猫の疾病
猫の直腸脱(その2 下行結腸固定術)
こんにちは 院長の伊藤です。
先回、ご紹介しました猫の直腸脱(その1 注射筒を用いた整復術)の続編です。
その詳細について興味のある方は、こちらをクリックして下さい。
仔猫のティーちゃん(雑種 約80日齢 雌)は下痢が昂じて、渋り腹が続き、直腸脱になりました。
脱出した直腸を注射筒を使用して整復したのですが、残念ながら処置後1週間で縫合部が破たんして、再脱出してしまいました。
非観血的整復法では、腹圧が高くて限界を感じました。
脱出している直腸が浮腫や炎症が進行して壊死を起こしているような場合なら、直腸の切断術を実施します。
幸いなことにティーちゃんの脱出直腸は正常であるため、回復した上で直腸を腹腔内に引き戻して、再脱出しないように腹壁に縫い付けるという下行結腸固定手術です。
犬の会陰ヘルニアの整復手術でよく私が好んで行う術式です。
今回はその手術のご紹介です。
直腸の再脱出で疼痛に耐えているティーちゃんです。
注射筒と外肛門括約筋に縫合した糸が固定破たん後で残っています(黄色丸)。
麻酔の前投薬を静脈から注入します。
鎮静が効いて来たところで脱出直腸を洗浄します。
気管挿管して維持麻酔を実施します。
患部を剃毛消毒して、これから開腹手術を始めます。
下写真の黄色矢印が下行結腸を示します。
この下行結腸を優しく頭側(黄色矢印方向)へ牽引します。
下写真は見ずらいのですが、結腸を頭側へ牽引しているときに肛門側から脱出している直腸が、腹腔内へ完納していく様を撮影しました。
少しづつ直腸が戻っていくのが分かると思います。
直腸内の糞便が顔を出しています。
下写真では完全に直腸は完納しました。
赤矢印は糞便です。
次に下行結腸を縫い付ける左腹壁(下写真黄色丸)をメスで切開します。
下写真のポジションで結腸を腹壁に縫合します。
腹壁の筋膜と結腸の漿膜・筋層を縫合糸(PDSⅡ)で縫合します。
結腸の漿膜(最外側面)だけ縫合糸で拾うと固定が緩んでしまうため、結腸の筋層(真中の層)まで針を通します。
ここで結腸の粘膜(便が通過する時接触する内膜の層)を針で貫通すると腹膜炎を起こす場合があるため注意が必要です。
5か所ほど縫合して、固定が確実に出来ているのを確認します。
これで結腸固定手術は完了です。
あとはティーちゃんが気持ちよく排便できるかを経過観察します。
手術終了直後の肛門です。
脱出直腸が元に戻っているのがお分かり頂けると思います。
麻酔から覚醒したばかりのティーちゃんです。
術後の経過も良く、術後3日目にしてしっかり排便出来るようになりました。
術後5日目で退院出来ました。
術後2週間で抜糸のために来院したティーちゃんです。
退院後も排便は順調で、排便時の渋り腹も無くなったとのことです。
下写真の様にお尻周りも綺麗になっています。
下写真黄色丸が直腸脱が完納した肛門です。
度重なる直腸脱で肛門周囲は出血が伴ったり、排便も思うに任せず、辛い思いを強いられていたティーちゃんでしたが無事完治して良かったです。
ティーちゃん、お疲れ様でした!
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先回、ご紹介しました猫の直腸脱(その1 注射筒を用いた整復術)の続編です。
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仔猫のティーちゃん(雑種 約80日齢 雌)は下痢が昂じて、渋り腹が続き、直腸脱になりました。
脱出した直腸を注射筒を使用して整復したのですが、残念ながら処置後1週間で縫合部が破たんして、再脱出してしまいました。
非観血的整復法では、腹圧が高くて限界を感じました。
脱出している直腸が浮腫や炎症が進行して壊死を起こしているような場合なら、直腸の切断術を実施します。
幸いなことにティーちゃんの脱出直腸は正常であるため、回復した上で直腸を腹腔内に引き戻して、再脱出しないように腹壁に縫い付けるという下行結腸固定手術です。
犬の会陰ヘルニアの整復手術でよく私が好んで行う術式です。
今回はその手術のご紹介です。
直腸の再脱出で疼痛に耐えているティーちゃんです。
注射筒と外肛門括約筋に縫合した糸が固定破たん後で残っています(黄色丸)。
麻酔の前投薬を静脈から注入します。
鎮静が効いて来たところで脱出直腸を洗浄します。
気管挿管して維持麻酔を実施します。
患部を剃毛消毒して、これから開腹手術を始めます。
下写真の黄色矢印が下行結腸を示します。
この下行結腸を優しく頭側(黄色矢印方向)へ牽引します。
下写真は見ずらいのですが、結腸を頭側へ牽引しているときに肛門側から脱出している直腸が、腹腔内へ完納していく様を撮影しました。
少しづつ直腸が戻っていくのが分かると思います。
直腸内の糞便が顔を出しています。
下写真では完全に直腸は完納しました。
赤矢印は糞便です。
次に下行結腸を縫い付ける左腹壁(下写真黄色丸)をメスで切開します。
下写真のポジションで結腸を腹壁に縫合します。
腹壁の筋膜と結腸の漿膜・筋層を縫合糸(PDSⅡ)で縫合します。
結腸の漿膜(最外側面)だけ縫合糸で拾うと固定が緩んでしまうため、結腸の筋層(真中の層)まで針を通します。
ここで結腸の粘膜(便が通過する時接触する内膜の層)を針で貫通すると腹膜炎を起こす場合があるため注意が必要です。
5か所ほど縫合して、固定が確実に出来ているのを確認します。
これで結腸固定手術は完了です。
あとはティーちゃんが気持ちよく排便できるかを経過観察します。
手術終了直後の肛門です。
脱出直腸が元に戻っているのがお分かり頂けると思います。
麻酔から覚醒したばかりのティーちゃんです。
術後の経過も良く、術後3日目にしてしっかり排便出来るようになりました。
術後5日目で退院出来ました。
術後2週間で抜糸のために来院したティーちゃんです。
退院後も排便は順調で、排便時の渋り腹も無くなったとのことです。
下写真の様にお尻周りも綺麗になっています。
下写真黄色丸が直腸脱が完納した肛門です。
度重なる直腸脱で肛門周囲は出血が伴ったり、排便も思うに任せず、辛い思いを強いられていたティーちゃんでしたが無事完治して良かったです。
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投稿者 院長 | 記事URL
猫の直腸脱(その1 注射筒を用いた整復法)
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、仔猫の直腸脱です。
直腸脱は慢性的なしぶりや頻回の排便排尿行動による怒責の結果として発症します。
しぶりの原因として幼若動物の消化管内寄生虫感染、重度の下痢、膀胱炎などが挙げられます。
猫のティーちゃん(雑種、約80日齢、雌)は直腸が飛び出しているとのことで来院されました。
下写真の黄色丸は肛門から脱出している直腸です。
お腹に力を常時入れており、疼痛が酷いのが分かります。
脱出した直腸をしっかり洗浄消毒します。
脱出している時間が長い程に直腸が浮腫を起こします。
浸透圧を利用して、患部にブドウ糖液を滴下して浮腫を改善させます。
直腸の滑りを円滑にするためにオイルを塗布します。
脱出直腸を肛門内に完納させるために用手で押し込んでいきます。
何とか戻すことが出来ましたが、ティーちゃんはすぐに腹圧をかけてしぶり始めます。
直腸脱の非観血的治療法としては、巾着縫合法といって肛門周囲を縫合糸で縫い込んで絞り込んで、直腸の脱出をブロックする方法を採ります。
しかしながら、肛門周囲巾着縫合法では脱出を防ぎきれないくらいの腹圧なので、注射筒を利用した整復法を実施することとしました。
ティーちゃんはまだ3か月齢に達していない仔猫なので、短めに注射筒をカットして手元の翼の部位に縫合用の穴を数か所開けます。
患部にカットした注射筒を挿入して、縫合していきます。
直腸を押し出す力が非常に強いため直径の異なる2本の注射筒を装着することとしました。
合計8か所を縫合して脱出直腸を完納しました。
このまま、この状態で1週間放置します。
1週間後に注射筒をはずして再脱出がなければ治療は終了です。
ティーちゃんは慢性的な下痢をしており、検便したところ壺形吸虫の高度感染が認められました(下顕微鏡写真)。
下は壺形吸虫の高倍率写真です。
壺形吸虫はカエルやヘビを中間宿主とする寄生虫です。
ティーちゃんは野良猫であったため、野生の生活をしていた可能性が高いです。
恐らくは両生類や爬虫類を摂食していたと思われます。
ティーちゃんには駆虫薬を飲んで寄生虫を駆除してもらうこととしました。
残念ながら、ティーちゃんは1週間目にして注射筒の縫合部が破壊され、直腸は再脱出してしまいました。
もはや、非観血的整復法では直腸脱は治せないと判明しましたので、最終処置として開腹して下行結腸を腹壁に縫合して整復する方法を採ることとなりました。
この手術については、次回載せます。
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本日ご紹介しますのは、仔猫の直腸脱です。
直腸脱は慢性的なしぶりや頻回の排便排尿行動による怒責の結果として発症します。
しぶりの原因として幼若動物の消化管内寄生虫感染、重度の下痢、膀胱炎などが挙げられます。
猫のティーちゃん(雑種、約80日齢、雌)は直腸が飛び出しているとのことで来院されました。
下写真の黄色丸は肛門から脱出している直腸です。
お腹に力を常時入れており、疼痛が酷いのが分かります。
脱出した直腸をしっかり洗浄消毒します。
脱出している時間が長い程に直腸が浮腫を起こします。
浸透圧を利用して、患部にブドウ糖液を滴下して浮腫を改善させます。
直腸の滑りを円滑にするためにオイルを塗布します。
脱出直腸を肛門内に完納させるために用手で押し込んでいきます。
何とか戻すことが出来ましたが、ティーちゃんはすぐに腹圧をかけてしぶり始めます。
直腸脱の非観血的治療法としては、巾着縫合法といって肛門周囲を縫合糸で縫い込んで絞り込んで、直腸の脱出をブロックする方法を採ります。
しかしながら、肛門周囲巾着縫合法では脱出を防ぎきれないくらいの腹圧なので、注射筒を利用した整復法を実施することとしました。
ティーちゃんはまだ3か月齢に達していない仔猫なので、短めに注射筒をカットして手元の翼の部位に縫合用の穴を数か所開けます。
患部にカットした注射筒を挿入して、縫合していきます。
直腸を押し出す力が非常に強いため直径の異なる2本の注射筒を装着することとしました。
合計8か所を縫合して脱出直腸を完納しました。
このまま、この状態で1週間放置します。
1週間後に注射筒をはずして再脱出がなければ治療は終了です。
ティーちゃんは慢性的な下痢をしており、検便したところ壺形吸虫の高度感染が認められました(下顕微鏡写真)。
下は壺形吸虫の高倍率写真です。
壺形吸虫はカエルやヘビを中間宿主とする寄生虫です。
ティーちゃんは野良猫であったため、野生の生活をしていた可能性が高いです。
恐らくは両生類や爬虫類を摂食していたと思われます。
ティーちゃんには駆虫薬を飲んで寄生虫を駆除してもらうこととしました。
残念ながら、ティーちゃんは1週間目にして注射筒の縫合部が破壊され、直腸は再脱出してしまいました。
もはや、非観血的整復法では直腸脱は治せないと判明しましたので、最終処置として開腹して下行結腸を腹壁に縫合して整復する方法を採ることとなりました。
この手術については、次回載せます。
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