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チンチラの疾病

2023年7月26日 水曜日

チンチラの骨肉腫

こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのは、チンチラの骨肉腫です。

骨肉腫とは、組織学的に腫瘍性の類骨・骨を形成する悪性腫瘍と定義されます。

特に原発性悪性骨腫瘍の中では最も発生頻度が高い腫瘍です。


チンチラの陽君(雄、13歳、体重470g)は右後肢の第2指が腫れているとのことで来院されました。

下写真の黄色丸が患部です。

明らかに右第2指が著しく腫大しています。





下写真黄色矢印が、爪先から中節骨の横方向へと腫れている患部を示します。



レントゲン撮影を実施しました。

末節骨と中節骨にかけて既に骨融解を示すレントゲン像(下写真黄色矢印)が確認出来ます。

患部骨の辺縁が波状の突起(骨融解像)を示している点から骨腫瘍を疑います。

因みに陽君の肺野への腫瘍転移はレントゲン上では認められませんでした。



側臥の画像です。



原発性骨腫瘍であれば、断脚が第一選択となります。

確実な断脚であれば、膝関節もしくは足根関節(足首の関節)から下を離断する方法もあります。

しかし、チンチラは体重のほとんどを後肢に荷重します。

膝関節から下の断脚は、健常側の後肢に荷重が偏ります。

特に足根関節から下を離断すると床面との摩擦で薄い皮膚は慢性的にはがれ、皮下から骨が露出して常時疼痛に悩まされ、最悪骨髄炎になると思います。

陽君の場合は、中足骨と基節骨の間の関節(つま先から数えて3番目の指の関節、中足趾節関節というから離断することで腫瘍患部を切除できます。

次いで、周辺の軟部組織で中足趾節関節を包み込む形で縫合できれば、今までどおりに歩行が見込めます。

その離断すべき関節部を下写真の黄色矢印で示します。



関節を外すには、正確に関節包に硬性メスで切開を加え、指骨周囲の靭帯・血管・神経を整理する術式を執ります。

飼い主様の要望もあり、術後に大幅に歩行困難になる術式は避けて、私の提案する指の関節を外す術式で手術を行うこととなりました。

陽君を全身麻酔します。

いつものように麻酔導入箱に陽君に入ってもらい、イソフルランで麻酔導入を実施します。



麻酔導入が完了しました。



マスクによる維持麻酔に切り替えます。



断脚する患部を綺麗にカミソリで剃毛します。



中足骨と基節骨の周囲を目票にメスで皮膚切開します。





切開部を鉗子で広げると靭帯の走行が認められます。



血管の走行も密に走っており、出血もありますので電気メス(バイポーラ)で止血します。



慎重に皮膚と皮下組織を指骨から分離していきます。





中足骨と基節骨による関節(中足趾節関節)を黄色丸で示しました。



この関節包にメスの先を当てて切開していきます。



下写真の関節の切開部(黄色丸)から滑液が漏れ出てます。





下写真黄色丸は関節を外した基節骨の近位端です。



基節骨に付着している軟部組織を剥離します。







下写真黄色丸は、完全に離断された基節骨から腫瘍を含んだ爪先までを示します。





剥離した軟部組織からの出血が著しく、バイポーラで止血します。



出血は止まりました。



指の周囲の皮膚を6-0と5-0の縫合糸で縫合します。





指骨を関節から摘出していますので、縫合のための縫い代が広く取れます。









縫合は終了です。





下写真の黄色丸が離断した基節骨から腫瘍を含んだ爪先です。



患部の拡大写真です。



側面の写真では、露出した基節骨(黄色矢印)が認められます。



患部の病理所見です。

下写真は低倍率像です。

既存の指骨組織と連続して周囲間質へ拡大する充実性の腫瘍増殖巣が形成されてます。



中等度の倍率です。

増殖する細胞は、核小体の明瞭な卵円形核と紡錘形細胞から成り、錯綜する束状の配列で密に増殖してます。



高倍率の画像です。

多巣状に粘液から軟骨様の基質、類骨の産生巣が散在し、多角巨細胞も多数認められます。



病理検査の結論として、肉巣に相当する間葉系の悪性腫瘍性病変が認められました。

指骨との連続性や軟骨・骨様の基質産生の存在から骨肉腫と診断されました。

病理医からは、病巣部は切除断端に及ばず、標本上は完全切除と判断されました。



手術が終了して、麻酔から半覚醒の陽君です。



麻酔覚醒から一時間後の陽君です。





特に右後肢を拳上することなく、接地歩行出来てます。



陽君は術後の経過も良好で、2泊3日で退院して頂きました。

下写真は、退院当日の患部です。



特に縫合部からの出血、腫脹も気になりません。









実際、チンチラの骨肉腫の報告例は少なく、その挙動は不明とされています。

一般的には、局所浸潤と肺を主体とした遠隔転移が問題となる腫瘍のため、今後の陽君の摘出患部と肺を含めた転移病変の有無についてモニタリングが必要です。



陽君お疲れ様でした!






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投稿者 もねペットクリニック | 記事URL

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