アーカイブシリーズ
2024年3月19日 火曜日
犬の脾血腫
こんにちは 院長の伊藤です。
犬において脾臓が腫大することは少なくありません。
脾臓が腫大すると血管肉腫に代表される悪性の腫瘍をイメージしがちです。
しかし、脾臓腫大でも良性腫瘍であったり、非腫瘍性のものである場合もあります。
以前、脾結節性過形成の記事を載せましたので、興味のある方はこちらを参照下さい。
さて本日ご紹介しますのは、脾臓の腫大であっても非腫瘍性である脾血腫についてコメントさせて頂きます。
パピヨンのコロ君(11歳8か月、雄、体重6.5kg)は元気消失・食欲廃絶とのことで来院されました。
腹部が腫大している感がありますので、レントゲン撮影を行いました。
下写真の黄色丸が腹腔内の大きなマス(塊)を示します。
さらに下写真の黄色矢印は、大きく腫大している脾臓を描出しているのが判明しました。
この時点でのコロ君の血液検査で赤血球数は536万、ヘマトクリット値は34.9%で正常値を共に下回っています。
コロ君はこれまで内分泌系疾患や免疫系疾患の既往歴はありません。
引き続き、超音波検査を実施しました。
下写真の脾臓内は大小さまざまな嚢胞が形成され、何らかの液体状のもの(血液や膿)が入っていると推察されました。
エコーの所見から血管肉腫のような脾臓実質の腫瘍ではなく、脾臓の内部で血管が破たんして出血した結果としての脾臓血腫が伺えます。
いずれにせよ、脾臓内での出血は進行している可能性があり、脾臓腫大に伴って、腹腔内での脾臓破裂が予想されますので脾臓全摘出をすることとしました。
コロ君に麻酔前投薬をします。
下写真の黄色丸は腹部の腫大を示しています。
腫大した脾臓が横隔膜を通して心臓を圧迫するのを防ぐために手術台を傾斜させます。
腹筋にメスを入れます。
開腹した腹腔内は大きく腫大した脾臓が顔を出しています。
脾臓を全摘出するにあたり、腹腔内から脾臓を持ち上げてある程度体外に出す必要があります。
この時、不用意に力を入れて脾臓を牽引しますと血管を損傷して、大出血する場合がありますので細心の注意が必要です。
脾臓を体外に出しました。
次いで脾動静脈や左胃大網動静脈などをバイクランプでシーリングしていきます。
以前は血管一本ずつを縫合糸で結紮して、大変時間を要しましたが、バイクランプを使用してから効率的に血管のシーリングが出来るようになりました。
血管のシーリングが完了して脾臓を拳上、摘出しているところです。
ほとんど出血はなく、無事脾臓の全摘出は終了しました。
今回のコロ君の脾臓の重量は894gありました。
特にこの時点で血腫を疑っておりましたので、脾摘出後の貧血が一番懸念されます。
脾臓を摘出した腹腔内ですが、特に周囲組織からの出血もなく、また腫大した脾臓が無くなった分、すっきりした感があります。
皮膚縫合が終了したところです。
麻酔から覚醒したコロ君です。
頑張りましたね。
摘出した脾臓は病理検査に出しました。
コロ君が入院中に脾血腫の診断が下りました。
腫瘍細胞は見つからないとのことでホッとしました。
1週間後の退院当日のコロ君です。
術後の貧血や播種性血管内凝固不全症候群(DIC)もなく、コロ君は無事退院して頂きました。
術後2週間が経過して抜糸のため、来院されたコロ君です。
退院後も体調は良好です。
縫合部も良好なので抜糸しました。
抜糸前と抜糸後の写真です。
摘出した脾臓です。
内部に血液を貯留しているため、暗赤色で膨満しているのがお分かり頂けると思います。
病理検査に提出するにあたり、メスで割を入れました。
メスを入れた瞬間に脾臓内の貯留した血液の血漿が勢いよく噴出しました。
脾臓の割面はこのように多量の血液を貯留しており、嚢胞の内面は浮腫を呈して血液の循環不全があったことを示しています。
下写真は病理検査の低倍率像です。
充血・うっ血や線維素析出により著明に拡張した複数の脾洞が認められます。
中等度の倍率像です。
脾洞の内皮細胞にも異型性細胞(腫瘍細胞)は認められません。
脾血腫は腹部への鈍性外傷や何らかの血管障害に続発して生ずる病変とされます。
今回、コロ君の血腫が何により生じたかは不明ですが、早急な処置を取れたのが良かったと思います。
脾臓の腫瘤性病変には腫瘍性(血管肉腫、リンパ腫、肥満細胞腫、組織球性肉腫、形質細胞腫)や非腫瘍性(脾血腫、結節性過形成、出血性梗塞など)の様々な物が含まれます。
結局、ある程度の脾臓の分類分けの見当がついたところで病理検査に出すことが肝要です。
そのためには外科的摘出が前提となることが多いでしょうから、ポイントは脾臓の腫大を早期に発見することに尽きます。
コロ君、お疲れ様でした!
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犬において脾臓が腫大することは少なくありません。
脾臓が腫大すると血管肉腫に代表される悪性の腫瘍をイメージしがちです。
しかし、脾臓腫大でも良性腫瘍であったり、非腫瘍性のものである場合もあります。
以前、脾結節性過形成の記事を載せましたので、興味のある方はこちらを参照下さい。
さて本日ご紹介しますのは、脾臓の腫大であっても非腫瘍性である脾血腫についてコメントさせて頂きます。
パピヨンのコロ君(11歳8か月、雄、体重6.5kg)は元気消失・食欲廃絶とのことで来院されました。
腹部が腫大している感がありますので、レントゲン撮影を行いました。
下写真の黄色丸が腹腔内の大きなマス(塊)を示します。
さらに下写真の黄色矢印は、大きく腫大している脾臓を描出しているのが判明しました。
この時点でのコロ君の血液検査で赤血球数は536万、ヘマトクリット値は34.9%で正常値を共に下回っています。
コロ君はこれまで内分泌系疾患や免疫系疾患の既往歴はありません。
引き続き、超音波検査を実施しました。
下写真の脾臓内は大小さまざまな嚢胞が形成され、何らかの液体状のもの(血液や膿)が入っていると推察されました。
エコーの所見から血管肉腫のような脾臓実質の腫瘍ではなく、脾臓の内部で血管が破たんして出血した結果としての脾臓血腫が伺えます。
いずれにせよ、脾臓内での出血は進行している可能性があり、脾臓腫大に伴って、腹腔内での脾臓破裂が予想されますので脾臓全摘出をすることとしました。
コロ君に麻酔前投薬をします。
下写真の黄色丸は腹部の腫大を示しています。
腫大した脾臓が横隔膜を通して心臓を圧迫するのを防ぐために手術台を傾斜させます。
腹筋にメスを入れます。
開腹した腹腔内は大きく腫大した脾臓が顔を出しています。
脾臓を全摘出するにあたり、腹腔内から脾臓を持ち上げてある程度体外に出す必要があります。
この時、不用意に力を入れて脾臓を牽引しますと血管を損傷して、大出血する場合がありますので細心の注意が必要です。
脾臓を体外に出しました。
次いで脾動静脈や左胃大網動静脈などをバイクランプでシーリングしていきます。
以前は血管一本ずつを縫合糸で結紮して、大変時間を要しましたが、バイクランプを使用してから効率的に血管のシーリングが出来るようになりました。
血管のシーリングが完了して脾臓を拳上、摘出しているところです。
ほとんど出血はなく、無事脾臓の全摘出は終了しました。
今回のコロ君の脾臓の重量は894gありました。
特にこの時点で血腫を疑っておりましたので、脾摘出後の貧血が一番懸念されます。
脾臓を摘出した腹腔内ですが、特に周囲組織からの出血もなく、また腫大した脾臓が無くなった分、すっきりした感があります。
皮膚縫合が終了したところです。
麻酔から覚醒したコロ君です。
頑張りましたね。
摘出した脾臓は病理検査に出しました。
コロ君が入院中に脾血腫の診断が下りました。
腫瘍細胞は見つからないとのことでホッとしました。
1週間後の退院当日のコロ君です。
術後の貧血や播種性血管内凝固不全症候群(DIC)もなく、コロ君は無事退院して頂きました。
術後2週間が経過して抜糸のため、来院されたコロ君です。
退院後も体調は良好です。
縫合部も良好なので抜糸しました。
抜糸前と抜糸後の写真です。
摘出した脾臓です。
内部に血液を貯留しているため、暗赤色で膨満しているのがお分かり頂けると思います。
病理検査に提出するにあたり、メスで割を入れました。
メスを入れた瞬間に脾臓内の貯留した血液の血漿が勢いよく噴出しました。
脾臓の割面はこのように多量の血液を貯留しており、嚢胞の内面は浮腫を呈して血液の循環不全があったことを示しています。
下写真は病理検査の低倍率像です。
充血・うっ血や線維素析出により著明に拡張した複数の脾洞が認められます。
中等度の倍率像です。
脾洞の内皮細胞にも異型性細胞(腫瘍細胞)は認められません。
脾血腫は腹部への鈍性外傷や何らかの血管障害に続発して生ずる病変とされます。
今回、コロ君の血腫が何により生じたかは不明ですが、早急な処置を取れたのが良かったと思います。
脾臓の腫瘤性病変には腫瘍性(血管肉腫、リンパ腫、肥満細胞腫、組織球性肉腫、形質細胞腫)や非腫瘍性(脾血腫、結節性過形成、出血性梗塞など)の様々な物が含まれます。
結局、ある程度の脾臓の分類分けの見当がついたところで病理検査に出すことが肝要です。
そのためには外科的摘出が前提となることが多いでしょうから、ポイントは脾臓の腫大を早期に発見することに尽きます。
コロ君、お疲れ様でした!
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投稿者 もねペットクリニック | 記事URL
2024年3月17日 日曜日
犬の脾臓全摘手術(組織球性肉腫)
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、犬の脾臓を全摘出した症例です。
何らかの原因で脾臓が著しく腫大した場合、腹腔内の脾臓破裂を防ぐために全摘出を選択する場合があります。
その詳細については、過去の記事でチワワの脾臓摘出手術(結節性過形成)で載せてありますので参考にして下さい。
ゴールデンレトリバーの雑種であるレオン君(12歳10か月齢、体重23.5kg、去勢済)は食欲不振、嘔吐、下腹部の腫れが主徴で来院されました。
血液検査を行い、白血球数が21,800/μl及びCRP(炎症性蛋白)が7.0㎎/dlオーバーと明らかに体内で炎症が起こっているのが判明しました。
ちなみに赤血球数、ヘモグロビン値、ヘマトクリット値は正常値であり、貧血を疑う所見はありませんでした。
触診で左側下腹部の腫れが気になりましたのでレントゲン撮影を実施しました。
黄色丸で囲んである部位が大きく腫大していおり、明らかに異常です。
該当する臓器は脾臓であると思われます。
引き続き、エコー検査をしました。
エコー像では無エコーと低エコーの領域で占められる病変部が脾臓に認められました。
脾臓をエコー下で針生検して細胞診を行いました。
検査センターの病理医に調べて頂き、結果が1週間後に通知されました。
結果は、高悪性度のリンパ腫や赤血球貪食性組織球肉腫の疑いはない、つまり悪性腫瘍の疑いは低いとのことでした。
いつものことながら、細胞診と実際に摘出した臓器の病理学的診断は違うことが多いです。
細胞診の結果を待っている1週間で、レオン君の全身状態は次第に悪化してきました。
試験的に開腹し、私の肉眼的判断で脾臓を摘出するべきか否かを判断させて頂くこととしました。
脾臓を摘出するにしても、少しでも全身状態の良好な早期に取るべきであると思います。
レオン君に全身麻酔を施します。
開腹を行います。
腹筋を切開したところで非常に大きな塊(黄色矢印)が顔を出しました。
思っていた以上に脾臓が大きく腫大しています。
手荒に扱うと内部で大出血しますので、慎重に体外へ持ち上げます。
最初に顔を出したのは脾臓表面に突出した隆起の一部であることが判明しました。
その隆起の下部に腫大した脾臓が控えていました。
下写真は腫大した脾臓の全容です。
脾臓に大網(脂肪組織)が絡まっており、残念ながら脾臓の高度腫大は、写真では伝わらないかと思います。
この脾臓の状態を診て、全摘出することにしました。
脾臓は胃と複数の血管で繋がっています。
短胃動脈、左胃大網動静脈、脾動静脈の3本の血管をバイクランプ(下黄色矢印)でシーリングしていきます。
従来は縫合糸で血管をまとめて結紮し、血管を離断していたのですが、バイクランプを使用することで確実な血管シーリングが可能となりました。
脾臓摘出にかかる時間も大幅に短縮することが出来ます。
このようにして脾臓の全摘出は終了です。
脾臓摘出後、他の腹腔内臓器・リンパ節等に明らかな転移巣は認められませんでした。
高度に腫大した脾臓を摘出することで、レオン君のお腹は随分スッキリ、細くなりました。
出血も最小限に留めることが出来、手術は無事終了しました。
レオン君、お疲れ様でした!
摘出した脾臓です。
高度に腫大(特に縦方向)した脾臓であることが分かります。
脾臓の重量は2kgありました。
腫瘍であることは疑いなく、メスで患部を切開したところです。
この組織片を病理検査に出しました。
病理検査の結果では、異型性を示す紡錘形・多角形細胞が分裂している像(下黄色丸)が多く認められます。
病理検査では組織球性肉腫という診断でした。
組織球性肉腫は間質樹状細胞由来の悪性腫瘍とされます。
脾臓以外にもリンパ節、肝臓、肺、関節周囲などにも発生することが多いです。
この組織球性肉腫の好発犬種として、レトリーバー、ウェルシュコーギー、バーニーズマウンテンドッグなどが挙げられます。
レオン君は開腹して確認した限りでは、腹腔内の腫瘍は認められませんが、顕微鏡レベルでは何とも言えません。
念のため、内科的にも抗がん剤の投薬をさせて頂き、経過を診ていく予定です。
術後3日目のレオン君です。
食欲も戻り、表情も良くなってきました。
レオン君は1週間の入院の後、元気に退院することが出来ました。
ベティ(写真中央)と避妊手術で入院中のマリリンちゃん(青色☆)とレオン君(黄色☆)のスリーショットです。
みんなでレオン君の退院を祝っての一コマです。
レオン君は今後、組織球性肉腫がどんな挙動を示すか、経過観察していく必要があります。
レオン君、頑張っていきましょう!
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本日ご紹介しますのは、犬の脾臓を全摘出した症例です。
何らかの原因で脾臓が著しく腫大した場合、腹腔内の脾臓破裂を防ぐために全摘出を選択する場合があります。
その詳細については、過去の記事でチワワの脾臓摘出手術(結節性過形成)で載せてありますので参考にして下さい。
ゴールデンレトリバーの雑種であるレオン君(12歳10か月齢、体重23.5kg、去勢済)は食欲不振、嘔吐、下腹部の腫れが主徴で来院されました。
血液検査を行い、白血球数が21,800/μl及びCRP(炎症性蛋白)が7.0㎎/dlオーバーと明らかに体内で炎症が起こっているのが判明しました。
ちなみに赤血球数、ヘモグロビン値、ヘマトクリット値は正常値であり、貧血を疑う所見はありませんでした。
触診で左側下腹部の腫れが気になりましたのでレントゲン撮影を実施しました。
黄色丸で囲んである部位が大きく腫大していおり、明らかに異常です。
該当する臓器は脾臓であると思われます。
引き続き、エコー検査をしました。
エコー像では無エコーと低エコーの領域で占められる病変部が脾臓に認められました。
脾臓をエコー下で針生検して細胞診を行いました。
検査センターの病理医に調べて頂き、結果が1週間後に通知されました。
結果は、高悪性度のリンパ腫や赤血球貪食性組織球肉腫の疑いはない、つまり悪性腫瘍の疑いは低いとのことでした。
いつものことながら、細胞診と実際に摘出した臓器の病理学的診断は違うことが多いです。
細胞診の結果を待っている1週間で、レオン君の全身状態は次第に悪化してきました。
試験的に開腹し、私の肉眼的判断で脾臓を摘出するべきか否かを判断させて頂くこととしました。
脾臓を摘出するにしても、少しでも全身状態の良好な早期に取るべきであると思います。
レオン君に全身麻酔を施します。
開腹を行います。
腹筋を切開したところで非常に大きな塊(黄色矢印)が顔を出しました。
思っていた以上に脾臓が大きく腫大しています。
手荒に扱うと内部で大出血しますので、慎重に体外へ持ち上げます。
最初に顔を出したのは脾臓表面に突出した隆起の一部であることが判明しました。
その隆起の下部に腫大した脾臓が控えていました。
下写真は腫大した脾臓の全容です。
脾臓に大網(脂肪組織)が絡まっており、残念ながら脾臓の高度腫大は、写真では伝わらないかと思います。
この脾臓の状態を診て、全摘出することにしました。
脾臓は胃と複数の血管で繋がっています。
短胃動脈、左胃大網動静脈、脾動静脈の3本の血管をバイクランプ(下黄色矢印)でシーリングしていきます。
従来は縫合糸で血管をまとめて結紮し、血管を離断していたのですが、バイクランプを使用することで確実な血管シーリングが可能となりました。
脾臓摘出にかかる時間も大幅に短縮することが出来ます。
このようにして脾臓の全摘出は終了です。
脾臓摘出後、他の腹腔内臓器・リンパ節等に明らかな転移巣は認められませんでした。
高度に腫大した脾臓を摘出することで、レオン君のお腹は随分スッキリ、細くなりました。
出血も最小限に留めることが出来、手術は無事終了しました。
レオン君、お疲れ様でした!
摘出した脾臓です。
高度に腫大(特に縦方向)した脾臓であることが分かります。
脾臓の重量は2kgありました。
腫瘍であることは疑いなく、メスで患部を切開したところです。
この組織片を病理検査に出しました。
病理検査の結果では、異型性を示す紡錘形・多角形細胞が分裂している像(下黄色丸)が多く認められます。
病理検査では組織球性肉腫という診断でした。
組織球性肉腫は間質樹状細胞由来の悪性腫瘍とされます。
脾臓以外にもリンパ節、肝臓、肺、関節周囲などにも発生することが多いです。
この組織球性肉腫の好発犬種として、レトリーバー、ウェルシュコーギー、バーニーズマウンテンドッグなどが挙げられます。
レオン君は開腹して確認した限りでは、腹腔内の腫瘍は認められませんが、顕微鏡レベルでは何とも言えません。
念のため、内科的にも抗がん剤の投薬をさせて頂き、経過を診ていく予定です。
術後3日目のレオン君です。
食欲も戻り、表情も良くなってきました。
レオン君は1週間の入院の後、元気に退院することが出来ました。
ベティ(写真中央)と避妊手術で入院中のマリリンちゃん(青色☆)とレオン君(黄色☆)のスリーショットです。
みんなでレオン君の退院を祝っての一コマです。
レオン君は今後、組織球性肉腫がどんな挙動を示すか、経過観察していく必要があります。
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2024年3月16日 土曜日
犬の血管肉腫
こんにちは 院長の伊藤です。
脾臓に関わる疾病について、これまでに数件報告させて頂きました。
脾臓の結節性過形成、血腫、組織球性肉腫については下線をクリックして頂けると過去の記事が見れます。
興味のある方はご覧下さい。
さて、本日ご紹介しますのは犬の血管肉腫です。
この血管肉腫は悪性腫瘍の一つです。
血管肉腫は血管を構成する血管内皮細胞に由来する腫瘍です。
つまり血管が存在する場所であれば、どこで発生しますし高い転移性を持ちます。
特に脾臓は血管肉腫の好発部位で脾臓に発生する病変の第1位となっています。
犬の脾臓腫瘍の発生率において2/3ルールがあります。
脾臓腫瘤の約2/3は悪性腫瘍で、そのうちの2/3は血管肉腫と言うものです。
ミニュチュア・シュナウザーのポッケちゃん(10歳5か月、避妊済み)は腹囲の膨満、食欲・元気の低下で来院されました。
血液検査上では炎症性蛋白(CRP)が7.0㎎/dlオーバーと体の内部で高度の炎症がおこっていること、RBC(赤血球数)500万/μl、さらにHb(ヘモグロビン)9.5g/dl
Ht(ヘマトクリット) 28.6% 血小板数が147,000/μlと貧血傾向を示しています。
早速、レントゲン撮影を実施しました。
下写真の黄色丸は脾臓が腫大していることを示します。
下写真の赤丸は膀胱内に存在する尿石です。
これはストラバイト尿石であることが判明しました。
次いでエコー検査です。
脾臓が腫大しており、脾臓の腫瘤内部は低エコー源性を示す領域が認められます。
ここで脾臓が悪性の腫瘍なのか良性なのかを判断するのは難しいです。
組織生検をするのも一法ですが、生検した部位からの過剰な出血があれば、命に関わります。
脾臓腫瘤に由来する腹腔内出血(血腹)を呈した症例の1/3が良性の腫瘍であったとの報告があります。
良性であっても、脾臓が破裂して血腹になってしまうと考えた時に良性か悪性かの精密検査の意義は低いと思われます。
3㎝以上に達した脾臓腫瘤は術前の良性・悪性の判断する必要性はないとする獣医師もいます。
むしろ、迅速に脾臓を全摘出して血腹を防止した方が賢明です。
私も飼主様に脾臓の全摘出手術を薦めさせて頂きました。
ポッケちゃんの脾臓全摘出手術を始めます。
ポッケちゃんのお腹は見た目から若干張っている感じがあります。
腹膜下には腫大した脾臓が控えているはずですので、慎重に脾臓を傷つけないように腹膜を切開して行きます。
いきなり脾尾部が飛び出してきました。
続いて脾頭部です。
結節部が大きく膨隆しているのがお分かり頂けると思います。
脾臓表面は脾内出血のためかうっ血色を呈しています。
ポッケちゃんの体に対して脾臓が腫大してるのが分かります。
脾臓と胃をつなぐ動静脈を丁寧にシーリングしていきます。
バイクランプを用いて動静脈をシーリングします。
シーリング出来た箇所をメスで離断していきます。
最後に脾尾部のシーリング部位をメスで離断して脾臓全摘出は完了です。
ポッケちゃんのお腹を閉腹したところです。
術前と比較してお腹周りがスッキリした感じですね。
今回は写真を添付しませんでしたが、膀胱切開も一緒に行い膀胱内の結石も摘出しました。
また血管肉腫は他の臓器への転移率が高い腫瘍であるため、確認できる範囲を肉眼的レベルで診たところ、他の臓器への転移は認められませんでした。
手術はこれで終了です。
まだ麻酔から完全に覚めきれていないポッケちゃんです。
摘出した脾臓です。
脾頭部は腫瘤が結節を形成して、高度に膨隆してます。
この脾臓を病理検査に出しました。
病理検査の結果は血管肉腫でした。
下写真は低倍率の病理標本です。
異型性のある内皮細胞によって内張りされたスリット状・海綿状の血管腔が認められます。
高倍率の病理標本です。
病巣には出血、繊維素析出、壊死が頻繁に生じています。
腫瘍細胞は少量の弱酸性細胞質、軽度から中等度の大小不同を示す類円形正染核、明瞭な核小体を有しています。
さて、ポッケちゃんが血管肉腫であることが判明した以上、今後の治療計画を立てていく必要があります。
犬の血管肉腫における予後は極めて悪く、外科的脾臓摘出単独では2か月の生存率は31%、1年生存率は7%とされています。
外科的摘出後に化学療法を併用した場合は、生存期間は5~7か月間と生存期間の延長は期待できるとされます。
飼い主様と話し合った結果、化学療法を併用する治療方針を決めました。
治療効果・費用を比較して、塩酸ドキソルビシンとシクロホスファミドを使用する化学療法を選択しました。
この抗がん剤を3週間に1回投与(1クール)して5クール繰り返します。
下写真は塩酸ドキソルビシンです。
点滴に入れて投薬していきます。
ポッケちゃんに第1回目の化学療法を実施しているところです。
12月現在、ポッケちゃんの化学療法は5クール(全行程)を終了しました。
脾臓摘出後すでに5か月経過しました。
若干の貧血傾向はありますが、経過は良好です。
ポッケちゃんのご家族の熱心な応援もあって、本当に血管肉腫なのかと言うくらい活動性があります。
是非この調子でポッケちゃん、頑張って頂きたいと思います。
スタッフ共々、ポッケちゃんをバックアップしていきます!
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脾臓に関わる疾病について、これまでに数件報告させて頂きました。
脾臓の結節性過形成、血腫、組織球性肉腫については下線をクリックして頂けると過去の記事が見れます。
興味のある方はご覧下さい。
さて、本日ご紹介しますのは犬の血管肉腫です。
この血管肉腫は悪性腫瘍の一つです。
血管肉腫は血管を構成する血管内皮細胞に由来する腫瘍です。
つまり血管が存在する場所であれば、どこで発生しますし高い転移性を持ちます。
特に脾臓は血管肉腫の好発部位で脾臓に発生する病変の第1位となっています。
犬の脾臓腫瘍の発生率において2/3ルールがあります。
脾臓腫瘤の約2/3は悪性腫瘍で、そのうちの2/3は血管肉腫と言うものです。
ミニュチュア・シュナウザーのポッケちゃん(10歳5か月、避妊済み)は腹囲の膨満、食欲・元気の低下で来院されました。
血液検査上では炎症性蛋白(CRP)が7.0㎎/dlオーバーと体の内部で高度の炎症がおこっていること、RBC(赤血球数)500万/μl、さらにHb(ヘモグロビン)9.5g/dl
Ht(ヘマトクリット) 28.6% 血小板数が147,000/μlと貧血傾向を示しています。
早速、レントゲン撮影を実施しました。
下写真の黄色丸は脾臓が腫大していることを示します。
下写真の赤丸は膀胱内に存在する尿石です。
これはストラバイト尿石であることが判明しました。
次いでエコー検査です。
脾臓が腫大しており、脾臓の腫瘤内部は低エコー源性を示す領域が認められます。
ここで脾臓が悪性の腫瘍なのか良性なのかを判断するのは難しいです。
組織生検をするのも一法ですが、生検した部位からの過剰な出血があれば、命に関わります。
脾臓腫瘤に由来する腹腔内出血(血腹)を呈した症例の1/3が良性の腫瘍であったとの報告があります。
良性であっても、脾臓が破裂して血腹になってしまうと考えた時に良性か悪性かの精密検査の意義は低いと思われます。
3㎝以上に達した脾臓腫瘤は術前の良性・悪性の判断する必要性はないとする獣医師もいます。
むしろ、迅速に脾臓を全摘出して血腹を防止した方が賢明です。
私も飼主様に脾臓の全摘出手術を薦めさせて頂きました。
ポッケちゃんの脾臓全摘出手術を始めます。
ポッケちゃんのお腹は見た目から若干張っている感じがあります。
腹膜下には腫大した脾臓が控えているはずですので、慎重に脾臓を傷つけないように腹膜を切開して行きます。
いきなり脾尾部が飛び出してきました。
続いて脾頭部です。
結節部が大きく膨隆しているのがお分かり頂けると思います。
脾臓表面は脾内出血のためかうっ血色を呈しています。
ポッケちゃんの体に対して脾臓が腫大してるのが分かります。
脾臓と胃をつなぐ動静脈を丁寧にシーリングしていきます。
バイクランプを用いて動静脈をシーリングします。
シーリング出来た箇所をメスで離断していきます。
最後に脾尾部のシーリング部位をメスで離断して脾臓全摘出は完了です。
ポッケちゃんのお腹を閉腹したところです。
術前と比較してお腹周りがスッキリした感じですね。
今回は写真を添付しませんでしたが、膀胱切開も一緒に行い膀胱内の結石も摘出しました。
また血管肉腫は他の臓器への転移率が高い腫瘍であるため、確認できる範囲を肉眼的レベルで診たところ、他の臓器への転移は認められませんでした。
手術はこれで終了です。
まだ麻酔から完全に覚めきれていないポッケちゃんです。
摘出した脾臓です。
脾頭部は腫瘤が結節を形成して、高度に膨隆してます。
この脾臓を病理検査に出しました。
病理検査の結果は血管肉腫でした。
下写真は低倍率の病理標本です。
異型性のある内皮細胞によって内張りされたスリット状・海綿状の血管腔が認められます。
高倍率の病理標本です。
病巣には出血、繊維素析出、壊死が頻繁に生じています。
腫瘍細胞は少量の弱酸性細胞質、軽度から中等度の大小不同を示す類円形正染核、明瞭な核小体を有しています。
さて、ポッケちゃんが血管肉腫であることが判明した以上、今後の治療計画を立てていく必要があります。
犬の血管肉腫における予後は極めて悪く、外科的脾臓摘出単独では2か月の生存率は31%、1年生存率は7%とされています。
外科的摘出後に化学療法を併用した場合は、生存期間は5~7か月間と生存期間の延長は期待できるとされます。
飼い主様と話し合った結果、化学療法を併用する治療方針を決めました。
治療効果・費用を比較して、塩酸ドキソルビシンとシクロホスファミドを使用する化学療法を選択しました。
この抗がん剤を3週間に1回投与(1クール)して5クール繰り返します。
下写真は塩酸ドキソルビシンです。
点滴に入れて投薬していきます。
ポッケちゃんに第1回目の化学療法を実施しているところです。
12月現在、ポッケちゃんの化学療法は5クール(全行程)を終了しました。
脾臓摘出後すでに5か月経過しました。
若干の貧血傾向はありますが、経過は良好です。
ポッケちゃんのご家族の熱心な応援もあって、本当に血管肉腫なのかと言うくらい活動性があります。
是非この調子でポッケちゃん、頑張って頂きたいと思います。
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2024年3月15日 金曜日
アルゴンプラズマ凝固法(APC)を使用してみました。
こんにちは 院長の伊藤です。
手術を実施する中で気を使うのが、止血です。
特に出血層が浅い患部で、湧水のごとく出血している場合などは、電気メス(モノポーラ・バイポーラ)でも完全に止血が完了しないこともあります。
今回、当院でエルベ社の電気メスを使用している関係で、オプションとしてアルゴンプラズマのスプレー凝固を試用させてもらいました。
ミニチュア・ピンシャーのルーシーちゃんは、乳腺腫瘍が見つかり今回、避妊手術と乳腺腫瘍摘出手術を実施することとなりました。
乳腺腫瘍の手術では、術後もジワジワ出血が続く症例もありますので、このアルゴンプラズマを使用することとしました。
上写真の黄色丸の部分がプラズマが放電しているところです。
一般に電気メスでは患部とメスが物理的に接触する点のみでの止血となります。
しかし、スプレー凝固(放電凝固)では、通常よりも高い電圧をかけることで、抵抗の高い空気中にスパークを飛ばす非接触的な面で凝固する方法です。
電離しやすいアルゴンガスは、高電圧のスプレー凝固出力によってイオン化したプラズマとなり、電極と組織の間に電圧を通す媒体となります。
難しい話はこれくらいにして、使用感としては溶接用のバーナーで炙るような感じです。
気をつけないと、あっという間に広範囲を炙ってしまいますので要注意です。
下写真の黄色部分のように一部、炭化した箇所が認められます。
止血完了を確認後、ガーゼで優しく取る事は可能です。
乳腺腫瘍摘出手術は従来、何ヶ所も血管を結紮止血して対応してきましたが、このAPCは瞬間的に止血できてしまうのは手術時間の短縮化につながり便利です。
エルベ社のバイクランプにしても、一度使用するともう縫合糸で血管を結紮することが煩雑に思えてきます。
しかし、技術革新とはこのような小さなことの積み重ねで進歩するわけですから、受け入れて動物たちに還元できる技術なら進んで取り込んでいきたいと思います。
ルーシーちゃんのこの避妊と乳腺腫瘍の手術にしても、あわせて90分とかかりませんでしたので非常に好感触です。
ルシーちゃん、お疲れ様でした!
手術を実施する中で気を使うのが、止血です。
特に出血層が浅い患部で、湧水のごとく出血している場合などは、電気メス(モノポーラ・バイポーラ)でも完全に止血が完了しないこともあります。
今回、当院でエルベ社の電気メスを使用している関係で、オプションとしてアルゴンプラズマのスプレー凝固を試用させてもらいました。
ミニチュア・ピンシャーのルーシーちゃんは、乳腺腫瘍が見つかり今回、避妊手術と乳腺腫瘍摘出手術を実施することとなりました。
乳腺腫瘍の手術では、術後もジワジワ出血が続く症例もありますので、このアルゴンプラズマを使用することとしました。
上写真の黄色丸の部分がプラズマが放電しているところです。
一般に電気メスでは患部とメスが物理的に接触する点のみでの止血となります。
しかし、スプレー凝固(放電凝固)では、通常よりも高い電圧をかけることで、抵抗の高い空気中にスパークを飛ばす非接触的な面で凝固する方法です。
電離しやすいアルゴンガスは、高電圧のスプレー凝固出力によってイオン化したプラズマとなり、電極と組織の間に電圧を通す媒体となります。
難しい話はこれくらいにして、使用感としては溶接用のバーナーで炙るような感じです。
気をつけないと、あっという間に広範囲を炙ってしまいますので要注意です。
下写真の黄色部分のように一部、炭化した箇所が認められます。
止血完了を確認後、ガーゼで優しく取る事は可能です。
乳腺腫瘍摘出手術は従来、何ヶ所も血管を結紮止血して対応してきましたが、このAPCは瞬間的に止血できてしまうのは手術時間の短縮化につながり便利です。
エルベ社のバイクランプにしても、一度使用するともう縫合糸で血管を結紮することが煩雑に思えてきます。
しかし、技術革新とはこのような小さなことの積み重ねで進歩するわけですから、受け入れて動物たちに還元できる技術なら進んで取り込んでいきたいと思います。
ルーシーちゃんのこの避妊と乳腺腫瘍の手術にしても、あわせて90分とかかりませんでしたので非常に好感触です。
ルシーちゃん、お疲れ様でした!
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2024年3月12日 火曜日
チワワの脾臓摘出手術(結節性過形成)
こんにちは 院長の伊藤です。
本日は腹腔内臓器摘出術の中でも、比較的高頻度に実施されている脾臓摘出術についてコメントさせて頂きます。
脾臓はリンパ系器官の中で最も大きな臓器です。
脾臓はどんな働きをしているかというと
1:血液の濾過
2:血液の貯蔵
3:免疫機能
4:造血
以上です。
そんな頑張っている脾臓ですが、全摘出術の適応となるのは原発性脾臓腫瘍や重度外傷による脾臓破裂です。
脾臓疾患の症状は、一般的にあいまいで脾臓疾患に特異的な症状はありません。
強いて挙げれば、突然の元気消失、嘔吐、体重減少、貧血です。
チワワのモカ君(11歳、雄)は突然の食欲不振、元気消失で来院されました。
血液検査ではCRP(炎症性蛋白)が4.3mg/dlと上昇している点が気になります。
他の血液検査項目は特に異常点はありません。
レントゲン検査を実施しました。
上の写真の黄色丸の箇所が円形に大きく腫大した腫瘤を表しています。
臓器の位置関係からすれば脾臓か、腸間膜リンパかといったところでしょうか。
その大きな腫瘤を超音波検査しました。
均一な微細斑点状の内部エコーを示す限界明瞭な低エコーの腫瘤が描出されました。
腫瘤エコーは脾臓エコーと連続性を持ち,脾臓の一部である画像所見が得られました。
恐らくこれは、脾臓の内部で出血をして腫大しているか、もしくは血管肉腫のように脾臓に生じる悪性腫瘍の可能性もあります。
この腫瘤が脾臓の腫瘍であった場合、脾臓全摘出して病理検査に出さないと悪性か良性かは不明です。
悪性であれば、血管肉腫や脾臓リンパ腫や内臓型肥満細胞腫であることが多いです。
腫瘍でなければ、結節性過形成の可能性もあります。
仮に結節性過形成であるとしても、腫瘤が大きくなれば腹腔内で破裂して死亡するケースもあります。
細胞診で患部を穿刺して確認する方法は、これが血管肉腫であった場合、禁忌とされます。
脾臓を穿刺することで患部から出血が止まらなくなったり、腹腔内に腫瘍をばらまくことになるので、開腹して肉眼で確認する方法が確実です。
いずれにせよ、試験的開腹を実施することとしました。
全身麻酔下のモカ君です。
皮膚、皮下組織、腹筋、腹膜にメスをいれて腹腔内が露出した時、大きな腫瘤が飛び出てきました(下写真)。
明らかに脾臓に形成された腫瘤です。
良く見ると2か所大きな腫瘤があり、腫瘍の可能性がありますし、部分的に切除しても境界面が不明瞭ですから全摘出することとしました。
脾臓は胃に沿って存在しており、摘出する場合は短胃動静脈、左胃大網動静脈、脾動静脈など多くの血管を縫合糸で結索して離断していきます。
当院では、バイクランプですべての血管をシーリングしていきます(下写真)。
これだけでも手術時間の短縮につながりますし、不整出血を防ぐこともできます。
すべて合わせて1時間以内に手術は終了しました。
覚醒時のモカ君です。
摘出した脾臓です。
下写真の黄色丸の部分が腫瘤です。
この腫瘤が腫瘍なのか確認するため、病理検査に出しました。
下写真は患部の顕微鏡写真(低倍率)です。
大小不整なリンパ濾胞と間質増生、うっ血、出血で構成されています。
下は高倍率の写真です。
リンパ濾胞を形成するリンパ球は多様で、単一系統の異型細胞の増殖は認められません。
つまり腫瘍細胞は認められませんでした。
腫瘤部以外の脾臓には、うっ血と髄外造血が認められました(下写真)。
病理医の結論は、脾臓の結節性過形成との診断でした。
結節性過形成は老齢犬にしばしば認められる非腫瘍性の病変です。
しかし、放置すると過形成リンパ組織がさらに融合していき、より大きな腫瘤となって脾臓破裂の原因になります。
結局、脾臓全摘出がベストの選択肢であり、全摘出後の予後も良好とされます。
脾臓は全摘出して大丈夫なの?
よくその質問を受けます。
脾臓の機能は他の臓器で代償できるものが多く、脾臓が必ずしも存在しないと命の維持に問題が生じるかというとそうでもありません。
ただ免疫介在性疾患や寄生性疾患の反応で腫大している脾臓は内科的治療を選択すべきとされてます。
モカ君の術後の経過は良好で、術後に食欲は戻り、1週間後に無事退院されました。
退院時のモカ君です。
お腹もすっきりして良かったね!
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本日は腹腔内臓器摘出術の中でも、比較的高頻度に実施されている脾臓摘出術についてコメントさせて頂きます。
脾臓はリンパ系器官の中で最も大きな臓器です。
脾臓はどんな働きをしているかというと
1:血液の濾過
2:血液の貯蔵
3:免疫機能
4:造血
以上です。
そんな頑張っている脾臓ですが、全摘出術の適応となるのは原発性脾臓腫瘍や重度外傷による脾臓破裂です。
脾臓疾患の症状は、一般的にあいまいで脾臓疾患に特異的な症状はありません。
強いて挙げれば、突然の元気消失、嘔吐、体重減少、貧血です。
チワワのモカ君(11歳、雄)は突然の食欲不振、元気消失で来院されました。
血液検査ではCRP(炎症性蛋白)が4.3mg/dlと上昇している点が気になります。
他の血液検査項目は特に異常点はありません。
レントゲン検査を実施しました。
上の写真の黄色丸の箇所が円形に大きく腫大した腫瘤を表しています。
臓器の位置関係からすれば脾臓か、腸間膜リンパかといったところでしょうか。
その大きな腫瘤を超音波検査しました。
均一な微細斑点状の内部エコーを示す限界明瞭な低エコーの腫瘤が描出されました。
腫瘤エコーは脾臓エコーと連続性を持ち,脾臓の一部である画像所見が得られました。
恐らくこれは、脾臓の内部で出血をして腫大しているか、もしくは血管肉腫のように脾臓に生じる悪性腫瘍の可能性もあります。
この腫瘤が脾臓の腫瘍であった場合、脾臓全摘出して病理検査に出さないと悪性か良性かは不明です。
悪性であれば、血管肉腫や脾臓リンパ腫や内臓型肥満細胞腫であることが多いです。
腫瘍でなければ、結節性過形成の可能性もあります。
仮に結節性過形成であるとしても、腫瘤が大きくなれば腹腔内で破裂して死亡するケースもあります。
細胞診で患部を穿刺して確認する方法は、これが血管肉腫であった場合、禁忌とされます。
脾臓を穿刺することで患部から出血が止まらなくなったり、腹腔内に腫瘍をばらまくことになるので、開腹して肉眼で確認する方法が確実です。
いずれにせよ、試験的開腹を実施することとしました。
全身麻酔下のモカ君です。
皮膚、皮下組織、腹筋、腹膜にメスをいれて腹腔内が露出した時、大きな腫瘤が飛び出てきました(下写真)。
明らかに脾臓に形成された腫瘤です。
良く見ると2か所大きな腫瘤があり、腫瘍の可能性がありますし、部分的に切除しても境界面が不明瞭ですから全摘出することとしました。
脾臓は胃に沿って存在しており、摘出する場合は短胃動静脈、左胃大網動静脈、脾動静脈など多くの血管を縫合糸で結索して離断していきます。
当院では、バイクランプですべての血管をシーリングしていきます(下写真)。
これだけでも手術時間の短縮につながりますし、不整出血を防ぐこともできます。
すべて合わせて1時間以内に手術は終了しました。
覚醒時のモカ君です。
摘出した脾臓です。
下写真の黄色丸の部分が腫瘤です。
この腫瘤が腫瘍なのか確認するため、病理検査に出しました。
下写真は患部の顕微鏡写真(低倍率)です。
大小不整なリンパ濾胞と間質増生、うっ血、出血で構成されています。
下は高倍率の写真です。
リンパ濾胞を形成するリンパ球は多様で、単一系統の異型細胞の増殖は認められません。
つまり腫瘍細胞は認められませんでした。
腫瘤部以外の脾臓には、うっ血と髄外造血が認められました(下写真)。
病理医の結論は、脾臓の結節性過形成との診断でした。
結節性過形成は老齢犬にしばしば認められる非腫瘍性の病変です。
しかし、放置すると過形成リンパ組織がさらに融合していき、より大きな腫瘤となって脾臓破裂の原因になります。
結局、脾臓全摘出がベストの選択肢であり、全摘出後の予後も良好とされます。
脾臓は全摘出して大丈夫なの?
よくその質問を受けます。
脾臓の機能は他の臓器で代償できるものが多く、脾臓が必ずしも存在しないと命の維持に問題が生じるかというとそうでもありません。
ただ免疫介在性疾患や寄生性疾患の反応で腫大している脾臓は内科的治療を選択すべきとされてます。
モカ君の術後の経過は良好で、術後に食欲は戻り、1週間後に無事退院されました。
退院時のモカ君です。
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