イグアナ・トカゲの疾病
ヒョウモントカゲモドキの脱皮不全
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、ヒョウモントカゲモドキの脱皮不全についてです。
ヒョウモントカゲモドキはヤモリと同じ爬虫類の仲間です。
インドやパキスタン、アフガニスタンに分布しており、体表は小さい黒斑で覆われて豹(ヒョウ)を思わせることからヒョウモンとの名がつけられています。
海外ではLeopard Gecho(レオパルドゲッコー)と呼ばれ、爬虫類マニアからはレオパと略称されてます。
成熟個体では体長25㎝前後、体重60g前後、寿命は10年以上とされています。
そんなヒョウモントカゲモドキですが、脱皮時に脱皮不全を起こし来院されるケースが増えています。
脱皮が近づくと皮膚全体が白くなり、鼻先から脱皮が始まります。
脱皮は最終的に指先まで皮を自身ではずし、食べてしまう事が多いです。
ただ、個体によっては上手に脱皮できなくて問題が起こります。
脱皮不全が起こりやすいのが、指先と瞼です。
指先の皮膚が脱皮不全が起これば、指先に残った皮が乾燥して指先に食い込んで血行障害を招き、最終的に指先が壊死を起こして指が脱落してしまいます。
瞼の場合は脱皮不全の瞼の裏側の皮膚が外れずに残り、乾燥した皮が硬化して眼球に食い込んで開瞼できなくなります。
結局、眼が見えなくなりますので生餌を捕食することが出来なくなります。
脱皮不全と油断していると命を落とすことになりますので大変です。
ヒョウモントカゲモドキのケニー君(性別不明、3歳4か月)は左瞼をばっちり開くことが出来なくなりました。
瞼が開かなくなる時は、勿論、眼球の炎症や角膜損傷が関与してることもあります。
瞼を開けて、まずは眼球の状態を把握することから始まります。
すでに体表が脱皮を始めているのであれば、瞼の脱皮不全が関与してる可能性が高いと思って下さい。
ケニー君は体表がうっすらと白く皮膚が変化していますから脱皮が始まっていました。
瞼を開けてみると、脱皮不全の皮が眼球の上に一枚残っているのが分かります(黄色矢印)。
生理食塩水で眼球を十分に洗浄し、残った皮を柔らかくした上で眼科用のピンセットでゆっくりと剥がしていきます。
思いのほか、厚い皮で伸縮性があります。
これだけ分厚い皮が瞼の内側に残存していたら、眼球を圧迫して痛かったと思われます。
眼球がやっと見えて来ました。
皮を摘出後、ケニー君は少し開眼することが出来るようになりました。
さすがに疲れた様子のケニー君ですが、これで目の痛みから解放されると思います。
次にご紹介する瞼の脱皮不全はぽてとちゃん(雌、2歳)です。
ぽてとちゃんは両眼とも目が開かないとのことで来院されました。
両眼とも開けることが出来ない状態です。
食餌も取れない状態が何日も続いています。
先ほどのケニー君と同様、瞼を開けて確認したところ、やはり脱皮不全でした。
生食で洗浄し、綿棒と眼科ピンセットで優しく残皮を剥がしていきます。
ぽてとちゃんの場合は瞼の裏側を内貼りするように残皮が張り付いていました。
眼球を取り囲む感じでリング状になった残皮を摘出しました。
反対の右眼も同じく、処置して行きます。
こちらもリング状に残皮が取れました。
下写真は両眼から剥がした脱皮不全の残皮です。
摘出するとすぐに乾燥して、これが眼球を締め付けていると思うと脱皮不全とは大変な疾病であると思います。
ぽてとちゃんは残皮を摘出直後から瞼を開けることが出来るようになりました。
ぽてとちゃん、お疲れ様でした!
しっかりと食餌を摂って下さいね。
爬虫類にとって、脱皮不全は命を奪うケースもあります。
脱皮を円滑に出来るようにするためには、飼育環境の湿度管理を初めとして、シェルターなどの設備を整えて下さい。
食餌の栄養学的バランスも考慮して頂く必要があります。
カルシウムに加えてビタミンやミネラルを十分に与えることも脱皮を円滑にするために必要です。
もし、脱皮不全を認めた時はぬるま湯で温浴をしてあげて下さい。
残皮が容易に剥がせないなら、爬虫類を診ることのできる獣医師の診察を受けて下さい。
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本日ご紹介しますのは、ヒョウモントカゲモドキの脱皮不全についてです。
ヒョウモントカゲモドキはヤモリと同じ爬虫類の仲間です。
インドやパキスタン、アフガニスタンに分布しており、体表は小さい黒斑で覆われて豹(ヒョウ)を思わせることからヒョウモンとの名がつけられています。
海外ではLeopard Gecho(レオパルドゲッコー)と呼ばれ、爬虫類マニアからはレオパと略称されてます。
成熟個体では体長25㎝前後、体重60g前後、寿命は10年以上とされています。
そんなヒョウモントカゲモドキですが、脱皮時に脱皮不全を起こし来院されるケースが増えています。
脱皮が近づくと皮膚全体が白くなり、鼻先から脱皮が始まります。
脱皮は最終的に指先まで皮を自身ではずし、食べてしまう事が多いです。
ただ、個体によっては上手に脱皮できなくて問題が起こります。
脱皮不全が起こりやすいのが、指先と瞼です。
指先の皮膚が脱皮不全が起これば、指先に残った皮が乾燥して指先に食い込んで血行障害を招き、最終的に指先が壊死を起こして指が脱落してしまいます。
瞼の場合は脱皮不全の瞼の裏側の皮膚が外れずに残り、乾燥した皮が硬化して眼球に食い込んで開瞼できなくなります。
結局、眼が見えなくなりますので生餌を捕食することが出来なくなります。
脱皮不全と油断していると命を落とすことになりますので大変です。
ヒョウモントカゲモドキのケニー君(性別不明、3歳4か月)は左瞼をばっちり開くことが出来なくなりました。
瞼が開かなくなる時は、勿論、眼球の炎症や角膜損傷が関与してることもあります。
瞼を開けて、まずは眼球の状態を把握することから始まります。
すでに体表が脱皮を始めているのであれば、瞼の脱皮不全が関与してる可能性が高いと思って下さい。
ケニー君は体表がうっすらと白く皮膚が変化していますから脱皮が始まっていました。
瞼を開けてみると、脱皮不全の皮が眼球の上に一枚残っているのが分かります(黄色矢印)。
生理食塩水で眼球を十分に洗浄し、残った皮を柔らかくした上で眼科用のピンセットでゆっくりと剥がしていきます。
思いのほか、厚い皮で伸縮性があります。
これだけ分厚い皮が瞼の内側に残存していたら、眼球を圧迫して痛かったと思われます。
眼球がやっと見えて来ました。
皮を摘出後、ケニー君は少し開眼することが出来るようになりました。
さすがに疲れた様子のケニー君ですが、これで目の痛みから解放されると思います。
次にご紹介する瞼の脱皮不全はぽてとちゃん(雌、2歳)です。
ぽてとちゃんは両眼とも目が開かないとのことで来院されました。
両眼とも開けることが出来ない状態です。
食餌も取れない状態が何日も続いています。
先ほどのケニー君と同様、瞼を開けて確認したところ、やはり脱皮不全でした。
生食で洗浄し、綿棒と眼科ピンセットで優しく残皮を剥がしていきます。
ぽてとちゃんの場合は瞼の裏側を内貼りするように残皮が張り付いていました。
眼球を取り囲む感じでリング状になった残皮を摘出しました。
反対の右眼も同じく、処置して行きます。
こちらもリング状に残皮が取れました。
下写真は両眼から剥がした脱皮不全の残皮です。
摘出するとすぐに乾燥して、これが眼球を締め付けていると思うと脱皮不全とは大変な疾病であると思います。
ぽてとちゃんは残皮を摘出直後から瞼を開けることが出来るようになりました。
ぽてとちゃん、お疲れ様でした!
しっかりと食餌を摂って下さいね。
爬虫類にとって、脱皮不全は命を奪うケースもあります。
脱皮を円滑に出来るようにするためには、飼育環境の湿度管理を初めとして、シェルターなどの設備を整えて下さい。
食餌の栄養学的バランスも考慮して頂く必要があります。
カルシウムに加えてビタミンやミネラルを十分に与えることも脱皮を円滑にするために必要です。
もし、脱皮不全を認めた時はぬるま湯で温浴をしてあげて下さい。
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投稿者 院長 | 記事URL
エリマキトカゲについて
こんにちは 院長の伊藤です。
本日は、いつものように動物の疾病ではなく、珍しい動物の紹介をさせて頂きます。
皆さんはエリマキトカゲはご存知でしょうか?
日本がこれからバブル経済に入って行こうとする1984年、某自動車メーカーのCMで流行となったエリマキトカゲです。
襟を立てて、後肢だけで疾走する姿は衝撃的でした。
下写真は、健診に来院されたエリマキトカゲのまさ君です。
まさ君は診察室に入ってくると興奮して襟を立てて威嚇してます。
全身の容貌をご覧いただきましょう。
なかなかその特徴的な襟を立ててくれることは少ないです。
エリマキトカゲは爬虫類有鱗目アガマ科エリマキトカゲ属に分類されます。
オーストラリア北部・パプアニューギニアに分布しています。
体長は60-90cmで森林に棲息します。
樹上生活を日常的に送りますが、昆虫類を採食するために地上に降ります。
地上では危険回避のために後肢で起立して走行します。
この襟は実際は皮膚飾りで、頚部に舌骨で支えられています。
次に同じくエリマキトカゲのデビーちゃんです。
こちらも健診時の写真です。
デビーちゃんの襟を広げさせてもらいました。
こうしてみるとCMで見た当時の感じが蘇ってきます。
最近は繁殖個体が日本国内に流通しており、ペットとして飼育される方が増えているようです。
樹上と地表の両方で活動できるスペースを確保したケージが必要となります。
一般的なトカゲ類に準じた疾病はあると思われます。
今のところ、命に関わる大きな疾病に罹患した個体には遭遇していません。
今後、エリマキトカゲの疾病を診る機会があれば、当院ホームページでご紹介して行きたいと思います。
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襟を立てて、後肢だけで疾走する姿は衝撃的でした。
下写真は、健診に来院されたエリマキトカゲのまさ君です。
まさ君は診察室に入ってくると興奮して襟を立てて威嚇してます。
全身の容貌をご覧いただきましょう。
なかなかその特徴的な襟を立ててくれることは少ないです。
エリマキトカゲは爬虫類有鱗目アガマ科エリマキトカゲ属に分類されます。
オーストラリア北部・パプアニューギニアに分布しています。
体長は60-90cmで森林に棲息します。
樹上生活を日常的に送りますが、昆虫類を採食するために地上に降ります。
地上では危険回避のために後肢で起立して走行します。
この襟は実際は皮膚飾りで、頚部に舌骨で支えられています。
次に同じくエリマキトカゲのデビーちゃんです。
こちらも健診時の写真です。
デビーちゃんの襟を広げさせてもらいました。
こうしてみるとCMで見た当時の感じが蘇ってきます。
最近は繁殖個体が日本国内に流通しており、ペットとして飼育される方が増えているようです。
樹上と地表の両方で活動できるスペースを確保したケージが必要となります。
一般的なトカゲ類に準じた疾病はあると思われます。
今のところ、命に関わる大きな疾病に罹患した個体には遭遇していません。
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投稿者 院長 | 記事URL
フトアゴヒゲトカゲの扁平上皮癌
こんにちは 院長の伊藤です。
今回取り上げますのはフトアゴヒゲトカゲの腫瘍です。
フトアゴヒゲトカゲにおいては眼瞼周囲に扁平上皮癌の発生が比較的多く認められます。
フトアゴヒゲトカゲのチャコちゃん(雌 4歳11カ月)は右瞼が大きく腫れているとのことで来院されました。
右瞼はこんな感じで腫大しています(下写真黄色丸・黄色矢印)。
トカゲ類は視力に頼って、捕食行動をしますので右眼が見えないとなるとコオロギ等の生餌を捕まえることが出来なくなります。
チャコちゃんにとっては死活問題となります。
左眼は健常であるのが幸いです。
患部の角化が進行し、細胞診のため針穿刺しても細胞が検出できないため、手術で腫瘤ごと摘出した後に病理検査することとしました。
麻酔導入箱に入ってもらい、イソフルランを流し込みます。
イソフルランによる麻酔導入が上手くできましたので、ガスマスクで維持麻酔を実施します。
右眼が腫れていますので、隙間を作らないように自家製のマスクを上手くかぶせます。
トカゲ類は基本、鼻呼吸ですから、両鼻をマスクできれば維持麻酔は可能です。
維持麻酔がしっかり出来ていますので、患部に硬性メスを入れます。
腫瘤がどれくらいの深さにまで浸潤しているか、ピンセットを患部に入れて見当を付けます。
患部の芯部は脆弱な組織です。
上瞼の上部に形成された腫瘤です。
この腫瘤が腫大したため、チャコちゃんは瞼が開けることが出来ない状態です。
滅菌綿棒を使用して皮膚に裏打ちしている腫瘤の組織を剥離して行きます。
この腫瘤は腫瘍組織であると思われますが、血管がたくさん走行しており止血剤を滴下しながら組織を剥離します。
皮膚を牽引しながら硬性メスで腫瘤を剥離して行きます。
患部を切除しました。
腫瘍を念頭に置いた手術ですが、患部のマージンを多く取るとすれば上瞼も全部摘出する必要があります。
飼い主様にもその点、ご了解いただき日常生活で支障のない範囲での摘出とさせて頂きました。
摘出した後の皮膚です。
取り得る範囲は摘出しましたが、それなりの皮膚欠損を伴いました。
次に皮膚縫合します。
5‐0サイズの縫合糸を使用しました。
縫合はこれで完成です。
麻酔からチャコちゃんは覚醒し始めました。
哺乳類と比較して、爬虫類は麻酔のかかりが緩やかで覚醒には時間を要します。
フトアゴヒゲトカゲの場合、ストレスがかかると下顎が黒く変色します。
手術のように色んなストレスがかかる場合は、チャコちゃんの様に黒くなる個体は多いです。
全身麻酔自体が体温を低下させますので、手術中もヒーターで体温を下げないようにしていますが、哺乳類と異なり変温動物だけに体温調整は難しいです。
翌日のチャコちゃんです。
少し眼を開けることが出来るようになりました。
しばらく目薬の点眼も必要です。
下写真は摘出した腫瘤です。
病理検査に出しました。
下写真は病理検査の顕微鏡写真です。
検査結果は扁平上皮癌でした。
扁平上皮癌はケラチノサイト(表皮角化細胞)由来の悪性腫瘍です。
下写真は低倍像です。
ケラチノサイトの島状・索状増殖が認められます。
高倍率像です。
索状・島状の増殖像の中心部には同心円状に堆積したケラチン(癌真珠)(赤矢印)が認められます。
黄色矢印は扁平上皮癌の腫瘍細胞です。
腫瘍細胞の周囲はマクロファージやリンパ球、形質細胞が浸潤して炎症像(下写真黄色丸)が認められます。
チャコちゃんは手術当日、無事退院して頂きました。
術後2週間後のチャコちゃんです。
抜糸のため来院されました。
右眼はしっかり開いています。
扁平上皮癌は局所における浸潤性増殖が特徴で、他の臓器などに遠隔転移することは稀とされています。
しかしながら、悪性腫瘍であり再発するケースも多いです。
腫瘍の周囲も含めて広くマージンを取ることが出来ればよいのですが、顔面周辺に発生することが多いため完全摘出は厳しいことが殆どです。
チャコちゃんも今回の手術は綺麗に出来ましたが、実はこの3か月後に同じ部位から再発が認められました。
飼い主様の熱心なご要望もあり、再手術を実施させて頂きました。
今後は患部の慎重なモニターリングが必要です。
チャコちゃん、大変ですが生活の質を落とすことなく状態が安定されるのを祈念します。
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フトアゴヒゲトカゲのチャコちゃん(雌 4歳11カ月)は右瞼が大きく腫れているとのことで来院されました。
右瞼はこんな感じで腫大しています(下写真黄色丸・黄色矢印)。
トカゲ類は視力に頼って、捕食行動をしますので右眼が見えないとなるとコオロギ等の生餌を捕まえることが出来なくなります。
チャコちゃんにとっては死活問題となります。
左眼は健常であるのが幸いです。
患部の角化が進行し、細胞診のため針穿刺しても細胞が検出できないため、手術で腫瘤ごと摘出した後に病理検査することとしました。
麻酔導入箱に入ってもらい、イソフルランを流し込みます。
イソフルランによる麻酔導入が上手くできましたので、ガスマスクで維持麻酔を実施します。
右眼が腫れていますので、隙間を作らないように自家製のマスクを上手くかぶせます。
トカゲ類は基本、鼻呼吸ですから、両鼻をマスクできれば維持麻酔は可能です。
維持麻酔がしっかり出来ていますので、患部に硬性メスを入れます。
腫瘤がどれくらいの深さにまで浸潤しているか、ピンセットを患部に入れて見当を付けます。
患部の芯部は脆弱な組織です。
上瞼の上部に形成された腫瘤です。
この腫瘤が腫大したため、チャコちゃんは瞼が開けることが出来ない状態です。
滅菌綿棒を使用して皮膚に裏打ちしている腫瘤の組織を剥離して行きます。
この腫瘤は腫瘍組織であると思われますが、血管がたくさん走行しており止血剤を滴下しながら組織を剥離します。
皮膚を牽引しながら硬性メスで腫瘤を剥離して行きます。
患部を切除しました。
腫瘍を念頭に置いた手術ですが、患部のマージンを多く取るとすれば上瞼も全部摘出する必要があります。
飼い主様にもその点、ご了解いただき日常生活で支障のない範囲での摘出とさせて頂きました。
摘出した後の皮膚です。
取り得る範囲は摘出しましたが、それなりの皮膚欠損を伴いました。
次に皮膚縫合します。
5‐0サイズの縫合糸を使用しました。
縫合はこれで完成です。
麻酔からチャコちゃんは覚醒し始めました。
哺乳類と比較して、爬虫類は麻酔のかかりが緩やかで覚醒には時間を要します。
フトアゴヒゲトカゲの場合、ストレスがかかると下顎が黒く変色します。
手術のように色んなストレスがかかる場合は、チャコちゃんの様に黒くなる個体は多いです。
全身麻酔自体が体温を低下させますので、手術中もヒーターで体温を下げないようにしていますが、哺乳類と異なり変温動物だけに体温調整は難しいです。
翌日のチャコちゃんです。
少し眼を開けることが出来るようになりました。
しばらく目薬の点眼も必要です。
下写真は摘出した腫瘤です。
病理検査に出しました。
下写真は病理検査の顕微鏡写真です。
検査結果は扁平上皮癌でした。
扁平上皮癌はケラチノサイト(表皮角化細胞)由来の悪性腫瘍です。
下写真は低倍像です。
ケラチノサイトの島状・索状増殖が認められます。
高倍率像です。
索状・島状の増殖像の中心部には同心円状に堆積したケラチン(癌真珠)(赤矢印)が認められます。
黄色矢印は扁平上皮癌の腫瘍細胞です。
腫瘍細胞の周囲はマクロファージやリンパ球、形質細胞が浸潤して炎症像(下写真黄色丸)が認められます。
チャコちゃんは手術当日、無事退院して頂きました。
術後2週間後のチャコちゃんです。
抜糸のため来院されました。
右眼はしっかり開いています。
扁平上皮癌は局所における浸潤性増殖が特徴で、他の臓器などに遠隔転移することは稀とされています。
しかしながら、悪性腫瘍であり再発するケースも多いです。
腫瘍の周囲も含めて広くマージンを取ることが出来ればよいのですが、顔面周辺に発生することが多いため完全摘出は厳しいことが殆どです。
チャコちゃんも今回の手術は綺麗に出来ましたが、実はこの3か月後に同じ部位から再発が認められました。
飼い主様の熱心なご要望もあり、再手術を実施させて頂きました。
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投稿者 院長 | 記事URL
グリーンイグアナの尻尾切断
こんにちは 院長の伊藤です。
手術ラッシュもやっと落ち着きましたので、ブログに割く時間が取れるようになりました。
本日ご紹介しますのは、グリーンイグアナの尻尾の障害です。
グリーンイグアナは尻尾が非常に長く、特に室内ではドアに挟んだりして外傷を受けるケースが多いです。
グリーンイグアナのエレン君(性別不明、2歳)は尻尾をドアで挟み、ブラブラになっているとのことで来院されました。
下写真は尻尾の障害部です。
皮膚および尻尾の筋肉は断裂しており、離断筋肉の一部は外部に突出しています。
見るからに痛々しい状態ですね。
レントゲン撮影をしました。
体幹部の障害はないようです。
次に尻尾の画像です。
下写真の黄色丸はドアで挟まれた部位です。
患部を拡大しますと尾椎の中央部に近い所(黄色矢印)で骨折しています。
今回のような骨折に加えて、周囲組織の激しい挫滅を伴うケースは、尾椎を離断します。
飼い主様のご了解を頂き、エレン君の尻尾を離断する手術を実施しました。
ガスマスクで導入麻酔をかけます。
イソフルランの匂いに反応してエレン君は暴れましたが、次第に麻酔が効き始めます。
患部を消毒します。
グリーンイグアナは強靭な尻尾を持ち、この尻尾の一撃を食らうだけでも、それなりのダメージは覚悟しなくてはなりません。
それを裏付けるような、太い立派な尻尾の筋肉です。
骨は完全に骨折しているのをレントゲンで確認していますので、バイポーラ(電気メス)を用いて止血・離断をします。
尻尾の筋肉のみで繋がっている状態でした。
筋肉を離断して、断尾完了です。
離断した尻尾です。
次に離断した尻尾の断端を処置します。
骨折している尾椎の関節部までをロンジュールで切除します。
尻尾には太い血管が走っていますので、尾椎骨を一つ外すだけでも出血が始まります。
再度、バイポーラで止血します。
止血が完了し、創部のトリミングが完了しました。
次に皮膚を縫合します。
縫合はこれで終了です。
覚醒後に尻尾を振って創部が開くのを防ぐため、瞬間接着剤で縫合部を保護します。
グリーンイグアナの全身麻酔は麻酔深度調整が難しいです。
短時間の手術でも覚醒に非常に時間がかかったり、発情期にあってはどれだけ麻酔量を増やしてもかかりません。
今回のエレン君は、その点難しいことなく麻酔導入・維持・覚醒に至ることが出来ました。
術後でまだ麻酔が抜け切れてないエレン君です。
少しずつ意識が戻ってきました。
意識が戻ると突然走り出したりするため、しっかり保定します。
覚醒後のエレン君ですが、歩行はしっかりしており麻酔による問題はなさそうです。
下写真黄色丸が切断した尻尾です。
術後の経過もよく、エレン君は当日退院して頂きました。
術後二週間の患部です。
問題なく皮膚も癒合してます。
抜糸しています。
患部が無事、治っているか確認するまで爬虫類の外傷は油断できません。
最後に飼主様とのツーショットです。
エレン君、お疲れ様でした!
グリーンイグアナを飼育されている飼主様、くれぐれもドアを閉めるときはご注意ください。
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グリーンイグアナは尻尾が非常に長く、特に室内ではドアに挟んだりして外傷を受けるケースが多いです。
グリーンイグアナのエレン君(性別不明、2歳)は尻尾をドアで挟み、ブラブラになっているとのことで来院されました。
下写真は尻尾の障害部です。
皮膚および尻尾の筋肉は断裂しており、離断筋肉の一部は外部に突出しています。
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体幹部の障害はないようです。
次に尻尾の画像です。
下写真の黄色丸はドアで挟まれた部位です。
患部を拡大しますと尾椎の中央部に近い所(黄色矢印)で骨折しています。
今回のような骨折に加えて、周囲組織の激しい挫滅を伴うケースは、尾椎を離断します。
飼い主様のご了解を頂き、エレン君の尻尾を離断する手術を実施しました。
ガスマスクで導入麻酔をかけます。
イソフルランの匂いに反応してエレン君は暴れましたが、次第に麻酔が効き始めます。
患部を消毒します。
グリーンイグアナは強靭な尻尾を持ち、この尻尾の一撃を食らうだけでも、それなりのダメージは覚悟しなくてはなりません。
それを裏付けるような、太い立派な尻尾の筋肉です。
骨は完全に骨折しているのをレントゲンで確認していますので、バイポーラ(電気メス)を用いて止血・離断をします。
尻尾の筋肉のみで繋がっている状態でした。
筋肉を離断して、断尾完了です。
離断した尻尾です。
次に離断した尻尾の断端を処置します。
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尻尾には太い血管が走っていますので、尾椎骨を一つ外すだけでも出血が始まります。
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止血が完了し、創部のトリミングが完了しました。
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術後でまだ麻酔が抜け切れてないエレン君です。
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下写真黄色丸が切断した尻尾です。
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術後二週間の患部です。
問題なく皮膚も癒合してます。
抜糸しています。
患部が無事、治っているか確認するまで爬虫類の外傷は油断できません。
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ヒョウモントカゲモドキの卵閉塞(開腹摘出手術)
こんにちは 院長の伊藤です。
生物は、何らかの疾病に罹患すると症状として食欲不振が現れます。
犬や猫などの哺乳類なら食欲不振といっても、毎日食餌を摂るわけで、明らかに今日は一日食欲がないと見ていれば分かります。
ところが、爬虫類になりますと1、2週間に1度の食餌が日常になりますから、食欲不振の指標が非常に不明瞭となります。
本日は、食欲不振から手術に至ったヒョウモントカゲモドキの症例です。
ヒョウモントカゲモドキのマメちゃん(推定年齢2歳、雌)はこの1か月まったく食餌を摂っていないとのことで来院されました。
マメちゃんの両眼は窪んでおり、脱水の進行が認められます。
ヒョウモントカゲモドキの健康のバロメーターとされる尻尾のプリプリした膨らみもなく、萎んだ状態になっており、栄養不良が伺えます。
腹部を触診すると腹部両側が腫大しているのが判明しました(下写真黄色矢印)。
軽く腹部を圧迫すると総排泄腔から膿が出て来ました(下写真黄色丸)。
レントゲン撮影を実施しました。
黄色矢印は卵を示しています。
卵の拡大写真です。
マメちゃんはおそらく1か月以上前から卵閉塞の状態に陥っていた可能性があります。
爬虫類の場合、低カルシウム血症や卵管の収縮不全のために卵閉塞なることは稀です。
むしろ卵管や総排泄腔を物理的に通過できなくなることが卵閉塞の原因とされます。
卵が大きすぎたり、骨盤が狭くて卵が通過できなかったり、卵の表面が凸凹して卵管内を円滑に下降できない等です。
マメちゃんの場合は、卵が骨盤と比較して過大であることが卵閉塞の原因と思われます。
内科的療法で対処するステージではなく、外科的に卵を摘出する必要があると感じました。
食欲不振や脱水も進行していますので、麻酔のリスクもあり慎重に手術を実施させて頂きました。
イソフルランを吸入させるため麻酔導入箱に入ってもらいます。
ほどなくマメちゃんは麻酔が効いてきました。
マメちゃんの口にマスクを付け維持麻酔に切り替えます。
腹部を消毒して開腹手術に移ります。
小さなヒョウモントカゲモドキとはいえ、皮膚の鱗はメスで直線に切るのは硬く慎重さが要求されます。
皮膚を切開し、卵管にアプローチします。
卵の直上からメスで卵管に切開を入れます。
卵を鉗子で把持して摘出します。
卵の卵殻は非常に柔らかく強い力を加えると破れてしまいそうです。
卵管内は膿が貯留しており、腐敗臭を伴っています。
卵管内を洗浄して縫合します。
最後に皮膚を縫合します。
同じ要領で反対側も対処していきます。
両側の卵を摘出するとマメちゃんのお腹はペッちゃんこになりました。
腹腔内の大部分を卵が占有してしまい、消化管は圧迫され食欲がないのは頷けます。
下写真は摘出した卵です。
全長は30㎜もありました。
卵殻は非常に柔らかく、十分なカルシウムが卵殻に分泌されていないようです。
個体が卵を持つ以前の飼育環境と個体の栄養状態によって、卵閉塞が引き起こされる場合も多いです。
手術終了直後のマメちゃんです。
補注類は変温動物ですから、麻酔により低体温になりますのでしっかり保温します。
意識が戻ってきたところでブドウ糖や抗生剤を与えます。
麻酔から覚醒がスムーズにできるか心配していましたが、問題なく覚醒できました。
爬虫類の外科手術後の管理は非常に大変です。
手術のストレスで拒食に陥ることも多く、哺乳類の様にシンプルなものではありません。
非常に残念ながらマメちゃんは退院後に急逝されました。
術前に既に栄養状態が悪かったことも、術後のストレスに耐えられなかったことの原因かもしれません。
爬虫類や鳥類に多いとされる代謝性骨疾患(MBD)にマメちゃんは罹患していた可能性があります。
卵閉塞は、飼育の不備、不適当な温度管理、不十分な食事内容、脱水、産卵前の感染やその他ストレスなどの原因が複合的に重なってにおこるとされます。
日常から食事や飼育環境を十分に整えて、自力で産卵できる健康状態を維持し、事前に十分な産卵環境を整えてあげることが重要です。
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生物は、何らかの疾病に罹患すると症状として食欲不振が現れます。
犬や猫などの哺乳類なら食欲不振といっても、毎日食餌を摂るわけで、明らかに今日は一日食欲がないと見ていれば分かります。
ところが、爬虫類になりますと1、2週間に1度の食餌が日常になりますから、食欲不振の指標が非常に不明瞭となります。
本日は、食欲不振から手術に至ったヒョウモントカゲモドキの症例です。
ヒョウモントカゲモドキのマメちゃん(推定年齢2歳、雌)はこの1か月まったく食餌を摂っていないとのことで来院されました。
マメちゃんの両眼は窪んでおり、脱水の進行が認められます。
ヒョウモントカゲモドキの健康のバロメーターとされる尻尾のプリプリした膨らみもなく、萎んだ状態になっており、栄養不良が伺えます。
腹部を触診すると腹部両側が腫大しているのが判明しました(下写真黄色矢印)。
軽く腹部を圧迫すると総排泄腔から膿が出て来ました(下写真黄色丸)。
レントゲン撮影を実施しました。
黄色矢印は卵を示しています。
卵の拡大写真です。
マメちゃんはおそらく1か月以上前から卵閉塞の状態に陥っていた可能性があります。
爬虫類の場合、低カルシウム血症や卵管の収縮不全のために卵閉塞なることは稀です。
むしろ卵管や総排泄腔を物理的に通過できなくなることが卵閉塞の原因とされます。
卵が大きすぎたり、骨盤が狭くて卵が通過できなかったり、卵の表面が凸凹して卵管内を円滑に下降できない等です。
マメちゃんの場合は、卵が骨盤と比較して過大であることが卵閉塞の原因と思われます。
内科的療法で対処するステージではなく、外科的に卵を摘出する必要があると感じました。
食欲不振や脱水も進行していますので、麻酔のリスクもあり慎重に手術を実施させて頂きました。
イソフルランを吸入させるため麻酔導入箱に入ってもらいます。
ほどなくマメちゃんは麻酔が効いてきました。
マメちゃんの口にマスクを付け維持麻酔に切り替えます。
腹部を消毒して開腹手術に移ります。
小さなヒョウモントカゲモドキとはいえ、皮膚の鱗はメスで直線に切るのは硬く慎重さが要求されます。
皮膚を切開し、卵管にアプローチします。
卵の直上からメスで卵管に切開を入れます。
卵を鉗子で把持して摘出します。
卵の卵殻は非常に柔らかく強い力を加えると破れてしまいそうです。
卵管内は膿が貯留しており、腐敗臭を伴っています。
卵管内を洗浄して縫合します。
最後に皮膚を縫合します。
同じ要領で反対側も対処していきます。
両側の卵を摘出するとマメちゃんのお腹はペッちゃんこになりました。
腹腔内の大部分を卵が占有してしまい、消化管は圧迫され食欲がないのは頷けます。
下写真は摘出した卵です。
全長は30㎜もありました。
卵殻は非常に柔らかく、十分なカルシウムが卵殻に分泌されていないようです。
個体が卵を持つ以前の飼育環境と個体の栄養状態によって、卵閉塞が引き起こされる場合も多いです。
手術終了直後のマメちゃんです。
補注類は変温動物ですから、麻酔により低体温になりますのでしっかり保温します。
意識が戻ってきたところでブドウ糖や抗生剤を与えます。
麻酔から覚醒がスムーズにできるか心配していましたが、問題なく覚醒できました。
爬虫類の外科手術後の管理は非常に大変です。
手術のストレスで拒食に陥ることも多く、哺乳類の様にシンプルなものではありません。
非常に残念ながらマメちゃんは退院後に急逝されました。
術前に既に栄養状態が悪かったことも、術後のストレスに耐えられなかったことの原因かもしれません。
爬虫類や鳥類に多いとされる代謝性骨疾患(MBD)にマメちゃんは罹患していた可能性があります。
卵閉塞は、飼育の不備、不適当な温度管理、不十分な食事内容、脱水、産卵前の感染やその他ストレスなどの原因が複合的に重なってにおこるとされます。
日常から食事や飼育環境を十分に整えて、自力で産卵できる健康状態を維持し、事前に十分な産卵環境を整えてあげることが重要です。
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投稿者 院長 | 記事URL