アーカイブシリーズ
2024年1月 6日 土曜日
6年間我慢の子でした!(シーズーの上顎第4前臼歯根尖周囲病巣)
こんにちは 院長の伊藤です。
犬の歯周病に最近、関心を持たれる方が増えているようです。
デンタルケアについて、患者様からご質問を受けることが多いです。
歯周病予防は、いかに幼犬期からデンタルケアの習慣付けが出来るかにかかっていると言えます。
特に4,5歳以降に臼歯に歯石が付着して、歯根部が炎症に至り、最終的に根尖周囲病巣となります。
この根尖周囲病巣が上顎の第4前臼歯に生じると眼の下に瘻管が形成され、排膿が起こります。
第4前臼歯根尖周囲病巣については、以前こちらにコメントさせて頂きました。
本日、ご紹介しますのはこの第4前臼歯根尖周囲病巣になって6年間排膿し続け、やっと抜歯して完治したという症例です。
シーズーのジャック君(7歳、去勢済)は1歳7か月齢で左眼の下あたりから血膿が流れ始めました。
まだ若いけれど歯石が第4前臼歯に付着しており、上顎第4前臼歯根尖膿瘍に至っていると診断して上顎第4前臼歯の抜歯をお勧めしました。
しかし、飼い主様は抜歯するより抗生剤で抑えて行きたいという意向です。
抗生剤の投与で多少の排膿は抑えられるかもしれませんが、本態療法としては抜歯をしない限り無理です。
それでも飼い主様の都合で内科的療法を継続することとなりました。
各種の抗生剤を交代しながら投薬をしました。
耐性菌が生じたらとの心配もありました。
毎日連続投薬するというのではなく、排膿が酷い時に不定期に投薬するという感じです。
時は流れ、この不定期投薬が6年近く続きました。
この6年間は左眼下の排膿は持続的にあり、ジャック君の左側顔面は診察の度に濡れている状態でした。
そんな中、飼い主様から抜歯したいと今年7月に入り、オファーを受けました。
実際、内科的療法でこの第4前臼歯根尖周囲病巣は完治することはなく、ジャック君の左眼の下は相変わらず膿で汚れています(下写真黄色丸)。
長年、ジャック君にとって不快であったと思われる第4前臼歯根尖周囲病巣を一掃できる日が到来しました。
ジャック君の歯をレントゲン撮影しました。
第4前臼歯根尖周囲の骨吸収像が認められます。
早速、抜歯を実施することとします。
ジャック君には全身麻酔で寝て頂きます。
ジャック君の左眼下を注意深く見ていきますと下写真の通り、歯根部からの排膿のための瘻管が見つかりました。
鉗子先端で瘻管の穴に挿入すると深い所まで挿入可能でした。
下写真黄色丸が瘻管の開口部です。
これからが本番です。
テーパータイプのダイアモンドバーで第4前臼歯を分割していきます。
第4前臼歯は歯根が3本ありますので、2か所分割をして抜歯します。
分割した臼歯をエレベーターで歯槽骨から脱臼させます。
抜歯鉗子で歯根ごと抜きます。
下写真は抜歯した跡です。
これだけではダメで抜歯した跡の歯槽骨のトリミングが必要です。
ロンジュールトという骨を砕く鉗子で抜歯窩周囲歯槽骨の鋭利な部位をトリミングします。
その後、ラウンドタイプのダイアモンドバーで細かな歯槽骨を削って行きます。
歯槽骨のトリミングが終了後、歯肉を縫合します。
下写真は歯肉を縫合完了したところです。
麻酔覚醒直後のジャック君です。
お疲れ様でした。
さて、2週間後に来院したジャック君です。
抜歯後の左眼下の排膿はなくなり、綺麗になっています。
6年間の内服で完治できなかったものが、数十分の抜歯で眼下排膿(外歯瘻)は治せます。
歯については、特に抜歯が絡んだ歯科疾患になると悩まれる飼主様が多いのも事実です。
内科的な治療では限界があること、ワンちゃん自身の疼痛感・ストレスを考慮するならば、早めの抜歯をご選択して頂きたいと思います。
たとえ臼歯の抜歯でも、食生活に不自由することはほとんどありません。
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投稿者 もねペットクリニック | 記事URL
2024年1月 5日 金曜日
犬の齲歯(粘膜フラップ形成による閉鎖法)
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、犬の齲歯(虫歯)です。
犬は高齢になるにつれ、歯科疾患の罹患率は上昇します。
犬の歯の疾病では歯周病が圧倒的に多いです。
歯周病においては、歯垢から歯石になり、歯根部から歯槽骨が歯周病菌によって融解・吸収され、歯が抜け落ちるという流れがあります。
幼犬時は飼主様も熱意を持って愛犬のデンタルケアを頑張る方が多いのですが、シニア世代に至るとだんだんデンタルケアが継続できなくなるケースが増えて来ます。
口臭が酷くなり、飼主様の歯石を取って欲しいという依頼は、愛犬が10歳を超えるころになると一挙に増えて来ます。
その一方で、ヒトでは歯科疾患の中で齲歯(虫歯)が占める割合は多いとされます。
犬では齲歯はどうでしょうか?
実は齲歯は比較的少ないとされます。
それはなぜかというと唾液の性状によります。
ヒトは唾液のpHが5~6の中性域に近いものであり、犬のそれはpHが8以上という強アルカリ性です。
虫歯菌が作り出す酸で歯が溶けて虫歯は進行して行きます。
その酸を唾液で中和して、齲歯の進行をくい止めているわけです。
犬の方がヒトよりも虫歯菌の酸を中和するパワーが強いということです。
だからといって、犬が齲歯にならないかと言うとそうではありません。
歯垢(プラーク)は口腔内細菌が作り出した代謝産物です。
この歯垢が石灰化して歯石が形成されます。
一旦、歯垢ができると歯垢の中で虫歯菌は増殖を始めます。
唾液は歯垢の中まで浸透することは出来ないからです。
虫歯菌の酸で歯が融解した状態を齲蝕(うしょく)と言います。
本日はこの齲蝕に焦点を当てて、犬の齲蝕でもここまで進行するのかという話です。
ミュニュチャダックスの翼くん(14歳6か月、去勢済)は左の犬歯あたりを触ると痛がる、食餌が咬みずらそうとのことで来院されました。
翼くんは9年前と6年前に2回、歯石除去(スケーリング)を行っています。
今回も拝見すると歯石は付着していますが、左側の上顎犬歯は付け根から滲出液が出ているようです。
まずはレントゲン撮影を実施しました。
左上顎犬歯を拡大します。
下写真の黄色丸は犬歯の付根近くがくの字に溶けているのが分かります。
齲歯であることが判明しましたので、早速犬歯を抜歯することとスケーリングを実施することとなりました。
まずは右側の歯です。
歯石は付着していますが14.5歳という年齢からすれば、デンタルケアは出来ていると思われます。
歯石をスケーラーで破砕して行きます。
右側の歯石除去した後の写真です。
特に歯周病で右側の抜歯は必要ありません。
次に左側です。
翼くんが痛みを訴えている上顎犬歯を拡大します。
犬歯の付根が炎症を起こしているのが伺えます。
まずは歯石を除去します。
歯石を除去した写真です。
これから犬歯を抜歯します。
犬歯の抜歯は抜歯後の穴(抜歯窩)が大きく、鼻腔へと開通しますので歯肉を切開して粘膜フラップを形成して閉鎖処置が必要となります。
閉鎖処置をしっかりしないと食べた食餌の残渣が鼻腔内へ迷入して気管支炎・肺炎を引き起こす場合があります。
犬歯抜歯のため、犬歯の口吻側(遠心側)の歯肉にメスを入れます。
ついで犬歯の臼歯側(近心側)にメスを入れます。
両端を切開した歯肉をフラップとして利用するために骨膜剥離子で剥離していきます。
歯肉をある程度、歯から剥離できました。
下写真・黄色丸の部位は歯のエナメル質・象牙質が融解して歯髄が露出しています。
ラウンドバーを用いて、犬歯を抜歯しやすいように歯槽骨を切削します。
骨膜剥離子をてこ代わりに犬歯を持ち上げて抜歯します。
犬歯の歯根部を脱臼させました(下黄色矢印)。
犬歯の裏側は歯垢や歯石が付着しています(黄色丸)。
抜歯窩(抜歯後の穴)を十分カバーできる範囲の粘膜フラップを作ります。
抜歯窩周囲をロンジュールでトリミングします。
余裕を持たせて粘膜フラップを形成しました。
抜歯窩は鋭匙で掻爬した後、抗生剤を入れます(黄色矢印)。
次いで粘膜をモノフィラメント吸収糸を用いて縫合します。
モノフィラメント吸収糸による単純結節縫合(下写真黄色丸)は終了です。
スケーリングと抜歯で翼くんの歯と口腔内はスッキリしました。
処置が終わり、麻酔から覚醒したばかりの翼くんです。
さて、今回抜歯した犬歯です(表側)。
犬歯の中央部から歯根部へかけて齲蝕により、歯が溶けているのがお分かり頂けると思います。
犬歯の裏側です。
エナメル質・象牙質は融解して歯髄まで齲蝕が進行していたのが分かります。
下写真の黄色矢印が最初のレントゲン像で描出されていたくの字の吸収像です。
歯根部の遠心側も黄色丸の部位が虫歯菌の酸により溶けています。
犬の虫歯は臨床の現場では比較的遭遇するのは少ないとは思いますが、ヒト同様に疼痛を伴います。
翼くんのように常日頃のデンタルケアをされているケースでも、今回の様に齲歯が出来る場合もあります。
生まれたばかりの子犬には虫歯菌が存在しません。
一般的には、母犬や他の犬が食べたものを食べたり、同じ玩具を使うことで、他の犬の虫歯菌が子犬に移るとされます。
その一方で、犬の虫歯はヒトから移るという説があります。
犬にヒトの食べかけの食物を与えたり、犬が残飯を漁ったりしてヒトの虫歯菌が犬に移ることは十分考えられます。
そうなってくると、やはり日頃のデンタルケアは大切ですね。
その後の翼くんの経過は良好で、歯の痛みからも開放されています。
翼くん、お疲れ様でした!
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本日ご紹介しますのは、犬の齲歯(虫歯)です。
犬は高齢になるにつれ、歯科疾患の罹患率は上昇します。
犬の歯の疾病では歯周病が圧倒的に多いです。
歯周病においては、歯垢から歯石になり、歯根部から歯槽骨が歯周病菌によって融解・吸収され、歯が抜け落ちるという流れがあります。
幼犬時は飼主様も熱意を持って愛犬のデンタルケアを頑張る方が多いのですが、シニア世代に至るとだんだんデンタルケアが継続できなくなるケースが増えて来ます。
口臭が酷くなり、飼主様の歯石を取って欲しいという依頼は、愛犬が10歳を超えるころになると一挙に増えて来ます。
その一方で、ヒトでは歯科疾患の中で齲歯(虫歯)が占める割合は多いとされます。
犬では齲歯はどうでしょうか?
実は齲歯は比較的少ないとされます。
それはなぜかというと唾液の性状によります。
ヒトは唾液のpHが5~6の中性域に近いものであり、犬のそれはpHが8以上という強アルカリ性です。
虫歯菌が作り出す酸で歯が溶けて虫歯は進行して行きます。
その酸を唾液で中和して、齲歯の進行をくい止めているわけです。
犬の方がヒトよりも虫歯菌の酸を中和するパワーが強いということです。
だからといって、犬が齲歯にならないかと言うとそうではありません。
歯垢(プラーク)は口腔内細菌が作り出した代謝産物です。
この歯垢が石灰化して歯石が形成されます。
一旦、歯垢ができると歯垢の中で虫歯菌は増殖を始めます。
唾液は歯垢の中まで浸透することは出来ないからです。
虫歯菌の酸で歯が融解した状態を齲蝕(うしょく)と言います。
本日はこの齲蝕に焦点を当てて、犬の齲蝕でもここまで進行するのかという話です。
ミュニュチャダックスの翼くん(14歳6か月、去勢済)は左の犬歯あたりを触ると痛がる、食餌が咬みずらそうとのことで来院されました。
翼くんは9年前と6年前に2回、歯石除去(スケーリング)を行っています。
今回も拝見すると歯石は付着していますが、左側の上顎犬歯は付け根から滲出液が出ているようです。
まずはレントゲン撮影を実施しました。
左上顎犬歯を拡大します。
下写真の黄色丸は犬歯の付根近くがくの字に溶けているのが分かります。
齲歯であることが判明しましたので、早速犬歯を抜歯することとスケーリングを実施することとなりました。
まずは右側の歯です。
歯石は付着していますが14.5歳という年齢からすれば、デンタルケアは出来ていると思われます。
歯石をスケーラーで破砕して行きます。
右側の歯石除去した後の写真です。
特に歯周病で右側の抜歯は必要ありません。
次に左側です。
翼くんが痛みを訴えている上顎犬歯を拡大します。
犬歯の付根が炎症を起こしているのが伺えます。
まずは歯石を除去します。
歯石を除去した写真です。
これから犬歯を抜歯します。
犬歯の抜歯は抜歯後の穴(抜歯窩)が大きく、鼻腔へと開通しますので歯肉を切開して粘膜フラップを形成して閉鎖処置が必要となります。
閉鎖処置をしっかりしないと食べた食餌の残渣が鼻腔内へ迷入して気管支炎・肺炎を引き起こす場合があります。
犬歯抜歯のため、犬歯の口吻側(遠心側)の歯肉にメスを入れます。
ついで犬歯の臼歯側(近心側)にメスを入れます。
両端を切開した歯肉をフラップとして利用するために骨膜剥離子で剥離していきます。
歯肉をある程度、歯から剥離できました。
下写真・黄色丸の部位は歯のエナメル質・象牙質が融解して歯髄が露出しています。
ラウンドバーを用いて、犬歯を抜歯しやすいように歯槽骨を切削します。
骨膜剥離子をてこ代わりに犬歯を持ち上げて抜歯します。
犬歯の歯根部を脱臼させました(下黄色矢印)。
犬歯の裏側は歯垢や歯石が付着しています(黄色丸)。
抜歯窩(抜歯後の穴)を十分カバーできる範囲の粘膜フラップを作ります。
抜歯窩周囲をロンジュールでトリミングします。
余裕を持たせて粘膜フラップを形成しました。
抜歯窩は鋭匙で掻爬した後、抗生剤を入れます(黄色矢印)。
次いで粘膜をモノフィラメント吸収糸を用いて縫合します。
モノフィラメント吸収糸による単純結節縫合(下写真黄色丸)は終了です。
スケーリングと抜歯で翼くんの歯と口腔内はスッキリしました。
処置が終わり、麻酔から覚醒したばかりの翼くんです。
さて、今回抜歯した犬歯です(表側)。
犬歯の中央部から歯根部へかけて齲蝕により、歯が溶けているのがお分かり頂けると思います。
犬歯の裏側です。
エナメル質・象牙質は融解して歯髄まで齲蝕が進行していたのが分かります。
下写真の黄色矢印が最初のレントゲン像で描出されていたくの字の吸収像です。
歯根部の遠心側も黄色丸の部位が虫歯菌の酸により溶けています。
犬の虫歯は臨床の現場では比較的遭遇するのは少ないとは思いますが、ヒト同様に疼痛を伴います。
翼くんのように常日頃のデンタルケアをされているケースでも、今回の様に齲歯が出来る場合もあります。
生まれたばかりの子犬には虫歯菌が存在しません。
一般的には、母犬や他の犬が食べたものを食べたり、同じ玩具を使うことで、他の犬の虫歯菌が子犬に移るとされます。
その一方で、犬の虫歯はヒトから移るという説があります。
犬にヒトの食べかけの食物を与えたり、犬が残飯を漁ったりしてヒトの虫歯菌が犬に移ることは十分考えられます。
そうなってくると、やはり日頃のデンタルケアは大切ですね。
その後の翼くんの経過は良好で、歯の痛みからも開放されています。
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