猫の疾病
猫の尿石症(ストルバイト尿石症)
冬によく発症する猫の疾患に尿石症があります。
今年の冬も「おしっこが出なくてお腹が張ってきて苦しんでいます!」と来院される猫が多かったです。
尿石症とは文字通り、腎臓・尿管・膀胱・尿道に結晶・砂粒・石ができる疾患です。
その結果、排尿障害に陥り、改善されなければ尿毒症・急性腎不全に至って死亡するケースもあり、注意を要する緊急疾患であることを認識して下さい。
本日はこの猫・尿石症のご紹介です。
アメリカンショートヘアのデュオ君(4歳、去勢済)はトイレとは違う場所に排尿をするとの主訴で来院されました。
猫は泌尿器に疾患があるとこのような行動を取ることが多いです。
さらに排尿傷害を伴うとトイレに入ったまま、いつまでも唸っていたり、ポトポトと切れの悪い排尿をしたりします。
デュオ君の下腹部を触診しますと既に膀胱が腫脹しています。
恐らく排尿障害が起こっているようです。
軽く下腹部を圧迫しますと苦しそうな表情をしており、排尿は自力では難しそうです。
尿石症の可能性大とみなして、尿道に尿カテーテル(下写真黄色矢印)を挿入しました。
尿カテーテル挿入時に尿石の存在を感じ、カテーテルと尿道壁と尿石との干渉感はそのままに、何とか尿カテーテルを挿入しました。
その結果、カテーテルからボトボトと尿が出てきました。
膿盆内の尿を良く見ますと非常に細かな砂粒が沈殿しているのが分かります。
尿を試験紙で検査したところ、pHは8で、潜血反応は強陽性でした。
この砂粒を顕微鏡でみた画像が下写真です。
まず低倍写真です。
細かな結晶が多量に尿中に蓄積しています。
拡大像です。
さらに拡大すると
これは猫の尿石症では、一般的なストルバイト尿石(リン酸アンモニウムマグネシウム尿石)です。
生成の原因としては、尿中のマグネシウムやアンモニウム・リン酸塩の濃度上昇、マグネシウムの過剰摂取、水分の摂取量減少とされてます。
猫の正常尿は弱酸性のpH6~6.5ですが、このストラバイトはアルカリ尿でできやすいとされます。
ストルバイト結晶がガラスの破片のように尿の波動と共に膀胱粘膜傷をつけていきます。
結果、膀胱粘膜からの出血を生じ排尿痛、尿失禁、排尿困難に至ります。
ストルバイト結晶が合体して大きくなると膀胱結石となり、外科的に摘出する必要が生じます。
ちなみに下写真は、別件の患者様から摘出したストルバイト尿石です。
デュオ君は治療として、尿カテーテルから生理食塩水をフラッシュして膀胱内を洗浄しました。
膀胱洗浄を何回か繰り返して、スムーズに排尿できるのを確認しました。
尿石症の治療には、まず尿石の溶解が必要です。
ヒルズのs/dで尿石を溶かしc/dで維持し、再発を防ぎます。
ウォルサムからはpHコントロール、スペシフィックからはFSW等のラインナップがあります。
いづれにせよ、猫は嗜好性に偏りがあったりしますから、上記の療法食で食べてくれるものを与えて下さい。
あとは、水をたくさん飲ませて排尿させることです。
濃い尿は尿石が形成されやすい点、細かな砂粒状の尿石であれば排尿と同時に体外へ排出される点から飲水が推奨されます。
今回のデュオ君は膀胱炎を起こして血尿もありましたので、抗生剤・止血剤を処方しました。
今後、デュオ君は療法食を継続していく必要があります。
おやつもダメですし、療法食に一般食を混ぜたりもダメです。
食餌管理で再発防止することが大切です。
デュオ君、しっかり治していきましょう!
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投稿者 院長 | 記事URL
猫の変形性関節症
ペットの高齢化が話題になってから久しいですね。
ヒトでも高齢化に伴い、関節症対策としてのグルコサミンやコンドロイチン硫酸のサプリメントがCMで流れたりします。
犬猫の世界でも関節症になるケースは年々増えています。
本日は、猫の関節症についてコメントさせて頂きます。
雑種猫のボブ君(15歳、雄)は最近、動きが鈍くなり高い所へ行きたがらなくなったと来院されました。
特に後足の動きが悪いとのことで、触診をしましたところ膝の関節が大きく腫れているのが分かりました。
試験的にボブ君に歩行をしてもらいました。
動画で載せることが出来ればよいのですが、非常にぎこちない後足をかばうような歩行です。
レントゲン写真を撮りました。
仰臥姿勢です。
膝関節の部分を拡大します。
異常な部位を黄色丸で囲みます。
次に側臥姿勢です。
拡大写真です。
同じく異常部位を黄色丸で囲みます。
ボブ君の膝関節は既に変形が始まっています。
関節軟骨がすり減って変形が生じ、硬くなって石灰化し、関節が正常に稼働しなくなっています。
加えて骨棘(こつきょく)と言われる骨のトゲが何ヶ所も形成されています。
骨棘は、同じ個所が何回も繰り返し炎症を起こして、部分的に骨が過剰に増殖して形成されます。
これらの変形骨が神経を刺激したり、関節周辺に炎症を引き起こし、慢性的疼痛が生じます。
この症状を称して変形性関節症と呼びます。
そもそもこの変形性関節炎は何が原因で生じるのでしょうか?
12歳以上の中高齢の猫に認められる点から、年齢によるところが大きいようです。
加齢による筋力低下から、関節に加わる負荷が大きくなり、関節軟骨が摩耗して発症するそうです。
その一方で、若齢猫でも認められるケースもあるそうで、遺伝の可能性も示唆されてます。
体質的に肥満猫も発症しやすようです。
変形性関節症は慢性的に症状が進行していく疾患です。
変性した関節を元の様に回復させることは困難です。
治療の柱は、疼痛を和らげることです。
そのために非ステロイド系の消炎剤を投与したり、グルコサミンやコンドロイチン硫酸を含んだ猫用のサプリメントも有効とされます。
同じ関節症でも犬の場合は、症状として表だって分かりやすいのですが、猫は基本的に症状を隠します。
痛くても無理をして平静を装う猫は多いようです。
実際、猫の変形性関節症の場合、足の引きずりがあまりなく飼い主が気づかずに何年も経過してしまう事が多いようです。
そのため、シニア世代(7,8歳以降)になったら定期検診を受けてレントゲン撮影をして下さい。
加えて以下の仕草がないか良く見ておいて下さい。
1:おもちゃで遊ばなくなった。
2:動かなくなった。
3:高い所にジャンプしなくなった。
4:上下運動する高さが以前より低くなった。
5:起き上がる時の動作がゆっくりになった。
以上から一つでも該当するものがあったら、最寄りの動物病院を受診して下さい。
ボブ君、これからは疼痛管理でしっかり歩行できるよう治療していきましょう!
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