アーカイブシリーズ
2024年3月30日 土曜日
オカメインコの洞炎(副鼻腔炎)
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのはオカメインコのきゅうちゃんです。
きゅうちゃんは、3年前からくしゃみを主徴とした上部気道炎・洞炎に罹っており、不定期に再発を繰り返しています。
E.coli, Haelomophilus, Pasteurellaといった細菌や Aspergillis, Candida, Cryptococcus等の真菌、あるいはポックスウィルスやパラミクソウィルス等が原因で上部気道炎(鼻眼結膜炎、副鼻腔炎、喉頭気管炎、気管支炎)が発症
します。
きゅうちゃんの場合は下写真(青丸)の様に鼻がまず詰まってしまい、鼻呼吸が辛くなります。
鼻炎に始まる鼻水、くしゃみで鼻腔内が閉塞します。
鳥は一般に鼻呼吸なんですが、鼻が詰まると開口呼吸が始まります。
この段階で治療を始めておかないと重症・慢性化することが多いです。
特にこの上部気道炎の中でも一旦、発症すると治りにくい疾患が洞炎(副鼻腔炎)です。
洞炎とは、副鼻腔とよばれる鼻よりも奥に存在する空間の炎症を指していいます。
人で蓄膿症と呼ばれる疾患とほぼ同じと思って下さい。
副鼻腔は複雑な形状をしており、この内部で常在化してしまった病原体を叩くのは大変です。
副鼻腔内に炎症性滲出液や黄色の硬結した膿が充満して顔面が腫脹したり、場合によっては眼球が突出してしまう事もあります。
きゅうちゃんは洞炎に以前から罹患していますが、飼主様が熱心に治療にあたられていますので、重症化することなく現在に至っています。
加えて眼窩下洞の炎症が背景となって、左眼が角結膜炎にもなっています。
長らく点眼薬や内服薬の治療を進めさせていただいてます。
それでも最近の気象状況も加わって、季節の変わり目となると洞炎の再発が起こります。
洞炎の完治に向け、飼主様共々頑張っていきたいと思います。
昨日、雨上がりに病院の待合室から綺麗な虹がでましたので一緒に載せます!
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本日ご紹介しますのはオカメインコのきゅうちゃんです。
きゅうちゃんは、3年前からくしゃみを主徴とした上部気道炎・洞炎に罹っており、不定期に再発を繰り返しています。
E.coli, Haelomophilus, Pasteurellaといった細菌や Aspergillis, Candida, Cryptococcus等の真菌、あるいはポックスウィルスやパラミクソウィルス等が原因で上部気道炎(鼻眼結膜炎、副鼻腔炎、喉頭気管炎、気管支炎)が発症
します。
きゅうちゃんの場合は下写真(青丸)の様に鼻がまず詰まってしまい、鼻呼吸が辛くなります。
鼻炎に始まる鼻水、くしゃみで鼻腔内が閉塞します。
鳥は一般に鼻呼吸なんですが、鼻が詰まると開口呼吸が始まります。
この段階で治療を始めておかないと重症・慢性化することが多いです。
特にこの上部気道炎の中でも一旦、発症すると治りにくい疾患が洞炎(副鼻腔炎)です。
洞炎とは、副鼻腔とよばれる鼻よりも奥に存在する空間の炎症を指していいます。
人で蓄膿症と呼ばれる疾患とほぼ同じと思って下さい。
副鼻腔は複雑な形状をしており、この内部で常在化してしまった病原体を叩くのは大変です。
副鼻腔内に炎症性滲出液や黄色の硬結した膿が充満して顔面が腫脹したり、場合によっては眼球が突出してしまう事もあります。
きゅうちゃんは洞炎に以前から罹患していますが、飼主様が熱心に治療にあたられていますので、重症化することなく現在に至っています。
加えて眼窩下洞の炎症が背景となって、左眼が角結膜炎にもなっています。
長らく点眼薬や内服薬の治療を進めさせていただいてます。
それでも最近の気象状況も加わって、季節の変わり目となると洞炎の再発が起こります。
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投稿者 もねペットクリニック | 記事URL
2024年3月27日 水曜日
ウサギの感電(家電のケーブルにはご注意を!)
こんにちは 院長の伊藤です。
ウサギは何でも齧ります。
ウサギの歯は、常生歯という持続的に伸び続ける形態である以上、絶えず硬いものを齧って歯を摩耗させていかないと過長歯となります。
過長した歯棘が口腔内に傷害を与え、最終的に食欲減退に至ります。
齧り木だけ齧るウサギの場合は何の心配もありませんが、齧る対象が家電製品のケーブルであったら?
というのが、今回のテーマです。
ミニウサギのクルチェちゃん(1歳、雌)は家電製品のケーブルを齧ってから、食欲がなく口の周辺が腫れているとのことで来院されました。
以下の3枚の写真をご覧いただいて、口の周辺部が赤く腫脹しているのがお分かりいただけますか?
下写真の黄色丸で囲んだ箇所が腫れています。
電気コードを咬んで、感電した犬の診察を過去にしたことがあります。
その時は口腔内の熱傷と胃内に通電した結果、胃潰瘍を伴っていました。
その犬の場合は、咬みきったコードをある程度の長さまで飲み込んでしまったための結果です。
今回のクルチェちゃんの場合は、ウサギであるがゆえに電気コードを口先で齧っていたために口吻部のみの熱傷でとどまったと思われます。
口腔内を確認するために、開口器を用いて検査します。
舌が暗赤色に腫れ上がって(黄色丸)、上皮が熱変性して剥離しています(黄色矢印)。
水は何とか飲めるようですが、チモシーやペレットは厳しいかもしれません。
抗生剤とステロイド剤を処方させて頂きました。
しばらくの間は流動食でつないでいただく必要があります。
ウサギをケージから放って室内を徘徊させる習慣があるご家庭は、くれぐれも家電製品のケーブルを齧ったりしないように、細心の注意を払って下さいね!
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ウサギは何でも齧ります。
ウサギの歯は、常生歯という持続的に伸び続ける形態である以上、絶えず硬いものを齧って歯を摩耗させていかないと過長歯となります。
過長した歯棘が口腔内に傷害を与え、最終的に食欲減退に至ります。
齧り木だけ齧るウサギの場合は何の心配もありませんが、齧る対象が家電製品のケーブルであったら?
というのが、今回のテーマです。
ミニウサギのクルチェちゃん(1歳、雌)は家電製品のケーブルを齧ってから、食欲がなく口の周辺が腫れているとのことで来院されました。
以下の3枚の写真をご覧いただいて、口の周辺部が赤く腫脹しているのがお分かりいただけますか?
下写真の黄色丸で囲んだ箇所が腫れています。
電気コードを咬んで、感電した犬の診察を過去にしたことがあります。
その時は口腔内の熱傷と胃内に通電した結果、胃潰瘍を伴っていました。
その犬の場合は、咬みきったコードをある程度の長さまで飲み込んでしまったための結果です。
今回のクルチェちゃんの場合は、ウサギであるがゆえに電気コードを口先で齧っていたために口吻部のみの熱傷でとどまったと思われます。
口腔内を確認するために、開口器を用いて検査します。
舌が暗赤色に腫れ上がって(黄色丸)、上皮が熱変性して剥離しています(黄色矢印)。
水は何とか飲めるようですが、チモシーやペレットは厳しいかもしれません。
抗生剤とステロイド剤を処方させて頂きました。
しばらくの間は流動食でつないでいただく必要があります。
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2024年3月26日 火曜日
ウサギの肺腫瘍
こんにちは 院長の伊藤です。
肺と言いう臓器は、血液中のガス交換をする重要な役割を担っています。
肺を絶えず血液が巡るということは、血中に腫瘍細胞が流出したら、肺に至る確率は極めて高いということです。
特にウサギの場合、雌は乳癌、子宮腺癌になることがあり、二次的に肺に腫瘍が転移するケースを多く診てます。
実際、ヒトの場合もそうでしょうが、ウサギにしても肺腫瘍となると完治することは至難です。
本日、ご紹介しますミニウサギのクロ君(雄、8歳、体重1.6㎏)は一時的なてんかん発作を起こしたとのことで来院されました。
呼吸が浅いという事、前肢を立てたままの状態でいることから呼吸が辛くなっているだろうと判断しました。
早速、レントゲン撮影を実施しました。
黄色丸で囲んだ肺野が白く点々が入っているのがお分かりいただけたでしょうか?
さらに患部を拡大します。
特に上写真では心臓のシルエットも見にくくなるくらい肺野に多数のX線不透過の結節が認められます。
先に述べましたように、雌であれば乳癌、子宮腺癌がらみの腫瘍転移はありですが、クロ君は雄です。
クロ君を診る限り、体表部に腫瘍は認められません。
また他の箇所もレントゲンを撮影しましたが、腫瘍を疑わせる所見はありませんでした。
となると、肺がこの腫瘍の原発巣となるのでしょうか?
ウサギの肺原発性腫瘍は極めてまれな症例と言われています。
クロ君の腫瘍のステージはかなり進行しており、末期に至っていると思われました。
出来うることは対症療法となります。
流動食で最低限の体力は維持してもらい、内科的治療で呼吸を楽にし、疼痛管理をするという形になります。
飼い主様の意向もあり、しばし当院のICUに入院して頂き、治療をさせていただきました。
40%の酸素濃度で管理されたケージ内で、呼吸は安定しているかに見えたのですが、残念ながら翌日に逝去されました。
ウサギの胸腔の狭さと呼吸不全については、度々コメントさせて頂いてます。
ウサギの肺野が一旦、炎症を起こすと慢性化するケースが多く、治療・管理は大変となります。
呼吸が荒い、口で呼吸をしている等の症状が見られたら、早めの受診を強くお勧めします。
今回のクロ君は、どんな腫瘍なのかも特定できないままの急展開でした。
力及ばず、非常に残念です。
合掌
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肺と言いう臓器は、血液中のガス交換をする重要な役割を担っています。
肺を絶えず血液が巡るということは、血中に腫瘍細胞が流出したら、肺に至る確率は極めて高いということです。
特にウサギの場合、雌は乳癌、子宮腺癌になることがあり、二次的に肺に腫瘍が転移するケースを多く診てます。
実際、ヒトの場合もそうでしょうが、ウサギにしても肺腫瘍となると完治することは至難です。
本日、ご紹介しますミニウサギのクロ君(雄、8歳、体重1.6㎏)は一時的なてんかん発作を起こしたとのことで来院されました。
呼吸が浅いという事、前肢を立てたままの状態でいることから呼吸が辛くなっているだろうと判断しました。
早速、レントゲン撮影を実施しました。
黄色丸で囲んだ肺野が白く点々が入っているのがお分かりいただけたでしょうか?
さらに患部を拡大します。
特に上写真では心臓のシルエットも見にくくなるくらい肺野に多数のX線不透過の結節が認められます。
先に述べましたように、雌であれば乳癌、子宮腺癌がらみの腫瘍転移はありですが、クロ君は雄です。
クロ君を診る限り、体表部に腫瘍は認められません。
また他の箇所もレントゲンを撮影しましたが、腫瘍を疑わせる所見はありませんでした。
となると、肺がこの腫瘍の原発巣となるのでしょうか?
ウサギの肺原発性腫瘍は極めてまれな症例と言われています。
クロ君の腫瘍のステージはかなり進行しており、末期に至っていると思われました。
出来うることは対症療法となります。
流動食で最低限の体力は維持してもらい、内科的治療で呼吸を楽にし、疼痛管理をするという形になります。
飼い主様の意向もあり、しばし当院のICUに入院して頂き、治療をさせていただきました。
40%の酸素濃度で管理されたケージ内で、呼吸は安定しているかに見えたのですが、残念ながら翌日に逝去されました。
ウサギの胸腔の狭さと呼吸不全については、度々コメントさせて頂いてます。
ウサギの肺野が一旦、炎症を起こすと慢性化するケースが多く、治療・管理は大変となります。
呼吸が荒い、口で呼吸をしている等の症状が見られたら、早めの受診を強くお勧めします。
今回のクロ君は、どんな腫瘍なのかも特定できないままの急展開でした。
力及ばず、非常に残念です。
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2024年3月25日 月曜日
ウサギの前縦隔疾患(胸腺腫の疑い)
こんにちは 院長の伊藤です。
ウサギは色々な疾病にかかりますが、比較的胸部疾患は少ないとされます。
ウサギは草食獣であるため、全体腔内で消化器が占める割合が非常に大きく、胸郭はわずかなスペースしか取れていません。
そのため、一たび胸部疾患になりますと呼吸困難から重篤な症状になることが多いです。
本日ご紹介しますのはウサギの前縦隔疾患、特に胸腺腫の疑いの1例です。
胸腺とは、T細胞というリンパ球の大部分を占める免疫細胞を産生する組織で、心臓の上に位置しています。
ヒトではこの胸腺は思春期に最大になり、60歳以降は消失する組織です。
一方、ウサギでは成獣になっても退縮することなく遺残します。
この胸腺が腫瘍化する疾患を胸腺腫と言います。
本日ご紹介しますのは、ウサギのちゃちゃ丸君(6歳、雄、雑種)です。
ちゃちゃ丸君は突然、呼吸困難に陥り来院されました。
一般にはウサギは鼻で呼吸をしますが、呼吸困難になってきますと開口呼吸を始めます。
ちゃちゃ丸君は、肩で呼吸をしており、今にも開口呼吸が始まりそうです。
下写真をご覧いただくと、ちゃちゃ丸君の両眼が少し突出している(下黄色矢印)のがお分かり頂けるでしょうか?
加えて両眼共に瞬膜(第三眼瞼)という眼を保護する膜が眼頭から出てきてます。
以上の症状は胸部疾患、特に前縦隔疾患に共通する臨床症状です。
縦隔とは両肺と胸椎・胸骨で囲まれた部分を言います。
前縦隔とは、縦隔の内、心臓の腹側面側の部位を指します。
先ほどウサギの胸腺は成長後も遺残することを述べました。
加えてウサギの場合、左前大静脈という犬猫では発生過程で消失する静脈が生後も遺残します。
この左前大静脈が胸腺やリンパ節の腫大で圧迫されて生じる症状を前大静脈症候群といいます。
前大静脈症候群になりますと圧迫に伴い生じるうっ血により、無痛性・両側性の眼球突出や第三眼瞼突出、頭頸部・前肢の浮腫が生じます。
ちゃちゃ丸君はこの前大静脈症候群が出ているということです。
早速、レントゲン写真を撮影しました。
下写真は腹背像ですが、黄色矢印にあるように右側前縦隔に腫瘤を認めます。
側臥のレントゲン像です。
心臓の前のスペースに腫瘤が存在して(下写真黄色丸)心臓を圧迫しているのが分かります。
前縦隔疾患で発症率で多いとされるのは、胸腺腫とリンパ腫(前縦隔型)です。
レントゲン撮影ではこの2つの疾病は鑑別できません。
加えて、血液検査でも鑑別に関与する特異的所見はないとされています。
あとは針生検(FNA)による細胞学的な検査ですが、これも比較的未熟なリンパ芽球が多く出ればリンパ腫と診断が出来ますが、
針の生検では鑑別は困難とされます。
組織を外科的に摘出できれば確定診断は可能です。
しかし、今のちゃちゃ丸君では、全身麻酔よりも体を抑えるだけでも呼吸不全で死んでしまいます。
そのため、ICUの部屋に入院して頂き40%の酸素下で、呼吸不全を治療していくことにしました。
高用量のプレドニゾロンと気管支拡張剤・抗生剤の組み合わせて内科的治療を開始しました。
胸腺腫とリンパ腫も治療はプレドニゾロンの投薬であることは共通しています。
前大静脈症候群が認められたら、まずは胸腺腫を疑うのが鉄則です。
ちゃちゃ丸君は2日目には食欲が出始めて来ました。
入院3日目になりますと呼吸不全の症状も改善が認められてきました。
レントゲン撮影を実施しました。
右腫瘤(上黄色矢印)が縮小してきているのが分かります。
下側臥写真では前胸部の腫瘤が縮小してきて、気管を持ち上げていたのが、ほぼ正常に戻ってます。
今回のような高度の呼吸不全例では、あまり積極的な精密検査を実施することで、ウサギがそのストレスにより死亡することを念頭に置かねばなりません。
精密検査で病名は確定診断できたけど、患者が死亡しては本末転倒です。
まずはちゃちゃ丸君の容態が安定してから、改めて生検をして胸腺腫かリンパ腫であるかの鑑別を行う予定でいます。
入院4日目にして、ICUのケージから出ても呼吸は安定できるようになり、退院して頂くことになりました。
しばらくの間、ちゃちゃ丸君はプレドニゾロンの連続投薬が必要です。
呼吸不全はウサギにとって緊急の事態となります。
速やかな対応・治療ができれば、救済することは可能です。
ちゃちゃ丸君、お疲れ様でした!
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ウサギは色々な疾病にかかりますが、比較的胸部疾患は少ないとされます。
ウサギは草食獣であるため、全体腔内で消化器が占める割合が非常に大きく、胸郭はわずかなスペースしか取れていません。
そのため、一たび胸部疾患になりますと呼吸困難から重篤な症状になることが多いです。
本日ご紹介しますのはウサギの前縦隔疾患、特に胸腺腫の疑いの1例です。
胸腺とは、T細胞というリンパ球の大部分を占める免疫細胞を産生する組織で、心臓の上に位置しています。
ヒトではこの胸腺は思春期に最大になり、60歳以降は消失する組織です。
一方、ウサギでは成獣になっても退縮することなく遺残します。
この胸腺が腫瘍化する疾患を胸腺腫と言います。
本日ご紹介しますのは、ウサギのちゃちゃ丸君(6歳、雄、雑種)です。
ちゃちゃ丸君は突然、呼吸困難に陥り来院されました。
一般にはウサギは鼻で呼吸をしますが、呼吸困難になってきますと開口呼吸を始めます。
ちゃちゃ丸君は、肩で呼吸をしており、今にも開口呼吸が始まりそうです。
下写真をご覧いただくと、ちゃちゃ丸君の両眼が少し突出している(下黄色矢印)のがお分かり頂けるでしょうか?
加えて両眼共に瞬膜(第三眼瞼)という眼を保護する膜が眼頭から出てきてます。
以上の症状は胸部疾患、特に前縦隔疾患に共通する臨床症状です。
縦隔とは両肺と胸椎・胸骨で囲まれた部分を言います。
前縦隔とは、縦隔の内、心臓の腹側面側の部位を指します。
先ほどウサギの胸腺は成長後も遺残することを述べました。
加えてウサギの場合、左前大静脈という犬猫では発生過程で消失する静脈が生後も遺残します。
この左前大静脈が胸腺やリンパ節の腫大で圧迫されて生じる症状を前大静脈症候群といいます。
前大静脈症候群になりますと圧迫に伴い生じるうっ血により、無痛性・両側性の眼球突出や第三眼瞼突出、頭頸部・前肢の浮腫が生じます。
ちゃちゃ丸君はこの前大静脈症候群が出ているということです。
早速、レントゲン写真を撮影しました。
下写真は腹背像ですが、黄色矢印にあるように右側前縦隔に腫瘤を認めます。
側臥のレントゲン像です。
心臓の前のスペースに腫瘤が存在して(下写真黄色丸)心臓を圧迫しているのが分かります。
前縦隔疾患で発症率で多いとされるのは、胸腺腫とリンパ腫(前縦隔型)です。
レントゲン撮影ではこの2つの疾病は鑑別できません。
加えて、血液検査でも鑑別に関与する特異的所見はないとされています。
あとは針生検(FNA)による細胞学的な検査ですが、これも比較的未熟なリンパ芽球が多く出ればリンパ腫と診断が出来ますが、
針の生検では鑑別は困難とされます。
組織を外科的に摘出できれば確定診断は可能です。
しかし、今のちゃちゃ丸君では、全身麻酔よりも体を抑えるだけでも呼吸不全で死んでしまいます。
そのため、ICUの部屋に入院して頂き40%の酸素下で、呼吸不全を治療していくことにしました。
高用量のプレドニゾロンと気管支拡張剤・抗生剤の組み合わせて内科的治療を開始しました。
胸腺腫とリンパ腫も治療はプレドニゾロンの投薬であることは共通しています。
前大静脈症候群が認められたら、まずは胸腺腫を疑うのが鉄則です。
ちゃちゃ丸君は2日目には食欲が出始めて来ました。
入院3日目になりますと呼吸不全の症状も改善が認められてきました。
レントゲン撮影を実施しました。
右腫瘤(上黄色矢印)が縮小してきているのが分かります。
下側臥写真では前胸部の腫瘤が縮小してきて、気管を持ち上げていたのが、ほぼ正常に戻ってます。
今回のような高度の呼吸不全例では、あまり積極的な精密検査を実施することで、ウサギがそのストレスにより死亡することを念頭に置かねばなりません。
精密検査で病名は確定診断できたけど、患者が死亡しては本末転倒です。
まずはちゃちゃ丸君の容態が安定してから、改めて生検をして胸腺腫かリンパ腫であるかの鑑別を行う予定でいます。
入院4日目にして、ICUのケージから出ても呼吸は安定できるようになり、退院して頂くことになりました。
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2024年3月23日 土曜日
犬の口唇切除 (その2 パグ・肥満細胞腫)
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、犬の口唇部の切除手術の模様です。
前回、トイプードルの口唇切除手術(毛芽腫)をご紹介させて頂きました。
興味のある方はこちらをクリックして下さい。
なお、今回は見る人によってはショッキングに感じる場面もあるかもしれません。
刺激的な写真が苦手な方は閲覧をお控え下さい。
皮膚腫瘍は顔面にも発生します。
外科的切除を実施する際に、発生部位によっては切除摘出が困難なケースもあります。
また顔面、口唇部などは審美眼的な仕上がりが要求される場合もあります。
パグの梅ちゃん(避妊済み、4歳4か月齢、体重6.5kg)は左上口唇部に腫瘤が認められて来院されました。
患部を細胞診したところ、肥満細胞腫であることが判明しました。
肥満細胞腫は犬では最も多く発生する悪性の皮膚腫瘍とされます。
肥満細胞腫の多くは、真皮と皮下組織で発生します。
治療の方針としては、第一選択は外科的摘出です。
今回の梅ちゃんの細胞診の結果は、低グレードタイプでc-kit遺伝子検査ではexon8に変異が認められました。
肥満細胞腫の全身療法が適用となった時にc-kit遺伝子検査結果から、変異が認められる場合は従来の抗がん剤ではなく、分子標的薬(イマチニブやトセラニブ)が効果が期待できるため、内科治療の第一選択となります。
梅ちゃんの場合、少しでも腫瘍の大きさを減量してから手術に臨むべきと考え、手術までの約3週間をプレドニゾロンを内服して頂きました。
3週間後には腫瘍の大きさは、ある程度縮小して手術で摘出できる大きさとなりました。
梅ちゃんの左口唇部の真皮から皮下組織にかけて腫瘍が発生しています。
今回の手術のアウトラインをイラストで説明します。
下は梅ちゃんの顔のイラストですが、左の口唇部の赤い患部が肥満細胞腫です。
口唇部は2か所切除(①、②)を実施します。
下イラストは切除後の口唇部断端の縫合面の組み合わせを示してます。
緑断端部同志を縫合し(①縫合)、口唇部の下端を切除し(②切除)、その断端を回転して青の断端同志を縫合します(②縫合)。
腫瘍は鼻鏡部に近い所にありますが、審美眼的にも可能な限り鼻鏡部を温存したいと考えました。
縫い代(サージカルマージン)を最低限確保する方向で、腫瘍が関与する領域をしっかり摘出します。
口唇部の粘膜面、皮下組織、皮膚と3層にわたり縫合を施します。
3層縫合が①縫合済み、②縫合という流れで行います。
最後に②縫合済みで手術は終了します。
全身麻酔下の梅ちゃんです。
下写真の黄色丸は腫瘍を示します。
肥満細胞腫は直接患部を接触し続けると反応して即時、腫大します。
従って、患部は触らないよう周囲組織からの切除を心がけます。
上顎口唇部を粘膜面から硬性メスを入れて行きます。
最終的にはモノポーラ(電気メス)で切除するのですが、切開ラインにそって硬性メスを入れます。
モノポーラで口腔粘膜から切除を始めます。
ここからのシーンは大胆に口唇部をカットしていきますので、苦手な方は閲覧を控えて下さい。
次に梅ちゃんの鼻鏡部直下を硬性メスで切開します。
口唇部の皮膚側の切開ラインを硬性メスで印をつけます。
モノポーラで口唇部を切除します。
下写真黄色丸は患部の腫瘍です。
上顎歯肉ぎりぎりを切除します。
切除マージンを最大限確保したいのですが、歯肉側は上顎口唇の付根まで切除します。
鼻鏡部付近の皮膚を切除します。
腫瘍切除が完了です。
腫瘍切除後の患部です。
口腔内の歯や歯肉・舌が垣間見えます。
次に顔面イラストの②切除にあたる部位(下写真黄色ライン)を外科鋏で切除します。
上記の切除面を回転して、下写真のように鼻鏡部に縫合します。
外科鋏で切除してます。
これから縫合を実施します。
まずは粘膜面からの縫合です。
後半に切除した口唇部を回転して粘膜面を縫合します。
次に皮下組織を縫合します。
顔面イラストの②縫合に当たる口唇部と鼻鏡部の皮下組織縫合が終了です。
最後に皮膚を縫合します。
これで手術は終了となります。
全身麻酔から覚醒し始めた梅ちゃんです。
無事手術は終わりました。
手術の翌日の梅ちゃんです。
術後4週の梅ちゃんです。
患部の抜糸を行います。
傷口は綺麗に癒合しています。
顔面が左方に牽引されて、多少の引きつった感じはありますが、時間と共にある程度は左口唇部は伸展すると思われます。
鼻鏡部の粘膜面も問題なく癒合しています。
今回の手術で切除した口唇部(粘膜面)です。
黄色丸が肥満細胞腫です。
下写真は口唇部・皮膚面です。
下写真の腫瘍切除面は、歯肉・上顎歯槽骨の際に及んでいます。
病理検査の結果、患部のマージン評価が気になるところです。
下写真は低倍率の病理写真です。
中拡大像です。
肥満細胞のシート状増殖巣が形成されています。
腫瘍細胞は小型類円形核と好塩基性顆粒状の細胞質を有する小型円形細胞で、少数の好酸球浸潤を伴っています。
異型性は軽度で明らかな腫瘍細胞の脈管浸潤像は認められないとのことです。
しかしながら、腫瘍細胞は歯肉側の切除断端に及んでいるとのことで、局所再発の注意が必要です。
梅ちゃんは念のため、抗がん剤の内科的治療(ビンブラスチンとプレドニゾロン)を今後展開していきます。
肥満細胞腫は悪性腫瘍であり、転移発生する可能性もありますので慎重にモニターリングが必要です。
梅ちゃん、お疲れ様でした!
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本日ご紹介しますのは、犬の口唇部の切除手術の模様です。
前回、トイプードルの口唇切除手術(毛芽腫)をご紹介させて頂きました。
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なお、今回は見る人によってはショッキングに感じる場面もあるかもしれません。
刺激的な写真が苦手な方は閲覧をお控え下さい。
皮膚腫瘍は顔面にも発生します。
外科的切除を実施する際に、発生部位によっては切除摘出が困難なケースもあります。
また顔面、口唇部などは審美眼的な仕上がりが要求される場合もあります。
パグの梅ちゃん(避妊済み、4歳4か月齢、体重6.5kg)は左上口唇部に腫瘤が認められて来院されました。
患部を細胞診したところ、肥満細胞腫であることが判明しました。
肥満細胞腫は犬では最も多く発生する悪性の皮膚腫瘍とされます。
肥満細胞腫の多くは、真皮と皮下組織で発生します。
治療の方針としては、第一選択は外科的摘出です。
今回の梅ちゃんの細胞診の結果は、低グレードタイプでc-kit遺伝子検査ではexon8に変異が認められました。
肥満細胞腫の全身療法が適用となった時にc-kit遺伝子検査結果から、変異が認められる場合は従来の抗がん剤ではなく、分子標的薬(イマチニブやトセラニブ)が効果が期待できるため、内科治療の第一選択となります。
梅ちゃんの場合、少しでも腫瘍の大きさを減量してから手術に臨むべきと考え、手術までの約3週間をプレドニゾロンを内服して頂きました。
3週間後には腫瘍の大きさは、ある程度縮小して手術で摘出できる大きさとなりました。
梅ちゃんの左口唇部の真皮から皮下組織にかけて腫瘍が発生しています。
今回の手術のアウトラインをイラストで説明します。
下は梅ちゃんの顔のイラストですが、左の口唇部の赤い患部が肥満細胞腫です。
口唇部は2か所切除(①、②)を実施します。
下イラストは切除後の口唇部断端の縫合面の組み合わせを示してます。
緑断端部同志を縫合し(①縫合)、口唇部の下端を切除し(②切除)、その断端を回転して青の断端同志を縫合します(②縫合)。
腫瘍は鼻鏡部に近い所にありますが、審美眼的にも可能な限り鼻鏡部を温存したいと考えました。
縫い代(サージカルマージン)を最低限確保する方向で、腫瘍が関与する領域をしっかり摘出します。
口唇部の粘膜面、皮下組織、皮膚と3層にわたり縫合を施します。
3層縫合が①縫合済み、②縫合という流れで行います。
最後に②縫合済みで手術は終了します。
全身麻酔下の梅ちゃんです。
下写真の黄色丸は腫瘍を示します。
肥満細胞腫は直接患部を接触し続けると反応して即時、腫大します。
従って、患部は触らないよう周囲組織からの切除を心がけます。
上顎口唇部を粘膜面から硬性メスを入れて行きます。
最終的にはモノポーラ(電気メス)で切除するのですが、切開ラインにそって硬性メスを入れます。
モノポーラで口腔粘膜から切除を始めます。
ここからのシーンは大胆に口唇部をカットしていきますので、苦手な方は閲覧を控えて下さい。
次に梅ちゃんの鼻鏡部直下を硬性メスで切開します。
口唇部の皮膚側の切開ラインを硬性メスで印をつけます。
モノポーラで口唇部を切除します。
下写真黄色丸は患部の腫瘍です。
上顎歯肉ぎりぎりを切除します。
切除マージンを最大限確保したいのですが、歯肉側は上顎口唇の付根まで切除します。
鼻鏡部付近の皮膚を切除します。
腫瘍切除が完了です。
腫瘍切除後の患部です。
口腔内の歯や歯肉・舌が垣間見えます。
次に顔面イラストの②切除にあたる部位(下写真黄色ライン)を外科鋏で切除します。
上記の切除面を回転して、下写真のように鼻鏡部に縫合します。
外科鋏で切除してます。
これから縫合を実施します。
まずは粘膜面からの縫合です。
後半に切除した口唇部を回転して粘膜面を縫合します。
次に皮下組織を縫合します。
顔面イラストの②縫合に当たる口唇部と鼻鏡部の皮下組織縫合が終了です。
最後に皮膚を縫合します。
これで手術は終了となります。
全身麻酔から覚醒し始めた梅ちゃんです。
無事手術は終わりました。
手術の翌日の梅ちゃんです。
術後4週の梅ちゃんです。
患部の抜糸を行います。
傷口は綺麗に癒合しています。
顔面が左方に牽引されて、多少の引きつった感じはありますが、時間と共にある程度は左口唇部は伸展すると思われます。
鼻鏡部の粘膜面も問題なく癒合しています。
今回の手術で切除した口唇部(粘膜面)です。
黄色丸が肥満細胞腫です。
下写真は口唇部・皮膚面です。
下写真の腫瘍切除面は、歯肉・上顎歯槽骨の際に及んでいます。
病理検査の結果、患部のマージン評価が気になるところです。
下写真は低倍率の病理写真です。
中拡大像です。
肥満細胞のシート状増殖巣が形成されています。
腫瘍細胞は小型類円形核と好塩基性顆粒状の細胞質を有する小型円形細胞で、少数の好酸球浸潤を伴っています。
異型性は軽度で明らかな腫瘍細胞の脈管浸潤像は認められないとのことです。
しかしながら、腫瘍細胞は歯肉側の切除断端に及んでいるとのことで、局所再発の注意が必要です。
梅ちゃんは念のため、抗がん剤の内科的治療(ビンブラスチンとプレドニゾロン)を今後展開していきます。
肥満細胞腫は悪性腫瘍であり、転移発生する可能性もありますので慎重にモニターリングが必要です。
梅ちゃん、お疲れ様でした!
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投稿者 もねペットクリニック | 記事URL