腫瘍疾患/犬
2017年8月10日 木曜日
犬の子宮腺筋症
こんにちは 院長の伊藤です。
今回ご紹介しますのは、犬の子宮腺筋症です。
一般的には犬の避妊手術を実施する際に、多くの病院は術前に血液検査や患者の症状によってはエコーやレントゲン検査等実施すると思われます。
それでも一般症状は特に問題なく、現場で開腹してみたら子宮に病変が認められたケースもあります。
本日はそんな症例となります。
チワワのヒナちゃん(雌、10歳6か月齢、体重4.5kg)は当初、乳腺炎で当院にて治療を受けられてました。
2週間でヒナちゃんの症状が落ち着いたため、避妊手術を飼主様がご希望されました。
避妊手術をしていない場合、7・8歳以降のシニア世代になると乳腺腫瘍、子宮蓄膿症の発症率が一挙に上がります。
その点を飼主様も懸念され、一般の避妊手術を実施することとなりました。
ヒナちゃんの術前の血液検査も異常は認められません。
一般の避妊手術の流れで進めて行きます。
腹筋を切開したところ、腫大した子宮が飛び出て来ました。
問題はこの子宮外側面が凸凹の形状をしている点です。
触診の限りではいかにも腫瘍であろうという感じがします。
子宮漿膜面(外側面)が腹側も背側も小さな腫瘤が沢山形成されています。
バイクランプで卵巣動静脈をシーリングします。
メスでシーリングした動静脈を切っていきます。
ヒナちゃんの体から比較して子宮は腫大しているのがお分かり頂けると思います。
子宮以外に他の腹腔内臓器に腫瘍病変がないか調べましたが、特に異常な所見は認められませんでした。
皮膚縫合が終了したところです。
麻酔から覚醒したヒナちゃんです。
特に平常時の避妊手術の流れで終了しました。
改めて摘出した子宮です。
子宮内の筋肉層から腫瘤が盛り上がっている感じです。
病理検査に出して専門医の診断を待ちます。
元気に退院されたヒナちゃんです。
2週間後の抜糸の時も非常に元気で経過は良好とのことでした。
1週間ほどで病理検査結果が出ました。
診断は子宮腺筋症及び子宮内膜過形成とのことでした。
下写真は低倍率の子宮の画像です。
子宮平滑筋層に多くの過形成された子宮腺が形成されています。
この病態を子宮腺筋症といいます。
下写真は高倍率の過形成された子宮腺です。
子宮内腔や過形性腺管腔には好酸性の液体が貯留しています。
避妊しないと過剰あるいは長期にわたるエストロゲンやプロゲステロンによる子宮内膜のの刺激が原因で子宮内膜過形成が起こります。
その結果、今回の様に子宮腺や子宮内腔に漿液が貯留します。
この状態の合併症として続発性細菌性子宮内膜炎や子宮蓄膿症が起こります。
腺筋症の子宮を漿膜面から観察した場合、腫瘤状・数珠状に見え子宮平滑筋系腫瘍との鑑別が困難となるそうです。
今回、病理検査に出して結果、子宮の腫瘍でなかったのが判明して良かったと思います。
いずれにせよ、避妊手術は最初の発情を迎える前に実施することが、シニアになって産科系疾患を回避する近道と言えます。
ヒナちゃん、お疲れ様でした。
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今回ご紹介しますのは、犬の子宮腺筋症です。
一般的には犬の避妊手術を実施する際に、多くの病院は術前に血液検査や患者の症状によってはエコーやレントゲン検査等実施すると思われます。
それでも一般症状は特に問題なく、現場で開腹してみたら子宮に病変が認められたケースもあります。
本日はそんな症例となります。
チワワのヒナちゃん(雌、10歳6か月齢、体重4.5kg)は当初、乳腺炎で当院にて治療を受けられてました。
2週間でヒナちゃんの症状が落ち着いたため、避妊手術を飼主様がご希望されました。
避妊手術をしていない場合、7・8歳以降のシニア世代になると乳腺腫瘍、子宮蓄膿症の発症率が一挙に上がります。
その点を飼主様も懸念され、一般の避妊手術を実施することとなりました。
ヒナちゃんの術前の血液検査も異常は認められません。
一般の避妊手術の流れで進めて行きます。
腹筋を切開したところ、腫大した子宮が飛び出て来ました。
問題はこの子宮外側面が凸凹の形状をしている点です。
触診の限りではいかにも腫瘍であろうという感じがします。
子宮漿膜面(外側面)が腹側も背側も小さな腫瘤が沢山形成されています。
バイクランプで卵巣動静脈をシーリングします。
メスでシーリングした動静脈を切っていきます。
ヒナちゃんの体から比較して子宮は腫大しているのがお分かり頂けると思います。
子宮以外に他の腹腔内臓器に腫瘍病変がないか調べましたが、特に異常な所見は認められませんでした。
皮膚縫合が終了したところです。
麻酔から覚醒したヒナちゃんです。
特に平常時の避妊手術の流れで終了しました。
改めて摘出した子宮です。
子宮内の筋肉層から腫瘤が盛り上がっている感じです。
病理検査に出して専門医の診断を待ちます。
元気に退院されたヒナちゃんです。
2週間後の抜糸の時も非常に元気で経過は良好とのことでした。
1週間ほどで病理検査結果が出ました。
診断は子宮腺筋症及び子宮内膜過形成とのことでした。
下写真は低倍率の子宮の画像です。
子宮平滑筋層に多くの過形成された子宮腺が形成されています。
この病態を子宮腺筋症といいます。
下写真は高倍率の過形成された子宮腺です。
子宮内腔や過形性腺管腔には好酸性の液体が貯留しています。
避妊しないと過剰あるいは長期にわたるエストロゲンやプロゲステロンによる子宮内膜のの刺激が原因で子宮内膜過形成が起こります。
その結果、今回の様に子宮腺や子宮内腔に漿液が貯留します。
この状態の合併症として続発性細菌性子宮内膜炎や子宮蓄膿症が起こります。
腺筋症の子宮を漿膜面から観察した場合、腫瘤状・数珠状に見え子宮平滑筋系腫瘍との鑑別が困難となるそうです。
今回、病理検査に出して結果、子宮の腫瘍でなかったのが判明して良かったと思います。
いずれにせよ、避妊手術は最初の発情を迎える前に実施することが、シニアになって産科系疾患を回避する近道と言えます。
ヒナちゃん、お疲れ様でした。
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投稿者 もねペットクリニック | 記事URL
2017年8月 5日 土曜日
犬の黒色細胞腫-棘細胞腫
こんにちは 院長の伊藤です。
最近の傾向として、外科手術の中心が腫瘍摘出となって来ています。
当院では、犬猫よりエキゾッチクアニマルの腫瘍外科が多いです。
今回は、犬の皮膚腫瘍の中で黒色細胞腫ー棘細胞腫についてコメントします。
以前に犬の口腔内悪性黒色腫(メラノーマ)、ウサギの悪性黒色腫について記述してますので興味のある方は下線をクリックして下さい。
ミニュチュア・シュナウザーのロック君(13歳、去勢済、体重8.5kg)は下腹部に黒いできものがあるとのことで来院されました。
直径1㎝近くの潰れたキノコのような腫瘤です。
早速、細胞診を実施したところ、検査センターの診断は上皮性腫瘍(角化物産生腫瘍)とのことです。
細胞診の結果を鑑みて、速やかに腫瘍摘出することとしました。
下写真黄色丸がその腫瘍です。
黒色の扁平状の腫瘍です。
悪性黒色腫(メラノーマ)でないと良いのですが。
下写真黄色矢印が腫瘍を示しています。
全身麻酔でロック君は寝てます。
極力、腫瘍周囲のマージンを取って、摘出します。
ジワジワと出血が始まりますので、電気メス(バイポーラ)で止血しながら皮膚を剥離して行きます。
バイポーラによる炭化した痕跡がありますが、特に大きな出血もなく摘出終了です。
胸腹部で縫合時にテンションがかかりますので、皮下組織を鉗子で鈍性剥離して皮膚の進展の余裕を持たせます。
皮膚縫合完了です。
摘出した腫瘍です。
病理検査に出した結果です。
下写真は低倍率の画像です。
キノコ状の病変は高度に肥厚した表皮で覆われています。
上写真のピンク丸の箇所を倍率を上げて、下写真で説明します。
表皮細胞はその90%が角化細胞(ケラチノサイト)で残りの10%は色素細胞(メラノサイト)で構成されます。
下写真の赤色のひし形部がケラチノサイトで表皮を構成しています。
このケラチノサイトには腫瘍化した細胞(異型性)は認められません。
黄色丸は増殖したメラノサイトです。
このメラノサイトの細胞質内にはメラニン色素顆粒を多量に含んでいます。
メラノサイトには腫瘍化した細胞はありません。
以上の所見からケラチノサイトとメラノサイトが同時に良性に増殖しているのが特徴です。
この病変は黒色細胞腫ー棘細胞腫 と呼ばれる非常に珍しい病変とのことです。
両成分の増殖が真に腫瘍性のものなのかも不明で、報告例も少ないそうです。
その臨床的挙動も不明で、完全摘出により根治するとされています。
ロック君は当日退院して頂きました。
2週間後のロック君ですが、皮膚の癒合も問題ありませんでした。
抜糸時のロック君です。
ロック君、お疲れ様でした。
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最近の傾向として、外科手術の中心が腫瘍摘出となって来ています。
当院では、犬猫よりエキゾッチクアニマルの腫瘍外科が多いです。
今回は、犬の皮膚腫瘍の中で黒色細胞腫ー棘細胞腫についてコメントします。
以前に犬の口腔内悪性黒色腫(メラノーマ)、ウサギの悪性黒色腫について記述してますので興味のある方は下線をクリックして下さい。
ミニュチュア・シュナウザーのロック君(13歳、去勢済、体重8.5kg)は下腹部に黒いできものがあるとのことで来院されました。
直径1㎝近くの潰れたキノコのような腫瘤です。
早速、細胞診を実施したところ、検査センターの診断は上皮性腫瘍(角化物産生腫瘍)とのことです。
細胞診の結果を鑑みて、速やかに腫瘍摘出することとしました。
下写真黄色丸がその腫瘍です。
黒色の扁平状の腫瘍です。
悪性黒色腫(メラノーマ)でないと良いのですが。
下写真黄色矢印が腫瘍を示しています。
全身麻酔でロック君は寝てます。
極力、腫瘍周囲のマージンを取って、摘出します。
ジワジワと出血が始まりますので、電気メス(バイポーラ)で止血しながら皮膚を剥離して行きます。
バイポーラによる炭化した痕跡がありますが、特に大きな出血もなく摘出終了です。
胸腹部で縫合時にテンションがかかりますので、皮下組織を鉗子で鈍性剥離して皮膚の進展の余裕を持たせます。
皮膚縫合完了です。
摘出した腫瘍です。
病理検査に出した結果です。
下写真は低倍率の画像です。
キノコ状の病変は高度に肥厚した表皮で覆われています。
上写真のピンク丸の箇所を倍率を上げて、下写真で説明します。
表皮細胞はその90%が角化細胞(ケラチノサイト)で残りの10%は色素細胞(メラノサイト)で構成されます。
下写真の赤色のひし形部がケラチノサイトで表皮を構成しています。
このケラチノサイトには腫瘍化した細胞(異型性)は認められません。
黄色丸は増殖したメラノサイトです。
このメラノサイトの細胞質内にはメラニン色素顆粒を多量に含んでいます。
メラノサイトには腫瘍化した細胞はありません。
以上の所見からケラチノサイトとメラノサイトが同時に良性に増殖しているのが特徴です。
この病変は黒色細胞腫ー棘細胞腫 と呼ばれる非常に珍しい病変とのことです。
両成分の増殖が真に腫瘍性のものなのかも不明で、報告例も少ないそうです。
その臨床的挙動も不明で、完全摘出により根治するとされています。
ロック君は当日退院して頂きました。
2週間後のロック君ですが、皮膚の癒合も問題ありませんでした。
抜糸時のロック君です。
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