フェレットの疾病
2015年12月 7日 月曜日
フェレットの直腸脱(後編 ぺんね君救済計画)
こんにちは 院長の伊藤です。
先回、フェレットの直腸脱(前編 ぺんね君の受難)をブログに載せました。
今回はその続きで、ぺんね君の直腸脱を手術で治す内容となります。
フェレットのぺんね君(去勢済、2歳8か月)は直腸脱になり、脱出した直腸を戻して外肛門括約筋を縫合糸で絞り込んで、再脱出を防ぐ方法で対応しました。
しかしながら、2か月間で5回の再脱出を繰り返すことになりました。
ここまでが先回のブログ内容となります。
詳細はこちらをクリックして、ご覧下さい。
直腸脱4回目にして、肛門周囲を巾着縫合で絞り込み、何とか完治に持っていきたいと思っていたのもつかの間。
腹圧上昇に伴い直腸が、患部を突破して再脱出しました。
脱出している直腸の粘膜面(下写真黄色丸)も大きく腫大しています。
出血も伴い、このまま同じ処置を継続しても、回復の見込みは少ないと思われました。
そのため、外科的にしこりになっている直腸粘膜面を離断し、腸管を縫合して戻す方法を飼い主様に提案させて頂きました。
術式をイラストで表すと以下の通りです。
現時点でぺんね君の直腸は脱出し、粘膜は高度に炎症を起こしています。
脱出している直腸壁に支持糸を何ヶ所かにかけ、直腸を外に牽引します。
腫大している直腸粘膜面を離断します。
下のイラストは離断した直腸の断面です。
断面は二重に織り込まれているため、縫合糸で丁寧に縫い込んでいきます。
縫合が完了した時点で支持糸を離すと直腸は腹腔内に戻ります。
あとは縫合部が綺麗に吻合するのを待ちます。
飼い主様の了解を得て、早速外科的にアプローチをします。
ぺんね君の患部を洗浄消毒します。
脱出した直腸の拡大写真(黄色矢印)です。
ブログ前編時よりも腫大しています。
全身麻酔を施し、手術に移ります。
向かって右側が直腸のしこりです。
直腸壁に支持糸をかけて牽引したところ、直腸壁に裂け目が生じているのを確認しました。
この裂孔を縫合します。
直腸壁の縫合は完了です。
これから本題に入ります。
前述のイラスト通りにしこりの付根をメスで離断します。
離断すると直腸壁からの出血が認められます。
患部を洗浄します。
滅菌綿棒で患部を圧迫・止血してから直腸壁の縫合に移ります。
前述のイラストのように、直腸粘膜は2重に内反しているため、吸収性のモノフィラメント糸で細かく縫合します。
フェレットの直腸壁は犬に比べて薄いため、2重の内反している粘膜を縫い落とすと、後ほど腸管が狭窄します。
最悪、腸管に穴が開いた状態になりますので、糞便が腹腔内に漏出して腹膜炎になるため注意が必要です。
患部の縫合がしっかりできているのか、滅菌綿棒を腸管内に挿入して確認します。
綿棒が、腸管内である程度余裕をもって前後に可動できるか確認します。
下写真が腸管縫合の完成形です。
ここで支持糸を外します。
牽引力が無くなると腸管は腹腔内に戻ります。
これで手術は終了となります。
あとはぺんね君には安静にして頂き、消化に良い食餌を暫く摂ってもらうことになります。
手術翌日のぺんね君です。
表情もだいぶ良くなってます。
お尻の状態です。
私が一番うれしいのは、ちゃんと朝一番で排便がしっかりとできている点です。
入院中のぺんね君です。
フェレットバイトや高カロリー流動食も進んで口にしてます。
今回、離断した腫脹した直腸粘膜部です。
断面を見ますと高度に直腸粘膜が腫れているのが分かります。
断面をスタンプ染色しました。
粘膜上皮細胞に混じって、マクロファージ(黄色矢印)などの炎症細胞が遊走しています。
脱出反転した粘膜面が、床面との干渉で炎症を起こし、血行障害による浮腫を起こしていました。
結局、ぺんねは1週間ほどの入院となりましたが、術後の経過は良好です。
退院直前のぺんね君です。
退院1週間後のぺんね君です。
便通も問題なく、直腸脱になる前と同じ良好な排便が出来るようになっています。
お尻の状態です。
肛門周囲は炎症も治まり、綺麗になりました。
2か月余りの闘病生活でしたが、元気に回復されて良かったです。
ぺんね君、お疲れ様でした!
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投稿者 もねペットクリニック | 記事URL
2015年12月 3日 木曜日
フェレットの直腸脱(前篇 ぺんね君の受難)
こんにちは 院長の伊藤です。
お腹に力を込めて踏ん張ったりするとお尻から直腸が飛び出してしまうことを直腸脱と言います。
直腸脱の状態はイメージするだけでも痛そうです。
臨床の現場では、特にエキゾチックアニマルにおいては哺乳類のみならず、鳥類・爬虫類・両生類に至るまで幅広く発症例が認められます。
直腸脱は一般に初期のステージであれば、脱出した直腸を肛門から腹腔内に押し戻して、肛門の端に縫合糸をかけて再脱出を起こさぬよう処置します。
これまでも、何例もエキゾチックアニマルの直腸脱は報告させて頂きましたので、宜しければそちらの方も各種動物別の疾病紹介で参照して下さい。
イラストでこの直腸脱の整復を説明しましょう。
下イラストが健康なフェレットの肛門及び直腸の側面像です。
次に肛門に腹圧(下黒矢印)が加わり、直腸が脱出したイラストです。
靴下を裏返しにして引き出したイメージと言えば良いでしょうか。
外側に脱出しているのは直腸の内側の粘膜にあたります。
つまり、刺激に対してデリケートで非常に弱い組織が外面に露出しているわけです。
次に脱出した直腸に色んな外力(飼育環境下の床面との干渉、自咬など)によって、粘膜面は発赤・腫脹し出血を繰り返し、脱出が長期にわたると下イラストのように腫瘍のように腫れ上がります。
ダメージを受けた直腸粘膜面を保護・修復するために脱出した直腸を元に戻し(下イラスト赤矢印)、整復処置を実施します。
脱出した直腸を戻して、あとは障害を受けた直腸粘膜の修復を待ちます。
以上が整復処置の概略です。
さて、フェレットのぺんね君(去勢、2歳8か月)は、直腸脱になったとのことで来院されました。
下写真の黄色丸は脱出した直腸です。
前述したイラストの様に脱出した直腸粘膜は暗赤色に腫大しています。
早速、全身麻酔を施して直腸を戻すこととしました。
下写真の黄色矢印は、直腸の腫大部側面から便が漏出しているのが見つかりました。
ゾンデで確認したところ、裂けているのが分かります。
直腸は柔らかく脆いため、脱出してから床で擦れたのかもしれません。
裂孔部を修復するため、縫合します。
数針の縫合でクリア出来ました。
次に直腸を傷つけないように戻していきます。
まだそれほど大きな腫脹ではないので,容易に指先で戻すことが出来ました。
戻すことが成功しても、そのままでは直腸は再脱出してしまいます。
直腸脱防止のため、肛門の端に縫合糸で糸をかけて肛門の幅を絞り込む方法を採ります。
哺乳類に限らず、爬虫類や鳥類でも私はこの方法で対応することが多いです。
下写真はナイロン縫合糸で肛門の一端を縫い絞り込むところです。
一つの目安として、綿棒を肛門に挿入して排便が可能かを確認します。
この状態で一週間経過観察し、問題なければ抜糸して治療は終了です。
ぺんね君、お疲れ様という所だったのですが..........。
その後、ぺんね君は程度の差こそあれ、4回直腸脱を繰り返すこととなります。
肛門の両端を縫合する方法では、どうしても腹圧が強いと外肛門括約筋を縫合糸が分断して外れてしまいます。
ぺんね君の活動的な性格もあるのでしょうが、この一般的な整復法では限界です。
下写真は、1か月後のぺんね君です。
直腸脱の疼痛のため、排便も出来ず食欲廃絶、ショック状態になっています。
度重なる脱出で直腸粘膜は強い暗赤色を示しています。
肛門端の先回縫合した糸も直腸が脱出した勢いで、外肛門括約筋を寸断して皮膚にぶら下がっています。
再度、直腸を戻します。
既に直腸粘膜面は腫大したしこりの様になっています。
無事戻せましたが、ここからが本番です。
肛門の外周を巾着縫合という縫合法で締め上げることにしました。
このように巾着袋の口を締めるような形で、直腸の再脱出を抑え込みます。
この方法は、先の肛門端を縫合する方法よりも強い力で直腸を抑えることが可能です。
排便が出来るほどに肛門の開口幅を調整して締結します。
ショック状態になっているぺんね君の処置をして、これで本当に終了です、と言いたかったのですが.........。
なんとこの3週間後に再脱出が起きてしまいました。
あの脱出した直腸のしこりの部分が、綺麗に修復するまで巾着縫合の糸もまだ抜糸せずに経過観察でいたのですが残念です。
ぺんね君は最初に直腸脱になってから、なんと7週間も排便時の不快感や疼痛との戦いを展開してきたことになります。
ここで、私が飼主様に提案させて頂いたのは脱出している直腸を切断して、体外で直腸を吻合して体内に戻す方法です。
ぺんね君を救うにはこの方法しかありません。
次回、フェレットの直腸脱(後編 ぺんね君救済計画)をご期待ください!
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お腹に力を込めて踏ん張ったりするとお尻から直腸が飛び出してしまうことを直腸脱と言います。
直腸脱の状態はイメージするだけでも痛そうです。
臨床の現場では、特にエキゾチックアニマルにおいては哺乳類のみならず、鳥類・爬虫類・両生類に至るまで幅広く発症例が認められます。
直腸脱は一般に初期のステージであれば、脱出した直腸を肛門から腹腔内に押し戻して、肛門の端に縫合糸をかけて再脱出を起こさぬよう処置します。
これまでも、何例もエキゾチックアニマルの直腸脱は報告させて頂きましたので、宜しければそちらの方も各種動物別の疾病紹介で参照して下さい。
イラストでこの直腸脱の整復を説明しましょう。
下イラストが健康なフェレットの肛門及び直腸の側面像です。
次に肛門に腹圧(下黒矢印)が加わり、直腸が脱出したイラストです。
靴下を裏返しにして引き出したイメージと言えば良いでしょうか。
外側に脱出しているのは直腸の内側の粘膜にあたります。
つまり、刺激に対してデリケートで非常に弱い組織が外面に露出しているわけです。
次に脱出した直腸に色んな外力(飼育環境下の床面との干渉、自咬など)によって、粘膜面は発赤・腫脹し出血を繰り返し、脱出が長期にわたると下イラストのように腫瘍のように腫れ上がります。
ダメージを受けた直腸粘膜面を保護・修復するために脱出した直腸を元に戻し(下イラスト赤矢印)、整復処置を実施します。
脱出した直腸を戻して、あとは障害を受けた直腸粘膜の修復を待ちます。
以上が整復処置の概略です。
さて、フェレットのぺんね君(去勢、2歳8か月)は、直腸脱になったとのことで来院されました。
下写真の黄色丸は脱出した直腸です。
前述したイラストの様に脱出した直腸粘膜は暗赤色に腫大しています。
早速、全身麻酔を施して直腸を戻すこととしました。
下写真の黄色矢印は、直腸の腫大部側面から便が漏出しているのが見つかりました。
ゾンデで確認したところ、裂けているのが分かります。
直腸は柔らかく脆いため、脱出してから床で擦れたのかもしれません。
裂孔部を修復するため、縫合します。
数針の縫合でクリア出来ました。
次に直腸を傷つけないように戻していきます。
まだそれほど大きな腫脹ではないので,容易に指先で戻すことが出来ました。
戻すことが成功しても、そのままでは直腸は再脱出してしまいます。
直腸脱防止のため、肛門の端に縫合糸で糸をかけて肛門の幅を絞り込む方法を採ります。
哺乳類に限らず、爬虫類や鳥類でも私はこの方法で対応することが多いです。
下写真はナイロン縫合糸で肛門の一端を縫い絞り込むところです。
一つの目安として、綿棒を肛門に挿入して排便が可能かを確認します。
この状態で一週間経過観察し、問題なければ抜糸して治療は終了です。
ぺんね君、お疲れ様という所だったのですが..........。
その後、ぺんね君は程度の差こそあれ、4回直腸脱を繰り返すこととなります。
肛門の両端を縫合する方法では、どうしても腹圧が強いと外肛門括約筋を縫合糸が分断して外れてしまいます。
ぺんね君の活動的な性格もあるのでしょうが、この一般的な整復法では限界です。
下写真は、1か月後のぺんね君です。
直腸脱の疼痛のため、排便も出来ず食欲廃絶、ショック状態になっています。
度重なる脱出で直腸粘膜は強い暗赤色を示しています。
肛門端の先回縫合した糸も直腸が脱出した勢いで、外肛門括約筋を寸断して皮膚にぶら下がっています。
再度、直腸を戻します。
既に直腸粘膜面は腫大したしこりの様になっています。
無事戻せましたが、ここからが本番です。
肛門の外周を巾着縫合という縫合法で締め上げることにしました。
このように巾着袋の口を締めるような形で、直腸の再脱出を抑え込みます。
この方法は、先の肛門端を縫合する方法よりも強い力で直腸を抑えることが可能です。
排便が出来るほどに肛門の開口幅を調整して締結します。
ショック状態になっているぺんね君の処置をして、これで本当に終了です、と言いたかったのですが.........。
なんとこの3週間後に再脱出が起きてしまいました。
あの脱出した直腸のしこりの部分が、綺麗に修復するまで巾着縫合の糸もまだ抜糸せずに経過観察でいたのですが残念です。
ぺんね君は最初に直腸脱になってから、なんと7週間も排便時の不快感や疼痛との戦いを展開してきたことになります。
ここで、私が飼主様に提案させて頂いたのは脱出している直腸を切断して、体外で直腸を吻合して体内に戻す方法です。
ぺんね君を救うにはこの方法しかありません。
次回、フェレットの直腸脱(後編 ぺんね君救済計画)をご期待ください!
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