アーカイブシリーズ

2024年1月13日 土曜日

モルモットの口腔内膿瘍(臼歯過長による)

こんにちは 院長の伊藤です。


モルモットは、テンジクネズミ科の齧歯類で千年以上前から馴化されて、ペットとしての長い歴史を持っています。

モルモットにおいても各種疾患は存在します。

過去の統計的資料によれば、モルモット606症例の疾病別の割合は皮膚疾患が36%、泌尿器疾患が17%、歯科疾患が15%と続いています。

歯科疾患の内訳としては、咬合異常が78%、切歯破損9%、不整咬合9%です。

そして不整咬合の60%が臼歯の過長と報告されています。


モルモットのおかめちゃん(雌、2歳6か月齢)は左の頬が腫れているとのことで来院されました。

下写真はおかめちゃんの腫大している左頬です(分かりずらいため患部は剃毛済)。







かなり大きく腫れているのがお分かり頂けると思います。

触診すると腫大した頬の内容が液体を示す波動感があります。

経験的に膿瘍であると思われましたので、試験的に注射針で穿刺しました。

下写真は穿刺した瞬間に排膿しているところです。



手指による圧迫排膿を実施しています。







出来る限りの排膿した後の写真です。

先の腫大した写真と比べて頬がスッキリしているのがお分かり頂けると思います。







問題はこの皮下膿瘍の原因を明らかにしないとまた再発するということです。

齧歯類の上顎・下顎および頬周辺の腫大は多くが歯科疾患が関与していることが多いです。



おかめちゃんの口腔内の検査を実施しました。

最初に目につくのは切歯が過剰に伸びている点です。

次いで、頬を広げる器具を用いて臼歯を確認したところ、著しい右臼歯の過長が見つかりました。

下写真の黄色矢印は、右臼歯が過剰に伸びているところを示しています。



良く診ると過長の臼歯の先端が、反対側の左頬に突き刺さっているのがお分かり頂けると思います。



臼歯用のニッパーを用いて臼歯の過長部分を切断します。



切断した部位を臼歯用ヤスリで舌に干渉しないように研磨します。



下写真の黄色丸は適切な長さに調整した臼歯です。



最後の仕上げに過長してる下顎切歯(下写真黄色丸)を切歯用ニッパーで切断します。



切歯切断面をヤスリで研磨して終了です。

しばらくは抗生剤と鎮痛剤の内服が必要です。




今回のおかめちゃんは、切歯も臼歯も不整咬合により過長していました。

特に右臼歯が伸びすぎて、左頬内側を穿孔してそこからの細菌感染で膿瘍が形成され、左頬の腫脹に至ったものです。

齧歯類である以上、歯は終生にわたり伸び続けるわけですから、定期的に歯科検診を受けられることをお勧めします。

おかめちゃん、お疲れ様でした!





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2024年1月12日 金曜日

ウサギの眼窩膿瘍(眼球突出)

こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのは、ウサギの眼窩膿瘍です。

ウサギは齧歯目の動物である以上、歯科疾患に関わる疾病が多いです。

特に上顎部の臼歯(奥歯)が正常であれば、齧歯目ですから臼歯先端部は口腔内に伸長します。

しかし、臼歯の伸長が何らかの原因(不整咬合など)で阻害されると、眼球を支えているている眼窩という顔面の骨へと上顎臼歯歯根が過長します。

伸びすぎた上顎臼歯歯根は周囲組織と炎症を引き起こし、場合によっては膿瘍が形成されます。

その結果、眼窩に膿瘍が蓄膿し、圧迫された眼球が突出するという事態を招きます。



ネザーランドドワーフのおもちちゃん(4歳、避妊手術済み、体重1.0kg)は左眼の流涙、やや左眼球突出傾向があるとのことでの来院です。





角膜損傷はなく、眼圧測定では左右ともに正常でした。

鼻涙管の炎症を疑い、抗生剤・消炎剤の内服投薬・点眼の指示をしました。



その3週間後に左眼が一挙に突出したとのことで来院されました。

下写真で左眼球が高度に突出しているのがお分かり頂けると思います。







エコーで眼球の状態を検査しました。

エコーのプローブ(端子)をおもちちゃんの左眼球に当てます。



下写真がエコー結果です。

青矢印は眼球を示します。

眼球突出に伴い、眼球を瞼で保護できなくなり、眼球表面が乾燥したことから、角結膜炎および角膜損傷を起こしています。

黄色矢印は眼窩部に溜まった膿を示します。



プローブの角度を変えて見たのが下のエコーです。

黄色矢印が、眼球を包み込むように溜まった眼窩内の膿です。



次いでレントゲン撮影を実施しました。

青矢印は突出した眼球を示します。

黄色丸は、上顎臼歯歯根部の骨破壊・骨増生及び石灰化を伴って、歯根部が眼窩内へ伸長している状態を示します。



下写真青矢印は、突出した眼球です。

黄色丸は、上顎臼歯歯根部の病変(びまん性の骨吸収・石灰像)を示します。

歯根部が眼窩へと伸びてます。



上顎第3前臼歯~後臼歯歯根部に発生した膿瘍は、眼窩内に発生、蓄膿します。

今回のおもちちゃんの眼球突出は、左上顎臼歯の根尖膿瘍に端を発した眼窩膿瘍が原因で発症したものです。

このケースの根本的治療は、該当する上顎臼歯の抜歯と眼窩内の膿瘍の排出です。

口腔内を検査したところ、左上顎臼歯の動揺は認められず、加えておもちちゃんの全身状態が悪いため、全身麻酔を含めた上記処置は一先ず見合わせることとしました。

しかし、左眼球の障害がこのまま進行するようなら、眼球摘出を飼主様にお勧めしました。

出来うる限り、眼球摘出は避けたいのですが、命を守るためには止むを得ません。



その5日後、左眼から排膿が起こり、来院されました(下写真)。

実はこの日の2日後には、おもちちゃんの眼球摘出を予定してました。



眼窩の蓄膿量が限界に達したと思われます。

眼窩膿瘍が発生部位により、下眼瞼周囲の皮膚に隣接する場合があります。

その状況であれば、眼窩からの排膿が可能となります。


今回のおもちちゃんはそのケースであり、排膿が上手く出来たら眼球突出も戻り、眼球摘出を回避できるかもしれません。


眼球と眼窩の間の隙間から出てくる膿を綿棒で掻き出します。







可能な限り排膿しました。

若干、左眼周囲の腫脹も小さくなったようです。

この状態で経過を診ながら、左眼球損傷の治療を継続します。








眼球突出から1週間後のおもちちゃんです。

角膜穿孔部に角膜膿瘍が形成されています。

抗生剤点眼薬(オフロキサシン)と0.3%ヒアルロン酸ナトリウム点眼薬、加えて抗生剤・非ステロイド系消炎剤の内服を処方しました。






下写真は眼球突出2週目です。

エリザベスカラーを装着して眼球を傷つけないように保護します。

おもちちゃんは体重が1kg前後のウサギなので、首に負担がかかってしまいますが今は我慢して頂きます。






下は4週目のおもちちゃんです。

角膜の蓄膿は相変わらずですが、眼球の突出は落ち着いてきたようです。









42日目のおもちちゃんです。

角膜膿瘍はかなり改善が認められます。







56日目の写真です。

まだ圧迫すると、眼窩と結膜の隙間から排膿があります。








101日目の写真です。

角結膜炎も改善して来ました。







115日目です。

常時ではないのですが、不定期に左眼窩からの排膿が認められます。



左眼の突出は落ち着いて来たようです。



角膜炎および角膜潰瘍も良くなりました。






159日目です。

左眼窩からの排膿も認められません。

左眼からの流涙はまだあります。







195日目です。

眼窩からの排膿はなく、左眼も機能しており日常生活も支障なく送れるようになりました。









231日目です。







370日目です。

眼球突出から約1年経過しました。



左眼の状態は良好です。





左上顎第3前臼歯の動揺が確認され、鉗子で抜歯しました。

下写真がその第3前臼歯です。



この臼歯が原因で、おもちちゃんは長期の治療を強いられました。

臼歯の根尖膿瘍で自然に臼歯歯根が腐って、動揺・抜歯するまでに1年という時間を要したことになります。



眼球突出400日目です。

左眼が突出していた時期と比較して、左眼は良好に改善しました。



おもちちゃんの場合、眼球摘出を予定していた2日前に眼窩膿瘍が弾けて排膿しました。

結果として、早急に眼球摘出を急がなくて良かったと思います。

排膿処置と内科的治療で1年以上の月日を要しましたが、回復出来て良かったです。

視力がどの程度回復しているかは測定できませんが、摂食行動や歩行などの日常生活には何ら支障ない状態に戻っています。





体重1kgあまりの小さな体で、1年以上にわたる治療に耐えて頂きました。

現在の結果は、おもちちゃんの頑張りはもとより、飼主様の愛情の賜物です。

今後は、歯のメンテナンスを中心に経過を診て行きましょう。



おもちちゃん、お疲れ様でした!




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2024年1月10日 水曜日

ウサギの根尖膿瘍(眼窩膿瘍含む)


こんにちは 院長の伊藤です。

ウサギの歯にまつわる疾病は多く、日常的にも歯科診療の占める割合は多いと言えます。

特に、歯根部の炎症で生じる根尖病巣からの膿瘍が際立って多いです。

今回は、根尖膿瘍から皮下膿瘍及び眼窩膿瘍に至った症例をご紹介します。


ウサギの まるちゃん(3歳4か月、雌)はこの1,2か月前から右眼が突出して来て、眼の周辺の皮膚が腫れているとのことで来院されました。



下写真黄色丸にあるように右眼球が突出しています。





眼の周辺を触診しますと粘稠性のある液体が貯留しています。

それはおそらく膿であり、皮下膿瘍、場合によっては眼窩膿瘍が生じていると思われます。

まずは、レントゲン撮影を実施しました。

黄色丸で囲んだ部位が突出している眼球と皮下の膿瘍と思しきmass(塊)を表します。



側面の画像では、黄色丸の部位が石灰化を起こした上顎臼歯の根尖膿瘍部(歯根部の膿瘍)を表しています。



患部を排膿するため、皮膚を注射針で穿孔します。



穿刺と同時にクリーム状の膿が皮下から流れ出してきました。





膿瘍を圧排した後、消毒液で患部の洗浄を行います。



膿が無くなった分、眼元がスッキリした感じです。



歯周病が高度に進行しすると口腔内を覗いて歯に触れただけで歯根部のグラつきが触知されます。

その場合は当然抜歯から始めます。

しかし、重度の膿瘍を伴わない臼歯の場合、抜歯は容易ではありません。

ウサギの骨密度は犬の半分以下と言われます。

慎重に抜歯しないと顎骨が骨折します。

したがって、多くの症例は膿瘍の治療が中心となります。


犬猫と異なり、ウサギの場合はカプセルの様に膿を有壁性の嚢胞で取り囲みます。

このスタイルを取ることで、細菌や細菌毒素が全身に回ることを防いで入るとも言えます。

そのため、抗生剤を投薬しても感染部位の細菌に薬剤が直接ダメージを与えることは難しいとされます。

内科的治療と共に、必ず排膿処置を並行して実施する必要があります。



また臼歯の根尖膿瘍は顎骨融解をもたらす場合があります(特に下顎骨)。

状況に応じて、この融解部を外科的に切除することもあります。

今のところ、まる君の患部は骨融解はありませんが、膿瘍が消退するまで治療は続きます。

まる君、治療頑張って行きましょう!




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2024年1月 9日 火曜日

猫の全臼歯抜歯処置

こんちは 院長の伊藤です。

以前、猫の難治性口内炎というテーマをコメントさせて頂きました。

猫の歯肉口内炎は、難治性口内炎や慢性潰瘍性歯肉口内炎やリンパ球性形質細胞性歯肉口内炎等など色んな呼び方をされています。

最近では、この歯肉口内炎を口腔後部口内炎と呼ぶようになってきました。

今回、ご紹介させて頂きますのはソマリのまる君(4歳、去勢済)です。

まる君は1年近く前から歯肉口内炎でよだれがあり、食欲がふるわなく悩んでみえました。

当院でステロイド剤(デポ・メドロール)による内科的治療を継続していましたが、次第にステロイドも効果が弱くなってきました。


結局、飼い主様の意向を伺って、臼歯を全て抜歯する全臼歯抜歯処置を実施することとしました。

猫の難治性口内炎の記事にも書きましたが、全臼歯抜歯処置により、患者の多くは食生活が改善されます。


下写真は、全身麻酔をかけ始めのまる君です。



下写真で口腔内の歯肉炎の状況がお分かり頂けるかと思います。

臼歯歯肉及び周辺組織が発赤、腫脹、潰瘍を起こしています。



上写真を拡大したものです。

黄色丸の部分が炎症を起こしています。



ダイヤモンドバーを用いて臼歯の歯根部を分割します。





下写真の黄色丸は、上顎部の臼歯を抜歯した後です。





上写真は左下顎部の臼歯抜歯の跡です。

抜歯した後の抜歯窩周囲の骨をロンジュールでトリミングしています。



抜歯後は抜歯窩を綺麗にトリミングした後に歯肉を縫合します。



下写真の黄色丸は歯肉の縫合が完了したところです。









以上の処置で、全臼歯抜歯処置は無事終了しました。



この処置後は、暫くの間は内科的治療(ステロイド、抗生剤、免疫抑制剤など)が必要です。

最終的に数か月以内に内科的治療も必要なくなることが多いです。

その中には、この全臼歯抜歯を実施しても際立った改善が認められない症例もあります。

そんなケースではその後、切歯や犬歯を全て抜歯する全顎抜歯をとることもあります。



その後のまる君の経過は良好で食欲もしっかり戻っています。




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2024年1月 7日 日曜日

猫の難治性口内炎


こんにちは 院長の伊藤です。

今回は猫の難治性口内炎をご紹介します。

一般に中高年以降の猫に難治性口内炎は発症します。

その原因については、色々説があり現時点では、不明とされています。

しかし、以下の要因が複合的に絡み合って発症するようです。

1:口腔内細菌の日和見的感染
2:歯石・歯垢の沈着
3:猫免疫不全ウィルス(FIV)・猫白血病ウィルス(FeLV)・猫カリシウィルス(FCV)等の感染
4:腎機能障害・肝機能障害や栄養不良等の基礎疾患

いずれにせよ、この難治性口内炎に罹患しますと

激しい疼痛、流涎、口臭、嚥下困難、食欲低下を伴います。

たとえて言えば、私たちが風邪の引き初めに口内炎で口腔粘膜や舌に潰瘍ができて、痛い思いをすることがあるかと思います。

あの潰瘍の何倍もの大きさが口腔内に数か所できるとイメージしていただければ、どれだけ痛いかご理解できると思います。

下の写真は下顎の激しい歯肉口内炎の猫です。

黄色い部分が潰瘍巣となって歯茎が避けているのがお分かりいただけますか?




治療法として、FIVやFeLV等の感染や基礎疾患が認められない場合は、抗生剤の投薬(クリンダマイシン、クラブラン酸アモキシシリン等)で経過を見ますが、改善がなければ全身麻酔を施し、歯垢・歯石を除去し歯周病がひどければ該当部の歯を抜歯します。

それでも改善しなければ、ステロイド剤(プレドニゾロン、酢酸メチルプレドニゾロン)の投薬を行います。

ステロイドにも反応しない場合は、全ての全臼歯あるいは全顎抜歯を施します。

臼歯を全て抜歯することで、殆どのケースは口内炎が治まります。

下の写真は数年にわたり対症療法で難治性口内炎の治療をしてきた猫のミー君です。

その都度ステロイド療法で対応してましたが、その効果も次第に弱くなってきました。

臼歯を全て抜歯することに飼い主様も当初、躊躇されていましたが、意を決して今回、全歯抜歯を遂行することとなりました。

全臼歯抜歯ですから当然、全身麻酔を行います。



歯肉をメスで切開します。



ラウンドバーを用いて、頬側歯槽骨を切削します。



テーパータイプのラウンドバーで歯冠を分割し、歯根を近心根と遠心根に分離します。




エレベーターを用いて、歯根を頬側へ脱臼させます。




抜歯鉗子を用いて臼歯を抜歯します。



頬側歯肉と口蓋粘膜をモノフィラメント吸収糸で縫合します。



下の黄色い円の部分が縫合後の状態です。





臼歯を全部抜歯して食事は十分撮れるのか?心配される飼い主様も多いです。

抜歯後、1~2週間は疼痛管理は必要ですが、その後は普通に生活を送ることが可能です。

普通にドライフードを食すことができる猫も多いです。

このミー君も長年、難治性口内炎で苦労されていましたが、この全臼歯抜歯後は快適に食生活を送っています。

対症療法として、長期型のステロイド療法を選択される飼い主様も多いですが、副作用として糖尿病が合併症で起きたりします。

難治性口内炎の治療は長期にわたることが多いです。

食事が自身では十分に取れませんので、飼い主様が強制給餌をしなければならないといった、要介護の状況もあるかと思います。

当院では飼い主様との話し合いの中で、治療法を決めさせていただいています。

そんな中、全臼歯抜歯処置も積極的に治療法の選択肢に入れていただいても良いかと思います。


 
 
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