アーカイブシリーズ

2024年4月 5日 金曜日

リチャードソンジリスのアポクリン腺癌

こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのは、リチャードソンジリスの皮膚腫瘍です。

体表部の汗腺が腫瘍化して発生するものにアポクリン腺の腫瘍があります。

アポクリン腺の腫瘍には良性のアポクリン腺腫と悪性のアポクリン腺癌があります。

腺腫と腺癌の鑑別は臨床的に困難です。

腺癌は一般的に境界不明瞭な腫瘤で、びまん性に皮膚に浸潤していきます。

ジリスの場合は皮膚のアポクリン腺が腫瘍化しますので、皮膚に結節上の腫瘤が多発的に生じることが多いです。



リチャードソンジリスのバニラ君(2歳8か月、雄、体重600g)は顔の側面あたりに腫瘤があるとのことで来院されました。



触診をしますと確かに5~6㎜の結節上の腫瘤が両顔面と耳の間に3個ずつ認められます。

まずはこの腫瘤を細胞診しました。

結果はアポクリン腺癌でした(下写真)。



さらに背部表層部に同じような結節性腫瘤が多数認められました。

こちらも細胞診して同じアポクリン腺癌である事が判明しました(下写真)。



腫瘍を皮膚ごと切除する外科的処置を選択させて頂きました。

下写真は麻酔導入箱に入っているバニラ君です。





麻酔導入がうまくできた所でガスマスクで維持麻酔に変えます。

下写真黄色丸の箇所が腫瘍です。

体の正中線に沿って多数集まっているのがお分かり頂けると思います。





もともと小さな体ですからある程度のマージン(腫瘍の縁取り)を取る必要があるのですが、限界があります。

縫合時に皮膚にテンション(緊張)がかかることを予想して切除を進めていきます。









背中の切除は終了です。



次は顔と耳の間の腫瘍を切除していきます。



背部が乾燥しないように生理食塩水で濡らします。



これから皮膚を縫合していきます。

ジリスは激しい動きもしますので、ステンレスワイヤーで縫合することにしました。



バニラ君、ちょっと痛々しい感じですが縫合は終了しました。





麻酔の覚醒は速やかで手術は無事終了です。





術後に食欲不振になって、腸蠕動が停滞すると困りますので強制給餌で流動食を与えます。







翌日のバニラ君です。

元気に退院して頂きました。



皮膚が完全に癒合するまで数週間は必要です。

バニラ君、それまで患部を齧ったりしないようお願いします!





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2024年4月 3日 水曜日

ジリスの大腿骨骨折整復手術

こんにちは 院長の伊藤です。


本日、ご紹介するのはジリスの大腿骨骨折手術です。

感染症法第8章(感染症の病原体を媒介するおそれのある動物の輸入に関する措置)第54条に基づき、2003年からプレーリードッグの輸入が禁止になったことから、リチャードソンジリスが生態や外見がプレーリードッグに似ている輸入可能な動物として知られるようになりました。

リチャードソンジリスのベルちゃん(体重600g)は、飼主様が誤って踏んで大腿骨を骨折してしまいました。



下のレントゲン写真の黄色い丸の中が骨折している大腿骨です。





大腿骨の骨髄腔は約2㎜となく、骨折端から大転子(骨盤に近い側の大腿骨端)までの距離は3㎝もありません。

ジリスは大腿部の筋肉群が非常に発達しており、骨折部へのアプローチは大変難しいです。

大腿骨の整復には何通りもの手術法がありますが、小型のエキゾッチクアニマルですので術後の生活がストレスなく送れるためには、骨髄内に1.2㎜のピンを打ち込んで固定するピンニング法が最善と判断しました。

ピンニング法の弱点は、骨折部の回転運動に耐えられないことです。

術後にベルちゃんが激しい運動を控えてくれると良いのですが、こればかりは神のみぞ知るです。

早速、手術を実施しました。







上の写真に骨折した大腿骨の骨端が認められます。

斜めに大腿骨が割れた骨折端がお分かりになると思います。

いわゆる斜骨折と呼ばれる骨折形態です。



骨盤に近い側の骨折端(近位端)へピンを入れているところです。



近位端にピンを貫通させたら、今度はドリルのハンドルを180度向きを変えて遠位端へとピンを入れます。






骨折部をピンが貫通して固定できれば成功です。

この状態はレントゲン写真の方が分かりやすいと思います。







上の写真の黄色い丸が骨折部です。ピンが両骨折端をつないでいるのが分かります。



あとは筋膜や皮下組織を縫合して終了です。



ベルちゃんは長時間に及ぶ麻酔にも頑張って耐えてくれました。

麻酔覚醒後も特に暴れることもなく、手術当日はおとなしくしてくれました。

翌日、ベルちゃんに入っている段ボール箱に2つの大きな穴が開いていました。

ベルちゃんが齧った後です。でも脱走することなくその場に居てくれてました。

以前にプレーリードッグの大腿骨骨折の手術でピンニングを実施した際に、翌日ピンをプレーリー君が引き抜いて愕然とした経験がありますので、今回はエリザベスカラーも装着し万全の対策を施しました。

入院中は特に問題も起きず無事退院の日を迎えたベルちゃんです。



あとは骨折部が癒合してピンを抜去できる日(2か月ぐらい先)まで、大変だけどおとなしく過ごしていて欲しいと願います。

ベルちゃん、お疲れさまでした!





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2024年4月 2日 火曜日

ボタンインコの卵塞症(Egg binding)

こんにちは 院長の伊藤です。


小型愛玩鳥の卵塞症、いわゆる卵つまりは日常的に遭遇します。

初産での発生率が高いこと、産卵を集中して行う個体ほど発生するとされています。

殻付餌を中心とした給餌スタイルで、ビタミン・ミネラルを与えられず、日光浴もしていない個体に卵塞症は多発します。


今回、ご紹介しますのはボタンインコのアロエちゃん(10か月齢、雌)は4日間続けて産卵をしてから、急に元気がなくなってきたとのことで来院されました。



腹部を触診したところ、セキセイインコの様にはっきりと卵殻の感触が指先に感じられなかったためにレントゲン撮影を行いました。





上写真の黄色丸で囲んだ箇所が降りてこない卵です。

卵塞症の治療の一つとして、卵圧迫排出処置があります。

これは、体を保定して指で卵を押して強制的に塞卵を排出させる方法です。

ただ圧迫排出が可能なのは、卵が子宮部から膣部にある場合だけに限られます。

卵管が逆蠕動をして、卵管の上部(膨大部や卵管采)に上がっている場合は、この圧迫排出は危険で禁忌とされます。

早速、圧迫排出法を実施します。



下腹部をやさしく揉み解すような感じで、触っていると卵が卵管の下の方へと降りてきました。



流動パラフィンを総排泄口に滴下して卵の潤滑をよくします。





特に出血もなく無事に卵は排出できました。



スッキリしたアロエちゃんです。



卵塞の原因は以下の通りとされます。

1:低カルシウム血症による子宮収縮不全

2:卵殻形成異常

3:環境ストレスによる産卵機構の急停止

4:卵管口が何らかの原因で閉塞した場合

アロエちゃんの場合は、4日間毎日産卵して、低カルシウム血症になっての卵塞ではないかと思われます。



卵塞を防ぐためには、過産卵させないことが重要です。

以前、過産卵を防ぐ方法を掲載しましたので興味のある方はこちらをクリックして下さい。

あとはビタミンDとミネラル(塩土)を確実に与えて下さい。

日光浴はガラス越しは紫外線がガラスで吸収されてしまい、意味がありません。

必ずケージごと屋外に出すようにして下さい。




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2024年4月 1日 月曜日

オカメインコの下嘴再建術


こんにちは 院長の伊藤です。


本日ご紹介しますのは、オカメインコの下嘴再建術です。

愛玩鳥は何らかの原因で嘴が破損して、採食不能になる場合があります。

鳥にとって、一日でも採食できなければ直接死につながります。

必然的に餌がついばむことが出来るように、嘴を整形外科的に再建する必要があります。

本日はそんなケース事例です。



オカメインコのサンタ君(性別不明、年齢不明)はペットショップから飼主様が譲り受けた子です。





譲り受けた時点から下嘴に問題があり、大きな種などは採食することが出来ないとのことで来院されました。

皆さん、上の2枚の写真から異常事態がお分かり頂けるでしょうか?

下嘴を見上げる形で写した写真を載せます。



下嘴の中央部がすでに欠損しており、両サイドに残った嘴で辛うじて採食しているといった状態です。

この欠損している下嘴の中央部を人工の素材で補てんする必要があります。

歯科用ポリカルボキシレートセメントを欠損部に塗り込んで強度的に使えるか見てみました。

まずは上嘴が伸びすぎて、下嘴を貫いていますので歯科用ニッパーでカットします。



次にセメント剤を塗り込みます。





歯科用ユニットで風を送り込んで硬化を促します。



硬化する前にサンタ君は暴れてしまい、両サイドの下嘴が何度も可動によりぶつかり合って、セメント剤だけの架橋は無理でした。

方法を変えて、下嘴をステンレスワイヤーで固定した上で、セメント剤で補てんする方法にトライすることとしました。

23Gの注射針の中にステンレスワイヤーを通して、下嘴を注射針で貫通します。







貫通した側のワイヤーを鉗子で把持して、注射針を反対側に引き抜きます。





残ったワイヤーで下嘴を締結します。









下嘴の中央部欠損が大きく、ワイヤー締結しても隙間が生じます。

この部位にセメントを補てんしていきます。









今度はしっかり、セメントも硬化して下嘴が強化されました。







この処置でサンタ君がしっかり、硬い餌も採食できるかを経過観察していきます。

サンタ君、疲れ果てた顔をしていますがお疲れ様でした!




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2024年3月31日 日曜日

オカメインコの卵管蓄卵材症

こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのは、オカメインコの卵管蓄卵材症という舌を咬みそうな症状です。

もとより、鳥は排卵して卵管を卵が下りていく間に卵白や卵殻が形成され、産卵に至るというプロセスがあります。

卵が無事卵管から総排泄腔へとスムーズに降りてくれれば、以前ご紹介した卵塞にはならずに済みます。

今回の卵管蓄卵材症は、卵を形成すべき材料が異常に分泌され続け、これらが排泄されずに卵管内に蓄積した状態の疾病です。


オカメインコのほたるちゃんは、下腹部が異常に張ってきたということで来院されました。





上の写真の黄色丸で囲んだ部分が腫脹している下腹部です。

触診しますと指先に卵殻の硬い感じがありました。

まずは卵塞の可能性を考慮して、指先で優しく圧迫して総排泄孔から卵を出そうと試みました。



普通の卵塞ならば、そんなに苦労せずに卵が顔を出してくれるのですが、今回は厳しい感じです。

総排泄腔から卵管が脱出してきました。



早速、卵管の状態を把握するためにレントゲン撮影を実施しました。

この時点で、手術の必要性を感じてマスクをかけ、全身麻酔を施しました。





上の写真を局所的に拡大します。





黄緑色の矢印は脱出した卵管です。

黄色丸で示したのが形成が未熟なままの卵殻と卵材です。

ほたるちゃんはここのところ、発情が酷く産卵も集中していたとの事です。

まずは、脱出した卵管に切開を加えて卵材の摘出を試みました。





ゆで卵のような卵黄や卵白が出て来ました。



卵白と卵黄の混在物や卵殻の破片のようなものが色々出て来ました。

取れる限界まで卵材を回収して卵管を縫合します。





次に縫合した卵管を総排泄腔から中に戻します。



これで手術は終了です。

摘出した卵材の一部は下の通りです。



卵管内に蓄積する卵材は、卵黄・卵白・卵殻・卵殻膜等を原材料として、ゼリー状、液状、粘土状、砂状、結石状のものから完成形に近い卵状まで様々な形で存在するそうです。

この疾病は、犬猫で比較するならば子宮蓄膿症に匹敵するものです。

原因としては、卵材の異常分泌や卵材の排出不全が挙げられます。

この疾病に罹患した場合、何も処置せずに放置しておくと卵材が自然に吸収されることはなく、徐々に蓄積されていく傾向にあります。

長期にわたる卵材停滞の場合は、卵管炎から腹膜炎に至ることがあり、また卵材の慢性刺激により、卵管腫瘍が誘発されるケースもあります。

いずれにせよ、完治を目指すならば卵管の摘出がベストです。

今回のほたるちゃんの場合は全身状態も考慮して、開腹手術・卵管摘出手術は実施しませんでしたが、次に再発して全身状態が良好ならば、卵管摘出を考えるべきだと思います。

麻酔から覚醒したほたるちゃんです。







術後の覚醒も良好で、脱水を防ぐために水分補給と抗生剤を投薬してます。

今後の経過を注意して診ていきます。

翌日、ほたるちゃんは無事退院されました。





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