アーカイブシリーズ

2024年1月31日 水曜日

カメの卵塞(内科的治療)

こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのは、カメの卵塞です。


卵塞とは、排卵されたのちに産卵に至るまでの間に起こる卵の排出障害を指します。

卵塞は3つのタイプ(閉塞性、非閉塞性、異所性)に分類されます。

閉塞性卵塞は卵が大きすぎて通過できないケースです。

非閉塞性は不適切な産卵場、床材、温度・湿度などの飼育環境の不備に由来するものです。

加えて、栄養性疾患(代謝性骨疾患など)、感染性疾患(卵管炎、総排泄腔炎など)も非閉塞性の原因とされます。

異所性卵塞は、膀胱内や体腔内への卵の逸脱が原因とされます。


ギリシャリクガメのジョージちゃん(5歳、雌、体重1.3kg)は1週間前から産卵床を自ら作ってはいるけど、産卵する気配はなく、食欲もないとのことで来院されました。

実は、ジョージちゃんは半年前にも卵塞になり、当院で治療させて頂きました。





今回もおそらく卵塞に陥ってると思われます。

レントゲン撮影を実施しました。

下写真のように4個の卵が確認できます。

卵の大きさは若干、大小不同の傾向がありますが、卵殻の厚さに異常はなく、骨盤腔を通過できないほどの過大な卵はありません。





ジョージちゃんはレントゲン上でも骨盤の変形や狭窄はないため、非閉塞性の卵塞と思われます。

この場合、産卵を誘発させるためにオキシトシンの注射(3~5U/kg)を実施します。

なお、卵胞うっ滞や閉塞性卵塞になっている場合は禁忌となり、注意が必要です。

加えて、低カルシウム血症の補正のため、グルコン酸カルシウム(100mg/kg)を注射します。

下写真は、ジョージちゃんに上記2種の注射を行っている所です。





帰宅直後にまず2個産卵したとの電話がありました。

その後、当日中に残りの2個も引き続き産卵したそうです。

下写真は、帰宅直後の2個産卵した模様を、飼主様が撮って頂いたものです。





閉塞性卵塞や異所性卵塞、あるいは内科的治療に反応しない卵塞は外科的治療が必要となります。

甲羅の腹甲骨を電気鋸でカットし、卵巣・卵管を摘出する開腹術が選択される場合があります。

その一方、卵塞については、効果的な予防法はありません。

産卵に適切な飼育環境を整え、食欲不振・産卵行動・いきみ・活動性の亢進や低下・体重減少が認められたら速やかに受診されることをお勧めします。



今回は、内科的治療で産卵が出来て良かったです。

ジョージちゃん、お疲れ様でした!



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2024年1月30日 火曜日

エボシカメレオンの直腸脱と卵塞

こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのは、カメレオンの卵塞(卵づまり)とそれに伴う直腸脱の症例です。

カメレオンも性的に発情し、交尾、産卵、孵化というプロセスをたどって繁殖をします。

性的成熟と交尾のタイミングも難しいのですが、産卵については他の爬虫類と同様、卵塞(卵づまり)が命に関わる場合があります。

今回は卵塞が背景にあり、直腸脱に至った症例です。


エボシカメレオンのキョロちゃん(2歳8か月、雌)はお尻から何か飛び出し、元気食欲がないとのことで、三重県から来院されました。

下写真のキョロちゃんは眼が窪んでおり、脱水が進行しているのが伺えます。





総排泄腔を確認したところ、直腸脱(下写真黄色丸)が認められました。



脱出した直腸粘膜にまだ傷はなく、整復は可能と思われました。



まず脱出直腸を綺麗に洗浄します。





洗浄後に患部にブドウ糖液を滴下します。

これは浸透圧差によって、浮腫により腫大した直腸粘膜の水を抜くために行います。



加えて、脱出直腸の滑りを良くするために流動パラフィンを患部に塗布します。



綿棒を用いて、優しく直腸を整復して行きます。





何本か、綿棒を用いて整復をしていきますが、脱出直腸は脆弱のため、なるべく出血をさせないよう配慮が必要です。



直腸が戻ったら、次は再脱出を防ぐために総排泄口周りの皮膚を何針かで縫合します。



左側2針、右側1針を縫合しました。

この総排泄行の幅で排便ができれば大丈夫です。



脱出直腸は整復しましたが、キョロちゃんの腹部は大きく膨隆しています。



下写真の黄色矢印は腫れた下腹部を表します。





念のため、レントゲン撮影を実施しました。



かなりの数の卵が腹腔内に認められます。

現在、抱卵(妊娠)状態にあるようです。



産気付いてくると腹圧をかけ始めますので、それが直腸脱の原因になったものと考えられます。

一旦、直腸脱の整復処置は終了しましたのでキョロちゃんには帰宅して頂きました。

5日後に飼主様から、キョロちゃんが無事産卵したとの電話を頂きました。

エボシカメレオンの場合、抱卵(妊娠)期間は30~40日間とされます。

産卵数は国内の報告では20~80個、孵卵期間は6~9か月と報告されてます。



キョロちゃんの産卵数は62個あったそうです。

総排泄口の縫合糸は、飼主様に切ってもらいました。

その後の再脱出もなく、無事今回の件は治療終了しました。

産卵がスムーズに出来なければ、最終的に卵管ごと摘出する必要があります。

カメレオンのように産卵数の多い爬虫類の卵塞は大変ですね。




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2024年1月29日 月曜日

デレマカメレオンの口腔内膿瘍(マウスロット)

こんにちは 院長の伊藤です。


カメレオンはコオロギ等の生餌を捕食します。

当然生餌ですから、口の中に取り込んだ瞬間に即死するわけはなく、口腔内で暴れたりすると口腔粘膜を傷つけたりします。

その結果、口腔内の炎症・膿瘍が生じます。

この口腔内炎症・膿瘍を総称してマウスロットと呼びます。

以前、パンサーカメレオンの口腔内膿瘍についてコメントさせて頂きました。

その詳細は、こちらをクリックして下さい。


デレマカメレオンのデルマちゃん(雌、2歳)は右側口角部の腫脹が気になり、来院されました。



デレマカメレオンは俗に角カメレオンと呼ばれる、3本角を有するジャクソンカメレオンに代表される品種の仲間です。

正式にはカメレオン属ミツヅノカメレオン亜属デレマカメレオンと呼びます。

雄は3本の角がありますが、雌にはありません。

雄はこの3本の角をぶつけ合って戦うそうです。

デレマちゃんは口角の内側が腫れて、その痛みにより食欲がありません。



下写真黄色丸の部位が腫脹しているのがお分かり頂けると思います。





上から見た状態ですが、下写真黄色丸の部位が顕著に腫れています。



指で圧迫を加えると流動感を感じます。

口腔内に膿瘍が出来ているように思われます。



歯や舌を傷つけないように綿棒を使用して圧迫排膿をします。



口角の外側面の痂皮(かさぶた)が剥がれました。



下写真黄色矢印が圧迫されて出て来た膿です。



みるみる多量の膿が出て来ます。



皆さん、お気づきだと思いますがデレマちゃんの体表部が黒い点が出て来ました。

この小さな黒い斑点は警戒体勢になると現れるとされます。

いきなり患部を圧迫されて、デレマちゃんはかなりご立腹のようです。





デルマちゃんは痛がって暴れますが、外見上ワサビのような膿が多量に出ました。



患部を排膿後は、顔面もすっきりしてきました。



下写真黄色丸の部位に示すように腫れもある程度引きました。



口腔内をゾンデ等で洗浄できると良いのですが、カメレオンは威嚇した時に誤嚥するケースもあるので避けた方が賢明です。



デレマちゃんには、しばらく抗生剤を内服して頂き、治療を継続する予定です。



綺麗な黒色斑点ですね。

緑の体表色に映えています。



デレマちゃん、お疲れ様でした!






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2024年1月28日 日曜日

ジャクソンカメレオンの手根関節炎

こんにちは 院長の伊藤です。

多くのカメレオンは樹上生活をします。

飼育ケージ内の木の上につかまって、一日の大部分を過ごすわけです。

当然、全体重を支える関節部には荷重があり、関節部が何らかの原因で炎症を起こしますと樹上生活が不可能となります。

つまり、木につかまれなくなってしまうのです。

ひいては餌を上手に食べることすら出来なくなります。




今回、ご紹介しますのはジャクソンカメレオンのマイケル君(年齢不詳、雄)です。

マイケル君ははるばる静岡市からご来院頂きました。



ジャクソンカメレオンは見た目が、トリケラトプスという恐竜に似ていて個人的に大好きです。

実は、マイケル君は手首の関節(手根関節)が腫れてしまい、木に登ることが困難になっていました。

下写真黄色丸の箇所が腫れています。



レントゲン撮影を実施しました。





カメレオンの前肢は2本の指で出来ているように思えますが、上写真でお分かりのように指骨が3本と2本の2つに手袋の様に分かれています。

前腕骨(橈・尺骨)は正常で骨折も認められません。

また皮膚の外傷は認められません。

手根関節が炎症を起こしている可能性があります。

前腕部の腫脹が激しく、細菌感染を起こしている可能性もあります。

下写真で左右の手首の太さの違いが明瞭かと思います。





関節部の炎症、腫脹を抑えるため抗炎症剤、ビタミンD3 、抗生剤を内服して頂くこととしました。





マイケル君、早く前腕部の腫れが引いて、しっかり木に登れるようになって下さいね。

また経過は追って、お知らせいたします。





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2024年1月27日 土曜日

エボシカメレオンのグロテスク・スマイル(妊娠含む)


こんにちは 院長の伊藤です。


先月の当院のエキゾッチクアニマルの新患数が、犬猫の新患合計数の3倍に達している事実を知りびっくりしてます。

たくさんの動物病院のHPを拝見していますが、疾病紹介については犬猫よりエキゾッチクアニマルは、はるかに少数派であまり掲載されてません。

ついつい疾病の目新しさ・アピール度を考慮して当院ではエキゾチックアニマルの紹介が多くなってしまった傾向があると思います。

ある意味、これも自分の使命と思っていますので、今後もエキゾチックアニマルの疾病紹介は継続していきます。

勿論、エキゾッチクアニマル以上に犬猫は好きですから、犬猫編も力を入れて行きますのでよろしくお願い致します!



さて本日ご紹介させて頂きますのは、エボシカメレオンのグロテスク・スマイルです。

英語の直訳で醜い笑顔です。

以前にグリーンイグアナの代謝性骨疾患でグロテスク・スマイルについてコメントさせて頂きました。

その詳細に興味のある方は、こちらをクリックして下さい。


エボシカメレオンのねえさん(8か月齢、雌)はお腹が張ってきたとのことで来院されました。





腹部が大きく腫大しています。

妊娠の可能性もありますのでレントゲン撮影を実施しました。

ねえさんの実寸大は下のレントゲン写真の通りです。

10数センチの体です。



拡大像です。

黄色丸の部分が卵管で卵がたくさん詰まっています。







エボシカメレオンは、約1か月の妊娠期間を経て床面に産卵床を掘り、20~40個の卵を産卵します。

ねえさんはそろそろ産卵の時期に達しているようです。

無事産卵が出来るように産卵床を含めた環境整備が重要となります。


加えて、ねえさんを診て気になるのは、顎の変形です。

下写真黄色丸の部分、特に下顎が変形しているのがお分かりいただけると思います。

ねえさんは口をしっかり閉じることが出来ません。





恐らくねえさんは、代謝性骨疾患(MBD)に罹患して顎が変形したものと思われます。

MBDによるこの顎の変形を称してグロテスク・スマイルと言います。

幼体期の餌のバランスは非常に重要です。

特にビタミンDとカルシウム、そして十分な紫外線量が取れていないと代謝性骨疾患(MBD)になります。

特に幼体期は十分な骨格を形成するためカルシウムを大量に必要とします。

MBDになりますと、背骨・尻尾・手足の変形や顎の変形が起こります。


MBDは自然界には存在しない疾病です。

グリーンイグアナのMBDの症例報告でも申し上げたのですが、MBDは100%人為的な原因(食餌・温度管理・紫外線照射量)
で発症します。





MBDの治療法は十分な紫外線量です。

そのため爬虫類用の紫外線ランプを使用して下さい。

そして十分なカルシウムを含む野菜(青梗菜、コマツナ等)、さらにビタミンDを与えて下さい。

残念ながら、幼体期のMBDによる骨変形に関わる症状・病態は回復させることは困難とされます。

加えて、ねえさんの場合は妊娠中ということで、カルシウムが不足の状態になりますと卵づまりになる可能性もあります。

卵の卵殻形成にカルシウムが消費され、さらにMBDの個体はただでさえ血中カルシウム濃度が低いため、卵殻は非常に軟弱となり卵管をスムーズに降りることが出来なくなります。

結果として卵つまりとなった場合、開腹手術をして卵管切開して卵を摘出する必要が生じます。

最悪そのような状況にならないよう祈念したいところです。







その後、ねえさんは無事産卵できたとの報告をいただきました。

爬虫類の疾病は、その多くが食餌や飼育環境が原因で起こるケースが非常に多いです。

特に幼体を飼育される場合、この2点は気を付けて頂きたいと思います。




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