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チンチラの疾病

2018年5月24日 木曜日

チンチラの起源の特定できない悪性腫瘍

こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのは、腫瘍の中でも種類の分類分け出来ない低分化度の悪性腫瘍のお話です。

チンチラのぽん汰君(15歳6か月、雄)は肘に腫瘤が出来たとのことで来院されました。



チンチラで15歳6か月齢は非常に高齢です。

チンチラの平均寿命が10歳と言われます。

ギネス記録としてはドイツで29歳8か月という個体がいたとされていますが、当院では紛れもなくぽん汰君は最長老と言えます。



下写真の黄色丸は左ひじの腫瘤です。

既に床面との干渉で、肘の皮膚は裂けて痂皮が形成されています。

加えて、赤矢印は頸腹部の腫脹を示します。



まずは肘の腫瘤を細胞診しました(下写真)。



核の大小不同、核小体の大型化・複数化、複数核・大型核形成などの異型所見が認められました。

これらの異型性を示す細胞成分が単一の細胞群として採取される点から、悪性腫瘍が強く疑われます。

外科的に切除が可能なのかが問題です。

ぽん汰君が超高齢のため、全身麻酔に耐えられるかと言う点。

肘の悪性腫瘍を完全に切除出来るかと言う点。

この2点をクリアできれば手術をする意義はあると思います。

飼い主様の意向としては、現状のままではぽん汰君は肘を痛がり、出血も断続的に続き、見ていても辛いとのことです。

腫瘍が完全切除出来なくても、この状態を改善できれば手術も止む無しとのことです。

飼い主様のご了解のもと、最善を尽くして手術に臨むこととなりました。

ぽん汰君をICUに入れて、高酸素下で少しでも全身麻酔のリスクを下げます。



麻酔導入箱に入ってもらい、ぽん汰君に寝て頂きます。





麻酔導入が出来ましたので、外に出して維持麻酔に変えます。

助手に前足をテープで牽引してもらい、患部皮膚に緊張をかけて、メスを入れやすくします。





肘の腫瘍が思いの外、大きいのがお分かり頂けると思います。



皮膚は裂けており、腫瘍と健常な皮膚との境界は不明瞭です。



極力、マージンを大きめに取るように電気メス(モノポーラ)で切除していきます。



切開している部位から出血も始まりましたので、バイポーラで止血します。







腫瘍への太い栄養血管が出て来ました。



バイクランプでこれらの栄養血管をシーリングします。



無事、腫瘍を切除出来ました。





問題はこの腫瘍切除後の皮膚欠損の修復です。



肘の関節運動がありますから、縫合部が裂けないようにある程度の緊張を持たせて、皮膚を細かく縫合します。

今回は5-0ナイロン縫合糸を使用しました。





縫合は終了しました。

皮膚の欠損領域が広いため、縫合は多少きつめとなりました。

これで、日常生活で患部が開かないのを祈念します。



次いで、頸腹部の腫脹ですが、注射針で患部を穿刺すると圧迫後に膿が出て来ました。



出来る限り圧迫排膿しました。

左下顎の臼歯歯根部が炎症を起こし、結果として根尖膿瘍という歯根部に膿が蓄膿する状態になっていました。



今回の手術はこれで終了となります。

後は、ぽん汰君の麻酔覚醒を待ちます。



背部にリンゲル液の皮下輸液を行います。



麻酔覚醒した直後のぽん汰君です。



高齢なので慎重に手術をしましたが、何とか無事終了出来てホッとしたところです。






さて、下写真は摘出した腫瘍です。

肘の皮下組織に浸潤していた側を表に下写真です。




痂皮が形成された裂けた表皮側を表にした写真です。



腫瘍の側面の写真です。



下写真は顕微鏡の病理画像(中拡大像)です。

新皮から皮下組織にかけて胞巣状・シート状に増殖する多形性・異型性に富む類円形・多角形細胞によって今回の腫瘤は構成されています。



下写真3枚は高倍率像です。

いずれも腫瘍細胞は、明瞭な細胞境界、好酸性細胞質、大型の類円形淡染核、明瞭な核小体を持っています。





病理医から腫瘍細胞の分化度が低く、診断名の特定は困難とのことでした。

腫瘍細胞の形態や増殖パターンから上皮系悪性腫瘍、特に形成部位から基底細胞癌の可能性があるそうです。



摘出した腫瘍組織の底部には、腫瘍細胞が露出している点から再発の可能性もあるため、要経過観察とのことです。



手術2週間後のぽん汰君です。

患部の抜糸のため来院されました。



下写真は肘の縫合部です。

綺麗に皮膚は癒合しています。




その後、ぽん汰君は4か月頑張りましたが、左の頚腹部に新たに腫瘍が出来ました。

飼主様の希望もあり、治療はせずに15歳10か月齢でぽん汰君は天命を全うしました。

合掌。





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投稿者 もねペットクリニック

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