チンチラの疾病
2021年2月 4日 木曜日
チンチラの腸重積(その2)
こんにちは 院長の伊藤です。
本日、ご紹介しますのはチンチラの腸重積の症例です。
チンチラの場合、下痢や便秘によるしぶり(いきみ)が原因で腸重積や直腸脱が発症します。
腸重積とは、腸管の一部が連続する腸管の肛門側に引き込まれてしまうことによって生じる病気です。
例えとして、釣竿を折りたたむような感じで腸が腸に入り込むような感じと言えば、イメージして頂けるでしょうか?
進行すると腸管の血行不全で壊死を来します。
腸重積は緊急手術が必要になることも多いです。
腸が壊死していれば切除後、腸管吻合が必要となり、予後不良となることもある怖い疾患です。
チンチラのぐりちゃん(雌、10か月齢、体重490g)はお尻から腸が出ているとのことで受診されました。
下写真黄色丸は直腸が脱出しているのを示します。
拡大像です。
直腸が脱出して、充うっ血しており痛々しい感じです。
レントゲン撮影を実施しました。
盲腸にガスの貯留が認められます。
おそらく腸蠕動の障害があるように思われます。
単純な直腸脱ならば、整復処置を施し肛門に支持糸をかけて経過観察となります。
しかし、腸重積の場合は開腹手術となりますので、まずは綿棒を用いて腸重積の確認をします。
下写真のように綿棒を2本やさしく肛門と脱出してる直腸の間隙に挿入します。
約2㎝ほど綿棒は、この間隙に容易に入りました(下写真黄色矢印)。
直腸脱の場合は、この間隙は形成されませんので、腸重積の疑いが強いです。
腸重積の場合、緊急手術が必要となります。
飼い主様の了解を得て、早速開腹手術に移ることとなりました。
イソフルランによる麻酔導入を行います。
維持麻酔に切り替え、患部の剃毛処置を実施します。
ぐりちゃんの麻酔が安定してきたところで、手術のスタートです。
開腹手術に移ります。
腹筋を切開します。
膀胱は蓄尿が著しいため、膀胱穿刺して尿を吸引します。
ピンセットで確認しているのは、ぐりちゃんの子宮です。
直腸へ綿棒を挿入して、開腹した腹腔内の腸の動きを観察します。
触診すると硬くなって、動きが認められない小腸の部位がありました。
指先ではこの部位だけ太く、周囲からの血管も怒張しているのが分かります(下写真)。
下写真青丸は盲腸です。
黄色矢印は空回腸の盲腸へと移行する部位です。
この部位が腫脹し、触診で硬く感じられます。
この部位が腸重積を起こしている可能性があり、綿棒で持ち上げて周囲の余分な組織を分画していきます。
患部を脂肪組織が取り巻いているため、丁寧に切除します。
脂肪組織などを取り除いていくと赤く腫れた空回腸が現れました。
下写真の黄色丸は釣竿を折りたたむようにして、腸の中に腸が入り込んでいます。
患部を上方に牽引すると重責部が明らかになりました。
重責部を優しく、さらに牽引してみます。
重責部を伸展すると血行不良で充うっ血が確認できます(黄色矢印)。
患部(下写真黄色丸)は壊死が進行しているようです。
下写真の充うっ血色の部位を切除して、正常な腸管を吻合することとします。
切除する上流の腸に支持糸を掛けます。
外科鋏で壊死している腸管を切除します。
次いで、離断した腸管の断面同志を端・端並置縫合します。
縫合に使用する縫合糸は5-0のモノフィラメント合成吸収糸です。
チンチラの腸管内腔は、せいぜい3㎜程度なので縫合には細心の注意を払います。
腸管の全周を6か所縫合しました。
腸管縫合終了です。
支持糸を外して、患部を生理食塩水で洗浄します。
腹筋を縫合しています。
最後に皮膚縫合をして手術は終了です。
全身麻酔から覚醒したばかりのぐりちゃんです。
手術後、ICUの部屋に入ってもらいましたが、辛そうです。
今回、切除した小腸を調べてみました。
うっ血して腫脹しています。
断端を綿棒で抑えて、ピンセットで反対方向へ腸を牽引します。
腸管内に入り込んだ腸がズルズルと出て来ます。
腸が入り組んでいた箇所(下写真黄色矢印)が重責を起こしていた部位となります。
重責部は壊死を起こしていました。
術後翌日のぐりちゃんです。
食欲は少しづつ出てきて、青汁を自ら飲み始めました。
チモシーのような乾草を給餌すると縫合部に負荷を極端にかけますので、しばらくは青汁や強制給餌用のライフケア®などで給餌します。
運動性も出て来ましたので1週間入院の後、ぐりちゃんには退院して頂きました。
肛門から出ていた腸も無事納まりました。
腸重積は、直腸脱と誤認されるとその治療のため何日も経過してから、あわてて実は腸重責であったと気づいた時には、もう手遅れになっていることが多いです。
チンチラは小さな体の繊細な動物なので、長時間に及ぶ疼痛やストレスには耐えられません。
肛門から腸が飛び出していたら、早急に受診されることをお勧めします。
ぐりちゃん、お疲れ様でした!
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本日、ご紹介しますのはチンチラの腸重積の症例です。
チンチラの場合、下痢や便秘によるしぶり(いきみ)が原因で腸重積や直腸脱が発症します。
腸重積とは、腸管の一部が連続する腸管の肛門側に引き込まれてしまうことによって生じる病気です。
例えとして、釣竿を折りたたむような感じで腸が腸に入り込むような感じと言えば、イメージして頂けるでしょうか?
進行すると腸管の血行不全で壊死を来します。
腸重積は緊急手術が必要になることも多いです。
腸が壊死していれば切除後、腸管吻合が必要となり、予後不良となることもある怖い疾患です。
チンチラのぐりちゃん(雌、10か月齢、体重490g)はお尻から腸が出ているとのことで受診されました。
下写真黄色丸は直腸が脱出しているのを示します。
拡大像です。
直腸が脱出して、充うっ血しており痛々しい感じです。
レントゲン撮影を実施しました。
盲腸にガスの貯留が認められます。
おそらく腸蠕動の障害があるように思われます。
単純な直腸脱ならば、整復処置を施し肛門に支持糸をかけて経過観察となります。
しかし、腸重積の場合は開腹手術となりますので、まずは綿棒を用いて腸重積の確認をします。
下写真のように綿棒を2本やさしく肛門と脱出してる直腸の間隙に挿入します。
約2㎝ほど綿棒は、この間隙に容易に入りました(下写真黄色矢印)。
直腸脱の場合は、この間隙は形成されませんので、腸重積の疑いが強いです。
腸重積の場合、緊急手術が必要となります。
飼い主様の了解を得て、早速開腹手術に移ることとなりました。
イソフルランによる麻酔導入を行います。
維持麻酔に切り替え、患部の剃毛処置を実施します。
ぐりちゃんの麻酔が安定してきたところで、手術のスタートです。
開腹手術に移ります。
腹筋を切開します。
膀胱は蓄尿が著しいため、膀胱穿刺して尿を吸引します。
ピンセットで確認しているのは、ぐりちゃんの子宮です。
直腸へ綿棒を挿入して、開腹した腹腔内の腸の動きを観察します。
触診すると硬くなって、動きが認められない小腸の部位がありました。
指先ではこの部位だけ太く、周囲からの血管も怒張しているのが分かります(下写真)。
下写真青丸は盲腸です。
黄色矢印は空回腸の盲腸へと移行する部位です。
この部位が腫脹し、触診で硬く感じられます。
この部位が腸重積を起こしている可能性があり、綿棒で持ち上げて周囲の余分な組織を分画していきます。
患部を脂肪組織が取り巻いているため、丁寧に切除します。
脂肪組織などを取り除いていくと赤く腫れた空回腸が現れました。
下写真の黄色丸は釣竿を折りたたむようにして、腸の中に腸が入り込んでいます。
患部を上方に牽引すると重責部が明らかになりました。
重責部を優しく、さらに牽引してみます。
重責部を伸展すると血行不良で充うっ血が確認できます(黄色矢印)。
患部(下写真黄色丸)は壊死が進行しているようです。
下写真の充うっ血色の部位を切除して、正常な腸管を吻合することとします。
切除する上流の腸に支持糸を掛けます。
外科鋏で壊死している腸管を切除します。
次いで、離断した腸管の断面同志を端・端並置縫合します。
縫合に使用する縫合糸は5-0のモノフィラメント合成吸収糸です。
チンチラの腸管内腔は、せいぜい3㎜程度なので縫合には細心の注意を払います。
腸管の全周を6か所縫合しました。
腸管縫合終了です。
支持糸を外して、患部を生理食塩水で洗浄します。
腹筋を縫合しています。
最後に皮膚縫合をして手術は終了です。
全身麻酔から覚醒したばかりのぐりちゃんです。
手術後、ICUの部屋に入ってもらいましたが、辛そうです。
今回、切除した小腸を調べてみました。
うっ血して腫脹しています。
断端を綿棒で抑えて、ピンセットで反対方向へ腸を牽引します。
腸管内に入り込んだ腸がズルズルと出て来ます。
腸が入り組んでいた箇所(下写真黄色矢印)が重責を起こしていた部位となります。
重責部は壊死を起こしていました。
術後翌日のぐりちゃんです。
食欲は少しづつ出てきて、青汁を自ら飲み始めました。
チモシーのような乾草を給餌すると縫合部に負荷を極端にかけますので、しばらくは青汁や強制給餌用のライフケア®などで給餌します。
運動性も出て来ましたので1週間入院の後、ぐりちゃんには退院して頂きました。
肛門から出ていた腸も無事納まりました。
腸重積は、直腸脱と誤認されるとその治療のため何日も経過してから、あわてて実は腸重責であったと気づいた時には、もう手遅れになっていることが多いです。
チンチラは小さな体の繊細な動物なので、長時間に及ぶ疼痛やストレスには耐えられません。
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2020年12月 1日 火曜日
チンチラの鼻腔外傷と食滞
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、チンチラの鼻を咬傷の傷で呼吸不全となり、結果食滞(消化管内ガス貯留)となった症例です。
チンチラのオレオ君(2歳、雄、体重500g)は一週間ほど前に同居している他のチンチラに鼻を咬まれ、鼻腔内から膿が出始めたとのことで来院されました。
下写真の黄色丸は咬まれた鼻です。
鼻腔内からジワジワと膿が出ています。
鼻の正面(鼻鏡)は鼻汁と痂皮(かさぶた)で鼻は詰まり気味です。
チンチラに限らずウサギ、モルモットたちは鼻呼吸が基本の齧歯目の動物です。
何らかの原因で鼻呼吸が出来なくなると重篤な症状になります。
オレオ君は鼻呼吸が満足に出来ないため、口呼吸をするようになっています。
いわゆる開口呼吸になりますと、肺に行くよりも食道を介して胃の方に回る空気が多くなります。
結果として消化管は空気で鼓張し、胃腸蠕動は停滞し、食欲廃絶となり全身状態は不良となります。
オレオ君の全体像ですが、下写真をご覧いただけると腹が誇張しているのがお分かり頂けると思います。
上から見た写真です。
腹囲が腫れています。
食欲は既に無くなっており、被毛の艶はなくなり、所どころに脱毛があります。
レントゲン撮影を実施しました。
下写真で胃・盲腸にガスが停留しているのが分かります。
上写真の拡大像です。
食餌の内容物は殆どなく、食滞・鼓張状態です。
側臥状態のレントゲン像です。
盲腸にガスが多量に貯留しており、背骨を超えて鼓張しています。
鼻周辺の組織は、鼻骨の障害(融解)はありませんが、咬傷による組織炎症が進行しているのが分かります(黄色丸)。
オレオ君の一番の問題はこのガスを早急に抜くことです。
ウサギのように鼻腔がある程度の直径があれば、栄養カテーテルを経鼻胃カテーテルとして、鼻に挿入します。
そのままカテーテルを胃まで到達させ、胃内のガスを抜去する方法(減圧法)も考えられます。
しかしながら、チンチラは極めて鼻腔が狭いことに加えて、オレオ君の鼻腔は外傷で狭窄してるため、カテーテルの挿入は困難です。
そうなると直接胃へカテーテルを入れる方法が考えられます。
オレオ君の全身状態はよろしくなく、鼻呼吸が殆ど出来ていない状態です。
この状態で開口姿勢を維持して、胃へカテーテルを入れると呼吸停止に陥る可能性が大きいです。
また盲腸から下部のガス貯留については、開腹して腸切開してのガス抜きも困難です。
ましてや、皮膚から針を穿刺して腸管からガスを抜去するという処置は、ショック死する危険を伴います。
結局のところ、消泡剤・胃腸蠕動亢進薬・抗生剤・鎮痛剤の組み合わせで投薬して経過を診ていくこととしました。
残念ながら、オレオ君は受診当日に亡くなられました。
チンチラは細菌感染にウサギ以上に弱いこと、鼻腔の炎症や歯の疾患などで鼻呼吸が出来なくなると容態は急変することをご理解下さい。
特に草食獣は肺が小さく、呼吸不全になりやすいです。
鼻呼吸が出来なくなれば、開口呼吸に移行するのは時間の問題で、簡単に食滞・鼓張症に陥ります。
一旦、食滞・鼓張症になると回復させるには大変な努力が必要となります。
鼻呼吸がスムーズに出来ていないと感じたら、速やかに受診して下さい。
チンチラの病態の進行は非常に早く、犬猫の比ではないことをご了解下さい。
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本日ご紹介しますのは、チンチラの鼻を咬傷の傷で呼吸不全となり、結果食滞(消化管内ガス貯留)となった症例です。
チンチラのオレオ君(2歳、雄、体重500g)は一週間ほど前に同居している他のチンチラに鼻を咬まれ、鼻腔内から膿が出始めたとのことで来院されました。
下写真の黄色丸は咬まれた鼻です。
鼻腔内からジワジワと膿が出ています。
鼻の正面(鼻鏡)は鼻汁と痂皮(かさぶた)で鼻は詰まり気味です。
チンチラに限らずウサギ、モルモットたちは鼻呼吸が基本の齧歯目の動物です。
何らかの原因で鼻呼吸が出来なくなると重篤な症状になります。
オレオ君は鼻呼吸が満足に出来ないため、口呼吸をするようになっています。
いわゆる開口呼吸になりますと、肺に行くよりも食道を介して胃の方に回る空気が多くなります。
結果として消化管は空気で鼓張し、胃腸蠕動は停滞し、食欲廃絶となり全身状態は不良となります。
オレオ君の全体像ですが、下写真をご覧いただけると腹が誇張しているのがお分かり頂けると思います。
上から見た写真です。
腹囲が腫れています。
食欲は既に無くなっており、被毛の艶はなくなり、所どころに脱毛があります。
レントゲン撮影を実施しました。
下写真で胃・盲腸にガスが停留しているのが分かります。
上写真の拡大像です。
食餌の内容物は殆どなく、食滞・鼓張状態です。
側臥状態のレントゲン像です。
盲腸にガスが多量に貯留しており、背骨を超えて鼓張しています。
鼻周辺の組織は、鼻骨の障害(融解)はありませんが、咬傷による組織炎症が進行しているのが分かります(黄色丸)。
オレオ君の一番の問題はこのガスを早急に抜くことです。
ウサギのように鼻腔がある程度の直径があれば、栄養カテーテルを経鼻胃カテーテルとして、鼻に挿入します。
そのままカテーテルを胃まで到達させ、胃内のガスを抜去する方法(減圧法)も考えられます。
しかしながら、チンチラは極めて鼻腔が狭いことに加えて、オレオ君の鼻腔は外傷で狭窄してるため、カテーテルの挿入は困難です。
そうなると直接胃へカテーテルを入れる方法が考えられます。
オレオ君の全身状態はよろしくなく、鼻呼吸が殆ど出来ていない状態です。
この状態で開口姿勢を維持して、胃へカテーテルを入れると呼吸停止に陥る可能性が大きいです。
また盲腸から下部のガス貯留については、開腹して腸切開してのガス抜きも困難です。
ましてや、皮膚から針を穿刺して腸管からガスを抜去するという処置は、ショック死する危険を伴います。
結局のところ、消泡剤・胃腸蠕動亢進薬・抗生剤・鎮痛剤の組み合わせで投薬して経過を診ていくこととしました。
残念ながら、オレオ君は受診当日に亡くなられました。
チンチラは細菌感染にウサギ以上に弱いこと、鼻腔の炎症や歯の疾患などで鼻呼吸が出来なくなると容態は急変することをご理解下さい。
特に草食獣は肺が小さく、呼吸不全になりやすいです。
鼻呼吸が出来なくなれば、開口呼吸に移行するのは時間の問題で、簡単に食滞・鼓張症に陥ります。
一旦、食滞・鼓張症になると回復させるには大変な努力が必要となります。
鼻呼吸がスムーズに出来ていないと感じたら、速やかに受診して下さい。
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2020年11月 9日 月曜日
チンチラの膀胱結石
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介するのは、チンチラの膀胱結石摘出の症例です。
以前に膀胱結石が尿道まで降りてきて摘出した症例を載せました。
その症例に興味ある方はこちらをクリックして下さい。
チンチラのマチルダ君(雄、9歳、体重700g)は最近、血尿が出るため来院されました。
排尿時の疼痛感も伴っているようです。
まずは、レントゲン撮影を実施しました。
上のレントゲン写真の黄色丸は膀胱内の結石を表しています。
結石の大きさは直径が6㎜あります。
おそらくこの結石が原因で排尿時の疼痛や血尿などの症状が引き起こされてます。
膀胱結石が原因で排尿障害になりますとチンチラの場合は重篤な状態に陥るケースが多いように思います。
飼い主様の了解を得て、膀胱結石摘出手術を実施することとなりました。
麻酔導入箱にマチルダ君に入ってもらい、イソフルランで麻酔導入を行います。
麻酔導入が完了したところです。
麻酔導入箱から出てもらい、ガスマスクで維持麻酔に切り替えます。
術野を剃毛し、消毒します。
マチルダ君の麻酔状態も安定してきたところで手術を開始します。
開腹のためにメスで切皮します。
腹筋を切開します。
チンチラの臓器は非常に脆いので、極力指先で弄り回さずに滅菌綿棒で体外に出します。
下写真の中央部が膀胱です。
膀胱を牽引して支持するための支持糸を膀胱の先端部にかけます。
下写真は膀胱尖部に支持糸をかけ、牽引しているところです。
膀胱の腹側面を露出しており、ここからメスで膀胱壁を切開します。
№11のメスの先端部で膀胱に切開を入れます。
既に指先には硬い結石の存在を触知しています。
膀胱の漿膜面から切開し、粘膜面まで割を入れます。
下写真の黄色矢印は膀胱結石を示しています。
膀胱粘膜を傷つけないように結石を摘出します。
マチルダ君の膀胱と比べても大きく感じるサイズの結石です。
膀胱内部を生理食塩水でしっかり洗浄し、5‐0のモノフィラメント吸収糸で膀胱壁を縫合します。
チンチラの場合は膀胱自体が小さいため、犬猫に適用するような二重内反縫合法は行いません。
単層の単純結紮縫合法で対応します。
約2㎜間隔で縫合していきます。
縫合部がしっかり縫合できているか確認するためにリーク試験(漏出試験)を最後に行います。
これは、生理食塩水を注射器で膀胱内に注入し、縫合部から生食が漏れていないかを見ます。
下写真黄色矢印から生食が一部漏出しているようなので、この部位に縫合を追加することとしました。
再度漏出試験を実施し、漏れがないことを確認しました。
膀胱を腹腔内に戻し閉腹します。
腹筋を縫合したところです。
最後に皮膚を縫合します。
皮膚縫合完了です。
手術は完了しました。
後は麻酔を切り、マチルダ君の覚醒を待ちます。
皮下にリンゲル液を輸液してます。
麻酔から覚醒してきたマチルダ君です。
手術翌日のマチルダ君です。
エリザベスカラーはストレスの原因となりますが、2週間は頑張って装着して頂きます。
食欲もあり、排尿も出来ています。
特に問題なくマチルダ君は術後2日目に退院して頂きました。
下写真は摘出した膀胱結石です。
炭酸カルシウムの膀胱結石でした。
チンチラにおいては、食餌から摂取した過剰なカルシウムは殆どが糞便から排泄されるとされています。
一方、尿から排泄されるカルシウムも一定量に維持されるとされます。
結果、高カルシウムの食餌が膀胱結石の誘因とはならないと考えられています。
ならば、膀胱結石の原因はどこにあるのか、遺伝的要因なのか、あるいは他の要因が関連しているのか、今のところ不明です。
2週間後に抜糸に来院されたところです。
抜糸も問題なく終了しました。
退院後は血尿もなく、排尿もスムーズに出来ているとのことです。
マチルダ君、お疲れ様でした!
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以前に膀胱結石が尿道まで降りてきて摘出した症例を載せました。
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排尿時の疼痛感も伴っているようです。
まずは、レントゲン撮影を実施しました。
上のレントゲン写真の黄色丸は膀胱内の結石を表しています。
結石の大きさは直径が6㎜あります。
おそらくこの結石が原因で排尿時の疼痛や血尿などの症状が引き起こされてます。
膀胱結石が原因で排尿障害になりますとチンチラの場合は重篤な状態に陥るケースが多いように思います。
飼い主様の了解を得て、膀胱結石摘出手術を実施することとなりました。
麻酔導入箱にマチルダ君に入ってもらい、イソフルランで麻酔導入を行います。
麻酔導入が完了したところです。
麻酔導入箱から出てもらい、ガスマスクで維持麻酔に切り替えます。
術野を剃毛し、消毒します。
マチルダ君の麻酔状態も安定してきたところで手術を開始します。
開腹のためにメスで切皮します。
腹筋を切開します。
チンチラの臓器は非常に脆いので、極力指先で弄り回さずに滅菌綿棒で体外に出します。
下写真の中央部が膀胱です。
膀胱を牽引して支持するための支持糸を膀胱の先端部にかけます。
下写真は膀胱尖部に支持糸をかけ、牽引しているところです。
膀胱の腹側面を露出しており、ここからメスで膀胱壁を切開します。
№11のメスの先端部で膀胱に切開を入れます。
既に指先には硬い結石の存在を触知しています。
膀胱の漿膜面から切開し、粘膜面まで割を入れます。
下写真の黄色矢印は膀胱結石を示しています。
膀胱粘膜を傷つけないように結石を摘出します。
マチルダ君の膀胱と比べても大きく感じるサイズの結石です。
膀胱内部を生理食塩水でしっかり洗浄し、5‐0のモノフィラメント吸収糸で膀胱壁を縫合します。
チンチラの場合は膀胱自体が小さいため、犬猫に適用するような二重内反縫合法は行いません。
単層の単純結紮縫合法で対応します。
約2㎜間隔で縫合していきます。
縫合部がしっかり縫合できているか確認するためにリーク試験(漏出試験)を最後に行います。
これは、生理食塩水を注射器で膀胱内に注入し、縫合部から生食が漏れていないかを見ます。
下写真黄色矢印から生食が一部漏出しているようなので、この部位に縫合を追加することとしました。
再度漏出試験を実施し、漏れがないことを確認しました。
膀胱を腹腔内に戻し閉腹します。
腹筋を縫合したところです。
最後に皮膚を縫合します。
皮膚縫合完了です。
手術は完了しました。
後は麻酔を切り、マチルダ君の覚醒を待ちます。
皮下にリンゲル液を輸液してます。
麻酔から覚醒してきたマチルダ君です。
手術翌日のマチルダ君です。
エリザベスカラーはストレスの原因となりますが、2週間は頑張って装着して頂きます。
食欲もあり、排尿も出来ています。
特に問題なくマチルダ君は術後2日目に退院して頂きました。
下写真は摘出した膀胱結石です。
炭酸カルシウムの膀胱結石でした。
チンチラにおいては、食餌から摂取した過剰なカルシウムは殆どが糞便から排泄されるとされています。
一方、尿から排泄されるカルシウムも一定量に維持されるとされます。
結果、高カルシウムの食餌が膀胱結石の誘因とはならないと考えられています。
ならば、膀胱結石の原因はどこにあるのか、遺伝的要因なのか、あるいは他の要因が関連しているのか、今のところ不明です。
2週間後に抜糸に来院されたところです。
抜糸も問題なく終了しました。
退院後は血尿もなく、排尿もスムーズに出来ているとのことです。
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2019年10月28日 月曜日
チンチラの腸管吻合(自咬による腸管脱出)
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、自咬症により腸が脱出し腸損傷を招いたチンチラの症例です。
犬猫同様、腸が損傷・壊死を起こした場合、患部を切除後、腸管を吻合する必要があります。
チンチラは体重が雄で600g、雌で800gが上限の平均とされます。
これはウサギのネザーランド種(小型品種)の3分の2から2分の1に当たる体重です。
当然、腸管の直径は小さく吻合の難易度は高くなります。
チンチラは腸重積が原因で直腸脱となるケースが多く、その場合は重積部周囲を切除後に腸管吻合を行うのが最善とされます。
そんなチンチラの腸管吻合をご紹介します。
チンチラのポテチ君(3歳、去勢済、体重450g)は2週間前に当院で去勢手術を受けられました。
去勢手術後の患部の写真です。
術後2週間で縫合部は癒合したので、抜糸を行ってエリザベスカラーを外しました。
しかし、帰宅されたのちに患部を自咬し、腸が飛び出しているとのことで慌てて再受診されました。
脱出した腸は床材(チモシー)にまみれ、自咬して損傷が認められました。
細くて脆弱な腸管ですから、炎症・損傷が疑われる部位は切除する必要があります。
ポテチ君を全身麻酔します。
下写真黄色丸は脱出した腸管です。
患部をしっかり生食で洗浄します。
自咬で開いた患部をさらに近位(頭側側)に向けて切開します。
脱出した腸の全容です。
下写真の黄色丸は腸損傷を示しています。
腸管は、内出血や血行障害もあり、うっ血色を呈してます。
いずれ壊死を招くと推察されます。
脱出した腸の近位を腸鉗子で優しく挟みます。
把持した腸鉗子の間を外科鋏で離断します。
離断した直後です。
離断した腸の断面です。
向かって左側が約2㎜、右側が約1.5㎜の腸管の内径です。
この2つの腸断面を吻合します。
腸間膜からの出血が認められたため、バイポーラ(電気メス)で止血します。
次に6-0モノフィラメント合成吸収糸(黄色矢印)で腸管を単純結紮縫合していきます。
髪の毛よりも細い縫合糸です。
腸管の漿膜、筋肉、粘膜下織の全層を針で貫通して縫合します。
このようにして腸管の全周を4か所縫合します。
糸が細すぎて分かりずらいと思いますが、下写真が完成形です。
次いで、脱出腸管を腹腔内に戻します。
自咬の結果、裂けた腹筋層を縫合します。
皮下組織も縫合します。
最後に皮膚を5‐0ナイロン縫合糸で縫合して終了です。
吻合した腸管は約3週間で完全に癒合するとされます。
術後の合併症は腸の裂開、穿孔、腹膜炎、腹部での癒着、腸管の狭窄及び腸閉塞の再発などです。
術後5日までに腸穿孔による腹膜炎は発症します。
ポテチ君の容態については1週間は要注意です。
切除した腸です。
術後の栄養管理は、点滴や強制給餌による流動食を与えます。
下写真は、ポテチ君に青汁を強制給餌しているところです。
ポテチ君はしっかり流動食を飲んでくれます。
下写真は流動食のMSライフケア®を与えているところです。
ポテチ君の術後経過は良好です。
食欲、運動性もあり、6日後には退院して頂きました。
抜糸までの間(約2週間)は流動食を中心とした食生活で腸に負担をかけないようにして頂きます。
手術も大変ですが、術後の食餌管理は本人も飼主様も大変です。
術後2週目のポテチ君です。
抜糸のために来院されました。
傷口は皮膚癒合が完了していましたので、早速抜糸します。
抜糸後の患部です。
傷口も目立ちません。
大変な手術を受けることになったポテチ君ですが、術後の感染症もなく、腸の蠕動障害もなく無事回復されて良かったです。
術後に患部を自傷するケースは初めて経験しました。
去勢後に皮膚癒合は完了していたのですが、齧歯目の切歯は鋭いため、神経質な個体であれば、今回の様に癒合部を吻開してしまうようです。
ポテチ君、お疲れ様でした!
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本日ご紹介しますのは、自咬症により腸が脱出し腸損傷を招いたチンチラの症例です。
犬猫同様、腸が損傷・壊死を起こした場合、患部を切除後、腸管を吻合する必要があります。
チンチラは体重が雄で600g、雌で800gが上限の平均とされます。
これはウサギのネザーランド種(小型品種)の3分の2から2分の1に当たる体重です。
当然、腸管の直径は小さく吻合の難易度は高くなります。
チンチラは腸重積が原因で直腸脱となるケースが多く、その場合は重積部周囲を切除後に腸管吻合を行うのが最善とされます。
そんなチンチラの腸管吻合をご紹介します。
チンチラのポテチ君(3歳、去勢済、体重450g)は2週間前に当院で去勢手術を受けられました。
去勢手術後の患部の写真です。
術後2週間で縫合部は癒合したので、抜糸を行ってエリザベスカラーを外しました。
しかし、帰宅されたのちに患部を自咬し、腸が飛び出しているとのことで慌てて再受診されました。
脱出した腸は床材(チモシー)にまみれ、自咬して損傷が認められました。
細くて脆弱な腸管ですから、炎症・損傷が疑われる部位は切除する必要があります。
ポテチ君を全身麻酔します。
下写真黄色丸は脱出した腸管です。
患部をしっかり生食で洗浄します。
自咬で開いた患部をさらに近位(頭側側)に向けて切開します。
脱出した腸の全容です。
下写真の黄色丸は腸損傷を示しています。
腸管は、内出血や血行障害もあり、うっ血色を呈してます。
いずれ壊死を招くと推察されます。
脱出した腸の近位を腸鉗子で優しく挟みます。
把持した腸鉗子の間を外科鋏で離断します。
離断した直後です。
離断した腸の断面です。
向かって左側が約2㎜、右側が約1.5㎜の腸管の内径です。
この2つの腸断面を吻合します。
腸間膜からの出血が認められたため、バイポーラ(電気メス)で止血します。
次に6-0モノフィラメント合成吸収糸(黄色矢印)で腸管を単純結紮縫合していきます。
髪の毛よりも細い縫合糸です。
腸管の漿膜、筋肉、粘膜下織の全層を針で貫通して縫合します。
このようにして腸管の全周を4か所縫合します。
糸が細すぎて分かりずらいと思いますが、下写真が完成形です。
次いで、脱出腸管を腹腔内に戻します。
自咬の結果、裂けた腹筋層を縫合します。
皮下組織も縫合します。
最後に皮膚を5‐0ナイロン縫合糸で縫合して終了です。
吻合した腸管は約3週間で完全に癒合するとされます。
術後の合併症は腸の裂開、穿孔、腹膜炎、腹部での癒着、腸管の狭窄及び腸閉塞の再発などです。
術後5日までに腸穿孔による腹膜炎は発症します。
ポテチ君の容態については1週間は要注意です。
切除した腸です。
術後の栄養管理は、点滴や強制給餌による流動食を与えます。
下写真は、ポテチ君に青汁を強制給餌しているところです。
ポテチ君はしっかり流動食を飲んでくれます。
下写真は流動食のMSライフケア®を与えているところです。
ポテチ君の術後経過は良好です。
食欲、運動性もあり、6日後には退院して頂きました。
抜糸までの間(約2週間)は流動食を中心とした食生活で腸に負担をかけないようにして頂きます。
手術も大変ですが、術後の食餌管理は本人も飼主様も大変です。
術後2週目のポテチ君です。
抜糸のために来院されました。
傷口は皮膚癒合が完了していましたので、早速抜糸します。
抜糸後の患部です。
傷口も目立ちません。
大変な手術を受けることになったポテチ君ですが、術後の感染症もなく、腸の蠕動障害もなく無事回復されて良かったです。
術後に患部を自傷するケースは初めて経験しました。
去勢後に皮膚癒合は完了していたのですが、齧歯目の切歯は鋭いため、神経質な個体であれば、今回の様に癒合部を吻開してしまうようです。
ポテチ君、お疲れ様でした!
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投稿者 もねペットクリニック | 記事URL
2019年9月22日 日曜日
チンチラの去勢手術
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのはチンチラの去勢手術です。
犬、猫においては去勢・避妊手術は一般的に認知されるところですが、まだチンチラの去勢・避妊手術を実施している病院は少数といえます。
勿論、この手術の目的は不妊です。
カップリングして相性が良いとチンチラは繁殖力が高いため、不妊手術は必要となります。
雌の場合、避妊手術をしていないとするとシニア世代になり、子宮蓄膿症(興味のある方はこちらをクリックして下さい)、子宮水腫、子宮平滑筋肉腫等の罹患率が上昇します。
上記の疾病は、場合によっては死亡に至る場合もあります。
そのため、産科系疾患を予防するためにも避妊手術は意義があります。
雄の場合は、ウサギのようにシニア世代(5歳以降)で頻発する精巣腫瘍は、私は遭遇した経験はありません。
しかし、チンチラの寿命が10年から20年近くに伸びつつある事から、あまり目にしていない泌尿器系の疾病が今後、出てくる可能性があります。
加えて、性的に成熟を迎えるとチンチラは群れを守ろうとして縄張り意識が出て来ます。
場合によっては、飼主様に攻撃性を持つに至るケースもあるでしょうから、去勢を施すことで性格をマイルドにすることが可能です。
本日は、どんな感じでチンチラの去勢手術が行われるかを説明させて頂きます。
今回、チンチラのトトロ君(雄、3歳)は去勢を希望して来院されました。
全身麻酔下での手術となりますので、トトロ君に麻酔導入箱に入って頂きます。
イソフルランを流し、麻酔導入が効果を表したところです。
次にトトロ君を導入箱から出して、ガスマスクを口周りにあててイソフルランによる維持麻酔を行います。
メスを入れる部位をバリカンで剃毛します。
心拍数、呼吸数、血圧、血中酸素濃度などをモニタリングしながら手術に臨みます。
ペニスの付根に紙テープで腹部を抑え込んでいるのは、精巣が腹腔内頭側に潜りこまないよう定位置に保つためです。
チンチラの特徴として、鼠径輪(精巣の精管・精巣動静脈が腹腔内へ入っていく孔)が開口しており、陰嚢がありません。
そのため精巣は絶えず可動する特徴を持ちます。
なお鼠径輪については、こちらをクリックして下さい。
精巣にアプローチするために皮膚に切開を加えます。
皮膚を切開した後、筋肉層を切開します。
鉗子で筋肉層を広げます。
精巣を包む総鞘膜を切開します。
これで精巣が露出されました。
下写真の黄色矢印は精巣、青矢印は蔓状静脈叢、ピンク矢印は精巣動静脈を示します。
精巣を包んでいる総鞘膜と蔓状静脈叢を電気メスで分離します。
下写真は完全に総鞘膜から精巣が分離された状態です。
下写真の矢印の色は上記写真と同じ部位を示し、オレンジ矢印は精子の通る精管を示します。
精巣動静脈を縫合糸で結紮します。
2か所ほど結紮を実施します。
次いで精管を結紮します。
精巣動静脈と精管をバイクランプでシーリング後に切断します。
切断端は腹腔内へ戻します。
下写真の黄色矢印は腹筋の断端を示します。
この腹筋を縫合します。
筋層の縫合は終了です。
下写真は、両側の精巣摘出・筋層縫合が終了したところです。
皮膚を縫合しました。
手術終了です。
皮下輸液します。
麻酔から覚醒したトトロ君です。
傷口はこれくらいの大きさです。
術後2週間で抜糸した直後の患部です。
術後の経過は良好です。
当院では、このような流れでチンチラの去勢手術を実施しております。
去勢手術は手術当日の午前中に来院して頂き、当日の午後退院という形でお願いしてます。
なおチンチラの避妊手術は一日入院という形です。
避妊手術の詳細は、また改めて掲載します。
トトロ君、お疲れ様でした!
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本日ご紹介しますのはチンチラの去勢手術です。
犬、猫においては去勢・避妊手術は一般的に認知されるところですが、まだチンチラの去勢・避妊手術を実施している病院は少数といえます。
勿論、この手術の目的は不妊です。
カップリングして相性が良いとチンチラは繁殖力が高いため、不妊手術は必要となります。
雌の場合、避妊手術をしていないとするとシニア世代になり、子宮蓄膿症(興味のある方はこちらをクリックして下さい)、子宮水腫、子宮平滑筋肉腫等の罹患率が上昇します。
上記の疾病は、場合によっては死亡に至る場合もあります。
そのため、産科系疾患を予防するためにも避妊手術は意義があります。
雄の場合は、ウサギのようにシニア世代(5歳以降)で頻発する精巣腫瘍は、私は遭遇した経験はありません。
しかし、チンチラの寿命が10年から20年近くに伸びつつある事から、あまり目にしていない泌尿器系の疾病が今後、出てくる可能性があります。
加えて、性的に成熟を迎えるとチンチラは群れを守ろうとして縄張り意識が出て来ます。
場合によっては、飼主様に攻撃性を持つに至るケースもあるでしょうから、去勢を施すことで性格をマイルドにすることが可能です。
本日は、どんな感じでチンチラの去勢手術が行われるかを説明させて頂きます。
今回、チンチラのトトロ君(雄、3歳)は去勢を希望して来院されました。
全身麻酔下での手術となりますので、トトロ君に麻酔導入箱に入って頂きます。
イソフルランを流し、麻酔導入が効果を表したところです。
次にトトロ君を導入箱から出して、ガスマスクを口周りにあててイソフルランによる維持麻酔を行います。
メスを入れる部位をバリカンで剃毛します。
心拍数、呼吸数、血圧、血中酸素濃度などをモニタリングしながら手術に臨みます。
ペニスの付根に紙テープで腹部を抑え込んでいるのは、精巣が腹腔内頭側に潜りこまないよう定位置に保つためです。
チンチラの特徴として、鼠径輪(精巣の精管・精巣動静脈が腹腔内へ入っていく孔)が開口しており、陰嚢がありません。
そのため精巣は絶えず可動する特徴を持ちます。
なお鼠径輪については、こちらをクリックして下さい。
精巣にアプローチするために皮膚に切開を加えます。
皮膚を切開した後、筋肉層を切開します。
鉗子で筋肉層を広げます。
精巣を包む総鞘膜を切開します。
これで精巣が露出されました。
下写真の黄色矢印は精巣、青矢印は蔓状静脈叢、ピンク矢印は精巣動静脈を示します。
精巣を包んでいる総鞘膜と蔓状静脈叢を電気メスで分離します。
下写真は完全に総鞘膜から精巣が分離された状態です。
下写真の矢印の色は上記写真と同じ部位を示し、オレンジ矢印は精子の通る精管を示します。
精巣動静脈を縫合糸で結紮します。
2か所ほど結紮を実施します。
次いで精管を結紮します。
精巣動静脈と精管をバイクランプでシーリング後に切断します。
切断端は腹腔内へ戻します。
下写真の黄色矢印は腹筋の断端を示します。
この腹筋を縫合します。
筋層の縫合は終了です。
下写真は、両側の精巣摘出・筋層縫合が終了したところです。
皮膚を縫合しました。
手術終了です。
皮下輸液します。
麻酔から覚醒したトトロ君です。
傷口はこれくらいの大きさです。
術後2週間で抜糸した直後の患部です。
術後の経過は良好です。
当院では、このような流れでチンチラの去勢手術を実施しております。
去勢手術は手術当日の午前中に来院して頂き、当日の午後退院という形でお願いしてます。
なおチンチラの避妊手術は一日入院という形です。
避妊手術の詳細は、また改めて掲載します。
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