ハリネズミの疾病
2016年6月22日 水曜日
ハリネズミの平滑筋肉腫
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、ヨツユビハリネズミの平滑筋肉腫です。
ハリネズミは色々な腫瘍に罹患します。
平滑筋は消化器などを構成する筋肉組織ですが、この平滑筋が肉腫という悪性腫瘍になりますと難しいことになります。
ヨツユビハリネズミの芝ちゃん(8か月齢、雌、体重500g)は血尿が頻発するとのことで来院されました。
雌のハリネズミの血尿は以前から子宮疾患を疑うように申しておりましたが、今回は一般的な子宮内膜炎か子宮腺癌あたりではないかと思われました。
触診をしてもなかなか下腹部を触らせてくれませんので、レントゲン撮影を実施しました。
膀胱内の尿石や子宮が特に腫大した所見は見当たりません。
しかしながら、出血量は多くて、このままでは高度の貧血状態に陥る可能性大です。
上写真にあるように排尿時に出血が認められます。
飼い主様の了解を頂き、試験的開腹をさせて頂く事にしました。
いつものごとく、芝ちゃんに麻酔導入箱に入ってもらいます。
少しづつ麻酔が効いてきます。
麻酔導入箱から出て頂き、手製のマスクに顔を入れてイソフルランで維持麻酔を行います。
心電図や血中酸素分圧などをモニタリングするための電極を装着します。
これから下腹部にメスを入れます。
下写真は子宮です。
赤紫のうっ血色を呈している腫瘤(下写真黄色丸)が、ちょうど子宮頚部に認められます。
この赤紫色の部位はおそらく腫瘍と考えられますので、接触による患部出血を回避するために慎重に取り扱います。
次にいつものごとくバイクランプにより、卵巣動静脈をシーリング致します。
犬や猫の卵巣なら鉗子で把持することは容易ですが、ことハリネズミになりますと小さいことと組織脆弱なことで、鉗子を使わず指先で把持しての手術となります。
卵巣動静脈をバイクランプでシーリングします。
度重なる出血から子宮自体は貧血色を呈しています。
子宮頚部の腫瘤(黄色丸)の全容です。
子宮頚部を結紮します。
子宮頚部を離断します。
ハリネズミの子宮頚部は短く、離断する位置はなるべく膀胱に近い遠位に持っていきたいのですが、限界があります。
子宮頚部を離断しました。
卵巣・子宮切除後の腹腔内を確認します。
この時点で、特に腹腔内臓器に腫瘍病巣は見当たりませんでした。
腹壁を縫合します。
皮膚縫合して手術は終了です。
ガス麻酔を切って、芝ちゃんの覚醒を待ちます。
麻酔から覚醒直後の芝ちゃんです。
覚醒時は暴れることが多いですが、それは覚醒が良好な状態であることを示しています。
手術は無事終了です。
術後一時間の芝ちゃんです。
四肢での起立は出来ていますが、筋肉は硬直し疼痛を感じているようです。
翌日の芝ちゃんです。
排尿時の出血はなくなり、排尿(黄色丸)もスムーズに行うことが出来ます。
摘出した子宮(下写真)の腫瘤を細胞診しました。
黄色丸で囲んだ部位は病変部を縦断して切開したものです。
細胞診の顕微鏡像です。
核の異型性を示す紡錘形細胞が多数認められました。
発生部位が子宮頚部筋層であることから、平滑筋肉腫の判定が出ました。
術後2日目に芝ちゃんは元気に退院して頂きました。
しかし、残念ながら術後11日目に急逝されました。
合掌。
子宮腺癌ではなく、平滑筋肉腫ということで、恐らく子宮筋層から発生した腫瘍が子宮の漿膜面(外層)に出て空回腸などの消化器や腹膜などへ転移していたのかもしれません。
小さな動物のため、開腹時に腹腔内をつぶさに確認することが難しく感じます。
過去のハリネズミの子宮疾患は子宮内膜炎が一番多く、術後の経過は良好です。
しかし、今回の様に平滑筋肉腫が絡んだりすると既に他の臓器に転移いてる可能性があります。
諸検査を実施するにしても、すぐに針を立てて丸くなる性格上、鎮静・麻酔が必要になったりします。
なるべくストレスのない検査をしたいのですが、難しいのがハリネズミです。
病巣部の早期発見・早期治療を心がけたいと思います。
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本日ご紹介しますのは、ヨツユビハリネズミの平滑筋肉腫です。
ハリネズミは色々な腫瘍に罹患します。
平滑筋は消化器などを構成する筋肉組織ですが、この平滑筋が肉腫という悪性腫瘍になりますと難しいことになります。
ヨツユビハリネズミの芝ちゃん(8か月齢、雌、体重500g)は血尿が頻発するとのことで来院されました。
雌のハリネズミの血尿は以前から子宮疾患を疑うように申しておりましたが、今回は一般的な子宮内膜炎か子宮腺癌あたりではないかと思われました。
触診をしてもなかなか下腹部を触らせてくれませんので、レントゲン撮影を実施しました。
膀胱内の尿石や子宮が特に腫大した所見は見当たりません。
しかしながら、出血量は多くて、このままでは高度の貧血状態に陥る可能性大です。
上写真にあるように排尿時に出血が認められます。
飼い主様の了解を頂き、試験的開腹をさせて頂く事にしました。
いつものごとく、芝ちゃんに麻酔導入箱に入ってもらいます。
少しづつ麻酔が効いてきます。
麻酔導入箱から出て頂き、手製のマスクに顔を入れてイソフルランで維持麻酔を行います。
心電図や血中酸素分圧などをモニタリングするための電極を装着します。
これから下腹部にメスを入れます。
下写真は子宮です。
赤紫のうっ血色を呈している腫瘤(下写真黄色丸)が、ちょうど子宮頚部に認められます。
この赤紫色の部位はおそらく腫瘍と考えられますので、接触による患部出血を回避するために慎重に取り扱います。
次にいつものごとくバイクランプにより、卵巣動静脈をシーリング致します。
犬や猫の卵巣なら鉗子で把持することは容易ですが、ことハリネズミになりますと小さいことと組織脆弱なことで、鉗子を使わず指先で把持しての手術となります。
卵巣動静脈をバイクランプでシーリングします。
度重なる出血から子宮自体は貧血色を呈しています。
子宮頚部の腫瘤(黄色丸)の全容です。
子宮頚部を結紮します。
子宮頚部を離断します。
ハリネズミの子宮頚部は短く、離断する位置はなるべく膀胱に近い遠位に持っていきたいのですが、限界があります。
子宮頚部を離断しました。
卵巣・子宮切除後の腹腔内を確認します。
この時点で、特に腹腔内臓器に腫瘍病巣は見当たりませんでした。
腹壁を縫合します。
皮膚縫合して手術は終了です。
ガス麻酔を切って、芝ちゃんの覚醒を待ちます。
麻酔から覚醒直後の芝ちゃんです。
覚醒時は暴れることが多いですが、それは覚醒が良好な状態であることを示しています。
手術は無事終了です。
術後一時間の芝ちゃんです。
四肢での起立は出来ていますが、筋肉は硬直し疼痛を感じているようです。
翌日の芝ちゃんです。
排尿時の出血はなくなり、排尿(黄色丸)もスムーズに行うことが出来ます。
摘出した子宮(下写真)の腫瘤を細胞診しました。
黄色丸で囲んだ部位は病変部を縦断して切開したものです。
細胞診の顕微鏡像です。
核の異型性を示す紡錘形細胞が多数認められました。
発生部位が子宮頚部筋層であることから、平滑筋肉腫の判定が出ました。
術後2日目に芝ちゃんは元気に退院して頂きました。
しかし、残念ながら術後11日目に急逝されました。
合掌。
子宮腺癌ではなく、平滑筋肉腫ということで、恐らく子宮筋層から発生した腫瘍が子宮の漿膜面(外層)に出て空回腸などの消化器や腹膜などへ転移していたのかもしれません。
小さな動物のため、開腹時に腹腔内をつぶさに確認することが難しく感じます。
過去のハリネズミの子宮疾患は子宮内膜炎が一番多く、術後の経過は良好です。
しかし、今回の様に平滑筋肉腫が絡んだりすると既に他の臓器に転移いてる可能性があります。
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2016年3月24日 木曜日
ハリネズミの直腸脱(後編)
こんにちは 院長の伊藤です。
先回、ハリネズミの直腸脱(前編)を載せました。
直ぐに後編を載せる予定でしたが、日常業務に追われ遅れて申し訳ありませんでした。
前編の詳細についてはこちらをクリックして下さい。
さて、ハリネズミのまりぃちゃん(雌、5歳)は直腸脱を起こして来院されました。
脱出した直腸を整復しましたが、結局再脱出を繰り返して、外科的に脱出した直腸を切断して縫合することになりました。
2度に亘る直腸脱による疼痛でまりぃちゃんは苛立った表情を示しています。
早速、全身麻酔を行い外科手術を実施することとなりました。
全身麻酔が効いてから脱出直腸を洗浄・消毒します。
脱出した直腸(下写真黄色丸)です。
まりぃちゃんの麻酔状態を心電図・酸素分圧などモニタリングしながら全身麻酔を実施しています。
今回の外科的手技は、フェレットの直腸脱(後編 ぺんね君救済計画)を参考にして下さい。
直腸を牽引するために、脱出直腸壁に支持糸を複数個所かけていきます。
脱出した直腸粘膜部は、非常に脆弱な組織で強い力で支持すると簡単に千切れてしまいます。
フェレットの直腸と比較してハリネズミのそれは短く、そのため外部への牽引をしっかりしないと腹腔内へ直腸が引き込まれてしまいます。
のんびり牽引してると直腸壁が支持糸で避けてしまいそうで緊張する場面です。
脱出している直腸粘膜部(丸く腫瘤状になっている部位)をメスで離断します。
脱出直腸の離断面は血行障害もあって浮腫を起こしていました。
幸いに脱出直腸部は壊死を起こしておらず、離断後は出血が認められました。
次に離断した直腸粘膜断面部を円周状に縫合していきます。
離断直腸粘膜を縫合する際に対側部を縫合糸でひっかけないように鉗子を直腸に挿入して保護します。
フェレットの時の様に綿棒では太すぎるため、モスキート鉗子の先端を利用します。
直腸を誤って対側部まで縫合していないのを確認して、直腸壁の支持糸を外します。
縫合した直腸はスムーズに腹腔内に戻っていきます。
イソフルレンの主麻酔を切ったところで、まりぃちゃんは速やかに覚醒しました。
短期間に何度も全身麻酔をかけることは非常に心配でしたが、まりぃちゃんは頑張って耐えてくれました。
手術翌日のまりぃちゃんです。
食欲もありますが、少量の流動食でしばしの間、対応します。
術後に排便もしっかりできています。
縫合部の直腸が癒合するまでの2週間近くは、排便状態を注意して飼主様にお世話して頂きます。
エキゾチックアニマルは比較的長い期間、下痢が続くと腹圧をかける傾向があり、直腸脱を引き起こすことが多いです。
ハリネズミの場合は神経質な傾向もある一方で、瞬発的に怒ったりもしますので、加えて腹圧をかけることが多いです。
少しでも直腸脱の気配が認められたら、至急受診下さい。
直腸脱を起こして短時間であれば、前編のような整復処置で解決できます。
時間がたつにつれ、外科的直腸切除が必要になります。
退院当日のまりぃちゃんです。
まりぃちゃん、お疲れ様でした!
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先回、ハリネズミの直腸脱(前編)を載せました。
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さて、ハリネズミのまりぃちゃん(雌、5歳)は直腸脱を起こして来院されました。
脱出した直腸を整復しましたが、結局再脱出を繰り返して、外科的に脱出した直腸を切断して縫合することになりました。
2度に亘る直腸脱による疼痛でまりぃちゃんは苛立った表情を示しています。
早速、全身麻酔を行い外科手術を実施することとなりました。
全身麻酔が効いてから脱出直腸を洗浄・消毒します。
脱出した直腸(下写真黄色丸)です。
まりぃちゃんの麻酔状態を心電図・酸素分圧などモニタリングしながら全身麻酔を実施しています。
今回の外科的手技は、フェレットの直腸脱(後編 ぺんね君救済計画)を参考にして下さい。
直腸を牽引するために、脱出直腸壁に支持糸を複数個所かけていきます。
脱出した直腸粘膜部は、非常に脆弱な組織で強い力で支持すると簡単に千切れてしまいます。
フェレットの直腸と比較してハリネズミのそれは短く、そのため外部への牽引をしっかりしないと腹腔内へ直腸が引き込まれてしまいます。
のんびり牽引してると直腸壁が支持糸で避けてしまいそうで緊張する場面です。
脱出している直腸粘膜部(丸く腫瘤状になっている部位)をメスで離断します。
脱出直腸の離断面は血行障害もあって浮腫を起こしていました。
幸いに脱出直腸部は壊死を起こしておらず、離断後は出血が認められました。
次に離断した直腸粘膜断面部を円周状に縫合していきます。
離断直腸粘膜を縫合する際に対側部を縫合糸でひっかけないように鉗子を直腸に挿入して保護します。
フェレットの時の様に綿棒では太すぎるため、モスキート鉗子の先端を利用します。
直腸を誤って対側部まで縫合していないのを確認して、直腸壁の支持糸を外します。
縫合した直腸はスムーズに腹腔内に戻っていきます。
イソフルレンの主麻酔を切ったところで、まりぃちゃんは速やかに覚醒しました。
短期間に何度も全身麻酔をかけることは非常に心配でしたが、まりぃちゃんは頑張って耐えてくれました。
手術翌日のまりぃちゃんです。
食欲もありますが、少量の流動食でしばしの間、対応します。
術後に排便もしっかりできています。
縫合部の直腸が癒合するまでの2週間近くは、排便状態を注意して飼主様にお世話して頂きます。
エキゾチックアニマルは比較的長い期間、下痢が続くと腹圧をかける傾向があり、直腸脱を引き起こすことが多いです。
ハリネズミの場合は神経質な傾向もある一方で、瞬発的に怒ったりもしますので、加えて腹圧をかけることが多いです。
少しでも直腸脱の気配が認められたら、至急受診下さい。
直腸脱を起こして短時間であれば、前編のような整復処置で解決できます。
時間がたつにつれ、外科的直腸切除が必要になります。
退院当日のまりぃちゃんです。
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2016年3月14日 月曜日
ハリネズミの直腸脱(前篇)
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、ハリネズミの直腸脱です。
エキゾチックアニマルは、鳥類も爬虫類も直腸脱が多いと感じています。
以前、フェレットの直腸脱についてコメントさせて頂きました。
直腸脱がなぜ生じるか、イラストを含めて詳説しておりますのでご興味のある方はこちらをクリックして下さい。
ヨツユビハリネズミのまりぃちゃん(雌、5歳)はお尻から黒いものが出ているとのことで来院されました。
お尻周りの疼痛のためか、不機嫌な表情を示しています。
ハリネズミはすぐに体を丸める傾向があり、今回肛門周囲を確認したかったのですが上手くできません。
焼き魚用の網に乗ってもらい、下から肛門を診てみます。
下写真黄色丸が肛門から突出している直腸です。
既に脱出した直腸は色が暗赤色になり、血行障害を疑います。
場合によっては、直腸が壊死してるケースもあります。
ハリネズミの病変部を確実に視診するためには、全身麻酔を実施しなければならないことが多いです。
まりぃちゃんを全身麻酔することとしました。
麻酔導入箱(上写真)にまりぃちゃんに入ってもらい、導入麻酔としてイソフルランを流し込みます。
段々麻酔が効いてきます。
完全に麻酔が効いて来たところで、麻酔導入箱を出てもらいます。
自作の専用マスクに切り替えて、維持麻酔を実施してます。
この状態で初めて、患部の詳細を診ることが出来ます。
下写真黄色丸が脱出している直腸です。
直腸の傷の有無や血行状態の確認のため、脱出した直腸を洗浄消毒します。
直腸は一時的に血行障害になってますが、整復することで十分回復すると判断して直腸を元に戻すことにしました。
直腸に抗生剤軟膏を塗布し滑りを良くします。
次に注射器の押し子を当てて、ゆっくりと整復して行きます(黄色矢印)。
直腸を傷つけないようにゆっくりと押し戻していきます。
無事、直腸はもとに戻りました。
しかし、このままでは再脱出してしまいますので、肛門の端を縫合して肛門を絞り込むことで脱出を防ぎます。
今回のまりぃちゃんの脱出は厳しい感じでしたので、肛門の両端部を2か所縫合しました。
直ぐに覚醒しました。
あとは、この状態で排便がしっかりできれば大丈夫です。
しかしながら、まりぃちゃんは翌日に直腸が再脱出してしまいました。
患部の写真です。
脱出しやすいということは整復しやすいという事でもあります。
比較的簡単に直腸は整復できました。
直腸が再脱出した時に縫合していた部位は1か所しか残ってませんでした(下写真黄色矢印)。
まりぃちゃんの腹圧に対して肛門の絞り込みが弱かったようです。
再脱出を予防するため、むらなく均等な力で肛門周囲を絞り込める巾着縫合を採用することにしました。
肛門の外周に沿って縫合糸を縫い込んでいきます。
縫合糸の締結がきついと排便障害になりますので、綿棒を肛門内に挿入して(下黄色矢印)、締結の調整をします。
縫合糸の締結と同時に綿棒を抜き取ります。
これで直腸脱の整復は完了です。
フェレットの直腸脱をご覧いただいた方はもうお気づきかも知れません。
フェレットのぺんね君のケースと同様、まりぃちゃんも再脱出を繰り返す難治例と言えます。
直腸脱の非観血的に整復が難しい症例(今回のまりぃちゃんもそうです)は、最後は救済的処置として脱出してる直腸を切断して縫合する外科的アプローチが必要となる場合も多いです。
まりぃちゃんはこの巾着縫合の処置後、10日目にして残念ながら再脱出してしまいました(泣)。
次回は、まりぃちゃんの直腸切断手術をご紹介いたします。
乞うご期待下さい。
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本日ご紹介しますのは、ハリネズミの直腸脱です。
エキゾチックアニマルは、鳥類も爬虫類も直腸脱が多いと感じています。
以前、フェレットの直腸脱についてコメントさせて頂きました。
直腸脱がなぜ生じるか、イラストを含めて詳説しておりますのでご興味のある方はこちらをクリックして下さい。
ヨツユビハリネズミのまりぃちゃん(雌、5歳)はお尻から黒いものが出ているとのことで来院されました。
お尻周りの疼痛のためか、不機嫌な表情を示しています。
ハリネズミはすぐに体を丸める傾向があり、今回肛門周囲を確認したかったのですが上手くできません。
焼き魚用の網に乗ってもらい、下から肛門を診てみます。
下写真黄色丸が肛門から突出している直腸です。
既に脱出した直腸は色が暗赤色になり、血行障害を疑います。
場合によっては、直腸が壊死してるケースもあります。
ハリネズミの病変部を確実に視診するためには、全身麻酔を実施しなければならないことが多いです。
まりぃちゃんを全身麻酔することとしました。
麻酔導入箱(上写真)にまりぃちゃんに入ってもらい、導入麻酔としてイソフルランを流し込みます。
段々麻酔が効いてきます。
完全に麻酔が効いて来たところで、麻酔導入箱を出てもらいます。
自作の専用マスクに切り替えて、維持麻酔を実施してます。
この状態で初めて、患部の詳細を診ることが出来ます。
下写真黄色丸が脱出している直腸です。
直腸の傷の有無や血行状態の確認のため、脱出した直腸を洗浄消毒します。
直腸は一時的に血行障害になってますが、整復することで十分回復すると判断して直腸を元に戻すことにしました。
直腸に抗生剤軟膏を塗布し滑りを良くします。
次に注射器の押し子を当てて、ゆっくりと整復して行きます(黄色矢印)。
直腸を傷つけないようにゆっくりと押し戻していきます。
無事、直腸はもとに戻りました。
しかし、このままでは再脱出してしまいますので、肛門の端を縫合して肛門を絞り込むことで脱出を防ぎます。
今回のまりぃちゃんの脱出は厳しい感じでしたので、肛門の両端部を2か所縫合しました。
直ぐに覚醒しました。
あとは、この状態で排便がしっかりできれば大丈夫です。
しかしながら、まりぃちゃんは翌日に直腸が再脱出してしまいました。
患部の写真です。
脱出しやすいということは整復しやすいという事でもあります。
比較的簡単に直腸は整復できました。
直腸が再脱出した時に縫合していた部位は1か所しか残ってませんでした(下写真黄色矢印)。
まりぃちゃんの腹圧に対して肛門の絞り込みが弱かったようです。
再脱出を予防するため、むらなく均等な力で肛門周囲を絞り込める巾着縫合を採用することにしました。
肛門の外周に沿って縫合糸を縫い込んでいきます。
縫合糸の締結がきついと排便障害になりますので、綿棒を肛門内に挿入して(下黄色矢印)、締結の調整をします。
縫合糸の締結と同時に綿棒を抜き取ります。
これで直腸脱の整復は完了です。
フェレットの直腸脱をご覧いただいた方はもうお気づきかも知れません。
フェレットのぺんね君のケースと同様、まりぃちゃんも再脱出を繰り返す難治例と言えます。
直腸脱の非観血的に整復が難しい症例(今回のまりぃちゃんもそうです)は、最後は救済的処置として脱出してる直腸を切断して縫合する外科的アプローチが必要となる場合も多いです。
まりぃちゃんはこの巾着縫合の処置後、10日目にして残念ながら再脱出してしまいました(泣)。
次回は、まりぃちゃんの直腸切断手術をご紹介いたします。
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2015年10月26日 月曜日
ハリネズミの血尿(その2 子宮内膜炎による)
こんにちは 院長の伊藤です。
雌のハリネズミの血尿は、子宮疾患が絡んでいることが多いです。
他院で膀胱炎疑いで、止血剤や抗生剤の内服を継続してるが血尿が治まらないとの飼主様からの相談を受けることが多いです。
以前にもハリネズミの血尿についてコメントさせて頂きました。
その詳細はこちらを参照下さい。
そんなわけで、ハリネズミの子宮疾患にまつわる症例報告を今後も続けていくことにします。
本日ご紹介しますのは、子宮の内膜炎が進行して血尿が認められたケースです。
ヨツユビハリネズミのトーンちゃん(雌、1歳10か月)は血尿が続くとのことで、はるばる京都から来院されました。
他院で止血剤・抗生剤の内服はされていたようですが、まずはエコーで子宮の状態を確認させて頂きました。
下写真の黄色丸は子宮で、カラードップラーで青と赤の色がモザイク様に描出されている箇所が子宮内の出血している部位を表します。
念のため、膀胱をエコーで確認しましたが問題ありませんでした。
エコーでは子宮腺癌のように腫大したマスは確認されませんので、おそらくは子宮内膜炎あたりによる出血の可能性が高いように思われました。
子宮内膜炎であれば内科的治療で完治できるのではと考えますが、摘出した子宮から腫沖の腺癌が見つかったり、わずか数百グラムという体重の個体であれば、出血量が僅かでも持続すれば出血多量の失血死に至ります。
飼い主様が京都在住のため、早期の手術をご希望されていることもあり、翌日手術を実施することとなりました。
いつものごとく、全身麻酔のためトーンちゃんに麻酔導入箱に入って頂き、麻酔をかけていきます。
トーンちゃんに麻酔が効いてきたところで、維持麻酔に変えます。
自家製のガスマスクと術中のモニタリング(心電図・酸素分圧測定など)のための電極を装着します。
皮膚を剃毛・消毒して、これから手術に入ります。
皮膚を切皮します。
腹筋を切開します。
下写真の中央に突出しているのが子宮です。
子宮の大きさからすると腫大は認められませんが、子宮内部に血液が貯留しているのが分かります。
右卵巣動静脈をバイクランプでシーリングします。
血管のシーリングを確認したところでメスで離断します。
同じ方法で左卵巣の動静脈も離断していきます。
両卵巣動静脈を離断した写真です。
次に子宮頚部を縫合糸で結紮していきます。
結紮が完了したところで、メスで子宮頚部を離断します。
カットした子宮頚部から出血が認められます(下写真黄色丸)。
子宮頚部を縫合(下写真黄色丸)して卵巣子宮摘出は終了です。
腹筋を縫合します。
次いで皮下組織を縫合します。
最後は皮膚縫合で手術は終了です。
維持麻酔のイソフルランの流出を停止させて、トーンちゃんを覚醒させます。
酸素だけを吸入させて、覚醒を待機しつつ抗生剤の注射を行います。
少しづつトーンちゃんの意識が戻ってきました。
側臥の姿勢から起き上がろうともがき始めます。
意識が完全に戻る前に爪を切ります。
ハリネズミの爪切りは煩雑で、実際に行おうとすると体を丸めてブロックされます。
従って、今回の様に全身麻酔した時は、同時に爪を切ります。
腹筋からの出血が続く様なので、腹帯をして圧迫止血します。
止血が完了するまで数時間このまま、腹帯をしてもらいます。
麻酔の覚醒も問題ありませんでした。
さて摘出した卵巣と子宮です(下写真)。
腹側面です。
背側面です。
この子宮角部を切開しました。
子宮内膜は肥厚しており、点状出血が認められます。
細菌感染があるようで灰白色の粘液が貯留しています。
子宮内膜面をスタンプ染色しました。
子宮内膜細胞に混じって、細菌や白血球などの炎症細胞が認められます。
高度の子宮内膜炎であることが判明しました。
手術の翌日のトーンちゃんです。
食欲も出て来ました。
術後2日目に退院して頂きました。
お迎えにみえた飼主様に甘えたような表情を示しています。
トーンちゃんは退院時に血尿も認められなくなりました。
雌のハリネズミの飼主様、血尿がありましたら、お早目に動物病院の受診をお勧めします。
トーンちゃん、お疲れ様でした!
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投稿者 院長 | 記事URL
2015年7月23日 木曜日
ハリネズミの乳腺腫瘍・リンパ腫
こんにちは 院長の伊藤です。
最近、ハリネズミ(ヨツユビハリネズミ)の人気が高く、当院ではハムスターの来院数を上回るかもしれません。
そんなハリネズミですが、飼育頭数が増えるにつれ、犬猫同様に様々な疾病で来院されます。
本日ご紹介しますのは、ハリネズミの乳腺腫瘍とリンパ腫です。
ヨツユビハリネズミのうにちゃん(2歳、雌、体重380g)は、左の腋下は大きく腫れてきたとのことで来院されました。
患部は、左の乳房周辺で大きさは3~4cmくらいの腫瘤です。
うにちゃんは非常に繊細な子で直ぐに丸くなり、顔の写真を撮ることが難しいです。
早速、患部の細胞診を実施しましたところ、乳腺腫瘍であることが判明しました。
細胞診の画像は下の写真です。
日を改めて外科的に手術することとなりました。
手術を実施したのは細胞診を実施してから、諸般の事情で約4週間後のことです。
乳腺腫瘍はこの4週間でさらに大きくなり、加えてうにちゃんの喉周辺に2か所の腫瘤が新たに出てきたとのことです。
喉周辺の腫瘤は外科的に切除してから、細胞を調べることとしました。
まず、うにちゃんに全身麻酔をするために麻酔導入箱に入って頂きます。
麻酔が効いてきたところで、維持麻酔に切り替えます。
下写真の黄色丸が乳腺腫瘍、赤色丸は新たに出来た腫瘤です。
拡大するとかなり大きい腫瘍であることが、お分かり頂けると思います。
全身麻酔が安定してきたところで手術に移ります。
まず皮膚切開から始めます。
皮膚を切開しますと腫大した乳腺腫瘍が認められます。
出血を最低限に抑えつつ組織を分割していきます。
太い血管はバイクランプでシーリングしていきます。
バイポーラで微細な出血巣を止血して行きます。
本来ならば乳房を含めて皮膚ごと切除したかったのですが、小さな個体なので皮膚再建のためにテンションをかけて縫合する事が困難です。
結局、皮膚は最小限の切開に留め、皮下組織の腫瘍を分割して切除しました。
下写真は切除後の患部です。
患部を縫合します。
次に喉周辺の腫瘤(赤丸)を摘出します。
皮下組織に出来た6㎜ほどの2つの腫瘍です。
乳腺腫瘍の部位は摘出時の出血により、皮下が暗赤色になっています。
術後の抗生剤を注射しています。
覚醒したうにちゃんです。
摘出した乳腺腫瘍です。
断面では既に細菌感染により乳腺炎を起こしているのが判明しました。
うにちゃんは、ほどなく全身麻酔から覚醒してケージ内を徘徊し始めました。
喉周辺の皮下腫瘍ですが、細胞診を実施しました。
その低倍像です。
高倍像です。
多数の中型から大型異型リンパ球が認められ、リンパ腫(皮膚型)であることが判明しました。
うにちゃんは術後2日で退院されました。
ただリンパ腫であるため、ステロイド剤(プレドニゾロン)での治療が今後必要となります。
自宅では食欲もあり、元気も術前より出て来ました。
それでも、術後18日目に逝去されました。
力及ばず、残念です。
ハリネズミは腫瘍発生率が高い動物です。
文献によれば、病理解剖したハリネズミの約30%で腫瘍が確認され、そのうち85%は悪性腫瘍で約10%で2種類以上の腫瘍が確認されているとのことです。
今回のうにちゃんも乳腺腫瘍に加えてリンパ腫が合併症で発生したようです。
ハリネズミのリンパ腫の発生原因は不明とされていますが、一部でレトロウィルスが関与しているとの報告があります。
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最近、ハリネズミ(ヨツユビハリネズミ)の人気が高く、当院ではハムスターの来院数を上回るかもしれません。
そんなハリネズミですが、飼育頭数が増えるにつれ、犬猫同様に様々な疾病で来院されます。
本日ご紹介しますのは、ハリネズミの乳腺腫瘍とリンパ腫です。
ヨツユビハリネズミのうにちゃん(2歳、雌、体重380g)は、左の腋下は大きく腫れてきたとのことで来院されました。
患部は、左の乳房周辺で大きさは3~4cmくらいの腫瘤です。
うにちゃんは非常に繊細な子で直ぐに丸くなり、顔の写真を撮ることが難しいです。
早速、患部の細胞診を実施しましたところ、乳腺腫瘍であることが判明しました。
細胞診の画像は下の写真です。
日を改めて外科的に手術することとなりました。
手術を実施したのは細胞診を実施してから、諸般の事情で約4週間後のことです。
乳腺腫瘍はこの4週間でさらに大きくなり、加えてうにちゃんの喉周辺に2か所の腫瘤が新たに出てきたとのことです。
喉周辺の腫瘤は外科的に切除してから、細胞を調べることとしました。
まず、うにちゃんに全身麻酔をするために麻酔導入箱に入って頂きます。
麻酔が効いてきたところで、維持麻酔に切り替えます。
下写真の黄色丸が乳腺腫瘍、赤色丸は新たに出来た腫瘤です。
拡大するとかなり大きい腫瘍であることが、お分かり頂けると思います。
全身麻酔が安定してきたところで手術に移ります。
まず皮膚切開から始めます。
皮膚を切開しますと腫大した乳腺腫瘍が認められます。
出血を最低限に抑えつつ組織を分割していきます。
太い血管はバイクランプでシーリングしていきます。
バイポーラで微細な出血巣を止血して行きます。
本来ならば乳房を含めて皮膚ごと切除したかったのですが、小さな個体なので皮膚再建のためにテンションをかけて縫合する事が困難です。
結局、皮膚は最小限の切開に留め、皮下組織の腫瘍を分割して切除しました。
下写真は切除後の患部です。
患部を縫合します。
次に喉周辺の腫瘤(赤丸)を摘出します。
皮下組織に出来た6㎜ほどの2つの腫瘍です。
乳腺腫瘍の部位は摘出時の出血により、皮下が暗赤色になっています。
術後の抗生剤を注射しています。
覚醒したうにちゃんです。
摘出した乳腺腫瘍です。
断面では既に細菌感染により乳腺炎を起こしているのが判明しました。
うにちゃんは、ほどなく全身麻酔から覚醒してケージ内を徘徊し始めました。
喉周辺の皮下腫瘍ですが、細胞診を実施しました。
その低倍像です。
高倍像です。
多数の中型から大型異型リンパ球が認められ、リンパ腫(皮膚型)であることが判明しました。
うにちゃんは術後2日で退院されました。
ただリンパ腫であるため、ステロイド剤(プレドニゾロン)での治療が今後必要となります。
自宅では食欲もあり、元気も術前より出て来ました。
それでも、術後18日目に逝去されました。
力及ばず、残念です。
ハリネズミは腫瘍発生率が高い動物です。
文献によれば、病理解剖したハリネズミの約30%で腫瘍が確認され、そのうち85%は悪性腫瘍で約10%で2種類以上の腫瘍が確認されているとのことです。
今回のうにちゃんも乳腺腫瘍に加えてリンパ腫が合併症で発生したようです。
ハリネズミのリンパ腫の発生原因は不明とされていますが、一部でレトロウィルスが関与しているとの報告があります。
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