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2024年3月23日 土曜日
犬の口唇切除 (その2 パグ・肥満細胞腫)
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、犬の口唇部の切除手術の模様です。
前回、トイプードルの口唇切除手術(毛芽腫)をご紹介させて頂きました。
興味のある方はこちらをクリックして下さい。
なお、今回は見る人によってはショッキングに感じる場面もあるかもしれません。
刺激的な写真が苦手な方は閲覧をお控え下さい。
皮膚腫瘍は顔面にも発生します。
外科的切除を実施する際に、発生部位によっては切除摘出が困難なケースもあります。
また顔面、口唇部などは審美眼的な仕上がりが要求される場合もあります。
パグの梅ちゃん(避妊済み、4歳4か月齢、体重6.5kg)は左上口唇部に腫瘤が認められて来院されました。
患部を細胞診したところ、肥満細胞腫であることが判明しました。
肥満細胞腫は犬では最も多く発生する悪性の皮膚腫瘍とされます。
肥満細胞腫の多くは、真皮と皮下組織で発生します。
治療の方針としては、第一選択は外科的摘出です。
今回の梅ちゃんの細胞診の結果は、低グレードタイプでc-kit遺伝子検査ではexon8に変異が認められました。
肥満細胞腫の全身療法が適用となった時にc-kit遺伝子検査結果から、変異が認められる場合は従来の抗がん剤ではなく、分子標的薬(イマチニブやトセラニブ)が効果が期待できるため、内科治療の第一選択となります。
梅ちゃんの場合、少しでも腫瘍の大きさを減量してから手術に臨むべきと考え、手術までの約3週間をプレドニゾロンを内服して頂きました。
3週間後には腫瘍の大きさは、ある程度縮小して手術で摘出できる大きさとなりました。
梅ちゃんの左口唇部の真皮から皮下組織にかけて腫瘍が発生しています。
今回の手術のアウトラインをイラストで説明します。
下は梅ちゃんの顔のイラストですが、左の口唇部の赤い患部が肥満細胞腫です。
口唇部は2か所切除(①、②)を実施します。
下イラストは切除後の口唇部断端の縫合面の組み合わせを示してます。
緑断端部同志を縫合し(①縫合)、口唇部の下端を切除し(②切除)、その断端を回転して青の断端同志を縫合します(②縫合)。
腫瘍は鼻鏡部に近い所にありますが、審美眼的にも可能な限り鼻鏡部を温存したいと考えました。
縫い代(サージカルマージン)を最低限確保する方向で、腫瘍が関与する領域をしっかり摘出します。
口唇部の粘膜面、皮下組織、皮膚と3層にわたり縫合を施します。
3層縫合が①縫合済み、②縫合という流れで行います。
最後に②縫合済みで手術は終了します。
全身麻酔下の梅ちゃんです。
下写真の黄色丸は腫瘍を示します。
肥満細胞腫は直接患部を接触し続けると反応して即時、腫大します。
従って、患部は触らないよう周囲組織からの切除を心がけます。
上顎口唇部を粘膜面から硬性メスを入れて行きます。
最終的にはモノポーラ(電気メス)で切除するのですが、切開ラインにそって硬性メスを入れます。
モノポーラで口腔粘膜から切除を始めます。
ここからのシーンは大胆に口唇部をカットしていきますので、苦手な方は閲覧を控えて下さい。
次に梅ちゃんの鼻鏡部直下を硬性メスで切開します。
口唇部の皮膚側の切開ラインを硬性メスで印をつけます。
モノポーラで口唇部を切除します。
下写真黄色丸は患部の腫瘍です。
上顎歯肉ぎりぎりを切除します。
切除マージンを最大限確保したいのですが、歯肉側は上顎口唇の付根まで切除します。
鼻鏡部付近の皮膚を切除します。
腫瘍切除が完了です。
腫瘍切除後の患部です。
口腔内の歯や歯肉・舌が垣間見えます。
次に顔面イラストの②切除にあたる部位(下写真黄色ライン)を外科鋏で切除します。
上記の切除面を回転して、下写真のように鼻鏡部に縫合します。
外科鋏で切除してます。
これから縫合を実施します。
まずは粘膜面からの縫合です。
後半に切除した口唇部を回転して粘膜面を縫合します。
次に皮下組織を縫合します。
顔面イラストの②縫合に当たる口唇部と鼻鏡部の皮下組織縫合が終了です。
最後に皮膚を縫合します。
これで手術は終了となります。
全身麻酔から覚醒し始めた梅ちゃんです。
無事手術は終わりました。
手術の翌日の梅ちゃんです。
術後4週の梅ちゃんです。
患部の抜糸を行います。
傷口は綺麗に癒合しています。
顔面が左方に牽引されて、多少の引きつった感じはありますが、時間と共にある程度は左口唇部は伸展すると思われます。
鼻鏡部の粘膜面も問題なく癒合しています。
今回の手術で切除した口唇部(粘膜面)です。
黄色丸が肥満細胞腫です。
下写真は口唇部・皮膚面です。
下写真の腫瘍切除面は、歯肉・上顎歯槽骨の際に及んでいます。
病理検査の結果、患部のマージン評価が気になるところです。
下写真は低倍率の病理写真です。
中拡大像です。
肥満細胞のシート状増殖巣が形成されています。
腫瘍細胞は小型類円形核と好塩基性顆粒状の細胞質を有する小型円形細胞で、少数の好酸球浸潤を伴っています。
異型性は軽度で明らかな腫瘍細胞の脈管浸潤像は認められないとのことです。
しかしながら、腫瘍細胞は歯肉側の切除断端に及んでいるとのことで、局所再発の注意が必要です。
梅ちゃんは念のため、抗がん剤の内科的治療(ビンブラスチンとプレドニゾロン)を今後展開していきます。
肥満細胞腫は悪性腫瘍であり、転移発生する可能性もありますので慎重にモニターリングが必要です。
梅ちゃん、お疲れ様でした!
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本日ご紹介しますのは、犬の口唇部の切除手術の模様です。
前回、トイプードルの口唇切除手術(毛芽腫)をご紹介させて頂きました。
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なお、今回は見る人によってはショッキングに感じる場面もあるかもしれません。
刺激的な写真が苦手な方は閲覧をお控え下さい。
皮膚腫瘍は顔面にも発生します。
外科的切除を実施する際に、発生部位によっては切除摘出が困難なケースもあります。
また顔面、口唇部などは審美眼的な仕上がりが要求される場合もあります。
パグの梅ちゃん(避妊済み、4歳4か月齢、体重6.5kg)は左上口唇部に腫瘤が認められて来院されました。
患部を細胞診したところ、肥満細胞腫であることが判明しました。
肥満細胞腫は犬では最も多く発生する悪性の皮膚腫瘍とされます。
肥満細胞腫の多くは、真皮と皮下組織で発生します。
治療の方針としては、第一選択は外科的摘出です。
今回の梅ちゃんの細胞診の結果は、低グレードタイプでc-kit遺伝子検査ではexon8に変異が認められました。
肥満細胞腫の全身療法が適用となった時にc-kit遺伝子検査結果から、変異が認められる場合は従来の抗がん剤ではなく、分子標的薬(イマチニブやトセラニブ)が効果が期待できるため、内科治療の第一選択となります。
梅ちゃんの場合、少しでも腫瘍の大きさを減量してから手術に臨むべきと考え、手術までの約3週間をプレドニゾロンを内服して頂きました。
3週間後には腫瘍の大きさは、ある程度縮小して手術で摘出できる大きさとなりました。
梅ちゃんの左口唇部の真皮から皮下組織にかけて腫瘍が発生しています。
今回の手術のアウトラインをイラストで説明します。
下は梅ちゃんの顔のイラストですが、左の口唇部の赤い患部が肥満細胞腫です。
口唇部は2か所切除(①、②)を実施します。
下イラストは切除後の口唇部断端の縫合面の組み合わせを示してます。
緑断端部同志を縫合し(①縫合)、口唇部の下端を切除し(②切除)、その断端を回転して青の断端同志を縫合します(②縫合)。
腫瘍は鼻鏡部に近い所にありますが、審美眼的にも可能な限り鼻鏡部を温存したいと考えました。
縫い代(サージカルマージン)を最低限確保する方向で、腫瘍が関与する領域をしっかり摘出します。
口唇部の粘膜面、皮下組織、皮膚と3層にわたり縫合を施します。
3層縫合が①縫合済み、②縫合という流れで行います。
最後に②縫合済みで手術は終了します。
全身麻酔下の梅ちゃんです。
下写真の黄色丸は腫瘍を示します。
肥満細胞腫は直接患部を接触し続けると反応して即時、腫大します。
従って、患部は触らないよう周囲組織からの切除を心がけます。
上顎口唇部を粘膜面から硬性メスを入れて行きます。
最終的にはモノポーラ(電気メス)で切除するのですが、切開ラインにそって硬性メスを入れます。
モノポーラで口腔粘膜から切除を始めます。
ここからのシーンは大胆に口唇部をカットしていきますので、苦手な方は閲覧を控えて下さい。
次に梅ちゃんの鼻鏡部直下を硬性メスで切開します。
口唇部の皮膚側の切開ラインを硬性メスで印をつけます。
モノポーラで口唇部を切除します。
下写真黄色丸は患部の腫瘍です。
上顎歯肉ぎりぎりを切除します。
切除マージンを最大限確保したいのですが、歯肉側は上顎口唇の付根まで切除します。
鼻鏡部付近の皮膚を切除します。
腫瘍切除が完了です。
腫瘍切除後の患部です。
口腔内の歯や歯肉・舌が垣間見えます。
次に顔面イラストの②切除にあたる部位(下写真黄色ライン)を外科鋏で切除します。
上記の切除面を回転して、下写真のように鼻鏡部に縫合します。
外科鋏で切除してます。
これから縫合を実施します。
まずは粘膜面からの縫合です。
後半に切除した口唇部を回転して粘膜面を縫合します。
次に皮下組織を縫合します。
顔面イラストの②縫合に当たる口唇部と鼻鏡部の皮下組織縫合が終了です。
最後に皮膚を縫合します。
これで手術は終了となります。
全身麻酔から覚醒し始めた梅ちゃんです。
無事手術は終わりました。
手術の翌日の梅ちゃんです。
術後4週の梅ちゃんです。
患部の抜糸を行います。
傷口は綺麗に癒合しています。
顔面が左方に牽引されて、多少の引きつった感じはありますが、時間と共にある程度は左口唇部は伸展すると思われます。
鼻鏡部の粘膜面も問題なく癒合しています。
今回の手術で切除した口唇部(粘膜面)です。
黄色丸が肥満細胞腫です。
下写真は口唇部・皮膚面です。
下写真の腫瘍切除面は、歯肉・上顎歯槽骨の際に及んでいます。
病理検査の結果、患部のマージン評価が気になるところです。
下写真は低倍率の病理写真です。
中拡大像です。
肥満細胞のシート状増殖巣が形成されています。
腫瘍細胞は小型類円形核と好塩基性顆粒状の細胞質を有する小型円形細胞で、少数の好酸球浸潤を伴っています。
異型性は軽度で明らかな腫瘍細胞の脈管浸潤像は認められないとのことです。
しかしながら、腫瘍細胞は歯肉側の切除断端に及んでいるとのことで、局所再発の注意が必要です。
梅ちゃんは念のため、抗がん剤の内科的治療(ビンブラスチンとプレドニゾロン)を今後展開していきます。
肥満細胞腫は悪性腫瘍であり、転移発生する可能性もありますので慎重にモニターリングが必要です。
梅ちゃん、お疲れ様でした!
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2024年3月22日 金曜日
犬の口唇切除(その1 トイプードル・毛芽腫)
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、口唇部に腫瘍(毛芽腫)が出来き、切除した症例です。
トイプードルのレオ君(5歳、雄、体重5.8kg)は左上顎口唇部に腫瘤が出来たとのことで来院されました。
この腫瘤について細胞診を実施させて頂きました。
その結果は、上皮系腫瘍との結果が検査センターから出ました。
肥満細胞腫やリンパ腫などの早急な対応が必要な腫瘍ではないのですが、細胞診でさらに詳細を追及することは難しいようです。
飼い主様とも話し合った結果、外科的切除することになりました。
問題は口唇部であるため、腫瘍摘出に必要なマージンを出来る限り取って、なおかつ審美眼的にも耐えられる傷跡で抑える必要があります。
レオ君に全身麻酔をかけます。
下写真黄色丸が今回の腫瘍です。
電気メスを使用しますので、余熱で眼に障害を与えないためガーゼで保護します。
腫瘍の大きさは15㎜あり、思いのほか大きいです。
なるべくマージンを広く取るよう硬性メスで皮膚切開を加えます。
皮膚を切開したところで出血が起こります。
今回の切開ラインは、上口唇部を扇形に切り取り、縫合する予定です。
皮膚から切開をはじめ、皮下組織から口腔粘膜面までの全層を切除します。
次いで電気メス(モノポーラ)で皮下組織、口腔粘膜を順次、切開します。
出血している部位はバイポーラ(電気メス)で止血・切開します。
これで腫瘍を切除しました。
大胆に上口唇部を切除してます。
出血も抑えることが出来ています。
扇形にカットした患部を縫合します。
合成吸収糸で口腔粘膜を縫合します。
口腔粘膜の縫合が終了しました。
次いで皮下組織を縫合します。
皮下組織の縫合が完了です。
最後にナイロン糸で皮膚縫合を行います。
皮膚縫合が完了し、手術は終了です。
縫合部の全様です。
上口唇部の段差はそれほど目立ってないと思われます。
麻酔から覚醒したレオ君です。
上口唇部の皮膚が突っ張っている感じがあります。
時間と共に患部の皮膚は伸展して、ある程度自然な形に復旧します。
摘出した腫瘍です。
腫瘍の側面からの写真です。
腫瘍にメスで割を入れます。
割面は下写真のように白く膨隆してます。
下写真は病理標本です。
低倍率像です。
隆起部真皮内に多結節状の腫瘍病巣が形成されています。
下写真は中等度の拡大像です。
細胞間の接着は強く、核が棚状に配列しています。
さらに強拡大像です。
小型膿染核と少ない細胞質を持った毛芽様細胞が索状からリボン状に配列増殖しています。
この腫瘍細胞は毛芽腫と呼ばれる毛包幹細胞由来の良性腫瘍です。
今回、摘出した病変部には切除断端部に腫瘍細胞は認められず、完全切除であると病理医からコメントがありました。
今回の手術で予後は良好であると思われます。
2週間後のレオ君です。
縫合部は綺麗に癒合出来ています。
口唇をめくって、粘膜面の縫合も綺麗に癒合しています。
抜糸後の傷口です。
特に顔面の審美眼的な問題はないようで飼主様にも納得して頂きました。
腫瘍の大きさにより、口唇部を広範囲に切除し、皮弁を利用して欠損部を伸展・縫合する方法を選択する場合があります。
今回はそこまでの必要なかったのは、幸いです。
レオ君、お疲れ様でした!
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本日ご紹介しますのは、口唇部に腫瘍(毛芽腫)が出来き、切除した症例です。
トイプードルのレオ君(5歳、雄、体重5.8kg)は左上顎口唇部に腫瘤が出来たとのことで来院されました。
この腫瘤について細胞診を実施させて頂きました。
その結果は、上皮系腫瘍との結果が検査センターから出ました。
肥満細胞腫やリンパ腫などの早急な対応が必要な腫瘍ではないのですが、細胞診でさらに詳細を追及することは難しいようです。
飼い主様とも話し合った結果、外科的切除することになりました。
問題は口唇部であるため、腫瘍摘出に必要なマージンを出来る限り取って、なおかつ審美眼的にも耐えられる傷跡で抑える必要があります。
レオ君に全身麻酔をかけます。
下写真黄色丸が今回の腫瘍です。
電気メスを使用しますので、余熱で眼に障害を与えないためガーゼで保護します。
腫瘍の大きさは15㎜あり、思いのほか大きいです。
なるべくマージンを広く取るよう硬性メスで皮膚切開を加えます。
皮膚を切開したところで出血が起こります。
今回の切開ラインは、上口唇部を扇形に切り取り、縫合する予定です。
皮膚から切開をはじめ、皮下組織から口腔粘膜面までの全層を切除します。
次いで電気メス(モノポーラ)で皮下組織、口腔粘膜を順次、切開します。
出血している部位はバイポーラ(電気メス)で止血・切開します。
これで腫瘍を切除しました。
大胆に上口唇部を切除してます。
出血も抑えることが出来ています。
扇形にカットした患部を縫合します。
合成吸収糸で口腔粘膜を縫合します。
口腔粘膜の縫合が終了しました。
次いで皮下組織を縫合します。
皮下組織の縫合が完了です。
最後にナイロン糸で皮膚縫合を行います。
皮膚縫合が完了し、手術は終了です。
縫合部の全様です。
上口唇部の段差はそれほど目立ってないと思われます。
麻酔から覚醒したレオ君です。
上口唇部の皮膚が突っ張っている感じがあります。
時間と共に患部の皮膚は伸展して、ある程度自然な形に復旧します。
摘出した腫瘍です。
腫瘍の側面からの写真です。
腫瘍にメスで割を入れます。
割面は下写真のように白く膨隆してます。
下写真は病理標本です。
低倍率像です。
隆起部真皮内に多結節状の腫瘍病巣が形成されています。
下写真は中等度の拡大像です。
細胞間の接着は強く、核が棚状に配列しています。
さらに強拡大像です。
小型膿染核と少ない細胞質を持った毛芽様細胞が索状からリボン状に配列増殖しています。
この腫瘍細胞は毛芽腫と呼ばれる毛包幹細胞由来の良性腫瘍です。
今回、摘出した病変部には切除断端部に腫瘍細胞は認められず、完全切除であると病理医からコメントがありました。
今回の手術で予後は良好であると思われます。
2週間後のレオ君です。
縫合部は綺麗に癒合出来ています。
口唇をめくって、粘膜面の縫合も綺麗に癒合しています。
抜糸後の傷口です。
特に顔面の審美眼的な問題はないようで飼主様にも納得して頂きました。
腫瘍の大きさにより、口唇部を広範囲に切除し、皮弁を利用して欠損部を伸展・縫合する方法を選択する場合があります。
今回はそこまでの必要なかったのは、幸いです。
レオ君、お疲れ様でした!
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2024年3月20日 水曜日
犬の血管肉腫(その2 腹腔内出血:血腹)
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、犬の血管肉腫で脾臓が破裂して腹腔内出血に至った症例です。
これまでにも犬の血管肉腫についてコメントさせて頂きました。
過去の記事はこちらをクリックして頂けると幸いです。
血管肉腫は血管内皮細胞を起源とする悪性腫瘍です。
脾臓、右心房、皮下組織などに好発します。
特に脾臓原発性の血管肉腫は腫瘍部が急速に増殖し、破裂を伴い、致命的な大出血を引き起こします。
原発腫瘍の破裂を伴う腹腔内出血は、当初は無気力・食欲不振・可視粘膜蒼白などといった症状から急激な虚脱状態に至ります。
また脾臓破裂により、腫瘍細胞が腹腔内にばら撒かれることになります.
加えて、全身の血管内に血栓を生じる播種性血管内凝固不全(DIC)を引き起こす可能性があります。
血管肉腫、特に脾臓破裂は非常に危険な状態に陥るとの認識が必要です。
フレンチブルドッグの芽生ちゃん(9歳5か月齢、避妊済み、体重9.7㎏)は元気・食欲不振で来院されました。
歯茎の色を初めとして可視粘膜が貧血色を示しており(上写真)、明らかに元気がありません。
血液検査を実施したところ、RBC(赤血球数)が289,000/μl(正常値は5,500,000から8,500,000/μl)、Hb(ヘモグロビン)が6.7g/dl(正常値は12.0から18.0g/dl)、Ht(ヘマトクリット)が18.7%(正常値は37.0から55.0%)という貧血状態です。
CRP(炎症性蛋白値)が6.7mg/dl(正常値は0.0から0.7mg/dl)と体内で何かしらの炎症反応が起こっています。
レントゲン撮影を実施しました。
下写真の黄色丸は腫大した脾臓を示しています。
加えてエコー検査を行いました。
下写真は脾臓を示しています。
脾臓内には無エコー領域(黒く描出されている部分)が多く認められます。
この無エコー領域は、脾臓内に液体が貯留していることを示唆します。
さらに下写真では、腹腔内の腸管の間に液体が貯留している(黄色矢印)のが認められます。
以上の所見から脾臓から出血があり、いわゆる腹腔内出血(血腹)の状態に陥っていると推察されました。
血腹は緊急状態であり、出血部位を特定し(この場合は脾臓)、速やかな摘出が必要とされます。
早速、芽生ちゃんに全身麻酔を施します。
しっかり、維持麻酔が出来ています。
これから皮膚に切開を加えます。
腹膜下が暗赤色を呈しています。
これは腹腔内出血を疑います。
腹膜に切開を加えます。
下写真の切開部位(黄色丸)から血液が溢れ出し、黄色矢印の示す出血が認められました。
腹腔内をさらに切開して術野を拡大します。
加えてバキュームで血液を吸引します。
下写真のように腹腔内は血液で一杯になっています。
バキュームで吸引してもどんどん出血は続きます。
目票となる脾臓は血液の海の中に沈んでいます。
可能な限り血液を吸引して、脾臓にアプローチできるように努力します。
体外に脾臓を出したところです。
脾体部(黄色矢印)が腫大しているのが分かります。
脾臓の包膜からどうやら出血があるようです。
脾臓自体の出血を抑えるよりも脾臓自体を全摘出した方が、出血を止めるには確実です。
バイクランプを用いて脾動静脈、短胃動静脈、左胃大動静脈などをシーリングします。
シーリングを進めるうちに出血は少しづつ納まって来ました。
今回出血の原因となった破れた脾臓の包膜(下写真黄色丸)です。
無事、脾臓を摘出し閉腹しました。
芽生ちゃんの貧血状態が心配です。
私が手術している中、中嶋先生に当院の看板犬のドゥから輸血のための採血を指示しました。
ほぼ手術終了と同時に輸血を始めました。
芽生ちゃんの意識が戻って来ました。
まだ芽生ちゃんの視線が定まっていません。
ドゥからの輸血200mlを芽生ちゃんに入れます。
今回の芽生ちゃんの腹腔内から吸引した血液が約500mlありました。
下写真が回収した血液と使用したガーゼです。
摘出した脾臓です。
下写真の黄色丸は腫大した脾臓の脾体部を示します。
下写真の黄色丸、破れた脾臓包膜を示します。
2か所にわたって破れていました。
腫瘍が増殖する中で脾臓組織も脆弱になり、破裂に至ったと思われます。
脾臓包膜が破れて、実質が裂けています(下写真黄色矢印)。
脾体部の腫瘍と思われる部位にメスで割を入れてみました。
この脾臓を病理検査に出しました。
病理診断名は脾臓血管肉腫でした。
下写真は低倍率の病理写真です。
異型性のある内皮細胞により内張りされたスリット状・海綿状の血管腔が認められます。
中拡大像です。
腫瘤の大半は壊死、出血、繊維素析出で不明瞭です。
高倍率像です。
腫瘍細胞は少量の弱好酸性細胞質、大小不同を示す類円形正染核及び明瞭な核小体を有しています。
腫瘍細胞の脈管内浸潤は認められないとのことです。
芽生ちゃんはその後1週間入院して頂きました。
下は退院当日の写真です。
食欲も出てきて、経過も良好です。
赤血球数(RBC)は2,890,000/μlから4,700,000/μlまで増えました。
歯茎の色もピンク色に近くなっています。
飼い主様と一緒の1枚です。
出血多量ではありましたが、何とか無事退院出来て良かったです。
芽生ちゃんは、退院後の化学療法を勧めさせて頂きました。
ドキソルビシン単剤のプロトコルです。
退院後1週目の芽生ちゃんです。
食欲、元気もあり、経過は良好です。
下写真のドキソルビシンは、血管肉腫の化学療法に一般的に使用される抗がん剤です。
静脈に留置針を設置して点滴で投与します。
ドキソルビシンは単独で各種腫瘍に対し、高い抗腫瘍j効果を示します。
その一方、骨髄抑制や消化管毒性の他に心毒性、腎毒性などの有害事象を引き起こします。
また、血管外に漏出した場合、重篤な皮膚障害や組織壊死を招きます。
慎重に使用する必要があります。
今後は3週間間隔で5~6回、ドキソルビシンを点滴する予定です。
まだまだ治療が続いて大変ですが、しっかりスタッフ共々、芽生ちゃんをバックアップしていきます。
芽生ちゃん、飼主様頑張っていきましょう!
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本日ご紹介しますのは、犬の血管肉腫で脾臓が破裂して腹腔内出血に至った症例です。
これまでにも犬の血管肉腫についてコメントさせて頂きました。
過去の記事はこちらをクリックして頂けると幸いです。
血管肉腫は血管内皮細胞を起源とする悪性腫瘍です。
脾臓、右心房、皮下組織などに好発します。
特に脾臓原発性の血管肉腫は腫瘍部が急速に増殖し、破裂を伴い、致命的な大出血を引き起こします。
原発腫瘍の破裂を伴う腹腔内出血は、当初は無気力・食欲不振・可視粘膜蒼白などといった症状から急激な虚脱状態に至ります。
また脾臓破裂により、腫瘍細胞が腹腔内にばら撒かれることになります.
加えて、全身の血管内に血栓を生じる播種性血管内凝固不全(DIC)を引き起こす可能性があります。
血管肉腫、特に脾臓破裂は非常に危険な状態に陥るとの認識が必要です。
フレンチブルドッグの芽生ちゃん(9歳5か月齢、避妊済み、体重9.7㎏)は元気・食欲不振で来院されました。
歯茎の色を初めとして可視粘膜が貧血色を示しており(上写真)、明らかに元気がありません。
血液検査を実施したところ、RBC(赤血球数)が289,000/μl(正常値は5,500,000から8,500,000/μl)、Hb(ヘモグロビン)が6.7g/dl(正常値は12.0から18.0g/dl)、Ht(ヘマトクリット)が18.7%(正常値は37.0から55.0%)という貧血状態です。
CRP(炎症性蛋白値)が6.7mg/dl(正常値は0.0から0.7mg/dl)と体内で何かしらの炎症反応が起こっています。
レントゲン撮影を実施しました。
下写真の黄色丸は腫大した脾臓を示しています。
加えてエコー検査を行いました。
下写真は脾臓を示しています。
脾臓内には無エコー領域(黒く描出されている部分)が多く認められます。
この無エコー領域は、脾臓内に液体が貯留していることを示唆します。
さらに下写真では、腹腔内の腸管の間に液体が貯留している(黄色矢印)のが認められます。
以上の所見から脾臓から出血があり、いわゆる腹腔内出血(血腹)の状態に陥っていると推察されました。
血腹は緊急状態であり、出血部位を特定し(この場合は脾臓)、速やかな摘出が必要とされます。
早速、芽生ちゃんに全身麻酔を施します。
しっかり、維持麻酔が出来ています。
これから皮膚に切開を加えます。
腹膜下が暗赤色を呈しています。
これは腹腔内出血を疑います。
腹膜に切開を加えます。
下写真の切開部位(黄色丸)から血液が溢れ出し、黄色矢印の示す出血が認められました。
腹腔内をさらに切開して術野を拡大します。
加えてバキュームで血液を吸引します。
下写真のように腹腔内は血液で一杯になっています。
バキュームで吸引してもどんどん出血は続きます。
目票となる脾臓は血液の海の中に沈んでいます。
可能な限り血液を吸引して、脾臓にアプローチできるように努力します。
体外に脾臓を出したところです。
脾体部(黄色矢印)が腫大しているのが分かります。
脾臓の包膜からどうやら出血があるようです。
脾臓自体の出血を抑えるよりも脾臓自体を全摘出した方が、出血を止めるには確実です。
バイクランプを用いて脾動静脈、短胃動静脈、左胃大動静脈などをシーリングします。
シーリングを進めるうちに出血は少しづつ納まって来ました。
今回出血の原因となった破れた脾臓の包膜(下写真黄色丸)です。
無事、脾臓を摘出し閉腹しました。
芽生ちゃんの貧血状態が心配です。
私が手術している中、中嶋先生に当院の看板犬のドゥから輸血のための採血を指示しました。
ほぼ手術終了と同時に輸血を始めました。
芽生ちゃんの意識が戻って来ました。
まだ芽生ちゃんの視線が定まっていません。
ドゥからの輸血200mlを芽生ちゃんに入れます。
今回の芽生ちゃんの腹腔内から吸引した血液が約500mlありました。
下写真が回収した血液と使用したガーゼです。
摘出した脾臓です。
下写真の黄色丸は腫大した脾臓の脾体部を示します。
下写真の黄色丸、破れた脾臓包膜を示します。
2か所にわたって破れていました。
腫瘍が増殖する中で脾臓組織も脆弱になり、破裂に至ったと思われます。
脾臓包膜が破れて、実質が裂けています(下写真黄色矢印)。
脾体部の腫瘍と思われる部位にメスで割を入れてみました。
この脾臓を病理検査に出しました。
病理診断名は脾臓血管肉腫でした。
下写真は低倍率の病理写真です。
異型性のある内皮細胞により内張りされたスリット状・海綿状の血管腔が認められます。
中拡大像です。
腫瘤の大半は壊死、出血、繊維素析出で不明瞭です。
高倍率像です。
腫瘍細胞は少量の弱好酸性細胞質、大小不同を示す類円形正染核及び明瞭な核小体を有しています。
腫瘍細胞の脈管内浸潤は認められないとのことです。
芽生ちゃんはその後1週間入院して頂きました。
下は退院当日の写真です。
食欲も出てきて、経過も良好です。
赤血球数(RBC)は2,890,000/μlから4,700,000/μlまで増えました。
歯茎の色もピンク色に近くなっています。
飼い主様と一緒の1枚です。
出血多量ではありましたが、何とか無事退院出来て良かったです。
芽生ちゃんは、退院後の化学療法を勧めさせて頂きました。
ドキソルビシン単剤のプロトコルです。
退院後1週目の芽生ちゃんです。
食欲、元気もあり、経過は良好です。
下写真のドキソルビシンは、血管肉腫の化学療法に一般的に使用される抗がん剤です。
静脈に留置針を設置して点滴で投与します。
ドキソルビシンは単独で各種腫瘍に対し、高い抗腫瘍j効果を示します。
その一方、骨髄抑制や消化管毒性の他に心毒性、腎毒性などの有害事象を引き起こします。
また、血管外に漏出した場合、重篤な皮膚障害や組織壊死を招きます。
慎重に使用する必要があります。
今後は3週間間隔で5~6回、ドキソルビシンを点滴する予定です。
まだまだ治療が続いて大変ですが、しっかりスタッフ共々、芽生ちゃんをバックアップしていきます。
芽生ちゃん、飼主様頑張っていきましょう!
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2024年3月19日 火曜日
犬の脾血腫
こんにちは 院長の伊藤です。
犬において脾臓が腫大することは少なくありません。
脾臓が腫大すると血管肉腫に代表される悪性の腫瘍をイメージしがちです。
しかし、脾臓腫大でも良性腫瘍であったり、非腫瘍性のものである場合もあります。
以前、脾結節性過形成の記事を載せましたので、興味のある方はこちらを参照下さい。
さて本日ご紹介しますのは、脾臓の腫大であっても非腫瘍性である脾血腫についてコメントさせて頂きます。
パピヨンのコロ君(11歳8か月、雄、体重6.5kg)は元気消失・食欲廃絶とのことで来院されました。
腹部が腫大している感がありますので、レントゲン撮影を行いました。
下写真の黄色丸が腹腔内の大きなマス(塊)を示します。
さらに下写真の黄色矢印は、大きく腫大している脾臓を描出しているのが判明しました。
この時点でのコロ君の血液検査で赤血球数は536万、ヘマトクリット値は34.9%で正常値を共に下回っています。
コロ君はこれまで内分泌系疾患や免疫系疾患の既往歴はありません。
引き続き、超音波検査を実施しました。
下写真の脾臓内は大小さまざまな嚢胞が形成され、何らかの液体状のもの(血液や膿)が入っていると推察されました。
エコーの所見から血管肉腫のような脾臓実質の腫瘍ではなく、脾臓の内部で血管が破たんして出血した結果としての脾臓血腫が伺えます。
いずれにせよ、脾臓内での出血は進行している可能性があり、脾臓腫大に伴って、腹腔内での脾臓破裂が予想されますので脾臓全摘出をすることとしました。
コロ君に麻酔前投薬をします。
下写真の黄色丸は腹部の腫大を示しています。
腫大した脾臓が横隔膜を通して心臓を圧迫するのを防ぐために手術台を傾斜させます。
腹筋にメスを入れます。
開腹した腹腔内は大きく腫大した脾臓が顔を出しています。
脾臓を全摘出するにあたり、腹腔内から脾臓を持ち上げてある程度体外に出す必要があります。
この時、不用意に力を入れて脾臓を牽引しますと血管を損傷して、大出血する場合がありますので細心の注意が必要です。
脾臓を体外に出しました。
次いで脾動静脈や左胃大網動静脈などをバイクランプでシーリングしていきます。
以前は血管一本ずつを縫合糸で結紮して、大変時間を要しましたが、バイクランプを使用してから効率的に血管のシーリングが出来るようになりました。
血管のシーリングが完了して脾臓を拳上、摘出しているところです。
ほとんど出血はなく、無事脾臓の全摘出は終了しました。
今回のコロ君の脾臓の重量は894gありました。
特にこの時点で血腫を疑っておりましたので、脾摘出後の貧血が一番懸念されます。
脾臓を摘出した腹腔内ですが、特に周囲組織からの出血もなく、また腫大した脾臓が無くなった分、すっきりした感があります。
皮膚縫合が終了したところです。
麻酔から覚醒したコロ君です。
頑張りましたね。
摘出した脾臓は病理検査に出しました。
コロ君が入院中に脾血腫の診断が下りました。
腫瘍細胞は見つからないとのことでホッとしました。
1週間後の退院当日のコロ君です。
術後の貧血や播種性血管内凝固不全症候群(DIC)もなく、コロ君は無事退院して頂きました。
術後2週間が経過して抜糸のため、来院されたコロ君です。
退院後も体調は良好です。
縫合部も良好なので抜糸しました。
抜糸前と抜糸後の写真です。
摘出した脾臓です。
内部に血液を貯留しているため、暗赤色で膨満しているのがお分かり頂けると思います。
病理検査に提出するにあたり、メスで割を入れました。
メスを入れた瞬間に脾臓内の貯留した血液の血漿が勢いよく噴出しました。
脾臓の割面はこのように多量の血液を貯留しており、嚢胞の内面は浮腫を呈して血液の循環不全があったことを示しています。
下写真は病理検査の低倍率像です。
充血・うっ血や線維素析出により著明に拡張した複数の脾洞が認められます。
中等度の倍率像です。
脾洞の内皮細胞にも異型性細胞(腫瘍細胞)は認められません。
脾血腫は腹部への鈍性外傷や何らかの血管障害に続発して生ずる病変とされます。
今回、コロ君の血腫が何により生じたかは不明ですが、早急な処置を取れたのが良かったと思います。
脾臓の腫瘤性病変には腫瘍性(血管肉腫、リンパ腫、肥満細胞腫、組織球性肉腫、形質細胞腫)や非腫瘍性(脾血腫、結節性過形成、出血性梗塞など)の様々な物が含まれます。
結局、ある程度の脾臓の分類分けの見当がついたところで病理検査に出すことが肝要です。
そのためには外科的摘出が前提となることが多いでしょうから、ポイントは脾臓の腫大を早期に発見することに尽きます。
コロ君、お疲れ様でした!
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犬において脾臓が腫大することは少なくありません。
脾臓が腫大すると血管肉腫に代表される悪性の腫瘍をイメージしがちです。
しかし、脾臓腫大でも良性腫瘍であったり、非腫瘍性のものである場合もあります。
以前、脾結節性過形成の記事を載せましたので、興味のある方はこちらを参照下さい。
さて本日ご紹介しますのは、脾臓の腫大であっても非腫瘍性である脾血腫についてコメントさせて頂きます。
パピヨンのコロ君(11歳8か月、雄、体重6.5kg)は元気消失・食欲廃絶とのことで来院されました。
腹部が腫大している感がありますので、レントゲン撮影を行いました。
下写真の黄色丸が腹腔内の大きなマス(塊)を示します。
さらに下写真の黄色矢印は、大きく腫大している脾臓を描出しているのが判明しました。
この時点でのコロ君の血液検査で赤血球数は536万、ヘマトクリット値は34.9%で正常値を共に下回っています。
コロ君はこれまで内分泌系疾患や免疫系疾患の既往歴はありません。
引き続き、超音波検査を実施しました。
下写真の脾臓内は大小さまざまな嚢胞が形成され、何らかの液体状のもの(血液や膿)が入っていると推察されました。
エコーの所見から血管肉腫のような脾臓実質の腫瘍ではなく、脾臓の内部で血管が破たんして出血した結果としての脾臓血腫が伺えます。
いずれにせよ、脾臓内での出血は進行している可能性があり、脾臓腫大に伴って、腹腔内での脾臓破裂が予想されますので脾臓全摘出をすることとしました。
コロ君に麻酔前投薬をします。
下写真の黄色丸は腹部の腫大を示しています。
腫大した脾臓が横隔膜を通して心臓を圧迫するのを防ぐために手術台を傾斜させます。
腹筋にメスを入れます。
開腹した腹腔内は大きく腫大した脾臓が顔を出しています。
脾臓を全摘出するにあたり、腹腔内から脾臓を持ち上げてある程度体外に出す必要があります。
この時、不用意に力を入れて脾臓を牽引しますと血管を損傷して、大出血する場合がありますので細心の注意が必要です。
脾臓を体外に出しました。
次いで脾動静脈や左胃大網動静脈などをバイクランプでシーリングしていきます。
以前は血管一本ずつを縫合糸で結紮して、大変時間を要しましたが、バイクランプを使用してから効率的に血管のシーリングが出来るようになりました。
血管のシーリングが完了して脾臓を拳上、摘出しているところです。
ほとんど出血はなく、無事脾臓の全摘出は終了しました。
今回のコロ君の脾臓の重量は894gありました。
特にこの時点で血腫を疑っておりましたので、脾摘出後の貧血が一番懸念されます。
脾臓を摘出した腹腔内ですが、特に周囲組織からの出血もなく、また腫大した脾臓が無くなった分、すっきりした感があります。
皮膚縫合が終了したところです。
麻酔から覚醒したコロ君です。
頑張りましたね。
摘出した脾臓は病理検査に出しました。
コロ君が入院中に脾血腫の診断が下りました。
腫瘍細胞は見つからないとのことでホッとしました。
1週間後の退院当日のコロ君です。
術後の貧血や播種性血管内凝固不全症候群(DIC)もなく、コロ君は無事退院して頂きました。
術後2週間が経過して抜糸のため、来院されたコロ君です。
退院後も体調は良好です。
縫合部も良好なので抜糸しました。
抜糸前と抜糸後の写真です。
摘出した脾臓です。
内部に血液を貯留しているため、暗赤色で膨満しているのがお分かり頂けると思います。
病理検査に提出するにあたり、メスで割を入れました。
メスを入れた瞬間に脾臓内の貯留した血液の血漿が勢いよく噴出しました。
脾臓の割面はこのように多量の血液を貯留しており、嚢胞の内面は浮腫を呈して血液の循環不全があったことを示しています。
下写真は病理検査の低倍率像です。
充血・うっ血や線維素析出により著明に拡張した複数の脾洞が認められます。
中等度の倍率像です。
脾洞の内皮細胞にも異型性細胞(腫瘍細胞)は認められません。
脾血腫は腹部への鈍性外傷や何らかの血管障害に続発して生ずる病変とされます。
今回、コロ君の血腫が何により生じたかは不明ですが、早急な処置を取れたのが良かったと思います。
脾臓の腫瘤性病変には腫瘍性(血管肉腫、リンパ腫、肥満細胞腫、組織球性肉腫、形質細胞腫)や非腫瘍性(脾血腫、結節性過形成、出血性梗塞など)の様々な物が含まれます。
結局、ある程度の脾臓の分類分けの見当がついたところで病理検査に出すことが肝要です。
そのためには外科的摘出が前提となることが多いでしょうから、ポイントは脾臓の腫大を早期に発見することに尽きます。
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2024年3月17日 日曜日
犬の脾臓全摘手術(組織球性肉腫)
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、犬の脾臓を全摘出した症例です。
何らかの原因で脾臓が著しく腫大した場合、腹腔内の脾臓破裂を防ぐために全摘出を選択する場合があります。
その詳細については、過去の記事でチワワの脾臓摘出手術(結節性過形成)で載せてありますので参考にして下さい。
ゴールデンレトリバーの雑種であるレオン君(12歳10か月齢、体重23.5kg、去勢済)は食欲不振、嘔吐、下腹部の腫れが主徴で来院されました。
血液検査を行い、白血球数が21,800/μl及びCRP(炎症性蛋白)が7.0㎎/dlオーバーと明らかに体内で炎症が起こっているのが判明しました。
ちなみに赤血球数、ヘモグロビン値、ヘマトクリット値は正常値であり、貧血を疑う所見はありませんでした。
触診で左側下腹部の腫れが気になりましたのでレントゲン撮影を実施しました。
黄色丸で囲んである部位が大きく腫大していおり、明らかに異常です。
該当する臓器は脾臓であると思われます。
引き続き、エコー検査をしました。
エコー像では無エコーと低エコーの領域で占められる病変部が脾臓に認められました。
脾臓をエコー下で針生検して細胞診を行いました。
検査センターの病理医に調べて頂き、結果が1週間後に通知されました。
結果は、高悪性度のリンパ腫や赤血球貪食性組織球肉腫の疑いはない、つまり悪性腫瘍の疑いは低いとのことでした。
いつものことながら、細胞診と実際に摘出した臓器の病理学的診断は違うことが多いです。
細胞診の結果を待っている1週間で、レオン君の全身状態は次第に悪化してきました。
試験的に開腹し、私の肉眼的判断で脾臓を摘出するべきか否かを判断させて頂くこととしました。
脾臓を摘出するにしても、少しでも全身状態の良好な早期に取るべきであると思います。
レオン君に全身麻酔を施します。
開腹を行います。
腹筋を切開したところで非常に大きな塊(黄色矢印)が顔を出しました。
思っていた以上に脾臓が大きく腫大しています。
手荒に扱うと内部で大出血しますので、慎重に体外へ持ち上げます。
最初に顔を出したのは脾臓表面に突出した隆起の一部であることが判明しました。
その隆起の下部に腫大した脾臓が控えていました。
下写真は腫大した脾臓の全容です。
脾臓に大網(脂肪組織)が絡まっており、残念ながら脾臓の高度腫大は、写真では伝わらないかと思います。
この脾臓の状態を診て、全摘出することにしました。
脾臓は胃と複数の血管で繋がっています。
短胃動脈、左胃大網動静脈、脾動静脈の3本の血管をバイクランプ(下黄色矢印)でシーリングしていきます。
従来は縫合糸で血管をまとめて結紮し、血管を離断していたのですが、バイクランプを使用することで確実な血管シーリングが可能となりました。
脾臓摘出にかかる時間も大幅に短縮することが出来ます。
このようにして脾臓の全摘出は終了です。
脾臓摘出後、他の腹腔内臓器・リンパ節等に明らかな転移巣は認められませんでした。
高度に腫大した脾臓を摘出することで、レオン君のお腹は随分スッキリ、細くなりました。
出血も最小限に留めることが出来、手術は無事終了しました。
レオン君、お疲れ様でした!
摘出した脾臓です。
高度に腫大(特に縦方向)した脾臓であることが分かります。
脾臓の重量は2kgありました。
腫瘍であることは疑いなく、メスで患部を切開したところです。
この組織片を病理検査に出しました。
病理検査の結果では、異型性を示す紡錘形・多角形細胞が分裂している像(下黄色丸)が多く認められます。
病理検査では組織球性肉腫という診断でした。
組織球性肉腫は間質樹状細胞由来の悪性腫瘍とされます。
脾臓以外にもリンパ節、肝臓、肺、関節周囲などにも発生することが多いです。
この組織球性肉腫の好発犬種として、レトリーバー、ウェルシュコーギー、バーニーズマウンテンドッグなどが挙げられます。
レオン君は開腹して確認した限りでは、腹腔内の腫瘍は認められませんが、顕微鏡レベルでは何とも言えません。
念のため、内科的にも抗がん剤の投薬をさせて頂き、経過を診ていく予定です。
術後3日目のレオン君です。
食欲も戻り、表情も良くなってきました。
レオン君は1週間の入院の後、元気に退院することが出来ました。
ベティ(写真中央)と避妊手術で入院中のマリリンちゃん(青色☆)とレオン君(黄色☆)のスリーショットです。
みんなでレオン君の退院を祝っての一コマです。
レオン君は今後、組織球性肉腫がどんな挙動を示すか、経過観察していく必要があります。
レオン君、頑張っていきましょう!
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本日ご紹介しますのは、犬の脾臓を全摘出した症例です。
何らかの原因で脾臓が著しく腫大した場合、腹腔内の脾臓破裂を防ぐために全摘出を選択する場合があります。
その詳細については、過去の記事でチワワの脾臓摘出手術(結節性過形成)で載せてありますので参考にして下さい。
ゴールデンレトリバーの雑種であるレオン君(12歳10か月齢、体重23.5kg、去勢済)は食欲不振、嘔吐、下腹部の腫れが主徴で来院されました。
血液検査を行い、白血球数が21,800/μl及びCRP(炎症性蛋白)が7.0㎎/dlオーバーと明らかに体内で炎症が起こっているのが判明しました。
ちなみに赤血球数、ヘモグロビン値、ヘマトクリット値は正常値であり、貧血を疑う所見はありませんでした。
触診で左側下腹部の腫れが気になりましたのでレントゲン撮影を実施しました。
黄色丸で囲んである部位が大きく腫大していおり、明らかに異常です。
該当する臓器は脾臓であると思われます。
引き続き、エコー検査をしました。
エコー像では無エコーと低エコーの領域で占められる病変部が脾臓に認められました。
脾臓をエコー下で針生検して細胞診を行いました。
検査センターの病理医に調べて頂き、結果が1週間後に通知されました。
結果は、高悪性度のリンパ腫や赤血球貪食性組織球肉腫の疑いはない、つまり悪性腫瘍の疑いは低いとのことでした。
いつものことながら、細胞診と実際に摘出した臓器の病理学的診断は違うことが多いです。
細胞診の結果を待っている1週間で、レオン君の全身状態は次第に悪化してきました。
試験的に開腹し、私の肉眼的判断で脾臓を摘出するべきか否かを判断させて頂くこととしました。
脾臓を摘出するにしても、少しでも全身状態の良好な早期に取るべきであると思います。
レオン君に全身麻酔を施します。
開腹を行います。
腹筋を切開したところで非常に大きな塊(黄色矢印)が顔を出しました。
思っていた以上に脾臓が大きく腫大しています。
手荒に扱うと内部で大出血しますので、慎重に体外へ持ち上げます。
最初に顔を出したのは脾臓表面に突出した隆起の一部であることが判明しました。
その隆起の下部に腫大した脾臓が控えていました。
下写真は腫大した脾臓の全容です。
脾臓に大網(脂肪組織)が絡まっており、残念ながら脾臓の高度腫大は、写真では伝わらないかと思います。
この脾臓の状態を診て、全摘出することにしました。
脾臓は胃と複数の血管で繋がっています。
短胃動脈、左胃大網動静脈、脾動静脈の3本の血管をバイクランプ(下黄色矢印)でシーリングしていきます。
従来は縫合糸で血管をまとめて結紮し、血管を離断していたのですが、バイクランプを使用することで確実な血管シーリングが可能となりました。
脾臓摘出にかかる時間も大幅に短縮することが出来ます。
このようにして脾臓の全摘出は終了です。
脾臓摘出後、他の腹腔内臓器・リンパ節等に明らかな転移巣は認められませんでした。
高度に腫大した脾臓を摘出することで、レオン君のお腹は随分スッキリ、細くなりました。
出血も最小限に留めることが出来、手術は無事終了しました。
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高度に腫大(特に縦方向)した脾臓であることが分かります。
脾臓の重量は2kgありました。
腫瘍であることは疑いなく、メスで患部を切開したところです。
この組織片を病理検査に出しました。
病理検査の結果では、異型性を示す紡錘形・多角形細胞が分裂している像(下黄色丸)が多く認められます。
病理検査では組織球性肉腫という診断でした。
組織球性肉腫は間質樹状細胞由来の悪性腫瘍とされます。
脾臓以外にもリンパ節、肝臓、肺、関節周囲などにも発生することが多いです。
この組織球性肉腫の好発犬種として、レトリーバー、ウェルシュコーギー、バーニーズマウンテンドッグなどが挙げられます。
レオン君は開腹して確認した限りでは、腹腔内の腫瘍は認められませんが、顕微鏡レベルでは何とも言えません。
念のため、内科的にも抗がん剤の投薬をさせて頂き、経過を診ていく予定です。
術後3日目のレオン君です。
食欲も戻り、表情も良くなってきました。
レオン君は1週間の入院の後、元気に退院することが出来ました。
ベティ(写真中央)と避妊手術で入院中のマリリンちゃん(青色☆)とレオン君(黄色☆)のスリーショットです。
みんなでレオン君の退院を祝っての一コマです。
レオン君は今後、組織球性肉腫がどんな挙動を示すか、経過観察していく必要があります。
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