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2024年4月17日 水曜日

犬の子宮蓄膿症とクッシング症候群

こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのは、子宮蓄膿症とクッシング症候群が合併症状として現れた症例です。

子宮蓄膿症は以前から他の記事で載せてありますのでこちらをご参照ください。



クッシング症候群については、副腎皮質機能亢進症ともいいます。

クッシング症候群は、副腎皮質から持続的に過剰分泌されるコルチゾール(副腎皮質ホルモン)によって引き起こされる様々な臨床症状及び臨床検査上の異常を示す病態を総称します。

その原因として以下の3つに分類されます。

①脳下垂体の腫瘍が原因で、副腎皮質刺激ホルモンが過剰に分泌されるタイプ。下垂体性腫瘍(PDH)と言います。犬のクッシング症候群の90%を占めます。

②コルチゾール分泌能を有する副腎皮質の腫瘍によるタイプ。機能性副腎腫瘍(AT)と言います。

③プレドニゾロンなどグルココルチコイド剤の過剰投与によっておこるタイプ。医原性クッシングともいいます。



クッシング症候群の症状は以下の通りです。

多飲・多尿
多食
腹部膨満
運動不耐性(動こうとしない)
パンティング(荒い呼吸)
皮膚の菲薄化




ミニュチュア・シュナウザーのリンジーちゃん(8歳7か月、雌)は1年近く前から多飲多尿の傾向があり、お腹が張って来たとのことで来院されました。

一日の飲水量が4Lを超えるそうです。



腹囲が張っているのがお分かり頂けるでしょうか?





まずは血液検査を実施しました。

白血球数が34,500/μlと高値(正常値は6,000~17,000/μl)を示しています。

CRP(炎症性蛋白)が7.0mg/dlオーバーとこれもまた高値(正常値は0.7mg/ml未満)です。

リンジーちゃんの体内で何らかの感染症や炎症があるのは明らかです。

次にレントゲン撮影です。

腹囲膨満が分かると思います。



気になるのは膀胱が過剰に張っていることです(下写真黄色丸)。

そして子宮(左右子宮角)も大きくなっており、下写真の白矢印で示した部位がそれに当たります。



側臥のレントゲン像です。



これも同じく膀胱(黄色丸)と子宮(白丸)を示します。



多飲多尿から、リンジーちゃんは排尿障害はでなく、スムーズに出来ています。

しかしながら膀胱がこれだけ大きく腫れている点から、慢性的に蓄尿期間が長かったのではと推定されます。

膀胱アトニ―といわれる膀胱壁が蓄尿によって伸びきってしまい膀胱の収縮が上手くできていない状態かもしれません。



次にエコー検査です。

白矢印は膀胱を示します。

黄色矢印は子宮を示し、低エコー像を表してます。



さらに調べますと、腫大した子宮角内に液体状の内容物(黄色矢印)が停留していることが判明しました。



以上の検査結果から、リンジーちゃんが子宮蓄膿症になっていることは明らかです。

加えて臨床症状からクッシング症候群の可能性もあるため、エコーで副腎の測定をしました。

下は、左副腎のエコー像です。

左副腎の長軸が4.2mmであり、健常な犬の副腎は6mm以下とされますので特に副腎の肥大は認められません。



次に右の副腎(下黄色丸)です。

右副腎は5.6mmでした。

こちらも正常な大きさです。



クッシング症候群については手術後に血液学的に内分泌検査を実施して確認することとしました。


子宮蓄膿症は緊急疾患です。

全身の感染症と見なすべきで、最善の治療は卵巣・子宮の摘出です。

まずは、リンジーちゃんの卵巣・子宮を摘出することとしました。

麻酔前投薬を行います。



リンジーちゃんのお腹を剃毛しました。

お腹が張っていることが分かると思います。





腹部正中線にメスを入れて切開します。



腹筋下に顔を出しているのは膀胱です。



随分と膀胱が腫大していますね。



子宮はこの膀胱の下に存在していますので、膀胱内の尿を吸引することとしました。



トータルで400mlの蓄尿が認められました。

尿を吸引するのに20分程もかかってしまいました。

下写真は吸引で小さくなった膀胱です。



やっと核心となる子宮を露出します。

大きなウィンナーソーセージが連結したような子宮が認められました。



腫大した分節上の子宮内にはおそらく膿が貯留しています。



卵巣動静脈をバイクランプでシーリングします。



子宮内膜の血管も同様にシーリングしていきます。



子宮頚部を縫合糸で結紮し離断します。





皮膚縫合して終了です。



麻酔から覚醒したリンジーちゃんです。



下写真は、摘出した卵巣・子宮です。

子宮蓄膿症は、全身性の感染症なので手術が終わったからといってすべて終了というわけではありません。

リンジーちゃんもこれから全身に回っている細菌を制圧するため、抗生剤の投薬をしていきます。



リンジーちゃんは入院中に先に申し上げたクッシング症候群の検査を受けて頂きました。



今回実施した検査はACTH刺激試験です。

この試験は、合成ACTH製剤(コートロシン)を筋肉注射し、ACTH投与前と投与1時間後の血中コルチゾールを測定して結果を評価します。

リンジーちゃんの検査結果はACH投与前は12.3μg/dl(正常値は1.0~6.0μg/dl)、投与後は29.3μg/dlと高値を示しました。

ACTH刺激試験でコートロシンに過剰に反応し、正常値を超える血中コルチゾールを示す点でクッシング症候群であることが確定しました。

加えて、副腎エコーで両副腎の大きさが正常範囲にある点で、リンジーちゃんは下垂体性腫瘍(PDH)であることが判明しました。

結局リンジーちゃんの場合は、多飲多尿の臨床症状は子宮蓄膿症によるものと、クッシング症候群によるものがブッキングしたものと思われます。



リンジーちゃんのクッシング症候群の治療は、アドレスタン(成分名トリロスタン)の内服を実施します。

このトリロスタンは全てのステロイドホルモン合成を阻害します。

結果、リンジーちゃんは暫くの間トリロスタンを内服して頂くことになりました。

子宮蓄膿症の術後の経過は良好で1週間後にはリンジーちゃんは元気に退院されました。



1か月後のリンジーちゃんです。

飲水量は一日あたり1L以下に治まってます。

腹囲も少し細くなりました。



リンジーちゃん、お疲れ様でした!






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2024年4月16日 火曜日

犬の脂肪腫

こんにちは 院長の伊藤です。


本日ご紹介しますのは犬の皮下腫瘍の中でも最も一般的に遭遇する脂肪腫です。

脂肪腫は加齢や肥満と共にその発症頻度は増加して行きます。

顎下、腋下や胸垂や内股などに出来やすいように思います。

脂肪腫は良性の腫瘍で特に外科的に摘出する必要はありませんが、時と場合によっては摘出しないと生活の質が大幅に低下するケースがあります。

足の運行が脂肪腫によって妨げられて、普通に歩行が出来なくなったりする場合や側臥状態で寝ることが出来なくなったりする場合がそれに当たります。



イタリアングレイハウンドのケビン君(去勢済 14歳)は左の腋下から胸部にかけての腫瘤が1年くらいかけて次第に大きくなったとのことで来院されました。



細胞診したところ、明らかな脂肪腫でした。

しかし、かなりの大きさであるため歩行のバランスが取れなくなってきているとのことで、飼主様から外科的摘出の希望がありました。

腋下は太い血管や神経が集まっています。

加えてケビン君は14歳という高齢犬です。

慎重に手術を進めなくてはなりません。

血液検査等ケビン君の全身状態は良好でした。

早速、全身麻酔を施します。



イソフルランのガス麻酔も効き始めて来ました。





患部の剃毛に移りました。

スタッフの片手で余るくらいの大きさであることがお分かり頂けると思います。



下写真黄色丸の部位が脂肪腫を示します。

写真では、なかなかその大きさを表現するのが難しいです。





10cm×10cmは余裕である大きさです。

イタリアングレイハウンドのスマートな体格には余分な脂肪です。





皮膚を切皮します。



腫瘍は体幹皮筋の下にある深胸筋の真下に存在しています。





筋膜を切開して、脂肪腫にアプローチします。





何本も太い血管が走行してますので、電気メス(バイポーラ)で凝固・切開します。



脂肪腫の基底部を拳上するとさらに太い血管が走行しています。

これだけの大きさの腫瘍ですから、栄養血管も太いものが張り巡らされています。



バイクランプで栄養血管をシーリングします。



バイクランプは瞬間的に血管をシーリング出来ますので時間短縮に貢献できます。

従来は一本づつ縫合糸で結紮してました。





シーリングとメス切開を繰り返して、だんだん腫瘍の全容が判明してきました。











腫瘍は、私の片手では持ち上げることが難しい位の大きさです。



無事、腫瘍を摘出できました。



摘出後の患部です。

特に不正出血もありません。



切開した筋膜を縫合します。







最後に皮膚縫合します。





大きな腫瘍でしたが、皮膚のテンションをそれ程かけなくても縫合できたのは幸いです。



覚醒し始めたケビン君です。





摘出した脂肪腫の全容です。

重さは800gありました。

下写真は皮膚の直下側です。



こちらは筋肉層に接していた脂肪腫の裏側です。



個人的には、あまり脂肪腫を外科的摘出はしません。

今回のような事例は少ないですが、比較的短期間で急に増殖が進行するケースはあります。

再度、この摘出した腫瘍を検査しましたが脂肪腫でした。

ケビン君はこれで気持ちよく疾走することが出来るようになると思います。

ケビン君、お疲れ様でした!





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2024年4月14日 日曜日

柴犬の精巣腫瘍(セルトリ細胞腫)摘出手術


こんにちは 院長の伊藤です。


出生後に本来、陰嚢に降りてくるはずの精巣が、そのまま腹腔や皮下組織に残ってしまう状態を停留睾丸(陰睾)と称します。

実際、この停留睾丸をそのままにしておくとシニア世代になってから、腫瘍化すると定説になっています。

通常の精巣が腫瘍化する場合よりも、停留睾丸が腫瘍化するのは10倍近い発生率だそうです。


本日、ご紹介しますのは柴犬の精巣腫瘍の摘出例です。

柴犬の三四郎君(11歳10か月齢、雄)は陰茎の右側が腫れあがってきて、本人も気にしているとのことで来院されました。



下腹部を診てみますと、陰茎の右側が大きく膨隆しているのが分かります。



12歳を前にしてまだ去勢をしていなかった三四郎君ですが、右側停留睾丸が腫瘍化してしまったようです。

精巣腫瘍にはセルトリ細胞腫、精上皮腫、間質細胞腫と3種類に分類されます。

これらの腫瘍は、リンパ節や他の臓器に転移することもあり、外科的摘出を飼主様にお勧めさせて頂きました。

ご了解をいただき、早速手術することとなりました。



慎重に皮膚切開を行い、電気メスで止血して行きます。





指先に脂肪に包まれた充実した組織が触知できます。



脂肪を切開すると精巣が垣間見えました。



陰嚢に収まっている左側の精巣に比較して随分大きくなった腫瘍です。



精巣動静脈、精巣靭帯を縫合糸で結束して摘出します。





皮下組織内の停留睾丸であれば、この程度の切開で十分ですが、腹腔内ですとおへそに近い位置から陰茎のすぐ横に沿ってメスを入れなければならなくなることもありますので、大変です。



左側が正常な陰嚢内に収まっていた精巣です。

右側が皮下組織の停留睾丸が腫瘍化した精巣腫瘍です。



病理検査結果でセルトリ細胞腫と判明しました。

このセルトリ細胞腫の場合、エストロジェンホルモンを分泌するために脱毛・皮膚炎になったり、雌性化によって乳房が腫れたりすることもあれば、貧血が生じることもあります。

三四郎君の場合、幸いにも上記の症状は認められませんでした。

当院では、停留睾丸の場合は1歳未満の段階で摘出手術を受けて頂き、将来の精巣腫瘍化を未然に防ぐ方針で対処させて頂いてます。

ご家族の内、男性陣が去勢は可愛そうだとの見解で手術を拒否されるケースもあります。

一般論で申し上げるなら、去勢をしてない雄犬は高齢になり前立腺肥大や会陰ヘルニア、そして今回の精巣腫瘍になる確率は高いとされていますし、私自身そのように実感しています。

今回の三四郎君の場合は、皮下組織内の精巣腫瘍でしたが、腹腔内の精巣腫瘍になりますとさらに外科手技的にも難しくなります。

過去にミニチュア・ダックスで、排便困難になり、レントゲン・エコーで大きな塊を見つけ腹腔内腫瘍として、試験的開腹をしたところ10cmに及ぶ精巣腫瘍であった経験をしました。

停留睾丸が認められたら、正常側と一緒に両方摘出することをお奨めします。







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2024年4月12日 金曜日

排尿障害について

こんにちは 院長の伊藤です。


今回は尿の出が上手く出せない~排尿障害についてお話しします。


まず排尿障害とはですが・・・

決められたトイレの場所でおしっこができなくなった、尿漏れをするようになった、排尿をしようとするけれど出ていない、排尿の回数が増えたといったようなことが挙げられます。

さてこのような症状はどんな疾患に起因するのでしょうか?





いろいろと疾患はありますが・・・

椎間板ヘルニアや骨盤骨折といった排尿障害以外の症状が出るもの(震え、後肢麻痺など)を除けば、まずは尿の状態をみて判断していきます。

その中でやはり診療をしていて多いと感じているものは膀胱炎や尿路結石ですね。

どちらとも血尿や頻回尿、いつものトイレとは違う場所で排尿するといったことで来院されることが多く感じられます。

このふたつは尿の検査で結石であれば幾何学構造の結晶が出て、膀胱炎であれば細菌や膀胱粘膜の細胞や白血球といったものが認められます。



これはシュウ酸カルシウムの結晶体です。

正八面体の構造をしています。




またこの写真(ストラバイト結晶)のように結晶体はガラスの破片のように鋭利で膀胱の粘膜を傷つけるため、二次的に膀胱炎を起こします。

そして、この結晶体が膀胱で結石になると・・・



こちらはシュウ酸カルシウムの結石です。




そして、こちらはストラバイトの結石になります。

この大きさ結石ができている状態であるならば、少なからず尿路に小さな結石が詰まってほとんど尿が出なくなっている状態に近いため、尿毒症になってしまいます。

尿毒症は死に至る状態ですので、こうなる前に排尿時の異常に気が付き、治療をしていくことがとても重要です。


膀胱炎や尿路結石に比べてかなり少なく、滅多にないものにホルモン反応性失禁があります。

こちらは性ホルモンの血液中の濃度の低下によって、活動しているときは問題ないのですが、安静時や睡眠時に失禁してしまうものです。

最後に泌尿器の解剖学的異常ですが、これは先天的ーつまり遺伝的疾患です。

例えば、異所性尿管といった本来ならば腎臓で作られた尿は尿管を通って膀胱に蓄えられて尿道、膣と順に出ていくのですが、腎臓からきた尿管が膀胱に連絡せず、膣に繋がってしまうため、尿失禁が起こってしまいます。

この疾患の好発犬種はありますが、遺伝疾患なので交配の管理がちゃんとなされていれば、そうそう遭遇することはないと思います。






排尿障害に陥ってしまうと一刻を争う、緊急の状態になることもあります。

排尿時の仕草がいつもと違ってつらそうだ、尿に赤くなっている、いつもと違う場所で我慢できずに排尿しているといったことがあるのならば、それらは一つのシグナルですから、病院に診察を受けに行ってください。



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2024年4月10日 水曜日

犬の尿石症(シュウ酸カルシウム その2)

こんにちは 院長の伊藤です。

本日、ご紹介しますのは犬の尿石症です。

以前にも犬の尿石症(シュウ酸カルシウム尿石症)について報告させて頂きました。

シュウ酸カルシウム尿石症についての概論はそちらを参考にして下さい(左下線をクリック)。


チワワのラル君(4歳5か月齢、去勢済、体重3.6kg)は排尿時の疼痛、血尿が続くとのことで来院されました。



まずはレントゲン撮影を実施しました。

下写真で、膀胱内(黄色丸)に結石が確認されます。



直径が3㎜大の膀胱結石が十数個確認出来ました。



尿検査上、ストルバイト結晶やカルシュウム結晶といった膀胱結石のもとになるような存在は認められませんでした。

ラル君は3年ぐらい前から不定期に排尿の疼痛、頻尿を呈していたとのことです。

今回、この数ミリ単位の尿石を外科的に摘出して、尿石の分析を行い、術後の食餌療法を考慮させて頂くこととしました。

まずはラル君に全身麻酔を施します。



患部を剃毛します。



気管挿管後、ラル君の麻酔はしっかりかかっている状態です。



膀胱を切開し、尿石を摘出しますが、場合によっては膀胱内の尿石が移動して尿道に降りてくる可能性もありますので尿道カテーテルを挿入します。



雄の場合は、ペニスが正中部に存在しますので、ペニスを迂回して皮膚を切開します。



ペニスの傍らに走行している浅後腹壁動静脈を結紮し、周囲組織を剥離していきます。



腹筋を切開します。



蓄尿している膀胱を腹腔外へと牽引します。





膀胱内の圧を下げるために尿を注射器で穿刺吸引します。



次に膀胱に支持糸をかけます。



11番メス刃で膀胱壁を切開します。



切開部を鉗子で広げます。

この段階で膀胱内にいくつかの尿石が存在しているのが、触診で分かります。



鉗子で尿石を1個づつ摘出していきます。





加えて、尿道カテーテルを通して膀胱内へ生食注入します。

これは、すべての結石を残さず摘出するため、尿道付近に移動した結石を膀胱内へ戻す意味もあります。



術前にレントゲン上で確認された尿石の数が全て摘出出来ました。

念のためにレントゲン撮影を実施します。

下写真で膀胱内の結石は全て摘出されたのが分かります。



次いで、膀胱の切開部位を合成吸収糸で縫合します。













ここでしっかり縫合できているか、リーク(漏出)試験を行います。

先に入れてある尿道カテーテルから生食を適量注入して、膀胱を膨らませて、縫合部からの漏れを確認します。



特に患部からの漏れはなく、念のため2重内反縫合(クッシング―レンベルト縫合)を行いました。









これで、膀胱の縫合は終了です。





腹筋、皮下組織、皮膚と縫合を終えました。



麻酔を切り、半覚醒状態のラル君です。



下写真は術後3分のラル君です。

無事、手術は終了しました。



下写真は今回摘出した尿石です。



結石の分析を検査センターに依頼したところ、98%がシュウ酸カルシウムで構成された結石と判明しました。

シュウ酸カルシウム結石については、現在のところ効果的な内科的溶解療法はありません。

従って、外科的(今回のような膀胱切開術)もしくは非外科的(膀胱鏡を挿入して把持鉗子で摘出する)などの方法で対応するしかありません。

実際、今後ラル君の尿石症が再発する恐れもあります。

シュウ酸カルシウムを予防するためには水分摂取量を増やすこと、フロセミド(利尿剤)、ビタミンCやD、尿酸化剤などの投与を避けることが重要です。

それでも再発傾向があるなら、クエン酸カリウム、ビタミンB6やサイアサイド利尿剤(ヒドロクロロチアジド等)を投与して、尿pH を7.0~7.5でシュウ酸カルシウム結晶陰性を目指します。



ストルバイト尿石ならば結石を溶解させる療法食も存在します。

シュウ酸カルシウム尿石の場合は、完成された療法食が存在しないため、定期的な尿検査のモニタリングが必要です。

大変ですが、今後外科的手術は回避するよう頑張りましょう!

ラル君、お疲れ様でした。




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