アーカイブシリーズ

2024年6月 9日 日曜日

カメレオンの舌損傷(驚異の舌)

こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのは、カメレオンの舌損傷例です。


カメレオンの舌は独特な動きをします。

獲物を捕捉するときは、離れた距離から舌を強力にスプリングのように前方に打ち出し、獲物を舌先に吸着・絡めとり、口腔内に取り込みます。

普段は舌は、口の中に丸まって仕舞い込んでいますが、獲物を捕らえる時には、体長の約2倍の長さとなって口から飛び出します。

しかも、舌先は蠅取りの接着剤よろしく、強力に獲物をくっつけます。

ベルギーのモンス大学の研究では、カメレオンの唾液の粘性はヒトの1000倍あるそうです。

さらには、舌を出してから口腔内に戻すまで、何と1/20秒という短時間で済ませます。

カメレオンの舌は、100分の1秒で時速90kmに達することが判明しており、その加速度は250~260Gあるそうです。

一旦、カメレオンに狙われたら最後、獲物が逃げ延びるのは困難でしょうね。


解剖学的には、カメレオンの舌は、舌先から舌の中央部までが筋肉組織で形成されてます。

次に舌の根元から中央部までが筋肉に覆われた骨の部分で、この骨を舌骨と言います。 

舌を伸ばす前半部の筋肉は舌骨の周りに蛇腹状(アコーディオン状)に収納されています。

そして獲物を捕らえる時は、 この舌骨を前へと押し出すことで蛇腹状の筋肉を勢いよく前へ飛び出させるという仕掛けです。

今回は、この一番大事なパーツである舌を損傷した症例です。


パンサーカメレオンの海馬君(雄、2歳10か月齢、体重210g)は、自ら舌を噛んでから、口内に舌が戻らないとのことで来院されました。

下写真の黄色矢印は、飛び出した舌を示します。






写真にあるように舌を強く咬んで、ちぎれる手前の状態です。

口を開けて舌を格納出来ると良いのですが、強い痛みによるものか海馬君は、頑なに舌を噛み続けています。



舌を触っても自重でぶら下がっており、前述のように強力な舌の筋肉で持ち上げたりする動きは出来ないようです。



下写真の黄色丸は舌の先端を示します。

この部位で獲物を吸着して、口腔内に取り込みます。



舌を一旦、口腔内に格納させるために口を強制的に開けます。

口角から綿棒の先端を挿入して、口の先端部まで綿棒を移動させて開口を促します。





下写真黄色矢印が噛んだ舌の部位です。

かなり損傷が進んでおり、千切れる寸前です。

何とか口腔内に収めて、時間はかかっても患部の修復を待つことができればと思います。



患部に力を加えないようにして、口腔内に舌を戻せました。

飼い主様には高カロリーの経口栄養食(チューブダイエット®)を強制的に飲ませて頂くこととしました。

抗生剤・消炎剤の内服を実施します。





海馬君は、腰背部に外傷があり、脱皮不全が重なって痂疲(かさぶた)が形成されてます。





下写真は、2週間後の海馬君です。

自主的に摂食出来なくて、飼い主様の強制給餌に頼る日々が続いています。

体重が142gまで落ちており心配です。

海馬君は威嚇して自主的に開口はスムーズに出来るようです。







下写真は4週間後の海馬君です。

さらに体重は142gまで落ちました。

この4週間の舌患部の状態を記録に残したかったのですが、十分に開口状態にして、患部を写真に記録に残すことができませんでした。

患部は浮腫が進行しており、貧血色を呈していました。





下写真は、6週間後の海馬君です。

さらに体重減少が進み130gまで落ち込んでます。






今までは、開口に強く抵抗していたのですが、衰弱が進行して容易に口腔内を確認できます。





口腔内は接着剤のように粘性の高い唾液に満たされ、舌を中心に口腔内の炎症が進行しています。

十分に水分が補給されてないため、眼球は眼窩に落ち込み、高度の脱水が認められます。





下写真の黄色丸はチーズのように変性・壊死した舌筋肉部です。

口腔内からはわずかに腐敗臭を感じます。



下写真黄色矢印は、鉗子で舌先を把持して口腔外に出しているところです。



舌先(黄色矢印)は口腔外に出した瞬間、損傷部(自噛部)から脱落して取れました。



舌の筋肉組織は脱落壊死し、下写真黄色丸が最終的に残った舌骨です。

カメレオンの驚異の舌の機能は今後、残念ながら発揮することができません。

舌骨は、舌筋肉を射出するためのカタパルトの土台のような存在で、やはり舌筋肉組織が獲物を吸着・捕捉の要であった事が分かります。

既に千切れかけていた舌組織は組織修復することは叶いませんでした。



下写真は、脱落・脱落した舌の筋肉組織です。



この筋肉組織あってのカメレオンの優れた獲物の捕捉能力は発揮できていたのですね。



これまで口腔内に残存して、強制給餌の妨げになっていた舌を摘出することで、液体状の給餌はやり易くなりました。

下写真はブドウ糖液を飲ませているところです。





そもそも自らの意思で獲物を認識して捕捉・摂食する爬虫類ですから、ヒトの都合で強制給餌されても受け入れてくれるかが問題です。

加えて流動食しか、物理的に嚥下出来ない状態です。

栄養学的に海馬君のサポートが今後展開できるか厳しい状況です。



この3日後に海馬君は、栄養障害による衰弱で逝去されました。

高性能な複雑なシステムをもつカメレオンの舌組織は一旦、障害を受けると回復は困難です。

飼育する中で、口周りは日常的にチェック怠らないようにしたいものです。

合掌。






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投稿者 もねペットクリニック

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