アーカイブシリーズ
2024年3月31日 日曜日
オカメインコの卵管蓄卵材症
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、オカメインコの卵管蓄卵材症という舌を咬みそうな症状です。
もとより、鳥は排卵して卵管を卵が下りていく間に卵白や卵殻が形成され、産卵に至るというプロセスがあります。
卵が無事卵管から総排泄腔へとスムーズに降りてくれれば、以前ご紹介した卵塞にはならずに済みます。
今回の卵管蓄卵材症は、卵を形成すべき材料が異常に分泌され続け、これらが排泄されずに卵管内に蓄積した状態の疾病です。
オカメインコのほたるちゃんは、下腹部が異常に張ってきたということで来院されました。
上の写真の黄色丸で囲んだ部分が腫脹している下腹部です。
触診しますと指先に卵殻の硬い感じがありました。
まずは卵塞の可能性を考慮して、指先で優しく圧迫して総排泄孔から卵を出そうと試みました。
普通の卵塞ならば、そんなに苦労せずに卵が顔を出してくれるのですが、今回は厳しい感じです。
総排泄腔から卵管が脱出してきました。
早速、卵管の状態を把握するためにレントゲン撮影を実施しました。
この時点で、手術の必要性を感じてマスクをかけ、全身麻酔を施しました。
上の写真を局所的に拡大します。
黄緑色の矢印は脱出した卵管です。
黄色丸で示したのが形成が未熟なままの卵殻と卵材です。
ほたるちゃんはここのところ、発情が酷く産卵も集中していたとの事です。
まずは、脱出した卵管に切開を加えて卵材の摘出を試みました。
ゆで卵のような卵黄や卵白が出て来ました。
卵白と卵黄の混在物や卵殻の破片のようなものが色々出て来ました。
取れる限界まで卵材を回収して卵管を縫合します。
次に縫合した卵管を総排泄腔から中に戻します。
これで手術は終了です。
摘出した卵材の一部は下の通りです。
卵管内に蓄積する卵材は、卵黄・卵白・卵殻・卵殻膜等を原材料として、ゼリー状、液状、粘土状、砂状、結石状のものから完成形に近い卵状まで様々な形で存在するそうです。
この疾病は、犬猫で比較するならば子宮蓄膿症に匹敵するものです。
原因としては、卵材の異常分泌や卵材の排出不全が挙げられます。
この疾病に罹患した場合、何も処置せずに放置しておくと卵材が自然に吸収されることはなく、徐々に蓄積されていく傾向にあります。
長期にわたる卵材停滞の場合は、卵管炎から腹膜炎に至ることがあり、また卵材の慢性刺激により、卵管腫瘍が誘発されるケースもあります。
いずれにせよ、完治を目指すならば卵管の摘出がベストです。
今回のほたるちゃんの場合は全身状態も考慮して、開腹手術・卵管摘出手術は実施しませんでしたが、次に再発して全身状態が良好ならば、卵管摘出を考えるべきだと思います。
麻酔から覚醒したほたるちゃんです。
術後の覚醒も良好で、脱水を防ぐために水分補給と抗生剤を投薬してます。
今後の経過を注意して診ていきます。
翌日、ほたるちゃんは無事退院されました。
本日ご紹介しますのは、オカメインコの卵管蓄卵材症という舌を咬みそうな症状です。
もとより、鳥は排卵して卵管を卵が下りていく間に卵白や卵殻が形成され、産卵に至るというプロセスがあります。
卵が無事卵管から総排泄腔へとスムーズに降りてくれれば、以前ご紹介した卵塞にはならずに済みます。
今回の卵管蓄卵材症は、卵を形成すべき材料が異常に分泌され続け、これらが排泄されずに卵管内に蓄積した状態の疾病です。
オカメインコのほたるちゃんは、下腹部が異常に張ってきたということで来院されました。
上の写真の黄色丸で囲んだ部分が腫脹している下腹部です。
触診しますと指先に卵殻の硬い感じがありました。
まずは卵塞の可能性を考慮して、指先で優しく圧迫して総排泄孔から卵を出そうと試みました。
普通の卵塞ならば、そんなに苦労せずに卵が顔を出してくれるのですが、今回は厳しい感じです。
総排泄腔から卵管が脱出してきました。
早速、卵管の状態を把握するためにレントゲン撮影を実施しました。
この時点で、手術の必要性を感じてマスクをかけ、全身麻酔を施しました。
上の写真を局所的に拡大します。
黄緑色の矢印は脱出した卵管です。
黄色丸で示したのが形成が未熟なままの卵殻と卵材です。
ほたるちゃんはここのところ、発情が酷く産卵も集中していたとの事です。
まずは、脱出した卵管に切開を加えて卵材の摘出を試みました。
ゆで卵のような卵黄や卵白が出て来ました。
卵白と卵黄の混在物や卵殻の破片のようなものが色々出て来ました。
取れる限界まで卵材を回収して卵管を縫合します。
次に縫合した卵管を総排泄腔から中に戻します。
これで手術は終了です。
摘出した卵材の一部は下の通りです。
卵管内に蓄積する卵材は、卵黄・卵白・卵殻・卵殻膜等を原材料として、ゼリー状、液状、粘土状、砂状、結石状のものから完成形に近い卵状まで様々な形で存在するそうです。
この疾病は、犬猫で比較するならば子宮蓄膿症に匹敵するものです。
原因としては、卵材の異常分泌や卵材の排出不全が挙げられます。
この疾病に罹患した場合、何も処置せずに放置しておくと卵材が自然に吸収されることはなく、徐々に蓄積されていく傾向にあります。
長期にわたる卵材停滞の場合は、卵管炎から腹膜炎に至ることがあり、また卵材の慢性刺激により、卵管腫瘍が誘発されるケースもあります。
いずれにせよ、完治を目指すならば卵管の摘出がベストです。
今回のほたるちゃんの場合は全身状態も考慮して、開腹手術・卵管摘出手術は実施しませんでしたが、次に再発して全身状態が良好ならば、卵管摘出を考えるべきだと思います。
麻酔から覚醒したほたるちゃんです。
術後の覚醒も良好で、脱水を防ぐために水分補給と抗生剤を投薬してます。
今後の経過を注意して診ていきます。
翌日、ほたるちゃんは無事退院されました。
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2024年3月30日 土曜日
オカメインコの洞炎(副鼻腔炎)
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのはオカメインコのきゅうちゃんです。
きゅうちゃんは、3年前からくしゃみを主徴とした上部気道炎・洞炎に罹っており、不定期に再発を繰り返しています。
E.coli, Haelomophilus, Pasteurellaといった細菌や Aspergillis, Candida, Cryptococcus等の真菌、あるいはポックスウィルスやパラミクソウィルス等が原因で上部気道炎(鼻眼結膜炎、副鼻腔炎、喉頭気管炎、気管支炎)が発症
します。
きゅうちゃんの場合は下写真(青丸)の様に鼻がまず詰まってしまい、鼻呼吸が辛くなります。
鼻炎に始まる鼻水、くしゃみで鼻腔内が閉塞します。
鳥は一般に鼻呼吸なんですが、鼻が詰まると開口呼吸が始まります。
この段階で治療を始めておかないと重症・慢性化することが多いです。
特にこの上部気道炎の中でも一旦、発症すると治りにくい疾患が洞炎(副鼻腔炎)です。
洞炎とは、副鼻腔とよばれる鼻よりも奥に存在する空間の炎症を指していいます。
人で蓄膿症と呼ばれる疾患とほぼ同じと思って下さい。
副鼻腔は複雑な形状をしており、この内部で常在化してしまった病原体を叩くのは大変です。
副鼻腔内に炎症性滲出液や黄色の硬結した膿が充満して顔面が腫脹したり、場合によっては眼球が突出してしまう事もあります。
きゅうちゃんは洞炎に以前から罹患していますが、飼主様が熱心に治療にあたられていますので、重症化することなく現在に至っています。
加えて眼窩下洞の炎症が背景となって、左眼が角結膜炎にもなっています。
長らく点眼薬や内服薬の治療を進めさせていただいてます。
それでも最近の気象状況も加わって、季節の変わり目となると洞炎の再発が起こります。
洞炎の完治に向け、飼主様共々頑張っていきたいと思います。
昨日、雨上がりに病院の待合室から綺麗な虹がでましたので一緒に載せます!
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きゅうちゃんは、3年前からくしゃみを主徴とした上部気道炎・洞炎に罹っており、不定期に再発を繰り返しています。
E.coli, Haelomophilus, Pasteurellaといった細菌や Aspergillis, Candida, Cryptococcus等の真菌、あるいはポックスウィルスやパラミクソウィルス等が原因で上部気道炎(鼻眼結膜炎、副鼻腔炎、喉頭気管炎、気管支炎)が発症
します。
きゅうちゃんの場合は下写真(青丸)の様に鼻がまず詰まってしまい、鼻呼吸が辛くなります。
鼻炎に始まる鼻水、くしゃみで鼻腔内が閉塞します。
鳥は一般に鼻呼吸なんですが、鼻が詰まると開口呼吸が始まります。
この段階で治療を始めておかないと重症・慢性化することが多いです。
特にこの上部気道炎の中でも一旦、発症すると治りにくい疾患が洞炎(副鼻腔炎)です。
洞炎とは、副鼻腔とよばれる鼻よりも奥に存在する空間の炎症を指していいます。
人で蓄膿症と呼ばれる疾患とほぼ同じと思って下さい。
副鼻腔は複雑な形状をしており、この内部で常在化してしまった病原体を叩くのは大変です。
副鼻腔内に炎症性滲出液や黄色の硬結した膿が充満して顔面が腫脹したり、場合によっては眼球が突出してしまう事もあります。
きゅうちゃんは洞炎に以前から罹患していますが、飼主様が熱心に治療にあたられていますので、重症化することなく現在に至っています。
加えて眼窩下洞の炎症が背景となって、左眼が角結膜炎にもなっています。
長らく点眼薬や内服薬の治療を進めさせていただいてます。
それでも最近の気象状況も加わって、季節の変わり目となると洞炎の再発が起こります。
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2024年3月27日 水曜日
ウサギの感電(家電のケーブルにはご注意を!)
こんにちは 院長の伊藤です。
ウサギは何でも齧ります。
ウサギの歯は、常生歯という持続的に伸び続ける形態である以上、絶えず硬いものを齧って歯を摩耗させていかないと過長歯となります。
過長した歯棘が口腔内に傷害を与え、最終的に食欲減退に至ります。
齧り木だけ齧るウサギの場合は何の心配もありませんが、齧る対象が家電製品のケーブルであったら?
というのが、今回のテーマです。
ミニウサギのクルチェちゃん(1歳、雌)は家電製品のケーブルを齧ってから、食欲がなく口の周辺が腫れているとのことで来院されました。
以下の3枚の写真をご覧いただいて、口の周辺部が赤く腫脹しているのがお分かりいただけますか?
下写真の黄色丸で囲んだ箇所が腫れています。
電気コードを咬んで、感電した犬の診察を過去にしたことがあります。
その時は口腔内の熱傷と胃内に通電した結果、胃潰瘍を伴っていました。
その犬の場合は、咬みきったコードをある程度の長さまで飲み込んでしまったための結果です。
今回のクルチェちゃんの場合は、ウサギであるがゆえに電気コードを口先で齧っていたために口吻部のみの熱傷でとどまったと思われます。
口腔内を確認するために、開口器を用いて検査します。
舌が暗赤色に腫れ上がって(黄色丸)、上皮が熱変性して剥離しています(黄色矢印)。
水は何とか飲めるようですが、チモシーやペレットは厳しいかもしれません。
抗生剤とステロイド剤を処方させて頂きました。
しばらくの間は流動食でつないでいただく必要があります。
ウサギをケージから放って室内を徘徊させる習慣があるご家庭は、くれぐれも家電製品のケーブルを齧ったりしないように、細心の注意を払って下さいね!
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ウサギは何でも齧ります。
ウサギの歯は、常生歯という持続的に伸び続ける形態である以上、絶えず硬いものを齧って歯を摩耗させていかないと過長歯となります。
過長した歯棘が口腔内に傷害を与え、最終的に食欲減退に至ります。
齧り木だけ齧るウサギの場合は何の心配もありませんが、齧る対象が家電製品のケーブルであったら?
というのが、今回のテーマです。
ミニウサギのクルチェちゃん(1歳、雌)は家電製品のケーブルを齧ってから、食欲がなく口の周辺が腫れているとのことで来院されました。
以下の3枚の写真をご覧いただいて、口の周辺部が赤く腫脹しているのがお分かりいただけますか?
下写真の黄色丸で囲んだ箇所が腫れています。
電気コードを咬んで、感電した犬の診察を過去にしたことがあります。
その時は口腔内の熱傷と胃内に通電した結果、胃潰瘍を伴っていました。
その犬の場合は、咬みきったコードをある程度の長さまで飲み込んでしまったための結果です。
今回のクルチェちゃんの場合は、ウサギであるがゆえに電気コードを口先で齧っていたために口吻部のみの熱傷でとどまったと思われます。
口腔内を確認するために、開口器を用いて検査します。
舌が暗赤色に腫れ上がって(黄色丸)、上皮が熱変性して剥離しています(黄色矢印)。
水は何とか飲めるようですが、チモシーやペレットは厳しいかもしれません。
抗生剤とステロイド剤を処方させて頂きました。
しばらくの間は流動食でつないでいただく必要があります。
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2024年3月26日 火曜日
ウサギの肺腫瘍
こんにちは 院長の伊藤です。
肺と言いう臓器は、血液中のガス交換をする重要な役割を担っています。
肺を絶えず血液が巡るということは、血中に腫瘍細胞が流出したら、肺に至る確率は極めて高いということです。
特にウサギの場合、雌は乳癌、子宮腺癌になることがあり、二次的に肺に腫瘍が転移するケースを多く診てます。
実際、ヒトの場合もそうでしょうが、ウサギにしても肺腫瘍となると完治することは至難です。
本日、ご紹介しますミニウサギのクロ君(雄、8歳、体重1.6㎏)は一時的なてんかん発作を起こしたとのことで来院されました。
呼吸が浅いという事、前肢を立てたままの状態でいることから呼吸が辛くなっているだろうと判断しました。
早速、レントゲン撮影を実施しました。
黄色丸で囲んだ肺野が白く点々が入っているのがお分かりいただけたでしょうか?
さらに患部を拡大します。
特に上写真では心臓のシルエットも見にくくなるくらい肺野に多数のX線不透過の結節が認められます。
先に述べましたように、雌であれば乳癌、子宮腺癌がらみの腫瘍転移はありですが、クロ君は雄です。
クロ君を診る限り、体表部に腫瘍は認められません。
また他の箇所もレントゲンを撮影しましたが、腫瘍を疑わせる所見はありませんでした。
となると、肺がこの腫瘍の原発巣となるのでしょうか?
ウサギの肺原発性腫瘍は極めてまれな症例と言われています。
クロ君の腫瘍のステージはかなり進行しており、末期に至っていると思われました。
出来うることは対症療法となります。
流動食で最低限の体力は維持してもらい、内科的治療で呼吸を楽にし、疼痛管理をするという形になります。
飼い主様の意向もあり、しばし当院のICUに入院して頂き、治療をさせていただきました。
40%の酸素濃度で管理されたケージ内で、呼吸は安定しているかに見えたのですが、残念ながら翌日に逝去されました。
ウサギの胸腔の狭さと呼吸不全については、度々コメントさせて頂いてます。
ウサギの肺野が一旦、炎症を起こすと慢性化するケースが多く、治療・管理は大変となります。
呼吸が荒い、口で呼吸をしている等の症状が見られたら、早めの受診を強くお勧めします。
今回のクロ君は、どんな腫瘍なのかも特定できないままの急展開でした。
力及ばず、非常に残念です。
合掌
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肺と言いう臓器は、血液中のガス交換をする重要な役割を担っています。
肺を絶えず血液が巡るということは、血中に腫瘍細胞が流出したら、肺に至る確率は極めて高いということです。
特にウサギの場合、雌は乳癌、子宮腺癌になることがあり、二次的に肺に腫瘍が転移するケースを多く診てます。
実際、ヒトの場合もそうでしょうが、ウサギにしても肺腫瘍となると完治することは至難です。
本日、ご紹介しますミニウサギのクロ君(雄、8歳、体重1.6㎏)は一時的なてんかん発作を起こしたとのことで来院されました。
呼吸が浅いという事、前肢を立てたままの状態でいることから呼吸が辛くなっているだろうと判断しました。
早速、レントゲン撮影を実施しました。
黄色丸で囲んだ肺野が白く点々が入っているのがお分かりいただけたでしょうか?
さらに患部を拡大します。
特に上写真では心臓のシルエットも見にくくなるくらい肺野に多数のX線不透過の結節が認められます。
先に述べましたように、雌であれば乳癌、子宮腺癌がらみの腫瘍転移はありですが、クロ君は雄です。
クロ君を診る限り、体表部に腫瘍は認められません。
また他の箇所もレントゲンを撮影しましたが、腫瘍を疑わせる所見はありませんでした。
となると、肺がこの腫瘍の原発巣となるのでしょうか?
ウサギの肺原発性腫瘍は極めてまれな症例と言われています。
クロ君の腫瘍のステージはかなり進行しており、末期に至っていると思われました。
出来うることは対症療法となります。
流動食で最低限の体力は維持してもらい、内科的治療で呼吸を楽にし、疼痛管理をするという形になります。
飼い主様の意向もあり、しばし当院のICUに入院して頂き、治療をさせていただきました。
40%の酸素濃度で管理されたケージ内で、呼吸は安定しているかに見えたのですが、残念ながら翌日に逝去されました。
ウサギの胸腔の狭さと呼吸不全については、度々コメントさせて頂いてます。
ウサギの肺野が一旦、炎症を起こすと慢性化するケースが多く、治療・管理は大変となります。
呼吸が荒い、口で呼吸をしている等の症状が見られたら、早めの受診を強くお勧めします。
今回のクロ君は、どんな腫瘍なのかも特定できないままの急展開でした。
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2024年3月25日 月曜日
ウサギの前縦隔疾患(胸腺腫の疑い)
こんにちは 院長の伊藤です。
ウサギは色々な疾病にかかりますが、比較的胸部疾患は少ないとされます。
ウサギは草食獣であるため、全体腔内で消化器が占める割合が非常に大きく、胸郭はわずかなスペースしか取れていません。
そのため、一たび胸部疾患になりますと呼吸困難から重篤な症状になることが多いです。
本日ご紹介しますのはウサギの前縦隔疾患、特に胸腺腫の疑いの1例です。
胸腺とは、T細胞というリンパ球の大部分を占める免疫細胞を産生する組織で、心臓の上に位置しています。
ヒトではこの胸腺は思春期に最大になり、60歳以降は消失する組織です。
一方、ウサギでは成獣になっても退縮することなく遺残します。
この胸腺が腫瘍化する疾患を胸腺腫と言います。
本日ご紹介しますのは、ウサギのちゃちゃ丸君(6歳、雄、雑種)です。
ちゃちゃ丸君は突然、呼吸困難に陥り来院されました。
一般にはウサギは鼻で呼吸をしますが、呼吸困難になってきますと開口呼吸を始めます。
ちゃちゃ丸君は、肩で呼吸をしており、今にも開口呼吸が始まりそうです。
下写真をご覧いただくと、ちゃちゃ丸君の両眼が少し突出している(下黄色矢印)のがお分かり頂けるでしょうか?
加えて両眼共に瞬膜(第三眼瞼)という眼を保護する膜が眼頭から出てきてます。
以上の症状は胸部疾患、特に前縦隔疾患に共通する臨床症状です。
縦隔とは両肺と胸椎・胸骨で囲まれた部分を言います。
前縦隔とは、縦隔の内、心臓の腹側面側の部位を指します。
先ほどウサギの胸腺は成長後も遺残することを述べました。
加えてウサギの場合、左前大静脈という犬猫では発生過程で消失する静脈が生後も遺残します。
この左前大静脈が胸腺やリンパ節の腫大で圧迫されて生じる症状を前大静脈症候群といいます。
前大静脈症候群になりますと圧迫に伴い生じるうっ血により、無痛性・両側性の眼球突出や第三眼瞼突出、頭頸部・前肢の浮腫が生じます。
ちゃちゃ丸君はこの前大静脈症候群が出ているということです。
早速、レントゲン写真を撮影しました。
下写真は腹背像ですが、黄色矢印にあるように右側前縦隔に腫瘤を認めます。
側臥のレントゲン像です。
心臓の前のスペースに腫瘤が存在して(下写真黄色丸)心臓を圧迫しているのが分かります。
前縦隔疾患で発症率で多いとされるのは、胸腺腫とリンパ腫(前縦隔型)です。
レントゲン撮影ではこの2つの疾病は鑑別できません。
加えて、血液検査でも鑑別に関与する特異的所見はないとされています。
あとは針生検(FNA)による細胞学的な検査ですが、これも比較的未熟なリンパ芽球が多く出ればリンパ腫と診断が出来ますが、
針の生検では鑑別は困難とされます。
組織を外科的に摘出できれば確定診断は可能です。
しかし、今のちゃちゃ丸君では、全身麻酔よりも体を抑えるだけでも呼吸不全で死んでしまいます。
そのため、ICUの部屋に入院して頂き40%の酸素下で、呼吸不全を治療していくことにしました。
高用量のプレドニゾロンと気管支拡張剤・抗生剤の組み合わせて内科的治療を開始しました。
胸腺腫とリンパ腫も治療はプレドニゾロンの投薬であることは共通しています。
前大静脈症候群が認められたら、まずは胸腺腫を疑うのが鉄則です。
ちゃちゃ丸君は2日目には食欲が出始めて来ました。
入院3日目になりますと呼吸不全の症状も改善が認められてきました。
レントゲン撮影を実施しました。
右腫瘤(上黄色矢印)が縮小してきているのが分かります。
下側臥写真では前胸部の腫瘤が縮小してきて、気管を持ち上げていたのが、ほぼ正常に戻ってます。
今回のような高度の呼吸不全例では、あまり積極的な精密検査を実施することで、ウサギがそのストレスにより死亡することを念頭に置かねばなりません。
精密検査で病名は確定診断できたけど、患者が死亡しては本末転倒です。
まずはちゃちゃ丸君の容態が安定してから、改めて生検をして胸腺腫かリンパ腫であるかの鑑別を行う予定でいます。
入院4日目にして、ICUのケージから出ても呼吸は安定できるようになり、退院して頂くことになりました。
しばらくの間、ちゃちゃ丸君はプレドニゾロンの連続投薬が必要です。
呼吸不全はウサギにとって緊急の事態となります。
速やかな対応・治療ができれば、救済することは可能です。
ちゃちゃ丸君、お疲れ様でした!
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ウサギは色々な疾病にかかりますが、比較的胸部疾患は少ないとされます。
ウサギは草食獣であるため、全体腔内で消化器が占める割合が非常に大きく、胸郭はわずかなスペースしか取れていません。
そのため、一たび胸部疾患になりますと呼吸困難から重篤な症状になることが多いです。
本日ご紹介しますのはウサギの前縦隔疾患、特に胸腺腫の疑いの1例です。
胸腺とは、T細胞というリンパ球の大部分を占める免疫細胞を産生する組織で、心臓の上に位置しています。
ヒトではこの胸腺は思春期に最大になり、60歳以降は消失する組織です。
一方、ウサギでは成獣になっても退縮することなく遺残します。
この胸腺が腫瘍化する疾患を胸腺腫と言います。
本日ご紹介しますのは、ウサギのちゃちゃ丸君(6歳、雄、雑種)です。
ちゃちゃ丸君は突然、呼吸困難に陥り来院されました。
一般にはウサギは鼻で呼吸をしますが、呼吸困難になってきますと開口呼吸を始めます。
ちゃちゃ丸君は、肩で呼吸をしており、今にも開口呼吸が始まりそうです。
下写真をご覧いただくと、ちゃちゃ丸君の両眼が少し突出している(下黄色矢印)のがお分かり頂けるでしょうか?
加えて両眼共に瞬膜(第三眼瞼)という眼を保護する膜が眼頭から出てきてます。
以上の症状は胸部疾患、特に前縦隔疾患に共通する臨床症状です。
縦隔とは両肺と胸椎・胸骨で囲まれた部分を言います。
前縦隔とは、縦隔の内、心臓の腹側面側の部位を指します。
先ほどウサギの胸腺は成長後も遺残することを述べました。
加えてウサギの場合、左前大静脈という犬猫では発生過程で消失する静脈が生後も遺残します。
この左前大静脈が胸腺やリンパ節の腫大で圧迫されて生じる症状を前大静脈症候群といいます。
前大静脈症候群になりますと圧迫に伴い生じるうっ血により、無痛性・両側性の眼球突出や第三眼瞼突出、頭頸部・前肢の浮腫が生じます。
ちゃちゃ丸君はこの前大静脈症候群が出ているということです。
早速、レントゲン写真を撮影しました。
下写真は腹背像ですが、黄色矢印にあるように右側前縦隔に腫瘤を認めます。
側臥のレントゲン像です。
心臓の前のスペースに腫瘤が存在して(下写真黄色丸)心臓を圧迫しているのが分かります。
前縦隔疾患で発症率で多いとされるのは、胸腺腫とリンパ腫(前縦隔型)です。
レントゲン撮影ではこの2つの疾病は鑑別できません。
加えて、血液検査でも鑑別に関与する特異的所見はないとされています。
あとは針生検(FNA)による細胞学的な検査ですが、これも比較的未熟なリンパ芽球が多く出ればリンパ腫と診断が出来ますが、
針の生検では鑑別は困難とされます。
組織を外科的に摘出できれば確定診断は可能です。
しかし、今のちゃちゃ丸君では、全身麻酔よりも体を抑えるだけでも呼吸不全で死んでしまいます。
そのため、ICUの部屋に入院して頂き40%の酸素下で、呼吸不全を治療していくことにしました。
高用量のプレドニゾロンと気管支拡張剤・抗生剤の組み合わせて内科的治療を開始しました。
胸腺腫とリンパ腫も治療はプレドニゾロンの投薬であることは共通しています。
前大静脈症候群が認められたら、まずは胸腺腫を疑うのが鉄則です。
ちゃちゃ丸君は2日目には食欲が出始めて来ました。
入院3日目になりますと呼吸不全の症状も改善が認められてきました。
レントゲン撮影を実施しました。
右腫瘤(上黄色矢印)が縮小してきているのが分かります。
下側臥写真では前胸部の腫瘤が縮小してきて、気管を持ち上げていたのが、ほぼ正常に戻ってます。
今回のような高度の呼吸不全例では、あまり積極的な精密検査を実施することで、ウサギがそのストレスにより死亡することを念頭に置かねばなりません。
精密検査で病名は確定診断できたけど、患者が死亡しては本末転倒です。
まずはちゃちゃ丸君の容態が安定してから、改めて生検をして胸腺腫かリンパ腫であるかの鑑別を行う予定でいます。
入院4日目にして、ICUのケージから出ても呼吸は安定できるようになり、退院して頂くことになりました。
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