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ハリネズミの疾病

2021年7月29日 木曜日

ヨツユビハリネズミの肥満細胞腫(その3)

こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのは、ヨツユビハリネズミの肥満細胞腫です。

3年前と4年前に1例ずつ症例をご紹介させて頂いておりますが、いまだヨツユビハリネズミの肥満細胞腫は詳細が解明されていない腫瘍です。

過去の記事のリンクをこちらに載せておきますので、興味のある方はクリックして下さい。

ヨツユビハリネズミの肥満細胞腫、 ヨツユビハリネズミの肥満細胞腫(その2)




ヨツユビハリネズミのまろん君(6歳4か月齢、体重370g)は右前肢から腋下部にかけて腫瘤が発生し、次第に増大傾向を示すとのことで来院されました。

まろん君は高齢であり、また腫瘍が思いのほか大きいため、外科的に摘出は困難とのことで、他院からの紹介でした。

下写真の黄色丸がまろん君の腫瘤です。





体を丸めると腫瘤のため、前肢は格納することが出来ず、また自らの針で前肢を傷つけてしまいます。

細胞診で肥満細胞腫の疑いもあり、かつ飼主様のまろん君の生活の質(QOL)を改善することを強く望まれましたので、外科手術を実施することとなりました。




まろん君をイオフルランで麻酔導入します。



5分くらいで麻酔導入は完了しました。



麻酔導入箱から出たばかりのまろん君ですが、患部腫瘤は右肘から腋下部にまで及んでいます。



患部腫瘤は既に自壊しています。



自壊した患部内は細菌感染も併発しており、蓄膿が確認出来ます。



維持麻酔に切り替えたまろん君です。

生体情報モニターのための電極を装着しています。



患部を剃毛・消毒します。



確実に腫瘍を摘出できるかという点と腫瘍の取り残しがあれば、術後の再発を考慮しなければなりません。

断脚は確実な腫瘍を排除する手術法ですが、飼主様の意向は前肢は温存したいとのことです。

体重は400gを切る小さな体ですから、犬猫のように体腔内への腫瘍の転移・浸潤は詳細に把握できません。

体表リンパ節の腫脹はありませんでした。



可能な限り腫瘍を摘出し、皮膚を如何に形成外科的に復元できるかが問題です。

皮膚をモノポーラで慎重に切開して行きます。



腫瘍は筋肉層まで固着しておらず、バイポーラでスムーズに焼烙・剥離出来ました。















腫瘍の摘出が完了したところです。



ただ皮膚との固着が強く、マージンを出来る限り、腫瘍と共に切除しましたので、広範囲の皮膚欠損を伴う結果となりました。



腫瘍摘出よりも皮膚形成が今回の課題です。

出来る限り、皮膚を筋肉層と鈍性に剥離して、皮膚が縫合時に伸展出来る様にします。





5-0のナイロン糸を用いて皮膚縫合を実施します。





下写真の黄色矢印は、既に縫合するべき皮膚が確保できなくて、欠損したままの状態で開放創として創傷管理していくこととしました。



開放創の部位には肉芽組織の造生を促すためにイサロパン®をつけます。



創傷管理のため、ドレッシング用のスポンジを貼付します。



血行障害を起こさないように緩めにテーピングをします。



これで手術は終了となります。





麻酔を切り、覚醒し始めたまろん君です。

皮下にリンゲル液を輸液します。



爪を切ってます。



まろん君は、高齢ですが、頑張って麻酔にも耐えてくれました。

開放創の創傷管理が重要となります。





摘出した腫瘍です。

全長は3㎝ほどあります。



自壊していた体表(表側)の腫瘍です。



腫瘍の裏側(筋肉層側)です。



検査センターで病理検査を依頼しました。

下写真は高倍率像です。

中等度に異型性を示す類円形・紡錘形細胞(腫瘍細胞)から腫瘤は形成されています。

腫瘍細胞間には好酸球が浸潤しています。



さらに油浸レンズによる高倍率の病理像です。

細胞質に豊富な顆粒を持つ肥満細胞(下写真黄色丸)が認められます。



病理学的検査結果は低分化度の肥満細胞腫でした。

近傍リンパ節や遠隔臓器への転移を経過観察していく必要があります。

まろん君の術後の経過は良好です。





術後3週目に抜糸のため、来院されたまろん君です。

軽い鎮静をかけて抜糸しました。



縫合した皮膚は良好に癒合し、開放創にした部位も肉芽組織がシートして皮膚に分化していました。

ひとまず、手術は無事終了出来て良かったです。



犬の肥満細胞腫のように遺伝子の変異型(c-KIT遺伝子検査)の存在や分子標的薬(イマチニブやトセラニブ)の効果の有無など不明な点がまだ多いとされています。

腫瘍が非常に多いヨツユビハリネズミにおいても、肥満細胞腫はまだ発症例も散発的であり、日本国内においても、日常的な遭遇率は低いと思われます。

今後も臨床の現場から飼主の皆様に情報を発信できればと思います。



まろん君、お疲れ様でした。








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