アーカイブシリーズ
2022年5月25日 水曜日
アーカイブシリーズ モルモットの乳腺腫瘍・脂肪腫及び膣脱
こんにちは 院長の伊藤です。
現在、ブログ記事を数編、同時進行でまとめております。
まだ掲載まで、時間がかかりそうなので、過去の記事からモルモットの乳腺腫瘍 のみならず脂肪腫と膣脱まで、同時に発症した事例をご紹介します。
宜しかったら、アーカイブシリーズ、ご覧になって下さい。
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのはモルモットの乳腺腫瘍です。
さらに乳腺腫瘍に加えて何ヶ所も脂肪腫の合併症が認められたケースです。
アビシニアン・モルモットのくろちゃん(4歳、雌、体重900g))は乳腺が大きく腫大しているとのことで来院されました。
下写真の黄色丸が右側の高度の乳腺が腫大してます。
モルモットの乳腺は雄雌ともに両鼠蹊部に一対しか存在しません。
さらに加えて、くろちゃんは膣が脱出しています(赤矢印)。
患部を拡大した写真です。
細胞診の結果、乳腺腫瘍であることが判明しました。
実はくろちゃんの飼主様はこの腫瘍が大きい点から、手術による摘出は諦め、抗生剤や鎮痛剤で対症療法を受けてみえました。
その中で膣脱を発症したことから、手術による解決を希望される運びとなりました。
まずレントゲン撮影を実施しました。
黄色矢印が腫瘍を示します。
何ヶ所も腫瘍が認められます。
特に右乳腺は腫脹が著しく、熱感を伴っているため乳腺内の膿瘍も考えられます。
既に患部の腫脹は高度で床材との干渉による出血も甚だしい状態(下写真黄色丸)です。
腫瘍摘出手術と膣脱整復手術を行います。
イソフルランによる導入麻酔を実施します。
次いで麻酔マスクによる維持麻酔に変えます。
右乳房は皮膚が裂けており、患部にはチモシーなどが入り込んでいる状態なので念入りに消毒洗浄を行います。
皮膚の洗浄・剃毛・消毒が完了しました。
下写真黄色矢印が腫瘍を示しています。
右乳房は最後にして、まずは小さな腫瘍から摘出して行きます。
電気メスのモノポーラとバイポーラを使い分けて摘出します。
脂肪腫です。
良性の腫瘍ですが、モルモットの場合は突然大きく腫大することもあるため、今回は全て摘出することとしました。
さて次は、右乳房摘出です。
本来なら、乳房の付根から皮膚ごと切開するところです。
おそらく摘出後の縫い代が確保できないと考えて、すでに裂けている皮膚から切開を始めました。
腫瘍内部には膿瘍が形成されており、少し圧迫するだけで排膿があります(下写真黄色矢印)。
最後に皮膚を離断する予定で皮膚内を削ぐように乳腺腫瘍をバイポーラで剥離切除して行きます。
乳房ごと摘出完了です。
腫瘍の急激な増殖で伸びきってる皮膚を離断します。
乳腺腫瘍摘出後の患部です。
大きな出血もなく、摘出できました。
腫瘍切除した部位をこれから縫合して行きます。
小さな体に何針も縫合するのは可哀そうですが、創部が癒合するまで我慢して頂きます。
縫合終了です。
腫大していた右乳房周辺はこれでスッキリしました。
最後に膣脱を整復します。
膣を消毒し、鉗子でゆっくりと押し戻すことで、整復はスムーズに完了しました。
再脱出を防ぐために外陰部の両端を縫合して、絞り込みます。
これで、手術は全て終了となります。
麻酔の覚醒直後のくろちゃんです。
翌日は少しですが、食餌を食べる元気が出てきています。
今回摘出した腫瘍です。
上の写真の右乳腺腫瘍の病理写真です。
黄色丸は壊死した乳房組織で、赤丸は壊死組織を取り囲むリンパ球、マクロファージ、白血球などの炎症系細胞群です。
下写真の赤矢印は乳汁で、黄色丸は脂腺に分化した腫瘍細胞です。
下写真黄色矢印も同じく、脂腺分化した乳腺腫瘍細胞です。
今回のくろちゃんの場合は、多形性はあるものの異型性の乏しい乳腺単純腺腫とのことでした。
悪性腫瘍の所見は認められなかったのは幸いでした。
ただくろちゃんは、腫瘍の損傷部からの細菌感染が高度なので、抗生剤の投薬は暫く必要となります。
モルモットの腫瘍は短期間で高度に腫大しますので、早期発見早期摘出を心がけて頂ければと思います。
くろちゃん、お疲れ様でした!
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現在、ブログ記事を数編、同時進行でまとめております。
まだ掲載まで、時間がかかりそうなので、過去の記事からモルモットの乳腺腫瘍 のみならず脂肪腫と膣脱まで、同時に発症した事例をご紹介します。
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こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのはモルモットの乳腺腫瘍です。
さらに乳腺腫瘍に加えて何ヶ所も脂肪腫の合併症が認められたケースです。
アビシニアン・モルモットのくろちゃん(4歳、雌、体重900g))は乳腺が大きく腫大しているとのことで来院されました。
下写真の黄色丸が右側の高度の乳腺が腫大してます。
モルモットの乳腺は雄雌ともに両鼠蹊部に一対しか存在しません。
さらに加えて、くろちゃんは膣が脱出しています(赤矢印)。
患部を拡大した写真です。
細胞診の結果、乳腺腫瘍であることが判明しました。
実はくろちゃんの飼主様はこの腫瘍が大きい点から、手術による摘出は諦め、抗生剤や鎮痛剤で対症療法を受けてみえました。
その中で膣脱を発症したことから、手術による解決を希望される運びとなりました。
まずレントゲン撮影を実施しました。
黄色矢印が腫瘍を示します。
何ヶ所も腫瘍が認められます。
特に右乳腺は腫脹が著しく、熱感を伴っているため乳腺内の膿瘍も考えられます。
既に患部の腫脹は高度で床材との干渉による出血も甚だしい状態(下写真黄色丸)です。
腫瘍摘出手術と膣脱整復手術を行います。
イソフルランによる導入麻酔を実施します。
次いで麻酔マスクによる維持麻酔に変えます。
右乳房は皮膚が裂けており、患部にはチモシーなどが入り込んでいる状態なので念入りに消毒洗浄を行います。
皮膚の洗浄・剃毛・消毒が完了しました。
下写真黄色矢印が腫瘍を示しています。
右乳房は最後にして、まずは小さな腫瘍から摘出して行きます。
電気メスのモノポーラとバイポーラを使い分けて摘出します。
脂肪腫です。
良性の腫瘍ですが、モルモットの場合は突然大きく腫大することもあるため、今回は全て摘出することとしました。
さて次は、右乳房摘出です。
本来なら、乳房の付根から皮膚ごと切開するところです。
おそらく摘出後の縫い代が確保できないと考えて、すでに裂けている皮膚から切開を始めました。
腫瘍内部には膿瘍が形成されており、少し圧迫するだけで排膿があります(下写真黄色矢印)。
最後に皮膚を離断する予定で皮膚内を削ぐように乳腺腫瘍をバイポーラで剥離切除して行きます。
乳房ごと摘出完了です。
腫瘍の急激な増殖で伸びきってる皮膚を離断します。
乳腺腫瘍摘出後の患部です。
大きな出血もなく、摘出できました。
腫瘍切除した部位をこれから縫合して行きます。
小さな体に何針も縫合するのは可哀そうですが、創部が癒合するまで我慢して頂きます。
縫合終了です。
腫大していた右乳房周辺はこれでスッキリしました。
最後に膣脱を整復します。
膣を消毒し、鉗子でゆっくりと押し戻すことで、整復はスムーズに完了しました。
再脱出を防ぐために外陰部の両端を縫合して、絞り込みます。
これで、手術は全て終了となります。
麻酔の覚醒直後のくろちゃんです。
翌日は少しですが、食餌を食べる元気が出てきています。
今回摘出した腫瘍です。
上の写真の右乳腺腫瘍の病理写真です。
黄色丸は壊死した乳房組織で、赤丸は壊死組織を取り囲むリンパ球、マクロファージ、白血球などの炎症系細胞群です。
下写真の赤矢印は乳汁で、黄色丸は脂腺に分化した腫瘍細胞です。
下写真黄色矢印も同じく、脂腺分化した乳腺腫瘍細胞です。
今回のくろちゃんの場合は、多形性はあるものの異型性の乏しい乳腺単純腺腫とのことでした。
悪性腫瘍の所見は認められなかったのは幸いでした。
ただくろちゃんは、腫瘍の損傷部からの細菌感染が高度なので、抗生剤の投薬は暫く必要となります。
モルモットの腫瘍は短期間で高度に腫大しますので、早期発見早期摘出を心がけて頂ければと思います。
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投稿者 もねペットクリニック | 記事URL
2022年5月16日 月曜日
アーカイブシリーズ リスザルのターバンヘッド(骨格壊血症)
こんにちは 院長の伊藤です。
ゴールデンウィークも終わり、祝祭日も診察している当院としてはホッとしている所です。
ゴールデンウィーク中に受診された飼主様におかれましては、3,4時間待ちと大変ご迷惑をおかけしました。
さて、本日は趣向を変えまして、霊長目オマキザル科のリスザルについての記事を載せます。
動物種によっては、栄養学的欠乏で大変な疾病に至る場合があります。
今回のリスザルもその一例です。
それでは、アーカイブシリーズをどうぞご覧下さい。
こんにちは 院長の伊藤です。
当院は基本的に霊長類の診察は行っていません。
それは、当院がショッピングモール内にありますので、何かの折に病院から逃走してモール内で捕り物沙汰になりますと責任問題となるからです。
それでも、治療が必要で性格がおとなしく、飼主様が確実に保定できる場合に限ってのみ診察します。
そんな霊長類のサルの中でも、新世界サルに分類されるリスザルについてコメントさせて頂きます。
リスザルの福君(3歳、雄)は、頭が大きく変形してきたとのことで来院されました。
頭部を確認しますと皮下に液体が貯留しています。
下写真黄色丸の様に頭が変形しているかのように腫大しています。
側面です。
上から見ると、額から後頭部にかけて腫大しているのがお分かり頂けると思います。
なぜ福君はこのような容貌になってしまったのでしょう。
この症状はリスザルでは比較的遭遇することの多いターバンヘッドと呼ばれる症状です。
サル類は旧世界ザルと新世界ザルに分かれ、リスザルは新世界ザルに属します。
新世界ザルはビタミンとカルシウムの要求量が多く、バランスの悪い食生活を背景にしたビタミン欠乏症は多いです。
犬や猫などは自身でビタミンCを合成する能力があるのですが、モルモットやサル、ヒトは合成できない動物です。
したがって、食餌にビタミンCが必ず入っていなければなりません。
このターバンヘッドはビタミンC欠乏により引き起こされます。
ビタミンCは血管の構造・機能の保持や類骨形成に重要なコラーゲン合成に関与しています。
特にリスザルではビタミンC欠乏で骨膜出血が引き起こされ、血腫が形成されます。
血腫は時として巨大化し、あたかもターバンを頭部に巻きつけたよな外貌(ターバンヘッド)を呈します。
頭部の骨の状態を確認するため、レントゲン撮影を実施しました。
下写真の黄色矢印は血腫で腫脹した頭部です。
下写真では一部骨膜が破たんして骨新生しています(黄色矢印)。
骨の表面を覆う骨膜は、骨折時に障害を受けてその部位の骨新生を促すといった機能を持ちます。
しかし、ターバンヘッドの場合は骨膜の血管が破たんして出血が起こり、血腫が形成されて、その圧迫で新たにあらぬ方向・部位に骨が形成されてしまいます。
結果として、頭部や顔面が変形していく場合がありますので、状況に応じて過剰に新生した骨組織を削って行ったり、整形処置が必要となるケースもあります。
頭部血腫が福君の場合、進行してましたので血腫対策として皮下から血液を吸引して抜くこととしました。
福君は性格が穏やかで興奮することなく、素直に処置を受け入れてくれました。
頭部血腫の吸引血液は25mlに及びました。
ただ体重が950gという軽量なので、これ以上吸引すると貧血をおこしたり、ショック状態に陥っては大変なので終了と終了としました。
下写真の血液吸引後の福君は、頭部がすっきりしたのがお分かり頂けると思います。
残念ながら、この3日後に頭部の血腫は同じくらいに貯留してしまいました。
治療法としては、アスコルビン酸(25mg/kg/day)を投薬します。
福君の場合、ショップにいる頃からドッグフードに多少の栄養分を添加したフードを与えられていたとのこと。
リスザルの場合は、30~60日間ビタミンC欠乏が続くとターバンヘッドが発症するとされています。
現在、福君はモンキーフードを給餌してもらい栄養学的な問題点は改善されました。
しばらくは、アスコルビン酸の投薬は続きます。
福君、しっかり治していきましょう。
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ゴールデンウィークも終わり、祝祭日も診察している当院としてはホッとしている所です。
ゴールデンウィーク中に受診された飼主様におかれましては、3,4時間待ちと大変ご迷惑をおかけしました。
さて、本日は趣向を変えまして、霊長目オマキザル科のリスザルについての記事を載せます。
動物種によっては、栄養学的欠乏で大変な疾病に至る場合があります。
今回のリスザルもその一例です。
それでは、アーカイブシリーズをどうぞご覧下さい。
こんにちは 院長の伊藤です。
当院は基本的に霊長類の診察は行っていません。
それは、当院がショッピングモール内にありますので、何かの折に病院から逃走してモール内で捕り物沙汰になりますと責任問題となるからです。
それでも、治療が必要で性格がおとなしく、飼主様が確実に保定できる場合に限ってのみ診察します。
そんな霊長類のサルの中でも、新世界サルに分類されるリスザルについてコメントさせて頂きます。
リスザルの福君(3歳、雄)は、頭が大きく変形してきたとのことで来院されました。
頭部を確認しますと皮下に液体が貯留しています。
下写真黄色丸の様に頭が変形しているかのように腫大しています。
側面です。
上から見ると、額から後頭部にかけて腫大しているのがお分かり頂けると思います。
なぜ福君はこのような容貌になってしまったのでしょう。
この症状はリスザルでは比較的遭遇することの多いターバンヘッドと呼ばれる症状です。
サル類は旧世界ザルと新世界ザルに分かれ、リスザルは新世界ザルに属します。
新世界ザルはビタミンとカルシウムの要求量が多く、バランスの悪い食生活を背景にしたビタミン欠乏症は多いです。
犬や猫などは自身でビタミンCを合成する能力があるのですが、モルモットやサル、ヒトは合成できない動物です。
したがって、食餌にビタミンCが必ず入っていなければなりません。
このターバンヘッドはビタミンC欠乏により引き起こされます。
ビタミンCは血管の構造・機能の保持や類骨形成に重要なコラーゲン合成に関与しています。
特にリスザルではビタミンC欠乏で骨膜出血が引き起こされ、血腫が形成されます。
血腫は時として巨大化し、あたかもターバンを頭部に巻きつけたよな外貌(ターバンヘッド)を呈します。
頭部の骨の状態を確認するため、レントゲン撮影を実施しました。
下写真の黄色矢印は血腫で腫脹した頭部です。
下写真では一部骨膜が破たんして骨新生しています(黄色矢印)。
骨の表面を覆う骨膜は、骨折時に障害を受けてその部位の骨新生を促すといった機能を持ちます。
しかし、ターバンヘッドの場合は骨膜の血管が破たんして出血が起こり、血腫が形成されて、その圧迫で新たにあらぬ方向・部位に骨が形成されてしまいます。
結果として、頭部や顔面が変形していく場合がありますので、状況に応じて過剰に新生した骨組織を削って行ったり、整形処置が必要となるケースもあります。
頭部血腫が福君の場合、進行してましたので血腫対策として皮下から血液を吸引して抜くこととしました。
福君は性格が穏やかで興奮することなく、素直に処置を受け入れてくれました。
頭部血腫の吸引血液は25mlに及びました。
ただ体重が950gという軽量なので、これ以上吸引すると貧血をおこしたり、ショック状態に陥っては大変なので終了と終了としました。
下写真の血液吸引後の福君は、頭部がすっきりしたのがお分かり頂けると思います。
残念ながら、この3日後に頭部の血腫は同じくらいに貯留してしまいました。
治療法としては、アスコルビン酸(25mg/kg/day)を投薬します。
福君の場合、ショップにいる頃からドッグフードに多少の栄養分を添加したフードを与えられていたとのこと。
リスザルの場合は、30~60日間ビタミンC欠乏が続くとターバンヘッドが発症するとされています。
現在、福君はモンキーフードを給餌してもらい栄養学的な問題点は改善されました。
しばらくは、アスコルビン酸の投薬は続きます。
福君、しっかり治していきましょう。
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投稿者 もねペットクリニック | 記事URL