ハリネズミの疾病
2018年9月 4日 火曜日
ハリネズミの肝臓腫瘍
こんにちは 院長の伊藤です。
ヨツユビハリネズミは腫瘍の多い動物種です。
今回は、肝臓の腫瘍について述べたいと思います。
ヨツユビハリネズミの小春ちゃん(雌、1歳5か月齢、体重440g)は元気食欲がなく、お腹が張って来たとのことで来院されました。
ハリネズミは犬や猫の様に体を開いて容易に触診できるわけではありません。
勿論、全身麻酔すればある程度、詳細な情報を精密検査で得ることは可能です。
しかしながら、どんな疾病なのか分からない状態で、最初から全身麻酔を施すということはリスクが高いです。
結局、レントゲン撮影を実施致しました。
無麻酔下なので体を丸めてしまうため、諸臓器のチェックの詳細は困難となります。
下写真では、小春ちゃんの腹部は、磨りガラス様に白濁しています。
これは腹水が、高度に腹腔内に貯留していることを示しています。
加えて、側臥の状態では腹水と諸臓器のコントラストで、臓器の一部が腫大している(マス)が認められます。
数日の間、腹水を抜くために利尿剤などの投薬を行いましたが、小春ちゃんに劇的な変化は認められません。
飼い主様とも相談して、試験的開腹を実施することとしました。
イソフルランの麻酔導入を行います。
次第に麻酔が効いてきました。
一旦、麻酔導入箱から出て維持麻酔に切り替えます。
筋肉も弛緩しているので、改めてレントゲン撮影を行いました。
黄色矢印は腹腔内の貯留している腹水を示します。
側臥姿勢でも黄色矢印は腹水を示しますが、食欲不振のため小腸内にガスが貯留しています(赤矢印)。
加えて、麻酔下でエコー検査を実施しました。
エコーの画像ですが、黄色丸は腫大した肝臓を示します。
低エコー領域と液体の貯留している領域が確認できます。
均一なエコー源性が無い点から、肝実質の炎症や腫瘍が疑われます。
試験的開腹を実施します。
ご覧の様に腹部の腫大が著しいのがお分かり頂けると思います。
腹部正中線に切開を加えます。
腹筋を切開して、腹部を確認すると大量の腹水が貯留しているのが分かります。
腹水を吸引して、腹部をすっきりさせます。
下写真で暗赤色で顔を出しているのが肝臓です。
肝臓の表面は凸凹しており、血管が肝表面に怒張・浸潤しています。
小雪ちゃんの頭と比較して、肝臓が大きく腫大しているのが分かります。
出来れば肝臓の細胞を針穿刺して調べたかったのですが、高度の血管浸潤により穿刺後の出血が止まらなくなる場合を想定して、中止しました。
肝臓全体に腫瘍が広がっているため、特定の部位を摘出というわけにいかず、このまま残念ながら閉腹させて頂きました。
腹腔内の詳細を確認させて頂きましたが、腫瘍が確認できたのは肝臓だけで他の臓器への転移はありませんでした。
肝原発性の腫瘍と考えられます。
麻酔から覚醒した小雪ちゃんです。
術後1時間で食餌を摂り始めました。
恐らく多量の腹水により、圧迫されていた消化器が蠕動運動を始めたものと思われます。
肝臓腫瘍に対して内科的治療を実施させて頂くこととしました。
強肝剤、利胆剤、利尿剤などを投薬して経過を診させて頂きます。
試験開腹後の経過は良好で、小雪ちゃんはある程度の食欲は改善してきました。
あくまで対症療法ですから、肝臓腫瘍が完治するわけではありません。
ホスピス的に天寿を全うする方針に飼主様も同意されました。
今後はペインコントロールを含めて要経過観察です。
試験開腹後、2週間経過した小雪ちゃんです。
抜糸のため来院されました。
活動性が出てきており、腹部の腫大も治まっています。
小雪ちゃんは約3か月間、闘病生活を送られた後に逝かれました。
あの肝臓の状態で3か月頑張ることが出来たのは、小雪ちゃんの体力・気力は勿論のこと、飼主様の細やかな愛情によるところが大きいです。
当院では、ヨツユビハリネズミの疾病中、腫瘍症例が大部分を占めるようになって来ました。
血尿に始まる子宮疾患や乳腺癌、皮膚腫瘍のように見た目で判断できる疾病ならば、早急な対応も可能です。
しかし、今回のような腹部主要臓器の腫瘍となりますと飼主様も気が付かないことがほとんどです。
犬猫同様、ハリネズミも定期検診をせめて半年に一度くらいの割合で受診されると良いと思います。
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ヨツユビハリネズミは腫瘍の多い動物種です。
今回は、肝臓の腫瘍について述べたいと思います。
ヨツユビハリネズミの小春ちゃん(雌、1歳5か月齢、体重440g)は元気食欲がなく、お腹が張って来たとのことで来院されました。
ハリネズミは犬や猫の様に体を開いて容易に触診できるわけではありません。
勿論、全身麻酔すればある程度、詳細な情報を精密検査で得ることは可能です。
しかしながら、どんな疾病なのか分からない状態で、最初から全身麻酔を施すということはリスクが高いです。
結局、レントゲン撮影を実施致しました。
無麻酔下なので体を丸めてしまうため、諸臓器のチェックの詳細は困難となります。
下写真では、小春ちゃんの腹部は、磨りガラス様に白濁しています。
これは腹水が、高度に腹腔内に貯留していることを示しています。
加えて、側臥の状態では腹水と諸臓器のコントラストで、臓器の一部が腫大している(マス)が認められます。
数日の間、腹水を抜くために利尿剤などの投薬を行いましたが、小春ちゃんに劇的な変化は認められません。
飼い主様とも相談して、試験的開腹を実施することとしました。
イソフルランの麻酔導入を行います。
次第に麻酔が効いてきました。
一旦、麻酔導入箱から出て維持麻酔に切り替えます。
筋肉も弛緩しているので、改めてレントゲン撮影を行いました。
黄色矢印は腹腔内の貯留している腹水を示します。
側臥姿勢でも黄色矢印は腹水を示しますが、食欲不振のため小腸内にガスが貯留しています(赤矢印)。
加えて、麻酔下でエコー検査を実施しました。
エコーの画像ですが、黄色丸は腫大した肝臓を示します。
低エコー領域と液体の貯留している領域が確認できます。
均一なエコー源性が無い点から、肝実質の炎症や腫瘍が疑われます。
試験的開腹を実施します。
ご覧の様に腹部の腫大が著しいのがお分かり頂けると思います。
腹部正中線に切開を加えます。
腹筋を切開して、腹部を確認すると大量の腹水が貯留しているのが分かります。
腹水を吸引して、腹部をすっきりさせます。
下写真で暗赤色で顔を出しているのが肝臓です。
肝臓の表面は凸凹しており、血管が肝表面に怒張・浸潤しています。
小雪ちゃんの頭と比較して、肝臓が大きく腫大しているのが分かります。
出来れば肝臓の細胞を針穿刺して調べたかったのですが、高度の血管浸潤により穿刺後の出血が止まらなくなる場合を想定して、中止しました。
肝臓全体に腫瘍が広がっているため、特定の部位を摘出というわけにいかず、このまま残念ながら閉腹させて頂きました。
腹腔内の詳細を確認させて頂きましたが、腫瘍が確認できたのは肝臓だけで他の臓器への転移はありませんでした。
肝原発性の腫瘍と考えられます。
麻酔から覚醒した小雪ちゃんです。
術後1時間で食餌を摂り始めました。
恐らく多量の腹水により、圧迫されていた消化器が蠕動運動を始めたものと思われます。
肝臓腫瘍に対して内科的治療を実施させて頂くこととしました。
強肝剤、利胆剤、利尿剤などを投薬して経過を診させて頂きます。
試験開腹後の経過は良好で、小雪ちゃんはある程度の食欲は改善してきました。
あくまで対症療法ですから、肝臓腫瘍が完治するわけではありません。
ホスピス的に天寿を全うする方針に飼主様も同意されました。
今後はペインコントロールを含めて要経過観察です。
試験開腹後、2週間経過した小雪ちゃんです。
抜糸のため来院されました。
活動性が出てきており、腹部の腫大も治まっています。
小雪ちゃんは約3か月間、闘病生活を送られた後に逝かれました。
あの肝臓の状態で3か月頑張ることが出来たのは、小雪ちゃんの体力・気力は勿論のこと、飼主様の細やかな愛情によるところが大きいです。
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血尿に始まる子宮疾患や乳腺癌、皮膚腫瘍のように見た目で判断できる疾病ならば、早急な対応も可能です。
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2018年8月16日 木曜日
ハリネズミの扁平上皮癌
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、ハリネズミの扁平上皮癌です。
ハリネズミは口腔内腫瘍の発生率が非常に高い動物です。
口腔内腫瘍は扁平上皮癌が経験的に最も多いと思いますが、他に悪性黒色腫、扁平上皮乳頭腫、骨肉腫なども報告されています。
ヨツユビハリネズミのホッチちゃん(2.5歳、雌、体重265g)は口の中が腫れているとのことで来院されました。
右上・下顎に腫れがあり、口がしっかり閉じることが出来ない状態です。
綿棒を使用して口腔内を確認します。
下写真黄色丸は上顎部の歯肉に出来た腫瘤です。
腫瘤により、臼歯が内側に圧迫されて変位しています。
この腫瘤がはたして腫瘍なのか否かを確認するために細胞診をすることにしました。
患部に注射針を穿刺して細胞を吸引します。
ついで右下顎部の腫瘤ですが、患部には膿が瘡蓋のように張り付いています(下写真黄色丸)。
膿を注射針で剥離しているところです。
薄皮を剥がすように膿を外しました。
膿を剥がした後には、臼歯が脱落しており、歯根部の顎の骨まで融解しているのが推定されます。
この部位についても同じく細胞診を実施しました。
下顎の患部については、非常に脆弱で注射針の穿刺でしつこく出血が続きます。
そのため、下写真のように止血剤を染み込ませた綿棒で患部を圧迫止血してます。
出血は止まりました。
ホッチちゃんは食欲が低下しているとのことで、右上下顎の腫瘤による疼痛が激しいものと思われます。
細胞診の結果が下写真です。
細菌感染(下写真黄色丸の細かな黒い点が細菌です。)を伴う有核扁平上皮細胞が認められます。
下写真黄色丸は扁平上皮細胞の中で核が大型です。
細胞質が好塩基性であり、強い青紫色を呈してる点から細胞の角化が進行しているのを示してます。
加えて核小体の大型化、核膜の不整もあり、異型性(正常では見られない細胞の形態変化)を示しています。
結果、扁平上皮癌であることが判明しました。
口腔内の腫瘍は外科的に完全摘出することが理想です。
しかしながら、歯槽骨にまで腫瘍が及んでいたりすると切除は困難となります。
特にハリネズミのように小さな動物では、犬で一般に実施される顎骨切除は厳しい状況となります。
腫瘍を可能な限り切除し、切除後に炭酸ガスレーザーで患部を蒸散させて治療する臨床医もいます。
腫瘍細胞をレーザーで全て切除出来ればよいのですが、どちらかと言えば腫瘍の大きさを部分切除で小さく減量して、生活の質を向上させる程度に留まります。
外科的切除が不可能であれば、放射線療法や化学療法があります。
犬ではこれらの治療は効果を示していますが、ハリネズミにおいてはまだ良く分かっていません。
また、犬ではこの扁平上皮癌に対して、ピロキシカム(cox-2阻害薬)が抗腫瘍作用を示すとの報告があります。
当院では、試験的にこのピロキシカムを投薬して経過を診ていますが、明らかな抗腫瘍効果は確認できていません。
下写真は、ピロキシカムを2週間投薬した後のホッチちゃんです。
下顎の口腔内腫瘍はさらに増大して来ています。
残念ながら、ホッチちゃんは口をしっかり閉じることが出来なくなっています。
固形の食餌もしっかり咀嚼出来なくなり、流動食で対応せざるを得ない状況です。
扁平上皮癌は歯槽骨へ浸潤していきますので、顔面の骨が変形していきます。
上顎部の扁平上皮癌の場合は、眼球が眼窩から突出する場合もあります。
いづれにせよ、強制給餌による食餌管理と疼痛管理でホッチちゃんの治療を進めさせて頂いてる現状です。
残念ながら、現時点でWHS(ふらつき症候群)と並んで、扁平上皮癌は根本的治療が出来ない難しい疾病です。
扁平上皮癌の初期のステージであればまだレーザー治療で効果を上げられるかもしれません。
口の中が腫れてきたと感じたら、早めに受診されることをお勧めします。
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本日ご紹介しますのは、ハリネズミの扁平上皮癌です。
ハリネズミは口腔内腫瘍の発生率が非常に高い動物です。
口腔内腫瘍は扁平上皮癌が経験的に最も多いと思いますが、他に悪性黒色腫、扁平上皮乳頭腫、骨肉腫なども報告されています。
ヨツユビハリネズミのホッチちゃん(2.5歳、雌、体重265g)は口の中が腫れているとのことで来院されました。
右上・下顎に腫れがあり、口がしっかり閉じることが出来ない状態です。
綿棒を使用して口腔内を確認します。
下写真黄色丸は上顎部の歯肉に出来た腫瘤です。
腫瘤により、臼歯が内側に圧迫されて変位しています。
この腫瘤がはたして腫瘍なのか否かを確認するために細胞診をすることにしました。
患部に注射針を穿刺して細胞を吸引します。
ついで右下顎部の腫瘤ですが、患部には膿が瘡蓋のように張り付いています(下写真黄色丸)。
膿を注射針で剥離しているところです。
薄皮を剥がすように膿を外しました。
膿を剥がした後には、臼歯が脱落しており、歯根部の顎の骨まで融解しているのが推定されます。
この部位についても同じく細胞診を実施しました。
下顎の患部については、非常に脆弱で注射針の穿刺でしつこく出血が続きます。
そのため、下写真のように止血剤を染み込ませた綿棒で患部を圧迫止血してます。
出血は止まりました。
ホッチちゃんは食欲が低下しているとのことで、右上下顎の腫瘤による疼痛が激しいものと思われます。
細胞診の結果が下写真です。
細菌感染(下写真黄色丸の細かな黒い点が細菌です。)を伴う有核扁平上皮細胞が認められます。
下写真黄色丸は扁平上皮細胞の中で核が大型です。
細胞質が好塩基性であり、強い青紫色を呈してる点から細胞の角化が進行しているのを示してます。
加えて核小体の大型化、核膜の不整もあり、異型性(正常では見られない細胞の形態変化)を示しています。
結果、扁平上皮癌であることが判明しました。
口腔内の腫瘍は外科的に完全摘出することが理想です。
しかしながら、歯槽骨にまで腫瘍が及んでいたりすると切除は困難となります。
特にハリネズミのように小さな動物では、犬で一般に実施される顎骨切除は厳しい状況となります。
腫瘍を可能な限り切除し、切除後に炭酸ガスレーザーで患部を蒸散させて治療する臨床医もいます。
腫瘍細胞をレーザーで全て切除出来ればよいのですが、どちらかと言えば腫瘍の大きさを部分切除で小さく減量して、生活の質を向上させる程度に留まります。
外科的切除が不可能であれば、放射線療法や化学療法があります。
犬ではこれらの治療は効果を示していますが、ハリネズミにおいてはまだ良く分かっていません。
また、犬ではこの扁平上皮癌に対して、ピロキシカム(cox-2阻害薬)が抗腫瘍作用を示すとの報告があります。
当院では、試験的にこのピロキシカムを投薬して経過を診ていますが、明らかな抗腫瘍効果は確認できていません。
下写真は、ピロキシカムを2週間投薬した後のホッチちゃんです。
下顎の口腔内腫瘍はさらに増大して来ています。
残念ながら、ホッチちゃんは口をしっかり閉じることが出来なくなっています。
固形の食餌もしっかり咀嚼出来なくなり、流動食で対応せざるを得ない状況です。
扁平上皮癌は歯槽骨へ浸潤していきますので、顔面の骨が変形していきます。
上顎部の扁平上皮癌の場合は、眼球が眼窩から突出する場合もあります。
いづれにせよ、強制給餌による食餌管理と疼痛管理でホッチちゃんの治療を進めさせて頂いてる現状です。
残念ながら、現時点でWHS(ふらつき症候群)と並んで、扁平上皮癌は根本的治療が出来ない難しい疾病です。
扁平上皮癌の初期のステージであればまだレーザー治療で効果を上げられるかもしれません。
口の中が腫れてきたと感じたら、早めに受診されることをお勧めします。
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2018年7月23日 月曜日
ハリネズミの卵巣腫瘍(性索・間質性腫瘍)
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、ハリネズミの卵巣腫瘍です。
今年の5月、6月はハリネズミの腫瘍摘出手術(特に子宮腫瘍)が集中してありました。
連日のようにハリネズミの開腹手術となりました。
ハリネズミは本当に腫瘍が多い動物種だと再認識します。
現在、そのデータ―をまとめてますので、近々にこの場で紹介させて頂きます。
ヨツユビハリネズミのみんとちゃん(3歳8か月齢、雌)は血尿が酷いとのことで来院されました。
以前、みんとちゃんは当院で乳腺癌の摘出手術を受けました。
ハリネズミの乳腺癌に興味のある方はこちらをクリックして下さい。
下写真はみんとちゃんの一回分の尿(血尿)です。
出血量も多く、元気食欲のないみんとちゃんです。
みんとちゃんの年齢、症状から産科系の疾患はまず疑いないと判断しました。
1年ほど前に乳腺癌の手術を受けられてから、また別件での手術となると飼い主様的にも悩まれるところだと思います。
しかし、子宮腺癌が絡んでいますと時間の問題です。
飼い主様にもご決断頂き、開腹手術を行うこととなりました。
イソフルランによる導入麻酔を行います。
少しずつ、麻酔が効いてきます。
麻酔導入が出来たところで、外に出て頂き維持麻酔に変えます。
生体モニターのためにセンサーを接続し、切開部を消毒します。
手術の準備が出来ました。
皮膚の正中部にメスを入れます。
皮下脂肪を切除します。
軽く腹部を圧迫しただけで、みんとちゃんの陰部からは出血が認められます(下写真黄色丸)。
腹筋にメスを入れます。
腹膜を切開したところで、尿が溜まった膀胱(下写真黄色矢印)が飛び出してきました。
続いて膀胱の隣に子宮が確認できます。
子宮が貧血色を呈しているのがお分かり頂けると思います。
膀胱がこのままですと背側面に位置する子宮の摘出が困難になりますので、膀胱を穿刺して尿を吸引します。
下写真は卵巣と子宮の全容です。
赤矢印は左卵巣(うっ血色)、青矢印は右卵巣(のう胞状)、白矢印は子宮壁漿膜面に発生した白色の腫瘤です。
この3点がまず異常所見として認められました。
注意深く左卵巣をバイクランプでシーリングしていきます。
シーリングした卵巣動静脈をメスで離断します。
同様に、右の卵巣動静脈もシーリング後に離断し、子宮頚部を縫合糸で結紮します。
私の場合は、子宮頚部を2か所にわたり結紮します。
次いで、子宮頚部をメスで離断します。
子宮頚部断端を吸収糸で縫合し、卵巣子宮全摘出は完了です。
次に腹筋を縫合します。
最後に皮膚を縫合して手術は完了です。
下写真をご覧いただくとお分かり頂けると思いますが、陰部から出血が激しく下のタオルが赤く染まっています。
出血量の補正のために皮下にリンゲル液を輸液します。
ほどなく、みんとちゃんは麻酔から覚醒し始めました。
大変な手術でしたが、頑張ってくれました。
さて、今回摘出した卵巣と子宮です。
開腹している写真で示した矢印の色と合わせてあります。
左卵巣(赤矢印)の腫大が著しく、うっ血色を呈しています。
右卵巣(青矢印)は腫大傾向を示しています。
白矢印は子宮角漿膜から派生している腫瘤です。
裏側からみた写真です。
側面の写真です。
病理所見としては、みんとちゃんの子宮は内膜が肥厚してポリープを形成していました。
ポリープの一部は子宮内膜間質肉腫という腫瘍細胞が見つかりました。
下写真は子宮内膜が過形成されている病理写真(低倍率)です。
子宮内膜に生じたポリープの中拡大像です。
下は上述写真の白矢印(子宮角部)を拡大した写真です。
低悪性度の平滑筋肉腫の腫瘍細胞が認められます。
下は上述写真の赤矢印で示した左卵巣の写真(低倍率)です。
左卵巣には血液を含んで拡張した嚢胞様構造が認められます。
下写真は左卵巣(中拡大像)です。
この左卵巣には大型類円形・多角形細胞がシート状に増殖しています。
下は上写真の強拡大像です。
犬のライディッヒ細胞腫に近似した細胞の所見(大型類円形、多角形細胞のシート状増殖)が認められました。
ライディッヒ細胞腫について興味のある方は、こちらをクリックして下さい。
みんとちゃんの左卵巣は性索・間質性腫瘍という卵巣腫瘍でした。
性索・間質性腫瘍の中でもさらに間質細胞腫瘍というタイプに分類されるようです。
この間質細胞腫瘍はステロイドホルモンを産生することもあり、結果としてエストロゲン過剰症や雄性化、長期にわたる無発情などの臨床徴候が現れることがあります。
ただこれは犬の卵巣腫瘍における知見であり、ヨツユビハリネズミにおいてはまだはっきり分かっていません。
ちなみに右卵巣は正常所見でした。
みんとちゃんの場合は、左卵巣の性索・間質性腫瘍、子宮内膜過形成及び子宮内膜ポリープ、低悪性度平滑筋肉腫という疾患であったことが判明しました。
病理医から卵巣・子宮摘出は完全であり、予後は良好であろうとコメントを頂きました。
いずれにせよ、今後は要経過観察です。
退院時のみんとちゃんです。
元気食欲も戻り、無事退院できて良かったです。
次いで、退院後2週目のみんとちゃんです。
本日は抜糸のため、来院されました。
傷口も綺麗に治っています。
みんとちゃん、お疲れ様でした!
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本日ご紹介しますのは、ハリネズミの卵巣腫瘍です。
今年の5月、6月はハリネズミの腫瘍摘出手術(特に子宮腫瘍)が集中してありました。
連日のようにハリネズミの開腹手術となりました。
ハリネズミは本当に腫瘍が多い動物種だと再認識します。
現在、そのデータ―をまとめてますので、近々にこの場で紹介させて頂きます。
ヨツユビハリネズミのみんとちゃん(3歳8か月齢、雌)は血尿が酷いとのことで来院されました。
以前、みんとちゃんは当院で乳腺癌の摘出手術を受けました。
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下写真はみんとちゃんの一回分の尿(血尿)です。
出血量も多く、元気食欲のないみんとちゃんです。
みんとちゃんの年齢、症状から産科系の疾患はまず疑いないと判断しました。
1年ほど前に乳腺癌の手術を受けられてから、また別件での手術となると飼い主様的にも悩まれるところだと思います。
しかし、子宮腺癌が絡んでいますと時間の問題です。
飼い主様にもご決断頂き、開腹手術を行うこととなりました。
イソフルランによる導入麻酔を行います。
少しずつ、麻酔が効いてきます。
麻酔導入が出来たところで、外に出て頂き維持麻酔に変えます。
生体モニターのためにセンサーを接続し、切開部を消毒します。
手術の準備が出来ました。
皮膚の正中部にメスを入れます。
皮下脂肪を切除します。
軽く腹部を圧迫しただけで、みんとちゃんの陰部からは出血が認められます(下写真黄色丸)。
腹筋にメスを入れます。
腹膜を切開したところで、尿が溜まった膀胱(下写真黄色矢印)が飛び出してきました。
続いて膀胱の隣に子宮が確認できます。
子宮が貧血色を呈しているのがお分かり頂けると思います。
膀胱がこのままですと背側面に位置する子宮の摘出が困難になりますので、膀胱を穿刺して尿を吸引します。
下写真は卵巣と子宮の全容です。
赤矢印は左卵巣(うっ血色)、青矢印は右卵巣(のう胞状)、白矢印は子宮壁漿膜面に発生した白色の腫瘤です。
この3点がまず異常所見として認められました。
注意深く左卵巣をバイクランプでシーリングしていきます。
シーリングした卵巣動静脈をメスで離断します。
同様に、右の卵巣動静脈もシーリング後に離断し、子宮頚部を縫合糸で結紮します。
私の場合は、子宮頚部を2か所にわたり結紮します。
次いで、子宮頚部をメスで離断します。
子宮頚部断端を吸収糸で縫合し、卵巣子宮全摘出は完了です。
次に腹筋を縫合します。
最後に皮膚を縫合して手術は完了です。
下写真をご覧いただくとお分かり頂けると思いますが、陰部から出血が激しく下のタオルが赤く染まっています。
出血量の補正のために皮下にリンゲル液を輸液します。
ほどなく、みんとちゃんは麻酔から覚醒し始めました。
大変な手術でしたが、頑張ってくれました。
さて、今回摘出した卵巣と子宮です。
開腹している写真で示した矢印の色と合わせてあります。
左卵巣(赤矢印)の腫大が著しく、うっ血色を呈しています。
右卵巣(青矢印)は腫大傾向を示しています。
白矢印は子宮角漿膜から派生している腫瘤です。
裏側からみた写真です。
側面の写真です。
病理所見としては、みんとちゃんの子宮は内膜が肥厚してポリープを形成していました。
ポリープの一部は子宮内膜間質肉腫という腫瘍細胞が見つかりました。
下写真は子宮内膜が過形成されている病理写真(低倍率)です。
子宮内膜に生じたポリープの中拡大像です。
下は上述写真の白矢印(子宮角部)を拡大した写真です。
低悪性度の平滑筋肉腫の腫瘍細胞が認められます。
下は上述写真の赤矢印で示した左卵巣の写真(低倍率)です。
左卵巣には血液を含んで拡張した嚢胞様構造が認められます。
下写真は左卵巣(中拡大像)です。
この左卵巣には大型類円形・多角形細胞がシート状に増殖しています。
下は上写真の強拡大像です。
犬のライディッヒ細胞腫に近似した細胞の所見(大型類円形、多角形細胞のシート状増殖)が認められました。
ライディッヒ細胞腫について興味のある方は、こちらをクリックして下さい。
みんとちゃんの左卵巣は性索・間質性腫瘍という卵巣腫瘍でした。
性索・間質性腫瘍の中でもさらに間質細胞腫瘍というタイプに分類されるようです。
この間質細胞腫瘍はステロイドホルモンを産生することもあり、結果としてエストロゲン過剰症や雄性化、長期にわたる無発情などの臨床徴候が現れることがあります。
ただこれは犬の卵巣腫瘍における知見であり、ヨツユビハリネズミにおいてはまだはっきり分かっていません。
ちなみに右卵巣は正常所見でした。
みんとちゃんの場合は、左卵巣の性索・間質性腫瘍、子宮内膜過形成及び子宮内膜ポリープ、低悪性度平滑筋肉腫という疾患であったことが判明しました。
病理医から卵巣・子宮摘出は完全であり、予後は良好であろうとコメントを頂きました。
いずれにせよ、今後は要経過観察です。
退院時のみんとちゃんです。
元気食欲も戻り、無事退院できて良かったです。
次いで、退院後2週目のみんとちゃんです。
本日は抜糸のため、来院されました。
傷口も綺麗に治っています。
みんとちゃん、お疲れ様でした!
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2018年5月11日 金曜日
ヨツユビハリネズミの肥満細胞腫(その2)
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、ヨツユビハリネズミの肥満細胞腫です。
この肥満細胞腫は以前にもご報告させて頂きました(頭部に生じた皮膚型肥満細胞腫)。
詳細について興味のある方はこちらをクリックして下さい。
肥満細胞腫はイヌにおいては皮膚腫瘍の中で最も発生頻度が高いとされています。
ハリネズミについてはまだその詳細は解明されていません。
肥満細胞は体の中でアレルギー反応や炎症過程に不可欠な役割を果たしています。
免疫グロブリン(IgE抗体)が肥満細胞表面に結合すると、肥満細胞はヒスタミンやヘパリンを局所及び循環血中に放出し、アレルギー反応を引き起こします。
このヒスタミンは好酸球を引き寄せる特徴があり、またこの好酸球はヒスタミンを中和します。
そんな肥満細胞が腫瘍を惹起させたのが肥満細胞腫で、悪性腫瘍です。
ヨツユビハリネズミの吉田大福君(雄 4歳11か月齢)は左腋部に大きな腫瘤が出来たとのことで来院されました。
下写真の黄色丸がその腫瘤を示します。
腫瘤の皮膚表面は床面との干渉で裂けて痂皮が形成されています。
かなり大きな腫瘤ですが、見る限り腫瘍の可能性が大きいと思われました。
早速、細胞診をしてみましたが、紡錘形細胞が大量に認められ、軟部組織肉腫が疑われました。
飼い主様の了解を得て、腫瘍の外科的摘出を実施することとしました。
麻酔導入箱に吉田大福君を入れます。
イソフルランは効いて来たようで吉田大福君は寝てます。
導入箱から出てもらい、維持麻酔をします。
患部周辺は滲出液で汚染されていますので、消毒洗浄をします。
患部にメジャーをあててみました。
長軸方向だけでも40㎜を超える大きさがあります。
側面からのアングルですが、うっ血色を呈しており、触診では皮下脂肪の中を背側面まで浸潤しているように思われました。
生体情報モニターにセンサーをつなげていよいよ手術を行います。
腫瘍を囲い込むように船形に皮膚切開を施します。
電気メス(バイポーラ)を使用して、止血しながら慎重に組織を分離していきます。
腫瘍の至るところに太めの栄養血管が分布してます。
血管を傷つけないように滅菌綿棒を使って、ゆっくり腫瘍を健常組織から剥がします。
なるべく麻酔時間を短縮したいので、太い栄養血管の縫合糸による結紮は避けて、バイクランプでシーリングして血管を離断します。
バイクランプとバイポーラの併用で何とか、出血も回避できそうです。
一先ず、これで手術は終了かと思われたのですが。
かなり大きな腫瘍でしたが、その真下に新たに腫瘤が控えていました(下写真黄色丸)。
当初、私はこれは腋下のリンパ節かと思っていたのですが、病理検査にこの組織を出してみて新たな発見が得られました。
取り敢えず、リンパ節であれ廓清のためにも、この組織を摘出することとしました。
どちらかと言うと周りの組織から単離した感のある組織でした。
バイポーラで摘出したところです(下写真黄色丸)。
摘出した部位は皮下組織内も筋肉組織にも腫瘍を思わせる組織はありません。
出血も最小限で抑えることが出来ました。
最後に皮膚縫合を5-0ナイロン糸で縫合します。
これで吉田大福君の手術は終了です。
皮下輸液(乳酸リンゲル液)を実施してます。
麻酔から覚醒し始めた吉田大福君です。
術後1時間立たないうちにフードを食べ始めています。
摘出した皮膚表層部から背側面の筋肉層まで伸びていた腫瘍です。
吉田大福君の300gの体重からすれば、巨大な腫瘍です。
下写真は上の巨大な腫瘍の真下に存在していた組織です。
二つの腫瘤を並べてみました。
大きな腫瘍は重さが27gありました。
吉田大福君の体重の約1割にあたります。
50㎏の体重の大人なら5kgに匹敵する腫瘍です。
手術2日後の吉田大福君です。
退院直前の写真です。
食欲もしっかりあり、元気に退院して頂きました。
さて、摘出した腫瘍のうち、大きな方の病理写真です(中拡大像)。
下はその高倍率像です。
多形性・異型性に富む腫瘍細胞(紡錘形、多角形、類円形)のシート状・錯綜状・束状増殖が特徴です。
これらの腫瘍細胞は、分化度が低く起源が特定できない高悪性度肉腫との病理医からの判定でした。
続いて、私がリンパ節と思い込んでいた組織の病理写真です(中拡大像)。
下写真はその高倍率像です。
多形性のある円形・類円形細胞のシート状増殖によって特徴づけられます。
腫瘍細胞の周囲には多数の好酸球が認められます。
特殊染色(トルイジンブルー染色)等でさらに厳密な判定をしていただいた結果、肥満細胞腫であることが判明しました。
巨大な腫瘍とこの肥満細胞腫との関連は不明です。
全く、タイプの異なる腫瘍が混在していたのかもしれません。
いづれにせよ、ハリネズミは腫瘍が多い動物種であると感じます。
最近の当院では、ハリネズミの手術は9割近くが腫瘍の摘出になってます。
子宮の腫瘍が一番多いですが、皮膚の腫瘍も次いで増加傾向にあります。
今回の様に巨大でも皮下脂肪に留まる腫瘍は、比較的安全に摘出が可能です。
しかしながら、筋肉層や腹腔内、口腔内、食道・気管内に及ぶ腫瘍は摘出は困難です。
何しろ、体重が300~400gの動物ですから限界があります。
それでも、摘出を希望して当院を受診される飼主様もお見えです。
出来る限り、ご要望に応えられるように、今後も最善を尽くしたいと思います。
下写真は、抜糸のため来院された吉田大福君です。
傷口も綺麗に治り、体のラインもスリムに見えます。
今後は、再発や転移がないか、経過観察が必要です。
吉田大福君、お疲れ様でした!
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本日ご紹介しますのは、ヨツユビハリネズミの肥満細胞腫です。
この肥満細胞腫は以前にもご報告させて頂きました(頭部に生じた皮膚型肥満細胞腫)。
詳細について興味のある方はこちらをクリックして下さい。
肥満細胞腫はイヌにおいては皮膚腫瘍の中で最も発生頻度が高いとされています。
ハリネズミについてはまだその詳細は解明されていません。
肥満細胞は体の中でアレルギー反応や炎症過程に不可欠な役割を果たしています。
免疫グロブリン(IgE抗体)が肥満細胞表面に結合すると、肥満細胞はヒスタミンやヘパリンを局所及び循環血中に放出し、アレルギー反応を引き起こします。
このヒスタミンは好酸球を引き寄せる特徴があり、またこの好酸球はヒスタミンを中和します。
そんな肥満細胞が腫瘍を惹起させたのが肥満細胞腫で、悪性腫瘍です。
ヨツユビハリネズミの吉田大福君(雄 4歳11か月齢)は左腋部に大きな腫瘤が出来たとのことで来院されました。
下写真の黄色丸がその腫瘤を示します。
腫瘤の皮膚表面は床面との干渉で裂けて痂皮が形成されています。
かなり大きな腫瘤ですが、見る限り腫瘍の可能性が大きいと思われました。
早速、細胞診をしてみましたが、紡錘形細胞が大量に認められ、軟部組織肉腫が疑われました。
飼い主様の了解を得て、腫瘍の外科的摘出を実施することとしました。
麻酔導入箱に吉田大福君を入れます。
イソフルランは効いて来たようで吉田大福君は寝てます。
導入箱から出てもらい、維持麻酔をします。
患部周辺は滲出液で汚染されていますので、消毒洗浄をします。
患部にメジャーをあててみました。
長軸方向だけでも40㎜を超える大きさがあります。
側面からのアングルですが、うっ血色を呈しており、触診では皮下脂肪の中を背側面まで浸潤しているように思われました。
生体情報モニターにセンサーをつなげていよいよ手術を行います。
腫瘍を囲い込むように船形に皮膚切開を施します。
電気メス(バイポーラ)を使用して、止血しながら慎重に組織を分離していきます。
腫瘍の至るところに太めの栄養血管が分布してます。
血管を傷つけないように滅菌綿棒を使って、ゆっくり腫瘍を健常組織から剥がします。
なるべく麻酔時間を短縮したいので、太い栄養血管の縫合糸による結紮は避けて、バイクランプでシーリングして血管を離断します。
バイクランプとバイポーラの併用で何とか、出血も回避できそうです。
一先ず、これで手術は終了かと思われたのですが。
かなり大きな腫瘍でしたが、その真下に新たに腫瘤が控えていました(下写真黄色丸)。
当初、私はこれは腋下のリンパ節かと思っていたのですが、病理検査にこの組織を出してみて新たな発見が得られました。
取り敢えず、リンパ節であれ廓清のためにも、この組織を摘出することとしました。
どちらかと言うと周りの組織から単離した感のある組織でした。
バイポーラで摘出したところです(下写真黄色丸)。
摘出した部位は皮下組織内も筋肉組織にも腫瘍を思わせる組織はありません。
出血も最小限で抑えることが出来ました。
最後に皮膚縫合を5-0ナイロン糸で縫合します。
これで吉田大福君の手術は終了です。
皮下輸液(乳酸リンゲル液)を実施してます。
麻酔から覚醒し始めた吉田大福君です。
術後1時間立たないうちにフードを食べ始めています。
摘出した皮膚表層部から背側面の筋肉層まで伸びていた腫瘍です。
吉田大福君の300gの体重からすれば、巨大な腫瘍です。
下写真は上の巨大な腫瘍の真下に存在していた組織です。
二つの腫瘤を並べてみました。
大きな腫瘍は重さが27gありました。
吉田大福君の体重の約1割にあたります。
50㎏の体重の大人なら5kgに匹敵する腫瘍です。
手術2日後の吉田大福君です。
退院直前の写真です。
食欲もしっかりあり、元気に退院して頂きました。
さて、摘出した腫瘍のうち、大きな方の病理写真です(中拡大像)。
下はその高倍率像です。
多形性・異型性に富む腫瘍細胞(紡錘形、多角形、類円形)のシート状・錯綜状・束状増殖が特徴です。
これらの腫瘍細胞は、分化度が低く起源が特定できない高悪性度肉腫との病理医からの判定でした。
続いて、私がリンパ節と思い込んでいた組織の病理写真です(中拡大像)。
下写真はその高倍率像です。
多形性のある円形・類円形細胞のシート状増殖によって特徴づけられます。
腫瘍細胞の周囲には多数の好酸球が認められます。
特殊染色(トルイジンブルー染色)等でさらに厳密な判定をしていただいた結果、肥満細胞腫であることが判明しました。
巨大な腫瘍とこの肥満細胞腫との関連は不明です。
全く、タイプの異なる腫瘍が混在していたのかもしれません。
いづれにせよ、ハリネズミは腫瘍が多い動物種であると感じます。
最近の当院では、ハリネズミの手術は9割近くが腫瘍の摘出になってます。
子宮の腫瘍が一番多いですが、皮膚の腫瘍も次いで増加傾向にあります。
今回の様に巨大でも皮下脂肪に留まる腫瘍は、比較的安全に摘出が可能です。
しかしながら、筋肉層や腹腔内、口腔内、食道・気管内に及ぶ腫瘍は摘出は困難です。
何しろ、体重が300~400gの動物ですから限界があります。
それでも、摘出を希望して当院を受診される飼主様もお見えです。
出来る限り、ご要望に応えられるように、今後も最善を尽くしたいと思います。
下写真は、抜糸のため来院された吉田大福君です。
傷口も綺麗に治り、体のラインもスリムに見えます。
今後は、再発や転移がないか、経過観察が必要です。
吉田大福君、お疲れ様でした!
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投稿者 院長 | 記事URL
2018年3月 8日 木曜日
ハリネズミの軟部組織肉腫
こんにちは 院長の伊藤です。
本日はハリネズミの腫瘍についてコメントさせて頂きます。
最近当院では、ハリネズミは腫瘍の治療がメインとなりつつあります。
遺伝学的、繁殖上の問題(近親交配など)も背景にあるのかもしれません。
そんなハリネズミですが、今回は軟部組織肉腫という腫瘍についてです。
ヨツユビハリネズミのハリーちゃん(雌、2歳3か月齢)は尻尾の上あたりに腫瘤が出来たとのことで来院されました(下写真黄色丸)。
腫瘍であることは明らかでしたので、患部を針生検しました。
この細胞診の結果は、非上皮性の腫瘍という診断でした。
異型性を示す細胞が見つかったとのことで、悪性の非上皮性腫瘍が疑われると病理医からのコメントを頂き、飼主様の了解のもと外科的に摘出することになりました。
麻酔導入箱にハリーちゃんに入って頂き、イソフルランのガス麻酔導入します。
段々麻酔が効いてきました。
麻酔が維持できたところで患部周辺のハリを鉗子で抜去していきます。
手術自体よりもこの針を抜く行為が大変煩雑です。
しかし、確実に針を抜去しないと腫瘍切除後の皮膚縫合が困難になりますので慎重に実施します。
腫瘍摘出後の縫合部の縫い代(マージン)を含めて、これくらい針を抜去しました。
このポジションで患部を切除します。
腫瘍の大きさは約10㎜あります。
出来うる限り、マージンを広く取るようにメスを入れます。
バイポーラ(電気メス)で止血しながら腫瘍を切除します。
腰部の筋肉まで腫瘍は浸潤していませんでした。
特に出血もなく、摘出は完了しました。
腫瘍摘出後の患部です。
中央部に見えているのは皮下脂肪です。
ハリネズミは背部の皮下脂肪は発達しており、非常に分厚いです。
皮膚と皮下組織を鉗子で鈍性に剥離します。
これは、皮膚に柔軟性・伸展性を持たせて縫合しやすいようにするためです。
皮下組織を合成吸収糸で縫合します。
皮下組織の縫合は完了です。
最後にテンションがかかる部位のため、ステンレスワイヤーで皮膚縫合を実施しました。
患部の拡大像です。
麻酔から覚醒し始めたハリーちゃんです。
摘出した腫瘍です。
病理検査の所見です。
下写真は低倍率の写真です。
真皮領域において非上皮性悪性腫瘍組織(肉腫)が認められます。
高倍率の写真です。
紡錘形細胞の細胞束が花むしろ状に不規則に配列しています。
腫瘍細胞自体は、核の大小不動性・多形性、巨大・複数核小体などの中等度の異型性(悪性度)を示しています。
今回、軟部組織肉腫(低悪性度、グレード1)との病理診断が出されました。
軟部組織肉腫は動物の悪性腫瘍(癌)の一つのグループで、線維肉腫、血管周皮腫、神経鞘腫、脂肪肉腫などいくつかの腫瘍が含まれます。
これらの腫瘍は共通した特徴を持っているので、"軟部組織肉腫"というカテゴリーで診断・治療されます。
この腫瘍の特徴として、局所浸潤性が強い点と再発率が高い点が挙げられます。
その一方で、軟部組織肉腫はグレードによりますが、比較的転移が起こりにくいという特徴を持っています。
従って、皮膚に出来た軟部組織肉腫は、十分なマージンを取って、腫瘍の根の部分まで確実に摘出できれば、再発を防ぐことは可能です。
下写真は術後、2週間目での患部の抜糸跡です。
今後は、ハリーちゃんの患部の経過(再発)をしっかり経過観察する必要があります。
ハリーちゃん、お疲れ様でした!
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本日はハリネズミの腫瘍についてコメントさせて頂きます。
最近当院では、ハリネズミは腫瘍の治療がメインとなりつつあります。
遺伝学的、繁殖上の問題(近親交配など)も背景にあるのかもしれません。
そんなハリネズミですが、今回は軟部組織肉腫という腫瘍についてです。
ヨツユビハリネズミのハリーちゃん(雌、2歳3か月齢)は尻尾の上あたりに腫瘤が出来たとのことで来院されました(下写真黄色丸)。
腫瘍であることは明らかでしたので、患部を針生検しました。
この細胞診の結果は、非上皮性の腫瘍という診断でした。
異型性を示す細胞が見つかったとのことで、悪性の非上皮性腫瘍が疑われると病理医からのコメントを頂き、飼主様の了解のもと外科的に摘出することになりました。
麻酔導入箱にハリーちゃんに入って頂き、イソフルランのガス麻酔導入します。
段々麻酔が効いてきました。
麻酔が維持できたところで患部周辺のハリを鉗子で抜去していきます。
手術自体よりもこの針を抜く行為が大変煩雑です。
しかし、確実に針を抜去しないと腫瘍切除後の皮膚縫合が困難になりますので慎重に実施します。
腫瘍摘出後の縫合部の縫い代(マージン)を含めて、これくらい針を抜去しました。
このポジションで患部を切除します。
腫瘍の大きさは約10㎜あります。
出来うる限り、マージンを広く取るようにメスを入れます。
バイポーラ(電気メス)で止血しながら腫瘍を切除します。
腰部の筋肉まで腫瘍は浸潤していませんでした。
特に出血もなく、摘出は完了しました。
腫瘍摘出後の患部です。
中央部に見えているのは皮下脂肪です。
ハリネズミは背部の皮下脂肪は発達しており、非常に分厚いです。
皮膚と皮下組織を鉗子で鈍性に剥離します。
これは、皮膚に柔軟性・伸展性を持たせて縫合しやすいようにするためです。
皮下組織を合成吸収糸で縫合します。
皮下組織の縫合は完了です。
最後にテンションがかかる部位のため、ステンレスワイヤーで皮膚縫合を実施しました。
患部の拡大像です。
麻酔から覚醒し始めたハリーちゃんです。
摘出した腫瘍です。
病理検査の所見です。
下写真は低倍率の写真です。
真皮領域において非上皮性悪性腫瘍組織(肉腫)が認められます。
高倍率の写真です。
紡錘形細胞の細胞束が花むしろ状に不規則に配列しています。
腫瘍細胞自体は、核の大小不動性・多形性、巨大・複数核小体などの中等度の異型性(悪性度)を示しています。
今回、軟部組織肉腫(低悪性度、グレード1)との病理診断が出されました。
軟部組織肉腫は動物の悪性腫瘍(癌)の一つのグループで、線維肉腫、血管周皮腫、神経鞘腫、脂肪肉腫などいくつかの腫瘍が含まれます。
これらの腫瘍は共通した特徴を持っているので、"軟部組織肉腫"というカテゴリーで診断・治療されます。
この腫瘍の特徴として、局所浸潤性が強い点と再発率が高い点が挙げられます。
その一方で、軟部組織肉腫はグレードによりますが、比較的転移が起こりにくいという特徴を持っています。
従って、皮膚に出来た軟部組織肉腫は、十分なマージンを取って、腫瘍の根の部分まで確実に摘出できれば、再発を防ぐことは可能です。
下写真は術後、2週間目での患部の抜糸跡です。
今後は、ハリーちゃんの患部の経過(再発)をしっかり経過観察する必要があります。
ハリーちゃん、お疲れ様でした!
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投稿者 院長 | 記事URL