アーカイブシリーズ
2022年1月31日 月曜日
アーカイブシリーズ ウサギの子宮腺癌(その4)
こんにちは 院長の伊藤です。
本日も引き続き、アーカイブシリーズ ウサギの子宮腺癌をご紹介させて頂きます。
ウサギは自然界では、肉食獣の食糧源でもあり、生態系を維持するためにも被捕食者としての絶対数が必要となります。
結果、繁殖がウサギにとっては、重要な能力であり、周年発情というスタイルを取ります。
周年発情とは、一旦アダルトになると死ぬまで発情し続け、繁殖を繰り返すことを意味します(発情期自体がありません)。
自然界では、意義のあることでもペットとして飼育される場合、繁殖は基本的には必要ありません。
そのため、1歳を過ぎれば卵巣・子宮に負担をかける生活を送ることになり、4歳以降になると子宮腺癌の発症率が80%以上となります。
実際、臨床の現場でどのように子宮腺癌に対応しているかを皆様にご覧いただけたらと思います。
こんにちは 院長の伊藤です。
ウサギの子宮腺癌は過去にも何例もご紹介してきました。
今回は事前の検査(エコー・レントゲン)でも見つけられなかった症例です。
ネザーランド・ドワーフのてんちゃん(雌、5歳、1.2kg)は床に出血跡があり、どこか異常があるのではと受診されました。
4,5歳以降の血尿は子宮疾患が絡んでいるといつも申し上げています。
今回もその疑いで検査を進めさせていただきました。
まず尿検査では潜血反応は陰性、顕微鏡所見でも尿路結石の結晶や子宮腺癌の細胞は陰性となりました。
エコーでは膀胱内の結石はなく、子宮自体の腫大も認められません。
レントゲン所見は以下の通りです。
ただ子宮疾患でも初期のステージであれば、子宮腫大もなく、かつ不定期に出血が尿中に認められることはあります。
止血剤と抗生剤の投薬でしばし、経過観察としました。
その1か月後、てんちゃんの経過は良好ですが飼い主様の要望もあり、避妊手術を実施することとなりました。
いつものごとく、点滴の留置針を入れます。
腹筋を切開して開腹します。
下写真黄色丸が子宮です。
見た感じはきれいな正常な子宮に見えます。
バイクランプで卵巣動脈をシーリングしてます。
左右の子宮角もバランスが取れています。
子宮頚部を結紮します。
腹腔内に出血がないか、他の臓器に異常がないかを最後に確認します。
特に異常な所見は認められませんでした。
ステープラーで皮膚縫合します。
これにて避妊手術は終了です。
覚醒直前のてんちゃんです。
次に摘出した子宮を検査します。
よく注意して触診していくと、わずかですが小さな腫瘤が認められました(下黄色丸)。
側面からのアングルです。
この気になる腫瘤にメスを入れて(黄色矢印)、スタンプ染色しました。
下写真は低倍率の顕微鏡写真です。
次は高倍率写真です。
青紫に染まっているのが子宮腺癌の細胞です。
当初、床に出血跡が認められる程度の所見で、その後は出血がなかったというのは、まだ子宮腺癌が初期のステージであったということです。
これから、どんどん腺癌が増殖していくステージに移行したことでしょう。
この段階で早めに子宮を全摘出できて良かったと思います。
腫瘍の存在を摘出してから気付くというケースもあることを忘れないで下さい。
翌日、てんちゃんは無事退院されました。
4.5歳以降の血尿は子宮疾患を疑って下さい。
そして、可能な限り1歳までに雌ウサギは避妊手術を受けて下さい。
それが子宮疾患、特に子宮腺癌に罹患しないで済む唯一の選択肢です。
てんちゃん、お疲れ様でした!
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本日も引き続き、アーカイブシリーズ ウサギの子宮腺癌をご紹介させて頂きます。
ウサギは自然界では、肉食獣の食糧源でもあり、生態系を維持するためにも被捕食者としての絶対数が必要となります。
結果、繁殖がウサギにとっては、重要な能力であり、周年発情というスタイルを取ります。
周年発情とは、一旦アダルトになると死ぬまで発情し続け、繁殖を繰り返すことを意味します(発情期自体がありません)。
自然界では、意義のあることでもペットとして飼育される場合、繁殖は基本的には必要ありません。
そのため、1歳を過ぎれば卵巣・子宮に負担をかける生活を送ることになり、4歳以降になると子宮腺癌の発症率が80%以上となります。
実際、臨床の現場でどのように子宮腺癌に対応しているかを皆様にご覧いただけたらと思います。
こんにちは 院長の伊藤です。
ウサギの子宮腺癌は過去にも何例もご紹介してきました。
今回は事前の検査(エコー・レントゲン)でも見つけられなかった症例です。
ネザーランド・ドワーフのてんちゃん(雌、5歳、1.2kg)は床に出血跡があり、どこか異常があるのではと受診されました。
4,5歳以降の血尿は子宮疾患が絡んでいるといつも申し上げています。
今回もその疑いで検査を進めさせていただきました。
まず尿検査では潜血反応は陰性、顕微鏡所見でも尿路結石の結晶や子宮腺癌の細胞は陰性となりました。
エコーでは膀胱内の結石はなく、子宮自体の腫大も認められません。
レントゲン所見は以下の通りです。
ただ子宮疾患でも初期のステージであれば、子宮腫大もなく、かつ不定期に出血が尿中に認められることはあります。
止血剤と抗生剤の投薬でしばし、経過観察としました。
その1か月後、てんちゃんの経過は良好ですが飼い主様の要望もあり、避妊手術を実施することとなりました。
いつものごとく、点滴の留置針を入れます。
腹筋を切開して開腹します。
下写真黄色丸が子宮です。
見た感じはきれいな正常な子宮に見えます。
バイクランプで卵巣動脈をシーリングしてます。
左右の子宮角もバランスが取れています。
子宮頚部を結紮します。
腹腔内に出血がないか、他の臓器に異常がないかを最後に確認します。
特に異常な所見は認められませんでした。
ステープラーで皮膚縫合します。
これにて避妊手術は終了です。
覚醒直前のてんちゃんです。
次に摘出した子宮を検査します。
よく注意して触診していくと、わずかですが小さな腫瘤が認められました(下黄色丸)。
側面からのアングルです。
この気になる腫瘤にメスを入れて(黄色矢印)、スタンプ染色しました。
下写真は低倍率の顕微鏡写真です。
次は高倍率写真です。
青紫に染まっているのが子宮腺癌の細胞です。
当初、床に出血跡が認められる程度の所見で、その後は出血がなかったというのは、まだ子宮腺癌が初期のステージであったということです。
これから、どんどん腺癌が増殖していくステージに移行したことでしょう。
この段階で早めに子宮を全摘出できて良かったと思います。
腫瘍の存在を摘出してから気付くというケースもあることを忘れないで下さい。
翌日、てんちゃんは無事退院されました。
4.5歳以降の血尿は子宮疾患を疑って下さい。
そして、可能な限り1歳までに雌ウサギは避妊手術を受けて下さい。
それが子宮疾患、特に子宮腺癌に罹患しないで済む唯一の選択肢です。
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投稿者 もねペットクリニック | 記事URL
2022年1月21日 金曜日
アーカイブシリーズ ウサギの子宮腺癌(その2)
こんにちは 院長の伊藤です。
本日も引き続き、ウサギの子宮腺癌についてアーカイブから掲載させて頂きます。
雌ウサギはシニア世代(4~5歳)になると子宮疾患が絡んでくることが多いです。
日常的にも遭遇する産科症例ですが、飼主様の目線からこんな症状が見受けられたら、早めの受診お願い致します。
ウサギの子宮疾患は色々な症状を示します。
発病初期は陰部からの出血例が70%位を示すと言われています。
来院される時は多くの飼主様が血尿が出ると申告されるケースが多いです。
血尿というとどうしても膀胱炎や尿石症をイメージしてしまいますが、4歳以降の雌ウサギであればむしろ子宮疾患を疑って欲しいと思います。
本日ご紹介するのは、ライオンラビットのらんちゃんです。
らんちゃんは数週間前から、血尿が出ているとのことで来院されました。
尿検査では潜血反応は陰性でした。
膀胱を早速エコー検査したところ、特に結石もなく出血の形跡もありません。
むしろ5歳を過ぎた雌と言いうことで、子宮疾患を疑って子宮を入念に検査しました。
結果は下の通りです。
黄色丸で示した部分が子宮の断面を描出しています。
子宮角に実質性の腫瘤があるようです。
腫瘍の可能性が大とみて手術に移ります。
黄色矢印の部分は子宮角にあたりますが、ここに非常に硬い結節が認められました。
卵巣動静脈をバイクランプでシールします。
ついで子宮頚部をシールしてメスでカットします。
子宮頚部の切断面をしっかり縫合します。
手術は無事終了しました。
摘出した卵巣と子宮が下の写真です。
緑の矢印が卵巣で黄色丸が子宮角のうち腫瘤を呈した部分です。摘出子宮全体がどす黒い色をしています。
この腫瘤をカットした写真です。
この部位をスタンプ染色しました。
結局、子宮内膜の過形成と子宮腺腫癌であることが判明しました。
らんちゃんの術後の経過は良好で、血尿も止まり食欲も回復しました。
退院当日のらんちゃんです。
毎回申し上げていますが、4,5歳以降になると子宮疾患のウサギが増えます。
犬猫と同様、できる限り早い年齢(1歳未満くらい)で避妊手術を受けられることをお勧めいたします。
本日も引き続き、ウサギの子宮腺癌についてアーカイブから掲載させて頂きます。
雌ウサギはシニア世代(4~5歳)になると子宮疾患が絡んでくることが多いです。
日常的にも遭遇する産科症例ですが、飼主様の目線からこんな症状が見受けられたら、早めの受診お願い致します。
ウサギの子宮疾患は色々な症状を示します。
発病初期は陰部からの出血例が70%位を示すと言われています。
来院される時は多くの飼主様が血尿が出ると申告されるケースが多いです。
血尿というとどうしても膀胱炎や尿石症をイメージしてしまいますが、4歳以降の雌ウサギであればむしろ子宮疾患を疑って欲しいと思います。
本日ご紹介するのは、ライオンラビットのらんちゃんです。
らんちゃんは数週間前から、血尿が出ているとのことで来院されました。
尿検査では潜血反応は陰性でした。
膀胱を早速エコー検査したところ、特に結石もなく出血の形跡もありません。
むしろ5歳を過ぎた雌と言いうことで、子宮疾患を疑って子宮を入念に検査しました。
結果は下の通りです。
黄色丸で示した部分が子宮の断面を描出しています。
子宮角に実質性の腫瘤があるようです。
腫瘍の可能性が大とみて手術に移ります。
黄色矢印の部分は子宮角にあたりますが、ここに非常に硬い結節が認められました。
卵巣動静脈をバイクランプでシールします。
ついで子宮頚部をシールしてメスでカットします。
子宮頚部の切断面をしっかり縫合します。
手術は無事終了しました。
摘出した卵巣と子宮が下の写真です。
緑の矢印が卵巣で黄色丸が子宮角のうち腫瘤を呈した部分です。摘出子宮全体がどす黒い色をしています。
この腫瘤をカットした写真です。
この部位をスタンプ染色しました。
結局、子宮内膜の過形成と子宮腺腫癌であることが判明しました。
らんちゃんの術後の経過は良好で、血尿も止まり食欲も回復しました。
退院当日のらんちゃんです。
毎回申し上げていますが、4,5歳以降になると子宮疾患のウサギが増えます。
犬猫と同様、できる限り早い年齢(1歳未満くらい)で避妊手術を受けられることをお勧めいたします。
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2022年1月17日 月曜日
アーカイブシリーズ ウサギの子宮腺癌
こんにちは 院長の伊藤です。
今回は、ウサギの疾患で極めて発症率の高い産科系疾患について、過去の記事(アーカイブ)をご紹介させて頂きます。
10年近く前からの記事を順次紹介いたしますので、新鮮さには欠ける向きがあるかと思われますが、今も昔も病気に変わりはありません。
特にウサギの飼主様におかれましては、長生き・天寿を全うするために一つの情報として受け止めて頂けたら幸いです。
ウサギは繁殖力に特化した動物です。
これは当院のホームページのウサギの疾病に載せたとおりです。
そして多くの避妊していないウサギは平均4歳以降に子宮疾患を起こします。
その理由は、発情期が極めて長いため子宮が長期間にわたりエストロジェンに暴露されるためです。
今回、ご紹介するのはホーランドロップのクルミちゃん(8歳4か月)です。
最近、食欲不振・尿量低下で来院されました。
尿検査をしたところ、潜血反応・顕微鏡下での赤血球を確認しました。
高齢でもあり、血尿がからんでくると子宮疾患の可能性が高くなります。
レントゲン写真でも下腹部に腫瘤(マス)の存在を認めます。
腹部の膨満が著しいため、急遽、卵巣子宮摘出を前提とした試験的開腹手術を実施することとしました。
仰向けの姿勢で既に下腹部が膨隆しているのがお分かりいただけると思います。
早速メスを入れたところ、腹膜下より子宮とおぼしき組織が出てきました。
慎重に内容を外に出します。
卵巣から子宮角、子宮間膜、子宮頚部へと大きな腫瘍が形成されています。
これだけ腫瘍が広い範囲に及んでおり、出血量も多いと見込まれましたのでバイクランプによる止血を実施しました。
これだけ大きな腫瘍ですから、手術も長時間にわたる覚悟でいましたが、バイクランプによる迅速な止血でわずか30分ほどで終了しました。
腫瘍摘出後の腹腔内出血もなく、実にすっきりした感があります。
皮膚縫合を終え、麻酔の覚醒を待ちます。
無事、麻酔から覚醒したところです。
クルミちゃん、よく頑張ってくれました!
ウサギは犬猫の比べて組織自体が脆弱で取り扱いは細心の注意を要しますが、それ以上に麻酔の管理が大変です。
ですから、麻酔から確実に覚醒してくれた時が一番嬉しいです。
摘出した腫瘍は400gありました。ちなみにクルミちゃんの体重は1700gでした。
手術は成功したのですが、術後3日目にクルミちゃんは急逝されました。
原因はいろいろ考えられますが、体の4分の1にあたる腫瘍が循環血流量及び栄養分の多くを吸収していたはずですから、摘出後の循環血流量の低下に伴うショックが生じたと思われます。
犬のように輸血自体ができない動物なので、限界を感じます。
ただこの文章をご覧になっていただいてる皆様に申し上げたいのは、雌のウサギの子宮疾患発生率は犬よりも高く、予防するための唯一の手段は避妊手術しかありません。
可能な限り、若い1歳未満の時期に避妊手術をお受けいただくことを強くお勧めいたします。
合掌
今回は、ウサギの疾患で極めて発症率の高い産科系疾患について、過去の記事(アーカイブ)をご紹介させて頂きます。
10年近く前からの記事を順次紹介いたしますので、新鮮さには欠ける向きがあるかと思われますが、今も昔も病気に変わりはありません。
特にウサギの飼主様におかれましては、長生き・天寿を全うするために一つの情報として受け止めて頂けたら幸いです。
ウサギは繁殖力に特化した動物です。
これは当院のホームページのウサギの疾病に載せたとおりです。
そして多くの避妊していないウサギは平均4歳以降に子宮疾患を起こします。
その理由は、発情期が極めて長いため子宮が長期間にわたりエストロジェンに暴露されるためです。
今回、ご紹介するのはホーランドロップのクルミちゃん(8歳4か月)です。
最近、食欲不振・尿量低下で来院されました。
尿検査をしたところ、潜血反応・顕微鏡下での赤血球を確認しました。
高齢でもあり、血尿がからんでくると子宮疾患の可能性が高くなります。
レントゲン写真でも下腹部に腫瘤(マス)の存在を認めます。
腹部の膨満が著しいため、急遽、卵巣子宮摘出を前提とした試験的開腹手術を実施することとしました。
仰向けの姿勢で既に下腹部が膨隆しているのがお分かりいただけると思います。
早速メスを入れたところ、腹膜下より子宮とおぼしき組織が出てきました。
慎重に内容を外に出します。
卵巣から子宮角、子宮間膜、子宮頚部へと大きな腫瘍が形成されています。
これだけ腫瘍が広い範囲に及んでおり、出血量も多いと見込まれましたのでバイクランプによる止血を実施しました。
これだけ大きな腫瘍ですから、手術も長時間にわたる覚悟でいましたが、バイクランプによる迅速な止血でわずか30分ほどで終了しました。
腫瘍摘出後の腹腔内出血もなく、実にすっきりした感があります。
皮膚縫合を終え、麻酔の覚醒を待ちます。
無事、麻酔から覚醒したところです。
クルミちゃん、よく頑張ってくれました!
ウサギは犬猫の比べて組織自体が脆弱で取り扱いは細心の注意を要しますが、それ以上に麻酔の管理が大変です。
ですから、麻酔から確実に覚醒してくれた時が一番嬉しいです。
摘出した腫瘍は400gありました。ちなみにクルミちゃんの体重は1700gでした。
手術は成功したのですが、術後3日目にクルミちゃんは急逝されました。
原因はいろいろ考えられますが、体の4分の1にあたる腫瘍が循環血流量及び栄養分の多くを吸収していたはずですから、摘出後の循環血流量の低下に伴うショックが生じたと思われます。
犬のように輸血自体ができない動物なので、限界を感じます。
ただこの文章をご覧になっていただいてる皆様に申し上げたいのは、雌のウサギの子宮疾患発生率は犬よりも高く、予防するための唯一の手段は避妊手術しかありません。
可能な限り、若い1歳未満の時期に避妊手術をお受けいただくことを強くお勧めいたします。
合掌
投稿者 もねペットクリニック | 記事URL