アーカイブシリーズ

2024年2月12日 月曜日

デグーマウスの低血糖症

こんにちは 院長の伊藤です。


本日ご紹介しますのは、デグーマウスの低血糖です。

低血糖とは、血液中のブドウ糖の値(血糖値)が低下している状態をさします。

この低血糖の状態が続きますと、いろいろな症状が出てきます。

そもそもブドウ糖は生体本能のエネルギー源となりますので、ブドウ糖が少なくなれば正常の細胞反応が行われなくなってしまいます。

具体的には、虚脱状態といって眼は虚ろになって動けなくなり、神経系のエネルギー不足により振戦(体の震え)、てんかん様発作、運動失調が起こります。



デグーマウスのチャーミーちゃんは、朝突然、動けなくなり振戦、てんかん様発作を起こしての来院です。

早速、血糖値を簡易型血糖値測定装置で測定しました。

もともと小型げっ歯類で採血量も微々たる量しか採血できませんので、日常使用する完全血球計算機では測定不可能です。





デグーマウスの採血は尻尾の尾静脈から行います。

血糖値の測定結果はLOと出ました。



このLo表示は、血糖値が20㎎/dlに満たないことを示します。

デグーマウスの正常血糖値は約70㎎/dlとして、不足分のブドウ糖を補給しなくてはなりません。

20%ブドウ糖シロップを強制的に飲ませます。

加えてショック状態を改善するためにプレドニゾロンを注射します。

ショック状態から低体温になっていますので、インキュベーターに入れて体を温めます。

ここで犬・猫であれば静脈を確保してブドウ糖の点滴を実施するのですが、残念ながらそれは小さなデグーにはできません。


飼い主様にチャ―ミーちゃんの容態が、厳しい状況であることをご理解して頂きました。

それでも、この処置で翌日のチャ―ミーちゃんは、体を少しずつ動かすこともできるようになり、自ら採食できるまでに回復しました。





2日間の入院でチャ―ミーちゃんは元気に退院することが出来ました。






以前、デグーマウスの白内障の記事で、デグーはインシュリンの分泌能・活性能が低くて、体内に入って来た糖を貯蔵すること

が苦手な齧歯類であることをお伝えしました。


つまりは、糖を過剰に摂取しすぎるとすぐに高血糖になり、ひいては糖尿病から白内障になるとの警告をいたしました。

飼い主様はその点を気にされ、非常に粗食な食生活を徹底されていたようです。

過ぎたるは及ばざるがごとし、と言うこともあります。

バランスの取れた食生活は大切であるという症例でした。




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2024年2月11日 日曜日

デグーマウスの白内障

こんにちは 院長の伊藤です。


デグーマウスは以前から人気がある小型げっ歯類です。

彼らの特徴は非常に聡明で社会的な行動を取る点にあります。

鳴き声をうまく使い分けて仲間とコミュニケーションを取ります。

棒などの道具を使って餌を引き寄せるといった行動もとります。

原産がチリの山脈地帯ということから、「アンデスの歌うネズミ」と呼ばれています。


そんな学習能力の高いデグーマウスですが、この品種独特の疾病があります。

最近、特にデグーマウスの幼体で白内障にかかっているケースが非常に多いと感じます。

今回はこのデグーマウスの白内障についてです。


デグーは以前から 糖の代謝能力が低い と言われていました。

つまりは、糖を分解する能力が弱いと解釈されているわけですが、実際は インシュリンの分泌能・活性能が低く て体内に過剰に入ってきた糖を貯蔵することが苦手な動物ということです。

デグーの属する齧歯類の亜目は他の哺乳類と比較して インシュリンの活性が1~10%しか持っていない そうです。

そのため、ハムスターと比較して同じ糖分を摂取したとしても、分泌されるインシュリンが同じ量であったとしてもブドウ糖をグリコーゲンに還元する能力が10分の1くらいしかないから、すぐに高血糖になってしまうのです。


もともとデグーの分布するアンデス山脈が食料の豊富にある地帯ではなく、むしろ飢餓との戦いのような状況にあると思われます。

そんな中で血糖値を下げるインシュリンの必要性はあまりなかったのではないでしょうか?

常時粗食に耐えて生きてきたデグーがペットとして飼育されたところで、ある意味不幸な部分が表在化したようです。

ハムスターやジャービル同様にデグーにも糖質に富んだ嗜好品(サツマイモやリンゴなど)の過剰供給が認められます。

結果として、糖尿病を招いてしまいます。

糖尿病を背景にして白内障の発症が起こります。








日常の診察でデグーで白内障の幼体を診るにつけ、絶対に 甘みのある根菜類や果実や人のおやつ等は与えないでいただきたい  と説明しています。

幼体で糖尿病や白内障とこの先何年も戦っていかなくてはならないのはとても辛いことですね。







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2024年2月 9日 金曜日

ジャンガリアンハムスターの乳腺癌

こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介するのはジャンガリアンハムスターの乳腺癌です。

ジャンガアンハムスターの腫瘍の発生率は高く、その中でも乳腺腫瘍は40%以上が悪性腫瘍であり、雌雄に限らず発生するとの報告があります。



ジャンガリアンハムスターのぐりちゃん(雌、7か月齢)は左胸部に大きな腫瘤があるとのことで来院されました。



下写真の黄色丸及び黄色矢印は胸部の腫瘤を示します。





患部を細胞診したところ、乳腺腫瘍の可能性が認められました。

飼い主様の了解のもと、乳腺腫瘍摘出手術を行うことになりました。

ぐりちゃんをイソフルランで麻酔導入を行います。



次いで、維持麻酔に変えて患部を剃毛します。



患部の消毒をします。



横からのアングルでこの腫瘍の大きさがお分かり頂けると思います。



患部を皮膚ごと摘出できると良いのですが、そうすると皮膚欠損領域が極めて大きくなります。

結果として、縫合時に強くテンションを掛けなくてはなりません。

左前足の挙動は制限され、ぐりちゃんは患部を気にして縫合部を齧り、吻開することになります。



今回は、皮膚を電気メス(モノポーラ)で切開して、腫瘍をバイポーラで摘出する方法を選択しました。



モノポーラで皮膚切開を進めて行きます。



腫瘍が顔を覗かせています。



患部は乳腺そのものなので、血管に富んでおり出血は比較的多いです。



皮膚から乳腺を優しく剥離する感覚で進めます。

特に腫瘍組織自体は豆腐の様に脆弱であるため、取り扱いは慎重に行います。



ピンセットで腫瘍を抑え込み、気持ち牽引しながらバイポーラにより腫瘍を摘出します。



黄色矢印は、乳腺に分布する太い血管です。

バイポーラでこれらの太い血管を止血・離断します。



患部を摘出しました。



腫瘍摘出後の胸部です。

取り残しの腫瘍組織がないか確認します。



切除した皮膚及び皮下組織から静脈性の少量の出血があり、バイポーラで止血します。



皮膚を5-0ナイロン糸で縫合します。



縫合が終了しました。





イソフルランを切り、酸素吸入しながら覚醒を待ちます。

リンゲル液を皮下輸液します。



無事、全身麻酔から覚醒したぐりちゃんです。



摘出した乳腺です。





病理検査の結果です。

下写真は低倍率像です。

今回の腫瘤は皮下組織の乳腺小葉内において、軽度に異型性を示す腺上皮性腫瘍細胞の腺腔状・乳頭状・嚢胞状の増殖巣から構成されています。



高倍率像です。

腫瘍細胞の多くに核分裂像が認められ、腫瘍細胞の脈管浸潤像は認められません。

今回の腫瘍細胞群は、分化度が高く、悪性度は低いと考えられるとの病理医の診断でした。



術後3週間のぐりちゃんです。

抜糸のために来院して頂きました。



抜糸後の患部は綺麗に皮膚は癒合しています。



今後は他の乳腺の状態を経過観察していく予定です。

ぐりちゃん、お疲れ様でした!





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2024年2月 7日 水曜日

ハムスターの外傷性口蓋裂

こんにちは 院長の伊藤です。


本日ご紹介しますのはハムスターの外傷性口蓋裂です。

上顎の口腔内の硬口蓋という凸凹した部位が、先天的に閉鎖せずに鼻腔と通じている状態を口蓋裂と言います。

犬や猫で交通事故や落下事故で上顎骨折に伴って生じる口蓋裂を外傷性口蓋裂と言います。



キンクマハムスターのシシ丸ちゃん(10か月齢、雌)は、口の中で食餌を詰まらせていたため、飼主様が取ろうとしたところ鼻血が出たとのことで来院されました。







口腔内を確認したところ、硬口蓋に亀裂が入っています(下写真黄色丸)。



シシ丸ちゃんは先天的に口蓋裂を持っていたのか、それとも外傷性口蓋裂に今回なってしまったのか、それは良くわかりません。

そのため、レントゲン写真を撮りました。



伏せの状態で取ったレントゲンに、上顎部の骨折が疑われる所見が認められました(下写真黄色矢印)。



恐らくは、シシ丸ちゃんが食餌を取られたくなくて暴れた際に上顎が骨折して、口蓋裂が生じたのではないかと思われました。

つまり、外傷性口蓋裂であろうと推察されました。

いづれにせよ、このままでは食べた食餌が鼻腔に迷入して誤嚥を来し、最悪肺炎に至る可能性もあります。

口蓋裂を矯正する手術を実施することとしました。

また上顎部の骨折については、小さい動物のため特に固定することはせずに経過観察を行います。

全身麻酔を行います。





麻酔導入が効いたところで仰向けに寝てもらい、開口姿勢をとってもらいます。



よく観察しますとこの口蓋裂は幅も広く縦に長く開いているのがお分かり頂けると思います(下写真黄色矢印)。

口蓋裂の患部は、若干出血が認められます。



ハムスターの口腔内は非常に狭いため、皆様に見やすいアングルで写真撮影できませんでした。

シシ丸ちゃんの口蓋裂を5-0の縫合糸で縫い込んでいきます。









口蓋裂を縫合完了しました。



最後に皮下にリンゲル液を輸液して終了です。



麻酔覚醒後のシシ丸ちゃんです。










手術後16日目に抜糸のためシシ丸ちゃんは来院されました。

患部はどうなっているでしょうか?



口蓋裂は綺麗に閉鎖されています。





外傷性口蓋裂の手術は無事、終了出来ました。



シシ丸ちゃんの下顎の切歯は過長傾向にあります。



その一方で上顎の切歯は非常に未成熟で小さく短いと言えます。

上下の切歯の咬みあわせが不整咬合です。

上顎切歯に下顎切歯がまっすぐに当たってないため、下顎切歯は摩耗することなく伸びすぎてしまうわけです。

今回の外傷性口蓋裂にしても、伸びすぎた下顎切歯が硬口蓋に当たって生じた可能性もあるかもしれません。

シシ丸ちゃんは、今後もこの切歯不整咬合の調整のため、定期的に切歯カットが必要とされます。

専用ニッパーで切歯をカットすることとしました。



最低でもこれくらい下顎切歯をカットしないと上顎硬口蓋に当たってしまいます。



これで治療は終了しました。

シシ丸ちゃん、お疲れ様でした!







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2024年2月 6日 火曜日

ゴールデンハムスターの悪性リンパ腫


こんにちは 院長の伊藤です。


本日ご紹介しますのは、ハムスターの悪性リンパ腫です。

ハムスターの体表腫瘍は日常的に遭遇する機会が多いです。

背部の腫瘍であれば外科的切除も容易ですが、腋下や内股等血管の走行が密な部位ほどに摘出は難しくなってきます。

犬猫に比べて非常に小さな動物ですから、手術時の出血を最小に抑えることに苦心します。


ゴールデンハムスター・シルバー(長毛種)のゴルダちゃん(雌、1歳)は左側背部に大きな腫瘤があるとのことで来院されました。



下写真黄色丸内がその腫瘤です。

ゴルダちゃんも気にして患部を引掻いて化膿しています。



腫瘍の可能性が高く、細胞診を実施しました。

下写真のように核が濃縮して、核仁が明瞭な大型リンパ球の分裂像も多数認められます。

異形性及び多形性を示す大型リンパ球です。

この所見から、リンパ腫を疑いました。

特に皮膚型リンパ腫は皮膚に潰瘍や痂皮を形成する上皮向性と皮膚の隆起のみで潰瘍などを形成しない非上皮向性に分かれ、上皮向性はT細胞由来が多いとされています。

また明瞭な核仁を有して、分裂頻度は中から高頻度である点から、低分化型(高悪性度)皮膚型リンパ腫と診断しました。





本来、リンパ腫は血液のガンであり、通常化学療法が選択されます。

場合によって、限局性病変や消化管閉塞性病変などは外科的治療を実施します。

今回、病変部が極端に腫大し、ゴルダちゃんが自傷行為に走るため、外科的摘出を飼い主様から希望されました。



まずは全身麻酔を施すため、犬用のガスマスクに入れてイソフルランの麻酔導入を実施します。



次いで自家製のガスマスクに顔を入れて術野の剃毛・消毒に移ります。

腫瘍(下写真黄色丸)がずいぶん大きいのがお分かり頂けると思います。



電気メスで細心の注意を払って、腫瘍のマージンを極力維持しながら切開をしていきます。





若干、うっ血気味の腫瘍が顔を出しました。



腫瘍に栄養を運ぶための太い栄養血管が何本も走行しています。

血管をバイクランプでシーリングしていきます。

従来は細い縫合糸で結紮していましたが、限界を感じていました。

極力、出血は回避したいので現在、このバイクランプを使用して無血手術を目指します。









腫瘍切除後の患部です。



皮膚欠損が広い範囲に及んでいますので、細かく縫合していきます。





ガス麻酔を切って、少し意識が戻ってきたゴルダちゃんです。



全身麻酔のリスクは犬猫以上に小動物にはついて回ります。

犬猫であれば術前に血液検査を実施して、麻酔のリスクに対処できます。

しかし、ハムスタークラスになると血液検査は容易にはできませんので、水面下に潜んでいる基礎疾患を見つけることは難しいです。

長時間の手術に及ぶ場合はさらに慎重になります。

麻酔覚醒20分後のゴルダちゃんです。

しっかり動くことが出来るようになりました。





すすんで食餌も口にできるようです。



患部を自咬しないようにフェルト地のエリザベスカラーを装着します。





今回、他の組織への浸潤は認められず、分離摘出はスムーズに出来ました。

犬の場合、T細胞由来の皮膚型リンパ腫はロムスチンという抗がん剤が適用されます。

しかし、ハムスターの場合は、化学療法剤は認可されてなく副作用も大きいと思われます。

ひとまず、プレドニゾロンを投薬し経過を見ていきたいと思います。

ゴルダちゃん、しばらく患部が回復するまで安静にして下さいね。





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