ウサギの疾病
ウサギの前縦隔疾患(胸腺腫の疑い)
こんにちは 院長の伊藤です。
ウサギは色々な疾病にかかりますが、比較的胸部疾患は少ないとされます。
ウサギは草食獣であるため、全体腔内で消化器が占める割合が非常に大きく、胸郭はわずかなスペースしか取れていません。
そのため、一たび胸部疾患になりますと呼吸困難から重篤な症状になることが多いです。
本日ご紹介しますのはウサギの前縦隔疾患、特に胸腺腫の疑いの1例です。
胸腺とは、T細胞というリンパ球の大部分を占める免疫細胞を産生する組織で、心臓の上に位置しています。
ヒトではこの胸腺は思春期に最大になり、60歳以降は消失する組織です。
一方、ウサギでは成獣になっても退縮することなく遺残します。
この胸腺が腫瘍化する疾患を胸腺腫と言います。
本日ご紹介しますのは、ウサギのちゃちゃ丸君(6歳、雄、雑種)です。
ちゃちゃ丸君は突然、呼吸困難に陥り来院されました。
一般にはウサギは鼻で呼吸をしますが、呼吸困難になってきますと開口呼吸を始めます。
ちゃちゃ丸君は、肩で呼吸をしており、今にも開口呼吸が始まりそうです。
下写真をご覧いただくと、ちゃちゃ丸君の両眼が少し突出している(下黄色矢印)のがお分かり頂けるでしょうか?
加えて両眼共に瞬膜(第三眼瞼)という眼を保護する膜が眼頭から出てきてます。
以上の症状は胸部疾患、特に前縦隔疾患に共通する臨床症状です。
縦隔とは両肺と胸椎・胸骨で囲まれた部分を言います。
前縦隔とは、縦隔の内、心臓の腹側面側の部位を指します。
先ほどウサギの胸腺は成長後も遺残することを述べました。
加えてウサギの場合、左前大静脈という犬猫では発生過程で消失する静脈が生後も遺残します。
この左前大静脈が胸腺やリンパ節の腫大で圧迫されて生じる症状を前大静脈症候群といいます。
前大静脈症候群になりますと圧迫に伴い生じるうっ血により、無痛性・両側性の眼球突出や第三眼瞼突出、頭頸部・前肢の浮腫が生じます。
ちゃちゃ丸君はこの前大静脈症候群が出ているということです。
早速、レントゲン写真を撮影しました。
下写真は腹背像ですが、黄色矢印にあるように右側前縦隔に腫瘤を認めます。
側臥のレントゲン像です。
心臓の前のスペースに腫瘤が存在して(下写真黄色丸)心臓を圧迫しているのが分かります。
前縦隔疾患で発症率で多いとされるのは、胸腺腫とリンパ腫(前縦隔型)です。
レントゲン撮影ではこの2つの疾病は鑑別できません。
加えて、血液検査でも鑑別に関与する特異的所見はないとされています。
あとは針生検(FNA)による細胞学的な検査ですが、これも比較的未熟なリンパ芽球が多く出ればリンパ腫と診断が出来ますが、
針の生検では鑑別は困難とされます。
組織を外科的に摘出できれば確定診断は可能です。
しかし、今のちゃちゃ丸君では、全身麻酔よりも体を抑えるだけでも呼吸不全で死んでしまいます。
そのため、ICUの部屋に入院して頂き40%の酸素下で、呼吸不全を治療していくことにしました。
高用量のプレドニゾロンと気管支拡張剤・抗生剤の組み合わせて内科的治療を開始しました。
胸腺腫とリンパ腫も治療はプレドニゾロンの投薬であることは共通しています。
前大静脈症候群が認められたら、まずは胸腺腫を疑うのが鉄則です。
ちゃちゃ丸君は2日目には食欲が出始めて来ました。
入院3日目になりますと呼吸不全の症状も改善が認められてきました。
レントゲン撮影を実施しました。
右腫瘤(上黄色矢印)が縮小してきているのが分かります。
下側臥写真では前胸部の腫瘤が縮小してきて、気管を持ち上げていたのが、ほぼ正常に戻ってます。
今回のような高度の呼吸不全例では、あまり積極的な精密検査を実施することで、ウサギがそのストレスにより死亡することを念頭に置かねばなりません。
精密検査で病名は確定診断できたけど、患者が死亡しては本末転倒です。
まずはちゃちゃ丸君の容態が安定してから、改めて生検をして胸腺腫かリンパ腫であるかの鑑別を行う予定でいます。
入院4日目にして、ICUのケージから出ても呼吸は安定できるようになり、退院して頂くことになりました。
しばらくの間、ちゃちゃ丸君はプレドニゾロンの連続投薬が必要です。
呼吸不全はウサギにとって緊急の事態となります。
速やかな対応・治療ができれば、救済することは可能です。
ちゃちゃ丸君、お疲れ様でした!
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ウサギは色々な疾病にかかりますが、比較的胸部疾患は少ないとされます。
ウサギは草食獣であるため、全体腔内で消化器が占める割合が非常に大きく、胸郭はわずかなスペースしか取れていません。
そのため、一たび胸部疾患になりますと呼吸困難から重篤な症状になることが多いです。
本日ご紹介しますのはウサギの前縦隔疾患、特に胸腺腫の疑いの1例です。
胸腺とは、T細胞というリンパ球の大部分を占める免疫細胞を産生する組織で、心臓の上に位置しています。
ヒトではこの胸腺は思春期に最大になり、60歳以降は消失する組織です。
一方、ウサギでは成獣になっても退縮することなく遺残します。
この胸腺が腫瘍化する疾患を胸腺腫と言います。
本日ご紹介しますのは、ウサギのちゃちゃ丸君(6歳、雄、雑種)です。
ちゃちゃ丸君は突然、呼吸困難に陥り来院されました。
一般にはウサギは鼻で呼吸をしますが、呼吸困難になってきますと開口呼吸を始めます。
ちゃちゃ丸君は、肩で呼吸をしており、今にも開口呼吸が始まりそうです。
下写真をご覧いただくと、ちゃちゃ丸君の両眼が少し突出している(下黄色矢印)のがお分かり頂けるでしょうか?
加えて両眼共に瞬膜(第三眼瞼)という眼を保護する膜が眼頭から出てきてます。
以上の症状は胸部疾患、特に前縦隔疾患に共通する臨床症状です。
縦隔とは両肺と胸椎・胸骨で囲まれた部分を言います。
前縦隔とは、縦隔の内、心臓の腹側面側の部位を指します。
先ほどウサギの胸腺は成長後も遺残することを述べました。
加えてウサギの場合、左前大静脈という犬猫では発生過程で消失する静脈が生後も遺残します。
この左前大静脈が胸腺やリンパ節の腫大で圧迫されて生じる症状を前大静脈症候群といいます。
前大静脈症候群になりますと圧迫に伴い生じるうっ血により、無痛性・両側性の眼球突出や第三眼瞼突出、頭頸部・前肢の浮腫が生じます。
ちゃちゃ丸君はこの前大静脈症候群が出ているということです。
早速、レントゲン写真を撮影しました。
下写真は腹背像ですが、黄色矢印にあるように右側前縦隔に腫瘤を認めます。
側臥のレントゲン像です。
心臓の前のスペースに腫瘤が存在して(下写真黄色丸)心臓を圧迫しているのが分かります。
前縦隔疾患で発症率で多いとされるのは、胸腺腫とリンパ腫(前縦隔型)です。
レントゲン撮影ではこの2つの疾病は鑑別できません。
加えて、血液検査でも鑑別に関与する特異的所見はないとされています。
あとは針生検(FNA)による細胞学的な検査ですが、これも比較的未熟なリンパ芽球が多く出ればリンパ腫と診断が出来ますが、
針の生検では鑑別は困難とされます。
組織を外科的に摘出できれば確定診断は可能です。
しかし、今のちゃちゃ丸君では、全身麻酔よりも体を抑えるだけでも呼吸不全で死んでしまいます。
そのため、ICUの部屋に入院して頂き40%の酸素下で、呼吸不全を治療していくことにしました。
高用量のプレドニゾロンと気管支拡張剤・抗生剤の組み合わせて内科的治療を開始しました。
胸腺腫とリンパ腫も治療はプレドニゾロンの投薬であることは共通しています。
前大静脈症候群が認められたら、まずは胸腺腫を疑うのが鉄則です。
ちゃちゃ丸君は2日目には食欲が出始めて来ました。
入院3日目になりますと呼吸不全の症状も改善が認められてきました。
レントゲン撮影を実施しました。
右腫瘤(上黄色矢印)が縮小してきているのが分かります。
下側臥写真では前胸部の腫瘤が縮小してきて、気管を持ち上げていたのが、ほぼ正常に戻ってます。
今回のような高度の呼吸不全例では、あまり積極的な精密検査を実施することで、ウサギがそのストレスにより死亡することを念頭に置かねばなりません。
精密検査で病名は確定診断できたけど、患者が死亡しては本末転倒です。
まずはちゃちゃ丸君の容態が安定してから、改めて生検をして胸腺腫かリンパ腫であるかの鑑別を行う予定でいます。
入院4日目にして、ICUのケージから出ても呼吸は安定できるようになり、退院して頂くことになりました。
しばらくの間、ちゃちゃ丸君はプレドニゾロンの連続投薬が必要です。
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投稿者 院長 | 記事URL
ウサギの膀胱結石(シュウ酸カルシウム結石)
こんにちは 院長の伊藤です。
本日、ご紹介しますのはウサギの膀胱結石(シュウ酸カルシウム結石)です。
ウサギの砂粒症や膀胱結石については以前にコメントさせて頂きました。
詳細は上文の下線部をクリックしてご覧ください。
ウサギのクー君(5歳10か月、去勢済)は食欲不振と排尿が出来ていないとのことで来院されました。
脱水が進行している点と軽い虚脱状態に陥っている点が気になります。
食滞も含めて全身状態を確認するためにレントゲン撮影を実施させて頂きました。
下写真の黄色丸の箇所は膀胱です。
下に膀胱を拡大した像を載せます。
次に側臥の状態のレントゲン像です。
同じく拡大像です。
膀胱内に存在しているのは、膀胱結石です。
細かな大小さまざまな結石が認められます。
クーちゃんが排尿が上手くできていないのは、この結石が原因と思われます。
採尿した尿を顕微鏡で確認しました。
正八面体の形状をした結晶が下写真黄色丸に認められます。
これは、シュウ酸カルシウムの2水和物の結晶体です。
この結晶体以外にも赤血球や剥離した膀胱粘膜上皮細胞が認められます。
クーちゃんは尿石症に加えて膀胱炎にもなっています。
排尿障害がある場合は、腎不全が絡んできますので血液検査が必要ですが、血圧低下のため採血が十分量取れませんでした。
クー君は食欲不振になってから1週間ほど経過していますので、このまま内科的治療で改善できるか、非常に悩ましい状況です。
飼主様のご希望もあり、排尿障害を解除するために膀胱結石の摘出手術を実施することにしました。
頭側皮静脈に留置針を入れ、点滴のラインを確保します。
ガスマスクでイソフルランによる導入・維持麻酔を行います。
膀胱切開時に生理食塩水で膀胱内を洗浄するために、挿入できる範囲で尿道カテーテルを留置します。
クー君は全身麻酔が効いて来たようです。
膀胱にアプローチできるように皮膚切開します。
下写真の黄色丸は膀胱です。
メスで膀胱を切開して行きます。
膀胱切開と同時に尿道カテーテルから生理食塩水をフラッシュして、膀胱を洗い流します。
すると膀胱の奥の方から、下写真の黄色矢印のように結石が出て来ました。
外部からも生理食塩水で膀胱を洗います。
思いのほか、多数の結石が詰まっています。
膀胱内の結石を全て取り出したものです。
のちほど結石を乾燥させたものが下写真です。
シュウ酸カルシウム結石であることが判明しました。
結石を摘出した膀胱を縫合して行きます。
膀胱の縫合が完了したところで、漏れがないか注射器に入れた生理食塩水を注入して確認します。
生理食塩水の漏出も認められませんでした。
最後に閉腹して手術は終了します。
血液検査による腎機能の確認が出来ていなかったのが気がかりですが、クー君は無事覚醒しました。
手術翌日のクー君です。
まだ食欲はなく、スタッフが強制給餌をします。
術後2日目になると盛んにケージ内を動き回れるようになりました。
食欲も出て来ました。
2枚重ねにした食器を咬んで振り回したりしています。
先日までの不調が嘘のようです。
もう数日で元気に退院できるものと思っていたのですが、術後3日目には再び動かなくなり、食欲もなくなりました。
クー君は術後4日目にして急逝されました。
腎不全が原因でした。
5年にわたるお付き合いをさせて頂いた子なので本当に残念です。
元気な姿で飼主様のもとにお返しすることが出来ませんでした。
犬や猫と異なり、ウサギは病状を初期のステージでは表に出すことは少ないと思います。
特に排尿回数や量については、よほど気を付けないと見過ごす可能性は高いでしょう。
ウサギに限らず、エキゾチックアニマルは病状が進行してから治療がスタートすることが殆どとなります。
日常から排便排尿は気を付けて見て頂くことと、犬猫同様に5歳を過ぎたら健康診断を兼ねてレントゲン検査や血液検査を受けられることを強くお勧めします。
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本日、ご紹介しますのはウサギの膀胱結石(シュウ酸カルシウム結石)です。
ウサギの砂粒症や膀胱結石については以前にコメントさせて頂きました。
詳細は上文の下線部をクリックしてご覧ください。
ウサギのクー君(5歳10か月、去勢済)は食欲不振と排尿が出来ていないとのことで来院されました。
脱水が進行している点と軽い虚脱状態に陥っている点が気になります。
食滞も含めて全身状態を確認するためにレントゲン撮影を実施させて頂きました。
下写真の黄色丸の箇所は膀胱です。
下に膀胱を拡大した像を載せます。
次に側臥の状態のレントゲン像です。
同じく拡大像です。
膀胱内に存在しているのは、膀胱結石です。
細かな大小さまざまな結石が認められます。
クーちゃんが排尿が上手くできていないのは、この結石が原因と思われます。
採尿した尿を顕微鏡で確認しました。
正八面体の形状をした結晶が下写真黄色丸に認められます。
これは、シュウ酸カルシウムの2水和物の結晶体です。
この結晶体以外にも赤血球や剥離した膀胱粘膜上皮細胞が認められます。
クーちゃんは尿石症に加えて膀胱炎にもなっています。
排尿障害がある場合は、腎不全が絡んできますので血液検査が必要ですが、血圧低下のため採血が十分量取れませんでした。
クー君は食欲不振になってから1週間ほど経過していますので、このまま内科的治療で改善できるか、非常に悩ましい状況です。
飼主様のご希望もあり、排尿障害を解除するために膀胱結石の摘出手術を実施することにしました。
頭側皮静脈に留置針を入れ、点滴のラインを確保します。
ガスマスクでイソフルランによる導入・維持麻酔を行います。
膀胱切開時に生理食塩水で膀胱内を洗浄するために、挿入できる範囲で尿道カテーテルを留置します。
クー君は全身麻酔が効いて来たようです。
膀胱にアプローチできるように皮膚切開します。
下写真の黄色丸は膀胱です。
メスで膀胱を切開して行きます。
膀胱切開と同時に尿道カテーテルから生理食塩水をフラッシュして、膀胱を洗い流します。
すると膀胱の奥の方から、下写真の黄色矢印のように結石が出て来ました。
外部からも生理食塩水で膀胱を洗います。
思いのほか、多数の結石が詰まっています。
膀胱内の結石を全て取り出したものです。
のちほど結石を乾燥させたものが下写真です。
シュウ酸カルシウム結石であることが判明しました。
結石を摘出した膀胱を縫合して行きます。
膀胱の縫合が完了したところで、漏れがないか注射器に入れた生理食塩水を注入して確認します。
生理食塩水の漏出も認められませんでした。
最後に閉腹して手術は終了します。
血液検査による腎機能の確認が出来ていなかったのが気がかりですが、クー君は無事覚醒しました。
手術翌日のクー君です。
まだ食欲はなく、スタッフが強制給餌をします。
術後2日目になると盛んにケージ内を動き回れるようになりました。
食欲も出て来ました。
2枚重ねにした食器を咬んで振り回したりしています。
先日までの不調が嘘のようです。
もう数日で元気に退院できるものと思っていたのですが、術後3日目には再び動かなくなり、食欲もなくなりました。
クー君は術後4日目にして急逝されました。
腎不全が原因でした。
5年にわたるお付き合いをさせて頂いた子なので本当に残念です。
元気な姿で飼主様のもとにお返しすることが出来ませんでした。
犬や猫と異なり、ウサギは病状を初期のステージでは表に出すことは少ないと思います。
特に排尿回数や量については、よほど気を付けないと見過ごす可能性は高いでしょう。
ウサギに限らず、エキゾチックアニマルは病状が進行してから治療がスタートすることが殆どとなります。
日常から排便排尿は気を付けて見て頂くことと、犬猫同様に5歳を過ぎたら健康診断を兼ねてレントゲン検査や血液検査を受けられることを強くお勧めします。
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ウサギの食滞(食餌内容物による胃内膨満)
こんにちは 院長の伊藤です。
ウサギの疾病で症状として一番多いのは、食欲不振です。
基本的にウサギは寝ている時以外は、口の中をモグモグと餌を咀嚼しているのが普通です。
食欲不振が24時間以上続くのは、要注意です。
食欲不振の原因は、口腔疾患(臼歯過長症など)あるいは消化器疾患であることが多いです。
以前、ウサギの消化器症候群(RGIS)についてコメントさせて頂きました。
詳細はこちらを参照下さい。
RGISは、各種原因による消化管うっ滞(食滞)を総称して呼びます。
原因とは、食餌内容や異物誤飲、消化管への微生物感染、飼育環境によるストレス等などです。
RGISにより、胃内容の停滞・胃内液の貯留・腸管蠕動の停滞・腸内ガス停留が生じ食欲廃絶に至ります。
今回、ご紹介しますのはRGISになり、胃内容が食餌で膨満し、外科的に胃切開を実施して治療したケースです。
ホーランドロップのソラ君(雄、3歳6か月)は朝突然、食欲が無くなったとのことで来院されました。
ソラ君は眼が虚ろで、軽度のショック状態に陥っています。
触診しますと腹部が膨満しており、RGISが関与する食欲廃絶の可能性が高いと思われました。
そのため、レントゲン撮影を実施しました。
下写真の赤矢印は心臓で黄色丸が胃です。
心臓に比べてもかなり胃が、胃内容物で膨満しているのがご理解頂けるかと思います。
一般的に腹部レントゲン検査で腰椎3椎分以上で胃拡張と診断されます。
ソラ君の場合は、腰椎6椎分位あり、かなり胃は膨大しているのが分かります。
下写真の黄色丸は胃です。
胃が内容物で一杯に腫れている一方で、十二指腸から下へ胃内容物が蠕動運動と共に送られていないため、小腸はガスが貯留した状態になっています(下写真赤丸)。
胃内容物が腸まで送り込めていないことは、消化管閉塞を示唆します。
ウサギのRGISは、迅速な対応をしないと死の転帰をたどるケースも多いです。
胃内容が異常発酵してガスが貯留した場合は、胃カテーテルを入れてガス抜きを行いますが、今回はガスよりも多量の胃内容物による胃拡張が原因と思われますので、外科的に胃切開を施し内容物を除去することとしました。
ソラ君の頭側皮静脈に点滴のための留置針を入れます。
ガス麻酔を実施し、お腹の剃毛・消毒を行います。
胃の存在する上腹部(下写真黄色丸)は外から見ても以上に腫れているのがお分かり頂けるかと思います。
胃が下に位置していると思われる上腹部にメスを入れます。
腫れあがった胃が腹壁を切開すると同時に飛び出してきました。
胃に四方から支持糸をかけて、胃が腹腔内に戻らないように上方に牽引します。
胃壁に切開を加えます。
胃内は食渣で一杯です。
ティー・スプーンで胃内食渣を全て取り出します。
胃内を生理食塩水で洗浄して、バキュウームで吸引します。
内容が空になった胃壁を縫合します。
胃壁を隙間なく、しっかり縫合するため2層縫合法を実施しました。
1層目の縫合は漿膜・筋層・粘膜の全層貫通の縫合です。
2層目の縫合は、漿膜と筋層のみを貫通させる結節レンベルト縫合を実施しました。
これで胃切開部の縫合は終了です。
食渣で腹腔内が汚染されるのを防ぐため、腹腔内を加温生食で何度も洗浄します。
最後に胃縫合部に抗生剤を滴下して閉腹します。
腹筋を縫合します。
最後に皮膚縫合して手術は終了です。
胃内に停留していた食渣の一部です。
食渣からは発酵臭が認められます。
麻酔覚醒直後のソラ君です。
ぐったりはしていますが、意識はしっかりしています。
術後のソラ君の回復は良好で、食欲も翌日から順調に出て来ました。
とはいえ、大きく胃切開をしていますので、犬の異物誤飲のケース同様に流動食の強制給餌がしばらく必要となります。
術後4日目のソラ君のレントゲン写真です。
胃拡張の状態から、ほぼ正常な大きさに胃は戻っています。
加えて、盲腸以下のガスの貯留も抜けて落ち着いています。
ソラ君のRGISの原因は、食餌の内容にあるようです。
ペレットフード、チモシー(一番刈り)以外に、オオバコやチンゲンサイ、コマツナ、キャベツ、ニンジンの葉等の生野菜を中心とした食生活を送っていたそうです。
一度に多量の生野菜を摂食することで、胃内容が発酵したり、胃液が貯留したりして胃腸の蠕動運動が低下して、今回のRGISに至ったと考えられます。
今回、ソラ君は毛球症対策としてラキサトーンを利用されているとのこともあり、胃内異物としての毛球は認められませんでした。
食餌に関しては、体重の1.5%にあたるペレットフードと後の大部分はチモシーを給餌するようにして下さい。
退院時のソラ君です。
普通にチモシーもしっかり、食べられるようになりました。
元気に退院できて良かったです。
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ウサギの疾病で症状として一番多いのは、食欲不振です。
基本的にウサギは寝ている時以外は、口の中をモグモグと餌を咀嚼しているのが普通です。
食欲不振が24時間以上続くのは、要注意です。
食欲不振の原因は、口腔疾患(臼歯過長症など)あるいは消化器疾患であることが多いです。
以前、ウサギの消化器症候群(RGIS)についてコメントさせて頂きました。
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RGISは、各種原因による消化管うっ滞(食滞)を総称して呼びます。
原因とは、食餌内容や異物誤飲、消化管への微生物感染、飼育環境によるストレス等などです。
RGISにより、胃内容の停滞・胃内液の貯留・腸管蠕動の停滞・腸内ガス停留が生じ食欲廃絶に至ります。
今回、ご紹介しますのはRGISになり、胃内容が食餌で膨満し、外科的に胃切開を実施して治療したケースです。
ホーランドロップのソラ君(雄、3歳6か月)は朝突然、食欲が無くなったとのことで来院されました。
ソラ君は眼が虚ろで、軽度のショック状態に陥っています。
触診しますと腹部が膨満しており、RGISが関与する食欲廃絶の可能性が高いと思われました。
そのため、レントゲン撮影を実施しました。
下写真の赤矢印は心臓で黄色丸が胃です。
心臓に比べてもかなり胃が、胃内容物で膨満しているのがご理解頂けるかと思います。
一般的に腹部レントゲン検査で腰椎3椎分以上で胃拡張と診断されます。
ソラ君の場合は、腰椎6椎分位あり、かなり胃は膨大しているのが分かります。
下写真の黄色丸は胃です。
胃が内容物で一杯に腫れている一方で、十二指腸から下へ胃内容物が蠕動運動と共に送られていないため、小腸はガスが貯留した状態になっています(下写真赤丸)。
胃内容物が腸まで送り込めていないことは、消化管閉塞を示唆します。
ウサギのRGISは、迅速な対応をしないと死の転帰をたどるケースも多いです。
胃内容が異常発酵してガスが貯留した場合は、胃カテーテルを入れてガス抜きを行いますが、今回はガスよりも多量の胃内容物による胃拡張が原因と思われますので、外科的に胃切開を施し内容物を除去することとしました。
ソラ君の頭側皮静脈に点滴のための留置針を入れます。
ガス麻酔を実施し、お腹の剃毛・消毒を行います。
胃の存在する上腹部(下写真黄色丸)は外から見ても以上に腫れているのがお分かり頂けるかと思います。
胃が下に位置していると思われる上腹部にメスを入れます。
腫れあがった胃が腹壁を切開すると同時に飛び出してきました。
胃に四方から支持糸をかけて、胃が腹腔内に戻らないように上方に牽引します。
胃壁に切開を加えます。
胃内は食渣で一杯です。
ティー・スプーンで胃内食渣を全て取り出します。
胃内を生理食塩水で洗浄して、バキュウームで吸引します。
内容が空になった胃壁を縫合します。
胃壁を隙間なく、しっかり縫合するため2層縫合法を実施しました。
1層目の縫合は漿膜・筋層・粘膜の全層貫通の縫合です。
2層目の縫合は、漿膜と筋層のみを貫通させる結節レンベルト縫合を実施しました。
これで胃切開部の縫合は終了です。
食渣で腹腔内が汚染されるのを防ぐため、腹腔内を加温生食で何度も洗浄します。
最後に胃縫合部に抗生剤を滴下して閉腹します。
腹筋を縫合します。
最後に皮膚縫合して手術は終了です。
胃内に停留していた食渣の一部です。
食渣からは発酵臭が認められます。
麻酔覚醒直後のソラ君です。
ぐったりはしていますが、意識はしっかりしています。
術後のソラ君の回復は良好で、食欲も翌日から順調に出て来ました。
とはいえ、大きく胃切開をしていますので、犬の異物誤飲のケース同様に流動食の強制給餌がしばらく必要となります。
術後4日目のソラ君のレントゲン写真です。
胃拡張の状態から、ほぼ正常な大きさに胃は戻っています。
加えて、盲腸以下のガスの貯留も抜けて落ち着いています。
ソラ君のRGISの原因は、食餌の内容にあるようです。
ペレットフード、チモシー(一番刈り)以外に、オオバコやチンゲンサイ、コマツナ、キャベツ、ニンジンの葉等の生野菜を中心とした食生活を送っていたそうです。
一度に多量の生野菜を摂食することで、胃内容が発酵したり、胃液が貯留したりして胃腸の蠕動運動が低下して、今回のRGISに至ったと考えられます。
今回、ソラ君は毛球症対策としてラキサトーンを利用されているとのこともあり、胃内異物としての毛球は認められませんでした。
食餌に関しては、体重の1.5%にあたるペレットフードと後の大部分はチモシーを給餌するようにして下さい。
退院時のソラ君です。
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ウサギのハエウジ症(その2)
こんにちは 院長の伊藤です。
まだまだ暑い日が続きます。
今年の夏も色んな疾病の動物達の治療に関わって来ました。
その中でも体感的に辛かった疾病にハエウジ症があります。
外陰部や肛門周囲を不衛生な状態にほっておきますとハエが卵を患部に産み付け、孵化したウジが患部を穿孔して皮膚から皮下組織、場合によっては筋肉層まで侵入します。
以前、ウサギのハエウジ症を紹介させて頂きました。
興味のある方はこちらもご参照下さい。
ネザーランドドワーフのおはぎ君(雄、4歳)は食欲不振から虚脱(ショック)状態に陥り、来院されました。
体温も40度あり、熱中症の疑いが認められました。
点滴やステロイドの投薬をして経過観察としましたが、その2日後に再診で来院されました。
2日前と比べて症状は多少改善はありますが、活力の低下は否めません。
腐敗臭が陰部周辺(下写真黄色丸)から漂ってきましたので、患部を確認したところハエウジの感染が認められました。
下写真の矢印が示すのがウジです。
おはぎ君の陰嚢の下側に多数のウジが皮膚を食い破って侵入しています。
毛が密生していますので、パッと見では気付かないかもしれません。
まずは、鉗子でウジを一匹づつ掴んで取り除いていきます。
ハエウジの動きは俊敏で一瞬で被毛の裏側や欠損している皮膚の中へ潜りこみます。
鉗子でつまみ出す行為自体が煩雑で苦労します。
ざっと取り除いたウジは軽く100匹を超えました。
ウジに荒らされた陰嚢周辺部です。
皮膚がウジにより、裂けて食い破られて、精巣が露出しています。
最後に洗面器の中に下半身を漬けて患部を洗浄します。
患部洗浄処置後のおはぎ君です。
疼痛のためか体に力が入らない状態です。
患部からは滲出液が出てきて、若干の腫脹が認められます。
今後は患部を洗浄消毒を繰り返して、抗生剤の投薬や褥瘡・皮膚潰瘍治療剤のイサロパンを患部に散剤します。
2日後のおはぎ君です。
患部はイサロパンで白くなっていますが、膿が固着しています。
5日後のおはぎ君です。
患部の腫脹が進行してます。
加えて、便や尿が患部を汚染して衛生的に管理することが困難な状態です。
14日後のおはぎ君です。
患部は肉芽組織が形成されて、一部痂皮(かさぶた)が形成されています。
イサロパンの効果もあり、炎症で滲出液がジワジワ出ていた状態はクリア出来ました。
26日後のおはぎ君です。
患部は綺麗になっています。
陰嚢の裏側は痂皮形成がありますが、それももうすぐ脱落して新生した皮膚組織に変わると思われます。
ハエがあらゆる動物に卵を産み付けるわけではありません。
産卵の対象となるのは、衰弱して近々に死亡するであろう動物です。
今回、おはぎ君は熱中症と思しき症状で全身状態が悪く、排尿排便の切れが悪く陰部・肛門部が汚れていたのがいけなかったと思われます。
熱中症は幸い軽度であり、おはぎ君の回復と共にハエウジによる障害は改善しました。
高温多湿な時期は、ウサギに限らず犬猫であっても陰部・肛門周囲は衛生的に保つように心がけて下さい。
おはぎ君、お疲れ様でした!
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まだまだ暑い日が続きます。
今年の夏も色んな疾病の動物達の治療に関わって来ました。
その中でも体感的に辛かった疾病にハエウジ症があります。
外陰部や肛門周囲を不衛生な状態にほっておきますとハエが卵を患部に産み付け、孵化したウジが患部を穿孔して皮膚から皮下組織、場合によっては筋肉層まで侵入します。
以前、ウサギのハエウジ症を紹介させて頂きました。
興味のある方はこちらもご参照下さい。
ネザーランドドワーフのおはぎ君(雄、4歳)は食欲不振から虚脱(ショック)状態に陥り、来院されました。
体温も40度あり、熱中症の疑いが認められました。
点滴やステロイドの投薬をして経過観察としましたが、その2日後に再診で来院されました。
2日前と比べて症状は多少改善はありますが、活力の低下は否めません。
腐敗臭が陰部周辺(下写真黄色丸)から漂ってきましたので、患部を確認したところハエウジの感染が認められました。
下写真の矢印が示すのがウジです。
おはぎ君の陰嚢の下側に多数のウジが皮膚を食い破って侵入しています。
毛が密生していますので、パッと見では気付かないかもしれません。
まずは、鉗子でウジを一匹づつ掴んで取り除いていきます。
ハエウジの動きは俊敏で一瞬で被毛の裏側や欠損している皮膚の中へ潜りこみます。
鉗子でつまみ出す行為自体が煩雑で苦労します。
ざっと取り除いたウジは軽く100匹を超えました。
ウジに荒らされた陰嚢周辺部です。
皮膚がウジにより、裂けて食い破られて、精巣が露出しています。
最後に洗面器の中に下半身を漬けて患部を洗浄します。
患部洗浄処置後のおはぎ君です。
疼痛のためか体に力が入らない状態です。
患部からは滲出液が出てきて、若干の腫脹が認められます。
今後は患部を洗浄消毒を繰り返して、抗生剤の投薬や褥瘡・皮膚潰瘍治療剤のイサロパンを患部に散剤します。
2日後のおはぎ君です。
患部はイサロパンで白くなっていますが、膿が固着しています。
5日後のおはぎ君です。
患部の腫脹が進行してます。
加えて、便や尿が患部を汚染して衛生的に管理することが困難な状態です。
14日後のおはぎ君です。
患部は肉芽組織が形成されて、一部痂皮(かさぶた)が形成されています。
イサロパンの効果もあり、炎症で滲出液がジワジワ出ていた状態はクリア出来ました。
26日後のおはぎ君です。
患部は綺麗になっています。
陰嚢の裏側は痂皮形成がありますが、それももうすぐ脱落して新生した皮膚組織に変わると思われます。
ハエがあらゆる動物に卵を産み付けるわけではありません。
産卵の対象となるのは、衰弱して近々に死亡するであろう動物です。
今回、おはぎ君は熱中症と思しき症状で全身状態が悪く、排尿排便の切れが悪く陰部・肛門部が汚れていたのがいけなかったと思われます。
熱中症は幸い軽度であり、おはぎ君の回復と共にハエウジによる障害は改善しました。
高温多湿な時期は、ウサギに限らず犬猫であっても陰部・肛門周囲は衛生的に保つように心がけて下さい。
おはぎ君、お疲れ様でした!
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投稿者 院長 | 記事URL
ウサギの悪性黒色腫(Malignant melanoma)
こんにちは 院長の伊藤です。
腫瘍疾患の動物は、日常診療で増加の傾向にあります。
犬猫に限らず、エキゾチックアニマルについても腫瘍疾患に遭遇する機会は多いと思います。
本日ご紹介しますのは、ウサギの悪性黒色腫です。
ネザーランドドワーフのとんぱー君(雄、10歳、体重1.5kg)は口周りに黒いできものがあるとのことで来院されました。
早速、細胞診をして検査センターに送ったところ、メラニン色素を伴った炎症性病変とのこと。
腫瘍細胞は認められないという事なので、その指示に従って抗生剤・抗炎症剤の投薬を開始しました。
ところが、この病変部は治るどころか、さらに大きくなってきました(下写真は90日後のものです)。
腫瘍に関しては、その細胞診と病理検査の結果が異なることはよくあります。
細胞診は腫瘍と思しき腫瘤に注射針などで穿刺吸引して、細胞を顕微鏡で確認する検査です。
一方、病理検査は腫瘤を外科的に摘出して組織として病理標本を作製・鑑定する検査です。
今回、メラニン色素を伴った炎症性病変でなく、むしろ悪性黒色腫を想定した治療に変更することにしました。
つまり、最善策として患部を外科的に摘出することとしました。
まずは、全身麻酔のためガスマスクをさせて導入麻酔をします。
鼻先の腫瘍ですので、ガスマスクをしての全身麻酔では患部にアプローチできません。
ある程度麻酔導入が出来たら、次に手製の小型のマスクに変えて鼻だけにマスクをして全身麻酔します。
出来る限りのマージンを取って腫瘍を切除したいのですが、鼻先ですから限界があります。
電気メスで患部を切除します。
切除跡を縫合する事が困難なため、半導体レーザーのラウンドプローブ(下写真)で患部を蒸散処置し、悪性黒色腫を叩き、皮膚再生を待つ方針で行きます。
患部を蒸散処置した跡は下写真のようにかさぶたが出来たようになっています。
切除した腫瘍です。
病理検査の結果です。
細胞診の時と同じ検査センターに依頼しましたが、検査結果は悪性黒色腫(Malignant melanoma)であることが判明しました。
低倍の画像です。
高倍率の画像です。
異型性の明らかな紡錘形もしくは多角形の腫瘍細胞によって、構成されています。
腫瘍細胞の細胞質には下写真黄色丸にあるメラニン色素顆粒が認められます。
病理医からのコメントは、この腫瘍は局所浸潤性・遠隔転移性が高い注意を要する腫瘍であるとのことでした。
体表部に出来る黒色腫(メラノーマ)は良性のものが多い一方で、口唇や口腔内に発生するものは悪性であることが多いとされます。
細胞診の成績で内科的治療に対応していた二か月余りが悔やまれます。
術後3週目のとんぱー君です。
術後の経過は良好で患部は綺麗に皮膚が再生しています。
今後はとんぱー君の悪性黒色腫の再発を経過観察していきたいと思います。
とんぱー君、お疲れ様でした!
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犬猫に限らず、エキゾチックアニマルについても腫瘍疾患に遭遇する機会は多いと思います。
本日ご紹介しますのは、ウサギの悪性黒色腫です。
ネザーランドドワーフのとんぱー君(雄、10歳、体重1.5kg)は口周りに黒いできものがあるとのことで来院されました。
早速、細胞診をして検査センターに送ったところ、メラニン色素を伴った炎症性病変とのこと。
腫瘍細胞は認められないという事なので、その指示に従って抗生剤・抗炎症剤の投薬を開始しました。
ところが、この病変部は治るどころか、さらに大きくなってきました(下写真は90日後のものです)。
腫瘍に関しては、その細胞診と病理検査の結果が異なることはよくあります。
細胞診は腫瘍と思しき腫瘤に注射針などで穿刺吸引して、細胞を顕微鏡で確認する検査です。
一方、病理検査は腫瘤を外科的に摘出して組織として病理標本を作製・鑑定する検査です。
今回、メラニン色素を伴った炎症性病変でなく、むしろ悪性黒色腫を想定した治療に変更することにしました。
つまり、最善策として患部を外科的に摘出することとしました。
まずは、全身麻酔のためガスマスクをさせて導入麻酔をします。
鼻先の腫瘍ですので、ガスマスクをしての全身麻酔では患部にアプローチできません。
ある程度麻酔導入が出来たら、次に手製の小型のマスクに変えて鼻だけにマスクをして全身麻酔します。
出来る限りのマージンを取って腫瘍を切除したいのですが、鼻先ですから限界があります。
電気メスで患部を切除します。
切除跡を縫合する事が困難なため、半導体レーザーのラウンドプローブ(下写真)で患部を蒸散処置し、悪性黒色腫を叩き、皮膚再生を待つ方針で行きます。
患部を蒸散処置した跡は下写真のようにかさぶたが出来たようになっています。
切除した腫瘍です。
病理検査の結果です。
細胞診の時と同じ検査センターに依頼しましたが、検査結果は悪性黒色腫(Malignant melanoma)であることが判明しました。
低倍の画像です。
高倍率の画像です。
異型性の明らかな紡錘形もしくは多角形の腫瘍細胞によって、構成されています。
腫瘍細胞の細胞質には下写真黄色丸にあるメラニン色素顆粒が認められます。
病理医からのコメントは、この腫瘍は局所浸潤性・遠隔転移性が高い注意を要する腫瘍であるとのことでした。
体表部に出来る黒色腫(メラノーマ)は良性のものが多い一方で、口唇や口腔内に発生するものは悪性であることが多いとされます。
細胞診の成績で内科的治療に対応していた二か月余りが悔やまれます。
術後3週目のとんぱー君です。
術後の経過は良好で患部は綺麗に皮膚が再生しています。
今後はとんぱー君の悪性黒色腫の再発を経過観察していきたいと思います。
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