アーカイブシリーズ

2024年1月19日 金曜日

リチャードソンジリスの扁平上皮癌

こんにちは 院長の伊藤です。


リチャードソンジリスを初めとして、オグロプレーリードッグもそうですが、顔面から口腔内の腫瘍の発生率が高いです。


今回、ご紹介しますのはリチャードソンジリスのジル君(雄、3歳)です。

左の口吻部に腫瘤ができて、大きくなっているとのことで来院されました。





体のサイズに比べても大きな腫瘤です。

食餌を取るにもストレスになるだろうと思われます。

まずは細胞診を実施することとしました。



その結果が下写真になります。





結果は扁平上皮癌という結果で、外科的に腫瘍を切除することとなりました。

扁平上皮癌は口の中の粘膜・膀胱の粘膜・副鼻腔・気管支などに発生する悪性の腫瘍です。

患部は潰瘍・びらんという症状で出現することが多いとされます。


最初にガスマスクをかませて、イソフルランを流入させガス麻酔をします。



ふらふらとしたところで、自家製のマスクで維持麻酔をします。





できるだけ腫瘍のマージン(辺縁)を切除します。

しかし、場所が頬になりますので頬袋ごと全摘出は難しいと思われます。

電気メスで切除していきます。





摘出した腫瘍です。





出来る限りのマージンを取って摘出しました。



術後1週間のジル君です。

傷口の経過は良好です。



この口吻部腫瘍の件は、これで落ち着いたのですが、この3か月後に右口腔内に腫瘤が出来、膿瘍も併発してしまいました。

この腫瘤を再度、細胞診したところ、やはり扁平上皮癌とのことでした。

今度の患部の所在が、頬の内側とのことで外科的手術は困難です。

扁平上皮癌に効果があるとされている非ステロイド系COX-2阻害薬のピロキシカムの内服を実施することとしました。

しかしながら、扁平上皮癌の進行が非常に早く、食欲は全く無くなり、飼主様には流動食で対応して頂きました。

それでもピロキシカム内服を始めて、わずか4日目にしてジル君は急逝されました。

非常に残念です。

ジリスにしてもプレーリーにしても扁平上皮癌は進行・転移が非常に早く感じます。

この扁平上皮癌を発症した場合、その後の展開は厳しいものと思います。





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2024年1月17日 水曜日

フクロモモンガの末端壊死症

こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのは、フクロモモンガの末端壊死症です。

フクロモモンガの中には、耳介部や四肢の肢端部が壊死を起こす症例があります。

その原因は、不明な点が多いです。

細菌感染か、末端部の血液循環不全か、免疫不全反応によるものなのか確定できない現状です。


フクロモモンガのラッキー君(雄、11か月齢、体重65g)は、両耳介部と四肢末端部が黒くなってきたとのことで来院されました。







下写真の黄色丸は壊死が進行している耳介部です。



当初、飼主様は自傷的に爪や耳を引掻いて傷を作ったと思われたようです。

確かにフクロモモンガはストレス性の自傷行為が多く、尻尾・陰部・肛門周囲等を自咬して問題となります。



下写真は爪の付根の皮膚が黒変しており(黄色矢印・黄色丸)、壊死が進行しているのが分かります。





本来、フクロモモンガは夜行性で樹上生活を行い、10頭前後のコロニーを作り行動する有袋類です。

社会性のある動物種のため、単独飼育や不適切な食餌などが原因でストレスを抱える個体が多いのが特徴です。

結果として、ストレス性の自傷行為が多発します。

ただ今回は、自傷行為は認められないとの飼主様からの申告があり、耳介部も四肢の末端部も膿皮症に代表される細菌感染は認められません。

耳ダニの感染も認められません。





今回の症例は、フクロモモンガにときおり見られる末端壊死症と思われます。

実際、この末端壊死症は、耳介辺縁壊死症と同時に四肢端の壊死が見られることがあります。

原因は不明で、血行不良が背景にあり結果として壊死に至ります。

フクロモモンガは非常にデリケートな個体が多く、患部を自傷行為で壊死部がさらに拡大していく可能性が高いです。

結局、エリザベスカラーを装着して、抗生剤や消炎剤を投薬します。



壊死部は近日中に脱落すると思われます。

今後のラッキー君の経過を観察していきます。



ラッキー君、頑張りましょう!



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2024年1月16日 火曜日

フクロモモンガの乳腺周囲に発生した肉腫

こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのは、フクロモモンガの腫瘍です。

フクロモモンガも他のエキゾチックアニマル同様、各種腫瘍を発生します。

今回のフクロモモンガは、乳腺周囲に生じた腫瘍ですが乳腺腫瘍ではなく、間葉系(非上皮性)腫瘍でした。


フクロモモンガの福ちゃん(6歳5か月齢、雌)は右の下腹部に腫瘤が出来たとのことで来院されました。





右の乳房周辺が腫大し、腫瘤が形成されていました。

乳腺腫瘍の疑いもあり、まずは細胞診を実施し、検査センターに依頼しました。

その結果は、上皮性腫瘍の疑いありとのことでした。

病理医は、悪性か良性かの判断は困難で病理検査を推奨してます。

毎度のことですが、術前の患部細胞診と術後の患部病理所見は食い違うことがあります。

私の見解は、怪しき腫瘤は、状況が許す限り(腫瘍の種類・ステージ・動物の年齢など)小さいうちに摘出することをお勧めしています。



飼い主様の要望もあり、患部腫瘍を外科的に摘出することとなりました。

福ちゃんに麻酔導入箱に入って頂き、イソフルランの導入を実施します。



麻酔導入も完了して、維持麻酔に切り替えました。



患部周囲の被毛をカミソリで剃毛します。



下写真の福ちゃんの下腹部中央部に裂孔(青矢印)が認められます。

これは、赤ちゃんが出生と同時に這い上がって潜りこむ育児嚢という袋の入り口です。

有袋類の特徴の一つでもありますが、乳首はこの育児嚢の中に存在します。

腫瘍は育児嚢と乳腺周囲に及んでいる感があります。



問題となる腫瘍は下写真の黄色丸で囲ってあります。

写真では分かりにくいかもしれませんが、それなりの大きさがあります。

育児嚢の外側を囲むような形で存在しています。





イソフルランの維持麻酔も安定してきました。



これからメスを入れます。



腫瘍の直下には育児嚢があり、薄皮を剥がすように腫瘍を露出していきます。



腫瘍が顔を覗かせています。





腫瘍に太い栄養血管が存在していますので、バイクランプで血管をシーリングします。





何ヶ所か血管をシーリングして、腫瘍の全貌を明らかにします。





直下の育児嚢までは腫瘍の浸潤はないようです。



電気メス(バイポーラ)で腫瘍の基底部を焼き切ります。



腫瘍切除後の患部です。

一部の乳腺を腫瘍と共に切除しました。



患部を縫合します。



これで手術は終了となります。





摘出した腫瘍です。

長軸は2㎝近くあります。





腫瘍の割面です。

内部は炎症・化膿しています。





病理検査の所見です。

下写真は中等度の倍率像です。

異型性の顕著な類円形・紡錘形細胞の錯綜状・束状増殖により腫瘤が形成されています。



高倍率の病理像です。

腫瘍細胞は豊富な好酸性細胞質、大小不同な類円形から細長い正染核、異常な核分裂像が目立ちます。

非常に悪性度の高い腫瘍であることが判明しました。

非上皮(間葉系)の悪性腫瘍であり、いわゆる肉腫と呼ばれる腫瘍です。

細胞診では上皮系腫瘍の疑いで当初、乳腺腫瘍の可能性を考えてました。

前述の通り、細胞診と病理検査の結果の違いが出て来ました。

なお、腫瘍の辺縁部には腫瘍性変化を示さない乳腺組織が認められるとの病理医のコメントがありました。

実際、摘出した腫瘍は非上皮系腫瘍とのことですから、将来的に体腔内に発生する可能性もあります。

今後、慎重なモニタリングが必要です。



傷口がしっかり癒合するまでは、カラー装着の生活が必要となります。

ストレスの多い生活となりますが、頑張って乗り越えて頂きたいと思います。






福ちゃん、お疲れ様でした!




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2024年1月15日 月曜日

フクロモモンガの大腿骨骨折

こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介するのは、フクロモモンガの大腿骨骨折です。

フクロモモンガは立体的な行動をとります。

ケージも高さのあるものを利用されるご家庭が多いと思います。

高い所から飛び降りたりする際に爪をひっかけたり、ゲージで挟んだりするアクシデントが多い動物です。

そんなフクロモモンガですが、本日は大腿骨骨折という日常的には遭遇することの少ない症例紹介です。


コウガ君(約1歳、雄)は左後肢をブラブラさせている(下写真黄色矢印)とのことで来院されました。



触診すると大腿骨が骨折している感じを認めたため、レントゲン撮影を実施しました。

下のレントゲン写真黄色丸の部位(大腿骨骨幹部)が斜骨折しているのが分かります。





大腿骨をいかに固定するかですが、小型愛玩鳥やハムスターのような小型齧歯類であれば注射針を利用した骨髄内ピン固定を選択します。

フクロモモンガのような体の柔軟性のある動物の場合、ギプスによる外固定だと患部への自傷行為が酷くなりますので外固定は選択外です。

ピンを皮膚から骨へ何本も刺入して固定する創外固定法もギブス固定同様、フクロモモンガには不適です。

何も処置せず、そのまま放置で自然に骨癒合を待つという手もありますが、コウガ君の場合は大腿骨が竹槍のごとく斜めに割れていますから、放置すると骨折面が筋肉や血管を深く傷つけ開放骨折に至ります。

結局、骨髄腔が直径1.0から1.2mmなので0.8mmの髄内ピンによる固定を選択しました。



コウガ君に全身麻酔を施し、患部周囲を剃毛します。





下写真黄色丸は骨折により、皮下出血しています。



骨折部位から髄内ピンを刺入ため、皮膚から筋膜を切開します。





下写真黄色丸は筋肉を穿孔して突出した骨折端です。



骨折遠位端からピンを膝関節に向けて電動ドリルで刺入します。

ピンニングの手技についてはウサギの橈尺骨骨折(ピンニング法)の記事で詳細をまとめてありますのでこちらをクリックして下さい。



膝関節まで一旦、ピンを貫通させます。



電動ドリルの把持を逆方向に変えて、今度は骨折部に向けてピンを進ませます。



次が一番難しい所で、骨折部を整復して元の状態に戻します。

コウガ君の場合は、斜骨折で骨折端の一部が割れており、パズルのように完全な骨折部の修復は困難です。



下写真の黄色矢印は骨折部の近位端(股関節に近い側)です。

鉗子で牽引して骨折部を整復します。



整復したところで骨折部にピンを貫通させ、近位端までピンを進めます。





フクロモモンガの大腿骨は短いため、電動ドリルでは股関節部まで一気に貫通するため、マニュアルでピンニング出来るピンバイスに付け替えます。



ここでレントゲン撮影を実施し、ピンニングが上手く出来ているか確認します。



問題ないのを確認して、ピンの先端部をペンチでカットします。



下写真が膝関節から突出してるピンの端です。

骨癒合後にこのピン先を鉗子で把持して引き抜き、治療は終了となります。



筋膜を吸収性縫合糸で縫合します。



皮膚を5-0ナイロン糸で縫合して手術は終了です。



術後のレントゲン写真です。



ピンは骨折部を固定出来ているようです。



麻酔から覚醒したコウガ君です。



術後3日目のコウガ君です。

最初は患肢をかばっていましたが、少しずつ荷重出来るようになって来ました。





退院当日のコウガ君です。

フクロモモンガはエリザベスカラーが大嫌いですが、それでも少し慣れてくれたようです。



術後2週目で抜糸した患部です。

患肢の運行も問題なく出来ています。



立体的な動きをするフクロモモンガですが、爪折れや脱臼する場合もありますし、今回のような骨折になる場合もあります。

くれぐれも飼主様、注意してお世話してあげて下さい。

コウガ君、お疲れ様でした!





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2024年1月14日 日曜日

モルモットの臼歯過長症

こんにちは 院長の伊藤です。

モルモットは英名Guinia pigと呼ばれています。

なぜ、pig=豚と名付けられているのか?

それは、モルモットが色んな声色を使って、他の個体とコミュニケーションをとります。

その声色の中に豚の声に似ている音があって、豚でもないのにGuinia pigと呼称されるようになったそうです。



古代インカ帝国の時代から家畜として利用されていた歴史があるそうで、野生には存在しない家畜化された草食動物です。

性格は従順・温厚な点から、モルモット・マニアの方も多く、当院でも定期的に健診を受けられる個体は多いです。

特に、モルモットの切歯と臼歯はともに常生歯といって、絶えず伸び続ける歯です。

硬いものを齧ることで歯を摩耗させ、歯の過長を調整します。

しかし、飼育環境下で歯の長さに合った齧る対象物がない場合には、必然的に歯は伸びていきます。

本日は、高度の臼歯過長で食欲不振となったモルモットの話です。


モルモットのもる君(3歳、雄)はこの数日間、食欲不振とのことで来院されました。



まずは口腔内を検査します。

齧歯類の口腔は入り口が狭く、奥行きが深いという特徴があります。

したがって、開口器という口を開ける器具を用いて臼歯をチェックします。



一般にモルモットの臼歯は上顎臼歯はハの字に外側に向かって伸びます。

下顎臼歯は内側に向かって伸びていきます。

よくよく見ますと上顎臼歯と下顎臼歯がずいぶん伸びています。

下写真黄色丸の部分をご覧下さい。



もる君の上顎臼歯は本来とは逆に、内側に向かって過長してます。

下顎の臼歯は反対側の臼歯とつながってしまうくらいの位置まで過長しています。

こうなると臼歯が口腔を傷つけ、舌の運動を制限し、餌を満足に嚥下することも難しくなっています。

早速、臼歯のカット・研磨を実施します。



ウサギと比較しても、モルモットの臼歯の歯列は30度という急角度の咬合角を持つのが特徴です。

下顎臼歯は舌に隣接していますので、マイクロエンジンで研磨するのが難しいです。

そのため、私はロンジュールや専用のニッパーでアプローチすることが多いです。





本来なら、全身麻酔を施した上、臼歯をカットするのが術者の立場からしても楽です。

しかし、生まれつき歯列異常のある個体も多く、毎月カットが必要な個体もいるわけです。

そのようなケースでは、毎回全身麻酔というわけにはいきません。

それでは命がいくつあっても足りません。

そのため、当院では基本的に臼歯処置は無麻酔で実施しています。

麻酔がない分、3人のスタッフに保定を任せて私がカットを担当しています。

5分以内で処置は終了します。

開業して以来、特にこの方法で問題なく処置は完了しています。

勿論、大暴れする個体については麻酔処置を考慮します。



もる君の場合、特に上顎臼歯の伸長異常があるため、定期的な歯科検診が必要です。

歯科的な原因が解決されたら、食欲も復活すると思われます。




 
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