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腫瘍疾患/犬

2019年5月23日 木曜日

犬の肛門嚢アポクリン腺癌

こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介するのは犬の肛門嚢アポクリン腺癌です。



犬には肛門の両脇に悪臭を放つ一対の肛門嚢と言う分泌腺があります。

肛門嚢の壁にはアポクリン腺と皮脂腺が多数存在し、においの強い分泌液が産生されます。

一般に犬は、肛門嚢に分泌液が貯留すると尻尾を追い掛け回したり、お尻を床にこすり付けたりします。

そんな時は、俗に肛門絞りとも言ってますが、肛門嚢あたりを圧迫して分泌液を強制的に排出させます。

犬の飼主様なら一般に周知の肛門嚢ですが、肛門嚢に貯留する分泌液を作るアポクリン腺が癌化したものを肛門嚢アポクリン腺癌と呼びます。


ミニュチュア・ダックスのランちゃん(15歳、避妊済み、体重8.2kg)はお尻周囲が張っているとのことで来院されました。



下写真の黄色丸は右側の肛門嚢周辺の腫脹を表しています。



まずはこの腫瘤の細胞診を行いました。

結果、病理医からは上皮性腫瘍、特に肛門嚢アポクリン腺癌が第一に疑われるとの診断でした。

肛門嚢アポクリン腺癌は悪性の腫瘍で犬の皮膚腫瘍の2%、犬の肛門周囲腫瘍の17%を占めています。

発生初期は皮下の存在しているため外見上は分かりずらいく、増大するほどに肛門の4時または8時方向に硬く固着性のある腫瘍として確認されます。

局所浸潤性が強く、転移しやすい性質を持ち、一般的な転移部位は局所リンパ節(腰下リンパ節群)であり、約50%の症例で初診時に既に転移がみられます。

当初、小さな肛門嚢の腫瘍が、非常に巨大な転移巣を形成することもあります。

肛門嚢アポクリン腺癌が産生する副甲状腺腫(上皮小体)関連ペプチド(PTHrP)に起因する、高カルシウム血症が25~50%に認められます。

臨床症状は、排便困難、しぶり、多飲多尿(高カルシウム血症による)、後躯麻痺、跛行などです。



今回、ランちゃんの血液検査でも高カルシウム血症(12.7㎎/dl)が確認されました。

肛門嚢自体が腫瘍化していますので、巨大化してからの摘出は困難を極めます。

肛門嚢は外肛門括約筋に隣接していますし、内陰部動静脈も傍を走行しています。

肺転移や内腸骨リンパ節の腫大はレントゲン撮影上で認められませんでした。

疑わしき組織を最大限摘出しなければなりません。

 

早速、外科的切除を実施することとなりました。

下写真黄色丸、黄色矢印は腫大している肛門嚢です。





直腸に綿花を詰めます。



右側肛門嚢の導管開口部に22G翼状針の外套を挿入します。

これは、術中に導管の位置を確認しやすくするため、導管を損傷しないための処置です。





腫大した肛門嚢の周囲の正常な皮膚にメスで切開を加えます。



慎重に肛門嚢を露出するように皮膚・皮下組織から分離していきます。



肛門嚢自体が腫瘍化しているため、傷をつけて出血を招かないよう電気メス(バイポーラ)で剥離します。





ジャックナイフというお尻を上に拳上させた姿勢で手術に臨みます。



肛門嚢周辺の血管をバイクランプでシーリングを施していきます。



肛門嚢を周囲の結合組織から慎重に鈍性剥離します。



細い静脈はバイポーラで焼いて止血します。



次第に肛門嚢の全貌が現れて来ました(下写真黄色矢印)。



拡大像です。



周辺の筋肉組織への浸潤は無い様で、腫瘍本体を傷つけることなく摘出出来そうです。





下写真の黄色丸が摘出した肛門嚢(腫瘍本体)です。



肛門嚢摘出後の患部です。

比較的大きな腫瘍でしたが、取り残しなく切除は完了しました。





なるべく死腔を作らないように合成吸収糸で深部側から組織を寄せて縫合します。



腫瘍が大きく、皮膚欠損も大きく伴うケースの場合は、術後に会陰ヘルニアを惹起する場合があります。



皮下組織の縫合はこれで完了です。



最後にナイロン糸で皮膚縫合します。



若干、肛門が右側に牽引されていますが、時間と共に縫合部の皮膚は牽引されて元の状態に戻ると思われます。





覚醒直後のランちゃんです。

15歳と言う高齢犬ですから、長時間の麻酔が心配でしたが無事、生還出来ました。





今回摘出した肛門嚢です。

全長5㎝位に腫大していました。





肛門嚢の病理写真です。

病理組織学的診断名は、やはり肛門嚢アポクリン腺癌でした。

低倍率像です。

多小葉状の癌増殖巣が形性されています。



高倍率像です。

増殖する細胞は、顆粒状のクロマチンを示す類円形核と好酸性細胞質を有する円柱状の細胞が腺腔状の配列で増殖、浸潤性に拡大しています。



今回の肛門嚢アポクリン腺癌は、肛門嚢周囲のアポクリン腺に由来する悪性腫瘍性病変でした。

癌組織は切除縁には露出されておらず、完全切除であると病理医から判定されました。



肛門嚢腺癌の予後ですが、生存期間中央値(MST)の比較報告がされています。

抗がん剤のみの化学療法ではMSTは212日、外科手術をせずに放射線療法と化学療法では402日、外科手術と放射線療法、化学療法を併用した場合は548日とのことです。

今回、外科手術だけでなく、ランちゃんには化学療法(トセラニブを使用)も併用させて頂いてます。

しかし、この肛門嚢アポクリン腺癌は強い転移能を有しますので、今後も患部と腰骨リンパ節群への転移を慎重にモニターする必要があります。



ランちゃん、お疲れ様でした!





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投稿者 もねペットクリニック

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