ部位が腫脹している子宮です。
かなり、膨大しており周囲の腸を圧迫しています。


この段階で子宮腺癌の確定診断は出来ましたので、そのまま手術で摘出することにしました。
貧血が酷い場合は、ある程度内科的治療を施して、体力が手術に耐えられるまで回復を待つこともあります。
モシャちゃんの場合は、これ以上内科的治療を継続することでの回復は望めないと判断しての手術です。
いつものことながら、静脈確保のための留置針処置です。

イソフルランで麻酔導入します。

モシャちゃんは長毛種で下腹部を剃毛するのが大変です。


正中切開でメスを入れます。

腹膜を切開したところで、すでに腫大した子宮が外からでも認識できます。

腺癌で腫大した子宮です。

健常な子宮の6~7倍くらい腫大しています。

卵巣動静脈も子宮間膜の血管も怒張しており、これもいつもの通りバイクランプのシーリングでほとんど無出血で両側卵巣を離断します。


最後に子宮頚部を縫合糸で結紮して子宮を摘出します。

あとは腹膜・腹筋・皮膚と縫合して終了です。




モシャちゃんは手術にしっかり耐えてくれました。
麻酔の覚醒も速やかです。

無事、手術は終了しました。

今回摘出した卵巣と子宮です。

右側子宮角です。

左側子宮角です。

子宮壁を切開してました。
腺癌が子宮内膜へ浸潤しており、子宮壁の一部は炎症から変性壊死してます。


この病変部をスタンプ染色しました。
腺癌の腫瘍細胞が認められます。

術後のモシャちゃんの経過は良好で3日後には退院して頂きました。
下写真は2週間後のモシャちゃんです。
抜糸のため来院されました。
首に付けたエリザベスカラーが邪魔みたいですが、傷口の保護のためには止むを得ません。

剃毛部した部位は既に下毛が生えてきています。

皮膚も綺麗に癒合してます。
抜糸後の皮膚です。

モシャちゃんは術後食欲が見違えるほどに旺盛になり、活動的になったそうです。
また血尿も術後はありません。

毎回、このウサギの子宮腺癌の紹介の文末に記載してますが、5歳以降の血尿は子宮疾患を疑って下さい。
そして速やかに、ウサギを診て頂ける動物病院を受診して下さい。
モシャちゃんの飼主様は5歳以降の避妊手術は危険でできないと思い込んでみえました。
モシャちゃんは8歳を過ぎた高齢でしたが、手術は可能でした。
救える命は、頑張って救ってあげたいと思います。
そして、できるなら1歳位には雌ウサギには避妊手術を受けさせてあげて下さい。
モシャちゃん、お疲れ様でした!

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