腫瘍疾患/うさぎ
2016年1月14日 木曜日
ウサギの子宮腺癌(その6)
こんにちは 院長の伊藤です。
ウサギの子宮疾患で死亡率が高いのは、子宮腺癌です。
子宮に腫瘍が出来ますと腺癌に侵された子宮内膜から出血が始まります。
多くのウサギは血尿から、飼主様が異常に気づくことが多いです。
ここで動物病院を受診して、幸いにも子宮腺癌と診断されて外科的に卵巣子宮摘出手術を成功されれば理想です。
現実には、他院で犬猫と同様に膀胱炎の診断をされ、抗生剤と止血剤の内服を長期にわたり継続して、腹腔が子宮腺癌で膨満した状態で、セカンドオピニオンとして当院を来院されるケースが多いです。
こうなると、待ったなしの外科手術になります。
少しでも、飼主様にウサギの子宮腺癌についての見識をお持ちいただけるよう子宮腺癌の症例をご紹介させて頂いてます。
今回、ご紹介しますのはモシャちゃん(8歳6か月)です。
モシャちゃんは福島で震災に遭い、飼い主様のご実家である名古屋に戻られたという経験を持つウサギです。
去年の12月から血尿が続くとのことで他院を受診したそうですが、子宮疾患の疑いはないと否定されたそうです。
セカンドオピニオンで当院を受診された時には、出血の量も多くなっていました。
下写真はモシャちゃんをお預かりしてすぐに出た血尿です。
お腹の膨満感はありませんが、歯茎等の可視粘膜は貧血色を呈しています。
直ぐにエコーをしました。
下のエコー像の黄色丸で囲んだ部位が腫脹している子宮です。
かなり、膨大しており周囲の腸を圧迫しています。
この段階で子宮腺癌の確定診断は出来ましたので、そのまま手術で摘出することにしました。
貧血が酷い場合は、ある程度内科的治療を施して、体力が手術に耐えられるまで回復を待つこともあります。
モシャちゃんの場合は、これ以上内科的治療を継続することでの回復は望めないと判断しての手術です。
いつものことながら、静脈確保のための留置針処置です。
イソフルランで麻酔導入します。
モシャちゃんは長毛種で下腹部を剃毛するのが大変です。
正中切開でメスを入れます。
腹膜を切開したところで、すでに腫大した子宮が外からでも認識できます。
腺癌で腫大した子宮です。
健常な子宮の6~7倍くらい腫大しています。
卵巣動静脈も子宮間膜の血管も怒張しており、これもいつもの通りバイクランプのシーリングでほとんど無出血で両側卵巣を離断します。
最後に子宮頚部を縫合糸で結紮して子宮を摘出します。
あとは腹膜・腹筋・皮膚と縫合して終了です。
モシャちゃんは手術にしっかり耐えてくれました。
麻酔の覚醒も速やかです。
無事、手術は終了しました。
今回摘出した卵巣と子宮です。
右側子宮角です。
左側子宮角です。
子宮壁を切開してました。
腺癌が子宮内膜へ浸潤しており、子宮壁の一部は炎症から変性壊死してます。
この病変部をスタンプ染色しました。
腺癌の腫瘍細胞が認められます。
術後のモシャちゃんの経過は良好で3日後には退院して頂きました。
下写真は2週間後のモシャちゃんです。
抜糸のため来院されました。
首に付けたエリザベスカラーが邪魔みたいですが、傷口の保護のためには止むを得ません。
剃毛部した部位は既に下毛が生えてきています。
皮膚も綺麗に癒合してます。
抜糸後の皮膚です。
モシャちゃんは術後食欲が見違えるほどに旺盛になり、活動的になったそうです。
また血尿も術後はありません。
毎回、このウサギの子宮腺癌の紹介の文末に記載してますが、5歳以降の血尿は子宮疾患を疑って下さい。
そして速やかに、ウサギを診て頂ける動物病院を受診して下さい。
モシャちゃんの飼主様は5歳以降の避妊手術は危険でできないと思い込んでみえました。
モシャちゃんは8歳を過ぎた高齢でしたが、手術は可能でした。
救える命は、頑張って救ってあげたいと思います。
そして、できるなら1歳位には雌ウサギには避妊手術を受けさせてあげて下さい。
モシャちゃん、お疲れ様でした!
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ウサギの子宮疾患で死亡率が高いのは、子宮腺癌です。
子宮に腫瘍が出来ますと腺癌に侵された子宮内膜から出血が始まります。
多くのウサギは血尿から、飼主様が異常に気づくことが多いです。
ここで動物病院を受診して、幸いにも子宮腺癌と診断されて外科的に卵巣子宮摘出手術を成功されれば理想です。
現実には、他院で犬猫と同様に膀胱炎の診断をされ、抗生剤と止血剤の内服を長期にわたり継続して、腹腔が子宮腺癌で膨満した状態で、セカンドオピニオンとして当院を来院されるケースが多いです。
こうなると、待ったなしの外科手術になります。
少しでも、飼主様にウサギの子宮腺癌についての見識をお持ちいただけるよう子宮腺癌の症例をご紹介させて頂いてます。
今回、ご紹介しますのはモシャちゃん(8歳6か月)です。
モシャちゃんは福島で震災に遭い、飼い主様のご実家である名古屋に戻られたという経験を持つウサギです。
去年の12月から血尿が続くとのことで他院を受診したそうですが、子宮疾患の疑いはないと否定されたそうです。
セカンドオピニオンで当院を受診された時には、出血の量も多くなっていました。
下写真はモシャちゃんをお預かりしてすぐに出た血尿です。
お腹の膨満感はありませんが、歯茎等の可視粘膜は貧血色を呈しています。
直ぐにエコーをしました。
下のエコー像の黄色丸で囲んだ部位が腫脹している子宮です。
かなり、膨大しており周囲の腸を圧迫しています。
この段階で子宮腺癌の確定診断は出来ましたので、そのまま手術で摘出することにしました。
貧血が酷い場合は、ある程度内科的治療を施して、体力が手術に耐えられるまで回復を待つこともあります。
モシャちゃんの場合は、これ以上内科的治療を継続することでの回復は望めないと判断しての手術です。
いつものことながら、静脈確保のための留置針処置です。
イソフルランで麻酔導入します。
モシャちゃんは長毛種で下腹部を剃毛するのが大変です。
正中切開でメスを入れます。
腹膜を切開したところで、すでに腫大した子宮が外からでも認識できます。
腺癌で腫大した子宮です。
健常な子宮の6~7倍くらい腫大しています。
卵巣動静脈も子宮間膜の血管も怒張しており、これもいつもの通りバイクランプのシーリングでほとんど無出血で両側卵巣を離断します。
最後に子宮頚部を縫合糸で結紮して子宮を摘出します。
あとは腹膜・腹筋・皮膚と縫合して終了です。
モシャちゃんは手術にしっかり耐えてくれました。
麻酔の覚醒も速やかです。
無事、手術は終了しました。
今回摘出した卵巣と子宮です。
右側子宮角です。
左側子宮角です。
子宮壁を切開してました。
腺癌が子宮内膜へ浸潤しており、子宮壁の一部は炎症から変性壊死してます。
この病変部をスタンプ染色しました。
腺癌の腫瘍細胞が認められます。
術後のモシャちゃんの経過は良好で3日後には退院して頂きました。
下写真は2週間後のモシャちゃんです。
抜糸のため来院されました。
首に付けたエリザベスカラーが邪魔みたいですが、傷口の保護のためには止むを得ません。
剃毛部した部位は既に下毛が生えてきています。
皮膚も綺麗に癒合してます。
抜糸後の皮膚です。
モシャちゃんは術後食欲が見違えるほどに旺盛になり、活動的になったそうです。
また血尿も術後はありません。
毎回、このウサギの子宮腺癌の紹介の文末に記載してますが、5歳以降の血尿は子宮疾患を疑って下さい。
そして速やかに、ウサギを診て頂ける動物病院を受診して下さい。
モシャちゃんの飼主様は5歳以降の避妊手術は危険でできないと思い込んでみえました。
モシャちゃんは8歳を過ぎた高齢でしたが、手術は可能でした。
救える命は、頑張って救ってあげたいと思います。
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2015年12月19日 土曜日
ウサギの前縦隔疾患(胸腺腫の疑い)
こんにちは 院長の伊藤です。
ウサギは色々な疾病にかかりますが、比較的胸部疾患は少ないとされます。
ウサギは草食獣であるため、全体腔内で消化器が占める割合が非常に大きく、胸郭はわずかなスペースしか取れていません。
そのため、一たび胸部疾患になりますと呼吸困難から重篤な症状になることが多いです。
本日ご紹介しますのはウサギの前縦隔疾患、特に胸腺腫の疑いの1例です。
胸腺とは、T細胞というリンパ球の大部分を占める免疫細胞を産生する組織で、心臓の上に位置しています。
ヒトではこの胸腺は思春期に最大になり、60歳以降は消失する組織です。
一方、ウサギでは成獣になっても退縮することなく遺残します。
この胸腺が腫瘍化する疾患を胸腺腫と言います。
本日ご紹介しますのは、ウサギのちゃちゃ丸君(6歳、雄、雑種)です。
ちゃちゃ丸君は突然、呼吸困難に陥り来院されました。
一般にはウサギは鼻で呼吸をしますが、呼吸困難になってきますと開口呼吸を始めます。
ちゃちゃ丸君は、肩で呼吸をしており、今にも開口呼吸が始まりそうです。
下写真をご覧いただくと、ちゃちゃ丸君の両眼が少し突出している(下黄色矢印)のがお分かり頂けるでしょうか?
加えて両眼共に瞬膜(第三眼瞼)という眼を保護する膜が眼頭から出てきてます。
以上の症状は胸部疾患、特に前縦隔疾患に共通する臨床症状です。
縦隔とは両肺と胸椎・胸骨で囲まれた部分を言います。
前縦隔とは、縦隔の内、心臓の腹側面側の部位を指します。
先ほどウサギの胸腺は成長後も遺残することを述べました。
加えてウサギの場合、左前大静脈という犬猫では発生過程で消失する静脈が生後も遺残します。
この左前大静脈が胸腺やリンパ節の腫大で圧迫されて生じる症状を前大静脈症候群といいます。
前大静脈症候群になりますと圧迫に伴い生じるうっ血により、無痛性・両側性の眼球突出や第三眼瞼突出、頭頸部・前肢の浮腫が生じます。
ちゃちゃ丸君はこの前大静脈症候群が出ているということです。
早速、レントゲン写真を撮影しました。
下写真は腹背像ですが、黄色矢印にあるように右側前縦隔に腫瘤を認めます。
側臥のレントゲン像です。
心臓の前のスペースに腫瘤が存在して(下写真黄色丸)心臓を圧迫しているのが分かります。
前縦隔疾患で発症率で多いとされるのは、胸腺腫とリンパ腫(前縦隔型)です。
レントゲン撮影ではこの2つの疾病は鑑別できません。
加えて、血液検査でも鑑別に関与する特異的所見はないとされています。
あとは針生検(FNA)による細胞学的な検査ですが、これも比較的未熟なリンパ芽球が多く出ればリンパ腫と診断が出来ますが、
針の生検では鑑別は困難とされます。
組織を外科的に摘出できれば確定診断は可能です。
しかし、今のちゃちゃ丸君では、全身麻酔よりも体を抑えるだけでも呼吸不全で死んでしまいます。
そのため、ICUの部屋に入院して頂き40%の酸素下で、呼吸不全を治療していくことにしました。
高用量のプレドニゾロンと気管支拡張剤・抗生剤の組み合わせて内科的治療を開始しました。
胸腺腫とリンパ腫も治療はプレドニゾロンの投薬であることは共通しています。
前大静脈症候群が認められたら、まずは胸腺腫を疑うのが鉄則です。
ちゃちゃ丸君は2日目には食欲が出始めて来ました。
入院3日目になりますと呼吸不全の症状も改善が認められてきました。
レントゲン撮影を実施しました。
右腫瘤(上黄色矢印)が縮小してきているのが分かります。
下側臥写真では前胸部の腫瘤が縮小してきて、気管を持ち上げていたのが、ほぼ正常に戻ってます。
今回のような高度の呼吸不全例では、あまり積極的な精密検査を実施することで、ウサギがそのストレスにより死亡することを念頭に置かねばなりません。
精密検査で病名は確定診断できたけど、患者が死亡しては本末転倒です。
まずはちゃちゃ丸君の容態が安定してから、改めて生検をして胸腺腫かリンパ腫であるかの鑑別を行う予定でいます。
入院4日目にして、ICUのケージから出ても呼吸は安定できるようになり、退院して頂くことになりました。
しばらくの間、ちゃちゃ丸君はプレドニゾロンの連続投薬が必要です。
呼吸不全はウサギにとって緊急の事態となります。
速やかな対応・治療ができれば、救済することは可能です。
ちゃちゃ丸君、お疲れ様でした!
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ウサギは色々な疾病にかかりますが、比較的胸部疾患は少ないとされます。
ウサギは草食獣であるため、全体腔内で消化器が占める割合が非常に大きく、胸郭はわずかなスペースしか取れていません。
そのため、一たび胸部疾患になりますと呼吸困難から重篤な症状になることが多いです。
本日ご紹介しますのはウサギの前縦隔疾患、特に胸腺腫の疑いの1例です。
胸腺とは、T細胞というリンパ球の大部分を占める免疫細胞を産生する組織で、心臓の上に位置しています。
ヒトではこの胸腺は思春期に最大になり、60歳以降は消失する組織です。
一方、ウサギでは成獣になっても退縮することなく遺残します。
この胸腺が腫瘍化する疾患を胸腺腫と言います。
本日ご紹介しますのは、ウサギのちゃちゃ丸君(6歳、雄、雑種)です。
ちゃちゃ丸君は突然、呼吸困難に陥り来院されました。
一般にはウサギは鼻で呼吸をしますが、呼吸困難になってきますと開口呼吸を始めます。
ちゃちゃ丸君は、肩で呼吸をしており、今にも開口呼吸が始まりそうです。
下写真をご覧いただくと、ちゃちゃ丸君の両眼が少し突出している(下黄色矢印)のがお分かり頂けるでしょうか?
加えて両眼共に瞬膜(第三眼瞼)という眼を保護する膜が眼頭から出てきてます。
以上の症状は胸部疾患、特に前縦隔疾患に共通する臨床症状です。
縦隔とは両肺と胸椎・胸骨で囲まれた部分を言います。
前縦隔とは、縦隔の内、心臓の腹側面側の部位を指します。
先ほどウサギの胸腺は成長後も遺残することを述べました。
加えてウサギの場合、左前大静脈という犬猫では発生過程で消失する静脈が生後も遺残します。
この左前大静脈が胸腺やリンパ節の腫大で圧迫されて生じる症状を前大静脈症候群といいます。
前大静脈症候群になりますと圧迫に伴い生じるうっ血により、無痛性・両側性の眼球突出や第三眼瞼突出、頭頸部・前肢の浮腫が生じます。
ちゃちゃ丸君はこの前大静脈症候群が出ているということです。
早速、レントゲン写真を撮影しました。
下写真は腹背像ですが、黄色矢印にあるように右側前縦隔に腫瘤を認めます。
側臥のレントゲン像です。
心臓の前のスペースに腫瘤が存在して(下写真黄色丸)心臓を圧迫しているのが分かります。
前縦隔疾患で発症率で多いとされるのは、胸腺腫とリンパ腫(前縦隔型)です。
レントゲン撮影ではこの2つの疾病は鑑別できません。
加えて、血液検査でも鑑別に関与する特異的所見はないとされています。
あとは針生検(FNA)による細胞学的な検査ですが、これも比較的未熟なリンパ芽球が多く出ればリンパ腫と診断が出来ますが、
針の生検では鑑別は困難とされます。
組織を外科的に摘出できれば確定診断は可能です。
しかし、今のちゃちゃ丸君では、全身麻酔よりも体を抑えるだけでも呼吸不全で死んでしまいます。
そのため、ICUの部屋に入院して頂き40%の酸素下で、呼吸不全を治療していくことにしました。
高用量のプレドニゾロンと気管支拡張剤・抗生剤の組み合わせて内科的治療を開始しました。
胸腺腫とリンパ腫も治療はプレドニゾロンの投薬であることは共通しています。
前大静脈症候群が認められたら、まずは胸腺腫を疑うのが鉄則です。
ちゃちゃ丸君は2日目には食欲が出始めて来ました。
入院3日目になりますと呼吸不全の症状も改善が認められてきました。
レントゲン撮影を実施しました。
右腫瘤(上黄色矢印)が縮小してきているのが分かります。
下側臥写真では前胸部の腫瘤が縮小してきて、気管を持ち上げていたのが、ほぼ正常に戻ってます。
今回のような高度の呼吸不全例では、あまり積極的な精密検査を実施することで、ウサギがそのストレスにより死亡することを念頭に置かねばなりません。
精密検査で病名は確定診断できたけど、患者が死亡しては本末転倒です。
まずはちゃちゃ丸君の容態が安定してから、改めて生検をして胸腺腫かリンパ腫であるかの鑑別を行う予定でいます。
入院4日目にして、ICUのケージから出ても呼吸は安定できるようになり、退院して頂くことになりました。
しばらくの間、ちゃちゃ丸君はプレドニゾロンの連続投薬が必要です。
呼吸不全はウサギにとって緊急の事態となります。
速やかな対応・治療ができれば、救済することは可能です。
ちゃちゃ丸君、お疲れ様でした!
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2015年8月23日 日曜日
ウサギの悪性黒色腫(Malignant melanoma)
こんにちは 院長の伊藤です。
腫瘍疾患の動物は、日常診療で増加の傾向にあります。
犬猫に限らず、エキゾチックアニマルについても腫瘍疾患に遭遇する機会は多いと思います。
本日ご紹介しますのは、ウサギの悪性黒色腫です。
ネザーランドドワーフのとんぱー君(雄、10歳、体重1.5kg)は口周りに黒いできものがあるとのことで来院されました。
早速、細胞診をして検査センターに送ったところ、メラニン色素を伴った炎症性病変とのこと。
腫瘍細胞は認められないという事なので、その指示に従って抗生剤・抗炎症剤の投薬を開始しました。
ところが、この病変部は治るどころか、さらに大きくなってきました(下写真は90日後のものです)。
腫瘍に関しては、その細胞診と病理検査の結果が異なることはよくあります。
細胞診は腫瘍と思しき腫瘤に注射針などで穿刺吸引して、細胞を顕微鏡で確認する検査です。
一方、病理検査は腫瘤を外科的に摘出して組織として病理標本を作製・鑑定する検査です。
今回、メラニン色素を伴った炎症性病変でなく、むしろ悪性黒色腫を想定した治療に変更することにしました。
つまり、最善策として患部を外科的に摘出することとしました。
まずは、全身麻酔のためガスマスクをさせて導入麻酔をします。
鼻先の腫瘍ですので、ガスマスクをしての全身麻酔では患部にアプローチできません。
ある程度麻酔導入が出来たら、次に手製の小型のマスクに変えて鼻だけにマスクをして全身麻酔します。
出来る限りのマージンを取って腫瘍を切除したいのですが、鼻先ですから限界があります。
電気メスで患部を切除します。
切除跡を縫合する事が困難なため、半導体レーザーのラウンドプローブ(下写真)で患部を蒸散処置し、悪性黒色腫を叩き、皮膚再生を待つ方針で行きます。
患部を蒸散処置した跡は下写真のようにかさぶたが出来たようになっています。
切除した腫瘍です。
病理検査の結果です。
細胞診の時と同じ検査センターに依頼しましたが、検査結果は悪性黒色腫(Malignant melanoma)であることが判明しました。
低倍の画像です。
高倍率の画像です。
異型性の明らかな紡錘形もしくは多角形の腫瘍細胞によって、構成されています。
腫瘍細胞の細胞質には下写真黄色丸にあるメラニン色素顆粒が認められます。
病理医からのコメントは、この腫瘍は局所浸潤性・遠隔転移性が高い注意を要する腫瘍であるとのことでした。
体表部に出来る黒色腫(メラノーマ)は良性のものが多い一方で、口唇や口腔内に発生するものは悪性であることが多いとされます。
細胞診の成績で内科的治療に対応していた二か月余りが悔やまれます。
術後3週目のとんぱー君です。
術後の経過は良好で患部は綺麗に皮膚が再生しています。
今後はとんぱー君の悪性黒色腫の再発を経過観察していきたいと思います。
とんぱー君、お疲れ様でした!
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腫瘍疾患の動物は、日常診療で増加の傾向にあります。
犬猫に限らず、エキゾチックアニマルについても腫瘍疾患に遭遇する機会は多いと思います。
本日ご紹介しますのは、ウサギの悪性黒色腫です。
ネザーランドドワーフのとんぱー君(雄、10歳、体重1.5kg)は口周りに黒いできものがあるとのことで来院されました。
早速、細胞診をして検査センターに送ったところ、メラニン色素を伴った炎症性病変とのこと。
腫瘍細胞は認められないという事なので、その指示に従って抗生剤・抗炎症剤の投薬を開始しました。
ところが、この病変部は治るどころか、さらに大きくなってきました(下写真は90日後のものです)。
腫瘍に関しては、その細胞診と病理検査の結果が異なることはよくあります。
細胞診は腫瘍と思しき腫瘤に注射針などで穿刺吸引して、細胞を顕微鏡で確認する検査です。
一方、病理検査は腫瘤を外科的に摘出して組織として病理標本を作製・鑑定する検査です。
今回、メラニン色素を伴った炎症性病変でなく、むしろ悪性黒色腫を想定した治療に変更することにしました。
つまり、最善策として患部を外科的に摘出することとしました。
まずは、全身麻酔のためガスマスクをさせて導入麻酔をします。
鼻先の腫瘍ですので、ガスマスクをしての全身麻酔では患部にアプローチできません。
ある程度麻酔導入が出来たら、次に手製の小型のマスクに変えて鼻だけにマスクをして全身麻酔します。
出来る限りのマージンを取って腫瘍を切除したいのですが、鼻先ですから限界があります。
電気メスで患部を切除します。
切除跡を縫合する事が困難なため、半導体レーザーのラウンドプローブ(下写真)で患部を蒸散処置し、悪性黒色腫を叩き、皮膚再生を待つ方針で行きます。
患部を蒸散処置した跡は下写真のようにかさぶたが出来たようになっています。
切除した腫瘍です。
病理検査の結果です。
細胞診の時と同じ検査センターに依頼しましたが、検査結果は悪性黒色腫(Malignant melanoma)であることが判明しました。
低倍の画像です。
高倍率の画像です。
異型性の明らかな紡錘形もしくは多角形の腫瘍細胞によって、構成されています。
腫瘍細胞の細胞質には下写真黄色丸にあるメラニン色素顆粒が認められます。
病理医からのコメントは、この腫瘍は局所浸潤性・遠隔転移性が高い注意を要する腫瘍であるとのことでした。
体表部に出来る黒色腫(メラノーマ)は良性のものが多い一方で、口唇や口腔内に発生するものは悪性であることが多いとされます。
細胞診の成績で内科的治療に対応していた二か月余りが悔やまれます。
術後3週目のとんぱー君です。
術後の経過は良好で患部は綺麗に皮膚が再生しています。
今後はとんぱー君の悪性黒色腫の再発を経過観察していきたいと思います。
とんぱー君、お疲れ様でした!
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2015年5月25日 月曜日
ウサギの卵巣嚢腫と子宮腺癌
こんにちは 院長の伊藤です。
本日は、ウサギの卵巣嚢腫及び子宮腺癌の合併症のケースをご紹介させて頂きます。
ミニウサギのミニーちゃん(雌、4歳)は以前から乳腺炎と血尿があり、当院でもその都度治療を行ってきました。
血尿については、子宮腺癌の疑いが少なからずあるため、避妊を勧めさせて頂いてきました。
その後、飼主様の避妊手術のご要望があり、実施したところ卵巣嚢腫と子宮腺癌が見つかりました。
本日はその詳細をご紹介させて頂きます。
いつものことながら、全身麻酔を施すウサギは最低でも数時間高酸素(40%)のICUに入ってもらいます。
全身麻酔に関わるリスクチェックのため、血液検査を実施します。
下写真は、ミニーちゃんの耳から採血しているところです。
血液検査結果は肝・腎機能共に正常で問題ありませんでした。
次いで、点滴のための留置針を前足に入れます。
不測の事態に備えるためにも、ライフラインとしての点滴は重要です。
ウサギの麻酔はガスマスクを被って実施します。
この時、息止めを防止するため局所麻酔の点鼻をします。
ガスマスクからイソフルランを流して、全身麻酔に移ります。
ミニーちゃんが寝たところで患部を剃毛します。
バリカンだけでは剃毛は不十分でカミソリで仕上げます。
準備が完了したところで、手術に移ります。
皮膚を切開します。
下写真黄色丸は腫脹している乳腺です。
ミニーちゃんは妊娠はしていませんが、偽妊娠と言われる想像妊娠状態にあり、乳腺を圧迫すると乳が出てきます。
経験的に偽妊娠が長く継続する個体は、子宮疾患が絡んでいるケースが多いです。
次に腹筋を切開します。
すると下写真黄色丸にある左側卵巣に液体が貯留した卵巣嚢腫が飛び出してきました。
加えて黄色矢印は、暗赤色を呈した表面が凸凹に腫大した子宮角です。
早速、いつも登場するバイクランプで卵巣動静脈や子宮間膜をシーリングしながら卵巣から子宮角までを切開していきます。
下写真は子宮頸管を残して摘出した卵巣と子宮角です。
卵巣嚢腫の大きさが際立っています。
子宮頸管を縫合糸で結紮してメスで離断しているところです。
腹筋を縫合しました。
皮膚はステープラーで縫合します。
これで手術は終了です。
イソフルランの吸入を停止しますと、ほどなくミニーちゃんは覚醒を始めます。
意識はほぼ戻りましたが、まだ足元がふらつく状態です。
下写真は摘出した卵巣と子宮です。
下写真の黄色矢印は卵巣です。
草色の矢印は卵巣に生じた嚢腫です。
その内容は漿液です。
この卵巣嚢腫は卵胞嚢腫と思われますが、持続発情によるホルモン分泌異常により卵胞内に水が溜まる疾病です。
卵巣嚢腫は放置すると次第に腫大した嚢腫が破裂する場合もあります。
次に子宮角部の腫瘤箇所です。
この部位を切開しました。
腫瘤部をさらに拡大したのが、黄色丸の部位です。
この部位をスライドガラスにスタンプして染色し、顕微鏡で見た画像が下写真になります。
ミニーちゃんは子宮腺癌(悪性腫瘍)になっていたことが判明しました。
ミニーちゃんの術後の回復は良好で、食欲もあり翌日退院して頂きました。
退院前のミニーちゃんです。
さらに2週間後の抜糸に来院されたミニーちゃんです。
傷口も綺麗に治り、これで邪魔なエリザベスカラーを外すことが出来ました。
毎回、ウサギの産科系疾患の代表格である子宮腺癌をご紹介させて頂いてます。
妊娠していないのに乳が出たり、血尿が出たりする事に加えて、年齢が4歳以上であった時は子宮腺癌を疑って下さい。
ミニーちゃん、お疲れ様でした!
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本日は、ウサギの卵巣嚢腫及び子宮腺癌の合併症のケースをご紹介させて頂きます。
ミニウサギのミニーちゃん(雌、4歳)は以前から乳腺炎と血尿があり、当院でもその都度治療を行ってきました。
血尿については、子宮腺癌の疑いが少なからずあるため、避妊を勧めさせて頂いてきました。
その後、飼主様の避妊手術のご要望があり、実施したところ卵巣嚢腫と子宮腺癌が見つかりました。
本日はその詳細をご紹介させて頂きます。
いつものことながら、全身麻酔を施すウサギは最低でも数時間高酸素(40%)のICUに入ってもらいます。
全身麻酔に関わるリスクチェックのため、血液検査を実施します。
下写真は、ミニーちゃんの耳から採血しているところです。
血液検査結果は肝・腎機能共に正常で問題ありませんでした。
次いで、点滴のための留置針を前足に入れます。
不測の事態に備えるためにも、ライフラインとしての点滴は重要です。
ウサギの麻酔はガスマスクを被って実施します。
この時、息止めを防止するため局所麻酔の点鼻をします。
ガスマスクからイソフルランを流して、全身麻酔に移ります。
ミニーちゃんが寝たところで患部を剃毛します。
バリカンだけでは剃毛は不十分でカミソリで仕上げます。
準備が完了したところで、手術に移ります。
皮膚を切開します。
下写真黄色丸は腫脹している乳腺です。
ミニーちゃんは妊娠はしていませんが、偽妊娠と言われる想像妊娠状態にあり、乳腺を圧迫すると乳が出てきます。
経験的に偽妊娠が長く継続する個体は、子宮疾患が絡んでいるケースが多いです。
次に腹筋を切開します。
すると下写真黄色丸にある左側卵巣に液体が貯留した卵巣嚢腫が飛び出してきました。
加えて黄色矢印は、暗赤色を呈した表面が凸凹に腫大した子宮角です。
早速、いつも登場するバイクランプで卵巣動静脈や子宮間膜をシーリングしながら卵巣から子宮角までを切開していきます。
下写真は子宮頸管を残して摘出した卵巣と子宮角です。
卵巣嚢腫の大きさが際立っています。
子宮頸管を縫合糸で結紮してメスで離断しているところです。
腹筋を縫合しました。
皮膚はステープラーで縫合します。
これで手術は終了です。
イソフルランの吸入を停止しますと、ほどなくミニーちゃんは覚醒を始めます。
意識はほぼ戻りましたが、まだ足元がふらつく状態です。
下写真は摘出した卵巣と子宮です。
下写真の黄色矢印は卵巣です。
草色の矢印は卵巣に生じた嚢腫です。
その内容は漿液です。
この卵巣嚢腫は卵胞嚢腫と思われますが、持続発情によるホルモン分泌異常により卵胞内に水が溜まる疾病です。
卵巣嚢腫は放置すると次第に腫大した嚢腫が破裂する場合もあります。
次に子宮角部の腫瘤箇所です。
この部位を切開しました。
腫瘤部をさらに拡大したのが、黄色丸の部位です。
この部位をスライドガラスにスタンプして染色し、顕微鏡で見た画像が下写真になります。
ミニーちゃんは子宮腺癌(悪性腫瘍)になっていたことが判明しました。
ミニーちゃんの術後の回復は良好で、食欲もあり翌日退院して頂きました。
退院前のミニーちゃんです。
さらに2週間後の抜糸に来院されたミニーちゃんです。
傷口も綺麗に治り、これで邪魔なエリザベスカラーを外すことが出来ました。
毎回、ウサギの産科系疾患の代表格である子宮腺癌をご紹介させて頂いてます。
妊娠していないのに乳が出たり、血尿が出たりする事に加えて、年齢が4歳以上であった時は子宮腺癌を疑って下さい。
ミニーちゃん、お疲れ様でした!
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投稿者 もねペットクリニック | 記事URL
2015年3月14日 土曜日
ウサギの精巣腫瘍(その3)超高齢ウサギの全身麻酔
こんにちは 院長の伊藤です。
雄のウサギは5歳以降になりますと精巣の腫瘍が多く認められます。
以前にもウサギの精巣腫瘍についてコメントさせて頂きました。
その詳細はこちらとこちらをクリックして下さい!
高齢になるほどに、ウサギに限らず全身麻酔のリスクも高くなります。
手術の難易度以前に、いかに安全な全身麻酔が実施できるかがポイントです。
本日はそんな麻酔のリスクとの戦いをご紹介します。
ミニウサギのクッキー君(雄、12歳)は左側の精巣が大きくなってきたとのことで来院されました。
確かに左側精巣が大きく腫大しており、精巣腫瘍の疑いが高いです。
クッキー君の全身状態は良好なのですが、精巣腫瘍を外科的に摘出となると全身麻酔に果たして耐えてくれるのか、非常に心配です。
何しろウサギの12歳という年齢は、ヒトの年齢の換算すると110歳から120歳に匹敵します。
ウサギは特に麻酔の難しさが強調されがちですが、クッキー君のような超高齢ウサギになりますと手術中、予測不能な麻酔事故が起こる可能性が高いということを飼主様にお伝えしました。
それでも何とかして取ってほしいということ。
私も覚悟を決めて手術に臨むこととしました。
本来なら術前に採血をして、腎臓や肝機能を確認して手術に臨むのですが、血圧も低めで採血も十分量が取れません。
麻酔時間を最短で実施すること。
当院では、ハムスターの皮膚腫瘍摘出やフクロモモンガの去勢手術に要する手術時間が10分ほどですが、これに準じた手術時間でいけたら、生還率は高くなると思われました。
午前中は酸素室にはいってもらい、肺を酸素化します。
次に鼻に局所麻酔薬を点鼻します。
これでクッキー君の息止めを防ぎます。
ガスマスクで導入麻酔を実施しますので、息止めをされると麻酔深度を安定させるのに苦労します。
ガスマスクでイソフルランを吸入させます。
突発的にキックをしたりしますので、股関節脱臼したり脊椎損傷しないように毛布で包んで保護します。
タイムリミットは10分ですから、速やかにメスを進めていきます。
精巣を総称膜から出して、精巣動静脈・精管を縫合糸で結紮しますが、その時間も短縮するためにバイクランプ(下写真)でシーリングして処置します。
シーリング完了後はメスでカットして終了です。
その間、約1分。
この処置を両精巣に施します。
下写真は正常な右側精巣です。
止血が完全なのを確認して縫合します。
縫合数も最短で済ませます。
ガス麻酔はバイクランプでシーリング直後には吸入をオフにして、酸素吸入のみで安全な覚醒に努めます。
皮下にリンゲル液を輸液します。
少し眼を開け始めました。
クッキー君はほどなく覚醒し、立ち上がることが出来ました。
摘出した精巣です。
向かって左が精巣腫瘍で右が正常な精巣です。
大きさの差が明らかに違いますね。
厚さの差です。
細胞診を実施しました。
低倍率の画像です。
注射針で精巣を穿刺したのですが、高濃度で腫瘍細胞が青く染色されて認められます。
高倍率の写真です。
細胞質に小空胞を入れた腫瘍細胞が集塊を形成しています。
細胞診でセルトリ―細胞腫であることが判明しました。
良性の腫瘍でありますが、この腫瘍細胞がエストロジェンを産生するためエストロジェン過剰症になり脱毛、対側精巣の委縮や骨髄抑制が認められることがあります。
手術は11分で終了し、クッキー君の麻酔覚醒はそれでもトータル30分近くを要しました。
無事、意識も戻り呼吸も安定してきましたので一安心です。
クッキー君はその日のうちに退院して頂きました。
その後の経過も良好です。
シニア世代になってから、精巣腫瘍になるウサギは多いです。
高齢になるほど麻酔の管理は困難になり、麻酔事故は起こります。
寧ろ、若い時期に手術を受けて頂ければ麻酔に関わる心配はほんのわずかに抑えられることでしょう。
犬猫同様、ウサギも1歳未満で去勢手術を受けられることをお勧めします。
クッキー君には、さらに長寿の記録を伸ばしていただきたく思います。
クッキー君、お疲れ様でした!
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雄のウサギは5歳以降になりますと精巣の腫瘍が多く認められます。
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手術の難易度以前に、いかに安全な全身麻酔が実施できるかがポイントです。
本日はそんな麻酔のリスクとの戦いをご紹介します。
ミニウサギのクッキー君(雄、12歳)は左側の精巣が大きくなってきたとのことで来院されました。
確かに左側精巣が大きく腫大しており、精巣腫瘍の疑いが高いです。
クッキー君の全身状態は良好なのですが、精巣腫瘍を外科的に摘出となると全身麻酔に果たして耐えてくれるのか、非常に心配です。
何しろウサギの12歳という年齢は、ヒトの年齢の換算すると110歳から120歳に匹敵します。
ウサギは特に麻酔の難しさが強調されがちですが、クッキー君のような超高齢ウサギになりますと手術中、予測不能な麻酔事故が起こる可能性が高いということを飼主様にお伝えしました。
それでも何とかして取ってほしいということ。
私も覚悟を決めて手術に臨むこととしました。
本来なら術前に採血をして、腎臓や肝機能を確認して手術に臨むのですが、血圧も低めで採血も十分量が取れません。
麻酔時間を最短で実施すること。
当院では、ハムスターの皮膚腫瘍摘出やフクロモモンガの去勢手術に要する手術時間が10分ほどですが、これに準じた手術時間でいけたら、生還率は高くなると思われました。
午前中は酸素室にはいってもらい、肺を酸素化します。
次に鼻に局所麻酔薬を点鼻します。
これでクッキー君の息止めを防ぎます。
ガスマスクで導入麻酔を実施しますので、息止めをされると麻酔深度を安定させるのに苦労します。
ガスマスクでイソフルランを吸入させます。
突発的にキックをしたりしますので、股関節脱臼したり脊椎損傷しないように毛布で包んで保護します。
タイムリミットは10分ですから、速やかにメスを進めていきます。
精巣を総称膜から出して、精巣動静脈・精管を縫合糸で結紮しますが、その時間も短縮するためにバイクランプ(下写真)でシーリングして処置します。
シーリング完了後はメスでカットして終了です。
その間、約1分。
この処置を両精巣に施します。
下写真は正常な右側精巣です。
止血が完全なのを確認して縫合します。
縫合数も最短で済ませます。
ガス麻酔はバイクランプでシーリング直後には吸入をオフにして、酸素吸入のみで安全な覚醒に努めます。
皮下にリンゲル液を輸液します。
少し眼を開け始めました。
クッキー君はほどなく覚醒し、立ち上がることが出来ました。
摘出した精巣です。
向かって左が精巣腫瘍で右が正常な精巣です。
大きさの差が明らかに違いますね。
厚さの差です。
細胞診を実施しました。
低倍率の画像です。
注射針で精巣を穿刺したのですが、高濃度で腫瘍細胞が青く染色されて認められます。
高倍率の写真です。
細胞質に小空胞を入れた腫瘍細胞が集塊を形成しています。
細胞診でセルトリ―細胞腫であることが判明しました。
良性の腫瘍でありますが、この腫瘍細胞がエストロジェンを産生するためエストロジェン過剰症になり脱毛、対側精巣の委縮や骨髄抑制が認められることがあります。
手術は11分で終了し、クッキー君の麻酔覚醒はそれでもトータル30分近くを要しました。
無事、意識も戻り呼吸も安定してきましたので一安心です。
クッキー君はその日のうちに退院して頂きました。
その後の経過も良好です。
シニア世代になってから、精巣腫瘍になるウサギは多いです。
高齢になるほど麻酔の管理は困難になり、麻酔事故は起こります。
寧ろ、若い時期に手術を受けて頂ければ麻酔に関わる心配はほんのわずかに抑えられることでしょう。
犬猫同様、ウサギも1歳未満で去勢手術を受けられることをお勧めします。
クッキー君には、さらに長寿の記録を伸ばしていただきたく思います。
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