アーカイブシリーズ

2023年7月 9日 日曜日

犬の熱中症(その1)    


本日は犬の熱中症について載せます。

今年も既に30度を超す日もあり、またメディアも連日ペットの熱中症について取り上げてます。

結果、飼い主様もご注意いただいているようで、今年はまだ犬の熱中症の症例はありませんでした。

しかしながら、つい先日、車の中にいて1時間弱の間に熱中症になられたワンちゃんがいます。



今回はこの熱中症の症例です。

Mix犬のキキちゃん(1歳9か月令、雌)は飼主様が車の中で冷房を入れたつもりで、実は送風モードであったようで、そのまま車中に置き去りにされました。

飼い主様が車に戻られた時点で、すでにキキちゃんは過呼吸で起立不能の状態でした。

下写真は急遽来院されたキキちゃんです。



写真ではこの状況は伝わりにくいかもしれませんが、呼吸が非常に荒く、口からは大量のよだれが溢れています。

加えて、立ち上がることもできません。

ヒトの熱中症の状態と近似しています。



キキちゃんのこの時の体温は43度です。



点滴のための留置針を静脈に入れて、体温を下げるために全身を水で濡らしたタオルで包みます。

さらに保冷剤を腋下や鼠蹊部に当てて、冷却します。





これらの処置で、1時間内にキキちゃんの体温は38度台に戻りました。

氷水等による急激な冷却は、体表部の血管を収縮させることで体熱の放散を抑制し、さらに体の振るえによる熱産生を促進し結果として、体温の下降を遅らせてしまいますので要注意です。


血液検査を実施したのですが、すでに血液の粘性は高くなり、黒ずんでいます。

肝臓機能を表すGOT値は、すでに測定不能を示しています。


意識も混とんとしていますので、脳浮腫を避けるために高用量のステロイドを投薬します。

高温下による脱水、そして末梢血管の拡張による低血圧を改善するために点滴を大量に送り込みます。

その後、キキちゃんは下痢・血便が出始めました。

高体温での消化管出血が起こっているようです。

それでも2時間くらいで、意識が戻り始め横たわって立ち上がれなかった体が、伏せの状態まで回復してきました。

当日は、夜間通して看病に当たりましたが6時間後には起立可能となりました。


結果として、2日間の入院でキキちゃんは無事退院されました。



飼い主様が速やかに病院にお連れ頂いたことと、キキちゃんが基礎体力があり若かったこともあり、大事に至らずに済んだと思います。



多くの熱中症患者は、体温が平熱に戻った後に多臓器不全を起こして死の転帰をたどるケースも多いことを認識して頂きたく思います。

この熱中症は、飼主様が気を付ければ防ぐことが出来る疾病です。

不注意でペットの命を失くしてしまったら悔やみきれないものがあります。


キキちゃんは、まだ肝臓機能障害は残っておりますので、しばらく治療は必要となります。

元気に退院できてよかったです。




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2023年7月 7日 金曜日

アーカイブシリーズ ヨツユビハリネズミの子宮腺過形成

こんにちは 院長の伊藤です。

本日もアーカイブシリーズ ヨツユビハリネズミの産科疾患、子宮腺過形成の症例を紹介します。

発情に伴って子宮腺の過形成を招くのは一般的ですが、その子宮腺が筋肉層から漿膜面を突き破って子宮外側面に突出したという珍しいケースです。

6年前に当院HPに掲載した記事ですが、宜しかったらご覧下さい。





こんにちは 院長の伊藤です。

ウサギに次いでハリネズミの子宮疾患は多く、卵巣・子宮全摘出を行うことで完治させてます。

ハリネズミの場合は子宮ポリープ、子宮内膜炎、子宮腺癌が多いのですが、今回は子宮腺が過剰に増生して子宮筋層まで進行して漿膜面まで過形成してしまった症例です。

手術手技的にも難しい点があり、ご紹介します。



ヨツユビハリネズミのこひなちゃん(雌、2歳4か月)は血尿が激しく続くとのことで三重県から来院されました。



かなりの出血が認められます。



早速、レントゲン撮影を実施しました。

下写真の黄色丸は腫大した子宮です。





子宮が腫大していることから、恐らくは子宮内膜炎などの炎症反応による出血と考えられました。

卵巣子宮全摘出手術を飼主様にお勧めし、ご了解を得たので早速全身麻酔をします。



麻酔導入が効いてきました。



維持麻酔に切り替えます。



陰部からの出血が確認されます。



心肺機能などのモニターのためのセンサーやコードが小さな体に装着されます。





腹部の正中切開を実施します。



切開線の真下に現れたのは子宮です。



赤矢印は子宮体ですが、多量の出血のため高度の貧血色を呈しています。

黄色矢印は子宮体に形成された茶褐色の腫瘤を示します。

当初この腫瘤は腫瘍であろうと思われました。

後ほどこの腫瘤の病理検査の結果をお伝えいたします。



まずは左側の卵巣動静脈をバイクランプでシーリングを行います。

バイクランプで80℃の高熱で血管を熱変性・シーリングします。

これだけ小さな部位は縫合糸で結紮するのは難しいのですが、バイクランプでは容易に短時間で達成できます。



シーリングされた部位はメスで離断します。

出血は全くありません。



次いで右側の卵巣動静脈をシーリングします。





シーリングの部位を同じく離断します。



次は子宮頸管に走行している子宮動静脈のシーリングです。



子宮頸管の左右に走行している血管を完全にシーリングします。



ご覧いただいて分かるように子宮頸管が非常に腫大(黄色矢印)しています。





当院HPのハリネズミの他の子宮疾患の記事をご覧いただけると明らかですが、正常なハリネズミの3倍以上の子宮頸管の太さになっています。

本来の縫合糸による結紮では十分な結紮は出来そうにありません。



子宮頸管内部がどのようになっているか不明のため、予想外の出血に対応できるようにレーザーメス(下写真)を準備しました。



この半導体レーザーのチゼルプローブは200℃近い熱を発し、微小血管なら瞬時に炭化・止血します。



慎重に切開して行きます。



水分を多く含む組織では下写真の様に煙が立ちます。



切開を進めていくうちに充血・肥厚した子宮頸管内膜が出現しました。





切開して出現した組織(赤矢印)は過剰に形成された子宮内膜です。

興味深いのは黄色矢印の組織で、これは赤矢印の子宮内膜組織が子宮筋層を破って、子宮漿膜面に突出したものと思われます。





子宮漿膜面の外周をレーザーメスで切開して行くと子宮頸管内の子宮内膜組織が、そのまま一緒に外れるように摘出されました。



残っている子宮頸管は従来通り、吸収糸で縫合します。







これで卵巣・子宮の全摘出は完了です。

左手の鉗子で示しているのは膀胱です。



腹筋を縫合します。



皮膚を縫合します。







手術は無事終了しました。





術後1時間のこひなちゃんです。

貧血気味も加わり、足元はふらつき気味です。





今回摘出した卵巣・子宮です。

ヨツユビハリネズミの子宮としては随分大きく腫大してます。

下写真は腹側面です。



側面です。



子宮背側面です。



既に腹腔内で飛び出していた黄色矢印の組織が、子宮頸管内で増殖していた赤矢印の組織と同一のものかという点。

さらに腫瘍組織が関与しているかの点を確認するために病理検査に出しました。



病理検査の結果として、子宮内膜腺過形成増生と間質組織増生に伴う子宮壁の肥厚が認められること。

次いで、子宮内膜腺が筋層を破って突出していることが判明しました。



幸いなことに腫瘍細胞は検出されませんでした。



下写真の卵巣組織では、ホルモン分泌不均衡の原因となる卵巣嚢胞・卵胞嚢胞・黄体形成病変は検出されませんでした。



結論として、子宮内膜腺が過形成されることにより出血性・壊死性病変が起こり、出血多量をもたらしたと推察されます。

問題となる子宮組織を全摘出しましたので、予後は良好と思われます。



術後2日目のこひなちゃんです。

退院当日の写真ですが、食欲も出て来ました。

まだ貧血が治るには、1~2週間は必要ですが、食餌をしっかり取れれば問題ありません。



こひなちゃん、お疲れ様でした!




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2023年7月 5日 水曜日

アーカイブシリーズ ヨツユビハリネズミの産科疾患 子宮内膜ポリープ

こんにちは 院長の伊藤です。

本日も引き続き、ヨツユビハリネズミのアーカイブシリーズを載せます。

ヨツユビハリネズミの産科疾患の中で、過剰な長期にわたるエストロゲンやプロゲステロンによる子宮内膜の刺激が原因で子宮内膜過形成が生じるとされます。

その子宮内膜過形成から子宮内膜ポリープが形成されます。

結果、子宮ポリープが原因で血尿に至る場合も多いです。

そんな子宮内膜ポリープの1症例(2016年8月30日当院HP掲載分)をご紹介します。








こんにちは 院長の伊藤です。

残暑厳しい中、皆様のペット君達は夏バテしてませんか?

この1か月、私自身は手術に追われてブログの更新もままならなく、読者の皆様にご心配おかけしております。

1年ほど前の手術症例もまだブログにまとめる時間がないままでいます。

それでも、頑張って報告して行きますのでよろしくお願い致します!



本日、ご紹介しますのはハリネズミの子宮内ポリープです。

ヨツユビハリネズミのリッチョちゃん(3歳9か月齢、雌、体重370g)は激しい血尿が出るとのことで来院されました。

リッチョちゃんは、はるばる新幹線で兵庫県から来院されました。



血尿が続く症例では、全身状態が不良なことが多いです。

実際のところ、エコーで腹部,特に子宮を確認したいところなんですが、そのために全身麻酔をかけることは避けることとしました。

代わりにレントゲン撮影を実施しました。

下写真の黄色丸が子宮の部位になりますが、多少の腫大が確認できます。





卵巣・子宮全摘出を前提とした試験的開腹を行うこととしました。

早速、全身麻酔を実施します。

麻酔導入箱にリッチョちゃんを入れてイソフルランを流します。



麻酔導入が効いて来たリッチョちゃんです。



導入箱から出して維持麻酔に変えます。

この時点でリッチョちゃんの陰部から出血(黄色丸)が認められます。



このような出血量が日常的に続くようですと高度の貧血状態に陥ってしまいます。



四肢を固定し、剃毛を施します。



術野を消毒し、手術の準備ができました。







腹部の正中線にメスで切開をします。





切開部の真下には、腫大している子宮が認められます。



丸く巻いている子宮角が白く貧血色を呈しているのがお分かり頂けると思います。

長らくの出血で貧血が進行しているようです。



下写真の向かって右側の子宮角(黄色矢印)が腫大しています。





卵巣動静脈(黄色丸)をバイクランプを用いてシーリングをします。



80℃の高熱で卵巣動静脈がシーリングされているのを確認後、硬性メスで離断します。



反対側の卵巣動静脈(下写真黄色丸)をシーリングします。



子宮頚部を縫合糸で結紮したところ、その圧迫で外陰部(下写真黄色丸)からガーゼに出血が認められます。

子宮内にある程度の出血した血液が貯留していると思われます。



子宮頚部をメスで離断します。



離断した子宮頚部(下写真黄色丸)の断面を縫合糸で縫合して行きます。



腹腔内に不正出血や他の病変(腫瘍など)がないか確認します。



特に問題はありませんでしたので、閉腹します。





皮膚を縫合して終了です。



今回は、点滴のための留置針が入れられなかったので皮下にリンゲル液を輸液します。



麻酔覚醒後のリッチョちゃんです。

術後の疼痛で不機嫌な表情です。



術後3時間後のリッチョちゃんです。

麻酔から完全に覚醒してインキュベーター内を徘徊できるようになりました。



手術翌日のリッチョちゃんです。

食欲も出て来ました。



しっかり、ハリネズミフードを食べてます。



下写真は摘出した卵巣・子宮です。



両子宮角を切開したところ、子宮角内膜が肥大膨隆しています(黄色矢印)。



肥大した子宮内膜には血腫(黄色丸)が認められます。



下写真は低倍像の病理所見です。

子宮内膜は子宮腺上皮細胞の増殖があり、子宮内膜過形成となっています。

過形成構造の内部(下写真の空砲内)は液体が貯留しています。

この空砲をポリープと呼び、リッチョちゃんは子宮内膜ポリープ及びびまん性の子宮内膜過形成と病理医から診断されました。



子宮内膜ポリープの拡大像です。



過形成化した子宮内膜の拡大像です。

腫瘍細胞は認められませんでした。



子宮内膜過形成は、過剰な長期にわたるエストロゲンやプロゲステロンによる子宮内膜の刺激が原因で生じるとされます。

そして、子宮内膜ポリープは子宮内膜過形成の延長にあると解釈されます。

いずれにせよ、これらの病変が子宮内の出血を引き起こします。

ハリネズミの場合は、出血量が多いことが特徴です。

出血が、何日も続くようですと手術を受けて頂く時には貧血が酷く、全身麻酔のリスクが高くなります。

ウサギ同様、雌のハリネズミで血尿が認められたら、子宮疾患を疑って早期の受診をお勧めします。


リッチョちゃんは術後の経過は良好で、2週間後には無事抜糸することが出来ました。

リッチョちゃん、お疲れ様でした!





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2023年7月 4日 火曜日

アーカイブシリーズ ヨツユビハリネズミの産科疾患 平滑筋肉腫

こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのは、ヨツユビハリネズミの平滑筋肉腫です。

ハリネズミは色々な腫瘍に罹患します。

平滑筋は消化器などを構成する筋肉組織ですが、この平滑筋が肉腫という悪性腫瘍になりますと難しいことになります。



ヨツユビハリネズミの芝ちゃん(8か月齢、雌、体重500g)は血尿が頻発するとのことで来院されました。

雌のハリネズミの血尿は以前から子宮疾患を疑うように申しておりましたが、今回は一般的な子宮内膜炎か子宮腺癌あたりではないかと思われました。



触診をしてもなかなか下腹部を触らせてくれませんので、レントゲン撮影を実施しました。





膀胱内の尿石や子宮が特に腫大した所見は見当たりません。

しかしながら、出血量は多くて、このままでは高度の貧血状態に陥る可能性大です。



上写真にあるように排尿時に出血が認められます。

飼い主様の了解を頂き、試験的開腹をさせて頂く事にしました。

いつものごとく、芝ちゃんに麻酔導入箱に入ってもらいます。





少しづつ麻酔が効いてきます。



麻酔導入箱から出て頂き、手製のマスクに顔を入れてイソフルランで維持麻酔を行います。



心電図や血中酸素分圧などをモニタリングするための電極を装着します。





これから下腹部にメスを入れます。



下写真は子宮です。

赤紫のうっ血色を呈している腫瘤(下写真黄色丸)が、ちょうど子宮頚部に認められます。



この赤紫色の部位はおそらく腫瘍と考えられますので、接触による患部出血を回避するために慎重に取り扱います。



次にいつものごとくバイクランプにより、卵巣動静脈をシーリング致します。

犬や猫の卵巣なら鉗子で把持することは容易ですが、ことハリネズミになりますと小さいことと組織脆弱なことで、鉗子を使わず指先で把持しての手術となります。



卵巣動静脈をバイクランプでシーリングします。





度重なる出血から子宮自体は貧血色を呈しています。



子宮頚部の腫瘤(黄色丸)の全容です。



子宮頚部を結紮します。





子宮頚部を離断します。

ハリネズミの子宮頚部は短く、離断する位置はなるべく膀胱に近い遠位に持っていきたいのですが、限界があります。



子宮頚部を離断しました。



卵巣・子宮切除後の腹腔内を確認します。

この時点で、特に腹腔内臓器に腫瘍病巣は見当たりませんでした。



腹壁を縫合します。



皮膚縫合して手術は終了です。



ガス麻酔を切って、芝ちゃんの覚醒を待ちます。



麻酔から覚醒直後の芝ちゃんです。

覚醒時は暴れることが多いですが、それは覚醒が良好な状態であることを示しています。



手術は無事終了です。



術後一時間の芝ちゃんです。

四肢での起立は出来ていますが、筋肉は硬直し疼痛を感じているようです。



翌日の芝ちゃんです。

排尿時の出血はなくなり、排尿(黄色丸)もスムーズに行うことが出来ます。



摘出した子宮(下写真)の腫瘤を細胞診しました。



黄色丸で囲んだ部位は病変部を縦断して切開したものです。



細胞診の顕微鏡像です。





核の異型性を示す紡錘形細胞が多数認められました。

発生部位が子宮頚部筋層であることから、平滑筋肉腫の判定が出ました。



術後2日目に芝ちゃんは元気に退院して頂きました。

しかし、残念ながら術後11日目に急逝されました。

合掌。



子宮腺癌ではなく、平滑筋肉腫ということで、恐らく子宮筋層から発生した腫瘍が子宮の漿膜面(外層)に出て空回腸などの消化器や腹膜などへ転移していたのかもしれません。

小さな動物のため、開腹時に腹腔内をつぶさに確認することが難しいです。

過去のハリネズミの子宮疾患は子宮内膜炎が一番多く、術後の経過は良好です。

しかし、今回の様に平滑筋肉腫が絡んだりすると既に他の臓器に転移している可能性があります。

諸検査を実施するにしても、すぐに針を立てて丸くなる性格上、鎮静・麻酔が必要になったりします。

なるべくストレスのない検査をしたいのですが、難しいのがハリネズミです。

病巣部の早期発見・早期治療を心がけたいと思います。




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2023年7月 1日 土曜日

アーカイブシリーズ ヨツユビハリネズミの産科疾患 血尿(その2)

こんにちは 院長の伊藤です。

先回に引き続き、アーカイブシリーズ ヨツユビハリネズミの産科疾患 (血尿その2)を載せます。

この記事も先回同様、8年前に当院HPに載せたものです。

血尿に始まり、その後の展開は元気食欲の消失、断続的な血尿による貧血状態となって受診されるというケースが多いです。

今回の内容は子宮内膜炎と言って、子宮の腫瘍ではなく子宮内の炎症から血尿に至った症例です。

内科的療法で血尿が一旦、鎮静化してもまた再発を繰り返し、最終的に子宮腺癌に至る事例も多いです。

それでは、アーカイブシリーズご覧ください。







こんにちは 院長の伊藤です。

雌のハリネズミの血尿は、子宮疾患が絡んでいることが多いです。

他院で膀胱炎疑いで、止血剤や抗生剤の内服を継続してるが血尿が治まらないとの飼主様からの相談を受けることが多いです。

以前にもハリネズミの血尿についてコメントさせて頂きました。

その詳細はこちらを参照下さい。



そんなわけで、ハリネズミの子宮疾患にまつわる症例報告を今後も続けていくことにします。

本日ご紹介しますのは、子宮の内膜炎が進行して血尿が認められたケースです。


ヨツユビハリネズミのトーンちゃん(雌、1歳10か月)は血尿が続くとのことで、はるばる京都から来院されました。



他院で止血剤・抗生剤の内服はされていたようですが、まずはエコーで子宮の状態を確認させて頂きました。

下写真の黄色丸は子宮で、カラードップラーで青と赤の色がモザイク様に描出されている箇所が子宮内の出血している部位を表します。



念のため、膀胱をエコーで確認しましたが問題ありませんでした。

エコーでは子宮腺癌のように腫大したマスは確認されませんので、おそらくは子宮内膜炎あたりによる出血の可能性が高いように思われました。

子宮内膜炎であれば内科的治療で完治できるのではと考えますが、摘出した子宮から腫沖の腺癌が見つかったり、わずか数百グラムという体重の個体であれば、出血量が僅かでも持続すれば出血多量の失血死に至ります。

飼い主様が京都在住のため、早期の手術をご希望されていることもあり、翌日手術を実施することとなりました。

いつものごとく、全身麻酔のためトーンちゃんに麻酔導入箱に入って頂き、麻酔をかけていきます。



トーンちゃんに麻酔が効いてきたところで、維持麻酔に変えます。



自家製のガスマスクと術中のモニタリング(心電図・酸素分圧測定など)のための電極を装着します。



皮膚を剃毛・消毒して、これから手術に入ります。





皮膚を切皮します。



腹筋を切開します。





下写真の中央に突出しているのが子宮です。



子宮の大きさからすると腫大は認められませんが、子宮内部に血液が貯留しているのが分かります。



右卵巣動静脈をバイクランプでシーリングします。



血管のシーリングを確認したところでメスで離断します。



同じ方法で左卵巣の動静脈も離断していきます。



両卵巣動静脈を離断した写真です。



次に子宮頚部を縫合糸で結紮していきます。







結紮が完了したところで、メスで子宮頚部を離断します。



カットした子宮頚部から出血が認められます(下写真黄色丸)。



子宮頚部を縫合(下写真黄色丸)して卵巣子宮摘出は終了です。





腹筋を縫合します。





次いで皮下組織を縫合します。



最後は皮膚縫合で手術は終了です。



維持麻酔のイソフルランの流出を停止させて、トーンちゃんを覚醒させます。



酸素だけを吸入させて、覚醒を待機しつつ抗生剤の注射を行います。



少しづつトーンちゃんの意識が戻ってきました。



側臥の姿勢から起き上がろうともがき始めます。



意識が完全に戻る前に爪を切ります。

ハリネズミの爪切りは煩雑で、実際に行おうとすると体を丸めてブロックされます。

従って、今回の様に全身麻酔した時は、同時に爪を切ります。



腹筋からの出血が続く様なので、腹帯をして圧迫止血します。



止血が完了するまで数時間このまま、腹帯をしてもらいます。

麻酔の覚醒も問題ありませんでした。





さて摘出した卵巣と子宮です(下写真)。

腹側面です。



背側面です。



この子宮角部を切開しました。

子宮内膜は肥厚しており、点状出血が認められます。

細菌感染があるようで灰白色の粘液が貯留しています。





子宮内膜面をスタンプ染色しました。

子宮内膜細胞に混じって、細菌や白血球などの炎症細胞が認められます。

高度の子宮内膜炎であることが判明しました。



手術の翌日のトーンちゃんです。

食欲も出て来ました。







術後2日目に退院して頂きました。

お迎えにみえた飼主様に甘えたような表情を示しています。







トーンちゃんは退院時に血尿も認められなくなりました。

雌のハリネズミの飼主様、血尿がありましたら、お早目に動物病院の受診をお勧めします。

トーンちゃん、お疲れ様でした!




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