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ウ―パールーパー・カエルの疾病

ウーパールーパーの皮膚腫瘍

こんにちは 院長の伊藤です。


四月に入り、当院ではフィラリアの予防やら狂犬病ワクチン接種など、ワンちゃんにとってのイベントでバタバタしております。

来院の患者様にあっては、長い時間お待たせしなくてはならない場合もございます。

ご迷惑をおかけして申し訳ありません。

この場を借りてお詫び申し上げます。




さて、暫くぶりのブログになります。

本日ご紹介しますのは、ウーパールーパーの皮膚腫瘍です。

ウーパーのような両生類でも腫瘍が発生します。

くうちゃん(年齢、性別不詳)は左側鰓の付根から頭頂部にかけての腫脹が気になるとのことで来院されました。



下写真黄色丸がその腫脹している部位です。



くうちゃんの患部は細菌の感染によるものなのか、腫瘍なのか外部からでは判断がつきません。

細胞診をしました。



下写真がその細胞診の画像です。

青紫に染まった未分化の細胞が認められます。

細菌の感染はなく、腫瘍細胞であることが判明しました。





もともとウーパールーパーは組織損傷時に細胞の再生能力が高いとされます。

我々、哺乳類では指を切り落としたりしたらまた指が再生することはありませんが、ウーパーのような有尾類にあっては尻尾や指などは切り落としても再生がほどなく始まります。

卵子が受精して最初に分割した時点の細胞(胚細胞)は、生物のあらゆる部位の細胞に分化していく能力を持っています。

胚細胞は分割を繰り返していく中で、皮膚であったり尻尾であったり、細分化されてどの細胞になるか確定されていきます。

哺乳類では損傷した部位の細胞が異なる部位の細胞になることは、すでに分化が完成された細胞群ですから不可能です。

しかし、ウーパーは損傷すると受傷部位の細胞は、卵子の頃の胚細胞に戻り、どんな部位にも分化する体勢を整えます。

ですからウーパーの皮膚細胞は何らかの刺激で、場合によっては腫瘍細胞に分化するケースが多いと思われます。



今回の腫瘍は、正常の組織との境界が不明瞭であり、鰓の隣に発生しているものなので、外科的に切除することはリスクを伴います。

飼い主様とよく話合った結果、内科的な治療(化学療法)で対応することにしました。

両生類に抗生剤などを内服させての治療経験はたくさんあるのですが、抗がん剤を投薬した経験はありません。

試験的投薬になる点について、飼い主様にもご了解を得ました。

どんな抗がん剤を選択するかということが一番の問題です。

両生類は皮膚から薬を吸収することが可能です。

しかし、抗がん剤の皮膚からの吸収率(薬浴の場合)は不明で、やはり経口投薬が確実と思いました。

私の使用経験からピロキシカムという非ステロイド性抗炎症剤(NSAID)を選択しました。

このピロキシカムは抗がん剤ではありませんが、ガン治療の補助薬として使用されます。

特に当院では、犬以外にもジリスやプレーリードッグの口腔内扁平上皮癌の治療にピロキシカムを使用しています。

NSAIDによってシクロオキシゲナーゼ(COX)という体内の酵素が抑制されます。

ピロキシカムはCOX-2という酵素を抑制し、結果として血管新生阻害をもたらします。

腫瘍は周囲から栄養を引き込みますから、この栄養血管を障害して最終的に腫瘍細胞を兵糧攻めにします。



説明が長くなりました。

その後のくうちゃんの経過を写真でご覧いただきます。

内服1週間後です。

細胞診の時に穿刺した針の跡が内出血しています。



内服3週間後です。

腫瘍の大きさはあまり変わりません。



5週間目です。

患部はさらに大きくなってきました。



ピロキシカムの薬容量はあくまで犬を基準にくうちゃんの体重にスケールダウンして処方しました。

両生類の薬容量が残念ながら分かっていません。

ただピロキシカムの効果が認められないことで、薬用量を上げることにしました。

4倍量に挙げました。

7週間後です。





さらに患部は大きくなってきました。

腫瘍内部の出血があるようです。

ピロキシカムを10倍量に上げました。

投薬開始から10週間後です。



少し腫瘍が小さくなってきているのがお分かりでしょうか。

下写真は投薬開始11週です。







腫瘍の存在は分からないほど小さくなりました。

患部の発赤・内出血もなくなりました。

くうちゃんの食欲・元気も以前の状態に戻りました。

ピロキシカムの薬用量を10倍に上げてから劇的に変化が認められました。

はたして、この1例のみでピロキシカムが効果があるかは明言はできませんが、両生類にも哺乳類同様に抗腫瘍作用があるかもしれません。

その後のくうちゃんの経過も良好で、再発は認められません。

両生類の投薬は煩雑ですから、11週にわたる飼主様の投薬の情熱には頭が下がる思いです。

今後さらにくうちゃんの経過観察は必要と思われますし、外科的摘出不可能なケースで可能であればピロキシカム治療症例を増やしていきたく思います。


くうちゃん、お疲れ様でした!




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投稿者 院長 | 記事URL

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