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腫瘍疾患/犬

2017年12月11日 月曜日

犬の血管肉腫

こんにちは 院長の伊藤です。

脾臓に関わる疾病について、これまでに数件報告させて頂きました。

脾臓の結節性過形成血腫組織球性肉腫については下線をクリックして頂けると過去の記事が見れます。

興味のある方はご覧下さい。


さて、本日ご紹介しますのは犬の血管肉腫です。

この血管肉腫は悪性腫瘍の一つです。

血管肉腫は血管を構成する血管内皮細胞に由来する腫瘍です。

つまり血管が存在する場所であれば、どこで発生しますし高い転移性を持ちます。

特に脾臓は血管肉腫の好発部位で脾臓に発生する病変の第1位となっています。

犬の脾臓腫瘍の発生率において2/3ルールがあります。

脾臓腫瘤の約2/3は悪性腫瘍で、そのうちの2/3は血管肉腫と言うものです。



ミニュチュア・シュナウザーのポッケちゃん(10歳5か月、避妊済み)は腹囲の膨満、食欲・元気の低下で来院されました。



血液検査上では炎症性蛋白(CRP)が7.0㎎/dlオーバーと体の内部で高度の炎症がおこっていること、RBC(赤血球数)500万/μl、さらにHb(ヘモグロビン)9.5g/dl

Ht(ヘマトクリット) 28.6% 血小板数が147,000/μlと貧血傾向を示しています。

早速、レントゲン撮影を実施しました。

下写真の黄色丸は脾臓が腫大していることを示します。



下写真の赤丸は膀胱内に存在する尿石です。

これはストラバイト尿石であることが判明しました。



次いでエコー検査です。

脾臓が腫大しており、脾臓の腫瘤内部は低エコー源性を示す領域が認められます。



ここで脾臓が悪性の腫瘍なのか良性なのかを判断するのは難しいです。

組織生検をするのも一法ですが、生検した部位からの過剰な出血があれば、命に関わります。

脾臓腫瘤に由来する腹腔内出血(血腹)を呈した症例の1/3が良性の腫瘍であったとの報告があります。

良性であっても、脾臓が破裂して血腹になってしまうと考えた時に良性か悪性かの精密検査の意義は低いと思われます。

3㎝以上に達した脾臓腫瘤は術前の良性・悪性の判断する必要性はないとする獣医師もいます。

むしろ、迅速に脾臓を全摘出して血腹を防止した方が賢明です。

私も飼主様に脾臓の全摘出手術を薦めさせて頂きました。


ポッケちゃんの脾臓全摘出手術を始めます。



ポッケちゃんのお腹は見た目から若干張っている感じがあります。





腹膜下には腫大した脾臓が控えているはずですので、慎重に脾臓を傷つけないように腹膜を切開して行きます。



いきなり脾尾部が飛び出してきました。



続いて脾頭部です。

結節部が大きく膨隆しているのがお分かり頂けると思います。



脾臓表面は脾内出血のためかうっ血色を呈しています。





ポッケちゃんの体に対して脾臓が腫大してるのが分かります。



脾臓と胃をつなぐ動静脈を丁寧にシーリングしていきます。



バイクランプを用いて動静脈をシーリングします。





シーリング出来た箇所をメスで離断していきます。







最後に脾尾部のシーリング部位をメスで離断して脾臓全摘出は完了です。



ポッケちゃんのお腹を閉腹したところです。

術前と比較してお腹周りがスッキリした感じですね。

今回は写真を添付しませんでしたが、膀胱切開も一緒に行い膀胱内の結石も摘出しました。

また血管肉腫は他の臓器への転移率が高い腫瘍であるため、確認できる範囲を肉眼的レベルで診たところ、他の臓器への転移は認められませんでした。



手術はこれで終了です。

まだ麻酔から完全に覚めきれていないポッケちゃんです。



摘出した脾臓です。

脾頭部は腫瘤が結節を形成して、高度に膨隆してます。









この脾臓を病理検査に出しました。



病理検査の結果は血管肉腫でした。

下写真は低倍率の病理標本です。

異型性のある内皮細胞によって内張りされたスリット状・海綿状の血管腔が認められます。



高倍率の病理標本です。

病巣には出血、繊維素析出、壊死が頻繁に生じています。

腫瘍細胞は少量の弱酸性細胞質、軽度から中等度の大小不同を示す類円形正染核、明瞭な核小体を有しています。



さて、ポッケちゃんが血管肉腫であることが判明した以上、今後の治療計画を立てていく必要があります。

犬の血管肉腫における予後は極めて悪く、外科的脾臓摘出単独では2か月の生存率は31%、1年生存率は7%とされています。

外科的摘出後に化学療法を併用した場合は、生存期間は5~7か月間と生存期間の延長は期待できるとされます。


飼い主様と話し合った結果、化学療法を併用する治療方針を決めました。

治療効果・費用を比較して、塩酸ドキソルビシンとサイクロフォスフォマイドを使用する化学療法を選択しました。

この抗がん剤を3週間に1回投与(1クール)して5クール繰り返します。

下写真は塩酸ドキソルビシンです。

点滴に入れて投薬していきます。



ポッケちゃんに第1回目の化学療法を実施しているところです。





12月現在、ポッケちゃんの化学療法は5クール(全行程)を終了しました。

脾臓摘出後すでに5か月経過しました。

若干の貧血傾向はありますが、経過は良好です。

ポッケちゃんのご家族の熱心な応援もあって、本当に血管肉腫なのかと言うくらい活動性があります。

是非この調子でポッケちゃん、頑張って頂きたいと思います。

スタッフ共々、ポッケちゃんをバックアップしていきます!



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投稿者 もねペットクリニック

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