アーカイブシリーズ
2024年3月 8日 金曜日
乳腺腫瘍とレーザーメス
こんにちは 院長の伊藤です。
犬は乳房が左右で10個あります。
これらの乳房はリンパ管でつながっています。
第1から第3乳房は腋の下にある腋窩リンパ節へ続いています。
第4,5乳房は浅鼠リンパ節へつながっています。
なんでこんな話をするかというと、乳腺腫瘍(乳がん)の話です。
ヒトの場合と異なり、犬では乳房がこんなにたくさんあり、加えてそれぞれが連結しています。
乳腺腫瘍が発生した場合、1つだけ乳房を切除して再発も無く完了とはいきません。
状況によっては乳房を全部摘出しなくてはならないこともあるわけです。
この手術の大変な点は、乳腺が血管に富んだ組織であり、切除に当たってはそれなりの出血を覚悟しなければなりません。
加えて、乳房を切除した後に欠損した皮膚を引っ張って、縫合しなければならないのもこの手術の大変な点です。
私は大学は外科出身ですが、出血は嫌いです。
出血を極力抑えて、創傷部を綺麗に仕上げたいと思っています。
今回は半導体レーザーメスを使用して手術に臨みました。
メスの切り口としては硬性メス(普通のメス)が一番組織の修復はきれいです。
一方、血管はズバッと切ってしまいますので出血は避けられません。
従来、私は電気メスを使用していましたが、組織修復という点では半導体レーザーメスには及びません。
毛細血管含めてある程度の太い静脈をレーザーで切断・止血も同時に可能です。
今回、手術を受けるのはフレンチブルドッグの雅(みやび)ちゃんです。
右側第2乳房に腫瘍を認め、早期に摘出となりました。
雅ちゃんは右側第3乳房が生まれつきなく、部分乳腺切除術として第1,2乳房をまとめて切除します。
実際使用してみて、出血量は思いのほか少なく、使用したガーゼは何と2枚で済みました。
切れ味も鮮やかできれいな仕上がりになったと思います。
半導体レーザーがヒトの美容整形で活用されるのもうなずけます。
フレンチブルドックは胸が厚く、いわゆるハト胸ですからこの欠損した皮膚を上手に縫い合わせるのがひと苦労です。
術後の経過も良く、抜糸も予定通りできそうです。
犬は乳房が左右で10個あります。
これらの乳房はリンパ管でつながっています。
第1から第3乳房は腋の下にある腋窩リンパ節へ続いています。
第4,5乳房は浅鼠リンパ節へつながっています。
なんでこんな話をするかというと、乳腺腫瘍(乳がん)の話です。
ヒトの場合と異なり、犬では乳房がこんなにたくさんあり、加えてそれぞれが連結しています。
乳腺腫瘍が発生した場合、1つだけ乳房を切除して再発も無く完了とはいきません。
状況によっては乳房を全部摘出しなくてはならないこともあるわけです。
この手術の大変な点は、乳腺が血管に富んだ組織であり、切除に当たってはそれなりの出血を覚悟しなければなりません。
加えて、乳房を切除した後に欠損した皮膚を引っ張って、縫合しなければならないのもこの手術の大変な点です。
私は大学は外科出身ですが、出血は嫌いです。
出血を極力抑えて、創傷部を綺麗に仕上げたいと思っています。
今回は半導体レーザーメスを使用して手術に臨みました。
メスの切り口としては硬性メス(普通のメス)が一番組織の修復はきれいです。
一方、血管はズバッと切ってしまいますので出血は避けられません。
従来、私は電気メスを使用していましたが、組織修復という点では半導体レーザーメスには及びません。
毛細血管含めてある程度の太い静脈をレーザーで切断・止血も同時に可能です。
今回、手術を受けるのはフレンチブルドッグの雅(みやび)ちゃんです。
右側第2乳房に腫瘍を認め、早期に摘出となりました。
雅ちゃんは右側第3乳房が生まれつきなく、部分乳腺切除術として第1,2乳房をまとめて切除します。
実際使用してみて、出血量は思いのほか少なく、使用したガーゼは何と2枚で済みました。
切れ味も鮮やかできれいな仕上がりになったと思います。
半導体レーザーがヒトの美容整形で活用されるのもうなずけます。
フレンチブルドックは胸が厚く、いわゆるハト胸ですからこの欠損した皮膚を上手に縫い合わせるのがひと苦労です。
術後の経過も良く、抜糸も予定通りできそうです。
投稿者 もねペットクリニック | 記事URL
2024年3月 6日 水曜日
チンチラの腸重積
こんにちは 院長の伊藤です。
本日、ご紹介しますのはチンチラの腸重積の症例です。
チンチラの場合、下痢や便秘によるしぶり(いきみ)が原因で腸重積や直腸脱が発症します。
腸重積とは、腸管の一部が連続する腸管の肛門側に引き込まれてしまうことによって生じる病気です。
例えとして、釣竿を折りたたむような感じで腸が腸に入り込むような感じと言えば、イメージして頂けるでしょうか?
進行すると腸管の血行不全で壊死を来します。
腸重積は緊急手術が必要になることも多いです。
腸が壊死していれば切除後、腸管吻合が必要となり、予後不良となることもある怖い疾患です。
チンチラのぐりちゃん(雌、10か月齢、体重490g)はお尻から腸が出ているとのことで受診されました。
下写真黄色丸は直腸が脱出しているのを示します。
拡大像です。
直腸が脱出して、充うっ血しており痛々しい感じです。
レントゲン撮影を実施しました。
盲腸にガスの貯留が認められます。
おそらく腸蠕動の障害があるように思われます。
単純な直腸脱ならば、整復処置を施し肛門に支持糸をかけて経過観察となります。
しかし、腸重積の場合は開腹手術となりますので、まずは綿棒を用いて腸重積の確認をします。
下写真のように綿棒を2本やさしく肛門と脱出してる直腸の間隙に挿入します。
約2㎝ほど綿棒は、この間隙に容易に入りました(下写真黄色矢印)。
直腸脱の場合は、この間隙は形成されませんので、腸重積の疑いが強いです。
腸重積の場合、緊急手術が必要となります。
飼い主様の了解を得て、早速開腹手術に移ることとなりました。
イソフルランによる麻酔導入を行います。
維持麻酔に切り替え、患部の剃毛処置を実施します。
ぐりちゃんの麻酔が安定してきたところで、手術のスタートです。
開腹手術に移ります。
腹筋を切開します。
膀胱は蓄尿が著しいため、膀胱穿刺して尿を吸引します。
ピンセットで確認しているのは、ぐりちゃんの子宮です。
直腸へ綿棒を挿入して、開腹した腹腔内の腸の動きを観察します。
触診すると硬くなって、動きが認められない小腸の部位がありました。
指先ではこの部位だけ太く、周囲からの血管も怒張しているのが分かります(下写真)。
下写真青丸は盲腸です。
黄色矢印は空回腸の盲腸へと移行する部位です。
この部位が腫脹し、触診で硬く感じられます。
この部位が腸重積を起こしている可能性があり、綿棒で持ち上げて周囲の余分な組織を分画していきます。
患部を脂肪組織が取り巻いているため、丁寧に切除します。
脂肪組織などを取り除いていくと赤く腫れた空回腸が現れました。
下写真の黄色丸は釣竿を折りたたむようにして、腸の中に腸が入り込んでいます。
患部を上方に牽引すると重責部が明らかになりました。
重責部を優しく、さらに牽引してみます。
重責部を伸展すると血行不良で充うっ血が確認できます(黄色矢印)。
患部(下写真黄色丸)は壊死が進行しているようです。
下写真の充うっ血色の部位を切除して、正常な腸管を吻合することとします。
切除する上流の腸に支持糸を掛けます。
外科鋏で壊死している腸管を切除します。
次いで、離断した腸管の断面同志を端・端並置縫合します。
縫合に使用する縫合糸は5-0のモノフィラメント合成吸収糸です。
チンチラの腸管内腔は、せいぜい3㎜程度なので縫合には細心の注意を払います。
腸管の全周を6か所縫合しました。
腸管縫合終了です。
支持糸を外して、患部を生理食塩水で洗浄します。
腹筋を縫合しています。
最後に皮膚縫合をして手術は終了です。
全身麻酔から覚醒したばかりのぐりちゃんです。
手術後、ICUの部屋に入ってもらいましたが、辛そうです。
今回、切除した小腸を調べてみました。
うっ血して腫脹しています。
断端を綿棒で抑えて、ピンセットで反対方向へ腸を牽引します。
腸管内に入り込んだ腸がズルズルと出て来ます。
腸が入り組んでいた箇所(下写真黄色矢印)が重責を起こしていた部位となります。
重責部は壊死を起こしていました。
術後翌日のぐりちゃんです。
食欲は少しづつ出てきて、青汁を自ら飲み始めました。
チモシーのような乾草を給餌すると縫合部に負荷を極端にかけますので、しばらくは青汁や強制給餌用のライフケア®などで給餌します。
運動性も出て来ましたので1週間入院の後、ぐりちゃんには退院して頂きました。
肛門から出ていた腸も無事納まりました。
腸重積は、直腸脱と誤認されるとその治療のため何日も経過してから、あわてて実は腸重責であったと気づいた時には、もう手遅れになっていることが多いです。
チンチラは小さな体の繊細な動物なので、長時間に及ぶ疼痛やストレスには耐えられません。
肛門から腸が飛び出していたら、早急に受診されることをお勧めします。
ぐりちゃん、お疲れ様でした!
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本日、ご紹介しますのはチンチラの腸重積の症例です。
チンチラの場合、下痢や便秘によるしぶり(いきみ)が原因で腸重積や直腸脱が発症します。
腸重積とは、腸管の一部が連続する腸管の肛門側に引き込まれてしまうことによって生じる病気です。
例えとして、釣竿を折りたたむような感じで腸が腸に入り込むような感じと言えば、イメージして頂けるでしょうか?
進行すると腸管の血行不全で壊死を来します。
腸重積は緊急手術が必要になることも多いです。
腸が壊死していれば切除後、腸管吻合が必要となり、予後不良となることもある怖い疾患です。
チンチラのぐりちゃん(雌、10か月齢、体重490g)はお尻から腸が出ているとのことで受診されました。
下写真黄色丸は直腸が脱出しているのを示します。
拡大像です。
直腸が脱出して、充うっ血しており痛々しい感じです。
レントゲン撮影を実施しました。
盲腸にガスの貯留が認められます。
おそらく腸蠕動の障害があるように思われます。
単純な直腸脱ならば、整復処置を施し肛門に支持糸をかけて経過観察となります。
しかし、腸重積の場合は開腹手術となりますので、まずは綿棒を用いて腸重積の確認をします。
下写真のように綿棒を2本やさしく肛門と脱出してる直腸の間隙に挿入します。
約2㎝ほど綿棒は、この間隙に容易に入りました(下写真黄色矢印)。
直腸脱の場合は、この間隙は形成されませんので、腸重積の疑いが強いです。
腸重積の場合、緊急手術が必要となります。
飼い主様の了解を得て、早速開腹手術に移ることとなりました。
イソフルランによる麻酔導入を行います。
維持麻酔に切り替え、患部の剃毛処置を実施します。
ぐりちゃんの麻酔が安定してきたところで、手術のスタートです。
開腹手術に移ります。
腹筋を切開します。
膀胱は蓄尿が著しいため、膀胱穿刺して尿を吸引します。
ピンセットで確認しているのは、ぐりちゃんの子宮です。
直腸へ綿棒を挿入して、開腹した腹腔内の腸の動きを観察します。
触診すると硬くなって、動きが認められない小腸の部位がありました。
指先ではこの部位だけ太く、周囲からの血管も怒張しているのが分かります(下写真)。
下写真青丸は盲腸です。
黄色矢印は空回腸の盲腸へと移行する部位です。
この部位が腫脹し、触診で硬く感じられます。
この部位が腸重積を起こしている可能性があり、綿棒で持ち上げて周囲の余分な組織を分画していきます。
患部を脂肪組織が取り巻いているため、丁寧に切除します。
脂肪組織などを取り除いていくと赤く腫れた空回腸が現れました。
下写真の黄色丸は釣竿を折りたたむようにして、腸の中に腸が入り込んでいます。
患部を上方に牽引すると重責部が明らかになりました。
重責部を優しく、さらに牽引してみます。
重責部を伸展すると血行不良で充うっ血が確認できます(黄色矢印)。
患部(下写真黄色丸)は壊死が進行しているようです。
下写真の充うっ血色の部位を切除して、正常な腸管を吻合することとします。
切除する上流の腸に支持糸を掛けます。
外科鋏で壊死している腸管を切除します。
次いで、離断した腸管の断面同志を端・端並置縫合します。
縫合に使用する縫合糸は5-0のモノフィラメント合成吸収糸です。
チンチラの腸管内腔は、せいぜい3㎜程度なので縫合には細心の注意を払います。
腸管の全周を6か所縫合しました。
腸管縫合終了です。
支持糸を外して、患部を生理食塩水で洗浄します。
腹筋を縫合しています。
最後に皮膚縫合をして手術は終了です。
全身麻酔から覚醒したばかりのぐりちゃんです。
手術後、ICUの部屋に入ってもらいましたが、辛そうです。
今回、切除した小腸を調べてみました。
うっ血して腫脹しています。
断端を綿棒で抑えて、ピンセットで反対方向へ腸を牽引します。
腸管内に入り込んだ腸がズルズルと出て来ます。
腸が入り組んでいた箇所(下写真黄色矢印)が重責を起こしていた部位となります。
重責部は壊死を起こしていました。
術後翌日のぐりちゃんです。
食欲は少しづつ出てきて、青汁を自ら飲み始めました。
チモシーのような乾草を給餌すると縫合部に負荷を極端にかけますので、しばらくは青汁や強制給餌用のライフケア®などで給餌します。
運動性も出て来ましたので1週間入院の後、ぐりちゃんには退院して頂きました。
肛門から出ていた腸も無事納まりました。
腸重積は、直腸脱と誤認されるとその治療のため何日も経過してから、あわてて実は腸重責であったと気づいた時には、もう手遅れになっていることが多いです。
チンチラは小さな体の繊細な動物なので、長時間に及ぶ疼痛やストレスには耐えられません。
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2024年3月 4日 月曜日
チンチラの鼻腔外傷と食滞
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、チンチラの鼻を咬傷の傷で呼吸不全となり、結果食滞(消化管内ガス貯留)となった症例です。
チンチラのオレオ君(2歳、雄、体重500g)は一週間ほど前に同居している他のチンチラに鼻を咬まれ、鼻腔内から膿が出始めたとのことで来院されました。
下写真の黄色丸は咬まれた鼻です。
鼻腔内からジワジワと膿が出ています。
鼻の正面(鼻鏡)は鼻汁と痂皮(かさぶた)で鼻は詰まり気味です。
チンチラに限らずウサギ、モルモットたちは鼻呼吸が基本の齧歯目の動物です。
何らかの原因で鼻呼吸が出来なくなると重篤な症状になります。
オレオ君は鼻呼吸が満足に出来ないため、口呼吸をするようになっています。
いわゆる開口呼吸になりますと、肺に行くよりも食道を介して胃の方に回る空気が多くなります。
結果として消化管は空気で鼓張し、胃腸蠕動は停滞し、食欲廃絶となり全身状態は不良となります。
オレオ君の全体像ですが、下写真をご覧いただけると腹が誇張しているのがお分かり頂けると思います。
上から見た写真です。
腹囲が腫れています。
食欲は既に無くなっており、被毛の艶はなくなり、所どころに脱毛があります。
レントゲン撮影を実施しました。
下写真で胃・盲腸にガスが停留しているのが分かります。
上写真の拡大像です。
食餌の内容物は殆どなく、食滞・鼓張状態です。
側臥状態のレントゲン像です。
盲腸にガスが多量に貯留しており、背骨を超えて鼓張しています。
鼻周辺の組織は、鼻骨の障害(融解)はありませんが、咬傷による組織炎症が進行しているのが分かります(黄色丸)。
オレオ君の一番の問題はこのガスを早急に抜くことです。
ウサギのように鼻腔がある程度の直径があれば、栄養カテーテルを経鼻胃カテーテルとして、鼻に挿入します。
そのままカテーテルを胃まで到達させ、胃内のガスを抜去する方法(減圧法)も考えられます。
しかしながら、チンチラは極めて鼻腔が狭いことに加えて、オレオ君の鼻腔は外傷で狭窄してるため、カテーテルの挿入は困難です。
そうなると直接胃へカテーテルを入れる方法が考えられます。
オレオ君の全身状態はよろしくなく、鼻呼吸が殆ど出来ていない状態です。
この状態で開口姿勢を維持して、胃へカテーテルを入れると呼吸停止に陥る可能性が大きいです。
また盲腸から下部のガス貯留については、開腹して腸切開してのガス抜きも困難です。
ましてや、皮膚から針を穿刺して腸管からガスを抜去するという処置は、ショック死する危険を伴います。
結局のところ、消泡剤・胃腸蠕動亢進薬・抗生剤・鎮痛剤の組み合わせで投薬して経過を診ていくこととしました。
残念ながら、オレオ君は受診当日に亡くなられました。
チンチラは細菌感染にウサギ以上に弱いこと、鼻腔の炎症や歯の疾患などで鼻呼吸が出来なくなると容態は急変することをご理解下さい。
特に草食獣は肺が小さく、呼吸不全になりやすいです。
鼻呼吸が出来なくなれば、開口呼吸に移行するのは時間の問題で、簡単に食滞・鼓張症に陥ります。
一旦、食滞・鼓張症になると回復させるには大変な努力が必要となります。
鼻呼吸がスムーズに出来ていないと感じたら、速やかに受診して下さい。
チンチラの病態の進行は非常に早く、犬猫の比ではないことをご了解下さい。
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本日ご紹介しますのは、チンチラの鼻を咬傷の傷で呼吸不全となり、結果食滞(消化管内ガス貯留)となった症例です。
チンチラのオレオ君(2歳、雄、体重500g)は一週間ほど前に同居している他のチンチラに鼻を咬まれ、鼻腔内から膿が出始めたとのことで来院されました。
下写真の黄色丸は咬まれた鼻です。
鼻腔内からジワジワと膿が出ています。
鼻の正面(鼻鏡)は鼻汁と痂皮(かさぶた)で鼻は詰まり気味です。
チンチラに限らずウサギ、モルモットたちは鼻呼吸が基本の齧歯目の動物です。
何らかの原因で鼻呼吸が出来なくなると重篤な症状になります。
オレオ君は鼻呼吸が満足に出来ないため、口呼吸をするようになっています。
いわゆる開口呼吸になりますと、肺に行くよりも食道を介して胃の方に回る空気が多くなります。
結果として消化管は空気で鼓張し、胃腸蠕動は停滞し、食欲廃絶となり全身状態は不良となります。
オレオ君の全体像ですが、下写真をご覧いただけると腹が誇張しているのがお分かり頂けると思います。
上から見た写真です。
腹囲が腫れています。
食欲は既に無くなっており、被毛の艶はなくなり、所どころに脱毛があります。
レントゲン撮影を実施しました。
下写真で胃・盲腸にガスが停留しているのが分かります。
上写真の拡大像です。
食餌の内容物は殆どなく、食滞・鼓張状態です。
側臥状態のレントゲン像です。
盲腸にガスが多量に貯留しており、背骨を超えて鼓張しています。
鼻周辺の組織は、鼻骨の障害(融解)はありませんが、咬傷による組織炎症が進行しているのが分かります(黄色丸)。
オレオ君の一番の問題はこのガスを早急に抜くことです。
ウサギのように鼻腔がある程度の直径があれば、栄養カテーテルを経鼻胃カテーテルとして、鼻に挿入します。
そのままカテーテルを胃まで到達させ、胃内のガスを抜去する方法(減圧法)も考えられます。
しかしながら、チンチラは極めて鼻腔が狭いことに加えて、オレオ君の鼻腔は外傷で狭窄してるため、カテーテルの挿入は困難です。
そうなると直接胃へカテーテルを入れる方法が考えられます。
オレオ君の全身状態はよろしくなく、鼻呼吸が殆ど出来ていない状態です。
この状態で開口姿勢を維持して、胃へカテーテルを入れると呼吸停止に陥る可能性が大きいです。
また盲腸から下部のガス貯留については、開腹して腸切開してのガス抜きも困難です。
ましてや、皮膚から針を穿刺して腸管からガスを抜去するという処置は、ショック死する危険を伴います。
結局のところ、消泡剤・胃腸蠕動亢進薬・抗生剤・鎮痛剤の組み合わせで投薬して経過を診ていくこととしました。
残念ながら、オレオ君は受診当日に亡くなられました。
チンチラは細菌感染にウサギ以上に弱いこと、鼻腔の炎症や歯の疾患などで鼻呼吸が出来なくなると容態は急変することをご理解下さい。
特に草食獣は肺が小さく、呼吸不全になりやすいです。
鼻呼吸が出来なくなれば、開口呼吸に移行するのは時間の問題で、簡単に食滞・鼓張症に陥ります。
一旦、食滞・鼓張症になると回復させるには大変な努力が必要となります。
鼻呼吸がスムーズに出来ていないと感じたら、速やかに受診して下さい。
チンチラの病態の進行は非常に早く、犬猫の比ではないことをご了解下さい。
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2024年3月 4日 月曜日
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本日ご紹介しますのは、チンチラの鼻を咬傷の傷で呼吸不全となり、結果食滞(消化管内ガス貯留)となった症例です。
チンチラのオレオ君(2歳、雄、体重500g)は一週間ほど前に同居している他のチンチラに鼻を咬まれ、鼻腔内から膿が出始めたとのことで来院されました。
下写真の黄色丸は咬まれた鼻です。
鼻腔内からジワジワと膿が出ています。
鼻の正面(鼻鏡)は鼻汁と痂皮(かさぶた)で鼻は詰まり気味です。
チンチラに限らずウサギ、モルモットたちは鼻呼吸が基本の齧歯目の動物です。
何らかの原因で鼻呼吸が出来なくなると重篤な症状になります。
オレオ君は鼻呼吸が満足に出来ないため、口呼吸をするようになっています。
いわゆる開口呼吸になりますと、肺に行くよりも食道を介して胃の方に回る空気が多くなります。
結果として消化管は空気で鼓張し、胃腸蠕動は停滞し、食欲廃絶となり全身状態は不良となります。
オレオ君の全体像ですが、下写真をご覧いただけると腹が誇張しているのがお分かり頂けると思います。
上から見た写真です。
腹囲が腫れています。
食欲は既に無くなっており、被毛の艶はなくなり、所どころに脱毛があります。
レントゲン撮影を実施しました。
下写真で胃・盲腸にガスが停留しているのが分かります。
上写真の拡大像です。
食餌の内容物は殆どなく、食滞・鼓張状態です。
側臥状態のレントゲン像です。
盲腸にガスが多量に貯留しており、背骨を超えて鼓張しています。
鼻周辺の組織は、鼻骨の障害(融解)はありませんが、咬傷による組織炎症が進行しているのが分かります(黄色丸)。
オレオ君の一番の問題はこのガスを早急に抜くことです。
ウサギのように鼻腔がある程度の直径があれば、栄養カテーテルを経鼻胃カテーテルとして、鼻に挿入します。
そのままカテーテルを胃まで到達させ、胃内のガスを抜去する方法(減圧法)も考えられます。
しかしながら、チンチラは極めて鼻腔が狭いことに加えて、オレオ君の鼻腔は外傷で狭窄してるため、カテーテルの挿入は困難です。
そうなると直接胃へカテーテルを入れる方法が考えられます。
オレオ君の全身状態はよろしくなく、鼻呼吸が殆ど出来ていない状態です。
この状態で開口姿勢を維持して、胃へカテーテルを入れると呼吸停止に陥る可能性が大きいです。
また盲腸から下部のガス貯留については、開腹して腸切開してのガス抜きも困難です。
ましてや、皮膚から針を穿刺して腸管からガスを抜去するという処置は、ショック死する危険を伴います。
結局のところ、消泡剤・胃腸蠕動亢進薬・抗生剤・鎮痛剤の組み合わせで投薬して経過を診ていくこととしました。
残念ながら、オレオ君は受診当日に亡くなられました。
チンチラは細菌感染にウサギ以上に弱いこと、鼻腔の炎症や歯の疾患などで鼻呼吸が出来なくなると容態は急変することをご理解下さい。
特に草食獣は肺が小さく、呼吸不全になりやすいです。
鼻呼吸が出来なくなれば、開口呼吸に移行するのは時間の問題で、簡単に食滞・鼓張症に陥ります。
一旦、食滞・鼓張症になると回復させるには大変な努力が必要となります。
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チンチラのオレオ君(2歳、雄、体重500g)は一週間ほど前に同居している他のチンチラに鼻を咬まれ、鼻腔内から膿が出始めたとのことで来院されました。
下写真の黄色丸は咬まれた鼻です。
鼻腔内からジワジワと膿が出ています。
鼻の正面(鼻鏡)は鼻汁と痂皮(かさぶた)で鼻は詰まり気味です。
チンチラに限らずウサギ、モルモットたちは鼻呼吸が基本の齧歯目の動物です。
何らかの原因で鼻呼吸が出来なくなると重篤な症状になります。
オレオ君は鼻呼吸が満足に出来ないため、口呼吸をするようになっています。
いわゆる開口呼吸になりますと、肺に行くよりも食道を介して胃の方に回る空気が多くなります。
結果として消化管は空気で鼓張し、胃腸蠕動は停滞し、食欲廃絶となり全身状態は不良となります。
オレオ君の全体像ですが、下写真をご覧いただけると腹が誇張しているのがお分かり頂けると思います。
上から見た写真です。
腹囲が腫れています。
食欲は既に無くなっており、被毛の艶はなくなり、所どころに脱毛があります。
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下写真で胃・盲腸にガスが停留しているのが分かります。
上写真の拡大像です。
食餌の内容物は殆どなく、食滞・鼓張状態です。
側臥状態のレントゲン像です。
盲腸にガスが多量に貯留しており、背骨を超えて鼓張しています。
鼻周辺の組織は、鼻骨の障害(融解)はありませんが、咬傷による組織炎症が進行しているのが分かります(黄色丸)。
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ウサギのように鼻腔がある程度の直径があれば、栄養カテーテルを経鼻胃カテーテルとして、鼻に挿入します。
そのままカテーテルを胃まで到達させ、胃内のガスを抜去する方法(減圧法)も考えられます。
しかしながら、チンチラは極めて鼻腔が狭いことに加えて、オレオ君の鼻腔は外傷で狭窄してるため、カテーテルの挿入は困難です。
そうなると直接胃へカテーテルを入れる方法が考えられます。
オレオ君の全身状態はよろしくなく、鼻呼吸が殆ど出来ていない状態です。
この状態で開口姿勢を維持して、胃へカテーテルを入れると呼吸停止に陥る可能性が大きいです。
また盲腸から下部のガス貯留については、開腹して腸切開してのガス抜きも困難です。
ましてや、皮膚から針を穿刺して腸管からガスを抜去するという処置は、ショック死する危険を伴います。
結局のところ、消泡剤・胃腸蠕動亢進薬・抗生剤・鎮痛剤の組み合わせで投薬して経過を診ていくこととしました。
残念ながら、オレオ君は受診当日に亡くなられました。
チンチラは細菌感染にウサギ以上に弱いこと、鼻腔の炎症や歯の疾患などで鼻呼吸が出来なくなると容態は急変することをご理解下さい。
特に草食獣は肺が小さく、呼吸不全になりやすいです。
鼻呼吸が出来なくなれば、開口呼吸に移行するのは時間の問題で、簡単に食滞・鼓張症に陥ります。
一旦、食滞・鼓張症になると回復させるには大変な努力が必要となります。
鼻呼吸がスムーズに出来ていないと感じたら、速やかに受診して下さい。
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2024年3月 2日 土曜日
チンチラの脛骨骨折(創外固定法 その2)
こんちは 院長の伊藤です。
前回、チンチラの脛骨骨折(創外固定法 その1)でチンチラのしずくちゃんの脛骨骨折の手術をご紹介しました。
その詳細(チンチラの脛骨骨折 創外固定法 その1)はこちらをクリックして下さい。
本日は、その後のしずくちゃんの骨折治癒までの経過をご報告します。
骨折は治癒に至るまで非常に時間を要します。
骨折整復手術の成否は、手術自体の成功はもとより、何か月後に骨癒合が完全になされたかで決まります。
骨折の部位によりますが、1~3か月は安静が必要となります。
つまり骨癒合が完了するまでは、飼主様はもとより術者としての私も安心出来ません。
加えて、今回は創外固定法ということで手術後のケアが大変です。
それでは、しずくちゃんの骨癒合までの道のりをご覧いただきましょう。
チンチラのしずくちゃん(雌、1歳8か月齢、体重480g)は右脛骨を骨折しました(下写真黄色丸)。
骨折部の整復法として、創外固定法を実施しました。
黄色矢印が骨折部です。
骨折部の一部が粉砕して間隙があり、骨折端の完全な整復は期待できないのですが、後の仮骨による架橋形成を期待します。
パテで両側を固定して、手術は終了です。
以上が前回のあらましです。
その後、しずくちゃんは定期的に来院して頂き、ピン刺入部の術部管理をしました。
ピンが皮膚に刺さってる部位は、細菌感染の恐れがありますので、定期的に消毒洗浄します。
患部の洗浄をしています。
ピン刺入部にイソジンゲル®を塗布します。
再び、パテを脱脂綿で包み粘着テープで保護して終了です。
上記の消毒洗浄を行いながら、骨癒合するまでレントゲン撮影を継続して行いました。
以下に継時的に骨折部のレントゲン像を載せます。
術後4週目では、まだ骨折部をカバーする仮骨形成は不十分な状態です。
続いて、12週目の画像です。
仮骨の形成は進行しており、脛骨自体のアライメントもまっすぐに近い状態になって来ました。
16週目になると骨折ラインはもはや判明できないくらいに修復してます。
4か月近くの術後管理は大変でしたが、やっとピンを除去することが出来ます。
これから、しずくちゃんの創外ピン抜去を行います。
骨折整復手術時と同じくイソフルランで麻酔導入を実施します。
維持麻酔も落ち着いたところで、テーピングをはずしパテと創外ピンを露出します。
下写真黄色矢印に創外ピンが確認できます。
ピンをニッパーで切断していきます。
パテを外しました。
脛骨に残っている創外ピンをハンドドリルに装着して、ピンを抜去します。
まず、しっかり皮膚を消毒洗浄します。
ピンに絡みついた被毛を外します。
ピンバイスに創外ピンを装着し、骨髄内に残存したピンを抜去します。
ピン抜去が完了しました。
ピン抜去直後のレントゲン像です。
ピンの刺入した穴が確認されますが、骨折部(下写真黄色矢印)の骨癒合は完了してます。
ピンで刺入部の皮膚が修復するまで、1週間ほどテーピング保護します。
長い期間にわたる療養期間に耐えてくれたしずくちゃんです。
重いパテも取り除いたので、肢の動きも軽やかです。
ピン抜去から1週間後のしずくちゃんです。
動きが俊敏で写真撮影が難しいくらいです。
骨折した右後肢の動きもスムーズで、跛行も認められません。
骨癒合も完了し、神経学的問題もなく無事治療を終了出来て良かったです。
しずくちゃん、お疲れ様でした!
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前回、チンチラの脛骨骨折(創外固定法 その1)でチンチラのしずくちゃんの脛骨骨折の手術をご紹介しました。
その詳細(チンチラの脛骨骨折 創外固定法 その1)はこちらをクリックして下さい。
本日は、その後のしずくちゃんの骨折治癒までの経過をご報告します。
骨折は治癒に至るまで非常に時間を要します。
骨折整復手術の成否は、手術自体の成功はもとより、何か月後に骨癒合が完全になされたかで決まります。
骨折の部位によりますが、1~3か月は安静が必要となります。
つまり骨癒合が完了するまでは、飼主様はもとより術者としての私も安心出来ません。
加えて、今回は創外固定法ということで手術後のケアが大変です。
それでは、しずくちゃんの骨癒合までの道のりをご覧いただきましょう。
チンチラのしずくちゃん(雌、1歳8か月齢、体重480g)は右脛骨を骨折しました(下写真黄色丸)。
骨折部の整復法として、創外固定法を実施しました。
黄色矢印が骨折部です。
骨折部の一部が粉砕して間隙があり、骨折端の完全な整復は期待できないのですが、後の仮骨による架橋形成を期待します。
パテで両側を固定して、手術は終了です。
以上が前回のあらましです。
その後、しずくちゃんは定期的に来院して頂き、ピン刺入部の術部管理をしました。
ピンが皮膚に刺さってる部位は、細菌感染の恐れがありますので、定期的に消毒洗浄します。
患部の洗浄をしています。
ピン刺入部にイソジンゲル®を塗布します。
再び、パテを脱脂綿で包み粘着テープで保護して終了です。
上記の消毒洗浄を行いながら、骨癒合するまでレントゲン撮影を継続して行いました。
以下に継時的に骨折部のレントゲン像を載せます。
術後4週目では、まだ骨折部をカバーする仮骨形成は不十分な状態です。
続いて、12週目の画像です。
仮骨の形成は進行しており、脛骨自体のアライメントもまっすぐに近い状態になって来ました。
16週目になると骨折ラインはもはや判明できないくらいに修復してます。
4か月近くの術後管理は大変でしたが、やっとピンを除去することが出来ます。
これから、しずくちゃんの創外ピン抜去を行います。
骨折整復手術時と同じくイソフルランで麻酔導入を実施します。
維持麻酔も落ち着いたところで、テーピングをはずしパテと創外ピンを露出します。
下写真黄色矢印に創外ピンが確認できます。
ピンをニッパーで切断していきます。
パテを外しました。
脛骨に残っている創外ピンをハンドドリルに装着して、ピンを抜去します。
まず、しっかり皮膚を消毒洗浄します。
ピンに絡みついた被毛を外します。
ピンバイスに創外ピンを装着し、骨髄内に残存したピンを抜去します。
ピン抜去が完了しました。
ピン抜去直後のレントゲン像です。
ピンの刺入した穴が確認されますが、骨折部(下写真黄色矢印)の骨癒合は完了してます。
ピンで刺入部の皮膚が修復するまで、1週間ほどテーピング保護します。
長い期間にわたる療養期間に耐えてくれたしずくちゃんです。
重いパテも取り除いたので、肢の動きも軽やかです。
ピン抜去から1週間後のしずくちゃんです。
動きが俊敏で写真撮影が難しいくらいです。
骨折した右後肢の動きもスムーズで、跛行も認められません。
骨癒合も完了し、神経学的問題もなく無事治療を終了出来て良かったです。
しずくちゃん、お疲れ様でした!
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投稿者 もねペットクリニック | 記事URL